遺言執行者とは
遺言書に書かれた内容を、実際に実行する人です。預貯金の解約、不動産の名義変更の手配、株式の移管、相続人への通知と報告——遺言書は、書いただけでは何も動きません。誰かが手続きをする必要があります。
その役割を担うのが遺言執行者です。遺言書で指定しておくことができます。
遺言執行者がいないと、どうなるか
遺言執行者がいなくても、遺言の内容を実現できる場合はあります。しかし、次の問題が生じます。
相続人全員の署名押印が必要になる
金融機関の解約手続きでは、遺言執行者がいなければ、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書を求められることがあります。遺言書があるのに、結局は全員を集めることになります。
遺言執行者がいれば、執行者ひとりの署名で手続きができます。
相続人の一部が協力しない場合、止まる
内容に不満を持つ相続人が、手続きへの協力を拒むことがあります。遺言執行者がいなければ、そこで止まります。
遺言執行者がいる場合、相続人は相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法1013条1項)。これに違反した行為は無効です(同条2項)。
相続人以外への遺贈は、実務上ほぼ不可能になる
お孫さん、お子さんの配偶者、お世話になった方へ財産を残す場合、遺言執行者がいなければ、相続人全員に手続きへの協力を求めることになります。自分たちの取り分が減る手続きに、全員が快く協力するとは限りません。
誰も動かないまま、時間だけが過ぎる
「誰かがやるだろう」と全員が思っているうちに、相続登記の期限(3年)が過ぎ、相続人の一人が亡くなり、次の相続が重なる——実務で最もよく見る光景です。
遺言執行者の職務
法律で定められた職務は、次のとおりです。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 就職の承諾 | 就任するかどうかを決める | ― |
| 相続人への通知 | 遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知する | 民法1007条2項 |
| 財産目録の作成・交付 | 相続財産の目録を作成し、相続人に交付する | 民法1011条 |
| 執行 | 遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする | 民法1012条1項 |
| 報告 | 相続人に対し、経過と結果を報告する | 民法1012条3項・645条 |
具体的な作業はこうなります。
- 相続人の調査(戸籍・除籍・改製原戸籍の収集)
- 相続人への遺言内容の通知
- 相続財産の調査(金融機関への照会、名寄帳、登記事項証明書)
- 財産目録の作成と交付
- 預貯金の解約・払戻し
- 有価証券の移管・売却
- 生命保険金の請求手続きの案内
- 不動産の名義変更(登記は司法書士が担当します)
- 貸金庫の開扉・解約
- 相続人・受遺者への分配
- 執行完了の報告
遺言執行者がその権限内で執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接効力を生じます(民法1015条)。また、自己の責任で第三者に任務を行わせることもできます(民法1016条)。
ご家族を指定する場合と、第三者を指定する場合
遺言執行者は、相続人の一人を指定することもできます。費用はかかりません。
ご家族の指定で足りる場合
- 相続人が少なく、全員が内容に納得している
- 財産が単純(預金1〜2行と自宅程度)
- 相続人の中に、手続きに慣れた方がいる
- 全員が近隣に住んでいる
第三者を指定したほうがよい場合
- 相続人の間に取り分の差がある
- 相続人以外の方への遺贈が含まれる
- 相続人が遠方に散在している、または疎遠になっている
- 相続人が高齢である、またはご病気である
- 金融機関の数が多い、株式・投資信託がある
- 不動産が複数ある、または売却が必要になりそう
- おひとり暮らしで、頼める親族がいない
執行者を務めるご家族の負担は、想像されているより大きくなります。平日の日中に金融機関を回り、それぞれ異なる書式に対応し、他の相続人から進捗を問われ続ける。ご自身も相続人である以上、他の相続人から「不公平ではないか」と見られることもあります。
報酬
基本報酬(税込)
| 執行対象財産の額 | 報酬 |
|---|---|
| 1,000万円以下 | 490,000円 |
