はじめに:後を絶たない企業不祥事とガバナンス改革の継続的必要性
企業は社会的存在として、不正を未然に防ぐための強固な仕組みを構築し、維持し続けるべき責務を負っています。かつて日本が生んだ世界的な大企業、グローバル企業と称賛された東芝や神戸製鋼所といった、誰もがその名を知る企業群においてすら、基本的な商取引の約束が反故にされるという、憂慮すべき事態が散見されました。これらの出来事は、企業がその社会的使命を全うするために、不断の努力をもってコンプライアンス及びガバナンス体制を強化し続けなければならないことを示唆しています。
近年の調査(デロイト トーマツ グループ「企業の不正リスク調査白書 Japan Fraud Survey 2024-2026」やKPMG「日本企業の不正に関する実態調査2024」など)によれば、残念ながら企業における不正発生率の低下は見られず、むしろ巧妙化・複雑化する傾向も指摘されています。これは、企業不祥事防止のための新しい枠組み構築と、その実効性を高める取り組みが、依然として喫緊の課題であることを物語っています。
企業不祥事の深層:なぜ不正は繰り返されるのか?
繰り返される不祥事の背景には、単なる個人の資質の問題だけでなく、組織構造や企業文化に根差した要因が潜んでいることが少なくありません。例えば、前述のKPMGの調査では、不正発生の根本原因として「属人的な業務運営(業務のブラックボックス化)」が多くの企業で挙げられています。特定の担当者しか業務内容を把握していない状況は、不正の温床となり得るのです。
また、情報処理推進機構(IPA)が発表する「情報セキュリティ10大脅威」においても、「内部不正による情報漏えい」は長年にわたり上位にランクインしており、組織内部からのリスク管理の重要性が浮き彫りになっています。これらは、企業が持続的成長を遂げる上で、透明性の高い業務プロセスの確立と、実効性のある内部統制システムの構築がいかに重要であるかを示しています。
ガバナンス体制の進化:ハードローとソフトローによる重層的な取り組み
企業不祥事を防止し、健全な企業経営を実現するためには、法律などの「ハードロー」による規制だけでなく、企業や投資家が自主的に遵守すべき規範である「ソフトロー」の活用が不可欠です。その代表例が、「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」です。
コーポレートガバナンス・コードの浸透と改訂の歩み
金融庁と東京証券取引所が主導して策定したコーポレートガバナンス・コードは、「コンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する)」の原則に基づき、企業価値の持続的な向上を目指すものです。2021年6月には大幅な改訂が行われ、特に以下の点が重視されました。
- 取締役会の機能発揮の強化: プライム市場上場企業においては独立社外取締役を3分の1以上選任(必要に応じて過半数の選任検討を慫慂)することや、スキルマトリックス(各取締役の有するスキル等の一覧表)の開示など。
- 中核人材の多様性確保: 女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等に関する考え方や自主目標の設定、その状況の開示。
- サステナビリティ課題への積極的対応: 気候変動などの地球環境問題への配慮や人権尊重、従業員の健康・労働環境への配慮、公正・適切な処遇といったサステナビリティ課題への主体的な取り組みと、その情報開示の充実。
これらの改訂は、企業が表面的な対応に留まらず、実質的なガバナンス改革を進めることを促しています。
スチュワードシップ・コードと投資家との建設的対話
一方、スチュワードシップ・コードは、機関投資家が投資先企業との「建設的な対話」を通じて、企業の持続的成長と顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図るための行動原則です。2020年3月に再改訂され、さらに直近では2025年3月に金融庁から改訂案が公表されるなど(「スチュワードシップ・コードの改訂案について」金融庁、2025年3月21日公表)、継続的な見直しが進められています。最新の改訂案では、実質株主の透明性向上や、機関投資家間の協働エンゲージメントの促進などが議論されており、企業と投資家のより質の高い対話を通じて企業価値向上を目指す動きが加速しています。
実効性ある不祥事防止態勢の構築に向けて:内部統制の再点検と強化
「企業不祥事防止の新しい枠組みをすべき時期に来ているのはほぼ間違いないであろう」との認識は、今日ますますその重要性を増しています。具体的な防止策として、内部統制システムの強化、とりわけ公益通報者保護制度の実効性確保が挙げられます。
改正公益通報者保護法(2022年6月施行)は、通報対象事実の拡大や、通報者情報の守秘義務を負う「公益通報対応業務従事者」の指定、内部通報体制整備義務の強化などを盛り込んでいます。消費者庁の指針(「公益通報者保護法に基づく指針等」)などを参考に、通報窓口の独立性・実効性を確保し、通報者が不利益な取り扱いを受けない体制を整備することは、企業の自浄作用を高める上で不可欠です。これには、子会社や取引先の従業員からの通報も積極的に受け入れる姿勢が求められます。
また、グローバルに事業展開する企業にとっては、海外子会社やサプライチェーンにおけるコンプライアンスリスクの把握と対応も急務です。前述のデロイト トーマツの調査でも、海外やサードパーティを含むリスクへの対応が不十分である点が指摘されており、グループ全体でのガバナンス体制構築が求められます。
なお、地方公共団体における内部統制に関しては、平成29年(2017年)の地方自治法改正により、都道府県及び政令指定都市において内部統制に関する基本方針の策定及び体制整備が義務付けられましたが、これは企業においても、組織の規模や特性に応じた内部統制の重要性を示唆するものと言えるでしょう。
リーダーシップと企業文化の変革:規範意識の醸成
いかなる精緻な制度や規則も、それを運用する「人」の意識、そして組織全体の「企業文化」が伴わなければ形骸化してしまいます。日本社会のいわゆるリーダーたちに新しい考えを吹き込み、組織の隅々にまでコンプライアンス意識を浸透させる必要性がかつてなく高まっています。
経営トップが率先してコンプライアンス遵守の重要性を発信し続け、不正を許さないという断固たる姿勢を示すことが、健全な企業文化醸成の第一歩です。従業員一人ひとりが、日々の業務において倫理的な判断ができるよう、継続的な教育・研修の機会を提供することも不可欠です。
結論:未来志向のダイナミックなコンプライアンス・ガバナンス体制の追求
企業不祥事を完全に根絶することは容易ではありませんが、そのリスクを最小限に抑え、万が一発生した場合でも迅速かつ適切に対処できる体制を構築することは可能です。そのためには、法令遵守はもとより、社会の変化や新たなリスクに対応できるよう、コンプライアンスおよびガバナンス体制を常に見直し、進化させていく「未来志向」の姿勢が求められます。
それは、過去の事例から学び、最新の知見を取り入れ、自社特有のリスクを的確に評価し、実効性のある対策を講じ続けるという、ダイナミックなプロセスに他なりません。
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