一 条文原文
消防法第12条の4
関係市町村長は、第十一条第一項第四号の規定による都道府県知事又は総務大臣(以下この条において「知事等」という。)の許可に係る移送取扱所の設置若しくは維持又は当該移送取扱所における危険物の取扱いに関し災害が発生するおそれがあると認めるときは、当該知事等に対し、必要な措置を講ずべきことを要請することができる。
② 知事等は、前項の要請があつたときは、必要な調査を行い、その結果必要があると認めるときは、第十一条の五第一項、第十二条第二項又は前条第一項の規定による措置その他必要な措置を講じなければならない。
③ 知事等は、前項の措置を講じたときは、速やかに、その旨を関係市町村長に通知しなければならない。
消防法第12条の5
政令で定める移送取扱所の所有者、管理者又は占有者は、当該取扱所について危険物の流出その他の事故が発生し、危険な状態となつた場合において講ずべき応急の措置について、あらかじめ、関係市町村長と協議しておかなければならない。
消防法第12条の6
製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、当該製造所、貯蔵所又は取扱所の用途を廃止したときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。
消防法第12条の7
同一事業所において政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所を所有し、管理し、又は占有する者で、政令で定める数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱うものは、政令で定めるところにより、危険物保安統括管理者を定め、当該事業所における危険物の保安に関する業務を統括管理させなければならない。
② 製造所、貯蔵所又は取扱所を所有し、管理し、又は占有する者は、前項の規定により危険物保安統括管理者を定めたときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。これを解任したときも、同様とする。
主要な下位法令
危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)
(市町村長との協議を要する移送取扱所の指定) 第八条の三 法第十二条の五の政令で定める移送取扱所は、危険物を移送するための配管の延長(当該配管の起点又は終点が二以上ある場合には、任意の起点から任意の終点までの当該配管の延長のうち最大のもの。以下この条において同じ。)が十五キロメートルを超える移送取扱所及び危険物を移送するための配管に係る最大常用圧力が〇・九五メガパスカル以上であつて、かつ、危険物を移送するための配管の延長が七キロメートル以上十五キロメートル以下の移送取扱所とする。
(危険物保安統括管理者を定めなければならない事業所等) 第三十条の三 法第十二条の七第一項の政令で定める製造所、貯蔵所又は取扱所は、第四類の危険物を取り扱う製造所、移送取扱所又は一般取扱所のうち、総務省令で定めるもの以外のもの(以下「指定施設」という。)とする。 2 法第十二条の七第一項の政令で定める数量は、指定施設において取り扱う第四類の危険物について、指定数量の三千倍に相当する数量(移送取扱所にあつては、総務省令で定める数量)とする。 3 法第十二条の七第一項の危険物保安統括管理者は、当該事業所においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。
関係する罰則等
第四十四条 次のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金又は拘留に処する。 八 第八条第二項(第三十六条第一項において準用する場合を含む。)、第九条の三第一項(同条第二項において準用する場合を含む。)、第十一条第六項、第十一条の四第一項、第十二条の六、第十二条の七第二項、第十三条第二項、第十七条の三の二又は第十七条の十四の規定による届出を怠つた者
第十二条の二 ② 市町村長等は、製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者が次の各号の一に該当するときは、当該製造所、貯蔵所又は取扱所について、期間を定めてその使用の停止を命ずることができる。 二 第十二条の七第一項の規定に違反したとき。
