一 条文原文

消防法第12条

製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造及び設備が第十条第四項の技術上の基準に適合するように維持しなければならない。

② 市町村長等は、製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造及び設備が第十条第四項の技術上の基準に適合していないと認めるときは、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者で権原を有する者に対し、同項の技術上の基準に適合するように、これらを修理し、改造し、又は移転すべきことを命ずることができる。

③ 前条第四項及び第五項の規定は、前項の規定による命令について準用する。

消防法第12条の2

市町村長等は、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者が次の各号の一に該当するときは、当該製造所、貯蔵所又は取扱所について、第十一条第一項の許可を取り消し、又は期間を定めてその使用の停止を命ずることができる。

一 第十一条第一項後段の規定による許可を受けないで、製造所、貯蔵所又は取扱所の位置、構造又は設備を変更したとき。

二 第十一条第五項の規定に違反して、製造所、貯蔵所又は取扱所を使用したとき。

三 前条第二項の規定による命令に違反したとき。

四 第十四条の三第一項又は第二項の規定に違反したとき。

五 第十四条の三の二の規定に違反したとき。

② 市町村長等は、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者が次の各号の一に該当するときは、当該製造所、貯蔵所又は取扱所について、期間を定めてその使用の停止を命ずることができる。

一 第十一条の五第一項又は第二項の規定による命令に違反したとき。

二 第十二条の七第一項の規定に違反したとき。

三 第十三条第一項の規定に違反したとき。

四 第十三条の二十四第一項の規定による命令に違反したとき。

③ 第十一条の五第四項及び第五項の規定は、前二項の規定による命令について準用する。

消防法第12条の3

市町村長等は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるときは、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者に対し、当該製造所、貯蔵所若しくは取扱所の使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる。

② 第十一条の五第四項及び第五項の規定は、前項の規定による命令について準用する。

関係する罰則

第四十二条 次のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。 四 第十二条の二第一項又は第二項の規定による命令に違反した者 五 第十二条の三第一項の規定による命令又は処分に違反した者 ② 前項の罪を犯した者に対しては、情状により拘禁刑及び罰金を併科することができる。

第四十五条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。 三 ……第四十二条第一項(同項第七号及び第十号を除く。)…… 各本条の罰金刑

出典:e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186

二 趣旨・立法背景

第11条から第11条の5までが許可、完成検査、変更届、基準遵守命令という個別の行為を規律していたのに対し、この三条は製造所等の存在そのものに向けられている。第12条第1項は施設を基準に適合した状態で保ち続ける義務を所有者等に課し、第12条第2項はその状態が崩れたときに原状への回復を命じる。第12条の2は許可という法的地位そのものを失わせ、又は使用を止める。第12条の3は違反の有無を問わず、危険が差し迫った局面で使用を止める。回復、剥奪、遮断という三つの異なる作用が並んでいる。

第12条と第12条の2の骨格は昭和34年法律第86号に遡る。同法が第11条を全面改正して設置・変更の許可と完成検査を創設したとき、あわせて置かれたのが維持義務と修理・改造・移転の命令、そして使用停止の規定であった。入口で基準に適合していることを確認する手続を設けるのであれば、確認後に基準から外れた状態を放置できない。許可制と維持義務は同時に生まれる必要があったのである。ただし、この時点の第12条の2は「期間を定めてその使用の停止を命ずることができる」とするのみで、許可の取消しは規定されていなかった。許可を得た地位は、違反があっても失われない仕組みであった。

第12条の3は昭和49年法律第64号による新設である。同じ改正が第11条第1項を全面改正して移送取扱所を創設し、許可権者を四区分にしたほか、第12条の4(関係市町村長の要請)を新設している。配管によって危険物を移送する施設は、一の市町村の区域で完結せず、事故が起きれば影響が線状に広がる。違反の存在を認定してから命令を組み立てる手順では間に合わない局面がある。そこで、違反の有無から切り離し、「公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるとき」という要件だけで使用を止められる手段が置かれた。

