序 制度を支える財産と人の条文

第44条の3から第49条までで、緊急消防援助隊の実体と費用の帰属を見た。第50条はその続きに置かれている。国が整備した消防用の財産を、部隊として活動する自治体に無償で使わせる仕組みである。第49条の補助金が自治体の財産を増やす経路であるのに対し、第50条は国の財産を国に残したまま使わせる経路を開く。

第51条と第52条は人の条文である。消防を担う職員と団員をどこで育てるか(第51条)、誰に教育訓練を受ける機会を保障するか(第52条)。第1条が掲げた消防の任務を現場で果たす能力は、ここで裏付けられる。

附則は二条だけが残る。制定時に置かれた九つの経過規定のうち、施行期日と恩給法の準用の二つである。昭和22年12月23日に公布され、昭和23年3月7日に施行されたという事実が、消防が警察から分離して市町村の事務となった日付を示している。

条見出し性格
第50条国有財産等の無償使用財政法・国有財産法の特例
第51条消防学校等都道府県の設置義務と指定都市の任意設置
第52条教育訓練の機会職員・団員および自主防災組織の構成員
附則第1条施行期日規定ごとに政令で定める建て方
附則第2条恩給法等の準用警察から消防への身分承継の処理

第1章 条文原文

第50条(国有財産等の無償使用)

第五十条 総務大臣又はその委任を受けた者は、緊急消防援助隊の活動に必要があるときは、国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)第十九条において準用する同法第二十二条及び財政法(昭和二十二年法律第三十四号)第九条第一項の規定にかかわらず、その所掌事務に支障を生じない限度において、その所管に属する消防用の国有財産(国有財産法第二条第一項に規定する国有財産をいう。)又は国有の物品を、当該緊急消防援助隊として活動する人員の属する都道府県又は市町村に対し、無償で使用させることができる。

第51条(消防学校等)

第五十一条 都道府県は、財政上の事情その他特別の事情のある場合を除くほか、単独に又は共同して、消防職員及び消防団員の教育訓練を行うために消防学校を設置しなければならない。

2 地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)は、単独に又は都道府県と共同して、消防職員及び消防団員の教育訓練を行うために消防学校を設置することができる。

3 前項の規定により消防学校を設置する指定都市以外の市及び町村は、消防職員及び消防団員の訓練を行うために訓練機関を設置することができる。

4 消防学校の教育訓練については、消防庁が定める基準を確保するように努めなければならない。

第52条(教育訓練の機会)

第五十二条 消防職員及び消防団員には、消防に関する知識及び技能の習得並びに向上のために、その者の職務に応じ、消防庁に置かれる教育訓練機関又は消防学校の行う教育訓練を受ける機会が与えられなければならない。

2 国及び地方公共団体は、住民の自主的な防災組織が行う消防に資する活動の促進のため、当該防災組織を構成する者に対し、消防に関する教育訓練を受ける機会を与えるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

附則第1条(施行期日)

第一条 この法律施行の期日は、その成立の日から九十日を超えない期間内において、各規定について、政令で、これを定める。

附則第2条(恩給法等の準用)

第二条 この法律施行の際現に警視庁又は道府県警察部若しくは特設消防署に勤務する官吏が、引き続き都道府県の消防訓練機関の職員又は市町村の消防職員となつた場合(その官吏が引き続き恩給法(大正十二年法律第四十八号)第十九条に規定する公務員である国家消防庁、国家消防本部、国家地方警察、警察庁若しくは都道府県警察の職員、都道府県の消防訓練機関の職員又は市町村の消防職員として在職し、更に引き続き都道府県の消防訓練機関の職員又は市町村の消防職員となつた場合を含む。)には、これを同法第十九条に規定する公務員として勤続するものとみなし、当分の間、これに同法の規定を準用する。

2 前項の都道府県の消防訓練機関の職員又は市町村の消防職員とは、都道府県又は市町村の職員で次に掲げるものをいう。

一 消防士長又は消防士である消防吏員

二 消防司令補である消防吏員

三 消防長又は前二号に掲げる者以外の消防吏員

四 前三号に掲げる者以外の都道府県の消防訓練機関の職員又は市町村の消防職員

3 警察法(昭和二十九年法律第百六十二号)による改正前の警察法(昭和二十二年法律第百九十六号)附則第七条第三項から第五項までの規定は、第一項の規定を適用する場合に準用する。この場合において、同条第四項中「現にこれに俸給を給する都」とあるのは「現にこれに俸給を給する都道府県」と、同条第五項中「都から俸給を受ける者」とあるのは「都道府県から俸給を受ける者」と、それぞれ読み替えるものとする。


第2章 趣旨・立法背景

第50条が特例を必要とした理由

国の財産を無償で使わせることには、二つの一般法上の壁がある。

財政法第9条第1項は、国の財産を法律に基づく場合を除き、適正な対価なくして譲渡し、または貸し付けてはならないと定める。無償使用はこの禁止に触れる。

国有財産法第19条は、同法第18条第6項に基づく行政財産の使用または収益の許可について、第21条から第25条までを準用する。準用される第22条第1項は、普通財産を無償で貸し付けることができる場合を列挙しており、小規模な公共用施設、生活困窮者の収容、災害時の応急措置、地震防災応急対策、原子力災害の緊急事態応急対策、国民保護措置の六つである。緊急消防援助隊の活動は含まれていない。