出典:e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186 、同「危険物の規制に関する政令」(昭和34年政令第306号)https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306
二 趣旨・立法背景
四つの条が並んでいるが、内容は二つの系列に分かれる。第12条の4と第12条の5は、配管によって危険物を移送する移送取扱所という広域施設のために置かれた調整規定である。第12条の6と第12条の7は、施設を単位とする規制では捉えられない事柄、すなわち施設の終わりと、複数の施設を抱える事業所という単位を扱う。
最も古いのは第12条の6である。昭和34年法律第86号が「第十二条の次に次の二条を加える」として第12条の2(使用停止命令)と第12条の3を置いたとき、後者として次の規定が設けられた。
第十二条の三 製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、当該製造所、貯蔵所又は取扱所の用途を廃止したときは、遅滞なくその旨を市町村長等に届け出なければならない。
現行の第12条の6は、この文言をそのまま保っている。条の位置が動いただけで、本文は昭和34年以来改められていない。許可制を導入すれば、許可を受けた施設が存在しなくなったことを行政庁が知る必要が生じる。許可台帳に載り続ける施設と現実の施設の乖離を防ぐための規定であり、許可制と同時に生まれる必然性を持っていた。
第12条の4と第12条の5は昭和49年法律第64号による。同法の改め文は「第十二条の三を第十二条の六とし、第十二条の二の次に次の三条を加える」と定め、第12条の3(緊急時の使用の一時停止・制限)、第12条の4、第12条の5の三条を一度に挿入した。用途廃止の届出はこれによって第12条の6へ押し出された。同じ改正が第11条第1項を全面改正して移送取扱所を創設し、許可権者を四区分にしたことは前回までに見たとおりである。配管という線状の施設が法律上の施設類型として現れた瞬間に、その広域性に対応する三つの手当てが同時に置かれたことになる。緊急時に止める権限、通過市町村の長が許可権者に働きかける経路、事故時の応急措置をあらかじめ詰めておく義務の三つである。
第12条の7の成立経緯は他と異なる。この条は消防法を改正する法律によって設けられたのではなく、昭和50年法律第84号、すなわち石油コンビナート等災害防止法の附則によって消防法に挿入された。同じ附則が第14条の3の2(定期点検)を新設し、第16条の3を改めて応急措置命令を加え、第39条の2および第39条の3(危険物の漏出等の罪)を新設し、第44条第6号に第12条の7第2項の届出義務違反を加え、第12条の2には第12条の7第1項違反を第4号の2として、第14条の3の2違反を第7号として追加している。第11条第2項の許可基準に「公共の安全の維持又は災害の発生の防止に支障を及ぼすおそれがない」ことが加えられたのも、この同じ附則である。
背景にあるのは、昭和49年12月18日の三菱石油水島製油所重油流出事故と、昭和50年2月16日の大協石油四日市製油所タンク火災である。危険物と高圧ガスが大量に集積する地域について総合的な防災体制を確立するという課題に対し、石油コンビナート等災害防止法は特別防災区域という地域単位の枠組みを設け、特定事業所ごとに自衛防災組織を置くこと(同法第16条)、防災管理者を選任して自衛防災組織を統括させること(同法第17条第1項)、防災規程を定めて市町村長等に届け出ること(同法第18条)を義務づけた。同法第17条第2項は、防災管理者には事業の実施を統括管理する者を充てると定めている。
危険物の規制に関する政令第30条の3第3項が、危険物保安統括管理者について「当該事業所においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない」と定めているのは、この発想の移植である。特別防災区域の内側で機能する防災管理者の仕組みを、消防法の側に、指定施設を抱える事業所一般に広げたものと理解できる。製造所等という施設を単位としてきた危険物規制に、事業所という単位が持ち込まれた起点がここにある。
