1 条文(令和8年12月1日施行版)

(役員に対する不利益取扱いの禁止等)

第六条 第二条第一項第五号に定める事業者(同号イに掲げる事業者に限る。次項及び第八条第四項において同じ。)は、その職務を行わせ、又は行わせていた役員である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、報酬の減額その他不利益な取扱い(解任を除く。)をしてはならない。

一 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該役務提供先等に対する公益通報

二 次のいずれかに該当する場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報

イ 調査是正措置(善良な管理者と同一の注意をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置をいう。次号イにおいて同じ。)をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

三 次のいずれかに該当する場合 その者に対し通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報

イ 調査是正措置をとることに努めたにもかかわらず、なお当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合

(1) 前二号に定める公益通報をすれば解任、報酬の減額その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(2) 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合

(3) 役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合

ロ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。)の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

2 役員である公益通報者は、前項各号に定める公益通報をしたことを理由として第二条第一項第五号に定める事業者から解任された場合には、当該事業者に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

(令二法五一・追加、令七法六二・一部改正)

第2号ロ及び第3号ロの「財産に対する損害」の意味は、第3条第1項第3号ヘの括弧書によって画されている。すなわち「回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするもの」に限られる。第6条の条文だけを読んでも範囲が分からない仕組みになっているため、第3条とセットで読む必要がある。


2 旧法との対照

2-1 条文の移動が起きた

改正前(令和4年6月1日施行版)は、役員の保護が2か条に分かれていた。

事項旧法新法
見出し第5条「不利益取扱いの禁止」/第6条「役員を解任された場合の損害賠償請求」第6条「役員に対する不利益取扱いの禁止等」
解任以外の不利益取扱いの禁止第5条第3項第6条第1項
保護要件(1号〜3号通報)第6条各号第6条第1項各号(内容は不変)
解任時の損害賠償請求権第6条柱書第6条第2項
役員を定める条項第2条第1項第4号第2条第1項第5号

令和7年法律第62号は、旧第5条第3項の禁止規範を第6条第1項に移し、旧第6条柱書の損害賠償請求権を第6条第2項として置き直した。改正法の条文操作としては「第六条に次の一項を加える」という形をとっており、保護要件を定める各号(一〜三)そのものには手が入っていない。したがって、調査是正措置の努力を求める枠組みも、生命・身体等への急迫危険がある場合にその努力を免除する枠組みも、令和2年改正で導入されたものがそのまま維持されている。

役員に関する規律を1か条に束ねたのは、フリーランス(特定受託業務従事者)が第2条第1項第3号として新設され、役員が第4号から第5号へ繰り下がったことに伴う整理でもある。旧法では第5条が「労働者・派遣労働者・役員」の三者を寄せ集めた雑居条文になっていたが、新法は第3条=労働者、第4条=派遣労働者、第5条=フリーランス、第6条=役員という主体別の並びに組み替えられた。条文を引く際、旧法の「第5条第3項」を根拠に社内規程を書いている組織は、条番号の差し替えが必要になる。

2-2 第8条第4項の引用も変わった

旧第8条第4項は「第六条の規定は……」と定めていたが、新法は「第六条第二項の規定は……」に改められ、あわせて「第二条第一項第四号」が「第五号」に改められた。第6条が2項構成になったことに対応した技術的改正である。

2-3 役員通報を取り巻く周辺規律が厚くなった

第6条本体の要件は動いていないが、役員が通報する環境は改正によって大きく変わった。

第一に、通報対象事実の範囲である。第2条第3項第1号は「この法律及び……別表に掲げるもの」と定め、公益通報者保護法違反そのものが通報対象事実に組み込まれた。役員が「当社は通報者探索をしている」「従事者が公益通報者を特定させる事項を漏らした」と通報する行為が、それ自体で公益通報となる。

第二に、第11条第1項及び第2項は「第三条第一項第一号及び第六条第一項第一号に定める公益通報」と明記した。役員からの内部公益通報を受ける体制の整備と従事者の指定が、法文上の義務の対象に入っている。

第三に、第11条の2(通報妨害の禁止等)と第11条の3(通報者探索の禁止)は、いずれも「第二条第一項各号に定める事業者は、当該各号に掲げる者に対して」と規定する。第5号の役員が含まれるのは当然として、第5号ロの取引先事業者も名宛人となる。第6条が第5号イに限定されているのと対照的で、通報妨害と探索の禁止のほうが射程が広い。しかも第11条の2第2項により、通報しない旨の合意は無効となる。役員就任時の誓約書や退任時の合意書に守秘条項を盛り込んで通報を封じる実務は、この規定に正面から抵触する。

