1. 条文(令和8年12月1日施行版)

(損害賠償の制限)

第七条 第二条第一項各号に定める事業者は、第三条第一項各号及び前条第一項各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。

沿革表示は「令二法五一・追加、令七法六二・一部改正」である。すなわち第7条は平成16年の制定当初には存在せず、令和2年法律第51号によって新設され、令和7年法律第62号で一部改正された条文である。

なお、第7条には政令への委任がない。通報対象法律を定める政令(平成17年政令第146号)が関係するのは第2条第3項の「通報対象事実」の外延であって、第7条の適用の可否は、その通報が第2条の「公益通報」に当たり、かつ第3条第1項各号または第6条第1項各号の保護要件を満たすかどうかで決まる。


2. 新旧対照

区分条文
新(令和8年12月1日施行)第二条第一項各号に定める事業者は、第三条第一項各号及び前条第一項各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。
旧(令和7年改正前)第二条第一項各号に定める事業者は、第三条各号及び前条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。

改正法の改め文は「第七条中『第三条各号及び前条各号』を『第三条第一項各号及び前条第一項各号』に改める。」というものである。文言の変更はこの一点に尽きる。

ただし、文言が動かなかったことと、条文の届く範囲が動かなかったこととは別である。令和7年改正は、第7条の外側で次の三つの変化を起こし、その反射として第7条の遮断範囲を広げた。

変化した箇所第7条への波及
第3条・第6条が項に分かれた(不利益取扱いの禁止、無効、推定を項で書き分けた)引用を「各号」から「第一項各号」へ改める技術的修正が必要になった。実質的な範囲の変更ではない
第2条第1項に特定受託業務従事者(フリーランス)が第3号として加わり、従前の第3号・第4号が第4号・第5号へ繰り下がった「第二条第一項各号に定める事業者」に業務委託元事業者が加わり、フリーランスへの損害賠償請求が第7条で封じられた
第3条第1項第3号ハ(範囲外共有のおそれがある場合)が新設され、3号通報の保護要件が緩和された保護される3号通報の範囲が広がった分、第7条で遮断される損害賠償請求の範囲も広がった

条文そのものは一文字単位の修正にとどまるのに、実務上の射程は確実に広がっている。改正条文だけを追う読み方では、この変化を取り落とす。


3. 立法沿革と趣旨

3.1 平成16年制定時には存在しなかった

制定当初の法は、解雇の無効(旧第3条)と労働者派遣契約の解除の無効(旧第4条)を柱としていた。事業者から通報者への損害賠償請求を制限する規定は置かれなかった。当時の想定では、通報者の受ける典型的な報復は雇用関係の切断であり、金銭請求という形の報復は正面から意識されていなかった。

3.2 令和2年改正による新設

令和2年改正の際、消費者庁は改正のポイントの一つとして、事業者が公益通報者に対して公益通報をしたことを理由とする損害賠償請求をすることができないことを明記した点を挙げている(公益通報ハンドブック改正法準拠版Q15)。

「明記された」という表現には含みがある。改正前も、適法な公益通報は正当な行為として違法性を欠き、不法行為も債務不履行も成立しないと解する余地はあった。しかし解釈に委ねられている限り、事業者は「請求できる可能性がある」という前提で通報者に賠償を求めることができ、通報者は訴訟に応じるほかない。実体法上の結論が同じでも、明文の規定があるかないかで、通報を思いとどまらせる力の大きさが違う。第7条の新設は、この抑止力そのものを取り除く立法であった。

3.3 令和2年改正で同時に生じた構造上の必然

令和2年改正は、保護対象に役員と退職後1年以内の退職者を加えた。役員は解任という形の報復を受け得るが、役員の忠実義務・善管注意義務違反を理由とする会社からの損害賠償請求(会社法第423条)という経路もある。退職者に対しては解雇という手段が使えないため、退職金返還請求や秘密保持義務違反を理由とする賠償請求が、事実上唯一の報復手段になる。

保護対象を雇用関係の外側へ広げれば、報復の手段も雇用関係の外側へ移る。第7条は、この移動に対応するために不可欠な補完規定であった。令和7年改正でフリーランスが加わったのも同じ構造である。業務委託先に対しては解雇ができないから、契約解除(第5条が禁止)と損害賠償請求(第7条が禁止)の二方向を同時に塞がなければ、保護は空回りする。

3.4 令和7年改正における位置づけ

令和7年改正は、公益通報を阻害する要因への対処として、通報妨害の禁止(第11条の2)と通報者探索の禁止(第11条の3)を新設した。

第十一条の二 第二条第一項各号に定める事業者は、当該各号に掲げる者に対して、正当な理由がなく、公益通報をしない旨の合意をすることを求めること、公益通報をした場合に不利益な取扱いをすることを告げることその他の行為によって、公益通報を妨げてはならない。

これにより、通報を萎縮させる行為が時系列に沿って三段構えで封じられた。

局面規定封じられる行為
通報前第11条の2通報しない旨の合意の要求、不利益取扱いの告知による威嚇
通報時第11条の3通報者を特定する目的での探索
通報後第3条から第6条、第7条不利益取扱い、および金銭請求による報復