この改正の公布日は昭和49年6月1日である。三菱石油水島製油所の重油流出事故が同年12月18日であることを踏まえると、第12条の3は水島の事故を受けた規定ではない。緊急時の介入手段は、移送取扱所という新しい施設類型の登場に伴って、事故に先立って整備されていた。水島を契機とする改正は、翌年の昭和50年法律第84号(石油コンビナート等災害防止法)附則による第11条第2項の許可基準の追加と、昭和51年法律第37号による完成検査前検査・危険物保安技術協会・保安検査の創設である。緊急停止の権限と、設計・施工段階の技術審査の強化は、別の出来事に対応している。

第12条の2が現在の姿になったのは昭和63年法律第55号による。同法の改め文は「第十二条の二中『取扱所について、』の下に『第十一条第一項の許可を取り消し、又は』を加え」たうえで、「同条中第三号を削り、第四号を第三号とし、第四号の二及び第五号を削り、第六号を第四号とし、第七号を第五号とし、同条に次の二項を加える」としている。許可の取消しがこのときに初めて導入され、同時に、それまで一つの条のもとに並んでいた事由が二つの群に分けられた。削られた旧第三号、旧第四号の二、旧第五号は、新たに設けられた第2項の各号として置き直されている。

加えられた二項のうち、二つめは次のものであった。

市町村長等は、第一項の規定により許可を取り消そうとするときは、あらかじめ、その製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者にその理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

許可の取消しという重い処分を導入するにあたって、法律自身が事前の手続を定めたものである。その後、行政手続法(平成5年法律第88号)が不利益処分についての意見陳述の手続を一般法として整備したことにより、この種の個別規定は役割を終えた。現行法の第12条の2第3項は、平成14年法律第30号が加えた公示の準用規定であり、昭和63年の弁明の機会に関する規定は残っていない。平成14年の改正が加えた準用規定が第3項の位置に収まっていることから、その時点で昭和63年の第3項が既に存在しなかったことを読み取ることができる。

平成14年法律第30号は、第12条第3項、第12条の2第3項、第12条の3第2項に、第11条の5第4項及び第5項(公示と標識)を準用する規定を一括して加えた。命令の存在を外部に知らせる仕組みが、この三条の命令にも及んだ。

三 文理解釈

維持義務の名宛人と命令の名宛人の差

第12条第1項の義務を負うのは「所有者、管理者又は占有者」である。第2項の命令の名宛人は「所有者、管理者又は占有者で権原を有する者」であり、権原による限定が加わる。修理、改造、移転はいずれも工作物に物理的な変更を加える行為であるから、その処分権を持たない者に命じても履行できない。義務の主体を広く取り、命令の相手方を権原のある者に絞るという構成は、第5条第1項が「権原を有する関係者」に向けられているのと同じ発想である。

もっとも、所有者、管理者、占有者が別人である施設で、誰が権原を有するかは契約関係によって決まる。賃貸された給油取扱所で、地下タンクの改造について所有者と賃借人のいずれが権原を有するかは、賃貸借契約の内容次第である。命令を出す側は、この確認を先に済ませなければならない。消防庁の違反処理要領が、命令の履行義務者が誰であるかを具体的な事案について十分検討したうえで名宛人を特定する必要があるとし、住民票、不動産登記簿謄本、商業登記簿謄本による確認方法まで示しているのは、この点に関わる。

第12条第2項の三つの手段

命ずることができる内容は「修理し、改造し、又は移転すべきこと」である。修理は損傷した部分を元の状態に戻すこと、改造は構造や設備を作り変えること、移転は位置を変えることを指す。位置に関する基準に適合していない場合、たとえば保有空地の幅が不足している場合には、周囲の状況を変えられないのであれば施設自体を動かすほかない。移転が手段として掲げられているのは、第10条第4項の技術上の基準が位置にも及ぶことに対応している。

