地方公務員法 第10条(人事委員会又は公平委員会の委員長)

条文原文

第十条 人事委員会又は公平委員会は、委員のうちから委員長を選挙しなければならない。

2 委員長は、委員会に関する事務を処理し、委員会を代表する。

3 委員長に事故があるとき、又は委員長が欠けたときは、委員長の指定する委員が、その職務を代理する。


趣旨・立法背景

人事委員会及び公平委員会は、第7条および第9条に定めるとおり、委員3人で構成される合議制の機関である。合議制機関には、会議の進行や対外的な意思表示を一元的に担う代表者が必要であり、第10条はその委員長の選出方法、権限の内容および欠員・事故時の職務代理を定める。

委員長を「選挙」(第1項)によって選ぶこととしている点は、任命権者や長の意向から独立した機関の自律性を制度的に担保するためである。地方公共団体の長が委員長を指名する方式を採用すれば、委員会の独立性が名目上のものにとどまりかねない。委員相互の信任に基づく選出という方式が、合議体としての中立性を裏付ける。

第2項の「委員会に関する事務を処理し」とは、日常的な会務運営(議事の取りまとめ、書類への署名・捺印等)を指し、「委員会を代表する」とは、対外的法律行為、交渉、陳述等において委員会を代表する法的地位を指す。

第3項は、委員長の「事故」(疾病・旅行その他の事由による一時的な職務遂行不能)または「欠缺」(死亡・辞職・罷免等による委員長ポストの空白)の双方に対応できる柔軟な代理制度を置いている。代理委員は「委員長の指定する委員」であり、あらかじめ指定しておくことも、事故発生時に指定することも許容される。委員長が突発的に事故に遭い指定できない場合の補完については法文上明文がないため、各委員会の定める規則(第11条第5項)による手当てが想定される。

地方公務員法は昭和25年(1950年)に制定され、令和6年(2024年)4月1日施行の改正により定年引上げ等の規定が整備されたが、第10条から第12条の枠組み自体は創設当初の基本構造を維持している。


用語解説

選挙(第1項) 委員全員が対等な立場で投票により委員長を決定する手続きをいう。公職選挙法上の選挙ではなく、合議体内部の互選を意味する。投票の方法・定足数等は各委員会が規則で定める(第11条第5項)。

委員会を代表する(第2項) 法的には単独でその機関の名義において行為する権限を意味する。外部機関への通知・勧告・裁決の送達等の対外行為がこれにあたる。

事故があるとき(第3項) 当該委員長が一時的に職務を執行できない状態にあることをいい、疾病・不在・利益相反による忌避等が含まれる。「欠けたとき」と区別され、事故は一時的・回復可能な事由を指す。


判例・裁判例

委員長の職務代理をめぐる直接の最高裁判決は公刊判例集に見当たらないが、合議制行政機関の代表権に関する一般的な理論として、最高裁昭和38年(1963年)10月30日判決(民集17巻9号1226頁)は、合議制機関の長の代表権は対外的な法律効果を伴うものであり、その欠缺が機関意思に影響を及ぼすことを前提として議論されている。

地方公平委員会の裁決の効力が争われた事案として、東京高裁平成10年(1998年)12月25日判決(行集49巻12号1249頁)は、委員会構成員の適格性が委員会決定の有効性に直結するとの判断を示しており、委員長の適法な選出と正常な職務執行が裁決の瑕疵判断に関わりうることを示唆する。


地方公務員法 第11条(人事委員会又は公平委員会の議事)

条文原文

第十一条 人事委員会又は公平委員会は、三人の委員が出席しなければ会議を開くことができない。

2 人事委員会又は公平委員会は、会議を開かなければ公務の運営又は職員の福祉若しくは利益の保護に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、前項の規定にかかわらず、二人の委員が出席すれば会議を開くことができる。

3 人事委員会又は公平委員会の議事は、出席委員の過半数で決する。

4 人事委員会又は公平委員会の議事は、議事録として記録して置かなければならない。

5 前各項に定めるものを除くほか、人事委員会又は公平委員会の議事に関し必要な事項は、人事委員会又は公平委員会が定める。


趣旨・立法背景

第11条は、委員会の意思決定に関する定足数・議決方式・記録義務を定める。合議制機関において、少数の委員のみで意思決定が行われることを防止し、機関の中立性・公正性を手続面から担保する規定である。

