はじめに
第76条から第79条までは議会の解散請求を扱ったが、第80条から第82条は対象を個人に移し、議会の議員及び長の解職請求を定める。解散請求と解職請求は署名数の算定方法や準用規定の構造が共通しているため、両者を対比しながら読むと理解しやすい。本稿では第80条(議員の解職請求)、第81条(長の解職請求)、第82条(解職投票結果の通知等)を一括して取り上げる。
条文原文
第80条(議員の解職請求)
選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、所属の選挙区におけるその総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該選挙区に属する普通地方公共団体の議会の議員の解職の請求をすることができる。この場合において選挙区がないときは、選挙権を有する者の総数の三分の一(同上の算定方法)以上の者の連署をもつて、議員の解職の請求をすることができる。
第2項 前項の請求があつたときは、委員会は、直ちに請求の要旨を関係区域内に公表しなければならない。
第3項 第1項の請求があつたときは、委員会は、これを当該選挙区の選挙人の投票に付さなければならない。この場合において選挙区がないときは、すべての選挙人の投票に付さなければならない。
第4項 第74条第5項の規定は第1項の選挙権を有する者及びその総数の三分の一の数について、同条第6項の規定は第1項の代表者について、同条第7項から第9項まで及び第74条の2から第74条の4までの規定は第1項の規定による請求者の署名について準用する。この場合において、第74条第6項第3号中「都道府県の区域内の」とあり、及び「市の」とあるのは、「選挙区の区域の全部又は一部が含まれる」と読み替えるものとする。
第81条(長の解職請求)
選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(算定方法は第80条第1項と同じ)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
第2項 第74条第5項の規定は前項の選挙権を有する者及びその総数の三分の一の数について、同条第6項の規定は前項の代表者について、同条第7項から第9項まで及び第74条の2から第74条の4までの規定は前項の規定による請求者の署名について、第76条第2項及び第3項の規定は前項の請求について準用する。
第82条(解職投票結果の通知・公表・報告)
第80条第3項の規定による解職の投票の結果が判明したときは、普通地方公共団体の選挙管理委員会は、直ちにこれを同条第1項の代表者並びに当該普通地方公共団体の議会の関係議員及び議長に通知し、かつ、これを公表するとともに、都道府県にあつては都道府県知事に、市町村にあつては市町村長に報告しなければならない。その投票の結果が確定したときも、また、同様とする。
第2項 前条第2項の規定による解職の投票の結果が判明したときは、委員会は、直ちにこれを同条第1項の代表者並びに当該普通地方公共団体の長及び議会の議長に通知し、かつ、これを公表しなければならない。その投票の結果が確定したときも、また、同様とする。
趣旨・立法背景
解職請求は条例の制定改廃請求や議会解散請求と並ぶ直接請求制度の一種であり、間接民主制を補完する制度として地方自治法に位置付けられている。第13条第2項は、住民が議会の議員及び長の解職を請求する権利を有すると定め、第80条及び第81条はその具体的な手続を規定する。
解散請求の対象が議会という合議体であるのに対し、解職請求の対象は個人である。第80条は選挙区を単位とした算定を予定している点が議会解散請求(第76条)と異なる。選挙区がある自治体(都道府県議会、指定都市の議会等)では、解職対象の議員が属する選挙区内の有権者のみを基準として署名数を算定する。これは、ある選挙区の議員の解職という、その選挙区の住民の利害に直結する問題について、無関係な選挙区の住民まで母数に含める必要がないという考え方に基づく。
署名数の算定方法は、有権者総数に応じて段階的に緩和される仕組みになっている。総数が40万人以下であれば単純に3分の1以上の署名が必要となるが、40万人を超え80万人以下の部分は6分の1、80万人を超える部分は8分の1に軽減される。これは、大規模自治体ほど3分の1という割合を単純に適用すると署名収集が事実上不可能になることへの配慮であり、署名による直接請求という制度を大規模な自治体でも現実的に機能させるための立法措置である。
第82条は解職投票の結果について、選挙管理委員会から請求代表者、関係議員、議長、知事又は市町村長への通知・公表・報告を義務付ける。これは解職という重大な結果について、関係者に対する透明性を確保する趣旨である。
用語解説
