企業を取り巻くリスクは複雑化・多様化しており、コンプライアンス(法令遵守)の重要性はますます高まっています。中川総合法務オフィスでは、企業倫理とリスク管理を二本柱としたコンプライアンス態勢構築のための研修・講演を実施しています。本稿では、その具体的な内容についてご紹介いたします。
1.コンプライアンス態勢の基本:ステークホルダーとの信頼関係構築
コンプライアンス態勢の構築は、企業が社会からの信頼を得て持続的に発展していくための基盤です。当研修では、まずその基本として、企業を取り巻く様々な利害関係者(ステークホルダー)の視点を取り入れる「ステークホルダー理論」をご紹介します。
(1) 職業倫理:企業活動の根幹となる倫理観と規範意識
企業活動の基本となる倫理・道徳の考え方を解説するとともに、企業の憲章や行動規範といったソフトロー規程、さらには日本取引所の各種プリンシプルなど、企業が遵守すべき規範について具体的に解説します。従業員一人ひとりの倫理観を高め、組織全体の規範意識を醸成することの重要性を理解していただきます。
(2) 企業の内部統制:COSO、コーポレートガバナンス、ESG等の最新動向
効果的な内部統制は、不正を防止し、企業の健全な運営を支える上で不可欠です。当研修では、内部統制の国際的なフレームワークであるCOSO、企業の経営体制に関するコーポレートガバナンス、そして近年注目を集めるESG(環境・社会・ガバナンス)の要素などを参考に、現代の企業に求められる内部統制のあり方について解説します。
(3) 管理職のリーダーシップ:コンプライアンス態勢構築の要
コンプライアンス態勢を組織全体に浸透させるためには、管理職の役割が非常に重要です。当研修では、管理職がコンプライアンス意識を高め、部下を指導・育成するためのリーダーシップやコーチングの手法について解説します。管理職が率先してコンプライアンスを重視する姿勢を示すことで、組織全体の意識改革を促します。
(4) コンプライアンス違反防止の新しい潮流:心理学、AI活用、内部通報認証制度
近年、コンプライアンス違反を未然に防ぐための新しいアプローチが注目されています。当研修では、現代心理学の知見を活用した行動経済学的なアプローチ、AI技術を用いたリスク予測や早期発見の可能性、そして組織の健全性を示す指標となる内部通報認証制度など、最新の動向についてご紹介します。
(5) 内部統制に関する重要判例:日本システム技術事件の賠償責任基準
内部統制の不備が企業の損害につながった事例として、記憶に新しい「日本システム技術事件」を取り上げ、裁判所が示した賠償責任の基準について詳しく解説します。この判例から得られる教訓を理解することで、より実効性の高い内部統制体制の構築を目指します。
(6) 中小企業の内部統制義務:新たな判決の意義
これまで大企業を中心に議論されてきた内部統制ですが、近年、中小企業にも内部統制の義務を認める判決が出てきています。この判決の意義と、中小企業が取り組むべき内部統制のポイントについて解説します。
2.リスク管理:コンプライアンスと公益通報者保護法を踏まえて
コンプライアンスを徹底するためには、潜在的なリスクを適切に管理することが不可欠です。当研修では、公益通報者保護法の内容を踏まえながら、リスク管理の具体的な方法について解説します。
(1) コンプライアンス・リスクの重要性増大
近年、企業を取り巻くコンプライアンス・リスクは増大の一途を辿っています。法令違反はもちろんのこと、社会規範や倫理に反する行為も、企業の reputation を大きく損なう可能性があります。当研修では、コンプライアンス・リスクの重要性を改めて認識していただきます。
(2) 今日的な企業リスクへの対応:リスクを知る・避ける・被害を最小化する
現代の企業が直面する様々なリスク(法務リスク、財務リスク、ITリスク、自然災害リスク、人的リスクなど)について解説し、それぞれのリスクに対して「知る」「避ける」「被害を最小化する」という基本的な対応策を具体的にご紹介します。
(3) 公益通報者保護法と内部通報(ヘルプライン)の設置方法
企業内の不正を早期に発見し、是正するためには、内部通報制度(ヘルプライン)の設置が重要です。当研修では、公益通報者保護法の概要と、効果的な内部通報制度の設計・運用方法について詳しく解説します。通報者の保護に配慮しつつ、組織の自浄作用を高めるためのポイントを理解していただきます。
3.「コンプライアンス」はなぜ重要か:ステークホルダーからの信頼獲得
改めて、「なぜ企業にとってコンプライアンスが重要なのか」という根源的な問いについて掘り下げます。株主や取引先をはじめとするステークホルダーからの信頼を得ることが、企業の持続的な成長に不可欠であることを理解していただきます。
(1) 当事者意識の醸成:一人ひとりがコンプライアンスの担い手に
コンプライアンスを組織全体に浸透させるためには、従業員一人ひとりが「自分ごと」として捉え、積極的に取り組む姿勢が不可欠です。当研修では、従業員の当事者意識を高め、主体的な行動を促すための具体的な方法について解説します。
(2) 風通しの良い組織を作るコツ:管理職の意識改革
風通しの良い組織文化は、不正の早期発見や未然防止に繋がります。一方で、管理職の言動が組織の風通しを悪くしてしまうケースも少なくありません。当研修では、風通しの良い組織を作るための具体的なコツや、風通しを悪くする管理職の典型的な例を挙げながら、管理職の意識改革の重要性を訴えます。
(3) 不祥事を防止する理論:不正のトライアングル、フレーミング、ソーシャルボンド理論
