第21条〜第23条 条文

(特定受託事業者からの相談対応に係る体制の整備) 第二十一条 
国は、特定受託事業者に係る取引の適正化及び特定受託業務従事者の就業環境の整備に資するよう、特定受託事業者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。

(指導及び助言) 第二十二条 
公正取引委員会及び中小企業庁長官並びに厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、業務委託事業者に対し、指導及び助言をすることができる。

(厚生労働大臣の権限の委任) 第二十三条 
この法律に定める厚生労働大臣の権限は、厚生労働省令で定めるところにより、その一部を都道府県労働局長に委任することができる。


1 第21条〜第23条の位置づけ

これら三条は、第4章「雑則」に属する規定である。第4章は本法の実体規定(第2章・第3章)と罰則規定(第5章)の間に位置し、行政の執行体制・支援体制を補完的に整備する規定群を収める。

第21条は「国の相談体制整備義務」を定め、フリーランスを保護する国家責任の表れである。第22条は行政機関に「指導・助言権限」を付与し、勧告・命令の前段階での是正促進を可能とする。第23条は「権限委任」を定め、厚生労働大臣の権限の一部が都道府県労働局長に委任されることで、全国各地でのきめ細かな執行を可能とする。

本法の執行体制は条文の個別規定の積み上げによって理解しきれるものではなく、第21条〜第23条が「制度の骨格」を完成させる最終部品として機能している点に本章の意義がある。


2 第21条 国の相談体制整備義務

(1)「国」という名宛人

第21条の名宛人は「国」であり、個別の行政機関ではない。これは政府全体としての取組義務を宣言するものであり、内閣官房・公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が一体となってフリーランス支援体制を整備することを求める政策的宣言規定である。

なお、同趣旨の義務は第14条において「特定業務委託事業者」が講ずべき相談体制整備義務として民間に課されており、第21条はその国家版に相当する。民間発注者に体制整備を求めながら、国自身も体制整備を怠らないという均衡を保つ設計となっている。

(2)「必要な体制の整備その他の必要な措置」の具体的内容

第21条が求める「必要な体制の整備」として、実際に整備されている主な支援体制は以下の通りである。

フリーランス・トラブル110番
https://freelance110.mhlw.go.jp/、電話0120-532-110)は令和2年(2020年)11月から設置されている。フリーランス・個人事業主が契約上・仕事上のトラブルについて弁護士に無料で相談できる相談窓口であり、公正取引委員会も内閣官房・厚生労働省・中小企業庁とともに第二東京弁護士会と連携してこれを運営している。

フリーランス・トラブル110番の相談実績は令和8年1月時点のデータが公表されており、毎月の件数推移が厚生労働省サイトで確認できる。 取引適正化(報酬未払い・一方的な条件変更等)に関する相談が多く、ハラスメントなど就業環境に関する相談も寄せられている。

公正取引委員会の相談窓口
https://www.jftc.go.jp/soudan/soudan/freelance.html)は、取引の適正化(第2章)に関するフリーランス法の考え方についての相談を受け付ける。

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)は、就業環境の整備(第3章)に関する相談・申出を受け付ける第一線機関である。

中小企業庁の相談体制
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/law_freelance.html)は、取引の適正化に関する申出・相談を受け付ける。

これらの窓口はフリーランス法施行と同時に整備・拡充され、オンラインでの申出受付については公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省で共通の申出受付フォームを設置し、三機関が連携して対応する体制としている。

(3)発注事業者にとっての含意

第21条は義務の名宛人が「国」であり、発注事業者に直接の義務を課すものではない。しかし、この条文が整備することを求める相談体制は、フリーランスにとっての行政申告の「玄関口」であることを発注事業者は認識しておく必要がある。

建設業の一人親方・ITフリーランスがフリーランス・トラブル110番に相談し、そのアドバイスに従って公正取引委員会や都道府県労働局に申出を行うという流れが現実化している。第21条が整備した相談体制は、第6条・第17条の申告制度の実効性を直接下支えするものである。


3 第22条 指導及び助言―勧告の「前段階」としての是正促進

(1)指導・助言の性格

第22条は、公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣が「この法律の施行に関し必要があると認めるとき」に業務委託事業者に対して「指導及び助言」をすることができると定める。