| 1,000万円超 5,000万円以下 | 490,000円 + 1,000万円を超える部分の 1.65% |
| 5,000万円超 1億円以下 | 1,150,000円 + 5,000万円を超える部分の 1.1% |
| 1億円超 3億円以下 | 1,700,000円 + 1億円を超える部分の 0.55% |
| 3億円超 | 別途お見積り |
| 執行対象財産 | 基本報酬 | 割合 |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 490,000円 | 4.9% |
| 2,000万円 | 655,000円 | 3.3% |
| 3,000万円 | 820,000円 | 2.7% |
| 5,000万円 | 1,150,000円 | 2.3% |
| 1億円 | 1,700,000円 | 1.7% |
加算
| 条件 | 加算額(税込) |
|---|---|
| 相続人・受遺者が4名以上(1名増えるごとに) | 55,000円 |
| 不動産が2件目以降(1件ごとに) | 55,000円 |
| 金融機関が4行目以降(1行ごとに) | 33,000円 |
| 相続人以外への遺贈が含まれる場合 | 110,000円 |
| 相続人に海外居住者がいる場合(1名ごとに) | 165,000円 |
| 相続人に行方不明者がいる場合 | 220,000円〜 |
| 貸金庫の開扉が必要な場合 | 55,000円 |
| 農地・山林が含まれる場合 | 55,000円〜 |
| 事業用資産・非上場株式が含まれる場合 | 別途お見積り |
| 著作権等の無体財産が含まれる場合 | 110,000円〜 |
| 相続開始から3年以上経過している場合 | 別途お見積り |
費用の目安
執行対象財産3,000万円、相続人4名、不動産2件、金融機関5口座の場合
基本報酬 820,000円
相続人4名目 55,000円
不動産2件目 55,000円
金融機関4行目・5行目 66,000円
──────────────────────────────────────
合計 996,000円(税込)
執行対象財産に対して約3.3%です。
執行対象財産とは
遺言書に記載され、当職が執行の対象とする財産をいいます。
- 債務は控除しません
- 遺言書に記載のない財産は含みません
- 受取人の指定された生命保険金は含みません
- 不動産は固定資産税評価額により算定します
- 相続開始時の価額により算定します
お支払いについて
報酬は執行の完了時に、相続財産からお支払いいただきます。相続人の皆さまが立て替えてお支払いいただく必要はありません。
戸籍等の取得費用、郵送料、交通費などの実費は別途必要です。不動産登記に係る登録免許税と司法書士報酬、相続税の申告に係る税理士報酬も別途となります。
途中で終了した場合の精算
就任を承諾した後に辞任または解任となった場合、その時点までに履行した事務の割合に応じて報酬を算定します。
| 段階 | 割合 |
|---|---|
| 就任の承諾、相続人への通知、相続人の調査 | 20% |
| 相続財産の調査、財産目録の作成・交付 | 40% |
| 預貯金・有価証券等の名義変更・解約・払戻し | 80% |
| 全ての執行の完了および相続人への報告 | 100% |
執行の実例
当事務所がこれまでに遺言執行者として扱った案件です。いずれも公正証書遺言の作成からお手伝いし、その後の執行までを担当しました。
事例1|おひとり暮らしの方の、葬儀から納骨、住居の処分まで
相続人3名(いずれも疎遠)/金融機関6件(保険を含む)/居住マンション1件/遺言作成から5年
遺言書の作成時に、任意後見契約と死後事務委任契約も併せて締結していた案件です。
相続開始後、まず相続人の方々にご連絡しました。長く疎遠になっておられたため、最初のご連絡では強い警戒を受けました。面識のない者から突然「遺言執行者です」と連絡が来れば、当然のことと思います。遺言書の内容、当職の立場、これから行う手続きを、時間をかけてご説明しました。最終的にはご理解をいただき、以後は円滑に進みました。
死後事務委任契約に基づき、葬儀の喪主を務めました。ご親族だけでなく、ご友人、勤務先の関係者も多くお見えになり、連絡と調整に相当の時間を要しました。ご遺骨の納骨まで行いました。
住居の整理も担当しました。残されたマンションはなかなか買い手がつかず、複数の不動産会社に依頼を重ねて、ようやく売却に至りました。
金融機関は保険を含めて6件。それぞれ必要書類も手続きの流れも異なります。
この案件でお伝えしたいこと