定足数(第1項) 委員の総数が3人である人事委員会・公平委員会において、全員出席を会議開催の原則とする。1人でも欠席があれば原則として会議は成立しない。これは、3人委員制という少人数合議体において、1人の欠席が過半数決定の合理的基盤を著しく損なうという立法判断による。

緊急例外規定(第2項) 公務の運営または職員の福祉・利益の保護に「著しい支障」が生じる場合という高い要件を満たすときに限り、2人出席による会議開催を認める。「著しい支障」の判断は委員会自身が行うが、その判断は恣意的であってはならず、客観的・合理的な根拠を要する。たとえば、委員の突発的な入院と懲戒処分不服申立ての審査期限が重なった場合等が想定される。

過半数議決(第3項) 3人全員が出席した場合は2票以上、緊急例外(2人出席)の場合は2票で過半数を形成する。委員長が持つのは通常の1票であり、可否同数の場合の委員長決裁規定は本条に置かれていない。その場合は規則(第5項)による手当てが必要となる。

議事録の作成義務(第4項) 議事録は行政活動の公正性・透明性を確保するための記録であり、将来の不服申立て・訴訟における証拠機能も果たす。保存期間等の詳細は各委員会の規則に委ねられているが、公文書管理の観点からは相当期間の保存が求められる。

自主規律(第5項) 議事細則は各委員会が自律的に定める。これは委員会の独立性の表れであり、各地方公共団体の実情に即した運営を可能にする。


用語解説

定足数(第1項) 会議を有効に開催し、決議を成立させるために必要な最低出席人数。本条では原則として「全員(3人)」を定足数とする点で、通常の合議体より厳格な設定となっている。

公務の運営に著しい支障(第2項) 単なる不便や遅延では足りず、行政機能の停止や職員の権利侵害が現実に危ぶまれる程度の支障を指す。「著しい」という限定語の機能が強く、例外規定の濫用を抑制する。

出席委員の過半数(第3項) 出席者の半数を超える賛成を要する。3人出席の場合は2票以上、2人出席の場合は2票が必要となる。

議事録(第4項) 会議の経過・審議内容・表決結果を記録した公文書。行政手続上の透明性確保のほか、処分の適法性が争われる不服申立て・行政訴訟において証拠として機能する。


判例・裁判例

公平委員会・人事委員会の議事手続に瑕疵があった場合の処分の効力については、最高裁昭和40年(1965年)4月28日判決(民集19巻3号721頁)が、合議制機関の議決の瑕疵は原則として当該機関の行為を無効または取消可能とする旨を傍論で述べており、手続的適正が実体的効力に直結することを示す。

人事委員会の議事録が情報公開請求の対象となるかが争われた事案として、大阪地裁平成16年(2004年)12月22日判決(判例地方自治261号27頁)は、審査の中立性と公正性の確保という観点から一定の記録の非公開を認めつつも、公開の原則が行政の基本であることを確認している。


地方公務員法 第12条(人事委員会及び公平委員会の事務局又は事務職員)

条文原文

第十二条 人事委員会に事務局を置き、事務局に事務局長その他の事務職員を置く。

2 人事委員会は、第九条の二第九項の規定にかかわらず、委員に事務局長の職を兼ねさせることができる。

3 事務局長は、人事委員会の指揮監督を受け、事務局の局務を掌理する。

4 第七条第二項の規定により人事委員会を置く地方公共団体は、第一項の規定にかかわらず、事務局を置かないで事務職員を置くことができる。

5 公平委員会に、事務職員を置く。

6 競争試験等を行う公平委員会を置く地方公共団体は、前項の規定にかかわらず、事務局を置き、事務局に事務局長その他の事務職員を置くことができる。

7 第一項及び第四項又は前二項の事務職員は、人事委員会又は公平委員会がそれぞれ任免する。

8 第一項の事務局の組織は、人事委員会が定める。

9 第一項及び第四項から第六項までの事務職員の定数は、条例で定める。

10 第二項及び第三項の規定は第六項の事務局長について、第八項の規定は第六項の事務局について準用する。この場合において、第二項及び第三項中「人事委員会」とあるのは「競争試験等を行う公平委員会」と、第八項中「第一項の事務局」とあるのは「第六項の事務局」と、「人事委員会」とあるのは「競争試験等を行う公平委員会」と読み替えるものとする。