第四に、第13条第1項・第2項が「第六条第一項第二号に定める公益通報」を明記し、権限を有する行政機関の調査義務と体制整備義務の対象に役員からの2号通報を含めた。


3 趣旨と立法背景

3-1 役員は労働法の外側にいる

役員と会社の関係は委任である(会社法330条)。役員は善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負い(民法644条)、その対価として報酬を受ける。労働契約ではないから、労働基準法の解雇予告も、労働契約法16条の解雇権濫用法理も適用されない。会社法339条1項は、株主総会がいつでも役員を解任できると定める。任期途中でも、理由を示さなくても、普通決議(監査役については特別決議)が通れば地位を失う。

この構造は、株主による経営者の監督という会社法の根幹に属する。ところが不正の発見という観点では、役員こそ最も早く、最も深く事実を知る立場にある。取締役会に上がる資料、監査役に届く監査調書、稟議の決裁欄。そこに現れた異常を通報した瞬間に、通報された側が株主総会を動かして通報者を追い出せるとすれば、通報は事実上封じられる。

3-2 「無効」ではなく「損害賠償」を選んだ理由

第3条第2項は、労働者に対する解雇等特定不利益取扱いを無効とする。第4条第2項は労働者派遣契約の解除を無効とする。ところが第6条は、解任を無効としない。解任を無効とすれば、その者は取締役の地位を保持し続けることになり、株主総会決議の効力、その後の取締役会決議の有効性、商業登記の記載といった会社法上の法律関係が一斉に不安定になる。会社の意思決定機構そのものを揺るがす副作用が大きい。

そこで法は、地位の回復は諦め、経済的な填補で応じることにした。第6条第2項の損害賠償請求権である。会社法339条2項が「正当な理由がある場合を除き」損害賠償を認めるのに対し、第6条第2項は公益通報を理由とする解任であれば足り、正当理由の有無という争点を経由しない。原告となる元役員にとって、立証すべき事柄が一つ減る意味は小さくない。

なお第8条第4項は、第6条第2項が会社法339条2項等の適用を妨げないと定める。両者は選択的に、あるいは併存的に主張できる。

3-3 解任だけを別扱いした結果として生じた線引き

第1項は「報酬の減額その他不利益な取扱い(解任を除く。)」を禁止し、第2項が解任を扱う。つまり第6条の内部で、解任か否かによって法効果が分岐する。

ここで実務上の分水嶺になるのが、代表取締役や役付取締役からの解職である。会社法362条2項3号に基づく代表取締役の解職は、取締役会決議によって代表権を奪う行為であり、取締役の地位そのものは残る。「解任」ではないから、第1項の「その他不利益な取扱い」として端的に禁止される。禁止規範に違反した解職の私法上の効力については条文が沈黙しているが、公序に反する行為として無効を主張し、あるいは不法行為に基づく損害賠償を求める余地がある。

任期満了時に再任しない扱い(不再任)も論点となる。任期満了による退任は解任ではない。株主総会が誰を選任するかは株主の判断に属するから、不再任を一律に「不利益な取扱い」と評価するのは会社法の建付けと衝突する。もっとも、通報の直後に、他の役員は全員再任し当該役員だけを候補者名簿から外すといった経緯があれば、実質的な報復として第1項の適用を検討すべき場面が生じる。


4 用語解説

4-1 役員

第2条第1項柱書の括弧書が定義する。法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人、並びにこれら以外の者で法令の規定に基づき法人の経営に従事している者をいう。会計監査人は除かれる。

いわゆる執行役員は、会社法上の機関ではなく、この定義に当たらないのが原則である。雇用契約に基づく執行役員は労働者として第3条の保護を受け、委任契約型の執行役員は第3条にも第6条にも乗らない空白に落ちる可能性がある。第2条第1項第1号の「労働者」(労働基準法9条)に当たるかを実質で判断することになるため、委任型執行役員を置く企業は、内部規程で公益通報者保護法と同等の保護を及ぼす旨を定めておくのが安全である。

持分会社の業務執行社員、一般社団法人・一般財団法人の理事及び監事、社会福祉法人の理事及び監事、医療法人の理事及び監事、地方独立行政法人の理事長・理事・監事は、いずれも「法令の規定に基づき法人の経営に従事している者」ないし条文列挙の「理事」「監事」に該当する。

4-2 第2条第1項第5号のイとロ

イは「当該役員に職務を行わせる事業者」、すなわち自社である。ロは「イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者」、すなわち取引先である。

第6条第1項の括弧書は「同号イに掲げる事業者に限る」とし、これが「次項及び第八条第四項において同じ」と及ぶ。したがって第6条の禁止も損害賠償請求権も、自社に対してのみ働く。役員が取引先の不正を取引先に通報しても、取引先から報酬減額等の不利益を受けたときに第6条を使うことはできない。取引先は自社の役員を解任する権限を持たないから、この限定には一応の合理性がある。ただし前述のとおり、第7条(損害賠償の制限)、第11条の2、第11条の3は「第二条第一項各号に定める事業者」を名宛人とするため、ロの取引先も拘束される。