第50条は、この二つの規定を名指しで排除した。緊急消防援助隊の制度を法律に位置づけた平成15年法律第84号が、旧第25条の2として新設したものであり、施行は平成16年4月1日である。出動指示権(旧第24条の3)、航空消防隊の連携(旧第24条の7)、国の負担及び補助(旧第25条)と同じ日に発効している。部隊を動かす権限、現場での関係、費用の負担、財産の供用という四つの要素を同時に起動させる組み方である。

第51条の沿革が示す段階的な強化

制定時の第26条は、「都道府県は、必要に応じ、市町村の消防職員及び消防団員の訓練を行うために所要の機関を存置し、又は設置することができる」という一項だけであった。「存置し」という語は、警察から引き継ぐ既存の訓練施設を前提としている。

昭和34年法律第98号が「所要の機関」を「消防学校」に改めた。同じ法律は第4条の2から第4条の4までを加えており、消防大学校が発足したのもこの改正による。国の最高教育訓練機関と都道府県の消防学校が、同じ年に法律上の名称を得た。

昭和43年法律第95号が、「訓練を行う」を「教育訓練を行なう」に改め、現在の第2項から第4項までを加えた。指定都市の消防学校、消防学校を設置する指定都市以外の市町村の訓練機関、消防庁が定める基準の確保という三つである。「地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)」という定義も、このとき置かれた。

第1項が「設置しなければならない」という義務に転じ、「財政上の事情その他特別の事情のある場合を除くほか、単独に又は共同して」という文言が加わった時期については、一次資料から特定できなかった。昭和43年の改正では第1項の本文は改められておらず、現行の文言はその後の改正によるものである。この点は確認を続ける。

平成18年法律第64号が、第26条に「(消防学校等)」という見出しを付し、第51条に移した。同じ改正で第2項の「(昭和二十二年法律第六十七号)」という地方自治法の法令番号が削られている。第4章(市町村の消防の広域化)の新設により、地方自治法が第34条第3項で先に引用されることになったため、法令番号を初出の箇所に移す整理である。

第52条の由来

第52条第1項は、昭和40年法律第65号が旧第26条の2として新設した。同じ法律は旧第24条の3(非常事態における消防庁長官の措置要求)と旧第24条の4(応援出動時の指揮)を新設している。広域応援の仕組みと教育訓練の機会の保障が、同じ改正で手当てされた。市町村を越えて部隊が動く制度を作るのであれば、どこの消防職員も一定の水準の教育訓練を受けていることが前提になるという考え方が読み取れる。

なお、この経緯は前回扱った第47条第1項の沿革にも関わる。応援出動した職員が受援市町村長の指揮下に入るという規律は昭和40年に旧第24条の4として置かれ、平成15年法律第84号が旧第24条の4を緊急消防援助隊の規定に充てたことに伴って旧第24条の6へ移され、平成18年法律第64号で第47条となった。条文の新旧対照だけを見ると平成15年の新設に見えるが、規律そのものは昭和40年に遡る。

第2項は平成15年法律第84号が追加した。自主防災組織の構成員に対する教育訓練の機会である。同じ改正で第4条第2項第27号(住民の自主的な防災組織が行う消防に関する事項)が消防庁の所掌事務に加えられており、国の事務と自治体の努力義務が対応している。

平成18年法律第64号が「(教育訓練の機会)」という見出しを付し、第52条に移した。

附則が二条に縮んだ経緯

制定時の消防組織法は、附則に当たる規定を第27条から第35条までとして本則に続けて番号を付していた。施行期日(第27条)、国家公務員法の施行の擬制と臨時人事委員会(第28条)、臨時の任命(第29条)、国家消防庁職員の人事(第30条)、恩給法の準用(第31条)、移管される消防事務の費用負担(第32条)、不要国有財産等の無償譲与(第33条)、町村組合の擬制(第34条)、行政執行法の行政官庁(第35条)である。

平成18年法律第64号が、第27条に「(施行期日)」の見出しを付して附則第1条とし、第31条に「(恩給法等の準用)」の見出しを付して附則第2条とした。同じ改正で第31条第1項の「恩給法」の下に「(大正十二年法律第四十八号)」が加えられ、第2項の「左の各号に」が「次に」に改められ、第2項・第3項に項番号が付された。現行の附則に残るのは、この二条である。

施行期日を定める政令により、法律は昭和23年3月7日から施行された。この日が消防記念日とされている。東京都では施行に伴って東京都消防訓練所が置かれ、同年5月1日に東京消防学校が設置された。


第3章 文理解釈

第50条 主体・対象・要件の限定

主体は「総務大臣又はその委任を受けた者」である。消防庁長官ではない。第45条第2項の基本計画の策定主体が総務大臣であることと揃っており、国有財産の管理処分権が各省各庁の長に属することの反映である。

対象は「その所管に属する消防用の国有財産(国有財産法第二条第一項に規定する国有財産をいう。)又は国有の物品」である。「その所管に属する」が主体の所管に限る趣旨であり、他省庁の財産を総務大臣が使わせることはできない。「消防用の」が用途による限定である。国有財産法第2条第1項を引いているため、同項が掲げる不動産、船舶・航空機等、これらの従物、特許権等、株式等が対象となり、これに該当しない動産が「国有の物品」として並べられている。

要件は二つある。「緊急消防援助隊の活動に必要があるとき」と「その所掌事務に支障を生じない限度において」である。後者は国有財産法第18条第6項が行政財産の使用許可について「用途又は目的を妨げない限度において」としているのと同じ発想であり、国の事務が優先することを示す。

