現代社会において、企業不祥事はその種類や影響範囲が多様化しており、企業が持続的に成長するためには、効果的なコンプライアンス体制の構築が不可欠です。本稿では、企業不祥事を多角的に分析するための分類方法に加え、最新の動向を踏まえながら、企業が直面しうるリスクとその対策について詳述します。
1. 企業不祥事分析のための分類方法
企業不祥事を深く理解し、その発生を未然に防ぐためには、様々な視点からの分類が有効です。
(1) 事例別・リスク管理別・COSO分類による分析
企業不祥事の分類は、これまで講演等で領得型など事例別に10前後に分類して説明してきました。また、リスク管理の観点からも、不祥事をいくつかのカテゴリーに分けて解説してきました。さらに、COSO(トレッドウェイ委員会支援組織委員会)が提唱する内部統制の構成要素、すなわち「統制環境」「リスク評価」「統制活動」「情報および伝達」「モニタリング」に沿って分類することも有効です。これらの多角的な分類は、不祥事の根源や企業内部の脆弱性を特定する上で重要な示唆を与えます。
(2) ステークホルダー別分類の加味:網羅性と実効性
近年注目されているのが、ステークホルダー別の分類です。私が愛読するあるマネジメント雑誌(日本総合研究所:月刊監査役635号)に掲載された分類は、従来の事例別分類と類似しつつも、項目を絞りながらも網羅性を確保しており、MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive:漏れなく、ダブりなく)の原則に基づいています。今後は、既存の分類方法にこのステークホルダー別分類を加味することで、より効果的な不祥事防止策を講じることが可能となるでしょう。
2. 企業不祥事のステークホルダー別分類と参考事例
上記の論文では、企業不祥事をステークホルダーとの関係性に基づき、以下の8つのカテゴリーに分類しています。
(1) 8つの分類
- 株主・投資家: 経理関連の虚偽報告、情報非開示、会社資産の横領・着服、不公正な株取引など。
- 顧客: 製品不具合、サービス安定供給不備、改ざん・不当表示・説明不備、情報セキュリティ不備、運輸安全管理不備、顧客資産の横領・詐欺・過大請求など。
- サプライヤー: 優越的地位の濫用、サプライヤーの安全対策不備など。
- 競合企業: 談合・カルテル・不正入札、贈収賄による公正な競争阻害、知的財産権の侵害など。
- 従業員: 従業員の安全対策不備、不当労働行為、劣悪な労働環境、偽装請負・違法派遣など。
- 地域コミュニティ: 地域住民活動への悪影響など。
- 環境保全: 事業活動に起因する環境汚染、環境データの偽装・改ざんなど。
- ビジネス倫理: 社会的に悪影響な製品・サービス、反社会的勢力との交際など。
これらの分類は、企業がどのステークホルダーに対してどのような「裏切り行為」を行っているかを示すものであり、それぞれのカテゴリーにおいて具体的な不祥事事例が存在します。
(2) 最新事例から見る不祥事の傾向
近年、企業不祥事の事例は多岐にわたります。2023年には、大手中古車販売業者の保険金不正請求問題や、芸能事務所における性加害問題、さらには大学アメリカンフットボール部の薬物事件と組織統治問題など、社会に大きな衝撃を与える事件が相次ぎました。また、製造業における品質不正や検査不正も後を絶たず、特にダイハツ工業の認証不正問題は広範囲に影響を及ぼしました。これらの事例は、いずれもステークホルダーへの裏切り行為であり、企業の信頼を著しく損ねる結果となりました。
3. 反社会的勢力の排除:絶え間ない警戒の必要性
上記の「ビジネス倫理」に関する分類に関連して、反社会的勢力の排除は企業にとって極めて重要な課題です。暴力団構成員数は、「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法)」、「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(組織犯罪処罰法)」、「暴力団排除条例(暴排条例)」等の制定と施行により、減少傾向にあります。警察庁の発表によれば、2023年末時点での暴力団勢力(構成員および準構成員等)は過去最少の2万400人となっています。
