中川総合法務オフィス代表の中川です。本日は、組織における不祥事やミスを未然に防ぐための重要な要素である「心理的安全性」と、組織基盤となる「3ラインモデル」についての内容を、今回はより深く掘り下げて解説いたします。
1.組織における不祥事・ミス防止の鍵:心理的安全性とは
近年、組織運営において「心理的安全性」という概念が注目を集めています。金融庁のレポートなどでも、その有効性が中核的な概念として示唆されており、組織の健全な発展に不可欠な要素と言えるでしょう。
心理的安全性とは、組織のメンバーが、率直に意見や疑問、懸念などを表明しても、罰せられたり、評価を下げられたりする恐れがないと感じられる状態を指します。この状態が醸成されることで、メンバーは安心してリスクを伴う行動や発言ができるようになり、結果として組織全体の学習能力や問題解決能力が向上します。
2.心理的安全性の「3ラインモデル」での積極的活用方法
組織内の不祥事やミスを防止するための体制として、近年では「3ラインモデル」を活用することが一般的になっています。このモデルは、組織の各階層がそれぞれの役割を果たすことで、効果的なリスク管理体制を構築するものです。
- 第1ライン(現場部門): 日常業務の中でリスクを管理し、コントロールを実施する部門です。
- 第2ライン(管理部門): リスク管理の方針や基準を策定し、第1ラインの活動を監督・支援する部門です。具体的には、コンプライアンス委員会やマネジメント委員会などが該当します。
- 第3ライン(内部監査部門): 独立した立場から、第1ラインと第2ラインの有効性を評価し、改善を促す部門です。
この3つのラインが連携し、それぞれの役割を適切に果たすことで、組織全体のリスク管理体制は強化されます。特に、内部監査部門が現場との間で活発なコミュニケーションを図り、心理的安全性を確保することで、現場の問題点が早期に経営層に伝わるようになります。
3.金融機関の事例:コミュニケーション重視への転換
ある金融機関のレポートでは、内部監査部門が単なるチェック機能に留まっている現状への課題が指摘されていました。しかし、その中で、非常に先進的な金融機関が、現場とのコミュニケーションを重視する方向に舵を切った事例が紹介されています。
この金融機関では、内部監査担当者が現場で発見したリスクについて、査定に影響を与えないことを明確に伝え、現場担当者が安心して情報を提供できる環境を整備しました。その結果、現場との間でオープンな対話が生まれ、これまで表面化しなかった問題点や改善のヒントが共有されるようになったと言います。
これはまさに、心理的安全性の重要性を示す好例と言えるでしょう。現場担当者が「リスクを取っても大丈夫」「発言しても安心だ」と感じられるようになることで、組織全体の透明性が高まり、リスクの早期発見・対応が可能になります。
4.代表取締役の役割:組織の心理的安全性を高めるリーダーシップ
組織の心理的安全性を高めるためには、経営トップ、特に代表取締役のリーダーシップが不可欠です。代表取締役は、3ラインモデルを効果的に活用し、組織全体に心理的安全性の重要性を浸透させる必要があります。
具体的には、内部監査部門が現場とのコミュニケーションを円滑に行えるように支援したり、コンプライアンス委員会を中心とした管理部門が現場をサポートし、牽制するバランスの取れた体制を構築したりすることが重要です。
経営トップ自らが心理的安全性の重要性を理解し、それを組織文化として根付かせることで、現場からの情報がスムーズに経営層に届くようになり、組織全体の意思決定の質が向上します。
5.職場の心理的安全性:チーフ・マネージャーの役割
組織全体の心理的安全性に加え、個々の職場における心理的安全性も非常に重要です。特に、チームをまとめるチーフやマネージャーといったリーダーの役割は、職場の雰囲気を大きく左右します。
心理的安全性の高い職場とは、メンバーが不安や恐れを感じることなく、安心して仕事に取り組める環境です。このような職場では、メンバーは積極的に意見を交換し、協力して目標達成に向けて努力することができます。
6.PM理論とラポール形成:信頼関係構築の重要性
リーダーシップ論で語られる「PM理論」は、目標達成(Performance)と集団維持(Maintenance)の2つの側面からリーダーシップを捉える考え方です。心理的安全性の高い職場を作るためには、目標達成だけでなく、メンバー間の信頼関係を構築し、良好な人間関係を維持することが重要になります。
また、「ラポール」とは、お互いの間に信頼感があり、心が通じ合っている状態を指します。職場においてラポールが形成されることで、メンバーは安心して自分の意見を述べたり、助けを求めたりすることができるようになります。九州大学の三隅教授が提唱する集団維持機能のM重視は、共感と信頼関係に基づいたラポールを築くことに直結し、心理的安全性の高い職場を作る上で不可欠と言えるでしょう。
7.ハラスメント対策:心理的安全性を阻害する要因の排除
心理的安全性の低い職場では、ハラスメントが発生しやすい傾向があります。近年、パワハラ防止法や男女雇用機会均等法などにより、ハラスメント対策は企業の重要な責務となっています。
露骨なハラスメントは減少傾向にあるものの、些細な言動による「マイクロアグレッション」といった、ハラスメントには該当しないものの、相手に不快感や不安感を与える行為は依然として存在します。このような小さな攻撃も、職場の心理的安全性を大きく損なう要因となります。
心理的安全性の高い職場を作るためには、ハラスメントを根絶するだけでなく、マイクロアグレッションのような潜在的な問題にも目を向け、誰もが安心して働ける環境を整備することが重要です。
8.コンプライアンス研修の重要性:意識改革と行動変容
心理的安全性の高い組織文化を醸成するためには、コンプライアンス研修が重要な役割を果たします。研修を通じて、心理的安全性やハラスメントに関する正しい知識を習得し、具体的な事例を学ぶことで、参加者の意識改革を促し、行動変容に繋げることが期待できます。
中川総合法務オフィスでは、北海道から九州まで、全国の企業や自治体に対し、課長補佐級以上の管理職層を中心に、心理的安全性に関する研修を実施しております。組織の課題やニーズに合わせてカスタマイズされた研修プログラムを提供することで、より効果的な意識改革と行動変容を支援いたします。
まとめ:心理的安全性の高い組織づくりに向けて
組織の不祥事やミスを防止し、持続的な成長を実現するためには、心理的安全性の高い組織文化を醸成することが不可欠です。3ラインモデルを効果的に活用し、経営トップから現場のリーダーまで、組織全体で心理的安全性の重要性を理解し、実践していくことが求められます。
中川総合法務オフィスでは、コンプライアンスに関する専門的な知識と豊富な経験に基づき、心理的安全性の高い組織づくりに向けたコンサルティングや研修サービスを提供しております。組織のリスク管理体制の強化や、より健全で活力ある組織文化の構築にご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。