遺言執行は、財産の分配だけではありません。おひとり暮らしの方の場合、葬儀・納骨・住居の整理・各種契約の解約まで含めて備えておかなければ、実際には誰も動けません。遺言書だけでは、葬儀を出すことはできないのです。
遺言書・任意後見契約・死後事務委任契約の3つを組み合わせて、はじめて備えが完成します。
事例2|取り分に不満のある相続人がいたが、遺言のとおりに完了した
相続人間に取り分の差/不動産の名義変更あり/金融資産の分配あり
相続人のお一人が、ご自身の取り分が少ないことに不満を持っておられた案件です。
しかし、不動産の名義変更も金融資産の分配も、公正証書遺言に書かれたとおりに進みました。
この案件でお伝えしたいこと
これが、公正証書遺言と遺言執行者を組み合わせておくことの意味です。
不満のある相続人がいても、遺言執行者がいれば、その方の協力がなくても手続きは進みます。相続人は、遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法1013条1項)。金融機関も、公正証書遺言と遺言執行者の資格を確認できれば、手続きに応じます。
もし遺言書がなければ、この案件は遺産分割協議から始まり、まとまらなかった可能性が高い。もし自筆証書遺言で、執行者の指定がなければ、金融機関ごとに相続人全員の署名押印を求められ、そこで止まっていたはずです。
「揉めそうだから遺言書を書いても無駄」ではありません。揉めそうだからこそ、公正証書遺言と遺言執行者が要ります。
事例3|財産調査で、把握されていなかった1,000万円が見つかった
相続人からのご連絡が遅く、短期間での執行/地元金融機関に未把握の預金/不動産の名義変更/多数の株式
相続開始のご連絡をいただくのが遅く、期限から逆算して、急いで進めざるを得なかった案件です。
財産調査を行ったところ、相続人の方々が把握しておられなかった約1,000万円の預金が、地元の金融機関で見つかりました。大変感謝をいただきました。
不動産の名義変更に加え、大量の株式がありました。証券会社との交渉には相当の手間を要しました。証券会社ごとに手続きが異なり、移管か売却かの判断も必要になります。
このとき、ファイナンシャル・プランナーとしての知識を活かし、保有期間や売却の方法についても助言しました。いつ売るか、どう分けるか、税負担はどうなるか。この点も感謝をいただきました。
この案件でお伝えしたいこと
財産調査は、遺言執行者の法律上の職務です(民法1011条)。そして実務では、ご家族が把握していない財産が出てくることが珍しくありません。古い通帳、解約したはずの口座、地元の信用金庫や農協。
この案件では、発見された財産が執行報酬を大きく上回りました。
また、株式や投資信託が含まれる場合、法律の手続きだけでは足りません。いつ、どのように換価するかで、相続人の手取りが変わります。行政書士とファイナンシャル・プランナーの両方の資格を持つ者が執行者を務める意味は、ここにあります。
事例4|就任後に辞任した事例
遺言者のご意向により遺言執行者に指定されていましたが、相続開始後、相続人の一部から強い反対がありました。
遺言執行者は、遺言で指定された以上、相続人の意思だけで解任できるものではありません(民法1019条)。しかし、争いを長引かせることがご家族のためになるとは考えられず、辞任いたしました。
この経験から、当事務所では次の運用をしています。
- 遺言書の作成時、ご希望があればご家族にも同席いただき、遺言執行者の役割と報酬の考え方をご説明します
- 就任時に、報酬の見積書と執行の工程表をお渡しします
- 執行の進捗は、月1回ご報告します
- 辞任・解任の場合の報酬精算方法を、あらかじめ契約書に定めています
遺言執行者の報酬を実際にご負担いただくのは、遺言者ご本人ではなく、残されたご家族です。そのことを、私たちは軽く見るべきではないと考えています。
遺言執行者の指定をお考えの方は、公正証書遺言をお勧めします
自筆証書遺言でも遺言執行者を指定できます。しかし、法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認を経なければ執行に着手できません。相続人全員への通知と期日の調整で、1〜2か月を要することがあります。
また、金融機関や法務局の窓口では、自筆証書遺言に対して慎重な対応がとられることがあります。
当事務所がこれまで執行者として扱った案件は、いずれも公正証書遺言によるものです。相続開始後、速やかに着手できました。
なお、遺言書の保管を申請する京都地方法務局の本局は上京区にあり、提携する司法書士事務所も同区内にあります。