昭和51年法律第37号は、この項の「権原を有する者に対し、」の下に「同項の」を加えた。適合すべき基準が第10条第4項のそれであることを明示する字句の整理である。

第12条の2の二つの項の分かれ方

第1項に残った事由と第2項に移された事由を並べると、分け方の基準が見える。

第1項の五号は、無許可での位置・構造・設備の変更(第1号)、完成検査を受けない使用(第2号)、基準適合命令への違反(第3号)、保安検査を受けないこと(第4号)、定期点検を行わないこと(第5号)である。いずれも、施設そのものが基準に適合しているかどうか、あるいはそれを確認する手続を経ているかどうかに関わる。許可は、申請された位置・構造・設備が基準に適合することを前提に与えられた判断であるから、この前提が崩れた場合には許可そのものを維持する理由が失われる。だから許可の取消しが選択肢に入る。

第2項の四号は、貯蔵・取扱基準の遵守命令への違反(第1号)、危険物保安統括管理者を定めないこと(第2号)、危険物保安監督者を定めないこと(第3号)、これらの解任命令への違反(第4号)である。いずれも施設の運用の仕方と保安体制に関わり、施設の物理的な適法性は損なわれていない。許可の前提が崩れていないのであるから、許可を失わせる理由はなく、是正されるまで使用を止めれば足りる。

昭和63年法律第55号が旧第三号、旧第四号の二、旧第五号を削って第2項に置き直したのは、この区別を条文の形に写す作業であった。許可の取消しという新しい手段を導入するにあたり、それが及ぶ範囲を物的な適法性の欠落に限ったのである。

なお、第2項第4号は、現行法では「第十三条の二十四第一項の規定による命令」と特定されている。昭和63年の追加時は「第十三条の二十四の規定による命令」であった。同条に第2項(公示の準用)が加えられたことに伴う整理である。

取消しと使用停止の選択

第1項は「許可を取り消し、又は期間を定めてその使用の停止を命ずることができる」と定める。いずれを選ぶかの基準は条文に書かれていない。「できる」規定であり、処分をしないという選択もあり得る。もっとも、許可の取消しは既に取得した地位を失わせる処分であり、再び施設を使用するには設置の許可から取り直すことになる。使用停止は期間を定めるものであるから、是正が済めば使用を再開できる。両者の重さの差は大きく、選択は比例原則の問題になる。

地方公共団体はこの選択の基準を処分基準として公表している。行政手続法第12条が、不利益処分の処分基準を定め、これを公にしておくよう努めなければならないとしていることに対応する運用である。たとえば青森県は、移送取扱所に係る第12条の2の処分基準として、使用停止命令は原則として許可の取消しに至らない程度の違反があった場合に行い、停止期間は違反状態を是正するために必要な範囲にとどめるとし、許可の取消しは、使用停止命令に違反したとき、命令に従ったが相当の期間内に正当な理由なく改善されず再使用により支障を及ぼすおそれが極めて高いと判断されるとき、位置・構造・設備が技術上の基準に適合していないおそれが高く使用停止命令のみでは不十分と判断されるときに原則として行うとしている。下関市は、使用停止は原則として取消処分に至らない場合に行い、使用停止期間は違反状態の是正に必要な範囲内とするとしている。

第12条の3の要件

第12条の3第1項の要件は「公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるとき」であり、違反の存在は要件になっていない。基準に適合した施設であっても、周囲の状況によっては使用を止めなければならない局面がある。消防庁危険物保安室の「危険物施設違反処理マニュアル」が、製造所等又はその近隣で火災・爆発等の事故が起き、使用が災害発生上極めて危険な状態と認められる場合に発動するとし、危険な状態の原因が施設側にあるかどうかは問わないとしているのは、この文理に沿う。

名宛人は「所有者、管理者又は占有者」であり、権原による限定がない。使用を止めることは工作物に変更を加える行為ではないため、処分権を要しない。

手段は「使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限する」の二つである。制限は、停止に至らない範囲で使用の態様や量を絞ることを指す。第42条第1項第5号が「命令又は処分に違反した者」としており、停止の命令と使用の制限という処分の双方を罰則の対象にしていることからも、制限が独立した行政行為として観念されていることがわかる。

