はじめに

著作権法第2条は、同法全体で使用される基本用語の意義を定める規定である。第1項の第1号から第9号までは著作物・著作者・実演・レコード・公衆送信・放送・有線放送等を定義し、本稿で取り上げる第10号以下は、映画製作者、プログラム、データベース、二次的著作物、共同著作物、録音・録画、複製、上演・上映・口述、頒布という、利用許諾契約や生成AI利用ガバナンスの場面で頻繁に問題となる用語群である。企業の知的財産・コンプライアンス担当者にとっては、契約書のひな型作成や生成AIの社内利用ルール策定の際に必ず参照すべき条文である。

第10号 映画製作者

条文原文

十 映画製作者 映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。

趣旨・立法背景

映画の著作物は、監督・撮影・脚本・音楽など多数の関係者の創作活動が結合して成立するため、著作者が誰であるかという問題と、誰が著作権を取得し製作費を回収するかという問題が分離して規律されている。第16条が映画の著作者(全体的形成に創作的に寄与した者)を定め、第29条が映画製作者への著作権の原始的帰属を定める仕組みの前提として、本号は権利の帰属先となる「映画製作者」を定義する。

用語解説

「発意」とは映画製作を企画し、その実現に向けて行動を起こすことをいい、「責任」とは製作に伴う法律上の権利義務、特に対外的な経済的リスクを負うことをいう。製作費を出資し、完成した映画の利用について最終的な決定権と責任を有する者が映画製作者と解されており、単に資金の一部を提供したにすぎない者や、技術的な制作作業のみを担う者は含まれない。テレビ番組製作の場面では、放送局と製作会社のいずれが映画製作者に当たるかが契約実務上しばしば争点となる。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

平成6年改正以降、本号の文言自体に大きな変更はないが、実務上は製作委員会方式における映画製作者の確定が継続的な論点である。複数の出資会社が製作委員会を組成する場合、契約上いずれの会社(あるいは委員会自体)が発意と責任を有する者として著作権を取得するかを明確にしておく必要があり、契約条項の不備が後の権利処理トラブルの原因となりやすい。

第10号の2 プログラム

条文原文

十の二 プログラム 電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。

趣旨・立法背景

コンピュータプログラムを著作権法上の保護対象として明確化するため、昭和60年改正により新設された定義である。プログラムは特許法による保護も可能であるが、創作後直ちに発生し登録を要しない著作権による保護を併存させることで、ソフトウェア産業の投資回収を支援する趣旨が立法当時から示されている。

用語解説

「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるように」という要件は、プログラムが何らかの処理結果を生じさせる機能性を持つことを求めるものであり、「指令」とはコンピュータに対する具体的な命令を指す。「指令を組み合わせたものとして表現したもの」という表現により、保護対象はソースコード・オブジェクトコードという具体的な表現形式であって、プログラム言語そのもの、規約(プロトコル)、解法(アルゴリズム)は第10条第3項により明文で著作権の対象から除外されている。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

プログラムの著作物性が争われる事案では、表現の選択の幅が小さい部分(ありふれた表現、汎用的なアルゴリズムの実装)は創作性が否定される一方、プログラマーの個性が表れた具体的なコーディングの選択には著作物性が認められるという判断枠組みが裁判実務で定着している。近年は生成AIによるコード生成が普及しており、AIが生成したコードの著作物性(人の創作的関与の有無)や、学習データとの類似性が複製・翻案に該当するかが企業の社内ガバナンス上の新たな論点となっている。

第10号の3 データベース

条文原文

十の三 データベース 論文、数値、図形その他の情報の集合物であつて、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。

趣旨・立法背景

本号も昭和61年改正により新設された。情報化社会の進展に伴い増加した電子的な情報集積物を保護する必要から設けられたものであり、第12条の2(データベースの著作物)の保護対象を画定する役割を担う。編集著作物(第12条)が紙media上の素材の選択・配列を保護するのに対し、本号はコンピュータによる検索可能性を要件とする点で区別される。

用語解説

「体系的に構成した」とは、情報が一定の規則に従って整理され、検索処理に適した形に組み立てられていることをいう。データベースに該当しても、第12条の2第1項により著作物として保護されるためには、さらに「情報の選択又は体系的な構成」に創作性を有することが必要であり、データベースであることと著作物として保護されることは別の要件段階にある。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

