情報流通プラットフォーム対処法 第9条(日本の裁判所の管轄権)
条文原文
(日本の裁判所の管轄権) 第九条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて、次の各号のいずれかに該当するときは、管轄権を有する。
一 人を相手方とする場合において、次のイからハまでのいずれかに該当するとき。
イ 相手方の住所又は居所が日本国内にあるとき。
ロ 相手方の住所及び居所が日本国内にない場合又はその住所及び居所が知れない場合において、当該相手方が申立て前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)。
ハ 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とするとき。
二 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合において、次のイ又はロのいずれかに該当するとき。
イ 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき。
ロ 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にない場合において、次の(1)又は(2)のいずれかに該当するとき。 (1) 当該相手方の事務所又は営業所が日本国内にある場合において、申立てが当該事務所又は営業所における業務に関するものであるとき。 (2) 当該相手方の事務所若しくは営業所が日本国内にない場合又はその事務所若しくは営業所の所在地が知れない場合において、代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるとき。
三 前二号に掲げるもののほか、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社(会社法(平成十七年法律第八十六号)第二条第二号に規定する外国会社をいう。)を含む。)を相手方とする場合において、申立てが当該相手方の日本における業務に関するものであるとき。
2 前項の規定にかかわらず、当事者は、合意により、いずれの国の裁判所に発信者情報開示命令の申立てをすることができるかについて定めることができる。
3 前項の合意は、書面でしなければ、その効力を生じない。
4 第二項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。
5 外国の裁判所にのみ発信者情報開示命令の申立てをすることができる旨の第二項の合意は、その裁判所が法律上又は事実上裁判権を行うことができないときは、これを援用することができない。
6 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについて前各項の規定により日本の裁判所が管轄権を有することとなる場合(日本の裁判所にのみ申立てをすることができる旨の第二項の合意に基づき申立てがされた場合を除く。)においても、事案の性質、手続の追行による相手方の負担の程度、証拠の所在地その他の事情を考慮して、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を害し、又は適正かつ迅速な審理の実現を妨げることとなる特別の事情があると認めるときは、当該申立ての全部又は一部を却下することができる。
7 日本の裁判所の管轄権は、発信者情報開示命令の申立てがあった時を標準として定める。
趣旨・立法背景
現代において利用されるSNSや掲示板などの情報流通プラットフォームの多くは、海外に拠点を置く外国法人が運営している。被害者が権利侵害情報の送信元を特定するために発信者情報開示命令を申し立てる際、日本の裁判所が当該事件を審理する権限を持つかという国際裁判管轄の問題が必然的に生じる。
本条は、創設された非訟手続である発信者情報開示命令事件について、日本の裁判所が管轄権を有する場合を明確に規定したものである。
民事訴訟法における国際裁判管轄の規律を参考にしつつ、非訟手続の特性に合わせて要件を定めている。日本で事業を行う海外のプラットフォーム事業者に対しても、日本の裁判所で手続を進める法的根拠を確固たるものとしている。
用語解説
発信者情報開示命令の申立て:権利を侵害されたとする者が、通信サービスを提供する事業者に対して発信者の情報の開示を求める新たな非訟事件手続。
管轄権:国際的な民事事件等において、どの国の裁判所が事件を審理・裁判する権限を有するかを決定する基準(国際裁判管轄)。
電磁的記録:電子データのように、人の知覚によっては直接認識できない方式で作られ、コンピュータによる情報処理に用いられる記録。
旧法時の判例・裁判例
旧プロバイダ責任制限法の下で行われていた通常の民事訴訟手続においても、海外のSNS運営会社に対する管轄権がしばしば争点となっていた。
実務上は、日本国内に物理的な支社を持たない海外法人であっても、日本語向けのサービスを展開し、日本国内のユーザーを対象に事業活動を行っていると認められる事案において、民事訴訟法に基づき日本の裁判所の国際裁判管轄が肯定されてきた。
本条は、このような従前の裁判実務の蓄積を踏まえ、新たな非訟手続の枠組みにおいて明文化したものである。
情報流通プラットフォーム対処法 第10条(管轄)
条文原文
(管轄) 第十条 発信者情報開示命令の申立ては、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
一 人を相手方とする場合 相手方の住所の所在地(相手方の住所が日本国内にないとき又はその住所が知れないときはその居所の所在地とし、その居所が日本国内にないとき又はその居所が知れないときはその最後の住所の所在地とする。)