なお、第12条の7第1項の違反は、創設時には第12条の2(当時は項に分かれていなかった)の第4号の2として、許可の取消しを含む処分の事由であった。昭和63年法律第55号が第4号の2を削り、新たに設けた第2項の第2号に置き直したことにより、現在は使用停止命令のみの事由となっている。事業所の保安体制の不備は、施設そのものの適法性を損なうものではないという整理が、このときに施された。
三 文理解釈
第12条の4の対象が限られていること
要請の対象となるのは「第十一条第一項第四号の規定による都道府県知事又は総務大臣……の許可に係る移送取扱所」である。第11条第1項第3号の移送取扱所、すなわち一の消防本部等所在市町村の区域のみに設置されるものは対象外である。この場合の許可権者は当該市町村長であり、要請をする立場にある関係市町村長と同一であるから、要請の経路を用意する必要がない。第12条の4は、許可権者と、施設が所在する区域の消防責任を負う者が分離している場合にのみ働く。
要請の主体である「関係市町村長」について、法は定義を置いていない。配管が通過し、又は施設が所在する区域の市町村長を指すものと解される。第12条の5の協議の相手方も同じ語であり、第11条第4項の意見申出の主体も同じである。
要請に対する知事等の義務
第2項は「必要な調査を行い、その結果必要があると認めるときは……講じなければならない」と定める。要請を受けた知事等には、まず調査をする義務が生じる。調査の結果、措置が必要であると認めるかどうかには判断の幅があるが、要請を放置して調査自体を行わないことは許されない。措置の内容として挙げられているのは、第11条の5第1項(貯蔵・取扱基準の遵守命令)、第12条第2項(基準適合命令)、第12条の3第1項(緊急時の使用の一時停止・制限)による措置と「その他必要な措置」である。前三条で整備された手段を、要請を受けた側が選択して行使する仕組みになっている。
第3項は措置を講じたときの通知義務を定める。要請、調査、措置、通知という往復の経路がここで閉じる。第11条第3項および第4項が許可の前の段階で意見申出の経路を開いているのに対し、第12条の4は許可の後の段階を受け持つ。許可前は意見を述べるだけであるが、許可後は調査義務と通知義務を伴う。施設が現に稼働している段階では、関係市町村長の申出に対する応答がより強く求められるという配分である。
第12条の5の協議の性質
協議の相手方は「関係市町村長」であり、許可権者ではない。配管の延長が十五キロメートルを超える移送取扱所であれば、通過する市町村の数は相当なものになる。協議はそのすべての市町村長を相手に行うことになる。
時期は「あらかじめ」であり、危険な状態が生じてからでは遅い。協議の対象は「講ずべき応急の措置」であって、施設の位置・構造・設備ではない。設置の許可とは別の次元で、事故時の行動を事前に取り決めておく義務である。
注意を要するのは、法文が「協議しておかなければならない」とするにとどまり、合意に達することや同意を得ることを求めていない点である。第7条の消防同意が、同意を得なければ建築の確認等をすることができないと定めているのとは構造が異なる。協議が整わないことを理由に設置の許可が与えられないという関係にはない。また、この協議義務に違反した場合の罰則は置かれていない。第12条の2の各号にも挙げられていないため、使用停止命令の事由にもならない。義務としての担保が最も薄い規定である。
第12条の6の届出の位置づけ
「用途を廃止したとき」であるから、事後の届出である。第11条の4第1項の変更届が「変更しようとする日の十日前までに」とされているのと対照的である。廃止は事実として生じるものであり、事前に届け出させる意味がない。
法は、用途の廃止によって第11条第1項の許可が効力を失うことを明文で定めていない。届出が許可を失わせるとも書かれていない。第11条第6項の地位承継が、譲渡又は引渡という事実によって当然に生じ、届出は事実を知らせる義務にとどまるのと同じ構造である。行政手続法第37条が、届出が形式上の要件に適合している場合には提出先の事務所に到達したときに届出の義務が履行されたものとすると定めていることからも、この届出が受理という行政庁の判断を要しないものであることが分かる。
第12条の7の単位と要件
「同一事業所において」と書き起こされており、規制の単位が事業所である。製造所等を単位とする第13条の危険物保安監督者とは出発点が異なる。義務を負うのは、同一事業所において指定施設を所有し、管理し、又は占有する者で、政令で定める数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱うものである。
