令和8年12月1日、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年法律第62号)による改正法が施行される。本連載は、施行版条文に即して第1条から第24条までを一条ずつ検討するものである。今回は第4条を扱う。
第3条が労働者を守る条文であるのに対し、第4条は派遣労働者を守る条文である。両者を分ける必要があったのは、派遣労働者と派遣先との間に労働契約が存在しないという構造上の事情による。解雇という概念が使えない相手に対して、どのような形で保護を組み立てるか。第4条は、この問いに対する立法者の解答である。
1 条文原文(令和8年12月1日施行版)
(派遣労働者に対する不利益取扱いの禁止等)
第四条 第二条第一項第二号に定める事業者(当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けるものに限る。次項において同じ。)は、その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が前条第一項各号に定める公益通報をしたことを理由として、次に掲げる行為をしてはならない。
一 当該公益通報者に係る労働者派遣契約(労働者派遣法第二十六条第一項に規定する労働者派遣契約をいう。次項において同じ。)を解除すること。
二 前号に掲げるもののほか、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをすること。
2 前項(第一号に係る部分に限る。)の規定に違反して第二条第一項第二号に定める事業者が行った労働者派遣契約の解除は、無効とする。
(令七法六二・全改)
条文末尾の「令七法六二・全改」は、この条が令和7年法律第62号によって全部改められたことを示す沿革表示である。第3条が「一部改正」であったのに対し、第4条は「全改」となっている。
2 新旧対照 ― 二つの条文を一つに束ねた
改正前の法律において、派遣労働者の保護は二か所に分かれて置かれていた。
| 区分 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 見出し | 旧第4条「労働者派遣契約の解除の無効」 | 第4条「派遣労働者に対する不利益取扱いの禁止等」 |
| 契約解除 | 旧第4条(効果規定のみ。派遣先が行った解除は無効とする) | 第4条第1項第1号(禁止規範)+第2項(無効) |
| 交代要求その他 | 旧第5条第2項(禁止規範のみ。無効規定なし) | 第4条第1項第2号(禁止規範) |
改正前の旧第4条は、次のような書きぶりであった。
第二条第一項第二号に定める事業者(当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けるものに限る。以下この条及び次条第二項において同じ。)の指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が前条各号に定める公益通報をしたことを理由として第二条第一項第二号に定める事業者が行った労働者派遣契約(労働者派遣法第二十六条第一項に規定する労働者派遣契約をいう。)の解除は、無効とする。
主語が「解除」であり、述語が「無効とする」である。派遣先に対して「してはならない」と命じる文言はどこにもない。契約解除という行為の私法上の効力を否定するだけの、純然たる効果規定であった。
一方、旧第5条第2項は次のとおりである。
前条に規定するもののほか、第二条第一項第二号に定める事業者は、その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者が第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、当該公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めることその他不利益な取扱いをしてはならない。
こちらは禁止規範であるが、違反行為の効力については何も定めていない。
令和7年改正は、この二つを第4条に統合し、第1項で二種類の禁止行為を並べ、第2項で第1号違反にのみ無効の効果を与える構成に組み替えた。第3条が第1項(禁止規範)・第2項(無効)・第3項(推定)という三段構えになったことと形式を揃え、章全体の可読性を高める意図がうかがえる。
もっとも、形式が揃った結果として、揃わなかった部分が際立つことにもなった。第3条にある推定規定(第3項)も、第21条第1項の直罰も、第4条には及ばない。この点は後述する。
3 趣旨と立法背景
3-1 三面関係という構造
派遣労働者をめぐる法律関係は三つの当事者から成る。派遣元事業主と派遣労働者との間には労働契約があり、派遣元事業主と派遣先との間には労働者派遣契約がある。しかし派遣労働者と派遣先との間には、指揮命令関係があるだけで契約関係がない。
この構造は、報復の局面で独特の作用を及ぼす。派遣先が通報者を職場から排除しようとする場合、派遣先は労働契約の解消という手続を経る必要がない。派遣元に対して「あの人を替えてほしい」と伝えるだけで足りる。派遣元は取引先である派遣先の意向に逆らいにくく、事実上、翌日から就業場所が失われる。
正社員の解雇であれば、労働契約法第16条の解雇権濫用法理が働き、就業規則上の手続も要求される。派遣労働者に対する事実上の排除には、そうした手続的な抵抗がない。通報を抑止する効果という点では、解雇よりも強力に作用しうる。
3-2 平成16年制定時の設計
平成16年の制定時、立法者は派遣労働者の保護として労働者派遣契約の解除の無効という一点に絞った規定を置いた。当時の第3条が「解雇は無効とする」という効果規定であったことと平仄を合わせたものであり、契約の解消という最も重大な不利益だけを捉える設計であった。
しかし、この設計は二つの限界を抱えていた。
第一に、無効とされる契約は派遣元と派遣先との間の労働者派遣契約であり、派遣労働者はその当事者ではない。無効を主張する主体として最も自然なのは派遣元であるが、派遣元にとって派遣先は顧客であり、無効を主張する動機に乏しい。権利を持つ者と、権利行使の必要がある者とが一致しない。
第二に、交代要求のように契約の解除に至らない排除は、そもそも射程外であった。この穴は平成18年の運用を経て令和2年改正で旧第5条第2項として塞がれたが、そこでも無効という効果は与えられなかった。
3-3 令和2年改正の到達点と積み残し