データベースの著作物性に関する代表的な裁判例として、職業分類体系によって電話番号情報を整理したタウンページデータベースについて、検索の利便性を踏まえた独自の職業分類の階層構造に創作性を認めた東京地裁判決がある。同判決は、原告独自の工夫が施され、これに類するものが存在しない職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類した点に、体系的な構成による創作性を認めた。一方で、自動車整備用データベースのように網羅的な情報収集に留まり独自の体系的工夫が認められない事案では、データベースの著作物性自体は否定されつつ、不法行為構成による保護が認められた例もある。生成AIの学習データセットや社内顧客データベースの構築・第三者提供を検討する企業にとって、情報の選択・体系的構成に独自性があるかどうかは、契約上の利用許諾範囲を検討する際の重要な判断要素となる。

第11号 二次的著作物

条文原文

十一 二次的著作物 著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物をいう。

趣旨・立法背景

既存の著作物を基礎としつつ新たな創作的表現が加えられた成果物について、原著作物とは別個の著作物として保護することを明確にする規定である。第11条において二次的著作物の保護が原著作物の著作者の権利に影響を及ぼさないこと、第28条において原著作者が二次的著作物の利用について二次的著作物の著作者と同一種類の権利を有することが定められ、二重の権利関係が生じる構造になっている。

用語解説

二次的著作物が成立するためには、原著作物に依拠していること(依拠性)と、新たに思想又は感情が創作的に表現されていることの双方が必要である。単なるアイディアや事実そのものを利用したにすぎない場合、あるいは作風や画風といった表現それ自体でない要素を利用したにすぎない場合は、二次的著作物に該当しない。なお、原著作者の許諾を得ずに創作された場合であっても、二次的著作物としての著作者の権利自体は有効に成立すると解されている。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

二次的著作物の著作権が及ぶ範囲について、最高裁は連載漫画「ポパイ」のキャラクターを利用したネクタイ販売が問題となった事案で、二次的著作物の著作権は新たに付与された創作的部分のみに生じ、原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないとの判断を示した。この判断枠組みは、漫画・キャラクタービジネスにおける原著作者と二次的著作者の権利調整の基本ルールとして現在も実務に定着している。なお、令和8年4月24日の最高裁判決(いわゆるTRIPP TRAPP最高裁判決)は二次的著作物そのものを扱った事案ではないが、量産実用品の形状について機能に由来する構成とは別個に思想又は感情の創作的な表現として把握できる場合に限り著作物に当たるとの規範を示したものであり、製品デザインの応用美術としての翻案・改変が二次的著作物に当たるかを検討する際の前提となる著作物性判断の基準として参照価値が高い。生成AIに既存著作物の画風やスタイルを学習させて新たな作品を生成させる利用形態についても、表現それ自体の依拠・利用があるか、それともアイディア・作風の利用に留まるかという同じ判断枠組みが適用されることになる。

第12号 共同著作物

条文原文

十二 共同著作物 二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないものをいう。

趣旨・立法背景

複数人が関与して創作された著作物のうち、各人の寄与を分離利用できないものについては、権利行使に全員の合意を要求するなど特別の規律(第64条・第65条)を及ぼす必要がある。これに対し、寄与を分離して個別に利用できるもの(結合著作物、例えば歌詞と楽曲が独立して利用可能な楽曲のような場合)は共同著作物に含まれず、各部分について単独著作物として扱われる。

用語解説

「分離して個別的に利用することができない」という要件が中心的な判断基準であり、座談会記事や共同で執筆された論文のように、各執筆者の貢献を物理的・観念的に分離して独立に利用することが困難な場合に共同著作物性が肯定される。共同著作物の著作者人格権の行使及び著作権の行使には、原則として著作者全員又は著作権者全員の合意が必要となる(第64条第1項、第65条第2項)。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

企業における共同研究開発やコンソーシアム(Consortium共同事業体)形式のコンテンツ制作では、複数企業の従業員が共同して創作した報告書やマニュアルが共同著作物に当たるかが、退職後の利用や契約終了後の二次利用の場面でしばしば問題となる。生成AIを用いた共同制作についても、複数の担当者がプロンプト入力や生成物の選別・加工を重ねて一つの成果物を仕上げる場合、各人の寄与が分離利用可能かどうかという同号の判断枠組みがそのまま適用されるため、契約上の権利帰属条項をあらかじめ整理しておくことが望ましい。