相手方は「当該緊急消防援助隊として活動する人員の属する都道府県又は市町村」である。部隊ではなく団体である。第45条第1項が緊急消防援助隊を都道府県または市町村に属する人員と施設で構成される部隊としていることと整合する。

効果は「無償で使用させることができる」であり、義務ではない。使用権を与えるにとどまり、所有権は国に残る。

第50条 排除されない準用規定

条文が排除するのは、国有財産法第19条において準用する同法第22条と、財政法第9条第1項だけである。第19条が準用する他の規定は排除されていない。したがって、貸付期間に関する第21条、使用許可の取消しに関する規定、損失補償に関する第24条は、なお働く余地がある。

このことは、国の所掌事務に支障が生じて無償使用を終わらせる場合の処理に関わる。使用権の消滅をめぐる最高裁の立場は、期間の定めのない使用許可について、行政財産本来の用途・目的上の必要が生じたときに使用権は原則として消滅すべきものであり、使用権者に使用権を保有する実質的理由があると認められる特別の事情がない限り、生じた損失は補償を必要とする損失に当たらないというものである。第50条の「所掌事務に支障を生じない限度において」という文言は、この考え方を条文の側から確認している。

第50条 平時配備との関係

「緊急消防援助隊の活動に必要があるとき」を出動の局面に限って読むと、平時に車両や資機材を消防本部へ置いておくことができない。実務は、緊急消防援助隊としての出動に備えて保有させることを「活動に必要があるとき」に含める解釈で動いている。拠点機能形成車、情報収集活動用ドローン、高機能救命ボートなどが、消防組織法第50条に基づく国有財産等の無償使用物品として消防庁から消防本部に配備されている。配備を受けた消防本部では、県外応援を主な用途としつつ、県内応援や管轄内の消防活動にも使用できるものとして運用されている。

条文は維持管理費の負担について何も定めていない。実務では、車検・点検等の維持管理に係る経費は配備を受けた消防本部の負担とされている。

第51条第1項 義務と免除事由

「設置しなければならない」は法的義務である。ただし「財政上の事情その他特別の事情のある場合を除くほか」という免除事由が置かれている。財政上の事情が広く免除事由となるのであれば義務の内容は空洞化しかねないが、「単独に又は共同して」という選択肢が併置されていることから、単独設置が財政的に困難であれば共同設置を検討すべきことが読み取れる。免除事由に当たるのは、共同設置によっても設置が困難な場合である。

令和6年4月1日現在、全国に55校の消防学校が設置されている。47都道府県のすべてと、札幌市、千葉市、横浜市、名古屋市、京都市、神戸市、福岡市の7指定都市、および東京消防庁によるものである。第1項の義務は、免除事由を使われることなく履行されている。

第51条第2項 定義規定としての機能

「地方自治法第二百五十二条の十九第一項の指定都市(以下「指定都市」という。)」により、消防組織法における「指定都市」の語がここで定義される。法全体を通じて指定都市という語が最初に現れるのは第51条第2項である。第31条から第35条までの広域化の規定にも第44条以下の緊急消防援助隊の規定にも指定都市は登場しないため、定義の位置が法の末尾近くになっている。

指定都市の消防学校は「設置することができる」であり、任意である。「単独に又は都道府県と共同して」という形は、第1項の都道府県と対応している。都道府県と指定都市が共同して一つの消防学校を設置することも、条文上は可能である。

第51条第3項 主体の範囲

「前項の規定により消防学校を設置する指定都市以外の市及び町村」が訓練機関を設置できる。文理上、第2項により消防学校を設置した指定都市は、この項の主体に含まれない。消防学校を持つのであれば訓練機関を別に置く必要はないという整理である。指定都市以外の市町村には消防学校を設置する根拠がなく、訓練機関にとどまる。

第3項が「教育訓練」ではなく「訓練」としていることにも差がある。第1項・第2項の消防学校が教育と訓練の双方を担うのに対し、市町村の訓練機関は訓練に限られる。第52条第1項が教育訓練を受ける機会の対象を「消防庁に置かれる教育訓練機関又は消防学校の行う教育訓練」としており、市町村の訓練機関を挙げていないことと対応している。

第51条第4項 努力義務としての基準

「消防庁が定める基準を確保するように努めなければならない」は努力義務である。第16条第2項(消防吏員の階級等)や第23条第2項(消防団員の階級等)が「消防庁の定める基準に従い、市町村の規則で定める」として従うべき基準としているのに対し、消防学校の教育訓練の基準は努力の対象である。

この項に基づく告示が二つある。消防学校の教育訓練の基準(平成15年11月19日消防庁告示第3号。平成18年告示第36号、平成26年告示第6号により改正)と、消防学校の施設、人員及び運営の基準(昭和46年4月19日消防庁告示第1号。平成27年告示第7号による改正が最終で、平成27年4月1日施行)である。

前者は、消防職員について初任教育・専科教育・幹部教育・特別教育、消防団員について基礎教育・専科教育・幹部教育・特別教育の区分を置き、課程ごとに到達目標と標準的な教科目・時間数を示す。一単位時間は50分を標準とし、1週間の授業時間数は35単位時間を標準とする。常勤の消防団員は消防職員として扱われる。

後者は、校地・校舎・教材教具の基準、置くべき職員(学校長、副校長または教頭、教員、事務職員、舎監等)、教員の資格(消防に関する相当の学識経験を有する者)と員数の算定方法(最繁忙時の学生数に0.09を乗じ、補正係数を掛ける。5人未満となる場合は5人)、1学級40人以下という学級編制、教育訓練実施計画の策定、教授細目、効果測定、運営協議会などを定める。