第7条は、この配置の最後尾に位置する。通報を止められず、通報者も特定できなかった事業者が、最後に手にする武器が損害賠償請求である。そこを塞ぐことで、事前の三規定が実効性を持つ。


4. 逐条分析

4.1 名宛人──「第二条第一項各号に定める事業者」

第7条の名宛人は、第2条第1項の五つの号すべてに定められた事業者である。

通報者名宛人となる事業者不利益取扱いを禁止する条文
第1号労働者、退職後1年以内の元労働者使用者第3条第1項
第2号派遣労働者、元派遣労働者派遣先第4条第1項
第3号特定受託業務従事者(フリーランス)、元フリーランス業務委託元事業者第5条
第4号請負契約等に基づく事業に従事する労働者等・フリーランス取引先事業者(発注元)対応規定なし
第5号役員イ 職務を行わせる事業者/ロ その取引先第6条第1項(イに限る)

ここに第7条の構造上の特徴が現れる。第4号の取引先事業者に対しては、不利益取扱いを禁止する固有の規定が置かれていない。取引先は通報者と直接の契約関係を持たないため、解雇も契約解除も報酬減額もできず、禁止規定を置く実益に乏しいからである。ところが取引先は、通報によって自社の法令違反が明るみに出れば、通報者を相手取って賠償を請求することはできる。第7条が名宛人を「各号に定める事業者」と包括的に書いたのは、この抜け道を塞ぐためである。

第5号ロの取引先も同様である。役員が取引先の法令違反を通報した場合、第6条第1項は「同号イに掲げる事業者に限る」として取引先を除外しているが、第7条は除外していない。

不利益取扱いの禁止規定が及ばない事業者にも第7条は及ぶ。この非対称は条文の書き分けから読み取るほかなく、実務で見落とされやすい。

4.2 相手方──「当該公益通報をした公益通報者」

保護されるのは通報者本人に限られる。

保護されない者として、次が挙げられる。

  • 調査に協力した者(同僚、部下、取引先担当者など)
  • 通報者から相談を受けて助言した者
  • 通報者の家族、労働組合、代理人

指針の解説は、公益通報者だけでなく調査協力者に対しても、調査に協力をしたことを理由として不利益な取扱いを防ぐ措置をとる等、不利益な取扱いの防止に関する項の定めに準じた措置を講ずることが望ましいとする(脚注25)。ただしこれは「望ましい」という水準の記述であり、第7条の法的保護そのものが調査協力者に及ぶわけではない。内部規程で協力者の保護を明記しておく必要があるのは、この落差が理由である。

4.3 対象となる公益通報

「第三条第一項各号及び前条第一項各号に定める公益通報」とは、保護要件を満たした通報を指す。

通報者類型参照される条文1号通報の要件2号通報の要件3号通報の要件
労働者・派遣労働者・フリーランス・退職者等第3条第1項各号(第4条・第5条が引用)思料相当の理由、または思料+書面提出相当の理由+イからヘまでのいずれか
役員第6条第1項各号思料調査是正措置の努力+相当の理由(急迫の危険があれば努力不要)調査是正措置の努力+相当の理由+(1)から(3)までのいずれか(急迫の危険があれば努力不要)

第4条(派遣労働者)と第5条(フリーランス)は、いずれも「第三条第一項各号に定める公益通報」を引用して保護要件を定める。第7条が第4条・第5条を明示的に引用していないのは、両条が第3条第1項各号を経由しているためであり、派遣労働者やフリーランスが第7条の保護から外れるという意味ではない。消費者庁の公益通報ハンドブックも、派遣労働者とフリーランスそれぞれについて損害賠償請求の制限が及ぶことを明記している。

逆に、保護要件を満たさない通報には第7条が働かない。報道機関への通報が3号通報の要件を欠く場合、通報対象事実に当たらない事柄を通報した場合、不正の目的による通報の場合がこれに当たる。

4.4 「公益通報によって損害を受けたことを理由として」

因果関係の起点が公益通報そのものに置かれている点が、この文言の要である。

第7条が遮断する典型的な損害は次のとおりである。

  • 報道による信用毀損、ブランド価値の下落
  • 売上減少、取引先からの契約打切り
  • 行政の立入検査、業務停止処分への対応費用
  • 第三者委員会の設置費用、外部弁護士費用、広報対応費用
  • 株価下落、株主からの責任追及への対応費用
  • 課徴金、罰金その他の制裁金

これらはいずれも「通報されたことによって発生した損害」であり、通報者の負担に帰することはできない。法令違反を行った事業者が、その発覚に伴う費用を発見者に転嫁するのは、第1条の目的(法令の規定の遵守を図ること)と正面から衝突する。

一方、通報とは別個の行為から生じた損害は射程外である。境界線は次のように引かれる。

事業者の損害の原因第7条の射程
通報行為そのもの(通報先への申告、書面の提出)射程内。賠償請求不可
通報の証拠を得るための無断の資料複写・持出し射程外。持出行為の違法性は一般法理で判断
通報内容に含まれない誹謗中傷、私生活上の事実の暴露射程外
通報とは無関係の営業秘密の競合他社への漏えい射程外
通報に伴い顧客の個人情報が第三者に流出した場合の対応費用通報行為と持出行為のどちらに起因するかで分かれる

