情報流通プラットフォーム対処法(旧プロバイダ責任制限法、正式名称は特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律)第4章は、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続を定める。前回までに第8条から第10条にかけて、開示命令そのものの内容と国際裁判管轄・国内裁判管轄を取り上げた。今回は、申立てが受理された後の手続の流れをたどる第11条から第14条までをまとめて扱う。相手方への申立書写しの送付、記録の閲覧、申立ての取下げ、そして決定に不服がある場合の異議の訴えという、一連の手続の骨格をなす部分である。

なお、この4か条は令和3年の法改正によって新設された条文であり、令和6年の大規模改正(大規模プラットフォーム事業者への義務付けを内容とするもの)による見直しの対象にはなっていない。条番号・内容とも従来のまま存置されている点をあらかじめ断っておく。

発信者情報開示命令事件に関する裁判手続(2)-申立書の写しの送付から異議の訴えまで(第11条・第12条・第13条・第14条)

第11条(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等)

条文原文

(発信者情報開示命令の申立書の写しの送付等) 第十一条 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てがあった場合には、当該申立てが不適法であるとき又は当該申立てに理由がないことが明らかなときを除き、当該発信者情報開示命令の申立書の写しを相手方に送付しなければならない。 2 非訟事件手続法(平成二十三年法律第五十一号)第四十三条第四項から第六項までの規定は、発信者情報開示命令の申立書の写しを送付することができない場合(当該申立書の写しの送付に必要な費用を予納しない場合を含む。)について準用する。 3 裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。ただし、不適法又は理由がないことが明らかであるとして当該申立てを却下する決定をするときは、この限りでない。

趣旨・立法背景

発信者情報開示命令は非訟事件手続法上の非訟事件に位置づけられるが、開示の可否は申立人(被害を主張する者)と相手方(SNS事業者やアクセスプロバイダなどの開示関係役務提供者)の利害が真っ向から対立する場面である。そのため、通常の非訟事件以上に当事者双方の手続保障を厚くする必要があり、申立書の写しを相手方に送付したうえで、決定前には両当事者の陳述を聴くことが義務付けられた。

この規定が置かれた背景には、令和3年改正で発信者情報開示命令事件に関する裁判手続が新設され、それに伴い法の趣旨規定そのものに同手続への言及が加えられたという経緯がある。令和3年の法改正により、新たに発信者情報開示命令事件に関する裁判手続が定められたことから、その旨が趣旨に追加された。不適法・理由不明白の場合を除外しているのは、明らかに認められない申立てにまで相手方対応の負担を強いる必要がないという実務上の配慮による。

用語解説

  • 非訟事件手続法:訴訟によらず、決定という簡易な形式で紛争を処理する手続を定める法律。発信者情報開示命令事件は同法上の非訟事件として扱われる。
  • 予納:手続費用(送付に必要な郵便料金など)をあらかじめ裁判所に納めること。予納がなければ送達手続そのものが進まない。
  • 陳述を聴く:口頭弁論のような対審構造ではないが、決定前に当事者の言い分を確認する機会を設けること。

旧法時の判例・裁判例

本条が定める申立書写し送付の仕組みは令和4年10月1日施行の新制度によって初めて設けられたものであり、旧来のプロバイダ責任制限法(訴訟または仮処分のみによって開示を求めていた時代)にはこれに対応する規定がない。したがって本条自体を直接対象とした裁判例は乏しいが、実務では、相手方であるプロバイダに対して意見照会(第6条第1項)が別途行われる関係で、申立書写しの送付と発信者への意見照会の時期的な前後関係が争点として指摘されることがある。この点は今後の運用の蓄積を待つ必要がある。

第12条(発信者情報開示命令事件の記録の閲覧等)

条文原文

(発信者情報開示命令事件の記録の閲覧等) 第十二条 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、発信者情報開示命令事件の記録の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又は発信者情報開示命令事件に関する事項の証明書の交付を請求することができる。 2 前項の規定は、発信者情報開示命令事件の記録中の録音テープ又はビデオテープ(これらに準ずる方法により一定の事項を記録した物を含む。)については、適用しない。この場合において、当事者又は利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、これらの物の複製を請求することができる。 3 前二項の規定による発信者情報開示命令事件の記録の閲覧、謄写及び複製の請求は、当該記録の保存又は裁判所の執務に支障があるときは、することができない。