第13号 録音

条文原文

十三 録音 音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。

趣旨・立法背景

レコード製作者の権利(著作隣接権)や実演家の権利の対象を画定する前提として、音を有形物に固定する行為を定義する規定である。

用語解説

「固定」とは、音を再生可能な状態で物理的媒体に記録することをいい、「増製」とは既に固定された録音物を更に複製することをいう。録音の対象となる媒体や記録方式(磁気テープ、光学ディスク、半導体メモリ等)は限定されておらず、技術の発展に応じて広く解釈される。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

ストリーミング配信やクラウド録音サービスの普及に伴い、サーバー上での一時的な音声データの蓄積が録音に該当するかが議論の対象となっているが、立法当初からの「固定」概念自体に大きな改正はなく、技術中立的な解釈が維持されている。

第14号 録画

条文原文

十四 録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。

趣旨・立法背景

録音と並び、映像を媒体に固定する行為を定義し、映画の著作物や著作隣接権の対象範囲を画定するための規定である。

用語解説

「影像を連続して」固定することが要件であり、単一の静止画を固定する行為は録画に含まれず、写真の著作物等として別途規律される。録音と同様、固定方式は限定されていない。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

防犯カメラやドライブレコーダーの映像、ライブ配信のアーカイブ保存など、業務上日常的に生じる録画行為について、第30条以下の私的複製・教育利用等の権利制限規定との関係が企業のコンプライアンス上の論点となる場面が多い。

第15号 複製

条文原文

十五 複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

趣旨・立法背景

複製権(第21条)の対象行為を確定する最も基本的な定義であり、著作権法上のあらゆる利用許諾契約の基礎となる。本文に加えて2つの例示(イ・ロ)が置かれているのは、上演等の録音・録画や建築物の完成という行為が「有形的再製」に当たるかどうか解釈上疑義が生じやすいため、立法者が確認的に規定したものである。

用語解説

「有形的に再製する」とは、著作物を何らかの媒体上に再現し、知覚可能な形で存在させることをいう。イは脚本の上演を録音・録画する行為を複製に含めることで、舞台演出の映像化等を権利者の許諾対象とする趣旨であり、ロは建築の著作物について、図面の段階での複製(建築設計図自体のコピー)だけでなく、図面に基づき実際に建築物を完成させる行為自体を複製とみなす点に特徴がある。建築物の増築・改築が複製又は同一性保持権侵害に当たるかは、個々の改変の規模・必要性に応じて判断される。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

複製概念は技術の発展に応じて一時的蓄積(キャッシュ、バッファリング)の取扱いなど解釈上の論点を抱えてきたが、平成21年改正以降の情報処理の過程における一時的記録に関する権利制限規定(第47条の4等)の整備により、実務上の取扱いはおおむね整理されている。生成AIの開発・利用の文脈では、AIモデルの学習段階における著作物のデータ化・蓄積行為が複製に該当することを前提に、第30条の4(情報解析のための利用)等の権利制限規定の適否が議論される構造になっており、企業が生成AIを利用したコンテンツ制作・社内システム開発を行う際には、学習データの利用許諾状況とともに、自社が作成した文書・図面等が無断で学習データに取り込まれていないかという観点からの確認も必要となる。

第16号 上演

条文原文

十六 上演 演奏(歌唱を含む。以下同じ。)以外の方法により著作物を演ずることをいう。

趣旨・立法背景

著作物を演じる行為のうち演奏以外のものを上演として定義し、上演権・演奏権(第22条)の対象範囲を画定する規定である。

用語解説

演劇、舞踊、朗読劇など、演奏(楽器による演奏や歌唱)以外の方法で著作物を演じる行為が上演に該当する。演奏との切り分けは条文上明確であり、両者を合わせて第22条の上演権・演奏権の対象とすることで、舞台芸術全般を網羅的に保護する仕組みになっている。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

企業研修やイベントで演劇的な寸劇を上演する場合、社内利用であっても「公に」上演する場合には著作権者の許諾が必要となるため、コンプライアンス研修の一環として上演権の対象範囲を理解しておくことには実務的意義がある。

第17号 上映

条文原文

十七 上映 著作物(公衆送信されるものを除く。)を映写幕その他の物に映写することをいい、これに伴つて映画の著作物において固定されている音を再生することを含むものとする。

趣旨・立法背景

映画や写真等の著作物を画面上に映し出す行為を定義し、上映権(第22条の2)の対象を確定する。平成11年改正により、それまで映画の著作物に限られていた上映権の対象が著作物全般に拡張された経緯がある。