指定施設は、第四類の危険物を取り扱う製造所、移送取扱所又は一般取扱所のうち、総務省令で定めるもの以外のものである(危険物の規制に関する政令第30条の3第1項)。第四類に限られているため、第一類から第三類、第五類、第六類のみを取り扱う事業所には、規模がどれほど大きくても選任義務が生じない。貯蔵所も対象外である。数量の基準は、指定施設において取り扱う第四類の危険物について指定数量の三千倍に相当する数量であり、移送取扱所については総務省令で定める数量とされている(同条第2項)。
充てるべき者は「当該事業所においてその事業の実施を統括管理する者」である(同条第3項)。危険物取扱者免状のような資格は要件になっていない。第13条第1項の危険物保安監督者が甲種又は乙種危険物取扱者で六月以上の実務経験を有する者から選任されるのとは異なる。統括管理者に求められているのは技術的な知識ではなく、事業所における指揮命令の権限である。工場長や事業所長がこれに当たる。
罰則の配分
第12条の7第1項の選任義務に違反した者を処罰する規定はない。第42条第1項は第13条第1項に違反して危険物保安監督者を定めないで事業を行った者を第6号で処罰しているが、第12条の7第1項は掲げていない。選任義務の担保は、第12条の2第2項第2号による使用停止命令と、第13条の24第1項による解任命令である。
これに対し、第12条の7第2項の届出を怠った場合は第44条第8号により三十万円以下の罰金又は拘留の対象となる。選任しないことは処罰されず、選任したのに届け出ないことは処罰されるという配分になっている。第12条の6の用途廃止の届出も同じ第44条第8号に置かれている。いずれも第45条第3号の両罰規定の対象には含まれていないため、法人に罰金刑が科されることはない。
資格を要しない地位であるから、選任そのものは組織内の指名によって直ちに可能である。選任しないという事態は、組織の意思として意図的に行われる場合にしか生じにくい。罰則を置かず、使用停止命令と解任命令で足りるとした判断には、この事情が働いていると見ることができる。
四 用語解説
関係市町村長 移送取扱所が設置される区域又は配管が通過する区域の市町村長をいう。第11条第4項の意見申出、第12条の4第1項の要請、第12条の5の協議の各主体又は相手方として現れる。法律上の定義規定は置かれていない。
事業所 同一の者が事業を行う場所的な単位をいう。消防法は定義を置いていないが、第12条の7、第14条の4(事業所の自衛消防組織)がこの語を用いる。石油コンビナート等災害防止法の特定事業所とは別の概念であり、特別防災区域の内外を問わない。
指定施設 第四類の危険物を取り扱う製造所、移送取扱所又は一般取扱所のうち、総務省令で定めるもの以外のものをいう(危険物の規制に関する政令第30条の3第1項)。危険物保安統括管理者の選任義務の有無を判定する単位である。
危険物保安統括管理者 事業所における危険物の保安に関する業務を統括管理する者をいう(第12条の7第1項)。当該事業所においてその事業の実施を統括管理する者を充てる(同令第30条の3第3項)。資格要件はない。第13条の24第1項により、この法律若しくはこれに基づく命令の規定に違反したとき等には、市町村長等が解任を命ずることができる。
用途の廃止 製造所等としての機能を完全に失わせることをいう。一時的に使用を止める休止とは区別される。法律上は廃止についてのみ届出義務が定められている。
五 改正の経緯と内容
| 改正法令 | 主な内容 |
|---|---|
| 昭和34年法律第86号 | 第12条の次に二条を追加し、第12条の2(使用停止命令)と第12条の3(用途廃止の届出)を創設。用途廃止の届出の本文は現在まで改められていない |
| 昭和49年法律第64号 | 第12条の2の次に三条を追加し、第12条の3(緊急時の使用の一時停止・制限)、第12条の4(関係市町村長の措置要請)、第12条の5(応急措置の協議)を創設。旧第12条の3(用途廃止の届出)を第12条の6に繰下げ。第11条第1項の全面改正による移送取扱所の創設と同時 |
| 昭和50年法律第84号(石油コンビナート等災害防止法)附則 | 第12条の7(危険物保安統括管理者)を新設。第12条の2に第4号の2として第12条の7第1項違反を、第7号として第14条の3の2違反を追加。第14条の3の2(定期点検)を新設。第16条の3を改正して応急措置命令を追加。第39条の2・第39条の3(危険物の漏出等の罪)を新設。第44条第6号に第12条の7第2項の届出義務違反を追加。第40条第1項の罰金額を三十万円から五十万円に引上げ |