この境界が実務上の主戦場になる。

4.5 効果──「賠償を請求することができない」

第7条は、事業者の請求権そのものを封じる実体法上の規定である。訴えの提起という手続行為を禁じたものではないため、事業者が訴えを起こすこと自体は物理的に可能だが、その請求は理由がないものとして棄却される。

遮断される請求の法的構成を問わない点にも注意を要する。

法的構成第7条の適用
不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償遮断される
債務不履行(民法第415条)──秘密保持義務違反、誠実義務違反遮断される
就業規則の損害賠償条項に基づく請求遮断される
業務委託契約の違約金条項に基づく請求遮断される
役員の任務懈怠責任(会社法第423条)を通報行為に構成した請求遮断される
反訴、相殺の抗弁として主張する場合遮断される

第7条は強行規定であり、当事者の合意で排除できない。「通報により会社に損害が生じた場合は賠償する」旨の誓約書や特約は、公序に反し無効と解される。加えて、そのような誓約書に署名を求める行為自体が、令和8年12月1日以後は第11条の2第1項の通報妨害に該当し得る。同条第2項は、違反してされた合意その他の法律行為を無効とすると定める。

退職金の不支給や減額を、損害賠償請求権との相殺という形で構成する運用も同様である。相殺の自働債権が第7条によって存在しない以上、相殺は効力を生じない。加えて、退職金の不支給それ自体が第3条第1項の不利益な取扱いに当たり、懲戒としてされたものであれば同条第2項により無効となる。


5. 第7条の射程外で争われる四つの論点

5.1 公益通報に当たらない通報

第7条が働かない場合でも、通報者が直ちに賠償責任を負うわけではない。裁判所は、公益通報者保護法の適用がない事案でも、同法の趣旨を考慮した一般法理で違法性の有無を判断してきた。

神社本庁事件の第一審(東京地判令和3年3月18日 労判1260号50頁)は、宗教法人の幹部職員が代表者らの背任行為を指摘する文書を理事らに送付して懲戒解雇された事案で、次の三要件を示した。

  1. 通報内容が真実であるか、または真実と信じるに足りる相当な理由があること
  2. 通報目的が不正の目的でないこと
  3. 通報の手段方法が相当であること

これらを満たせば、当該行為が法人の信用を毀損し組織の秩序を乱すものであったとしても、懲戒事由に該当せず、または該当しても違法性が阻却される。三要件のすべてを満たさない場合でも、その検討で考慮した事情に照らして選択された処分が重すぎるときは、労働契約法第15条により処分は無効となる、というのが同判決の枠組みである。控訴審(東京高判令和3年9月16日)もこの判断を維持した。

この枠組みは懲戒処分の有効性に関するものだが、損害賠償請求の可否についても同様に働く。違法性が阻却される行為から損害賠償責任は生じないからである。第7条の外側にも、実質的な保護の層が存在する。

5.2 資料の収集・持出しという付随行為

通報の裏づけとなる資料を職場から持ち出す行為は、通報行為そのものではない。第7条は届かず、一般法理で判断される。

消費者庁が整理した近時の裁判例は、この論点について、裁判所が一般論として違法性が阻却される可能性を否定しておらず、事案ごとに資料収集・持出しの目的と必要性を検討していると分析している。

京都地判令和元年8月8日(労判1217号67頁)は、市の児童相談所職員が、市の公益通報処理窓口の外部窓口担当弁護士に対し、市内の児童養護施設で発生したと疑われる児童虐待事案への同児童相談所の対応が不適切である旨の通報を2回行った際、児童に関する記録データを複写して自宅に無断で持ち出し、後に廃棄した行為について停職3日の懲戒処分を受けた事案である。裁判所は、すでに同一内容の文書を通報先に交付済みであったこと、セキュリティの完備されていない自宅に記録を保管する必要性があったとはいい難いことから、2回目の内部通報を行ううえで不可欠な行為とはいえず、違法性阻却は認められない(懲戒事由に該当する)とした。もっとも、資料持出行為が内部通報に付随して行われたもので原因や動機において強く非難すべき点はないことなどを考慮し、停職3日は重きに失するとして、社会観念上著しく妥当性を欠き裁量権を逸脱または濫用した違法があると判断し、処分を取り消した。

対照的に、熊本地判令和2年11月11日(労働判例ジャーナル108号22頁)は、児童の個人情報が保存されたUSBメモリを新聞社に送付した小学校教諭の懲戒免職処分について、その行為は公益通報目的によるものではないとして、処分の取消しを認めなかった。

実務への含意は明確である。通報者にとっては、必要最小限の範囲で、必要な期間だけ、安全な方法で資料を保全することが自己防衛になる。事業者にとっては、通報行為を理由とする賠償請求が第7条で封じられている以上、持出行為を切り出して責任追及する誘因が働くが、その追及が実質的に通報への報復と評価されれば、第3条第1項の不利益取扱いの問題に転化する。