令和2年法律第51号は、公益通報者の範囲に退職者と役員を加え、事業者に体制整備義務と従事者指定義務を課した。派遣労働者との関係では、通報の日前1年以内に派遣先で就業していた元派遣労働者が公益通報の主体に加えられている(第2条第1項第2号)。
同改正の附則第5条は、政府に対し、不利益な取扱いの是正に関する措置の在り方および裁判手続における請求の取扱いについて検討を加えることを求めていた。派遣労働者に関していえば、契約解除の無効という迂遠な救済しか用意されていない状態が、この「検討」の対象に含まれていた。
3-4 令和7年改正が禁止規範に組み替えた理由
第4条第1項が「してはならない」という行為規範の形式をとったことには、いくつかの実益がある。
第一に、指針および指針の解説における「不利益な取扱い」の定義が、第3条第1項、第4条第1項、第5条および第6条第1項の規定により禁止される行為の総称として構成されている。禁止規範がなければ、体制整備義務の内容としての「不利益な取扱いの防止に関する措置」(指針第4の2(1))が何を防止する措置なのか、条文上の受け皿を欠くことになる。第4条第1項の新設は、体制整備義務との接続を条文レベルで確保する意味を持つ。
第二に、行為規範であることによって、違反行為が不法行為(民法第709条)における違法性の判断根拠として明示的に機能する。派遣労働者が派遣先に対して損害賠償を請求する場合、従前は労働契約関係の不存在という壁があったが、法が派遣先に対して直接に禁止規範を課している以上、その違反は違法性を基礎づける事情として正面から主張できる。
第三に、派遣元との関係を整理する効果がある。交代要求を受けた派遣元が漫然と応じた場合、派遣元は自らの雇用する労働者に対する第3条第1項の名宛人であるから、派遣元の対応それ自体が第3条の問題として評価される。派遣先の行為が法律上禁止された行為であることが明示されれば、派遣元がこれに応じることの正当性も否定されやすくなる。
4 第1項の構造 ― 誰が、誰に対して、何をしてはならないか
4-1 名宛人は派遣先に限られる
第1項の名宛人は「第二条第一項第二号に定める事業者」であり、括弧書きによって「当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受けるもの」に限定されている。すなわち派遣先である。
派遣元事業主は、派遣労働者を自ら雇用する事業者であるから第2条第1項第1号に該当し、第3条の名宛人となる。同じ派遣労働者について、派遣先には第4条が、派遣元には第3条が適用される。この振り分けは実務上の帰結として大きい。
| 報復の主体 | 適用条文 | 無効規定 | 推定規定 | 直罰 |
|---|---|---|---|---|
| 派遣元(雇用主) | 第3条 | あり(解雇・懲戒) | あり(第3項) | あり(第21条第1項) |
| 派遣先 | 第4条 | 契約解除のみ | なし | なし |
同一の通報を理由とする同一の排除であっても、誰が手を下したかによって法的効果がここまで異なる。派遣先が交代を求め、派遣元がそれに応じて雇止めをした場合、派遣元の雇止めについては第3条第3項の推定が働き(懲戒として行われた場合は第2項の無効も問題となる)、派遣先の交代要求については推定も無効も働かない。実務上は、派遣元に対する請求と派遣先に対する請求を組み立て方を変えて併行させることになる。
4-2 保護される者 ― 「その指揮命令の下に労働する派遣労働者」
保護の対象は「その指揮命令の下に労働する派遣労働者である公益通報者」である。
ここで解釈上の論点が生じる。第2条第1項第2号は、公益通報の主体として派遣労働者だけでなく「派遣労働者であった者」を掲げ、事業者の側も「役務の提供を受け、又は当該通報の日前一年以内に受けていた事業者」としている。ところが第4条第1項の括弧書きは、名宛人を「役務の提供を受けるもの」に限定し、保護対象を「その指揮命令の下に労働する派遣労働者」と現在形で表現している。第3条第1項が「その使用し、又は使用していた公益通報者」と過去形を明示的に併記しているのと対照的である。
文言に忠実に読めば、派遣終了後1年以内の元派遣労働者による通報は、公益通報として第7条(損害賠償の制限)、第11条の2(通報妨害の禁止)、第11条の3(通報者探索の禁止)の保護を受けるものの、第4条第1項の不利益取扱い禁止の直接の適用場面からは外れることになる。派遣関係が終了していれば解除すべき契約も指揮命令関係も存在しないため、この限定に一定の合理性を認めることはできる。
もっとも、元派遣労働者が同じ派遣元を通じて同じ派遣先に再び就業しようとする場面で、派遣先が受入れを拒む行為は、実質的には排除にほかならない。指針の解説は「不利益な取扱い」の例として、派遣労働者として就業する者について派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むことを挙げている。体制整備義務の履行としては、元派遣労働者に対する取扱いも禁止対象に含めて内部規程を設計するのが穏当である。条文上の射程と、指針が求める体制上の射程とを一致させる必要はなく、後者を広くとることに支障はない。
4-3 準用される保護要件
保護されるのは「前条第一項各号に定める公益通報」をした場合である。第3条第1項各号が定める三段階の通報先と保護要件が、そのまま第4条に取り込まれている。
| 号 | 通報先 | 保護要件 |
|---|---|---|
| 第1号 | 役務提供先等(派遣先およびその定めた者。外部委託した通報窓口を含む) | 通報対象事実が生じ、またはまさに生じようとしていると思料すること |
| 第2号 | 処分または勧告等をする権限を有する行政機関等 | 真実相当性があること、または思料しかつ所定4項目を記載した書面を提出すること |
| 第3号 | 被害の発生・拡大の防止に必要と認められる者(報道機関、消費者団体、労働組合等) | 真実相当性があり、かつ所定の事由のいずれかに該当すること |
派遣労働者にとっての「役務提供先」は派遣先である。派遣先の内部通報窓口への通報は第1号通報であり、「思料」で足りる。同時に、派遣労働者にとって派遣元も役務提供先であるから(第2条第1項第1号)、派遣元の窓口への通報も第1号通報となる。派遣労働者は二つの内部通報窓口を持つことになるが、派遣先で発生した通報対象事実を派遣元の窓口に持ち込んだ場合、派遣元にとってそれは自社の事案ではなく取引先の事案である。派遣元・派遣先間の情報連携ルールを事前に定めておかなければ、範囲外共有と対応漏れの双方が生じやすい。