| 昭和51年法律第37号 | 第16条の7の適用対象に「第十二条の七第二項」を追加。第12条の4第2項中の引用を「第十一条の三」から「第十一条の五」に改正 |
| 昭和63年法律第55号 | 第12条の2の第4号の2(第12条の7第1項違反)を削り、新たに設けた第2項の第2号に置き直し、使用停止命令のみの事由とする |
| 平成14年法律第30号 | 第12条の4第2項中の「前条」を「前条第一項」に改正 |
六 法的性格と解釈上の論点
国民に義務を課さない条文という型
第12条の4は、国民や事業者に何らの義務を課さない。規律の対象は関係市町村長と知事等という二つの行政庁の関係である。消防法第三章の中でこの型をとるのはこの条だけであり、同じ型の規定は第16条の8(総務大臣の権限の委任)、第16条の8の2(緊急時の指示)に見られる。
この型の条文には、履行確保の経路が欠けるという特徴がある。第12条の4第2項は知事等に調査義務と措置義務を課しているが、要請が無視された場合に関係市町村長が司法的な救済を求める道はない。行政事件訴訟法第42条は、民衆訴訟及び機関訴訟は法律に定める場合において法律に定める者に限り提起することができると定めており、第12条の4について訴訟を認める規定は置かれていない。義務の履行は、知事等の判断と、関係市町村長による重ねての要請、そして第12条の4第3項の通知を通じた相互の説明によって確保されるしかない。
要請の対象が限られていることも併せ考えると、この条が働く場面は狭い。消防庁の令和5年度危険物規制事務統計表によれば、令和6年3月31日現在の移送取扱所は全国で1,017施設であり、そのうち複数の許可行政庁の区域にわたるものは17施設、特定移送取扱所は4施設である。第12条の4が想定する構図に当てはまる施設は、全国で二十に満たない規模である。
三つの保安文書の法形式の違い
移送取扱所をめぐっては、事故時の行動に関する三つの文書が法令上現れる。第12条の5の応急措置についての協議、第14条の2の予防規程、そして石油コンビナート等災害防止法第18条の防災規程である。
これらは法形式が異なる。第12条の5の協議は、行政庁との間で内容を詰める行為であり、認可も届出も要しない。第14条の2の予防規程は、市町村長等の認可を受けなければならず、認可されなければ効力を持たない。石油コンビナート等災害防止法第18条の防災規程は、届出で足りるが、市町村長等が変更を命ずることができ、その命令に違反すると施設の使用停止を命じられる。協議、認可、届出と変更命令という三つの形式が、同じ事業所の中に併存することになる。事業者の側では、同じ事故を想定した三つの文書の内容が食い違わないように管理する必要がある。
用途廃止と休止の間の空白
法律が定めているのは用途の廃止についての届出だけである。設備を残したまま一定期間使用を止める休止については、消防法に規定がない。しかし実務上、設備が残り危険物が抜かれている状態は現実に生じる。多くの消防本部が使用休止・再開の届出を求める運用を置いているのは、この空白を埋めるためである。
休止と廃止の区別は、事業者にとって実質的な差を生む。廃止すれば許可の対象としての施設は消滅し、再び使用するには設置の許可から取り直すことになる。休止であれば許可は残るが、維持義務(第12条第1項)、定期点検(第14条の3の2)、保安検査(第14条の3)といった義務も残る。設備を長期間使わない予定であるとき、どちらを選ぶかは、再開の見込みと、残る義務の負担との比較になる。法律上の制度が廃止の側にしか用意されていないため、この選択は条文からは導けず、所轄の消防機関との協議に委ねられる。
用途廃止届が引き起こす連鎖
用途廃止の届出は、それ自体は一枚の様式の提出であるが、周辺の制度に影響が及ぶ。
第一に、廃止に伴って指定数量以上の危険物を抜き取る作業を製造所等の外で行う場合には、第10条第1項ただし書の仮貯蔵・仮取扱いの承認が必要になる。廃止の手続が、所轄消防長又は消防署長の承認という別系統の手続を呼び出す。
第二に、消防機関の運用では、液体危険物タンクについて完成検査前検査の効力が廃止の届出によって失われるものとして扱われている。廃止したタンクを別の製造所等で再使用する場合には、第11条の2の完成検査前検査を改めて受けることになる。タンクを資産として転用する計画では、この点が工程と費用に跳ね返る。