第52条第1項 義務の主体が書かれていない構造

「機会が与えられなければならない」という受動態であり、義務を負う者が条文に現れない。消防職員の任命権者は消防長または市町村長(第15条)、消防団員の任命権者は市町村長または消防団長(第22条)であり、都道府県の職員については都道府県である。これらの者が、職員・団員を入校させる措置を講ずる義務を負うと解される。

「その者の職務に応じ」により、階級や職務に対応した課程を受けさせることが求められる。初任教育は新たに採用した消防職員のすべてが対象であり、幹部教育は初級幹部科が主として消防司令補、中級幹部科が主として消防司令、上級幹部科が主として消防司令長以上を対象とする。

対象となる教育訓練は「消防庁に置かれる教育訓練機関又は消防学校の行う教育訓練」である。前者は第5条の教育訓練機関、すなわち消防大学校である。消防大学校は昭和23年に消防講習所として創設され、昭和34年の消防組織法改正により消防大学校として発足し、平成13年の省庁再編により総務省消防庁消防大学校となった。

第52条第2項 対象と手段

「住民の自主的な防災組織が行う消防に資する活動の促進のため」が目的、「当該防災組織を構成する者に対し、消防に関する教育訓練を受ける機会を与えるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」が内容である。主体は国および地方公共団体の双方である。

第1項が特定の教育訓練機関を挙げているのに対し、第2項は手段を限定していない。消防学校での講座、消防本部による指導、資機材の貸付け、教材の提供などが「必要な措置」に含まれる。

令和6年4月1日現在、全国1,741市区町村のうち1,697市区町村で167,233の自主防災組織が設置されている。令和5年度には1,024市区町村が資機材購入費や運営費などを補助し、176市区町村が資機材を現物支給しており、これらの経費は合計36億907万円である。

附則第1条 規定ごとに施行日を定める建て方

「各規定について、政令で、これを定める」という形は、条文ごとに異なる施行日を設定することを許す。消防という事務を警察から市町村に移すには、人員の身分の処理、財産の移管、条例の制定を段階的に進める必要があったため、一律の施行日を避けたものと解される。

附則第2条 身分承継の処理

第1項は、法律施行の際に警視庁、道府県警察部、特設消防署に勤務していた官吏が、引き続き都道府県の消防訓練機関の職員または市町村の消防職員となった場合に、恩給法第19条に規定する公務員として勤続するものとみなし、当分の間、同法の規定を準用する。括弧書きが、国家消防庁、国家消防本部、国家地方警察、警察庁、都道府県警察の職員などを経由した場合も含めている。

第2項は、第1項でいう職員を四つに区分する。消防士長または消防士である消防吏員、消防司令補である消防吏員、消防長またはこれら以外の消防吏員、そしてこれら以外の職員である。恩給法上の待遇が階級に対応していたことの痕跡である。

第3項は、警察法(昭和29年法律第162号)による改正前の警察法(昭和22年法律第196号)附則第7条第3項から第5項までを準用し、「都」を「都道府県」と読み替える。旧警察法が自治体警察と国家地方警察の二元構造を採っていた時代の規定を、都道府県警察に一元化された後の法体系の中で生かすための読替えである。


第4章 用語解説

国有財産

国有財産法第2条第1項が定義する。国の負担、寄附、法令、条約に基づき国の所有に属する財産のうち、不動産、船舶・浮標・浮桟橋・浮ドック・航空機、これらの従物、地上権等、特許権等、株式・社債等、出資による権利などである。これに当たらない動産は物品であり、第50条が「又は国有の物品」と並べている理由である。

行政財産と普通財産

国有財産法は国有財産を行政財産と普通財産に分ける。行政財産は国において公用、公共用、皇室用または森林経営用に供するものとその決定をしたものであり、普通財産はそれ以外である。行政財産は原則として貸付け等ができず、用途・目的を妨げない限度で使用または収益の許可ができる(同法第18条第6項)。第50条が国有財産法第19条において準用する第22条を排除しているのは、この使用許可に準用される無償貸付の制限を解くためである。

無償使用物品

消防庁が整備し、消防組織法第50条に基づいて消防本部に配備する車両・資機材。所有者は国であり、維持管理に係る経費は配備を受けた消防本部が負担する運用がとられている。拠点機能形成車、情報収集活動用ドローン、高機能救命ボートなどがある。

消防学校

第51条に基づき都道府県または指定都市が設置し、消防職員および消防団員の教育訓練を行う機関。令和6年4月1日現在55校。

訓練機関

第51条第3項に基づき、消防学校を設置する指定都市以外の市町村が設置する機関。訓練を行うものであり、教育は含まれない。

指定都市

地方自治法第252条の19第1項の指定都市。消防組織法では第51条第2項で定義される。

消防大学校

第5条の「消防庁に置かれる教育訓練機関」。消防職団員等に幹部として必要な高度な教育訓練を行い、あわせて消防学校等の行う教育訓練の内容・方法に関する技術的援助をつかさどる。令和5年度は20学科と12実務講習を実施し、卒業者は1,395人であった。令和6年度の定員は1,572人で、感染症流行前に比べ約18パーセント少ない。消防学校への技術的援助として、新任消防長・学校長科、新任教官科、現任教官科による教育指導者の養成、講師の派遣(令和5年度は延べ123回)、初任者用教科書の編集、卒業生名簿や講師情報の提供を行っている。