4-4 第1号 ― 労働者派遣契約の解除
第1号が禁止するのは、当該公益通報者に係る労働者派遣契約を解除することである。「労働者派遣契約」は労働者派遣法第26条第1項に規定する契約をいい、当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約である。
条文が「当該公益通報者に係る」と限定していることに注意を要する。実務では、複数名を対象とする個別契約が締結されていることが多い。契約全体の解除であっても、通報者を含む部分について通報を理由とする解除がされていれば、第1号違反となる。逆に、通報者以外の派遣労働者に係る部分の解除は、この条項の射程外である。
適法な解除との区別が実務上の争点となる。派遣先の業務量減少、事業所の閉鎖、契約期間の満了による終了は、それ自体としては禁止されない。問題は、通報の時期と解除の時期が近接している場合に、事業上の理由が真の理由であることをどう示すかである。第3条第3項のような推定規定が第4条に置かれていないため、立証責任の一般原則に従い、通報を理由とする解除であることは通報者側が主張立証すべき事項となる。ただし、事業上の理由の存在は派遣先が最もよく知る事情であるから、訴訟の実際では、派遣先が合理的な説明を示せるかどうかが心証形成を左右する。
4-5 第2号 ― 交代要求その他の不利益な取扱い
第2号は、第1号に該当しないものとして、派遣元に対する派遣労働者の交代要求、およびその他の不利益な取扱いを禁止する。バスケット条項である。
指針の解説は「不利益な取扱い」を四つの類型に整理しており、派遣に関係するものとしては次の記述がある。
- 地位の得喪に関すること ― 労働者派遣契約の解除
- 人事上の取扱いに関すること ― 派遣労働者として就業する者について派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと、公益通報者に係る労働者派遣をする事業者に派遣労働者の交代を求めること
- 精神上・生活上の取扱いに関すること ― 事実上の嫌がらせ等。令和8年3月31日改正後の指針の解説は、公益通報をしたことを理由として業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させること等を例示に加えた
最後の追加は、派遣労働者にとって現実的な意味を持つ。派遣先は派遣労働者の賃金を決定する立場になく、降格や減給という手段を持たない。派遣先が握っているのは業務の割当てである。従前の担当業務から外し、誰でもできる作業だけを割り当てる運用は、派遣先が単独で実行でき、外形上は「業務命令の範囲内」と説明しやすい。指針の解説がこれを明示的に不利益な取扱いの例に加えたことで、内部規程および研修において扱うべき典型例が一つ増えたことになる。
5 第2項 ― 解除の無効
5-1 無効の対象
第2項は、第1項第1号に違反して行われた労働者派遣契約の解除を無効とする。第1項第2号に違反する行為については、無効規定が置かれていない。交代要求は事実行為であって法律行為ではないため、無効という概念になじまないという整理である。
無効とされるのは派遣元・派遣先間の労働者派遣契約の解除である。派遣労働者はこの契約の当事者ではない。したがって、派遣労働者自身が解除の無効を前提として派遣先に対し就労させることを求めることは、契約構成としては困難である。派遣労働者が直接に主張できるのは、第4条第1項違反を違法性の根拠とする不法行為に基づく損害賠償請求ということになる。
無効の主張が最も自然に機能するのは、派遣元が派遣先に対して契約に基づく派遣料金相当額を請求する局面である。解除が無効であれば労働者派遣契約は存続しており、派遣元は債務の履行を提供し続けたうえで反対給付を請求できる。この構成は民法第536条第2項の適用の有無とあわせて検討される。
5-2 労働者派遣法第29条との関係
労働者派遣法第29条は、労働者派遣契約の解除は将来に向かってのみその効力を生ずると定める。継続的契約の解除に遡及効を認めない趣旨である。
公益通報者保護法第4条第2項の無効は、この規定と矛盾しない。第29条は有効な解除の効力の及ぶ範囲を定めるものであり、第4条第2項は解除そのものが効力を生じないことを定めるものである。解除が無効であれば、将来に向かっても契約は終了しない。
5-3 罰則および行政措置との関係
第21条第1項は「第三条第一項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたとき」に6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金を科す。参照されているのは第3条第1項のみであり、第4条は含まれない。したがって、派遣先が通報を理由として労働者派遣契約を解除しても、公益通報者保護法上の刑事罰は科されない。第23条第1項第1号の3000万円以下の罰金という法人重科も、第21条第1項を受けたものであるから、同様に及ばない。
第15条の2の勧告・命令および第16条の報告徴収・立入検査は、第11条第1項の従事者指定義務および第2項の体制整備義務の履行確保を目的とするものであり、第4条違反それ自体を対象とするものではない。ただし、派遣先が派遣労働者に対する不利益な取扱いを放置している状態は、指針第4の2(1)が求める「不利益な取扱いの防止に関する措置」を欠く状態と評価されうる。この経路を通じて、第4条違反の常態化は体制整備義務違反の問題に転化する。
第4条を実効あらしめる手段は、公益通報者保護法の内側では民事上の無効と不法行為責任に限られ、外側では労働者派遣法上の指導・監督に委ねられている。この点は次章で扱う。
6 用語解説
新任担当者向けに、第4条を読むうえで前提となる用語を整理する。
派遣労働者 : 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条第2号に規定する派遣労働者をいう(第2条第1項第2号)。派遣元事業主に雇用され、派遣先の指揮命令を受けて労働する者である。
労働者派遣 : 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない(労働者派遣法第2条第1号)。派遣先に雇用させることを約するものは労働者供給または職業紹介であり、労働者派遣ではない。