5.3 対抗訴訟そのものの違法性

第7条があるにもかかわらず、事業者が通報者に高額の賠償を求める訴えを起こす事態は起こり得る。勝訴の見込みがなくとも、提訴すること自体が通報者に弁護士費用と精神的負担を課し、他の従業員への見せしめとして機能するからである。

この点については、訴えの提起が相手方に対する違法な行為となるのは、当該訴訟において主張した権利または法律関係が事実的・法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者がそのことを知りながら、または通常人であれば容易にそのことを知り得たのに、あえて訴えを提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限られる、とするのが最高裁の枠組みである(最判昭和63年1月26日 民集42巻1号1頁)。

第7条という明文の規定が存在する以上、公益通報を理由とする賠償請求が法律的根拠を欠くことは、事業者にとって「通常人であれば容易に知り得た」事柄に当たりやすい。第7条の新設は、対抗訴訟が逆に不法行為と評価される可能性を高めた。

5.4 賠償責任の向きが逆転する場合

第7条は事業者から通報者への賠償請求を封じるが、通報者から事業者への賠償請求は妨げない。むしろ令和7年改正後は、事業者側が賠償責任を負う場面が増える。

東京地判令和3年3月23日(労判1244号15頁)は、生命保険会社の支社長が、通報者から同僚の内部規程違反行為について相談を受けた後、通報者の同僚に対して通報の事実を伝え、その際「通報者が秘密録音していた」という虚偽の情報も伝達した事案である。通報者が同僚から嫌がらせを受けたことについて、裁判所は虚偽の事実を伝達した点が通報者の名誉を低下させる不法行為に当たるとし、支社長、当該同僚、会社のいずれにも責任を認めた。

福岡地判令和3年10月22日は、支店長らが別の支店長のコンプライアンス違反を本社の内部通報窓口に通報したところ、被通報者の父であり地区を統括する立場にあった者が、通報したことを直ちに認めなければ後に通報者が明らかになった際に支店長を辞めさせるなどと申し向けて通報者を特定しようとした事案である。裁判所は、通報者を特定しようとする行為は違法性があるとして、損害賠償請求を認めた。同一の事実関係について、当該人物は強要未遂罪で起訴され、有罪が認定されている(福岡地判令和3年6月8日)。

これらは第11条の3(通報者探索の禁止)が新設される前の裁判例である。同条の施行後は、探索行為の違法性はいっそう明確に評価される。


6. 判例・裁判例

6.1 公益通報者保護法の適用が肯定された例

横浜地判令和4年4月14日(判時2543・2544合併号104頁)は、パチンコ店の労働者が店内で行われていた遊技釘の調整の様子を撮影して警察に告発した事案である。裁判所は、遊技釘の調整は公安委員会の許可を得ずに行われたものであるから風営法違反の犯罪構成要件に該当し、通報対象事実に該当するとしたうえ、権限を有する警察署への通報は公益通報に当たるから、これを理由とする降格や減給は許されないとして、減給処分と普通解雇をいずれも無効とした。事業者側は「経営者を排除するという不正な目的」による告発だと主張したが、告発に先立って調整をやめるよう要請していたことなどから、主要な目的が不正の目的であったとはいえないと退けられた。

6.2 「不正の目的」により保護が否定された例

東京地判平成25年3月26日(労経速2179号14頁)は、いったん是正勧告と関係者への厳重注意という形で決着した通報内容について、長期間経過後に、自らの異動希望を実現させるという個人的目的のために再度通報した事案で、「不正の目的」に出たものと認定した。もっとも同判決は、事業者のコンプライアンスの増進という動機以外の動機が存すること自体や、再度の公益通報であること自体をもって法の適用を否定するのは相当でなく、慎重であるべきだとも述べている。動機の混在は保護を否定する理由にならない。

6.3 通報を理由とするものではないとされた例

東京地判令和3年3月30日(労判1258号68頁)は、医療法人が通報の約4か月前の時点で既に弁明の機会付与を通知し懲戒処分を検討していた事案について、懲戒解雇が通報と近接した時期にされたことをもって通報を理由とするものと推認することはできないとした。

この判断枠組みは、令和8年12月1日以後は第3条第3項の推定規定によって大きく変わる。公益通報の日から1年以内にされた解雇等特定不利益取扱いは、通報を理由としてされたものと推定される。事業者の側が、通報を理由とするものでないことを立証しなければならない。第7条の場面でも、賠償請求の理由が通報以外にあると主張する事業者は、その主張を裏づける客観的な記録を用意する必要がある。

6.4 通報者探索が問題となった例

東京地判平成28年10月7日(労判1155号54頁)は、偽装請負を東京労働局に申告した従業員に対し、事業者が「顧客の業務に関する情報や資料を第三者(行政機関を含む)に開示または提供したことはあるか」という質問事項を含む質問票を送付し、回答を拒否したことを解雇理由の一つとした事案である。裁判所は、申告者が申告を理由とする不利益な取扱いから実効的に保護されるためには申告者の秘密や個人情報も保護されることが重要であり、みだりに申告者の意思に反して申告者を特定しようとする「犯人捜し」の行為は相当でないとして、質問票への回答拒否を解雇理由とすることはできないとした。ただし他の解雇事由が存在したため、解雇自体は有効とされている。