命令と罰則の対応

この三条の命令のうち、第12条第2項の基準適合命令には罰則がない。第42条第1項が掲げるのは第12条の2第1項又は第2項の命令違反(第4号)と第12条の3第1項の命令又は処分違反(第5号)だけである。基準適合命令に従わない場合は、第12条の2第1項第3号によって許可の取消し又は使用停止命令へ進み、その命令に違反したときに第42条第1項第4号の罰則が働く。

同じ条の中で、物理的な是正を求める命令には刑罰を置かず、使用を止める命令には刑罰を置くという配分がとられている。是正の命令は、履行に工事と費用と時間を要し、履行できたかどうかの判断も段階的になる。これに対し、使用を止める命令の履行は明確であり、違反の認定も容易である。刑罰を置く場所が、履行の明確さに対応している。

両罰規定については、第45条第3号が第42条第1項から第7号と第10号を除いて掲げているため、第4号と第5号はいずれも対象となり、法人には各本条の罰金刑、すなわち五十万円以下の罰金が科される。

四 用語解説

維持 位置、構造及び設備を第10条第4項の技術上の基準に適合した状態で保ち続けることをいう(第12条第1項)。設置時の適合を問う完成検査と異なり、期間を限らない継続的な義務である。経年による腐食や沈下によって基準から外れた場合も、適合させる義務の対象となる。

基準適合命令 第12条第2項の規定による修理、改造又は移転の命令をいう。消防庁危険物保安室の「危険物施設違反処理マニュアル」が用いる呼称である。

許可の取消し 第11条第1項の許可の効力を失わせる処分をいう(第12条の2第1項)。取消しを受けた施設を再び使用するには、設置の許可を改めて受ける必要がある。行政手続法第13条第1項第1号イの「許認可等を取り消す不利益処分」に当たり、意見陳述の手続は聴聞である。

使用停止命令 期間を定めて製造所等の使用を停止すべきことを命ずる処分をいう(第12条の2第1項・第2項)。行政手続法第13条第1項第1号のいずれにも当たらないため、意見陳述の手続は弁明の機会の付与である。

緊急使用停止命令 第12条の3第1項の規定による使用の一時停止の命令をいう。「危険物施設違反処理マニュアル」が用いる呼称である。期間を定めることを要件としておらず、危険な状態が解消された時点で解除される。

公示 命令をした旨を、標識の設置その他総務省令で定める方法により外部に知らせることをいう(第11条の5第4項の準用)。この三条の命令のすべてに準用される。

五 改正の経緯と内容

改正法令主な内容
昭和25年法律第186号制定時の第12条(貯蔵所の設置許可)中の「貯蔵所」を「製造所、貯蔵所及び取扱所」に改正
昭和34年法律第86号第11条の全面改正にあわせ、第12条に維持義務と修理・改造・移転の命令を、第12条の2に使用停止命令を創設。許可の取消しは規定されず
昭和49年法律第64号第12条の3(緊急時の使用の一時停止・制限)及び第12条の4(関係市町村長の要請)を新設。第12条の2第2号の引用を「第十一条第三項」から「第十一条第五項」に改め、同条に第6号(第14条の3違反)を追加。旧第12条の3を第12条の6に繰下げ
昭和51年法律第37号第12条第2項に「同項の」を追加。第12条の2中「左の」を「次の」に改め、第3号の引用を「第十一条の三」から「第十一条の五」に、第6号の引用を「第十四条の三」から「第十四条の三第一項又は第二項」に改正
昭和63年法律第55号第12条の2に「第十一条第一項の許可を取り消し、又は」を追加。第1号の引用を「第十一条第一項」から「第十一条第一項後段」に改め、旧第3号・旧第4号の2・旧第5号を削り号を繰上げ。新たに第2項(使用停止のみを行う事由の四号)及び第3項(許可を取り消そうとするときの理由の通知と弁明及び有利な証拠の提出の機会)を追加
行政手続法(平成5年法律第88号)の制定以後不利益処分についての意見陳述の手続が一般法に定められ、昭和63年の改正で置かれた弁明の機会に関する項は現行法に残っていない。許可の取消しは聴聞、使用停止命令は弁明の機会の付与による
平成14年法律第30号第12条第3項、第12条の2第3項、第12条の3第2項として、第11条の5第4項及び第5項(公示と標識)を準用する規定を追加。第13条の24に第2項が加えられたことに伴い、第12条の2第2項第4号の引用を「第十三条の二十四第一項」に整理
令和4年法律第68号刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、第42条等の「懲役」を「拘禁刑」に改正