労働者派遣契約 : 当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約(労働者派遣法第26条第1項)。派遣元事業主と派遣先との間で締結される。同項第8号は、契約解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置に関する事項を、契約で定めるべき事項としている。
指揮命令 : 業務の遂行方法、労働時間の配分、就業場所等について具体的な指示を与える関係をいう。請負契約の形式をとりながら注文者が請負人の労働者に直接具体的な指揮命令をしている場合、その関係は請負とは評価されず、労働者派遣に当たると解される。
役務提供先 : 第2条第1項各号に定める事業者をいう(同項柱書)。派遣労働者にとっては、派遣元事業主(第1号)と派遣先(第2号)の双方が役務提供先となる。
交代要求 : 派遣先が派遣元事業主に対し、特定の派遣労働者に代えて別の者を派遣するよう求める行為。労働者派遣契約それ自体は存続するため契約の解除には当たらないが、当該派遣労働者にとっては就業機会の喪失を意味する。
常時使用する労働者 : 第11条第3項の300人基準を判定する際の分母。消費者庁の公表するQ&Aは、派遣先における派遣労働者について、派遣先および派遣元の双方において常時使用する労働者に含まれるとしている。派遣労働者を多数受け入れている事業者は、自社の直接雇用者数だけで300人以下と判断すると、体制整備義務の有無を誤る。
7 労働者派遣法との交錯
第4条だけを見ていると、派遣先に対する規制は弱いという印象を受ける。しかし派遣先は労働者派遣法上の規制を重ねて受けており、公益通報を理由とする排除は、同法との関係でも複数の違反を構成しうる。
7-1 第27条 ― 解除の制限
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、派遣労働者の国籍、信条、性別、社会的身分、派遣労働者が労働組合の正当な行為をしたこと等を理由として、労働者派遣契約を解除してはならない(労働者派遣法第27条)。
条文が「等」を用いていることから、列挙事由は例示と解される。公益通報という法が正面から保護する行為を理由とする解除は、労働関係において不当とされる事由に基づく解除として、同条に含まれると解する余地がある。公益通報者保護法第4条第2項による無効と、労働者派遣法第27条違反による評価とは、併存する。
7-2 第29条の2 ― 解除に当たって講ずべき措置
労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たっては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、派遣元事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない(労働者派遣法第29条の2)。
派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号)は、これを具体化し、派遣先の都合による解除については、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと、関連会社での就業をあっせんする等により新たな就業機会の確保を図ること、これができない場合には損害の賠償を行うことなどを求めている。
通報を理由とする解除は、そもそも第4条第1項第1号違反であるが、仮に派遣先が「業務量の減少」を理由として説明する場合であっても、この措置義務の履行状況は残る。猶予期間を置かず、就業機会の確保も損害の賠償もしないまま即日で契約を打ち切った事実は、事業上の理由が真の理由であるという説明の信用性を減殺する事情となる。
7-3 第49条の3 ― 申告を理由とする不利益取扱いの禁止
派遣元事業主または派遣先が労働者派遣法またはこれに基づく命令の規定に違反する事実がある場合、派遣労働者はその事実を厚生労働大臣に申告することができ、派遣元事業主および派遣先は、申告をしたことを理由として当該派遣労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(労働者派遣法第49条の3)。違反には同法第60条第2号の罰則が予定されている。
労働者派遣法は、公益通報者保護法別表第8号を受けた公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令(平成17年政令第146号)の第281号に掲げられている。消費者庁が公表する通報の対象となる法律一覧(令和8年6月1日現在で509本)にも収載されている。したがって、同法に規定する罪の犯罪行為の事実および過料の理由とされている事実は、通報対象事実に当たる。派遣労働者が労働局に申告する行為は、公益通報者保護法上の第2号通報であると同時に、労働者派遣法第49条の3第1項の申告でもある。派遣先が報復すれば、公益通報者保護法第4条第1項違反と労働者派遣法第49条の3第2項違反が同時に成立し、後者には刑事罰が付いている。
公益通報者保護法第4条に直罰がないことをもって派遣先の刑事責任がないと即断するのは誤りである。通報の内容が派遣法違反に関わるものであれば、労働者派遣法の側から刑事責任が生じうる。
7-4 第40条 ― 苦情の処理
派遣先は、派遣就業に関し派遣労働者から苦情の申出を受けたときは、その内容を派遣元事業主に通知するとともに、派遣元事業主との密接な連携の下に、誠意をもって、遅滞なく、当該苦情の適切かつ迅速な処理を図らなければならない(労働者派遣法第40条第1項)。
派遣先の苦情処理ルートと内部公益通報受付窓口は別個の仕組みであるが、現場ではしばしば混線する。派遣労働者が派遣先責任者に法令違反を申し出た場合、それが苦情処理として処理されるのか、内部公益通報として処理されるのかによって、範囲外共有の禁止が及ぶかどうかが変わる。苦情処理の記録は派遣元にも通知されるのが原則であるところ、通報者を特定させる事項を含んだまま派遣元に通知すれば、範囲外共有に当たりうる。派遣先の内部規程においては、苦情処理と公益通報対応の切り分け基準と、切り分けに迷った場合の取扱いを明記しておく必要がある。
8 判例・裁判例
第4条を直接の根拠として派遣先の責任を認めた裁判例は、施行前である以上まだ存在しない。しかし、第4条が解決しようとした問題状況を示す裁判例は蓄積されている。
8-1 パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件
最高裁判所第二小法廷平成21年12月18日判決(労働判例993号5頁)。