遺言書への記載例
遺言執行者を指定する条項の例です。
第○条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として次の者を指定する。
京都府長岡京市長法寺川原谷13番地の6
行政書士 中川 恒信
昭和○年○月○日生
2 遺言執行者の報酬は、令和○年○月○日付
「遺言執行業務委任契約書」に定めるところによる。
3 遺言執行者は、この遺言の執行に必要な一切の権限を有し、
不動産の登記手続、預貯金・有価証券の名義変更・解約・
払戻し、貸金庫の開扉・解約その他必要な行為をすることが
できる。
4 遺言執行者は、その任務を第三者に行わせることができる。
第2項で、報酬を別紙の委任契約書に委ねるのがポイントです。遺言書に金額を直接書き込むと、料金の改定があるたびに遺言書を書き直すことになります。
遺言書に報酬の定めがない場合、家庭裁判所が定めることになります(民法1018条)。手間も時間もかかりますので、作成の段階で決めておいてください。
就任のご予約に、費用はいただきません
| 段階 | 費用 |
|---|---|
| 遺言書への指定(就任予約) | 無料 |
| 遺言書の写しのお預かり | 無料 |
| 年1回の定期連絡 | 無料 |
| 執行時 | 上記の報酬表による |
遺言書の作成から相続開始まで、10年、20年と空くことがあります。その間の保管料や管理料はいただきません。
年に一度、ご状況を伺うご連絡を差し上げています。ご家族の状況や財産の内容が変われば、遺言書の内容も見直す必要があります。書き直しをご希望の場合は、前回報酬の50%で対応します。
お受けできない場合
次の場合は、就任をお引き受けできない、または辞退することがあります。
- 相続開始時に、相続人の間で紛争が生じている場合
- 遺言の内容の有効性が争われている場合
- 遺言執行に、法律事務の代理を要する事情が生じた場合
いずれも、代理交渉は弁護士の業務であるためです。その場合は、速やかに相続人の皆さまにご連絡し、提携する大河内法律事務所(京都市中京区)をご紹介します。就任予約に費用をいただいていないため、返金は生じません。
よくあるご質問
遺言執行者は必ず指定しなければいけませんか。
義務ではありません。ただし、相続人以外の方への遺贈がある場合、相続人の間に取り分の差がある場合、金融機関の数が多い場合は、指定しておくことを強くお勧めします。
家族を指定するのと、専門家を指定するのと、どちらがよいですか。
相続人が少なく全員が納得しており、財産も単純であれば、ご家族で足ります。費用もかかりません。上記の「第三者を指定したほうがよい場合」に当てはまる項目があれば、ご相談ください。
報酬は誰が払うのですか。
相続財産から支払われます。相続人の皆さまが手元のお金を出す必要はありません。
遺言書に執行者の報酬を書いていない場合は。
家庭裁判所が定めることになります(民法1018条)。時間も手間もかかりますので、遺言書の作成時に決めておくことをお勧めします。
執行にはどれくらいかかりますか。
財産の内容と相続人の状況によりますが、3か月から1年程度が目安です。不動産の売却を伴う場合、買い手がつくまでの期間が加わります。
遺言執行者を後から変更できますか。
遺言書を書き直すことで変更できます。相続開始前であれば、いつでも可能です。
相続人が執行に協力してくれない場合は。
遺言執行者がいる場合、相続人は遺言の執行を妨げる行為をすることができず、これに違反した行為は無効です(民法1013条)。実務上も、遺言執行者ひとりの署名で手続きを進められます。
遠方に住んでいますが、依頼できますか。
可能です。財産や相続人が全国に散在していても対応します。オンラインでのご相談にも対応しています。
まずは無料相談から
遺言執行者の指定は、遺言書の作成と併せてご相談ください。ご依頼をお決めいただくまで、何度でも無料でご相談を承ります。
☎ 075-955-0307 受付 9:00〜18:00(土日もお受けします)
ご自宅・病院・施設への訪問相談も承っています。
無料相談会も開催しています 長岡京バンビオ(JR長岡京駅前)/向日市永守重信市民会館
関連ページ
- 遺言書の作成|自筆証書・公正証書の費用と手順
- 任意後見・死後事務委任契約
- 長岡京市の相続相談
- 向日市の相続相談
- 提携する専門家
- 費用・報酬のご案内

中川総合法務オフィス
〒617-0812 京都府長岡京市長法寺川原谷13番地6
075-955-0307
お電話受付時間:平日8時半~18時半
お急ぎの方はお電話にてお問い合わせください。