4-3 不利益な取扱い

第1項が例示するのは報酬の減額のみだが、「その他不利益な取扱い」は広い。想定されるものとして、代表取締役・役付取締役からの解職、担当職務の剥奪、取締役会招集通知の不送付や重要資料の非開示、子会社役員への処遇変更、退職慰労金の不支給ないし減額、社内での孤立化や誹謗、任期途中での辞任強要が挙げられる。

報酬減額については、会社法上も別のハードルがある。最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁は、取締役の報酬額が株主総会決議によって具体的に定められた場合、その報酬額は会社と取締役間の契約内容となり、取締役の同意がない限り一方的に減額することはできないとした。公益通報を理由とする報酬減額は、第6条第1項に違反すると同時に、会社法上も効力を持たない。

4-4 調査是正措置

第2号イが定義する。善良な管理者と同一の注意をもって行う、通報対象事実の調査及びその是正のために必要な措置をいう。役員が負う善管注意義務の水準そのものを、通報の前提要件に取り込んだ規定である。

労働者には課されない役員固有の要件である理由は明快で、役員は組織を是正する権限と義務を現に持っているからである。取締役会に議題として上程する、監査役や監査等委員会に報告する、内部調査を指示する、外部の弁護士や会計士に調査を委嘱する、代表取締役に是正を求める、臨時株主総会の招集を請求する。これらの手段を持つ者が、社内で何もせずいきなり監督官庁や報道機関に持ち込むことは想定されていない。

会社法もこれを裏打ちしている。取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実を発見したときは、直ちに株主(監査役設置会社では監査役)に報告しなければならない(会社法357条)。監査役は取締役の不正行為等を取締役会に報告する義務を負い(同382条)、取締役の違法行為を差し止める権限を持ち(同385条)、株主総会に報告する義務も負う(同384条)。

4-5 「とることに努めた」

条文は「調査是正措置をとることに努めたにもかかわらず」と書く。是正の結果が出たことまでは求めていない。取締役会に上程したが握りつぶされた、監査役に報告したが動かない、代表取締役に直談判したが拒否された。こうした経過を経てなお通報対象事実が存在すると信ずるに足りる相当の理由があれば、要件を満たす。

実務上の帰結として、役員は自分が社内で行った是正の努力を記録に残しておく必要がある。取締役会議事録への発言記載の要求、監査役宛て報告書の写しと送付記録、代表取締役に宛てたメールの保存。後に第6条の保護を主張する局面で、これらが唯一の証拠になる。

4-6 調査是正措置が免除される場合

第2号ロ及び第3号ロは、通報対象事実の存在について相当の理由があり、かつ個人の生命・身体に対する危害、又は個人の財産に対する損害が発生し若しくは発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合に、調査是正措置の努力を要求しない。

食品への異物混入、建築物の構造計算偽装、医療機器の欠陥、化学物質の違法排出。社内手続を踏んでいる間に人が死ぬ類型では、内部での努力を待たずに直ちに監督官庁や報道機関へ通報しても保護される。この場合の「財産に対する損害」は第3条第1項第3号ヘの限定を受け、回復不能な損害か、著しく多数の個人における多額の損害で、通報対象事実を直接の原因とするものに限られる。投資詐欺による多数被害者の被害が典型例となる。

4-7 3号通報の相手方

「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」をいい、第2条第1項柱書により、被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、役務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者は除かれる。報道機関、消費者団体、被害者、取引先が典型で、競業他社は除外される。


5 労働者と役員の保護要件の落差

第6条第1項各号と第3条第1項各号を並べると、役員に課された要件の重さが浮かび上がる。

通報先労働者(第3条第1項)役員(第6条第1項)
1号(役務提供先等)通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料同左
2号(行政機関等)①相当の理由がある場合、又は②思料し、かつ氏名・住所、事実の内容、思料する理由、措置がとられるべきと思料する理由を記載した書面を提出する場合①調査是正措置の努力+相当の理由(イ)、又は②相当の理由+生命身体・財産への急迫危険(ロ)
3号(外部)相当の理由+イ〜ヘの6類型のいずれか(不利益取扱いのおそれ、証拠隠滅のおそれ、秘密漏えいのおそれ、通報しないことの要求、書面通報後20日の不作為、生命身体・財産への急迫危険)①調査是正措置の努力+相当の理由+(1)〜(3)の3類型のいずれか(不利益取扱いのおそれ、証拠隠滅のおそれ、通報しないことの要求)、又は②相当の理由+急迫危険(ロ)