請負会社と雇用契約を締結した労働者が、注文者の工場で注文者の従業員から直接具体的な指揮命令を受けて作業に従事していた事案である。労働者は、この就労実態が業務請負ではなく労働者派遣であるとして、注文者に直接雇用を申し入れ、さらに大阪労働局に対し職業安定法および労働者派遣法に違反する旨の申告を行った。労働局は違反を認定し、注文者は業務委託契約の解消等の是正を求められた。労働者はその後、注文者と有期の雇用契約を締結したが更新されなかった。
最高裁は、注文者が請負人の労働者に直接具体的な指揮命令をしている場合には請負契約と評価することはできず、注文者と労働者との間に雇用契約が締結されていないのであれば三者間の関係は労働者派遣に該当すると判示した。そのうえで、派遣法違反の労働者派遣が行われた場合であっても、特段の事情のない限りそれだけで派遣元との雇用契約が無効になることはないとし、注文者が採用に関与しておらず賃金額を事実上決定していたともいえない本件では、注文者と労働者との間に黙示の労働契約が成立していたと評価することはできないとして、原審の判断を破棄した。
この判決の意義は、行政機関への申告を行った就労者が、指揮命令を受けていた相手方との間に契約関係を欠くために、地位確認という形での救済を得られなかった点にある。第4条第1項が派遣先に対して直接の禁止規範を課したことは、契約関係の不存在という壁を、少なくとも不法行為構成の場面では低くする意味を持つ。
なお、下級審には、黙示の労働契約の成立を肯定した例もある(マツダ防府工場事件・山口地裁平成25年3月13日判決、労働判例1070号6頁)。判断は事案ごとの就労実態に強く依存する。
8-2 イビデン事件
最高裁判所第一小法廷平成30年2月15日判決(判例時報2383号15頁)。
親会社が、自社および子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制を整備し、その一環としてグループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける窓口を設け、対象者に周知して利用を促し、現に相談対応を行っていた事案である。子会社の元契約社員であり、退職後は派遣会社を介して親会社の別の事業場内で勤務していた者について、その同僚が窓口に相談の申出をしたところ、親会社は求められた事実確認を行わなかった。
最高裁は、法令遵守体制を整備し相談窓口を設けたことのみをもってグループ会社の全従業員に対する信義則上の義務を負うものではないとしつつ、申出の具体的状況いかんによっては、体制として整備された仕組みの内容、申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があることを認めた。そのうえで、本件の体制が申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれないこと、相談の内容が退職後に事業場外で行われた行為に関するものであったこと等の事情の下では、義務違反があったとはいえないと結論づけた。
結論としては責任が否定されたが、雇用関係にない者に対しても、窓口を設けて利用を促した以上は相応の対応義務を負う場合があることを最高裁が正面から認めた点に意義がある。派遣先が派遣労働者に対して自社の通報窓口の利用を呼びかける場合、この判示は直接に妥当する。窓口の利用対象者として派遣労働者を掲げながら、実際の申出に対して「雇用主が異なる」という理由だけで対応を打ち切る運用は、法的リスクを伴う。
なお本件の分析については、中川総合法務オフィスのサイトにも解説がある(https://compliance21.com/ibiden-2018-supreme-court/ )。
8-3 オリンパス事件
東京高等裁判所平成23年8月31日判決、最高裁判所平成24年6月28日上告棄却・上告不受理決定により確定。
社内のコンプライアンスヘルプラインに通報した従業員について、通報を受けた側が通報者名を通報対象者である上司らに開示し、その後、業務上の必要性とは無関係に専門外の部署への配置転換が繰り返された事案である。第一審は請求を棄却したが、控訴審は、通報者が氏名等の開示を承諾した事実は認められず社内規定上の守秘義務に違反するとしたうえで、配転は主として個人的な感情に基づき制裁的にされたものであるとして人事権の濫用により無効と判断し、会社および上司に対し連帯して220万円の支払いを命じた。
この事案は正社員に関するものであるが、第4条の観点からは対照が明瞭である。正社員であったからこそ、配転命令の無効確認という形で職場に留まりながら4年以上の訴訟を戦うことができた。同じ構図が派遣労働者に生じた場合、派遣先は配転という手段を用いる必要がない。交代要求一本で就業関係が終了し、通報者は職を失った状態から訴訟を始めることになる。範囲外共有の防止が派遣労働者について一段と切実である理由がここにある。
8-4 京都市役所事件
京都地方裁判所判決(国家賠償請求事件)。児童相談所の児童福祉司が児童虐待事案における対応の不備を通報したところ、証拠保全のために持ち出した記録の取扱いを理由として停職3日の懲戒処分を受け、その直後に配置転換された事案である。裁判所は、非違行為の程度に照らして停職3日は重きに失し社会通念上著しく妥当性を欠くとして違法とし、違法な処分を直接の前提とする配転命令についても裁量権の逸脱濫用があるとして、合計約223万円の賠償を命じた。
自治体における通報者排除の典型例であるが、対象が正規職員であったため、処分の取消しと国家賠償という救済経路が用意されていた。自治体が受け入れている派遣労働者には、この経路がない。人事委員会または公平委員会に対する不利益処分の審査請求(地方公務員法第49条の2)も、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)も、派遣労働者には利用できない。地方公共団体向けガイドラインが職員に対する救済制度の周知を求めていることは、裏を返せば、その救済制度を持たない派遣労働者について別途の手当てが必要であることを示している。
9 指針および指針の解説による整理
指針の解説は、指針の各規定について、指針本文、指針の趣旨、指針を遵守するための考え方や具体例、その他に推奨される考え方や具体例という四つの層に分けて記述している。第4条に対応する部分を、この四層に沿って確認する。
9-1 不利益な取扱いの防止に関する措置(第3のⅡの2(1))
指針本文 : イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。