6.5 シリーズ通底の裁判例

事件裁判所・年月日要点
三和銀行事件大阪地判平成12年4月17日(労判790号44頁)手記の出版を理由とする戒告処分。記載の大半が体験した事実に基づき、または信じる相当の理由があるとして処分無効
大阪いずみ市民生協事件大阪地堺支判平成15年6月18日(労判855号22頁)副理事長の専横を告発した職員への懲戒解雇を無効とし、損害賠償も認容
トナミ運輸事件富山地判平成17年2月23日(労判891号12頁)長期にわたる仕事外し・昇進停止を違法とし慰謝料を認容
オリンパス事件東京高判平成23年8月31日、最一小決平成24年6月28日内部通報を理由とする配転を制裁的人事として無効とし、会社と事業部長に連帯して220万円の支払いを命令
神社本庁事件東京地判令和3年3月18日(労判1260号50頁)、東京高判令和3年9月16日真実相当性・目的・手段の三要件による違法性阻却の枠組みを提示

7. 企業の事例

7.1 オリンパス事件が示した「勝訴後」の問題

オリンパス事件は、内部通報を理由とする配転命令とパワーハラスメントについて、東京高裁が会社と事業部長に連帯して220万円の支払いを命じ、平成24年6月に最高裁が上告を棄却して確定した事案である。第一審の東京地裁は請求を棄却していたが、控訴審はコンプライアンス室の対応を運用規定違反の守秘義務違反と認定し、配転命令を主として個人的感情による制裁的人事として無効とした。

注目すべきはその後である。最高裁での確定後も処遇が改善されず、通報者は第二次訴訟を含む複数の訴訟を提起せざるを得なかった。平成28年2月18日、東京地裁において、会社が最高裁確定後の処遇改善が不十分だったことを認め、解決金1100万円を支払い、和解内容を社長メッセージで全社に周知し、今後不当な処遇を行わないことを約束する内容の和解が成立した。和解後、通報者は人事本部に配属され、令和3年3月に定年退職している。

判決の獲得と回復の実現とが一致しない。第7条は事業者からの賠償請求を封じるが、通報者が受けた損害の回復までは自動的に保証しない。指針が求める「適切な救済・回復の措置」が、判決や和解を待たずに機能する体制であるかどうかが問われる。

7.2 通報者探索から刑事責任に至った事例

福岡地判令和3年10月22日の事案では、被通報者の親族であり人事に相当程度の影響力を有していた者が、通報者に対し、通報したことを認めなければ支店長を辞めさせるなどと申し向けた。この行為は民事上違法とされたのみならず、強要未遂罪の成立が認定された。

同社のプレスリリースによれば、通報を受けた際にコンプライアンス担当の常務執行役員が当該人物に事情聴取を行い、その際「被通報者が周りの支店長ともめているようである」と通報者が推測される内容を伝えていた。常務執行役員は通報者を探すことをしてはならない旨を伝え、相手も了承していたにもかかわらず、探索が行われた。

窓口の担当者が善意で運用していても、事案の概要を被通報者側に伝えた時点で通報者が推知される構造は珍しくない。範囲外共有の防止は、口頭での注意喚起だけでは足りない。

7.3 内部規程で第7条を超える手当てをする

第7条は法定の最低限である。指針が求める内部規程に、次の事項を書き込んでおくことで、実際の抑止力が増す。

  • 公益通報を理由として通報者に損害賠償を請求しないこと(第7条の確認的規定)
  • 通報に協力した者、通報者から相談を受けた者にも同様の取扱いをすること(第7条の射程外を埋める)
  • 通報に付随する資料の取扱いについて、事前に窓口へ相談すれば適法に証拠を保全できる手続を用意すること(持出しをめぐる紛争の予防)
  • 通報者に対する損害賠償請求を検討する場合には、窓口所管部門と法務部門の合議を必須とすること(現場判断での提訴を防ぐ)

8. 地方公共団体の事例

8.1 地方公共団体にも第7条は適用される

第2条第4項第2号は「地方公共団体の機関(議会を除く。)」を行政機関と定義するが、これは通報先としての位置づけである。地方公共団体は同時に、自らの職員を使用する事業者でもある。

第9条は、一般職の地方公務員について第3条第2項(無効)および第3項(推定)の適用を除外し、第3条第1項の「解雇」を「懲戒免職、分限免職」と、第21条第1項の「解雇等特定不利益取扱い」を「分限免職又は懲戒処分」と読み替える。しかし第7条は読替えの対象にも適用除外の対象にもなっていない。

地方公共団体が、公益通報をした職員に対して、住民説明の対応費用、報道対応費用、信用低下、事務の停滞を理由に損害賠償を請求することは、第7条により封じられる。

8.2 住民訴訟との交錯

地方自治法第242条の2第1項第4号は、住民が、地方公共団体に対して当該職員に損害賠償請求をすることを求める訴えを提起できると定める。公益通報によって自治体が費用を支出した場合に、住民が当該職員への賠償請求を求める訴えを提起する事態が理論上あり得る。