差は3点ある。第一に、2号通報における書面提出ルートが役員にはない。労働者は確信がなくても4項目を書いた書面を出せば行政機関に通報できるが、役員はこのルートを使えない。第二に、3号通報の類型から「20日経過ルート」と「秘密漏えいのおそれ」が落ちている。第三に、急迫危険の場合を除いて、常に調査是正措置の努力が前置される。

1号通報だけは労働者と同じ「思料」で足りる。役員がまず社内の内部公益通報受付窓口や監査役に通報することが、法の想定する第一手である。


6 判例・裁判例

6-1 会社法339条2項の「正当な理由」

最判昭和57年1月21日判時1037号129頁は、持病により療養に専念する必要が生じ、取締役としての職務執行に支障を来す状態にあった者の解任について、正当な理由があるとした。「正当な理由」は、職務執行の適格性を欠く客観的事情が必要とされ、株主と経営陣の対立や経営方針の不一致だけでは足りないと理解されている。

益通報を理由とする解任は、この基準に照らせば正当な理由を欠く典型例に当たる。第6条第2項は、そこに至る評価判断を経ずに賠償を認める点で通報者を助ける。ただし会社が「解任は通報とは無関係で、業績不振や職務怠慢が理由である」と主張してきた場合、通報と解任の因果関係の立証は通報者側が負う。第3条第3項のような1年以内の推定規定は役員に適用されない。取締役会での発言記録、通報から解任までの日数、他の役員の処遇との比較、株主総会招集の経緯といった間接事実を積み上げる作業になる。

6-2 監査役の是正義務を具体化したセイクレスト事件

大阪高判平成27年5月21日判時2279号96頁(原審・大阪地判平成25年12月26日金判1435号42頁、上告不受理)。ジャスダック上場の不動産会社が破綻した事案で、破産管財人が非常勤の社外監査役(公認会計士)の善管注意義務違反を追及した。

代表取締役は、調達資金を合理性の疑わしい使途に費消し、5億円相当の山林を20億円と評価して現物出資を受け、個人コンサルタントの紹介先に多額の約束手形を振り出すなど、上場廃止回避を目的とした違法・不当な業務執行を重ねていた。監査役会は取締役会に意見書を提出して反対意見を述べてはいたが、それ以上の行動をとらなかった。

裁判所は、監査役には取締役会に対して内部統制システムを直ちに構築するよう勧告すべき義務、及び代表取締役の解職と取締役解任決議を目的とする臨時株主総会の招集を勧告すべき義務があり、これを怠った任務懈怠があると判断した。重過失は否定され、責任限定契約により賠償額は監査役報酬2年分に限定された。

この判決は、第6条第1項第2号イの「調査是正措置をとることに努めた」といえる水準を測る素材になる。反対意見を述べただけでは足りない、というのが裁判所の評価だからである。裏を返せば、内部統制構築の勧告や臨時株主総会招集の勧告といった行動をとった役員は、調査是正措置の努力を尽くしたと評価される可能性が高い。

6-3 公表しない判断が善管注意義務違反とされたダスキン事件

大阪高判平成18年6月9日判時1979号115頁・判タ1214号115頁(最決平成20年2月12日により確定)。無認可添加物を含む肉まんを販売していた事実を認識した後、取締役会が「自ら積極的に公表しない」との方針をとったことについて、経営判断原則の適用を認めず、善管注意義務違反を認定した。直接不祥事に関与していない取締役・監査役11名に対し、認識時期に応じて総額約5億5,800万円の賠償を命じた。別途分離審理された元取締役2名については、大阪高判平成19年1月18日が連帯して53億4,350万円の責任を認めている。

役員が「通報しない」「公表しない」という選択をした場合、その不作為自体が責任原因になり得ることを示した判決である。第6条は通報した役員を守る規定だが、その裏側には、通報しなかった役員が会社に対して責任を負うという構造がある。役員にとって通報は権利であると同時に、善管注意義務の履行手段でもある。

6-4 行政機関への届出を義務とした蛇の目ミシン工業事件

最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁。反社会的勢力からの脅迫を受けて多額の利益供与に応じた取締役の責任が争われた。最高裁は、脅迫に屈するのではなく警察に届け出るなどの適切な対応をとるべきであったとして、善管注意義務違反を認める余地があるとした。

行政機関への通報が役員の義務となる場面があることを示す判例である。第6条第1項第2号は、その義務を果たした役員に不利益取扱いからの保護を与える規定と読める。

6-5 内部統制システム構築義務の起点となった大和銀行事件

大阪地判平成12年9月20日判時1721号3頁。ニューヨーク支店における巨額損失の隠蔽事案で、取締役はリスク管理体制を構築すべき善管注意義務・忠実義務を負い、代表取締役及び業務担当取締役はその義務の履行を監視する義務を負うとした。通報を受け止める仕組みを整えることが役員の義務であるという理解の出発点にある。