用語解説

「映写幕その他の物に映写する」とは、スクリーンやディスプレイ等に著作物の影像を表示することをいう。括弧書きで「公衆送信されるものを除く」とされているのは、インターネット配信等により公衆送信される著作物の視聴は別途公衆送信権の規律対象となるため、上映の概念から除外する趣旨である。映画の音声再生を上映に含める旨の規定により、映画館での上映における音響再生も上映権の対象として一体的に処理される。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

社内会議室や研修会場でDVD・ストリーミング映像をプロジェクターで投影する行為は、視聴の範囲が「公衆」に該当するかどうかにより上映権の対象となるかが分かれるため、研修担当者向けのコンプライアンス資料では、上映の定義と「公に」の解釈(不特定又は多数の者を対象とするか)を併せて説明することが実務上有用である。

第18号 口述

条文原文

十八 口述 朗読その他の方法により著作物を口頭で伝達すること(実演に該当するものを除く。)をいう。

趣旨・立法背景

言語の著作物を口頭で伝達する行為について、口述権(第24条)の対象を画定する規定である。

用語解説

朗読や講演における著作物の読み上げなどが典型例であり、括弧書きにより実演(第2条第1項第3号)に該当する行為、すなわち演劇的に演じる態様での口頭伝達は口述から除外される。両者の切り分けは、伝達行為が演劇的・芸能的な性質を有するか、単純な朗読・伝達に留まるかによって判断される。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

企業研修や講演会において他人の著作物である文章を読み上げる行為は口述権の対象となるため、社内マニュアルや研修テキストの一部を口頭で引用・紹介する場面では、引用の要件(第32条)を満たすかどうかの確認とともに、口述権の存在自体を認識しておくことが望ましい。

第19号 頒布

条文原文

十九 頒布 有償であるか又は無償であるかを問わず、複製物を公衆に譲渡し、又は貸与することをいい、映画の著作物又は映画の著作物において複製されている著作物にあつては、これらの著作物を公衆に提示することを目的として当該映画の著作物の複製物を譲渡し、又は貸与することを含むものとする。

趣旨・立法背景

映画の著作物にのみ認められる頒布権(第26条)の対象行為を定義する規定である。劇場用映画の配給制度という業界慣行を前提に、製作費の効率的な回収を保護する目的で、映画の著作物については単純な譲渡・貸与だけでなく、公衆への提示を目的とする限定的な譲渡・貸与(特定少数者への譲渡を含む)まで頒布の範囲に取り込んでいる点に特徴がある。

用語解説

前段は一般的な頒布概念(公衆への譲渡・貸与)を定め、後段は映画の著作物及び映画に複製されている著作物について、公衆への提示を目的とする限定的な配布行為まで頒布に含める拡張規定である。後段の拡張部分は配給制度の存在を前提とした規律であるため、配給制度を伴わない流通形態にそのまま適用すべきかは解釈上の論点となってきた。

改正法の内容や変化・最新の裁判例

家庭用ゲームソフトの中古販売が頒布権侵害に当たるかが争われた事案で、最高裁は、ゲームソフトが映画の著作物に該当し頒布権が認められることを前提としつつ、家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は、いったん適法に譲渡された複製物については消尽し、その効力は公衆への提示を目的としない再譲渡には及ばないと判示した。これにより、劇場用映画について従来維持されてきた頒布権不消尽の解釈とは異なり、配給制度を伴わない流通形態の複製物については第一譲渡の時点で頒布権が消尽するという実務上重要な区分が確立した。映像コンテンツやゲームソフトを取り扱う事業者にとっては、自社製品の流通形態(配給制度を伴うか、消費者への単純販売か)によって頒布権の消尽の有無が異なり得る点に留意する必要がある。

おわりに

本稿で取り上げた第10号から第19号までの定義は、いずれも企業の著作物利用許諾契約、生成AI利用ガバナンス、コンテンツ制作実務において直接の判断基準となる規定である。文化庁の解説は条文の体系的な位置づけを理解する出発点として有用であるが、データベースの著作物性や頒布権の消尽、二次的著作物の権利の及ぶ範囲といった実務上の核心部分は、裁判例の積み重ねによって輪郭が形成されてきた領域である。条文と判例の双方を踏まえた運用が、企業の著作権リスク管理には不可欠である。

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