不祥事は、個人の倫理観の問題だけでなく、組織構造や心理的な要因が複雑に絡み合って発生します。当研修では、不正が発生するメカニズムを理解するための主要な理論(不正のトライアングル、フレーミング効果、ソーシャルボンド理論など)の最新動向を紹介し、組織全体で不祥事を防止するための対策を検討します。
(4) 職業倫理向上プログラム:倫理的意思決定の基礎
従業員の職業倫理を高めるための具体的なプログラムについて、哲学的な観点(カント、アリストテレス、ジョン・ロールズなど)からのアプローチを紹介します。倫理的なジレンマに直面した際に、適切な意思決定を行うための基礎となる考え方を学びます。
4.最近の企業等不祥事の実例:平成27年~令和の事例から学ぶ
中川総合法務オフィスのデータベースに基づき、平成27年以降に発生した企業等の不祥事の実例を具体的に紹介し、その背景や原因、企業に与えた影響などを分析します。
(1) 最近の不祥事例の分類と類型化
近年発生した不祥事を、不正経理、品質管理、データ改ざん、個人情報漏えい、ハラスメントなど、その内容によって類型化し、それぞれの特徴や共通点について解説します。
① 不祥事の類型:不正経理、品質管理、データ改ざん、個人情報漏えい、ハラスメント等
具体的な事例を交えながら、各類型の不祥事がどのような状況で発生し、どのような問題を引き起こすのかを解説します。
② 個人情報漏洩の8つのパターン:管理ミス、マイナンバー、個人カード、SNS等
個人情報漏洩は、企業にとって深刻な reputational damage に繋がりかねません。当研修では、個人情報漏洩の代表的な8つのパターン(管理ミス、マイナンバー関連、個人カード情報、SNSからの漏洩など)を解説し、それぞれの対策について検討します。
(2) 特に注意すべき企業不祥事:判例や実例から優先順位を確認
数多くの不祥事の中から、特に社会的な影響が大きかった事例や、今後の企業経営において注意すべき判例などをピックアップし、リスクアセスメントによる優先順位付けの重要性を解説します。
- 不正経理(不正経費・不正売上)の例:東芝事件など
- 組織的な不正会計事件として社会に大きな衝撃を与えた東芝事件を例に、不正経理の手口や背景、再発防止策について解説します。
- 品質管理違反の例:三菱自動車事件、神戸製鋼事件、大和ハウス工業事件、スズキ事件など
- 品質データの改ざんや隠蔽といった品質管理に関する不正事例を取り上げ、企業の信頼を揺るがす品質問題の根深さについて考察します。
- ハラスメント(パワハラ・セクハラ・マタハラ・モラハラ)の例:海遊館事件等
- 職場におけるハラスメントは、従業員の心身の健康を損なうだけでなく、企業の生産性低下にも繋がります。近年注目されているハラスメント問題について、具体的な事例を交えながら解説します。
- インサイダー取引事件の例:NHK事件など
- 金融市場の公正性を損なうインサイダー取引事件を取り上げ、その手口や法規制について解説します。
- 個人情報のSNSからの漏えい例:ローソン事件、リクナビ事件など
- SNSの利用拡大に伴い増加している個人情報漏洩のリスクについて、具体的な事例を基に対策を検討します。
- 独占禁止法・下請法違反の例:下請けいじめ(優越的地位の利用等楽天事件など)
- 公正な取引を阻害する独占禁止法や下請法違反の事例を取り上げ、企業が遵守すべきルールについて解説します。
- 景品表示法違反の例:ジャパネットたかた事件等
- 消費者を誤解させるような不当な表示は、景品表示法に違反する可能性があります。具体的な事例を基に、適切な広告表示について考えます。
5.不祥事発生時の対応:中川総合法務オフィス代表の経験
万が一、不祥事が発生してしまった場合の適切な対応について、中川総合法務オフィス代表がメディア出演等を通じて得た経験に基づき解説します。
(1) 最も重要なもの:integrity(誠実性・高貴性・廉潔性等)
不祥事発生時に最も重要なことは、 Integrity(誠実性、高貴性、廉潔性など)を持って対応することです。企業の真摯な姿勢が、ステークホルダーからの信頼回復に繋がります。
(2) マスコミの取材と記者会見の仕方:ポジションペーパー作成方法等
不祥事発生時のマスコミ対応は、企業の reputation を左右する重要な局面です。取材への適切な対応方法や、記者会見の進め方、そして効果的なポジションペーパーの作成方法について解説します。
(3) リスク対応:危機管理(不祥事発生)の事例(良い例・悪い例)
過去の不祥事対応の事例を、良い例と悪い例に分けて紹介し、そこから得られる教訓を解説します。他社の事例から学ぶことで、自社で同様の事態が発生した場合に適切な対応を取れるように備えます。
(4) 第三者委員会の設置:顧問弁護士は入らない
重大な不祥事が発生した場合に設置されることのある第三者委員会の役割や、設置する際の注意点について解説します。特に、委員の独立性を確保するために、顧問弁護士は原則として含めないことの重要性を説明します。
【演習部分】企業コンプライアンスの演習
当研修では、講義内容の理解を深め、受講者の積極的な参加を促すために、演習問題も取り入れています。中川総合法務オフィスでの無料法務相談事例などを参考に作成した30問以上の職業倫理やリスク管理に関連した問題を通して、コンプライアンス的な思考方法を自然と習得していただきます。
(但し、研修全体のメリハリ・締りと受講者のよりポジティブ参加確保で、講義中に適宜織り込み、コンプライアンス的思考方法が自然と会得されるようにします。)
【本研修・講演に関するお問い合わせ】
本稿でご紹介した企業コンプライアンス研修・講演に関するお問い合わせは、中川総合法務オフィスまでお気軽にご連絡ください。貴社の状況やニーズに合わせて、最適な研修プログラムをご提案させていただきます。