初任教育・専科教育・幹部教育・特別教育

消防学校の教育訓練の基準が定める消防職員向けの区分。初任教育は新たに採用した消防職員のすべて、専科教育は警防科・特殊災害科・予防査察科・危険物科・火災調査科・救急科・救助科の課程に分かれ現任の消防職員が対象、幹部教育は初級・中級・上級の幹部科、特別教育は目的に応じて編成される。

基礎教育

同基準が定める消防団員向けの課程。団員の階級にあり、団員としての経験がおおむね3年未満で消防学校の教育訓練を受けていない者を対象とする。消防団員の専科教育は警防科と機関科、幹部教育は初級幹部科と指揮幹部科(現場指揮課程・分団指揮課程)に分かれる。

住民の自主的な防災組織

自主防災組織。災害対策基本法第5条第2項が市町村長の責務として充実を図ることを定め、同法第8条第2項第13号が国および地方公共団体の施策として育成を掲げる。消防組織法では第4条第2項第27号が消防庁の所掌事務とし、第52条第2項が国および地方公共団体の努力義務を定める。

恩給法

大正12年法律第48号。公務員等の退職・死亡後の給付を定めていた法律であり、現在は新規の恩給権者は生じない。附則第2条が第19条に規定する公務員として勤続するものとみなす構成をとっている。

特設消防署

消防組織法施行前、市制・町村制の下で設置されていた官設の消防署。警視庁または道府県警察部の指揮下にあった。附則第2条が身分承継の対象として挙げている。

国家消防庁・国家消防本部

消防組織法制定時に置かれた国の消防機関。国家消防庁が昭和23年に設置され、昭和27年に国家消防本部となり、昭和35年に自治省の外局としての消防庁となった。附則第2条第1項の括弧書きに名称が残る。


第5章 改正沿革

時期法令・措置内容
昭和22年12月23日消防組織法公布第25条(補助金)、第26条(教育訓練機関。都道府県は必要に応じ所要の機関を存置し、又は設置することができる)、第27条〜第35条(施行期日、経過措置等)
昭和23年3月7日施行期日を定める政令消防組織法施行。消防記念日
昭和29年法律第163号警察法施行に伴う関係法令の整理旧警察法附則の読替えを含む整理。現行附則第2条第3項に残る
昭和34年法律第98号消防組織法改正第26条中「所要の機関」を「消防学校」に改める。第4条の2〜第4条の4を追加し消防大学校が発足
昭和40年法律第65号消防法及び消防組織法改正第26条の2(教育訓練の機会)を新設し、旧第26条の2を第26条の3に繰下げ。同時に第24条の3(消防庁長官の措置要求)、第24条の4(応援出動時の指揮)を新設。公布の日から施行
昭和42年法律第80号消防法及び消防組織法改正第4条の4に、消防大学校が消防学校等の行う教育訓練に技術的援助を行う旨を追加
昭和43年法律第95号消防法及び消防組織法改正第26条中「訓練を行う」を「教育訓練を行なう」に改め、第2項(指定都市の消防学校。「指定都市」の定義を含む)、第3項(市町村の訓練機関)、第4項(消防庁が定める基準の確保)を追加。第26条の2の引用を整理。公布の日から施行
昭和46年消防庁告示第1号消防学校の施設、人員及び運営の基準第26条第4項(現第51条第4項)に基づく。昭和46年4月19日。平成10年告示第7号、平成15年告示第4号、平成27年告示第7号により改正
平成15年法律第84号消防組織法及び消防法改正第25条の2(国有財産等の無償使用)を新設。第26条の2に第2項(自主防災組織の構成員に対する教育訓練の機会)を追加。第25条の2は平成16年4月1日施行
平成15年消防庁告示第3号消防学校の教育訓練の基準第26条第4項(現第51条第4項)に基づく。平成15年11月19日。平成18年告示第36号、平成26年告示第6号により改正
平成18年法律第64号消防組織法改正第25条の2に見出し「(国有財産等の無償使用)」を付し第50条へ、第26条に見出し「(消防学校等)」を付し第51条へ、第26条の2に見出し「(教育訓練の機会)」を付し第52条へ移動。第26条第2項の地方自治法の法令番号を削る。第27条に見出し「(施行期日)」を付し附則第1条へ、第31条に見出し「(恩給法等の準用)」を付し附則第2条へ移動。公布の日(平成18年6月14日)から施行
令和7年3月12日福岡市消防学校訓練中の事故を踏まえた調査検討委員会報告書令和6年7月の水難救助訓練中の事故について、安全管理規程の策定、訓練中止基準の明確化、段階的な教育の実施等を提言
令和8年3月27日消防大学校における教育訓練等に関する検討会報告書成果指標の見直し、幹部科の教育時間拡充、緊急消防援助隊に関する実務講習の学科化、都道府県消防防災部局・消防学校との三者連携などを提言

第50条は平成15年の新設以来、条番号の移動を除いて改正を受けていない。第51条は昭和43年に現在の四項構成となり、第52条は平成15年に第2項が加わった。附則は平成18年に二条に整理されて以降、改正されていない。

第51条第1項が義務規定となった時期については、昭和43年法律第95号の改め文に第1項本文の改正が含まれていないことを確認したにとどまり、どの改正法によるものか特定できていない。昭和44年から平成6年までの改正法はいずれも他法の整備法または消防法の改正に伴うものであり、この間の改正であるとすれば行政事務の簡素合理化及び整理に関する法律(昭和58年法律第83号)第57条が候補となるが、改め文を確認できていない。