趣旨・立法背景

発信者情報開示命令事件の記録には、被害を主張する側が提出した投稿内容やスクリーンショットのほか、開示の可否をめぐるプロバイダ側の主張が含まれる。当事者本人が手続の進行状況を確認できるようにするとともに、利害関係を有する第三者(たとえば同一投稿によって別途権利を侵害されたと主張する者)にも一定の範囲で記録へのアクセスを認めることで、手続の透明性を確保する趣旨である。録音・ビデオテープなど記録媒体については、閲覧・謄写ではなく複製という異なる開示方法を定め、内容の性質に応じた取扱いとしている。

用語解説

  • 謄写:記録を書き写す、あるいはコピーを取得すること。
  • 抄本:原本の一部を抜き出して作成した写し。全体を写す謄本と対比される。
  • 疎明:証明ほど確実でなくとも、一応確からしいと裁判所に認めさせる程度の資料提出。利害関係を有する第三者は、この疎明を経て初めて記録へのアクセスを請求できる。

旧法時の判例・裁判例

本条も令和4年10月の新制度創設に伴って設けられた規定であり、旧法下で直接対応する条文は存在しない。従来の発信者情報開示請求訴訟においては、民事訴訟法の訴訟記録閲覧謄写の規定(同法91条以下)が適用されており、第三者による記録閲覧の可否は個別の訴訟指揮の中で判断されてきた。発信者情報開示命令事件においてこの民事訴訟法の考え方がどこまで踏襲されるかは、今後の裁判所の運用を注視する必要がある。

第13条(発信者情報開示命令の申立ての取下げ)

条文原文

(発信者情報開示命令の申立ての取下げ) 第十三条 発信者情報開示命令の申立ては、当該申立てについての決定が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる。ただし、当該申立ての取下げは、次に掲げる決定がされた後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。 一 当該申立てについての決定 二 当該申立てに係る発信者情報開示命令事件を本案とする第十五条第一項の規定による命令 2 発信者情報開示命令の申立ての取下げがあった場合において、前項ただし書の規定により当該申立ての取下げについて相手方の同意を要するときは、裁判所は、相手方に対し、当該申立ての取下げがあったことを通知しなければならない。ただし、当該申立ての取下げが発信者情報開示命令事件の手続の期日において口頭でされた場合において、相手方がその期日に出頭したときは、この限りでない。 3 前項本文の規定による通知を受けた日から二週間以内に相手方が異議を述べないときは、当該通知に係る申立ての取下げに同意したものとみなす。同項ただし書の規定による場合において、当該申立ての取下げがあった日から二週間以内に相手方が異議を述べないときも、同様とする。

趣旨・立法背景

申立人は原則として自由に申立てを取り下げられるが、すでに開示命令の決定が出ている場合や、提供命令(第15条第1項)が発令されている場合には、相手方の同意を要件とする。決定後の取下げに同意を要求するのは、相手方が決定によって得た地位(開示義務を免れた、あるいは開示を命じられて争う機会を得たという地位)を申立人の一存で覆させないためである。提供命令が出ている場合についても同様に、手続がすでに進行し相手方に一定の対応が生じている以上、その利益を保護する必要があるという考え方に基づく。

2週間以内に異議を述べなければ同意したものとみなす規定は、手続をいたずらに長引かせないための擬制であり、相手方が沈黙したまま手続が宙に浮くことを防いでいる。

用語解説

  • 本案:ある手続に付随する仮の措置や中間的な処分に対して、その基礎となる本来の事件を指す言葉。ここでは発信者情報開示命令事件が提供命令の本案にあたる。
  • みなす:一定の事実があれば、反証を許さずにそのような法律効果が生じたものとして扱うこと。