指導・助言は法的強制力を持たない行政指導であり、これに従わなくても直接の罰則はない。しかし第8条(勧告)・第18条(勧告)への前置的な過程として機能し、行政機関が是正の機会を与える重要な段階である。前回解説した執行状況においても、令和6年度において都道府県労働局は助言419件・指導21件を行っており、勧告0件・命令0件という執行実績は、現段階では主として指導・助言による自発的是正を促す段階にあることを示している。

(2)指導と助言の違い

条文は「指導及び助言」と並記しているが、実務上は両者を区別して使い分けている。助言は「こうすることが望ましい」という提言的な性格を持ち、指導は「こうしなければならない」という是正要請の性格を持つ。行政の執行プロセスでは、まず助言を行い、それが奏功しない場合に指導、さらに是正されない場合に勧告というステップを踏む運用となっている。

(3)三機関への権限付与と連携

第22条が公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣の三者を横断的に列挙している点が重要である。違反行為の内容が第2章・第3章にまたがる場合(例:取引条件の未明示があり、かつハラスメント体制も未整備の場合)でも、三機関が連携して包括的に指導・助言を行うことができる。

本法の違反への対応は、申出等→報告徴収・立入検査→指導・助言→勧告→命令・公表→罰金・過料という段階的プロセスとして整理されており、指導・助言はその中間に位置する重要なステップである。 中小企業庁

(4)第22条違反の不存在と自発的是正の重要性

第22条の指導・助言に従わなくても直接の罰則はないが、「指導・助言に従わなかった」という事実は、その後の勧告・命令・公表の判断において考慮要素となりうる。また、指導・助言を受けた事実が社内・社外に知れることは、それ自体がレピュテーションリスクを生じさせる場合がある。指導を受けた段階での迅速な自発的是正が、コンプライアンス対応の要諦である。


4 第23条 厚生労働大臣の権限の委任

(1)権限委任の仕組み

第23条は、厚生労働大臣の権限の一部を「厚生労働省令で定めるところにより」都道府県労働局長に委任できると定める。

厚生労働大臣は全国を統括する立場にある一方、実際にフリーランスや発注事業者に接するのは各都道府県の現場である。権限委任により、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が地域の実態に即した相談対応・調査・指導・勧告等を行うことが可能となる。

(2)委任される権限の範囲

厚生労働省令(厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則)により、第17条(申出等の受理・調査・措置)・第18条(勧告)・第19条(命令・公表)・第20条(報告及び検査)・第22条(指導及び助言)の権限の大部分が都道府県労働局長に委任されている。

これにより、フリーランスからの申出の受理・調査・指導・助言・勧告といった執行活動は、各都道府県労働局が一次的に担う体制となっている。

(3)第23条の実務的意義

発注事業者にとって第23条の最大の実務的意義は、「対応窓口は厚生労働省本省ではなく都道府県労働局である」という点の確認である。

就業環境の整備に関する部分(第12条・第13条・第14条・第16条・第17条第3項)については、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が相談窓口・申出受付・調査・指導の実施機関となっている。

コンプライアンス研修において、発注担当者に「もし違反を指摘されたらどこが来るのか」を具体的に伝えることで、規制の現実感を醸成できる。その答えは「地元の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)」である。


5 国のフリーランス支援体制の全体像

第21条〜第23条を踏まえて、国が整備したフリーランス支援体制の全体像を整理する。

フリーランスが問題を抱えた場合の相談・申出の流れとしては、まず「フリーランス・トラブル110番」(0120-532-110)に弁護士相談を行うことが第一の選択肢となる。ここで法律的なアドバイスを得た上で、取引適正化(第2章)に関する問題であれば公正取引委員会・中小企業庁に、就業環境整備(第3章)に関する問題であれば都道府県労働局に申し出ることができる。オンライン申出フォームは三機関共通となっており、申出した内容は関係機関に共有される。

発注事業者が問題に直面した場合の自主対応窓口としては、公正取引委員会の相談窓口(取引適正化関係・https://www.jftc.go.jp/soudan/soudan/freelance.html)や、公正取引委員会の自発的申出制度(違反発覚時・https://www.jftc.go.jp/soudan/jihatsu/freelance.html)がある。また、指導・助言段階での対応として、都道府県労働局への自発的な相談・協議という選択肢も実務上有効である。