第6章 法的性格と解釈上の論点

第50条の無償使用の法的性格

第50条が排除するのは国有財産法第19条において準用する第22条と財政法第9条第1項である。排除の対象が無償であることの制限に限られていることから、無償使用そのものの法的性格は、国有財産法第18条第6項の使用許可に準じたものと解するのが素直である。普通財産の貸付けであれば第22条を準用する余地はなく、第19条を経由して第22条が働くのは行政財産の使用許可の場合だからである。

この整理から二つの帰結が生じる。第一に、第19条が準用する他の規定、すなわち貸付期間、許可の取消し、損失補償に関する規定は排除されていない。第二に、使用権は国の所掌事務の必要が生じたときに消滅しうるものであり、消滅によって自治体に生じた損失は、原則として補償を必要とする損失には当たらない。行政財産の使用許可の撤回について最高裁が示した枠組みが、ここでも働く。

配備を受ける側からすれば、無償使用物品は自らの財産ではなく、国の事務の必要が生じれば引き上げられうる財産である。基本計画に基づく第49条第2項の補助金で整備した施設が自治体の財産となるのに対し、第50条の無償使用物品は所有権も処分権も国に残る。両者を同じ「配備」として扱うと、更新・廃車・転用の判断を誤る。

無償使用物品の維持管理費が明文化されていないこと

条文は維持管理費について沈黙している。実務では配備を受けた消防本部が負担する扱いであり、これは第8条(市町村の消防に要する費用は当該市町村が負担する)の原則に沿う。

第49条第1項の国庫負担の対象経費には、緊急消防援助隊に関する政令第5条により施設の修繕料や役務費が含まれる。ただし対象は第44条第5項または第44条の3第1項の指示を受けて出動した活動により増加し、または新たに必要となる経費である。平時の車検・定期点検の費用はこれに当たらない。

無償で使わせる財産について、維持管理費の負担を国と自治体のいずれが負うかを条文が定めていないことは、制度としての未整理である。配備を受けるかどうかの判断が、車両の性能ではなく維持費の見通しによって左右される場面が生じる。

第51条第1項の義務の実効性

免除事由が広く、義務違反に対する制裁もない。第36条が消防庁長官・都道府県知事の運営管理・行政管理への不服従を定めているため、国が都道府県に設置を強制する手段もない。にもかかわらず47都道府県のすべてが消防学校を設置している。

この実効性は、第52条第1項が教育訓練の機会を与えることを義務づけていることに支えられている。消防学校がなければ、都道府県内の市町村は第52条第1項の義務を履行できない。第51条第1項と第52条第1項が相互に補強する構造になっている。

消防学校の設置者と入校生の所属が異なる構造

都道府県立の消防学校には、都道府県内の市町村の消防職員が入校する。設置者と任命権者が異なるため、訓練中の事故について誰が責任を負うかが問題となる。

山口県消防学校では、令和2年7月10日、第69期消防職員初任総合教育課程の水難救助訓練中に防府市の消防士が事故に遭い、翌11日に殉職した。山口県は、人身の損害(死亡)に係る損害賠償の額を74,373,213円と定める議案を令和3年6月定例県議会に提出した。設置者である都道府県が賠償責任を負うという整理が実務上とられていることを示す例である。

もっとも、派遣元の市町村が無責となるわけではない。入校生の健康状態や技量に関する情報を消防学校に正確に伝えること、入校前に必要な体力・技能を備えさせることは、派遣元の責務である。福岡市消防学校の事故報告書は、一部の学生が受診歴や持病を申告していなかったこと、健康管理シートが一部の班で未記入であったこと、体調不良を訴えにくい雰囲気があった可能性を指摘している。設置者の安全配慮義務と派遣元の安全配慮義務は重畳する。

第51条第4項の努力義務と過失判断

「基準を確保するように努めなければならない」という努力義務であっても、告示の基準は事故後の過失判断において注意義務の内容を特定する材料となる。消防学校の施設、人員及び運営の基準は教育訓練実施計画の策定、教授細目の定め、効果測定などを定めており、これらを欠いたまま行われた訓練で事故が生じた場合、基準との乖離が過失の認定に働く。

福岡市消防学校の事故報告書は、訓練計画書に関係規程上の最高指揮者や安全主任が記載されていなかったこと、訓練の目的や到達目標が十分に共有されていなかったと推定されること、訓練を中止する基準がなかったことを指摘し、消防学校の体制に応じた安全管理規程等の策定を提言している。基準の抽象度が高いことの裏返しとして、各消防学校における規程の整備が求められる。

同報告書は、令和2年の山口県消防学校の事故を受けた対策のうち、バディシステムや入水人数の制限が実施されていなかったことにも触れている。他の消防学校の事故から得られた教訓が共有されず、個々の学校の運営に反映されていなかったという指摘である。消防庁は令和5年10月17日、水難救助訓練中の事故を受けて「水難救助訓練等に係る安全管理の徹底について」(消防参第277号・消防消第365号)を第37条に基づく助言として発出し、水難救助マニュアルの点検・見直しと、訓練参加者の体調確認、安全監視員・警戒員の配置、救命胴衣の着用などの遵守状況の確認を求めている。第51条第4項の基準と第37条の助言が、安全管理の水準を支える二つの経路になっている。

第52条第1項が職員の権利を基礎づけるか

「機会が与えられなければならない」という受動態は、職員の側に教育訓練を受ける請求権を認めたものではないと解される。入校は職務命令によって行われるものであり、職員が特定の課程への入校を求める権利を導く文言ではない。