第三に、廃止の届出をした後に指定数量以上の危険物の貯蔵又は取扱いが確認されれば、無許可の貯蔵・取扱いとして第10条第1項違反となる。第41条第1項第3号の罰則と、第45条第2号による法人に対する三千万円以下の罰金刑の対象である。届出の日付を実際の廃止より前に設定することは、この危険を自ら作り出すことになる。
統括管理者という地位と責任の帰属
危険物保安統括管理者を要する事業所は、令和6年3月31日現在で全国214か所である。同じ統計において、第14条の4の自衛消防組織を置く事業所は97か所、危険物施設保安員を置く事業所は1,653か所、予防規程を定めている施設は39,624か所とされている。統括管理者の制度が適用される範囲は、危険物規制の全体から見ればごく限られた大規模事業所である。
この地位は、事業所における危険物の保安に関する業務を統括管理するものとして、事業の実施を統括管理する者に充てられる。もっとも、この地位に就いたことが、事故が起きた場合の刑事責任の所在を決めるわけではない。平成24年9月29日に発生した株式会社日本触媒姫路製造所の爆発火災は、アクリル酸混じりの廃液を一時貯蔵するタンクの異常な温度上昇によるもので、消防吏員1名が死亡し、多数の消防吏員、警察官、従業員が負傷した。報道によれば、神戸地方裁判所は平成30年7月19日、従業員3名に業務上過失致死傷(うち1名は労働安全衛生法違反を併せて)により執行猶予付きの禁錮刑を、法人に労働安全衛生法違反により罰金五十万円を言い渡した。
消防法は昭和50年法律第84号の附則によって、製造所等から危険物を漏出させ火災の危険を生じさせた者を処罰する第39条の2と、業務上必要な注意を怠って同じ結果を生じさせた者を処罰する第39条の3を置いている。第12条の7の統括管理者の制度を導入したのと同じ改正である。もっとも、統括管理者という地位は、保安に関する業務を統括する権限と組織上の責任を定めるものであり、過失の有無と因果関係によって決まる刑事責任の帰属とは別の次元にある。選任によって責任の所在が自動的に定まると考えることはできない。事業所の側では、統括管理者を頂点とする指揮命令と、各施設における危険物保安監督者、危険物施設保安員の職務分担を、文書と訓練の双方で具体化しておく必要がある。
七 裁判例
この四条の規定を直接の対象とする公表された裁判例は見当たらない。理由はそれぞれの条の性質に求められる。
第12条の4は行政庁相互の関係を定めるものであり、国民の権利義務に関わらない。要請に応じないことが争われる場面を想定しても、行政事件訴訟法第42条が機関訴訟を法律に定める場合に限っているため、訴訟の形をとることができない。第12条の5の協議義務には罰則も処分も結び付いておらず、協議の不成立が争訟になる経路もない。第12条の6の届出は行政庁の受理という判断を要しないものであり、受理の拒否という処分が観念されない。第12条の7第1項の選任義務違反は刑事手続に乗らず、第12条の2第2項第2号の使用停止命令という形で争われる余地があるにとどまる。
関連する刑事事件としては、前述の株式会社日本触媒姫路製造所爆発火災について神戸地方裁判所が平成30年7月19日に言い渡した判決がある。同事故に関する事実関係は、消防庁が平成24年10月1日付け消防危第220号・消防特第195号「化学プラントにおける事故防止等の徹底について」として通知し、同日付け消防消第205号・消防災第344号「消防活動時等における消防職団員の安全管理の再徹底について」を発している。同通知は、自己反応等により温度・圧力が上がるおそれのある化学物質について安全な制御条件を再確認して従業者に周知すること、異常判断の指標を再確認して適切な運転管理を行うこと、暴走反応等の異常時には石油コンビナート等災害防止法第23条第1項に基づき直ちに消防機関へ通報すること、爆発・火災の危険性と影響範囲を現場の従業者および到着した消防隊に周知して計画と訓練を行うことを求めている。同通知は、平成23年11月の東ソー南陽事業所、平成24年4月の三井化学岩国大竹工場の爆発火災にも言及している。
事業所単位の保安体制を整える義務が消防法に置かれていても、現場で運転条件の管理に当たる者の判断が誤れば事故は起きる。第12条の7が定めるのは統括管理の責任者を置くことであり、その責任者を通じて個々の運転管理まで実効性を及ぼすかどうかは、事業所が自ら設計する体制の問題として残されている。