国が整備した研修・普及啓発ツールとして、公正取引委員会の解説動画(YouTubeチャンネル)・パンフレット・リーフレット、厚生労働省の研修動画(ハラスメント対策関係)などが無料で利用可能であり、社内研修の教材として積極的に活用できる。


6 建設業・IT業界への実務的インパクト

「どこに相談すればよいか」の整理

フリーランスとの取引でトラブルが生じた場合、あるいはコンプライアンス上の疑問が生じた場合、まず「問題の性質」によって相談先を分ける必要がある。

取引条件の未明示・報酬の支払遅延・受領拒否・報酬減額・買いたたき等(第2章関係)については公正取引委員会または中小企業庁が窓口となる。募集情報の虚偽表示・ハラスメント・中途解除の未予告等(第3章関係)については都道府県労働局雇用環境・均等部(室)が窓口となる。

一人親方との継続的取引において報酬未払いとハラスメントが同時に問題となる場合は、双方の窓口に同時に申し出ることができる。

指導・助言への備え

第22条に基づく指導・助言は、フリーランスからの申出を契機として行われる場合と、行政機関の能動的な調査から行われる場合の双方がある。いずれの場合も、発注事業者は指導・助言に対して真摯に対応し、是正計画を提示することが重要である。

「指導を受けたが何もしなかった」という対応は、その後の勧告・公表のリスクを高めるだけでなく、フリーランスとの関係においても取引上の信頼を損なう。指導・助言を受けた際の社内対応手順(法務・コンプライアンス担当への報告・是正措置の立案・完了報告)をあらかじめ定めておくことが、危機管理の基本である。


7 本法の全体構造の俯瞰―第21条〜第23条が完成させるもの

第21条〜第23条を経て、本法全26条のうち第1条〜第23条(第5章罰則・附則除く)の実体的内容が出そろった。ここで本法の全体構造を俯瞰する。

第1条(目的)が宣言した「取引の適正化・就業環境の整備による国民経済の健全な発展」という目標に向け、第2章が取引適正化の義務・禁止行為・執行を定め(第3条〜第11条)、第3章が就業環境整備の義務・申出・執行を定め(第12条〜第20条)、第4章が国の支援体制・行政指導・権限委任によって全体を補完する(第21条〜第23条)。

この三層構造が、フリーランスという「個人」を「組織」たる発注事業者の交渉力格差から守るという第1条の立法趣旨を具体化した法制度の全容である。

次回は第24条(罰則)・第25条(両罰規定)・第26条(過料)および附則を解説する。本法の制裁体系の最終整理と、附則が定める「施行後3年以内の見直し規定」を取り上げ、フリーランス法逐条解説シリーズを完結させる予定である。


参考リンク

フリーランス・トラブル110番 
https://freelance110.mhlw.go.jp/ 電話:0120-532-110 厚生労働省 
フリーランスとして業務を行う方等へ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
公正取引委員会 フリーランス法の相談窓口 https://www.jftc.go.jp/soudan/soudan/freelance.html 公正取引委員会 自発的申出 https://www.jftc.go.jp/soudan/jihatsu/freelance.html
厚生労働省 申出受付フォーム https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/freelance_moushide.html


フリーランス法対応のコンプライアンス研修・コンサルティングのご相談は

「都道府県労働局から指導を受けた場合の対応手順を社内で決めておきたい」「フリーランス・トラブル110番から連絡が来た場合にどうすればよいか」「指導・助言の段階で自発的に是正策を策定し、行政との関係を良好に保ちたい」――第21条〜第23条が整備した国の支援体制と行政指導の仕組みを正確に理解し、万一の場面での対応手順を事前に準備しておくことが危機管理の核心である。

中川総合法務オフィスは、全国850回以上のコンプライアンス研修を実施してきた実績を持ち、建設業のコンプライアンス体制整備を長年にわたって支援してきた。上場企業グループ会社における不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験を有し、内部通報の外部窓口を現に担当している。都道府県労働局への対応・是正計画の策定支援・再発防止研修の設計など、行政指導対応の実践的サポートを提供する。企業不祥事の再発防止についてマスコミから意見を求められることも多く、社会的な信頼のある立場で実務支援を行っている。

ご相談・お問い合わせは、電話(075-955-0307)または下記相談フォームからお気軽にどうぞ。

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