六 法的性格と解釈上の論点

維持義務の法的性格

第12条第1項は私人に対して継続的な義務を課すが、違反に対する罰則はない。義務違反はそれ自体として処罰されず、第12条第2項の命令、次に第12条の2第1項第3号の処分へと段階を踏んで現実化する。したがって第12条第1項は、命令の発動要件を定めるための規定として機能している面が強い。もっとも、義務規定であることに意味がないわけではない。施設の所有者等は、行政庁からの指摘を待たずに基準適合状態を保つ責任を負っているのであり、保安検査(第14条の3)や定期点検(第14条の3の2)は、その責任を履行するための手続として位置づけられる。

「危険物施設違反処理マニュアル」が、第12条第1項の違反について一次措置を警告とし、警告を履行しない場合に使用停止命令(第12条の2第1項第3号)へ進むとしている一方で、第10条第4項の基準に適合せず火災等の災害発生危険が著しく大きい場合には警告を経ずに基準適合命令から始めるとしているのは、この段階構造を危険の程度に応じて短縮する運用である。

取消しの対象が物的瑕疵に限られることの意味

第12条の2第1項と第2項の振り分けは、許可という処分の性質から説明できる。許可は、申請された位置・構造・設備が技術上の基準に適合し、かつ貯蔵・取扱いが公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがないという判断(第11条第2項)の表明である。判断の対象は施設の物的な状態である。したがって、物的な状態が基準から外れたとき、あるいはその状態を確認する手続が履践されないときには、許可の基礎が失われる。

これに対して、保安監督者を選任しない、貯蔵の方法が基準に違反しているといった事由は、施設が基準に適合しているかどうかとは別の次元の問題である。許可の基礎は失われていないから、許可を取り消すのではなく、適正な運用が回復するまで使用を止める。昭和63年法律第55号が許可の取消しを導入する際に号の振り分けを行ったのは、新たな権限の射程を許可の性質に合わせる作業であった。

この整理は実務上の帰結を伴う。保安監督者の未選任や基準遵守命令違反がどれほど繰り返されても、第12条の2の枠組みでは許可の取消しには至らない。使用停止命令に違反すれば第42条第1項第4号の罰則が働き、刑事責任の問題になるが、許可という地位は残る。人的・運用上の違反を繰り返す事業者から施設の地位を剥奪する手段は、この条には用意されていない。

緊急処分と事前手続

第12条の3は緊急の必要を要件とする処分であるから、聴聞や弁明の機会を事前に与えることが事実上できない場合がある。行政手続法第13条第2項第1号は、公益上緊急に不利益処分をする必要があるため同条第1項に規定する意見陳述のための手続を執ることができないときには、同項を適用しないと定める。緊急使用停止命令がこれに当たり得ることは、「危険物施設違反処理マニュアル」も、公益上緊急に不利益処分をする必要がある場合等は聴聞、弁明の手続が不要となると述べている。

事前手続を欠く処分が憲法上許されるかという問題については、後述する最高裁大法廷判決が判断の枠組みを示している。緊急性を理由に手続を省略できるのは、省略しなければ公益の確保ができない場合に限られる。緊急の必要があると認めた理由は、処分の時点で記録に残しておく必要がある。

なお、地方公共団体の機関がする処分であっても、根拠規定が法律に置かれている処分には行政手続法の第2章以下が適用される。同法第3条第3項が適用を除外しているのは、根拠規定が条例又は規則に置かれている処分等であり、消防法に基づく市町村長等の処分はこれに当たらない。第9条又は第9条の4に基づく市町村条例を根拠とする処分との扱いの差は、ここに現れる。