解職請求(リコール) 有権者が公選職にある者の地位を、任期満了前に住民投票によって失わせることを求める制度。条例制定改廃請求や議会解散請求と異なり、特定の個人を対象とする点に特徴がある。
選挙区 第80条第1項にいう選挙区とは、公職選挙法に基づき設けられる議員選挙の単位区域を指す。市町村議会では原則として選挙区が設けられないため、第80条第1項後段の「選挙区がないとき」に該当する場合が多い。
連署 複数人が同一の請求書面に署名すること。解職請求の場合、署名者は請求対象の議員又は長について選挙権を有する者でなければならない。
請求代表者 解職請求の手続を主導し、選挙管理委員会に対して証明書交付申請及び本請求を行う者。第74条第6項以下の規定が準用されるため、解散請求の代表者と同様の資格制限及び手続を経る。
準用 第80条第4項及び第81条第2項は、条例制定改廃請求に関する第74条及び第74条の2から第74条の4までの規定を、解職請求の署名手続にそのまま適用する構造を採っている。署名の証明、署名簿の縦覧、署名数の告示、署名に関する争訟といった手続が共通する。
補論:解職請求代表者の資格制限と委任立法の限界
地方公務員法の逐条解説では、行政処分性や裁量統制といった行政法上の論点を随時取り上げてきたが、第80条及び第81条についても、委任立法の限界という行政法上の重要論点が判例によって示されている。
旧来、地方自治法施行令は、公職選挙法第89条第1項本文の規定(公務員は在職中、公職の候補者となることができないという規定)を、解職請求の請求代表者にも準用するものと定めていた。これにより、非常勤の公務員である農業委員会委員等を含む広範な公務員が、解職請求代表者となることを禁じられていた。
この施行令の規定が地方自治法第85条による委任の範囲を超えるものではないかという点が争われたのが、高知県東洋町の町議会議員解職請求事件である。最高裁大法廷は平成21年11月18日判決(民集63巻9号2033頁、判時2065号12頁、判タ1316号101頁)において、地方自治法上の解職手続が「請求」の段階と「投票」の段階の2段階に分かれることを前提に、公務員の立候補制限は投票段階に関する規定であって、これを請求代表者の資格制限という別の場面にまで及ぼした施行令の規定は、法律の委任の範囲を超えて無効であると判断した。
この判決は、昭和29年の最高裁判決以来の実務及び判例を55年ぶりに変更したものであり、委任立法(政令)が法律の委任の趣旨や範囲を逸脱してはならないという憲法第73条第6号及び法律による行政の原理の具体的な適用例として、行政法の教材でも繰り返し取り上げられている。反対意見は、公務員が中立義務に反して解職請求の主導者となることの是非を別途論じており、多数意見との対立軸も含めて理解しておくべき判例である。
補論:署名収集の適正化をめぐる行政上の課題
第80条及び第81条が定める署名数の算定とは別に、署名収集の過程における不正行為が近年の実務上の課題となっている。総務省は、長の解職請求に係る署名収集において大量の署名偽造や、権限のない者による署名収集が大規模に行われた事案を踏まえ、令和3年10月に「直接請求制度の運用上の課題に関する研究会」を立ち上げ、令和4年4月に報告書を取りまとめた。
この検討を受けて、地方自治法施行規則及び市町村の合併の特例に関する法律施行規則の一部を改正する省令(令和4年総務省令第82号)が公布され、署名簿の縦覧制度における個人情報保護に関する運用上の留意事項が整理された。署名の偽造、署名数の増減、違法な代筆等については、第74条の4の準用により罰則が科される構造になっている点も、自治体の選挙管理委員会及び総務担当部署として把握しておくべき実務上の留意点である。
地方公務員法との対比
地方公務員法には、解職請求に相当する制度は存在しない。地方公務員法が定めるのは、任命権者による分限処分(第28条)及び懲戒処分(第29条)であり、これらはいずれも内部統制としての処分である。対照的に、第80条及び第81条の解職請求は、住民が直接、公選職にある議員又は長の地位を失わせることを求める外部からの統制手段である。
特別職である長や議員は住民による選挙という正統性の根拠を持つため、その地位を失わせるにも住民自身による直接請求と住民投票という民主的な手続が要求される。これに対し、一般職の地方公務員は任命権者との任用関係に基づくため、その地位の喪失は組織内部の手続(分限・懲戒)によって行われる。この違いは、特別職コンプライアンスが外部アカウンタビリティ(解職請求、リコール、住民訴訟等)を中心とするのに対し、一般職コンプライアンスが内部統制(服務規律、懲戒手続)を中心とするという、両者の構造的な相違を反映している。
まとめに代えて
第83条は解職投票で過半数の同意があった場合に職を失う旨を定め、第84条は解職請求の制限期間(就職の日から1年間、解職投票の日から1年間)を定める。次稿ではこれらの規定を取り上げる。