指針の趣旨 : 通報対象事実を知ったとしても、公益通報を行うことにより不利益な取扱いを受ける懸念があれば、公益通報を躊躇することが想定される。これを防ぐには、不利益な取扱いを禁止するだけでなく、あらかじめ防止するための措置が必要であり、実際に発生した場合には救済・回復の措置をとり、行為者に対する厳正な対処をとることを明確にする必要がある。行政機関等およびその他の外部通報先に対する公益通報についても、同様の措置がとられる必要がある。
指針を遵守するための考え方や具体例 : 精神上・生活上の取扱いに関することの例として、公益通報をしたことを理由として業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させること等が挙げられている。防止措置としては、労働者等および役員に対する周知・啓発、内部公益通報受付窓口における不利益な取扱いに関する相談の受付、被通報者が公益通報者の存在を知り得る場合における被通報者に対する注意喚起が挙げられている。把握する措置としては、公益通報者に対して能動的に確認すること、不利益な取扱いを受けた際の連絡先をあらかじめ伝えておくことが挙げられている。
その他に推奨される考え方や具体例 : 関係会社・取引先からの通報を受け付けている場合において、公益通報者が当該関係会社・取引先の労働者等、特定受託業務従事者または役員であるときは、通報に係る秘密保持に十分配慮しつつ、可能な範囲で、当該関係会社・取引先に対し、公益通報者へのフォローアップや保護を要請する等、公益通報者が不利益な取扱いを受けないよう必要な措置を講ずることが望ましいとされている。
最後の推奨事項は、派遣先と派遣元との関係にそのまま応用できる。派遣先が受け付けた通報について、派遣元における不利益な取扱いを防ぐには、派遣元への働きかけが避けられない。しかし働きかけそのものが通報者を特定させる情報の伝達になりかねない。指針の解説が「秘密保持に十分配慮しつつ、可能な範囲で」と留保を付しているのは、この緊張関係を踏まえたものである。実務としては、個別事案の連絡としてではなく、平時の契約条項および覚書によって、派遣元・派遣先双方が通報者保護の措置をとる旨を一般的に約定しておく方法が現実的である。
9-2 労働者等に対する周知に関する措置等(第3のⅡの3(3))
指針本文は、労働者等、役員、退職者ならびに特定受託業務従事者および特定受託業務従事者であった者に対し、法および内部公益通報受付窓口の設置に関する事項、不利益な取扱いの防止に関する措置の内容等について周知・啓発を行うことを求めている。
ここでいう「労働者等」は、法第2条第1項第4号の定義により労働者および派遣労働者を指す。派遣労働者は、派遣先の周知義務の対象に正面から含まれる。令和7年改正が第11条第2項において「労働者等に対するその周知」を体制整備義務の内容として明示したことにより、派遣労働者に対する周知は、望ましい取組ではなく義務の内容となった。
派遣労働者への周知は、正社員向けの手段だけでは届かない。社内イントラネットのアカウントが付与されていない、階層別研修の対象外である、社内報が配布されないといった事情は珍しくない。指針の解説は特定受託業務従事者について業務委託契約に係る書面やメール等に窓口の連絡先を記載する方法を挙げているが、同じ発想は派遣労働者にも当てはまる。派遣先が派遣労働者に交付する就業条件の説明資料、入場時のオリエンテーション資料、就業場所に掲示するポスターといった媒体を用いることが考えられる。
9-3 地方公共団体向けガイドラインとの対応
公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報。令和8年5月29日最終改正)は、「職員等」を法第2条第1項に定める役務提供先等への通報が内部通報となり得る者と定義している。当該団体を派遣先とする派遣労働者は、この定義に含まれる。内部公益通報受付窓口の利用対象、周知の対象、不利益な取扱いの防止措置の対象のいずれについても、正規職員と区別する理由はない。
同ガイドライン(外部の労働者等からの通報。令和8年5月29日最終改正)は、通報窓口が受け付ける通報者の範囲として、当該事業者を派遣先とする派遣労働者または通報の日前1年以内に当該派遣労働者であった者を明示的に掲げている。自治体が事業者を監督する立場で受け付ける通報についても、派遣労働者は正面から通報主体として位置づけられている。
自治体が押さえるべきは、自らが二つの立場を兼ねる点である。派遣労働者を受け入れる派遣先としての立場では第4条の名宛人であり、事業者を監督する行政機関としての立場では第13条の名宛人である。同一の組織の中で、この二つが混同されないように所管を整理しておく必要がある。
10 企業の事例
10-1 通報窓口の利用対象者の設計
消費者庁の令和5年度民間事業者等における内部通報制度の実態調査によれば、内部通報制度を導入している事業者は71.9パーセントであり、上場している事業者では99.1パーセント、上場していない事業者では15.4パーセントであった。導入率の差は規模による体制整備義務の適用範囲を反映している。
制度を導入している企業においても、窓口の利用対象者に派遣労働者を含めているかは規程の記載次第である。「従業員」とのみ定める規程では、派遣労働者が自らを対象者と認識できない。第11条第2項が派遣労働者への周知を義務の内容として明示した以上、規程上の対象者の記載を「労働者、派遣労働者、役員、退職者、業務委託先の特定受託業務従事者」のように列挙する形に改めることが、令和8年12月1日に向けた最低限の作業となる。
前掲の実態調査は、内部通報制度を導入している事業者において、不正発見の端緒として内部通報を挙げた割合が76.8パーセントで最多であり、内部監査を上回ることも示している。派遣労働者を窓口の対象から外すことは、現場に最も近い位置にいる情報源を制度の外に置くことを意味する。
10-2 偽装請負と適用条文の分岐
第4条が適用されるのは、就労関係が労働者派遣と評価される場合である。同じ現場で働く外部労働者であっても、契約形式と実態によって適用条文が分かれる。
| 就労形態 | 通報者の位置づけ | 発注者側に適用される不利益取扱い禁止規定 |
|---|---|---|
| 労働者派遣 | 第2条第1項第2号(派遣労働者) | 第4条 |
| 請負・業務委託(実態も請負) | 第2条第1項第4号(取引先の労働者等) | 対応する禁止規定なし |
| 請負の形式・実態は派遣(偽装請負) | 第2条第1項第2号として評価される可能性 | 第4条 |