命令の実務が使用停止に寄っていること

消防庁の令和5年度危険物規制事務統計表によれば、令和6年3月31日現在の設置許可施設は381,569施設(製造所5,047、貯蔵所260,438、取扱所116,084)であり、令和5年度中の立入検査は157,381施設、延べ171,718回に及んだ。これに対し、危険物施設等に対する措置命令は166件(前年度141件)であり、そのうち112件、全体の67.5パーセントが使用停止命令又は緊急使用停止命令であった。無許可施設等に対する措置命令は45件である。

施設数に対して命令に至る件数はごく少なく、しかもその三分の二が使用を止める命令である。基準適合命令のように是正の内容を特定して履行を求める手段より、使用を止める手段が選ばれている。使用停止には違反状態の拡大を即座に断ち切る効果があり、是正の方法の選択を事業者に委ねられるという利点がある。他方で、「危険物施設違反処理マニュアル」が使用停止を「私権制限の性格の強いもの」と位置づけ、危険物保安上必要な範囲にとどめることを求めているとおり、営業の継続に直接影響する処分である。命令の運用がこの手段に集まっているという事実は、処分基準の整備と公表がもつ意味を重くする。

標識の設置と公示の及ぶ範囲

第11条の5第4項及び第5項の準用により、この三条の命令はいずれも公示の対象となる。公示は命令の相手方への告知とは別の行為であり、命令の効力発生要件ではない。消防庁の違反処理要領は、標識の大きさの目安を縦42センチメートル×横29センチメートルから縦72センチメートル×横51センチメートル程度とし、違反の程度が重大な場合に標識を設置するなど、違反の態様に応じて方法を選択すること、即時に履行された場合には公示を要しないこと、設置場所の権原者の損害と第三者の利益を比較衡量して設置場所を決める必要があることを示している。緊急使用停止命令については、危険な状態が短時間で解消されることもあり、公示をするかどうかの判断が現場の時間軸の中で行われる。

七 裁判例

最高裁判所大法廷平成4年7月1日判決(昭和61年(行ツ)第11号)

緊急の必要を理由として事前手続を経ずに行われる不利益処分の憲法適合性について、判断の枠組みを示した判決である。事件名は工作物等使用禁止命令取消等であり、新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法第3条第1項に基づく工作物の使用禁止命令が争われた。民集第46巻5号437頁に収録されている。

最高裁は、まず憲法第31条の保障が行政手続に及ぶ可能性を認めた。「行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」とする。そのうえで、「行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから」として、次の基準を示した。

行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。

この枠組みは、消防法第12条の3の運用に直接あてはまる。緊急使用停止命令によって制限される権利利益は、製造所等の使用という営業活動の継続である。これに対して達成しようとする公益は、火災又は危険物の流出による生命・身体・財産への被害の防止である。公益の緊急性が高い局面であれば、事前の意見陳述を経ないことが許される。逆にいえば、緊急性が高くない場面で第12条の3を用いて事前手続を省略すれば、総合較量の結果として違法となり得る。第12条の3は、第12条の2による使用停止命令を使えば足りる場合に用いる条文ではない。両者の使い分けは、手続の省略が正当化されるかどうかという問題と結び付いている。

教示の瑕疵に関する裁判例

この三条の命令はいずれも不服申立ての対象となる処分であるから、行政不服審査法第82条の教示を要する。教示を欠いた場合の効果について、消防庁の違反処理要領は、東京地方裁判所昭和43年2月5日判決(行政事件裁判例集9巻2号18頁)を挙げて、教示を怠ったことだけでは命令が無効又は違法になるものではないと解されるとしている。もっとも、許可の取消しや使用停止命令は不服申立ての実益が大きい処分であるから、教示の欠落は実質的な不利益につながる。

争訟の現れ方

第12条の2及び第12条の3の処分は、取消訴訟の対象となる典型的な不利益処分である。それにもかかわらず公表された判例が少ないのは、命令の件数自体が年間百数十件にとどまり、しかもその多くが是正によって短期間に解除されるためである。使用停止の期間が是正に必要な範囲に限られる運用のもとでは、訴訟の係属中に処分の効力が失われ、訴えの利益が消滅する。許可の取消しであれば地位の回復を求める実益が残るが、取消しは使用停止命令への違反などを経た最終段階の処分であり、件数はさらに限られる。処分の設計と運用が、争訟に至る前に事案を終結させる方向に働いている。

