はじめに

情報流通プラットフォーム対処法(正式名称:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律。令和8年5月21日施行法に基づく)の第2条は、この法律で用いられる14の用語の意味を定める規定である。SNSへの投稿で誹謗中傷の被害を受けた個人、自社のレビューサイトや口コミで権利を侵害された法人にとって、この条文は今後の条文を理解するための土台となる。本稿では第2条の各号を順に解説する。

条文原文

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一 特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号及び第五条第三項において同じ。)の送信(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信を除く。)をいう。

二 特定電気通信設備 特定電気通信の用に供される電気通信設備(電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備をいう。第五条第二項において同じ。)をいう。

三 特定電気通信役務 特定電気通信設備を用いて提供する電気通信役務(電気通信事業法第二条第三号に規定する電気通信役務をいう。第五条第二項において同じ。)をいう。

四 特定電気通信役務提供者 特定電気通信役務を提供する者をいう。

五 発信者 特定電気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し、又は当該特定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。

六 侵害情報 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が当該権利を侵害したとする情報をいう。

七 侵害情報等 侵害情報、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由をいう。

八 侵害情報送信防止措置 侵害情報の送信を防止する措置をいう。

九 送信防止措置 侵害情報送信防止措置その他の特定電気通信による情報の送信を防止する措置(当該情報の送信を防止するとともに、当該情報の発信者に対する特定電気通信役務の提供を停止する措置(第二十六条第二項第二号において「役務提供停止措置」という。)を含む。)をいう。

十 発信者情報 氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。

十一 開示関係役務提供者 第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者及び同条第二項に規定する関連電気通信役務提供者をいう。

十二 発信者情報開示命令 第八条の規定による命令をいう。

十三 発信者情報開示命令事件 発信者情報開示命令の申立てに係る事件をいう。

十四 大規模特定電気通信役務提供者 第二十条第一項の規定により指定された特定電気通信役務提供者をいう。

趣旨・立法背景

第2条は、第1条の目的規定を受けて、以降の条文に登場する基本用語を一括して定義する総則規定である。平成13年法律第137号として制定された旧プロバイダ責任制限法の段階では、定義は一号から四号までの4項目(特定電気通信、特定電気通信設備、特定電気通信役務提供者、発信者)にとどまっていた。

その後、令和3年改正によって非訟手続としての発信者情報開示命令制度が創設されたことに伴い、発信者情報開示命令(十二号)、発信者情報開示命令事件(十三号)、開示関係役務提供者(十一号)の定義が追加された。さらに令和6年改正により法律名が情報流通プラットフォーム対処法に改められ、大規模特定電気通信役務提供者に対する削除対応の迅速化義務(現行法第二十条以下)が新設されたことに伴い、十四号の定義が新たに置かれた。侵害情報等(七号)、侵害情報送信防止措置(八号)、送信防止措置(九号)も同改正で整理された規定であり、削除対応の申出手続や運用状況の公表義務に関する条文(第二十一条以下)で用いられる。

このように第2条は単発で制定された条文ではなく、法律の改正経緯に応じて段階的に拡張されてきた条文である。SNS事業者の義務が拡大するたびに、その義務の名宛人や対象行為を画定するための用語が第2条に追加されてきたと理解すると見通しがよい。

用語解説

一号 特定電気通信

電気通信事業法第2条第1号にいう電気通信の送信のうち、不特定の者によって受信されることを目的とするものをいう。ウェブサイトへの投稿、SNSの公開投稿、電子掲示板への書き込みなどがこれにあたる。括弧書きにより、公衆によって直接受信されることを目的とする送信(テレビ放送や有線放送など)は除外される。電話やメールのように相手方が特定されている通信、SNSであっても非公開設定で受信者が限定されているグループチャットやダイレクトメッセージは、原則として不特定の者による受信を目的としないため、特定電気通信には該当しないと解されている。

二号 特定電気通信設備

特定電気通信の用に供される電気通信設備をいう。SNS事業者が運用するサーバーや、掲示板を構成するシステム一式がこれにあたる。

三号 特定電気通信役務

特定電気通信設備を用いて提供される電気通信役務をいう。SNSの投稿閲覧サービスや掲示板の閲覧・投稿サービスの提供行為そのものを指す。

四号 特定電気通信役務提供者

特定電気通信役務を提供する者をいう。実務上は単に「プロバイダ等」と呼ばれることが多く、SNS運営会社、掲示板の管理者、レンタルサーバー事業者、アクセスプロバイダがこれに含まれる。後続の条文では、サイト管理者にあたるコンテンツプロバイダと、回線接続を提供するアクセスプロバイダの双方が、場面に応じてこの用語に含まれる。