| 業務委託を受けたフリーランス | 第2条第1項第3号(特定受託業務従事者) | 第5条 |
第2条第1項第4号に対応する不利益取扱い禁止規定が置かれていないのは、発注者と取引先労働者との間に指揮命令関係がなく、発注者が単独で当該労働者に不利益を課す手段を持たないという理解に基づく。しかし偽装請負の現場では、発注者が実際に指揮命令をしているのであるから、この前提が崩れる。
パナソニックプラズマディスプレイ事件の最高裁判決が示したとおり、注文者が直接具体的な指揮命令をしている場合には請負契約と評価することはできず、三者間の関係は労働者派遣に該当する。契約書の表題が業務委託であることは、第4条の適用を免れる理由にならない。外部労働者を受け入れている事業者は、通報対応の観点からも、現場の指揮命令の実態を点検しておく必要がある。
10-3 通報者特定を招く経路の遮断
派遣労働者からの通報においては、通報者を特定させる事項が派遣元に流れる経路が正社員より多い。就業状況の報告、勤怠管理、苦情処理の通知、契約更新の協議といった日常業務のいずれもが、通報の存在を推知させる契機となりうる。
通報の受付から数日以内に派遣先が派遣元へ当該派遣労働者に関する照会を行えば、派遣元の担当者は通報の事実を推測する。派遣先の担当者に通報者の氏名を伝えていなくとも、照会それ自体が範囲外共有と同等の結果をもたらす。従事者の指定範囲と、派遣元との定例的な連絡業務の担当者とを分離し、通報事案に係る照会を通常の連絡経路に乗せない設計が求められる。
11 地方公共団体の事例
11-1 窓口業務委託と偽装請負 ― 足立区の事案
東京都足立区は、平成26年1月から戸籍窓口業務の民間委託を実施していたところ、東京労働局から同年7月、業務の実態が労働者派遣法に違反する偽装請負に当たるとして是正指導を受けた。報道によれば、受託事業者の社員が、あらかじめ定めた業務手順書にない事態が生じた際に区職員に対応方法を相談し、直接指示を受けていた実態が指摘された。区は同年8月、住所変更に関する受付など一部業務を区の業務に戻すことを公表し、業務手順書等で定められていない事項について区職員から直接指示を受けないよう徹底するとした。
この事案は、戸籍法が判断を伴う業務を区職員が行うべきものとする一方、労働者派遣法が注文者による指揮命令を禁ずるという、二つの規制の間に生じた矛盾として議論された。公益通報者保護法の観点からは、別の意味を持つ。もし受託事業者の従業員が委託業務に関する法令違反を通報し、その後に区が事業者に対して当該従業員の交代を求めた場合、就労実態が労働者派遣と評価されるならば区は第4条第1項第2号の名宛人となる。純然たる請負と評価されるならば、当該従業員は第2条第1項第4号の者にとどまり、区に対する不利益取扱い禁止規定は存在しないことになる。
自治体の窓口業務の民間委託は広く行われている。足立区の公表資料は、総務省の調査において全国514の自治体が窓口業務の民間委託を実施し、東京23区では21区が実施しているとしている。委託と派遣の切り分けは、労働法制上の課題であると同時に、通報者保護の適用条文を決する問題でもある。
11-2 自治体が派遣労働者を受け入れる場面
自治体が労働者派遣を受け入れる場面は、情報システムの構築・運用、税務・国民健康保険等の繁忙期対応、専門職の不足を補う配置など多岐にわたる。これらの派遣労働者は、当該自治体を派遣先とする派遣労働者であり、地方公共団体向けガイドライン(内部の職員等からの通報)にいう職員等に含まれる。
ここで注意を要するのは、第9条の読替えが第4条には及ばないことである。第9条は、一般職の国家公務員および一般職の地方公務員等について、第3条第2項および第3項を適用せず、第3条第1項および第21条第1項の適用について「解雇」を「懲戒免職、分限免職」と読み替える旨を定める。第4条は読替えの対象に含まれていない。派遣労働者は公務員ではなく、地方公務員法の身分保障の外にあるから、読替えを要しないのである。
その帰結として、自治体が派遣労働者に対して行う不利益取扱いには、公務員に対する場合のような分限・懲戒手続の制約がかからない。手続的な抵抗が最も少ない相手に対して、法律上の禁止規範だけが存在する状態となる。内部規程および契約実務で補う必要がある領域である。
11-3 内部規程における具体的手当て
自治体が講ずべき手当てとして、次のものが考えられる。
労働者派遣契約に、当該団体および派遣元事業主がそれぞれ公益通報者保護法および指針に従って通報者保護の措置をとる旨、ならびに公益通報を理由とする交代要求を行わない旨の条項を置くこと。派遣労働者の交代要求および契約の中途解除について、所管課の判断のみでは行えないものとし、コンプライアンス所管部局への事前協議を要する決裁フローを定めること。通報受付台帳と、派遣契約の管理台帳および人事給与システムとを、アクセス権限の面で分離すること。
これらは、地方公共団体向けガイドラインが求める利益相反関係の排除および範囲外共有の防止を、派遣関係に即して具体化するものである。
12 経過措置 ― 附則第4条
令和7年法律第62号の附則は、第4条について次の規定を置いている。
(派遣労働者に対する不利益取扱いに関する経過措置)
第四条 新法第四条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定は、この法律の施行後にされた同号に掲げる行為について適用し、この法律の施行前にされた同号に掲げる行為に相当する行為については、なお従前の例による。
特別の定めが置かれているのは第1項第1号のみである。第1項第2号については経過措置の規定がなく、附則第2条の原則、すなわち新法の規定は施行前にされた公益通報にも適用するという原則によることになる。
この差異には理由がある。交代要求その他の不利益な取扱いは、旧第5条第2項によって改正前から禁止されていた。禁止規範の内容に実質的な変更がないため、経過措置を置く必要がない。これに対して契約解除については、改正前は無効という効果規定があるだけで、派遣先に対する行為規範は存在しなかった。施行前に行われた解除に対して、施行後に新設された行為規範を遡って適用することは相当でない。附則第4条は、この点を明示したものと理解される。
実務上の帰結は次のとおりである。令和8年12月1日より前に行われた通報を理由として、同日以後に労働者派遣契約が解除された場合、第4条第1項第1号および第2項が適用される。逆に、同日より前に解除が行われていれば、通報の時期を問わず旧第4条によることになる。旧第4条によっても解除は無効となるため、結論に大きな差は生じないが、行為規範違反を根拠とする不法行為構成が使えるかどうかという点では違いが残る。
