第2条 条文
第二条 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの2 この法律において「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である前項第一号に掲げる個人及び特定受託事業者である同項第二号に掲げる法人の代表者をいう。
3 この法律において「業務委託」とは、次に掲げる行為をいう。
一 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
二 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。4 前項第一号の「情報成果物」とは、次に掲げるものをいう。
一 プログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)
二 映画、放送番組その他影像又は音声その他の音響により構成されるもの
三 文字、図形若しくは記号若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合により構成されるもの 四 前三号に掲げるもののほか、これらに類するもので政令で定めるもの5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの7 この法律において「報酬」とは、業務委託事業者が業務委託をした場合に特定受託事業者の給付(第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、当該役務の提供をすること。第五条第一項第一号及び第三号並びに第八条第三項及び第四項を除き、以下同じ。)に対し支払うべき代金をいう。
1 定義規定の重要性
第2条は本法全体の骨格を定める定義規定である。本法には多数の専門用語が登場するが、「特定受託事業者」「特定受託業務従事者」「業務委託」「情報成果物」「業務委託事業者」「特定業務委託事業者」「報酬」という7つの中核概念が、すべてこの条文で定義される。
定義規定を正確に理解することは、適用範囲の確定に直結する。「自社はフリーランス法の対象か」「この取引は業務委託に該当するか」「どの義務が生じるか」という実務上の問いへの答えは、すべて第2条から始まる。
2 第1項・第2項 特定受託事業者と特定受託業務従事者
(1)特定受託事業者とは―「組織実態を持たない事業者」
「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者のうち、次の二類型に該当するものである。
第一号:個人であって、従業員を使用しないもの。典型的なフリーランス個人がこれにあたる。会社員が副業として業務委託を受ける場合も、副業の部分については特定受託事業者に該当しうる。
第二号:法人であって、代表者1名以外に役員がなく、かつ従業員を使用しないもの。実態として一人で運営する一人会社(合同会社・株式会社等)がこれにあたる。
「特定受託事業者」は、組織としての実態を有しないものと位置づけられており、「事業者」とは商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。 Jftc
なお、「法人」については役員構成が重要な判定基準となる。監事・監査役・執行役・理事・業務を執行する社員など、いずれかの役職が代表者以外に存在すれば、たとえ従業員がいなくても特定受託事業者には該当しない。
(2)「従業員を使用」の意味―実務上の判定基準
「従業員を使用」の範囲は解釈上重要である。「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者を雇用することをいう。また、派遣先として、これらの基準に該当する派遣労働者を受け入れる場合も「従業員を使用」に該当する。なお、事業に同居親族のみを使用している場合には「従業員を使用」に該当しない。
この定義から導かれる重要な実務上の帰結が三点ある。
第一に、パートタイム・短期雇用者の取り扱いである。週20時間未満または31日未満の短期雇用者しかいない個人事業主は「従業員を使用しない」者とみなされ、特定受託事業者に該当する。建設業の一人親方が繁忙期だけ短期の手伝いを雇う場合、その手伝いが週20時間未満であれば依然として特定受託事業者である。
第二に、派遣労働者の受入れも「従業員を使用」に含まれる点は見落としがちである。実態を重視した規定である。
第三に、同居親族(家族従業者)のみの場合は従業員に含まれない。家族だけで経営している個人事業の一人親方は、この点でも特定受託事業者に該当しうる。
(3)特定受託業務従事者
「特定受託業務従事者」は、特定受託事業者のうち「個人」本人と「法人の代表者」である(第2項)。ハラスメント規制(第14条)や就業環境整備規制(第3章)は「特定受託業務従事者」を保護の客体としており、法人格の有無にかかわらず、実際に業務に従事する自然人個人を保護する趣旨が込められている。
3 第3項・第4項 業務委託と情報成果物
(1)業務委託の三類型
「業務委託」は以下の三類型を包含する。
第一類型:物品の製造・加工の委託。「製造」とは原材料に工作を加えて新たな物品を作り出すこと、「加工」とは既存の物品に価値を付加することである。建設業の一人親方への「部材の加工・製造」委託はこれにあたる。
第二類型:情報成果物の作成委託。フリーランスエンジニアへのシステム開発委託、デザイナーへのポスター制作委託などがこれにあたる。
第三類型:役務の提供委託。「役務の提供」とは、いわゆるサービス全般について労務または便益を提供することをいう。また、本法の「役務」は、委託事業者が他者に提供する役務に限らず、委託事業者が自ら用いる役務を含む点で、取適法とは異なる。
建設業では工事の施工(労務提供)が役務の提供委託にあたり、IT業界では準委任契約によるエンジニアの稼働(技術的サービスの提供)も役務の提供委託に該当する。
(2)「その事業のため」という限定
業務委託が「その事業のために」行われることが要件である。「その事業のため」とは、当該事業者が行う事業の用に供するために委託することをいう。
消費者がフリーランスに個人的な仕事(自宅の清掃や家族写真の撮影など)を依頼する場合は「その事業のため」ではないため、業務委託に該当しない。本法はあくまでBtoB(事業者間)の取引のみを対象とする。
(3)情報成果物の四類型
「情報成果物」は第4項で四類型が定められている。
