心理的安全性と不祥事の事例コンプライアンス研修

1.心理的安全性 psychological safety の分析概念について

この概念の有用性を述べている第一人者は、「恐れのない組織(The Fearless Organization)」の著者 エイミー・C・エドモンドソン Amy C. Edmondson ハーバード・ビジネススクール教授 であろうか。

曰く、

「チームにおいて、メンバーが自分の考えや感情をオープンに表現し、リスクを恐れずに行動できると信じられている状態」では、メンバーは安心して意見を言い合うことができ、失敗を恐れずにチャレンジすることができ、イノベーションや生産性の向上につながる、と。

心理的安全性を高めるためには、、「メンバー同士の信頼関係と互いを尊重している状態」が不可欠であり、さらに重要なのが「寛容さ」で、メンバー同士が互いの失敗や間違いを許容している状態が大切である。

 人間は元々心に不安がある。
 特に組織に入ったら、周りの人が自分を「無知」だと思っているのではないだろうか。または自分が「無能」だと思っているのではないだろうか。そして、自分が組織にとって「邪魔者」だと思っているのではないだろうか。或いは自分が 組織に対して「否定的」な考え方を持ってると思っているのでは無いだろうか等の4つの不安があろう。
 そのような不安状態では、自分の意見は述べることはできずに、消極的な態度に終始して、とてもチームの一員とし能力は発揮できないであろう。その結果、組織も能力が高められないであろう。個々の力の集中がなされない状態ではプロジェクトも成功しないことが多いであろうし、なかなか実績も出ないであろう。
 そこで、特にリーダーは心理的安全性を高めることを重要視する必要があるのだ。

 もっともこのような状態のチームを作っていくには、いわゆるコンプライアンス環境が不可欠で、正しいPMリーダーシップ論等を採用して、メンバー同士が信頼し合い、敬意を持って、寛容であるような文化や空気を醸成する必要がある。

 このような見解であるが、中川総合法務オフィスのコンプライアンス研修やリスクマネジメント研修では、「風通しの良い組織づくり」として、従来から話してきたところと重なる部分が多い。

「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態」では、生産性が高いと、Googleが2016年に「生産性が高いチームは心理的安全性が高い」との研究結果を発表していることから、説得力が出てきたのであろう。
 そのGoogleサイトは以下の通りである。

「効果的なチームとは何か」を知る
 そこでいくつかの生産性の高いチームの要素を挙げているが、心理的安全性が最も重要と述べている。そして、上記の教授の著書から多数の引用がなされている。

いずれにしろ、教授が著書の中での展開した理論と実践法などが広く出回るようになってきている。日本でも、玉石混合であるが、経営系の後追い本が多数出てきている。

2.心理的安全性とコンプライアンスとの関係

この考え方は、当方のような800回以上のコンプライアンス研修や講演講師を務めたものには、すぐに「内部通報」との関係で、組織の法令や倫理違反を上司や相談窓口に言うことのできる組織は、コンプライアンス経営環境があると毎回言っているので、コンプライアンスマネジメントには好ましい印象がある。

しかし、何を言っても恐れのない、自己の発言に全く不安のない組織などはあるのであろうか。内部通報における自己と組織の倫理の衝突や組織の地位とカネに絡んだ打算を強く吹き飛ばせるほどの力のある分析概念なのであろうか。

理論がアカデミックに過ぎない感がどうしても否めない。

或いは理想論に過ぎないと言ってもいいかもしれない。

しかし、コンプライアンスマネジメント環境に重要な示唆を与えていることは間違いなかろう。

「見てみないふりをする」

「言うだけ損」

「藪蛇」

「火の粉が自分に降りかかる」

これらの考えのある組織が、コンプライアンス上は駄目であることは明らかだからである。

3.心理的安全性のある組織がコンプライアンスにとって理想

やはり現時点では、グーグルの例が、さらにコンプライアンスマネジメントまでの論理展開は飛躍し過ぎであろう。

しかし、内外で著書や論考が今後も出てくるであろう。

引き続き、これをコンプライアンスマネジメントに活かす方法をこれら論文などを参考にしながら進めていきたい。

中川総合法務オフィスでは、コンプライアンス関連のコンサルティングや研修では、引き続き、不祥事が起きない組織のリスク管理と企業倫理の向上に最も重点において実施し、心理的安全性の向上もそれに付加する形をとる。

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