1.概要

加古川市役所職員がコンビニ店員へセクハラ行為をしたことに対して、停職処分がなされたのを取消請求した事件。

2.裁判要旨

 地方公共団体の男性職員が勤務時間中に訪れた店舗においてその女性従業員の手を自らの下半身に接触させようとするなどのわいせつな行為等をしたことを理由とする停職6月の懲戒処分がされた場合において,次の(1)~(5)など判示の事情の下では,上記処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
(1) 上記行為は,上記職員と上記従業員が客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた。
(2) 上記行為は,勤務時間中に市の制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道されるなどしており,上記地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであった。
(3) 上記職員は,以前から上記店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,これを理由の一つとして退職した女性従業員もいた。
(4) 上記(1)の従業員が終始笑顔で行動し,上記職員から手や腕を絡められるという身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地がある。
(5) 上記従業員及び上記店舗のオーナーが上記職員の処罰を望まないとしても,それは事情聴取の負担や上記店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。

参照法条
 地方公務員法29条1項,地方公務員法33条

3.判決文より一部引用

「‥‥(1) 公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をするか否か,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択するかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される‥‥
(2) 原審は,①本件従業員が被上告人と顔見知りであり,被上告人から手や腕を絡められるという身体的接触について渋々ながらも同意していたこと,②本件従業員及び本件店舗のオーナーが被上告人の処罰を望まず,そのためもあって被上告人が警察の捜査の対象にもされていないこと,③被上告人が常習として行為1と同様の行為をしていたとまでは認められないこと,④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと等を,本件処分が社会観念上著しく妥当を欠くことを基礎付ける事情として考慮している。
しかし,上記①については,被上告人と本件従業員はコンビニエンスストアの客と店員の関係にすぎないから,本件従業員が終始笑顔で行動し,被上告人による身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,身体的接触についての同意があったとして,これを被上告人に有利に評価することは相当でない。上記②については,本件従業員及び本件店舗のオーナーが被上告人の処罰を望まないとしても,それは,事情聴取の負担や本件店舗の営業への悪影響等を懸念したことによるものとも解される。
さらに,上記③については,行為1のように身体的接触を伴うかどうかはともかく,被上告人が以前から本件店舗の従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており(行為2),これを理由の一つとして退職した女性従業員もいたことは,本件処分の量定を決定するに当たり軽視することができない事情というべきである。そして,上記④についても,行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものである上,複数の新聞で報道され,上告人において記者会見も行われたことからすると,行為1により,上告人の公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれたというべきであり,社会に与えた影響は決して小さいものということはできない。
そして,市長は,本件指針が掲げる諸般の事情を総合的に考慮して,停職6月とする本件処分を選択する判断をしたものと解されるところ,本件処分は,懲戒処分の種類としては停職で,最も重い免職に次ぐものであり,停職の期間が本件条例において上限とされる6月であって,被上告人が過去に懲戒処分を受けたことがないこと等からすれば,相当に重い処分であることは否定できない。しかし,行為1が,客と店員の関係にあって拒絶が困難であることに乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であって,上告人の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なうものであり,また,被上告人が以前から同じ店舗で不適切な言動(行為2)を行っていたなどの事情に照らせば,本件処分が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものであるとまではいえず,市長の上記判断が,懲戒権者に与えられた裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものということはできない。
(3) 以上によれば,本件処分に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるとした原審の判断には,懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきである。‥‥」

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