八 実務上の留意点
移送取扱所を設置する事業者の準備
配管の延長が十五キロメートルを超える移送取扱所、又は最大常用圧力が〇・九五メガパスカル以上で配管の延長が七キロメートル以上十五キロメートル以下の移送取扱所を設置する場合には、関係市町村長との応急措置の協議が義務となる。協議の相手方は配管が通過するすべての関係市町村長である。許可の申請と並行して、通過市町村の消防機関に対する説明と協議の日程を組む必要がある。協議に合意が要件とされていないとはいえ、協議を経ずに設置すれば義務の不履行が残り、事故時の対応にも支障が生じる。
なお、石油パイプライン事業法(昭和47年)の適用を受けているのは成田国際空港への航空燃料輸送用パイプラインのみであり、それ以外のパイプラインは消防法上の移送取扱所として規制される。配管による移送を計画する場合、消防法の枠組みで手続を組むのが通常である。
用途廃止の手続の段取り
用途廃止の届出は、廃止の事実が生じた後に遅滞なく行う。消防機関の運用では、届出書に記載する廃止年月日が効力の基準日とされ、届出年月日と受付日は廃止年月日以後の日付とすることが求められる。添付書類として、設置許可書、設置完成検査済証、液体貯蔵タンクを有する施設についてはタンク検査済証の正本の提出と、タンクプレートの提出を求める例がある。写しでは足りないとされるため、原本の所在を事前に確認しておく必要がある。
廃止の前に講じるべき措置として、標識および掲示板の撤去、配管の縁切り、タンク内への砂等の充填、タンク銘板の撤去といった火災危険の排除が挙げられる。指定数量以上の危険物を抜き取る作業を伴う場合は、仮貯蔵・仮取扱いの承認申請が必要になる。届出後に現地調査や写真による確認が行われることがある。
これらはいずれも法律が定める手続ではなく、消防機関の審査基準や運用による。地域によって求められる書類と措置に差があるため、廃止を決めた段階で所轄の消防機関に相談することが、手戻りを避ける近道である。
休止を選ぶ場合
設備を残して使用を止める場合、法律上の届出義務はないが、多くの消防機関が使用休止の届出を求めている。休止を選べば許可は残り、維持義務、定期点検、保安検査の義務も残る。再開の見込みが立たないまま休止を続けると、使用していない設備について点検の費用が発生し続ける。他方、廃止すれば再使用には設置の許可から取り直すことになり、技術上の基準は現行のものが適用される。旧基準で設置された施設であれば、再取得の負担が大きくなる場合がある。どちらを選ぶかは、設備の残存価値と再開の可能性、現行基準への適合に要する費用を比べて判断することになる。
統括管理者の選任の判定
選任義務の有無は、事業所単位で、指定施設において取り扱う第四類の危険物の数量を指定数量で除した値を合算して判定する。製造所、移送取扱所、一般取扱所が対象であり、貯蔵所は含まれない。第四類以外の類のみを扱う事業所は対象外である。同一の敷地に複数の法人が施設を持つ場合、義務を負うのは指定施設を所有し、管理し、又は占有する者であるから、法人ごとに判定することになる。判定の結果が境界付近にある事業所では、所轄の消防機関と事前に認識をそろえておくことが有効である。
選任したときと解任したときは、遅滞なく市町村長等に届け出る。届出を怠れば第44条第8号の罰則の対象となる。組織改編によって工場長や事業所長が交代した場合、統括管理者も当然に交代することになるため、人事発令と届出の時期がずれないよう、人事部門と保安部門の間で手続を結び付けておく必要がある。危険物保安監督者の選任・解任届(第13条第2項)、危険物施設保安員(第14条)、自衛消防組織(第14条の4)と合わせて、事業所の保安体制に関する届出を一覧にしておくことが、漏れを防ぐ方法になる。
事業所内の文書の整合
特別防災区域内の特定事業所であれば、石油コンビナート等災害防止法の防災管理者と消防法の危険物保安統括管理者の双方を選任することになり、いずれも事業の実施を統括管理する者が充てられる。同一人物が二つの地位を兼ねるのが通常であるが、根拠法令が異なるため、届出の相手方と様式は別である。防災規程(同法第18条)、予防規程(消防法第14条の2)、移送取扱所の応急措置についての協議の内容(消防法第12条の5)が相互に矛盾しないよう、改訂の際には三者を併せて点検する体制が求められる。
参考文献・資料
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