この場合も、自治体が有すべき損害賠償請求権が第7条により存在しないのであるから、請求は成り立たない。第7条は自治体の裁量を制約する規定ではなく、請求権の存在自体を否定する規定であるためである。自治体としては、この整理を事前に確認しておくことが、議会や住民への説明の備えになる。

8.3 京都市児童相談所の事案

京都地判令和元年8月8日の事案は、通報に付随する資料持出しに対する懲戒処分が、公益通報目的であったことを有利に考慮して取り消された例である。この職員は、停職処分の取消しを求める訴訟に勝訴した後、違法な懲戒処分、相次ぐ配置転換、懲戒処分取消し後の再度の厳重文書訓戒処分などによって損害を被ったとして、国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起した。

民間の事案が労働契約法上の無効主張と民法第709条の構成をとるのに対し、公務員の事案は、まず行政事件訴訟で処分の取消しを確定させ、そのうえで国家賠償請求へ進むという二段構えを要する。救済に要する時間と負担が大きい。第7条が自治体からの賠償請求を封じても、職員側が回復を得るまでの道のりは平坦でない。

8.4 兵庫県の告発文書問題

令和6年3月、兵庫県の西播磨県民局長であった職員が、知事のパワーハラスメント疑惑など7項目を挙げた告発文書を作成し関係者に送付した。同年4月には県の公益通報窓口にも通報したが、県は公益通報者保護法の対象外と判断し、内部調査で誹謗中傷文書と認定して、5月に停職3か月の懲戒処分とした。この職員は同年7月に死亡した。

令和7年3月4日、県議会調査特別委員会(百条委員会)が調査報告書を公表し、文書は公益通報の要件を満たし外部公益通報に当たる可能性が高いとしたうえ、県による告発者の特定などについて違法状態が継続している可能性を指摘し、救済・回復措置をとる必要があるとした。同月19日、弁護士6人で構成する県の第三者調査委員会が報告書を公表し、文書の配布は公益通報に当たるとしたうえで、通報者を捜し出した行為は公益通報者保護法に照らして違法と結論づけ、処分理由の一つを告発文書の作成・配布としたことは違法であってその部分について行われた懲戒処分は効力を有しないと判断した。文書には数多くの真実と真実相当性のある事項が含まれているとも評価している。

この事案で県から職員への損害賠償請求はなされていない。しかし、通報を「誹謗中傷」と位置づける判断が組織内で共有された時点で、通報者は加害者として扱われる。加害者という認識が固定すれば、賠償請求という発想が生じるまでの距離は短い。第7条が想定する事態の入口が、ここにある。

自治体の実務担当者にとっての教訓は次の三点に整理できる。

第一に、公益通報該当性の判断を、被通報者やその近い立場の者に委ねてはならない。第三者委員会報告書が「極めて不当」としたのは、疑惑を指摘された当事者が調査に関与した点である。指針は、組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置をとることを求めている。

第二に、通報者探索は、第11条の3の施行後は明文の禁止に触れる。地方公共団体向けガイドラインも、各地方公共団体は、職員等が、第11条の3の規定による正当な理由がある場合を除いて、通報者探索を行うことを防ぐ措置をとる、と定める。指針の解説は、通報者探索は原則として許容されるものではなく、「正当な理由」は限定的な場合に留まるべきであり、匿名の通報について、通報者が具体的にどのような局面で不正を認識したのか等を特定したうえでなければ必要な調査や是正ができない場合に、第12条の守秘義務を負う従事者が通報者の特定につながる事項を問うことは該当し得る、との考え方を示している。

第三に、公益通報に該当しないと判断した場合でも、その判断が誤っていた場合の是正経路を用意しておく必要がある。地方公共団体向けガイドラインは、通報を受理しないときは受理しない旨およびその理由を通報者に遅滞なく通知することを求め、通報対応に関して通報者等から意見または苦情の申出を受けたときは迅速かつ適切に対応するよう努めることを定める。判断を誤った場合に軌道修正する機会は、この通知と苦情対応の中にしかない。

8.5 令和7年改正が自治体に課した新たな緊張

地方公共団体向けガイドラインは、令和7年6月の法改正により、公益通報を理由として分限免職または懲戒処分が行われた場合、任命権者であるか否かを問わず、実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が罰則の対象になり得ることに特に留意されたいとしている。ただし、形式的に分限免職または懲戒処分の意思表示をした者が直ちに罰則の対象となるわけではない、との留保も付されている。

損害賠償請求は第7条により封じられ、懲戒処分は第21条第1項の刑事罰の対象になり得る。通報者に対する報復の主要な経路が、民事・刑事の両面から塞がれた。


9. 指針および指針の解説の位置づけ

第7条は、第11条第4項に基づく指針の対象ではない。指針は第11条第1項および第2項の体制整備義務に関する事項を定めるものであり、第7条は事業者の請求権を直接に制約する私法上の規定だからである。

もっとも、第7条が現実に機能するかどうかは、体制整備の質に左右される。指針の解説は、指針本文、指針の趣旨、指針を遵守するための考え方や具体例、その他に推奨される考え方や具体例という四層の構造をとっており、第7条に関わるのは「不利益な取扱いの防止に関する措置」と「範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置」である。