しかし、その減少は、反社会的勢力が活動を巧妙化・潜在化させていることの裏返しでもあります。彼らは表には出てこない形で企業に接近し、後からその実態が明らかになるケースが増えています。近年では、暴力団の活動が「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ばれる新たな犯罪集団に移り変わる傾向も見られ、企業はこれまで以上に警戒を緩めるべきではありません。
4. 官製談合の跋扈(特に都道府県):公的領域の透明性確保
上記の「競合企業」に関する分類に関連して、官製談合の問題は依然として深刻です。企業の談合は刑法および独占禁止法違反として厳しく取り締まられる一方で、官にイニシアティブがある官製談合に引きずり込まれることで、企業も不祥事に巻き込まれるリスクは依然として存在します。地方公共団体における入札制度の透明性確保は、公正な競争環境を維持し、企業の健全な活動を保障する上で不可欠です。
5. 治安よりもカルテルや贈収賄のカントリーリスクに要注意:グローバル化時代のコンプライアンス
同じく上記の「競合企業」に関する分類に関連して、自由競争原理が徹底されるグローバル経済において、カルテルや贈収賄に対する取り締まりは世界的に厳しさを増しています。日本企業が海外での事業展開を進める中で、各国の法制や行政当局の厳しい規制に抵触する事例が多く発生しています。欧米諸国はもちろんのこと、中国や新興国でも贈収賄防止に関する法規制が急速に強化されており、日本企業の担当者が逮捕されるケースも散見されます。
コンプライアンスは単に国内の法令遵守に留まらず、このグローバル化の時代においては、進出先の外国法制や行政当局の規定も含めて規範遵守すべきことを意味します。例えば、米国では外国公務員に対する贈賄を処罰する「外国腐敗行為防止法(FCPA)」の適用が厳格であり、2023年には新たに外国公務員の収賄行為を処罰する法律(The Foreign Extortion Prevention Act)も制定されました。このような国際的な規制動向を常に把握し、適切なコンプライアンス体制を構築することが、企業が海外で成功するための必須条件となっています。
6. 東洋ゴムの免震ゴムデータ偽装事件:内部統制の機能不全が招く深刻な結果
上記の「顧客」に関する分類に関連して、平成27年3月に発覚した東洋ゴム工業(大阪市西区)の子会社による免震ゴムの性能データ偽装事件は、日本のコーポレート・ガバナンス体制に大きな課題を突きつけました。国土交通大臣認定の性能評価基準の不適合や、大臣認定の不正取得が行われ、性能不足の免震ゴムが製造・販売されていたというこの不祥事は、会社法や金融商品取引法でわが国がコーポレート・ガバナンスを欧米並みに強化しようとしてきた努力に冷や水を浴びせるものでした。
この事件は、企業の内部統制、監査役の役割、リスク管理規定の有効性、内部監査の機能、そして企業倫理の育成といった、コンプライアンス体制の中核をなす要素すべてに重大な疑問を投げかけました。企業は、このような事態を二度と起こさないためにも、形式的な体制構築に留まらず、実効性のある内部統制と倫理観の醸成に努める必要があります。
企業不祥事の防止と強靭なコンプライアンス体制のために
企業不祥事は、その発生原因、影響範囲、そして対策のいずれにおいても複雑な様相を呈しています。しかし、その根本にあるのは、企業が社会からの信頼を裏切る行為であり、ステークホルダーへの責任を果たすことの重要性を示しています。
中川総合法務オフィスでは、このような多岐にわたる企業不祥事のリスクに対応し、お客様のコンプライアンス体制を強固なものにするためのサポートを提供しています。代表の中川恒信は、これまでに850回を超えるコンプライアンス等の研修を担当し、多くの企業が直面する課題解決に貢献してきました。また、不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験も豊富であり、現に内部通報の外部窓口を担当するなど、実務に即した深い知見を有しています。マスコミからも頻繁に不祥事企業の再発防止に関する意見を求められるなど、その専門性は高く評価されています。
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