もっとも、職務に応じた教育訓練の機会を与えないまま職員を現場に従事させ、能力の不足が事故につながった場合には、安全配慮義務違反の評価に結びつく。宮崎市消防訓練事故事件の判決が、使用者には十分な安全配慮をした訓練を日頃から実施する義務があるとしたことは、訓練を実施する義務の側面を示している。第52条第1項は、この義務の内容を法律の水準で定めたものと読むことができる。

履行を妨げる現実的な制約は定員と人員事情である。消防大学校の令和6年度定員は1,572人で、感染症流行前に比べ約18パーセント減となっている。令和8年3月の消防大学校における教育訓練等に関する検討会報告書は、消防大学校・都道府県消防防災部局・消防学校の三者が連携して消防本部に入校を働きかけること、研修参加実績が少ない消防本部への対応を進めることを提言した。同報告書は、成果指標を教育の量から質へ転換し、能力向上と人的ネットワーク構築の度合いを卒業生と上長の双方から測定することや、緊急消防援助隊に関する実務講習を学科に格上げして教育時間を拡充することも示している。

第52条第2項の対象者の法的地位

自主防災組織の構成員は、公務員でも消防団員でもない。第24条の非常勤消防団員に対する公務災害補償は及ばず、訓練中の事故については公益財団法人日本消防協会の防火防災訓練災害補償等共済制度などによることになる。

国および地方公共団体が教育訓練の機会を与えるよう努めながら、その訓練中の事故に対する補償を法律で用意していないという構造である。消防団を中核とした地域防災力の充実強化に関する法律第18条が消防団に自主防災組織の教育訓練における指導的役割を努めるものとし、同法第19条が国および地方公共団体に教育訓練の機会の充実等の援助を求めていることと合わせても、補償の面は共済制度に委ねられている。

附則第2条が残っている理由

「当分の間」が昭和23年から78年続いている。適用対象は昭和23年3月7日の時点で警視庁、道府県警察部、特設消防署に勤務していた官吏であり、現実に恩給法の準用を受ける者はほぼ存在しない。

削除されない理由は、権利の存否を争う余地を残さないためと解される。恩給は受給権者の死亡後も遺族に及ぶ場合があり、根拠規定を削ると、既に発生した権利の帰趨について疑義が生じる。平成18年法律第64号が制定時の附則のうち第28条から第30条まで、第32条から第35条までを現行法に残さなかった一方で、第27条と第31条を附則第1条・第2条として残したことには、こうした判断が働いている。附則第1条もまた、施行済みの規定でありながら、施行日を確定する根拠として意味を持ち続ける。


第7章 裁判例

行政財産の使用許可の撤回と損失補償(最判昭和49年2月5日 第三小法廷)

行政財産の使用許可について、期間の定めがない場合には、当該行政財産本来の用途・目的上の必要が生じたときに使用権は原則として消滅すべきものであり、使用権者が使用権を保有する実質的理由があると認められる特別の事情がない限り、生じた損失は国有財産法第19条によって準用される同法第24条にいう補償を必要とする損失には当たらないとした。

第50条の無償使用は、国有財産法第19条において準用する第22条を排除するにとどまり、同条が準用する他の規定を排除していない。国の所掌事務に支障が生ずるに至って無償使用を終了させる場合の処理は、この枠組みによることになる。配備を受けた自治体の側に、使用の継続を前提とした投資をしないという判断が求められる。

宮崎市消防訓練事故事件(宮崎地判昭和57年3月30日、刑事は宮崎簡裁昭和53年1月6日略式命令)

救助訓練中、消防職員がロープを後方へ振り上げて投げた際、足場上の塔の筋交いに接触して体のバランスを失い、約7メートルから落下して死亡した事案である。

民事判決は、市が公務員の生命・健康を危険から守る配慮義務を負うとし、その具体的内容は職種・地位・状況により異なるとした。そのうえで、消防職員は火災現場などの現在の危難においては自己の安全保護を強く求められないが、訓練や予防業務など危難から離れるほど安全配慮義務が強く求められるとし、使用者には十分な安全配慮をした訓練を常日頃から実施する義務があるとした。刑事では、訓練を指揮した消防署長について、安全網を張るなどの措置をとるか、できない場合は訓練を差し控える注意義務があったとして、業務上過失致死による罰金10万円の略式命令が出された。

第51条の消防学校における教育訓練は、この判決が最も強い安全配慮義務を求める局面に当たる。実災害ではなく、危難から離れた計画的な訓練であり、かつ入校生は初任者が中心であるためである。

自衛隊八戸車両整備工場事件(最判昭和50年2月25日)

自衛隊員が車両整備作業中に大型自動車の後輪に轢かれて死亡した事案について、国は国家公務員に対し、施設・器具の設置管理や公務の管理に当たって生命・健康を危険から保護すべき安全配慮義務を負うとした。消防学校を設置する都道府県が入校生に対して負う義務も、この一般論の上に立つ。

繁藤災害国家賠償請求事件(高知地判昭和57年10月28日、高松高判昭和63年1月22日、最高裁で平成3年9月5日和解)

昭和47年7月5日、高知県の集中豪雨による大規模な山崩れにより、救助作業中の消防団員らを含む60人が死亡した事案である。第一審は消防団副団長の職務上の義務違反を認め、控訴審は大規模な地すべりの発生を予見することは困難であるとして義務を否定した。