9.1 不利益な取扱いの防止に関する措置

指針本文は次のとおり定める。

イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

指針の趣旨は、通報対象事実を知ったとしても不利益な取扱いを受ける懸念があれば公益通報を躊躇することが想定されるとしたうえ、禁止するだけでなくあらかじめ防止する措置が必要であり、実際に発生した場合には救済・回復の措置と行為者への厳正な対処を明確にすることにより、公益通報を行うことで不利益な取扱いを受けることがないという認識を持たせることが必要であると説く。行政機関等への通報および3号通報についても同様の措置がとられる必要があるとされている点も見落とせない。

指針を遵守するための考え方や具体例では、精神上・生活上の取扱いに関する不利益として、公益通報をしたことを理由として業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させることが挙げられ、防止措置として労働者等および役員に対する周知・啓発、窓口での不利益取扱いに関する相談の受付、被通報者が公益通報者の存在を知り得る場合に被通報者へ注意喚起をすることが示される。把握のための措置としては、公益通報者に対して能動的に確認すること、不利益な取扱いを受けた際には窓口等の担当部署に連絡するようその旨と部署名をあらかじめ伝えておくことが挙げられている。

その他に推奨される考え方や具体例では、関係会社・取引先からの通報を受け付けている場合に、公益通報者が当該関係会社・取引先の労働者等、特定受託業務従事者または役員であるときは、秘密保持に配慮しつつ、可能な範囲で当該関係会社・取引先に対し、公益通報者へのフォローアップや保護を要請するなどの措置を講ずることが望ましいとされる。令和8年3月31日の改正で「特定受託業務従事者」が明示的に加えられた箇所である。

損害賠償請求は「不利益な取扱い」の一形態でもある。第7条は請求権を封じ、指針は請求に至る前の段階で組織的に抑止する。役割分担がこのように整理される。

9.2 範囲外共有、通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置

令和8年3月31日の改正で、旧「範囲外共有等の防止に関する措置」が本項目名に改められ、指針本文に通報妨害行為の防止(ロ)と通報者探索の防止(ハ)が加えられた。

イ 事業者の労働者及び役員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

ロ 法第11条の2第1項の規定による正当な理由がある場合を除いて、事業者の労働者及び役員等が通報妨害行為を行うことを防ぐための措置をとる。

ハ 法第11条の3の規定による正当な理由がある場合を除いて、事業者の労働者及び役員等が、通報者探索を行うことを防ぐための措置をとる。

ニ 範囲外共有、通報妨害行為及び通報者探索が行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

指針を遵守するための考え方や具体例では、通報妨害行為は原則として許容されるものではなく「正当な理由」は限定的な場合に留まるべきであるとしたうえ、労働者に対して特段の根拠もないのに単なる思い込みで報道機関や取引先等に通報行為をしないよう文書または口頭で求めることは正当な理由に該当し得るとの考え方が示されている。

損害賠償請求をちらつかせて通報を思いとどまらせる行為は、第7条により請求そのものが成り立たない以上、「正当な理由」を欠く通報妨害と評価される。第7条と第11条の2は、こうして接続する。


10. 用語解説

不法行為責任(民法第709条) 故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者が負う損害賠償責任。事業者が通報者に対して「虚偽の事実を流布して信用を毀損した」と主張する場合の典型的な法的構成である。

債務不履行責任(民法第415条) 契約上の債務を履行しなかった者が負う損害賠償責任。労働契約に付随する誠実義務や秘密保持義務の違反を理由とする請求がこれに当たる。

強行規定 当事者の合意によって適用を排除できない規定。第7条はこれに当たり、通報前に交わされた賠償の誓約は効力を持たない。

範囲外共有 公益通報者を特定させる事項を、必要最小限の範囲を超えて共有する行為。指針が防止措置を求める対象である。

通報者探索 公益通報者を特定することを目的とする行為。第11条の3が正当な理由がある場合を除いて禁止する。

真実相当性 通報内容が真実であると信じるについて相当の理由があること。真実性の証明までは求められない。神社本庁事件が示した三要件の第一要素である。

違法性阻却 形式的には違法な行為に見えても、正当な目的と手段の相当性が認められることで違法性が失われること。第7条の射程外の通報が保護される主要な経路である。

対抗訴訟 不都合な発言や告発を封じる目的で提起される訴訟。勝訴を目的とせず、相手方に訴訟対応の負担を課すこと自体を狙いとする。最判昭和63年1月26日の枠組みにより、不法行為と評価され得る。

解雇等特定不利益取扱い 第3条第2項の定義。解雇、および懲戒(労働基準法第89条第9号に基づき就業規則に定めた制裁または労働契約に定めた制裁)としてされた不利益な取扱いを指す。第3条第3項の推定規定と第21条第1項の刑事罰の対象範囲を画する概念である。