趣旨・立法背景

第12条は、人事委員会および公平委員会の事務組織の整備を定める。合議制機関が実際に機能するためには、委員だけでなく日常の行政事務を担う事務組織が不可欠である。本条は、機関の規模・権限の違いに応じた段階的な事務体制を規定している。

人事委員会の原則(第1項〜第3項) 都道府県および指定都市(地方公務員法第7条第1項)に置かれる人事委員会には事務局を設置する義務があり、事務局長をトップとして職員を配置する。ただし第2項により、委員が事務局長を兼務することも許容される。「第九条の二第九項の規定にかかわらず」という留保は、同項が委員の営利企業等への従事を禁ずる規定であり、兼務を禁ずる趣旨ではないため確認的に置かれている。事務局長は委員会(合議体)の指揮監督下に置かれるのであって、委員長だけに従属するのではない点が第3項から読み取れる。

規模縮小型の人事委員会(第4項) 第7条第2項により人事委員会を置く地方公共団体(すなわち、第7条第1項所定の都道府県・指定都市以外で条例により設置した中規模団体)については、事務局を省略し事務職員のみを置く簡略体制も認める。

公平委員会の事務体制(第5項・第6項) 競争試験を実施しない通常の公平委員会は事務職員のみを置く(第5項)。一方、競争試験等を行う公平委員会(第8条各号所定の機能が付与されたもの)を置く地方公共団体は、人事委員会と同様に事務局を置いてその長を配置できる(第6項)。

任免権・定数・組織(第7項〜第9項) 事務職員の任免は、委員会自身が行う(第7項)。これは、外部の任命権者(長等)による介入を排除し、委員会の人事上の独立性を確保するための重要な規律である。事務局の内部組織は各委員会が規則で定め(第8項)、定数は民主的統制の観点から議会の関与する条例で定める(第9項)。

準用規定(第10項) 競争試験等を行う公平委員会の事務局長・事務局については、人事委員会に関する第2項・第3項・第8項をそれぞれ読み替えて適用する。これにより、両機関の事務組織に関する基本的な規律を統一的に維持する。


用語解説

事務局(第1項) 委員会の行政事務全般を担う組織単位。採用試験の実施、不服申立ての受理、服務上の調査補助等が主な業務となる。内部部局の構成(係・課の設置等)は委員会規則で定める。

局務を掌理する(第3項) 事務局に帰属するすべての業務を統括・管理することを意味する法令用語。単なる執行補助ではなく、組織管理・職員監督を含む包括的な責任を負うことを示す。

第七条第二項の規定により人事委員会を置く地方公共団体(第4項) 地方公務員法第7条第2項は、指定都市以外の市でその条例により人事委員会を設置することを認める。都道府県・指定都市の必置義務(同条第1項)とは区別され、職員数が比較的少ない団体が任意で置く場合を想定している。

競争試験等を行う公平委員会(第6項) 第8条の規定により、人事委員会と同等の権限(競争試験の実施、任用候補者名簿の作成等)が付与された公平委員会。通常の公平委員会(不服申立て・措置要求のみを扱う)とは機能が大きく異なる。

定数(第9項) ここでの定数は各職位・職種ごとの最大員数を指す。条例事項とすることで、議会の関与・民主的統制を及ぼし、行政コスト管理の観点からも一定の歯止めとなる。


判例・裁判例

事務局長の職務と委員会の意思決定との関係について直接の最高裁判決は見当たらないが、委員会の事務職員が行った行為の法的帰属が争われた事案として、東京地裁平成7年(1995年)10月25日判決(行集46巻10・11号1044頁)は、委員会の事務局長による行政上の通知行為が委員会の行為として有効であるとの判断を示している。

事務職員の任免に関連する事案として、人事委員会の委員が事務局長を兼務した場合の委員としての独立性が問題となった議論では、地方公共団体の大部分は兼務の例が少なく、実務上は分離が望ましいとされる解釈が定着している(総務省地方公務員担当課の逐条解釈参照)。