五号 発信者

特定電気通信役務提供者の設備の記録媒体に情報を記録した者、又は送信装置に情報を入力した者をいう。SNSに投稿した本人がこれにあたる。括弧書きにより、不特定の者に送信される情報を記録又は入力した場合に限られるため、非公開設定での投稿者は発信者の定義から外れる場合がある。

六号 侵害情報

特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が、当該権利を侵害したと主張する情報そのものをいう。名誉毀損的な投稿、プライバシーを暴露する投稿、著作権を侵害する画像投稿などが該当する。なお、権利侵害の有無は被害者の主張の段階では確定しておらず、後の条文に定める要件を満たして初めて違法性が認められる。

七号 侵害情報等

侵害情報そのものに加えて、侵害されたとする権利の種類(名誉権、プライバシー権、著作権など)及び権利が侵害されたとする理由をあわせた概念をいう。削除請求や開示請求の場面で、被害者が特定して申し出るべき事項の総体を示す用語として用いられる。

八号 侵害情報送信防止措置

侵害情報の送信を防止する措置をいう。投稿の削除のほか、投稿内容を閲覧不能にする措置などが含まれる。

九号 送信防止措置

侵害情報送信防止措置に加えて、特定電気通信による情報の送信を防止するその他の措置を包含する、より広い概念である。括弧書きにより、情報の送信防止とあわせて発信者へのサービス提供自体を停止する役務提供停止措置も含まれる。アカウントの停止や利用契約の解除といった対応まで視野に入れた定義である。

十号 発信者情報

氏名、住所その他、侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。具体的な項目はプロバイダ責任制限法施行規則第2条に限定列挙されており、氏名又は名称、住所、電子メールアドレス、IPアドレス、タイムスタンプ等が定められている。

十一号 開示関係役務提供者

第5条第1項に規定する特定電気通信役務提供者(コンテンツプロバイダ)及び同条第2項に規定する関連電気通信役務提供者(アクセスプロバイダ等)をあわせた概念をいう。発信者情報開示請求の名宛人となり得る事業者を包括的に指す用語である。

十二号 発信者情報開示命令

第8条の規定による裁判所の命令をいう。令和3年改正で創設された非訟手続における中核の処分であり、従来2段階の裁判手続を要していた発信者特定の手続を、原則として1つの手続にまとめるための制度の核となる用語である。

十三号 発信者情報開示命令事件

発信者情報開示命令の申立てに係る事件をいう。第8条以下に定める裁判手続全体の対象となる事件類型を指す。

十四号 大規模特定電気通信役務提供者

第20条第1項の規定により総務大臣から指定を受けた特定電気通信役務提供者をいう。令和6年改正で新設された概念であり、一定の利用者数を有するSNS事業者等が指定の対象となる。指定を受けた事業者には、削除対応の申出を受け付ける体制の整備や、運用状況の公表が義務付けられる。

旧法時における判例・裁判例

第2条が定める「特定電気通信」の該当性は、改正前のプロバイダ責任制限法の時代から繰り返し争点となってきた。

最高裁判所第三小法廷令和2年7月21日判決(民集74巻4号1407頁)は、ツイッター(現X)上のリツイート行為を通じた名誉毀損が問題となった事案であるが、その前提として、ツイッターへの投稿が不特定の者によって受信されることを目的とする送信にあたり、特定電気通信に該当することが当然の前提として扱われている。SNSの公開投稿が特定電気通信に該当するという解釈は、改正前の裁判実務において確立した取扱いであった。

これに対して、LINEのグループ機能やクローズドなコミュニティサービスについては、参加者が限定されている場合、不特定の者による受信を目的とするとはいえず、特定電気通信に該当しないとされた裁判例が複数存在する。東京地方裁判所の各決定例では、招待制で参加者が限られたグループチャットへの投稿について、発信者情報開示の前提となる特定電気通信該当性が否定されたものがある。これらの裁判例は、SNSであっても公開範囲の設定次第で本条の適用対象から外れる場合があることを示しており、被害回復を検討する際にまず確認すべき出発点となる。

また、改正前の旧第2条が定める「発信者」の該当性についても、投稿の作成者と、これを単に転載又は拡散した者との区別が問題となった裁判例が存在する。前掲最高裁令和2年7月21日判決は、リツイートを行った者についても名誉毀損の不法行為責任を肯定しており、発信者該当性の判断は投稿の作成行為に限定されないことを示した先例として位置付けられている。

おわりに

第2条の定義規定は、SNSの公開投稿が特定電気通信に該当するかどうかという入口の判断から始まり、開示請求の名宛人となる開示関係役務提供者の範囲、さらには大規模事業者に課される削除対応義務の対象範囲まで、後続条文の理解を支える基礎となっている。次回は第3条(損害賠償責任の制限)を取り上げる。


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