6-6 労働者事案から役員通報に引き写せる論点

オリンパス事件(東京高判平成23年8月31日、最決平成24年6月28日により確定)は、コンプライアンス室が通報者の氏名を通報対象者である上司に伝えた行為を運用規定違反の守秘義務違反とし、その後の配転を業務上の必要性を欠く制裁的人事として無効とし、会社と事業部長に連帯して220万円の支払を命じた。確定後も処遇改善が進まず、通報者は再度の訴訟提起を余儀なくされ、平成28年2月18日に解決金1,100万円等を内容とする和解が成立している。範囲外共有が報復の引き金になる構造は、通報者が役員であっても変わらない。むしろ役員通報は母数が小さいため、通報内容から通報者が特定されやすい。

トナミ運輸事件(富山地判平成17年2月23日労判891号12頁)は、闇カルテルを告発した従業員が約30年にわたり昇格・昇給の機会を奪われた事案で、1,356万円の賠償を認めた。長期にわたる処遇差別が不利益取扱いに当たることを示す。役員でいえば、報酬テーブルの据置きや業績連動報酬の恣意的な低査定が同種の問題を生む。


7 企業における事例

7-1 代表取締役の解職という形をとった排除

2011年10月、オリンパスは英国人の代表取締役社長を取締役会決議で解職した。解職に先立ち、当該社長は過去の企業買収に関する巨額の資金支出について、社内で説明を求め、監査法人のレポートを取締役会に提示して調査を要求していた。解職後に不正の内容が公になり、同社は過年度決算の訂正に至った。元社長は英国の雇用審判所に申立てを行い、2012年6月に和解が成立している。

日本法の枠組みに置き換えると、代表権を奪う解職は取締役の地位を失わせるものではないため「解任」ではなく、第6条第1項の「その他不利益な取扱い」に位置づけられる。社内での説明要求と資料提示は、第2号イの調査是正措置に当たる行為である。この事案は、役員の通報が「解任」という分かりやすい形ではなく、解職・担当外し・情報遮断という形で報復されることを示している。第6条第1項の射程を広く理解しておく必要がある所以である。

7-2 監査機関が機能しなかった型

2015年に公表された大手電機メーカーの第三者委員会調査報告書は、経営トップからの「チャレンジ」と呼ばれる目標必達要求の下で不適切な会計処理が継続し、監査委員会がこれを是正できなかった経緯を明らかにした。財務に精通した委員が在任していたにもかかわらず、指摘が組織的な是正につながらなかった点が問題とされた。

第6条の観点から見ると、監査機関の構成員である役員が異議を述べても組織が動かない場合こそ、第2号イの「調査是正措置をとることに努めたにもかかわらず」に該当する典型場面である。役員は、社内で通らなかった段階で行政機関への通報という選択肢を法的に確保している。

7-3 通報が役員に届かない設計

内部公益通報受付窓口を人事部や総務部に置き、受付結果の報告先を代表取締役のみとしている企業は少なくない。通報対象者が代表取締役であった場合、この設計では通報がそのまま通報対象者の手元に届く。指針は、組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置を求めている。

役員から見ると、この設計の不備は第6条第1項第3号イ(2)(証拠隠滅のおそれ)や(1)(不利益取扱いのおそれ)の相当性を基礎づける事情になり得る。体制の不備が、そのまま外部通報の正当化事由に転化する構造である。


8 地方公共団体における事例

8-1 地方公共団体そのものと「役員」

地方公共団体は法人である(地方自治法2条1項)。もっとも、長、副知事・副市町村長、教育長、各種行政委員会の委員は、地方自治法や個別法に基づく機関であって、会社法にいう取締役等ではない。第2条第1項柱書の「これら以外の者で法令の規定に基づき法人の経営に従事している者」に当たるかは解釈に委ねられるが、実務上は、これらの者は職員と同じく第3条の枠組み、あるいは第9条の読替えによって処理される場面が多い。消費者庁の地方公共団体向けガイドラインも、長や幹部を「組織の長その他幹部」として扱い、そこからの独立性確保を求める構成をとっている。

第6条が地方公共団体の現場で正面から働くのは、次の類型である。

第一に、地方独立行政法人(公立大学法人、公立病院機構、公営企業型地方独立行政法人)の理事長・理事・監事。これらは条文列挙の「理事」「監事」に該当する。任命及び解任の権限は設立団体の長にあるが、第6条第2項の損害賠償請求の相手方は「事業者」すなわち法人自身である。設立団体の長の解任行為を法人の行為として構成できるかは、実務上の検討課題となる。