八 実務上の留意点

維持義務を果たすための体制

第12条第1項の義務は、施設が存在する限り続く。腐食、沈下、配管の減肉といった経年変化は外観からは把握しにくいため、保安検査(第14条の3)と定期点検(第14条の3の2)の結果を維持義務の履行の記録として管理することが現実的な方法となる。第12条の2第1項第4号と第5号が、保安検査を受けないことと定期点検を行わないことを許可の取消しの事由としているのは、この二つが維持義務の履行を確認する仕組みであることに対応する。点検記録の作成と保存を怠った場合は第44条第5号の罰則の対象にもなる。

立入検査で指摘を受けた段階の対応

令和5年度の立入検査は157,381施設に対して行われ、措置命令に至ったのは166件である。大多数の事案は命令に至らずに処理されている。「危険物施設違反処理マニュアル」が一次措置を警告としていることからすれば、警告の段階で是正の計画を示し、履行の見通しを共有することが、命令への移行を避ける道になる。警告の履行期限は、社会通念上の是正所要日数と火災予防上の必要性を衡量して定められる。工事の手配や部品の調達に時間を要する場合は、その事情と工程を具体的に示す必要がある。

ただし、災害発生危険が著しく大きいと判断された場合には、警告を経ずに基準適合命令が発せられる。この命令の履行期限は原則として即時とされている。危険の程度についての認識が行政庁と食い違うと、想定していない段階から手続が始まる。

命令を受けた場合の手続的な確認

許可の取消しについては聴聞、使用停止命令については弁明の機会の付与が行われる。聴聞では主宰者が指定され、聴聞の期日に意見を述べ、証拠書類を提出し、聴聞調書と報告書が作成される。弁明の機会の付与は原則として書面による。「危険物施設違反処理マニュアル」は、正当な理由なく弁明書が提出されない場合には手続を進めて処分を決定するとしている。期限内に弁明書を提出しないことは、意見を述べる機会を自ら放棄することになる。

また、聴聞又は弁明の結果、命令等が妥当でないことが判明した場合には命令等を中止するとされている。事実認定に誤りがある場合は、この段階で資料を示すことが最も効果的である。

使用停止の解除と再使用

使用停止命令の解除は、違反の是正状況を勘案し、公共の安全の維持及び災害の発生の防止が確保されている場合に行われる。緊急使用停止命令の解除については、鎮火や漏えい危険物の回収といった災害防除措置の状況、消防法令の遵守状況、再発防止策の内容が考慮される。解除は必ずしも書面で通知されるとは限らず、必要に応じて受命者に通知するとされている。再使用の開始時期を自己判断で決めず、解除の事実を書面で確認しておくことが、後の争いを避ける。

仮使用承認を受けている場合の特則

完成検査を受けずに使用した事案(第12条の2第1項第2号)については、「危険物施設違反処理マニュアル」が、仮使用の承認(第11条第5項ただし書)を受けている場合には使用停止命令の前に承認を撤回するとしている。承認が残っている部分については使用が適法であるため、まず承認を撤回して使用の根拠を失わせてから命令に進む順序になる。変更工事中に承認の範囲を超えて使用した場合、承認の撤回と使用停止命令が連続して行われる可能性がある。

処分基準の確認

行政手続法第12条により、処分基準を定めて公にすることは努力義務である。多くの消防本部と都道府県が、危険物施設の許可取消し又は使用停止命令の処分基準を公表している。基準の内容には地域差があり、許可の取消しを選択する場合の考え方や使用停止期間の定め方も一律ではない。複数の市町村に施設を持つ事業者は、施設ごとに所管の処分基準を確認しておく必要がある。許可権者が都道府県知事である区域(消防本部及び消防署を置かない市町村の区域)では、都道府県が公表する処分基準が適用される。

参考文献・資料

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