二 大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人を相手方とする場合において、この項(前号に係る部分に限る。)の規定により管轄が定まらないとき 最高裁判所規則で定める地
三 法人その他の社団又は財団を相手方とする場合 次のイ又はロに掲げる事務所又は営業所の所在地(当該事務所又は営業所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所の所在地とする。)
イ 相手方の主たる事務所又は営業所
ロ 申立てが相手方の事務所又は営業所(イに掲げるものを除く。)における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所
2 前条の規定により日本の裁判所が管轄権を有することとなる発信者情報開示命令の申立てについて、前項の規定又は他の法令の規定により管轄裁判所が定まらないときは、当該申立ては、最高裁判所規則で定める地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。
3 発信者情報開示命令の申立てについて、前二項の規定により次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有することとなる場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、当該申立てをすることができる。
一 東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所(東京地方裁判所を除く。) 東京地方裁判所
二 大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所(大阪地方裁判所を除く。) 大阪地方裁判所
4 前三項の規定にかかわらず、発信者情報開示命令の申立ては、当事者が合意で定める地方裁判所の管轄に属する。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。
5 前各項の規定にかかわらず、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利を侵害されたとする者による当該権利の侵害についての発信者情報開示命令の申立てについて、当該各項の規定により次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有することとなる場合には、当該申立ては、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
一 東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 東京地方裁判所
二 大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所 大阪地方裁判所
6 前項第二号に定める裁判所がした発信者情報開示命令事件(同項に規定する権利の侵害に係るものに限る。)についての決定に対する即時抗告は、東京高等裁判所の管轄に専属する。
7 前各項の規定にかかわらず、第十五条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定による命令により同号イに規定する他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者の申立てに係る第一号に掲げる事件は、当該提供を受けた者の申立てに係る第二号に掲げる事件が係属するときは、当該事件が係属する裁判所の管轄に専属する。
一 当該他の開示関係役務提供者を相手方とする当該提供に係る侵害情報についての発信者情報開示命令事件
二 当該提供に係る侵害情報についての他の発信者情報開示命令事件
趣旨・立法背景
第9条によって日本の裁判所が管轄権を有することが確定した後に、国内のどの地方裁判所が具体的な事件を担当するかという土地管轄を定めている。
申立人の負担を軽減し、手続の迅速化を図るため、原則となる相手方の所在地を管轄する裁判所に加えて、東日本エリアの事件は東京地方裁判所に、西日本エリアの事件は大阪地方裁判所に申し立てることができるとする競合管轄を創設した。
知的財産権の侵害に関わる事件については、高度で専門的な技術的知見が求められるため、通常の管轄規定にかかわらず東京地方裁判所または大阪地方裁判所の専属管轄として処理を集約する体制をとっている。
用語解説
土地管轄:国内に複数存在する同階級の裁判所のなかで、どの地域の裁判所が事件を取り扱うかの地理的分担。
競合管轄:複数の裁判所に管轄が認められており、申立人がその中から任意の裁判所を選択して申し立てることができる制度。
専属管轄:特定の裁判所のみに限定して認められる管轄であり、当事者の合意などによっても変更することが許されないもの。
即時抗告:裁判所の決定や命令に対して、迅速に不服を申し立てて上級審の判断を求める手続。
旧法時の判例・裁判例
旧法下の訴訟手続においては、民事訴訟法の規定に従い管轄裁判所が決定されていたため、管轄が各地の裁判所に分散する傾向があった。新たな非訟手続の制度設計に際しては、管轄を一部の大規模裁判所に集中させることで、プラットフォーム事業者に対する手続実務を安定させ、迅速な権利救済を実現することが目指されている。知的財産権に関する事件の専門的処理を東京・大阪の地方裁判所へ集約する仕組みは、民事訴訟における知的財産事件の管轄の考え方を踏襲したものである。
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