第二に、第三セクター(地方公共団体が出資する株式会社、一般社団法人、一般財団法人)の取締役・監査役・理事・監事。自治体が株主・社員として議決権を行使して解任するケースでは、請求の相手方はあくまで当該法人である。

第三に、指定管理者や委託先である社会福祉法人・医療法人の理事・監事。この場合、自治体は「役務提供先」ではなく監督権限を持つ行政機関である。したがって当該法人の理事が自治体の所管課に不正を通報する行為は1号通報ではなく2号通報となり、調査是正措置の努力が原則として前置される。法人内部での是正努力を尽くさずに所管課へ持ち込むと第6条の保護を受けられない可能性がある点は、指定管理者側にも自治体側にも周知が要る。

8-2 幹部が通報対象者である場合の構造的困難

兵庫県の文書問題は、通報対応の設計思想を検証する素材となった。令和6年3月、県の元西播磨県民局長が知事らの言動に関する文書を報道機関等に配布し、同年4月に県の公益通報窓口にも通報した。県は文書の作成者を特定する調査を行い、5月に停職3か月の懲戒処分を行った。

県議会の文書問題調査特別委員会(百条委員会)は令和7年3月4日付の調査報告書で、記者会見で文書作成者を公にしたことなどが指針の範囲外共有等の防止に関する措置に反する対応であると指摘した。県が設置した「文書問題に関する第三者調査委員会」は令和7年3月19日に調査報告書を提出し、文書の配布を公益通報に当たると評価したうえで、通報者を探索した行為を公益通報者保護法に照らして違法と結論づけ、告発文書の作成・配布を処分理由の一つとした懲戒処分はその部分について効力を有しないとした。なお、通報の目的や公益通報該当性の判断について、報告書の評価に異論を示す論者もいる。

この事案の通報者は職員であって役員ではない。ただし、通報対象者が組織の長とその側近であり、その者が調査に関与したという構造は、そのまま第6条の場面に移し替えられる。地方独立行政法人の監事が理事長の不正を通報した場合、通報を受けた法人内部の窓口が理事長直轄であれば、同じ経過をたどる。指針が組織の長その他幹部からの独立性確保を求めるのは、この構造を断ち切るためである。

8-3 職員の通報でも報復人事は違法とされる

京都市役所事件は、児童相談所の児童福祉司が児童虐待事案への対応について内部通報を行った後、停職3日の懲戒処分を受け、その直後に配置転換された事案である。懲戒処分取消訴訟では、京都地判令和元年8月8日及び大阪高判令和2年6月19日が、記録閲覧と新年会等での発言は懲戒事由に当たらず、非公開情報の持出しと廃棄は懲戒事由に該当するものの、持出しは内部通報に付随する証拠保全目的であり、廃棄も外部流出を防ぐためであって悪質性は低いから停職3日は重きに失するとして処分を取り消した。最高裁は令和3年1月28日に上告不受理決定をしている。

続く国家賠償請求訴訟で京都地裁は、懲戒事由に当たらない行為を懲戒事由と認定し過大な処分を選択した点に処分権者の注意義務違反を認め、弁護士費用実費1,628,800円、慰謝料300,000円、本件訴訟の弁護士費用192,880円の合計2,121,680円を損害と認定した。あわせて、停職期間明けの翌日に発令された第1配転命令についても、違法な停職処分を直接の前提とするものとして裁量権の逸脱濫用を認め、慰謝料100,000円と弁護士費用10,000円を認容した。総額223万1,680円の支払が命じられている。他方、その後の定期異動期における配転命令2件と、懲戒取消後に改めて行われた厳重文書訓戒については違法性を否定した。

証拠保全のための資料持出しが懲戒事由に当たると認定された点は、通報を検討する役員にとっても示唆がある。役員は職務上、社内資料への正当なアクセス権限を持つ場合が多いが、退任後の資料保持や社外への持出しは別問題となる。通報の準備段階で入手経路の適法性を確保しておく必要がある。

8-4 自治体が整備すべき窓口

消費者庁の地方公共団体向けガイドラインは、内部公益通報受付窓口を全部局の総合調整を行う部局又はコンプライアンスを所掌する部局等に設置したうえで、庁内窓口に加えて外部に弁護士等を配置した窓口を設けるよう努めることを求めている。責任者は幹部とし、組織の長その他幹部に関係する事案についてはこれらの者からの独立性を確保する措置をとるとされる。人員・予算の制約がある団体については、他の目的で設置された窓口の活用や、協議会の設置・機関等の共同設置・事務の委託等による他団体との連携が認められている。