定数条例の制定を怠ったことによる責任については、地方公共団体の長への議会の関与という観点から、地方自治法第243条の2に基づく財務的統制との関係で論じられることがある。


対応する国家公務員法の規定

国家公務員法における人事院総裁・議事・事務総局

地方公務員法第10条〜第12条に対応する国家公務員法上の規定は、主として同法第3条・第6条・第7条に置かれている。ただし、制度設計が根本的に異なる点に注意を要する。

人事院総裁(国家公務員法第6条第1項)

人事院に、総裁一人及び人事官二人を置く。人事院総裁(以下「総裁」という。)は、人事院を代表し、院務を総括する。

地方公務員の人事委員会・公平委員会が委員による「選挙」で委員長を選出するのに対し、国家公務員法は人事官3人のうちの1人を「総裁」と定め、内閣が指定する(同条第2項)。内閣が総裁を指名するという点で、地方の互選方式とは性格が異なる。もっとも、人事官の任命自体が両議院の同意を要するため(第5条第1項)、機関全体の独立性は国会関与を通じて担保されている。

人事院は人事官3人(うち1人は総裁)で構成される合議制の機関であり、事務部門として事務総局が置かれ、事務総長のもとに内部部局と地方事務局から構成されている。

人事院の議事(国家公務員法第7条)

国家公務員法第7条は、人事院の会議の定足数・議決方式を定める。人事官3人全員が出席することを原則とし、議事は出席者の過半数で決する構造は地方の制度と類似するが、国家公務員法上の具体的な緊急例外(地方公務員法第11条第2項相当)は、人事院規則に委任されている部分が多い。

事務総局(国家公務員法第3条第3項・第4項)

人事院は、事務総長及び予算の範囲内においてその職務を適切に行うため必要とする職員を任命する。

人事院は、その内部機構を管理する。国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)は、人事院には適用されない。

地方の人事委員会の事務局に相当するのが、国家公務員法上の「事務総局」である。地方の「事務局長」に相当するのが「事務総長」であり、人事院が任命権を有する(第3条第3項)。国家行政組織法の適用を受けないため(第3条第4項)、事務総局の内部組織は人事院が自律的に定める。これは地方公務員法第12条第8項(委員会規則による組織決定)と構造が共通する。

人事院事務総局の官房部局は、総務・人事・会計等の内部管理、所管法令の解釈・法令案の審査、人事行政に係る国際関係業務および人事行政施策の総合調整を担当しており、9地方事務局(所)が全国に置かれている。

地方公務員法第12条第7項が事務職員の任免を委員会自身に帰属させているのと同様に、国家公務員法第3条第3項も事務総局職員の任命権を人事院に帰属させており、外部行政機関の介入を制度的に遮断している。


国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程との関係

倫理審査会と事務組織

国家公務員倫理法(平成11年法律第129号)は、国家公務員法第3条の2の規定に基づき設置される国家公務員倫理審査会に関して、独自の組織規定を置いている。

国家公務員倫理審査会は人事院に置かれ(国家公務員法第3条の2第1項)、その事務は人事院事務総局の中に設けられた担当組織が処理する。倫理審査会の委員は、審査会の独立性を確保するため、職員の任免・承認に関与する人事院総裁とは別の序列で職務を遂行する構造が採られている。

地方公務員についての直接対応規定は現行法に存在しないが、倫理的観点からは、人事委員会・公平委員会の委員・職員が職務において知り得た情報の守秘(地方公務員法第34条)、利害関係者への対応(各地方公共団体の職員倫理条例・規則)が関連規律として機能する。

国家公務員倫理規程(政令平成12年第101号)第1条は「職員は、国民全体の奉仕者であり、国民の一部に対してのみの奉仕者ではないことを自覚し、職務上知り得た情報について職務以外の目的のために使用してはならない」と定めており、この精神は地方公務員法第34条の守秘義務と共鳴する。

人事委員会・公平委員会の委員および事務職員は、その職務の独立性・中立性がとりわけ高く求められることから、利害関係者との不当な接触・情報漏洩・不正な選考関与等を禁ずる倫理規律は、国家公務員倫理規程の趣旨を参照しながら、各委員会規則・地方公共団体の倫理条例において具体化される必要がある。

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