旧法時の判例・裁判例

取下げに関する規定も新制度創設に伴うものであり、対応する旧規定はない。従来の訴訟における訴えの取下げ(民事訴訟法261条)は被告が本案について準備書面を提出するなどした後は被告の同意を要するとされており、本条の枠組みはこの考え方を非訟手続に合わせて置き換えたものと位置づけられる。

第14条(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え)

条文原文

(発信者情報開示命令の申立てについての決定に対する異議の訴え) 第十四条 発信者情報開示命令の申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に不服がある当事者は、当該決定の告知を受けた日から一月の不変期間内に、異議の訴えを提起することができる。 2 前項に規定する訴えは、同項に規定する決定をした裁判所の管轄に専属する。 3 第一項に規定する訴えについての判決においては、当該訴えを不適法として却下するときを除き、同項に規定する決定を認可し、変更し、又は取り消す。 4 第一項に規定する決定を認可し、又は変更した判決で発信者情報の開示を命ずるものは、強制執行に関しては、給付を命ずる判決と同一の効力を有する。 5 第一項に規定する訴えが、同項に規定する期間内に提起されなかったとき、又は却下されたときは、当該訴えに係る同項に規定する決定は、確定判決と同一の効力を有する。 6 裁判所が第一項に規定する決定をした場合における非訟事件手続法第五十九条第一項の規定の適用については、同項第二号中「即時抗告をする」とあるのは、「異議の訴えを提起する」とする。

趣旨・立法背景

発信者情報開示命令事件は非訟手続として簡易迅速な審理を可能にする一方、開示の可否は当事者の実体的な権利義務に直結する重い判断である。そこで、決定に対する不服申立ての方法として、通常の非訟事件で用いられる即時抗告ではなく、通常の民事訴訟と同じ審級構造による異議の訴えという仕組みが採用された。この異議の訴えは、通常の訴訟手続で行われる。訴え提起の期間は決定の告知を受けた日から1か月の不変期間とされ、この期間内に訴えが提起されなければ、あるいは訴えが却下されれば、決定は確定判決と同一の効力を持つに至る。

管轄を決定裁判所の専属管轄としたのは、非訟手続で行われた審理の内容を最もよく把握している裁判所に引き続き審理させることが、迅速な解決に資するという判断による。認容決定を認可・変更した判決に確定判決と同様の執行力を持たせているのも、被害者救済の実効性を確保するための手当てである。

用語解説

  • 不変期間:裁判所が職権で伸長・短縮できない、法律で固定された期間。1か月を経過すれば原則として訴え提起の権利を失う。
  • 専属管轄:他の裁判所に管轄を移すことができない、法律上固定された管轄。
  • 認可・変更・取消し:異議の訴えを審理した裁判所が下す判決の3類型。決定内容をそのまま是認するのが認可、内容を修正するのが変更、決定を覆すのが取消しにあたる。
  • 即時抗告:非訟事件の決定に対する通常の不服申立て方法。第14条第6項は、開示命令の決定についてはこの即時抗告の代わりに異議の訴えによるべきことを、非訟事件手続法59条1項の読替えという形で明示している。

旧法時の判例・裁判例

異議の訴えの制度自体は令和4年10月に始まったばかりであり、訴訟実務の蓄積はまだ限られる。実務家の間では、決定を取り消す旨の請求の趣旨に加えて、開示そのものを命じる給付の請求の趣旨を併せて記載する必要があるという理解が広まりつつあり、請求の趣旨第1項は「~を取り消す」との判決を求めることになるという書式上の整理がされている。答弁書の記載方法についても、却下決定を経た非訟の判断を認可するという趣旨で「認可する」との裁判を求める例が紹介されており、実務上の書式はなお発展途上にある。

また、決定に確定判決と同一の効力を持たせる仕組みについては、決定を認可し、または変更した判決で発信者情報の開示を命じるものは、強制執行については、給付を命じる判決と同一の効力を有するとの整理が実務解説でも共有されており、開示命令が実効性のある権利実現手段として機能することが確認されている。制度が始まってからの年数がまだ浅いため、異議の訴えの審理内容そのものに立ち入った裁判例の蓄積は今後の課題である。


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