なお、附則第7条は、施行前にした行為に対する罰則の適用については従前の例によるとしている。もっとも第4条には罰則が及ばないため、この規定が第4条との関係で問題となる場面はない。
13 実務チェックリスト ― 令和8年12月1日に向けて
派遣労働者を受け入れている事業者および地方公共団体が、施行日までに確認すべき事項を挙げる。
- 内部通報規程における窓口の利用対象者の記載を確認し、派遣労働者および派遣終了後1年以内の元派遣労働者を明示的に列挙する。
- 派遣労働者に対する周知の手段を、正社員向けの手段とは別に設計する。就業条件明示書への窓口連絡先の記載、入場時オリエンテーションでの説明、就業場所での掲示等を組み合わせる。
- 労働者派遣契約の書式を改訂し、公益通報を理由とする交代要求および契約解除を行わない旨、ならびに派遣元・派遣先双方が通報者保護の措置をとる旨の条項を追加する。
- 派遣労働者に係る交代要求および契約の中途解除について、法務・コンプライアンス部門による事前審査を必須とする決裁フローを整備し、審査記録を保全する。
- 通報受付から一定期間内に行われる派遣契約の変更・解除について、通報との無関係性を説明できる資料(業務量の推移、予算の執行状況、他の派遣労働者の取扱いとの均衡)を、通報記録とは独立に保全する。
- 派遣先責任者が受ける苦情(労働者派遣法第40条第1項)と内部公益通報との切り分け基準を内部規程に定め、切り分けに迷う場合の取扱いを明記する。
- 派遣元への日常的な連絡業務の担当者と、公益通報対応業務従事者とを分離する。通報事案に関する派遣元への照会を、通常の連絡経路に乗せない。
- 派遣労働者からの通報について、派遣元における不利益な取扱いを防止するための働きかけの方法を、個別事案の連絡ではなく平時の約定として整備する。
- 常時使用する労働者の数の算定において、受け入れている派遣労働者を算入しているかを確認する。300人基準の判定を誤ると、体制整備義務の有無そのものを取り違える。
- 外部労働者を受け入れている現場について、指揮命令の実態を点検する。請負の形式をとりながら実態が労働者派遣であれば、第4条の名宛人となる。
- 「業務に従事させない」「専ら雑務に従事させる」という取扱いが不利益な取扱いに当たることを、現場の指揮命令者に対する研修に組み込む。派遣先が単独で実行できる報復類型として、優先度が高い。
- 地方公共団体においては、派遣労働者を受け入れる派遣先としての立場と、事業者を監督する行政機関としての立場とを、所管部局のレベルで整理する。
- 令和8年12月1日をまたぐ派遣契約の解除案件について、附則第4条の適用関係を個別に確認する。
14 小括
第4条は、契約関係のない相手を守るという難題に対する、条文技術上の一つの解答である。禁止規範を新設し、契約解除には無効の効果を与えた。しかし推定規定も直罰も及ばず、無効とされる契約の当事者は通報者本人ではない。第3条と比べたとき、保護の密度は明らかに薄い。
この薄さを埋めるのは、労働者派遣法上の規制と、指針が求める体制整備の運用である。派遣先が単独で実行できる報復は、契約管理という日常業務の外形をまとって現れる。だからこそ、決裁フローと記録の設計が、条文の文言以上に結果を左右する。
次回は第5条(特定受託事業者に対する不利益取扱いの禁止)を取り上げ、令和7年改正で新たに保護対象となったフリーランスについて、業務委託契約の解除・取引数量の削減・報酬の減額という類型が、フリーランス法との関係でどのように整理されるかを検討する。
参考資料
- 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正)
- 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(令和8年3月31日最終改正、令和8年12月1日施行)および同新旧対照表
- 公益通報ハンドブック(改正法・令和8年12月施行準拠版)消費者庁
- 公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報/外部の労働者等からの通報。令和8年5月29日最終改正)消費者庁
- 内部公益通報対応体制の整備に関するQ&A 消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/faq/faq_007
- 令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書(令和6年4月)消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/research
- 公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令(平成17年政令第146号)および消費者庁「通報の対象となる法律一覧」(令和8年6月1日現在、509本) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/overview/subject/
- 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条、第26条、第27条、第28条、第29条、第29条の2、第40条、第49条の3、第60条
- 派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成11年労働省告示第138号)
- パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件・最高裁判所第二小法廷平成21年12月18日判決(労働判例993号5頁)
- イビデン事件・最高裁判所第一小法廷平成30年2月15日判決(判例時報2383号15頁)
- オリンパス事件・東京高等裁判所平成23年8月31日判決(最高裁判所平成24年6月28日決定により確定)
- 京都市役所事件・京都地方裁判所判決(国家賠償請求事件)
- 中川総合法務オフィス「グループ会社の内部統制責任の否定:イビデン事件」https://compliance21.com/ibiden-2018-supreme-court/
◆通報窓口を受任中。希望組織はまず問い合わせを。https://compliance21.com/contact/