出資法人や指定管理者の役員からの通報を受ける仕組みは、これらの団体の側で整えることが原則となる。もっとも、企業グループ共通窓口と同じ発想で、自治体が外郭団体共通の外部窓口を設ける取組みには合理性がある。その場合、各団体の内部規程等に「あらかじめ定め」る手当てをしなければ1号通報の受付先とならない点に注意を要する(第2条第1項柱書)。


9 指針及び指針の解説の適用

指針(内閣府告示第118号・令和8年3月31日一部改正)及び指針の解説(令和8年3月31日最終改正)は、指針本文/指針の趣旨/指針を遵守するための考え方や具体例/その他に推奨される考え方や具体例という四層構造をとる。役員に関わる箇所を、この構造に沿って読む。

9-1 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置

指針本文は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に係る公益通報対応業務に関して、組織の長その他幹部に関係する事案についてはこれらの者からの独立性を確保する措置をとること、当該内部公益通報以外の公益通報に係る通報対象事実についての調査及び是正等の対応が必要な場合にも同様の措置をとることを求める。

指針の趣旨は、組織の長その他幹部が主導・関与する法令違反行為も発生しているところ、これらの者が影響力を行使することで公益通報対応業務が適切に行われない事態を防ぐ必要があると述べる。ここでいう「幹部」は、指針の解説の脚注により、役員等の事業者の重要な業務執行の決定を行い又はその決定につき執行する者を指す。行政機関等への通報や、窓口を経由しない内部公益通報についても、調査・是正の対応が必要な場合には同様の措置が求められる。

指針を遵守するための考え方や具体例として、社外取締役や監査機関(監査役、監査等委員会、監査委員会等)にも報告を行うようにする方法、社外取締役や監査機関からモニタリングを受けながら公益通報対応業務を行う方法、窓口を事業者外部(外部委託先、親会社等)に設置する方法が挙げられている。複数窓口を設ける場合は、少なくとも一つについて独立性を確保する方法も示されている。

その他に推奨される考え方や具体例には、企業グループ本社等における子会社・関連会社の労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者からの通報を受け付ける共通窓口の設置、関係会社・取引先を含めた体制整備と運用状況の定期的な確認・評価、中小企業が共同して外部に窓口を委託すること、事業者団体や同業者組合等の共通窓口の設置が並ぶ。

役員通報の観点では、この措置が第6条の実効性を左右する。通報を受けた窓口が代表取締役の指揮下にあれば、役員は1号通報を選ばず、いきなり第2号イや第3号イのルートを検討することになる。独立性の確保は、外部通報を減らすための投資でもある。

9-2 周知に関する措置等

指針本文は、労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者に対し、法及び次の事項について周知・啓発を行うことを求める。窓口の設置に関する事項並びに連絡先及び連絡方法、組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置の内容、公益通報対応業務の実施に関する措置の内容、利益相反の排除に関する措置の内容、不利益な取扱いの防止に関する措置の内容、範囲外共有・通報妨害及び通報者探索の防止に関する措置の内容、是正措置等の通知に関する措置の内容、記録の保管・見直し改善及び運用実績の開示に関する措置の内容、調査への協力に関する事項の9項目である(退職者及び特定受託業務従事者であった者については記録保管等の項目を除く)。

指針の趣旨は、内部公益通報が適切になされるためには、これらの者が法及び事業者の内部公益通報対応体制について十分に認識している必要があると述べる。

指針を遵守するための考え方や具体例では、単に規程の内容を形式的に知らせるだけでなく、組織の長が主体的かつ継続的に制度の利用を呼び掛けることが求められるとされ、呼び掛ける事項として、コンプライアンス経営の推進における内部公益通報制度の意義、適切な通報がリスクの早期発見や企業価値の向上に資する正当な職務行為であること、要件を満たす通報を行った者への不利益な取扱いは許されないこと、秘密保持の徹底、利益追求と企業倫理が衝突した場合には企業倫理を優先すべきこと、これらが企業の発展・存亡をも左右し得ることが挙げられている。また、法について周知する際には、権限を有する行政機関等への公益通報も保護されるという点を含めて法全体の内容を伝えることが求められる。周知の方法としては、階層別研修や理解度テストなど立場・経験年数に応じた内容を用意すること、組織の長その他幹部に対しても内部統制システムにおける位置付けやリスク情報の早期把握の意義を周知することが示されている。

役員研修の実務では、第6条の内容そのものを扱う必要がある。労働者向けの通報者保護研修をそのまま役員に流用すると、調査是正措置という役員固有の要件が抜け落ち、社内で何もせずに監督官庁へ持ち込んで保護を失う事態を招く。

9-3 記録の保管、見直し・改善及び運用実績の開示

指針本文は、運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において労働者等、特定受託業務従事者及び役員に開示することを求める。令和8年改正で開示先に特定受託業務従事者が加えられた。