11. 実務チェックリスト

11.1 企業向け

内部規程

  • 公益通報を理由とする損害賠償請求を行わない旨を内部規程に明記したか
  • 通報者だけでなく、調査協力者、相談を受けた者にも同様の取扱いを及ぼす条項を置いたか
  • 業務委託契約の違約金条項・秘密保持条項に、公益通報を除外する定めを置いたか
  • 就業規則の損害賠償条項に、公益通報を除外する定めを置いたか
  • 誓約書、退職時合意書、和解書の雛形に、通報を制約する文言が残っていないか点検したか

判断プロセス

  • 通報者への損害賠償請求を検討する場合、窓口所管部門と法務部門の合議を必須とする手続を定めたか
  • 通報行為と付随行為(資料持出し等)を切り分けて評価する手順を定めたか
  • 公益通報に該当しないと判断した場合の、判断者、判断理由の記録、通報者への通知の手順を定めたか

対象範囲

  • フリーランスとの業務委託契約について、契約解除・取引数量削減・報酬減額と損害賠償請求の双方が禁じられることを、発注部門に周知したか
  • 取引先事業者(第2条第1項第4号)の従業員から自社への通報があり得ることを、調達・購買部門が理解しているか
  • 退職者からの通報について、退職金の減額・不支給や返還請求を行わない運用を確認したか

証拠保全

  • 通報者が資料を無断で持ち出さずに済むよう、窓口へ相談すれば証拠を適法に保全できる手続を用意し、周知したか

11.2 地方公共団体向け

制度設計

  • 内部公益通報に関する要綱・規程に、公益通報を理由とする損害賠償請求を行わない旨を明記したか
  • 第9条の読替えが第7条には及ばず、自治体にも第7条がそのまま適用されることを、人事・法務担当が理解しているか
  • 内部公益通報受付窓口を、全部局の総合調整を行う部局またはコンプライアンスを所掌する部局等に設置したか
  • 外部に弁護士等を配置した窓口を設けたか、または設ける努力をしているか

独立性・利益相反

  • 組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置をとっているか
  • 事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとっているか
  • 通報対応の各段階で、関与者が利益相反関係を有していないかを確認する運用になっているか

通報者探索の防止

  • 職員等が、正当な理由がある場合を除いて通報者探索を行うことを防ぐ措置をとったか
  • 「正当な理由」に当たるのは、従事者が調査上不可欠な範囲で問う場合など限定的であることを、幹部職員に周知したか
  • 被通報者側への事情聴取に際し、通報者が推知される内容を伝えない運用を確立したか

判断と通知

  • 公益通報に該当しないと判断した場合、その旨と理由を通報者に遅滞なく通知する手順を定めたか
  • 通報者等からの意見・苦情の申出に迅速に対応する経路を用意したか
  • 通報対応の終了後、不利益な取扱いが行われていないかを適宜確認するフォローアップの手順を定めたか

救済制度の周知

  • 人事委員会・公平委員会への不利益処分についての審査請求(地方公務員法第49条の2)、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)、苦情相談制度を職員に周知したか

罰則リスク

  • 公益通報を理由とする分限免職・懲戒処分について、実質的な意思決定をした者や関与した者が罰則の対象になり得ることを、幹部職員に周知したか

12. 第7条を実務で運用するための三つの視点

第一に、第7条は「請求しない」という運用の問題ではなく、請求権が存在しないという実体の問題である。稟議で慎重に判断する対象ではなく、そもそも選択肢に載らない。この理解が組織で共有されていなければ、現場は「損害が出たのだから請求できるはずだ」という素朴な発想に流れる。

第二に、第7条の外側にある領域こそ紛争の場になる。資料持出し、公益通報該当性を欠く通報、通報に含まれない中傷。これらは第7条では処理できず、真実相当性・目的・手段の相当性という一般法理で判断される。判断を誤れば、事業者側が不法行為責任を負う側に回る。

第三に、第7条が真に守るのは通報者ではなく、事業者の自浄作用である。通報者が賠償請求を恐れて沈黙すれば、法令違反は組織の外部で、より大きな損害を伴って発覚する。第7条を「事業者を縛る規定」と読むか「事業者を守る規定」と読むかで、体制整備の質が分かれる。


13. 参考資料

  • 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正)
  • 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(令和3年10月13日消費者庁。令和8年3月31日最終改正)
  • 地方公共団体における公益通報者保護法に基づく内部公益通報対応体制の整備等に関するガイドライン(令和8年3月31日改正)
  • 公益通報ハンドブック(改正法準拠版)(消費者庁)
  • 公益通報者保護制度に関する近時の裁判例(消費者庁)
  • 消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室編『逐条解説 公益通報者保護法〔第2版〕』(商事法務)
  • 兵庫県議会調査特別委員会(百条委員会)調査報告書(令和7年3月4日)
  • 兵庫県第三者調査委員会調査報告書(令和7年3月19日)

次回は第8条(解釈規定)を扱う。第7条までの規定が他の法令とどう競合し、どう住み分けるか。労働契約法第14条から第16条まで、フリーランス法第5条・第6条第3項との関係を含め、令和7年改正で大きく書き換えられた条文である。

◆通報窓口を受任中。希望組織はまず問い合わせを。https://compliance21.com/contact/

Follow me!