現場指揮者の判断の適否が事後に問われる局面であり、その判断能力を形成するのが第52条第1項の幹部教育である。消防団員の幹部教育に指揮幹部科(現場指揮課程・分団指揮課程)が置かれていることは、この種の事案と無関係ではない。

消防学校の訓練事故に関する訴訟外の処理

山口県消防学校の水難救助訓練中の事故(令和2年7月10日発生、翌11日に防府市の消防士が殉職)については、山口県が損害賠償の額を74,373,213円と定める議案を令和3年6月定例県議会に提出している。福岡市消防学校の水難救助訓練中の事故(令和6年7月9日発生、同月17日に学生が死亡)については、福岡市消防局が調査検討委員会の報告書を令和7年3月12日に公表した。同報告書は、責任追及ではなく同種事故の防止を目的とするものであると明記している。

消防学校の訓練事故は、訴訟によらず議会の議決を経た賠償や検討委員会の報告によって処理される例が多い。公表された報告書が、他の消防学校の安全管理規程の内容を事実上規定していく。


第8章 実務上の留意点

無償使用物品を受け入れる際の確認事項

消防組織法第50条に基づく配備を受ける場合、所有者が国であること、維持管理に係る経費が配備を受けた消防本部の負担となること、国の所掌事務の必要が生じた場合に使用を終了させられる余地があることを前提に判断する必要がある。

確認すべき事項は、車検・定期点検・保険・燃料費などの年間維持費の見積り、格納場所と要員の確保、使用できる範囲(県外応援に限らず県内応援や管轄内の消防活動に使用できるか)、更新時の取扱い、事故・損傷時の負担である。配備通知と併せて示される条件を、庁内の財産管理部門および財政部門と共有しておく。

消防学校の安全管理規程の整備

消防学校の施設、人員及び運営の基準は教育訓練実施計画、教授細目、効果測定などを定めるが、訓練の安全管理について個別の定めは置いていない。福岡市消防学校の事故報告書が提言した事項を、各消防学校の実情に即して規程化する必要がある。

具体的には、訓練ごとの最高指揮者と安全主任の明示、学校長・教官・指導員それぞれの安全管理上の任務の明確化、訓練の中止基準、監視エリアと監視者の配置、入水人数の制限やバディシステムなどの手法、緊急時資機材の配備場所、資格を有する指導者の確保である。水難救助訓練については、足の届く水深から段階的に進めること、泳力と立ち泳ぎ能力を別の能力として扱いグループ分けを行うことが報告書の指摘である。

消防庁の訓練時における安全管理マニュアル(平成24年3月改訂)および警防活動時等における安全管理マニュアルを、規程の内容に反映させているかを点検する。

入校生の情報の共有

派遣元の消防本部は、入校生の健康状態、受診歴、持病、泳力その他の技量を消防学校に正確に伝える。健康管理シートの記入を徹底し、体調不良を申し出やすい関係を事前に作っておく。消防学校の側は、提供された情報をグループ分けと監視体制に反映させる。

福岡市消防学校の事故報告書が「学生のスキル情報の現場との共有」を提言したのは、卒業後に配属される消防署においても、入校中に把握された技量情報が引き継がれる必要があるという趣旨である。

消防大学校への入校枠の確保

令和8年3月の検討会報告書は、消防大学校・都道府県消防防災部局・消防学校の三者連携により消防本部に入校を働きかけることとしている。第52条第1項の義務を負う側としては、年度当初の人事計画の段階で幹部科その他の学科への派遣者を見込み、欠員補充の見通しと併せて調整しておく必要がある。研修参加実績が少ない消防本部は、今後の連携の中で個別に対応を求められる可能性がある。

緊急消防援助隊に関する実務講習が学科に格上げされ教育時間が拡充される方向であることから、登録部隊を有する消防本部は派遣対象者の選定を見直すことになる。

消防学校の共同設置の検討

第51条第1項は「単独に又は共同して」としており、第2項は指定都市が都道府県と共同して設置することを認める。人口減少下で消防学校の規模を維持することが難しくなる場合、共同設置は免除事由を使う前に検討すべき選択肢である。共同設置の方式としては、地方自治法上の協議会、機関等の共同設置、事務の委託、一部事務組合が考えられる。

自主防災組織の訓練時の補償の確認

第52条第2項に基づいて自主防災組織の構成員に教育訓練の機会を提供する場合、訓練中の事故に対する補償の手当てを確認する。公務災害補償の対象にはならないため、公益財団法人日本消防協会の防火防災訓練災害補償等共済制度などへの加入状況を把握し、訓練の案内に補償の範囲を明記しておく。

附則の適用関係の確認

附則第2条の適用対象は昭和23年3月7日時点で現職であった官吏であり、現実の適用はほぼ想定されない。恩給に関する照会を受けた場合に、消防組織法附則第2条を根拠として処理する余地があることを確認しておけば足りる。


参考資料

法令

制定・改正法の原文

告示

通知・行政資料

裁判例

  • 最判昭和49年2月5日(第三小法廷。行政財産の使用許可の撤回と損失補償)
  • 宮崎地判昭和57年3月30日(宮崎市消防訓練事故事件。訓練時の安全配慮義務)
  • 宮崎簡裁昭和53年1月6日略式命令(同事件の刑事。訓練指揮者の業務上過失致死)
  • 最判昭和50年2月25日(自衛隊八戸車両整備工場事件。国の安全配慮義務)
  • 高知地判昭和57年10月28日・高松高判昭和63年1月22日(繁藤災害国家賠償請求事件。救助活動中の二次災害と現場指揮者の義務)

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