指針を遵守するための考え方や具体例では、定期的な評価・点検の方法として、労働者等、特定受託業務従事者及び役員に対する周知度等についてのアンケート調査(匿名も可)、担当従事者間の意見交換、内部監査及び中立・公正な外部の専門家等による確認が挙げられている。運用実績としては、過去一定期間における通報件数、是正の有無、対応の概要、通報を行いやすくするための活動状況が例示される。開示にあたっては公益通報者を特定させる事態が生じないよう留意すべきこと、公益通報とそれ以外の通報を厳密に区別する必要はないことが示されている。

9-4 質問・相談への対応と職制上のレポーティングライン

指針本文は、労働者等、役員、退職者並びに特定受託業務従事者及び特定受託業務従事者であった者から寄せられる、体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応することを求める。役員が「これは通報すべき事案か」「通報したらどうなるか」を相談できる先を用意しておくことが、社内での解決可能性を高める。

指針の解説の脚注は、職制上のレポーティングラインにおける報告やその他の労働者等及び役員に対する報告についても内部公益通報に当たり得るとする。役員が他の役員や監査役に事実を伝える行為が、窓口を経由していなくても1号通報として保護され得る。この点は、調査是正措置の努力と1号通報が事実上重なる場面が多いことを意味する。


10 実務チェックリスト

役員通報に対応できる体制になっているかを、次の項目で点検されたい。

  1. 内部規程の根拠条文が旧法の「第5条第3項」「第6条」のままになっていないか。「第6条第1項」「第6条第2項」に改めたか。
  2. 内部公益通報の主体として、労働者・派遣労働者・退職者・特定受託業務従事者に加え、役員が明記されているか。
  3. 役員からの通報を受け付ける窓口が、代表取締役の指揮命令から独立しているか。社外取締役、監査役、監査等委員会、監査委員会、又は外部の法律事務所等が受付先として機能しているか。
  4. 通報対象者が代表取締役である場合の対応フローが規程に書かれているか。誰が調査を指揮し、誰に報告するかが特定されているか。
  5. 役員向けの研修で、第6条第1項第2号イ及び第3号イの調査是正措置の要件を説明しているか。社内で努力を尽くさずに外部へ通報した場合に保護を失い得ることを伝えているか。
  6. 役員が社内で行った是正の申入れを記録に残す運用(取締役会議事録への発言記載、監査役宛て報告書の受領記録)が確立しているか。
  7. 役員報酬の決定手続に、公益通報を理由とする減額を防ぐ牽制が組み込まれているか。報酬諮問委員会や社外役員による確認プロセスがあるか。
  8. 代表取締役・役付取締役の解職、担当職務の変更、取締役会資料の配付範囲の変更が、通報後に行われる場合の妥当性検証手続があるか。
  9. 役員選任議案の作成過程で、通報を行った役員の不再任が検討される場合に、理由の記録と第三者の関与を確保しているか。
  10. 役員就任時の誓約書、退任合意書、和解契約書に、通報を制限する条項が含まれていないか。第11条の2第2項により無効となる条項を残していないか。
  11. 通報者探索の禁止(第11条の3)が役員にも及ぶことを、経営陣と調査担当部門に周知しているか。役員通報は母数が小さく特定されやすいことを前提に、調査手法を設計しているか。
  12. 子会社・関連会社の役員からの通報を受け付ける企業グループ共通窓口を設ける場合、各社の内部規程等に受付先として「あらかじめ定め」る手当てをしたか。
  13. 取引先(第2条第1項第5号ロの事業者)に対しては第6条が適用されない一方、第7条・第11条の2・第11条の3は適用されることを整理したか。
  14. 地方公共団体においては、出資法人・指定管理者の役員からの通報が2号通報となる場合があること、その場合に調査是正措置の努力が前置されることを、所管課と当該法人の双方に周知しているか。
  15. 地方独立行政法人・第三セクターの監事及び監査役に対し、内部公益通報受付窓口の存在と第6条の保護内容を説明しているか。
  16. 運用実績の開示先に役員を含めているか。役員向けのアンケート等による体制の評価・点検を実施しているか。

11 次条への接続

第7条は、公益通報によって事業者が損害を受けたことを理由とする賠償請求を制限する。役員に対する関係では、退任した元役員に対する損害賠償請求という形の報復を封じる意味を持つ。同条は「第二条第一項各号に定める事業者」を名宛人とし、第6条第1項各号に定める公益通報を対象とするため、第5号ロの取引先も拘束される。第6条の限定と対比して読むと、法が保護の網をどこで広げ、どこで絞ったかが見えてくる。

なお、附則第1条により、この法律は施行後にされた公益通報について適用される。令和8年11月30日以前にされた通報については旧法が適用されるため、施行日をまたぐ事案では、通報時点の特定が出発点になる。

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