第一号のプログラムの例としてはゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラム、顧客管理システムが挙げられる。
第二号(映像・音響)の例としてはテレビ番組、映画、アニメーション。
第三号(文字・図形・記号等の結合)の例としては設計図、ポスターのデザイン、商品・容器のデザイン、コンサルティングレポート、雑誌広告、漫画、イラストが挙げられる。
IT業界との関係では、フリーランスエンジニアが委託を受けて制作するシステム・アプリ・プログラム・設計ドキュメントはすべて情報成果物にあたる。建設業との関係では、施工図面・BIM(建築情報モデル)データ等も情報成果物として業務委託に含まれる。
第4に、これらに類するもので政令で定めるものである。
4 第5項・第6項 業務委託事業者と特定業務委託事業者
(1)二段階構造の意味
本法は「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」を意識的に区別して規定している。この二段階構造が、義務の重さを分けるメカニズムである。
「業務委託事業者」(第5項)は、特定受託事業者に業務委託をするすべての事業者であり、従業員の有無を問わない。第3条の取引条件明示義務は、この「業務委託事業者」すべてに課される。
「特定業務委託事業者」(第6項)は、業務委託事業者のうち「従業員を使用する個人」または「二以上の役員がある、あるいは従業員を使用する法人」に限られる、いわば「組織」として発注する事業者である。第4条(報酬支払期日の設定)、第5条(禁止行為)、第12条〜第16条(就業環境整備義務)は、この「特定業務委託事業者」に対して課される義務である。
(2)なぜ二段階構造をとるのか
義務の二段階構造は立法趣旨から説明できる。本法が解決しようとした問題は、「組織」たる発注者と「個人」たるフリーランスの間の交渉力格差であった。個人が個人に発注する場合は交渉力格差が小さく、組織が個人に発注する場合に格差が大きい。そこで、組織性を有する特定業務委託事業者により重い義務を課す設計となっている。
実務上の重要なポイントとして、従業員を一人でも雇用すれば(週20時間以上・31日以上)特定業務委託事業者となり、より重い義務を負うことになる。スタートアップ企業やフリーランス同士の再委託などで見落としが生じやすい点である。
5 第7項 報酬
「報酬」とは、業務委託事業者が特定受託事業者の給付に対して支払うべき代金をいう(第7項)。
報酬には消費税・地方消費税も含まれる。また、報酬の支払いはできる限り金銭(金融機関口座への振込を含む)によるものとし、報酬の支払いについて手形を交付すること、および金銭・手形以外の手段であって支払期日までに相当額の金銭と引き換えることが困難であるものを使用することは、望ましくない。
建設業における慣行として、手形払い(長期の支払サイト)がある。フリーランス法のもとでは、一人親方への手形払いは「望ましくない」とされており、運用上の見直しが求められる。なお、取適法(中小受託取引適正化法)においても手形払いへの規制が強化されており、両法を合わせた実務対応が必要である。
6 定義の全体構造を整理する
第2条の定義を構造的に整理すると、本法の適用関係が明確になる。
受け取る側については、「従業員なし・役員1名のみ」の個人または法人が特定受託事業者(フリーランス)であり、そのうち実際に業務を行う自然人個人が特定受託業務従事者である。
発注する側については、フリーランスに業務委託するすべての事業者が業務委託事業者であり、そのうち「組織性」を持つ(従業員使用または法人で役員2名以上)事業者が特定業務委託事業者である。
取引については、「その事業のための」物品製造・情報成果物作成・役務提供の委託が業務委託であり、消費者への物品販売や個人的な依頼は含まれない。
対価については、消費税込みの代金が報酬であり、手形払いは法の趣旨に照らして望ましくない。
7 建設業・IT業界への実務的インパクト
建設業
元請会社から一人親方への施工委託は役務の提供委託にあたり、本法の業務委託に該当する。元請会社が従業員を使用していれば特定業務委託事業者として重い義務を負う。問題となりやすいのは、一人親方が自分の息子(同居親族)のみを手伝いとして使う場合であり、この場合は従業員を使用していないとして引き続き特定受託事業者に該当する。
また、建設会社が一人親方に設計図の作成や施工図の作成を依頼する場合は情報成果物の作成委託にも該当しうる。この場合も本法が適用される。
IT業界
フリーランスエンジニアへのシステム開発委託は情報成果物の作成委託に、エンジニアが常駐して作業する準委任型の開発は役務の提供委託にそれぞれ該当する。SES(システムエンジニアリングサービス)契約でフリーランスを稼働させる場合も役務の提供委託として本法の対象となる。
一人社長のITエンジニア法人(合同会社等)が従業員なし・役員1名で運営している場合は特定受託事業者に該当する。発注側のスタートアップが従業員を一人雇い入れた時点で特定業務委託事業者となり、発注書の交付、60日以内の支払い、禁止行為の遵守等が義務化される点を認識しておく必要がある。
まとめ
第2条は本法の「地図」となる条文である。「どの事業者が」「どの取引で」「どの義務を」負うかは、すべてこの定義規定に戻って判断される。
特に実務上のチェックポイントは三点である。
第一に、取引相手が特定受託事業者(従業員なしの個人・一人役員法人)に該当するかの確認。
第二に、自社が特定業務委託事業者(従業員使用または役員2名以上の法人)に該当するかの判定。
第三に、発注する行為が「業務委託」(物品製造・情報成果物作成・役務提供の委託)に該当するかの確認である。
次回は第3条(取引条件の明示義務)を解説する。本法の中でもっとも基本的かつ実務上の影響が大きい規定であり、何を・いつ・どのような方法で明示しなければならないかを詳解する。
参考リンク
公正取引委員会 フリーランス法特設サイト https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/index.html 公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」 https://www.mhlw.go.jp/content/001572556.pdf 厚生労働省 フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html
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