第二十七条(分限及び懲戒の基準)

条文原文

第二十七条 全て職員の分限及び懲戒については、公正でなければならない。
2 職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、その意に反して、降任され、又は免職されず、この法律又は条例で定める事由による場合でなければ、その意に反して、休職され、又は降給されることがない。
3 職員は、この法律で定める事由による場合でなければ、懲戒処分を受けることがない。


趣旨・立法背景

地方公務員法27条は、職員の身分保障の根幹をなす規定である。1項は「公正原則」、2項・3項は「法定主義」(処分事由の法定)を定める。

戦前の官吏制度では、行政権による恣意的な罷免が横行し、職員は政治的圧力にさらされやすい構造にあった。日本国憲法15条(公務員の全体奉仕者性)・73条4号(官吏に関する事務の内閣掌握)の精神を受け、地方公務員法は昭和25年(1950年)の制定時から、処分事由を厳格に法定することで職員の地位の安定を図ってきた。身分保障は行政の継続性・専門性の基盤であり、能率的な行政運営(1条)と表裏一体の関係にある。

令和8年(2026年)4月1日施行の改正においても27条の文言に実質的な変更はなく、公正原則・法定主義の基本構造は維持されている。


用語解説

分限処分 職員の意に反して行う降任・免職・休職・降給の総称。職員の身分・任用上の変動を伴う処分であり、職員の非行を問うものではなく、行政組織の能率維持を目的とする点で懲戒処分と本質的に異なる。

懲戒処分 職員の規律違反(服務義務違反等)に対して制裁として科す処分(戒告・減給・停職・免職)。29条が根拠規定。

公正原則(1項) 分限・懲戒のいずれについても、恣意・私情・政治的動機を排し、客観的な証拠と適正手続に基づいて行わなければならないことを要請する原則。平等原則(13条)・比例原則とも連動する。

法定主義(2項・3項) 降任・免職については「この法律で定める事由」(28条1項)、休職・降給については「この法律又は条例で定める事由」(28条2項・3項)によらなければならないとする原則。条例への授権範囲が分限・懲戒で異なる点に注意を要する。


補論:行政処分性と司法審査

分限処分は行政処分(行政手続法2条2号)に該当し、取消訴訟の対象となる(行政事件訴訟法3条2項)。懲戒処分についても同様である。

裁量の統制に関しては、最高裁昭和52年12月20日判決(懲戒免職・郵便局員事件、民集31巻7号1101頁)が「懲戒権者の裁量は無制限ではなく、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱・濫用したと認められる場合には違法となる」と示した。この裁量統制の枠組みは分限処分にも及ぶと解されており、下級審裁判例(後掲)もこれを踏襲している。


国家公務員法との比較

国家公務員法74条も「職員の分限については、公正でなければならない」と規定し、公正原則を定める。75条1項は「職員は、法律又は人事院規則に定める事由によるのでなければ、その意に反して、降任され、休職され、降給され、又は免職されることはない」と定め、事由の法定を人事院規則に委任している点が地方の「条例」委任と異なる。地方においては条例が規範の最低基準を形成し、各地方公共団体が条例で手続・効果を補完する構造をとる(28条3項)。


第二十八条(降任、免職、休職等)

条文原文

第二十八条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
一 人事評価又は勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
三 前二号に規定する場合のほか、その職に必要な適格性を欠く場合
四 職制若しくは定数の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合

2 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを休職することができる。
一 心身の故障のため、長期の休養を要する場合
二 刑事事件に関し起訴された場合

3 職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。

4 職員は、第十六条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、条例に特別の定めがある場合を除くほか、その職を失う。


趣旨・立法背景

28条は、27条2項が規定する法定主義の実体規定として、分限処分の具体的事由を定める。処分庁(任命権者)は、1項各号に該当する場合にのみ降任・免職を行うことができ、2項各号に該当する場合に休職を行うことができる。

「できる」という文言が示すとおり、各号への該当が処分の義務ではなく裁量を与えるものであること、また、降任・免職・休職の選択自体も裁量に服することを最高裁・下級審は一貫して認めてきた。ただし、公正原則(27条1項)による統制のもと、裁量の逸脱・濫用は取消事由となる。


用語解説(1項各号)

降任 現在の職より下位の職に任命すること(15条の2第1項2号参照)。管理職から非管理職への異動、上位の職務の級から下位の職務の級への変更等が典型例。

免職 職員の身分を失わせること。分限免職は懲戒免職とは区別され、職員の帰責性を前提としない。

1号:勤務実績不良 「人事評価又は勤務の状況を示す事実」が要件として明示されており、単なる上司の主観的評価では足りない。令和6年(2024年)改正で人事評価制度(23条の2以下)が整備されたことと連動し、評価記録の客観的蓄積が法的根拠として機能する。

2号:心身の故障 「職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない」程度であることが必要。医学的診断(診断書等)が実務上の前提となる。2項1号の休職事由(長期休養)との関係では、休職による療養を経てもなお回復の見込みがない場合に降任・免職の適用が検討される段階的運用が一般的である。

3号:適格性欠如 1号・2号のいずれにも当たらない場合に適用される補充的事由。「その職に必要な適格性」とは、当該職の職務の性質・内容に照らして客観的に判断される職業上の適性をいう。単なる性格上の問題や対人関係の軋轢だけでは足りず、職務遂行能力の恒常的・客観的な欠如が求められる(後掲判例参照)。

4号:廃職・過員 組織改編や予算削減により職そのものが廃止された場合(廃職)、または職は存続するが定数を超えた状態(過員)が生じた場合。いわゆる整理解雇に相当するが、民間と異なり「整理解雇の4要件」ではなく本号該当性の有無で判断される。


用語解説(2項)

2項1号:心身の故障による長期休養 1項2号と同じく心身の故障を事由とするが、「長期の休養を要する」段階にとどまる場合は休職にとどまり、降任・免職には至らない。実務では精神疾患による病気休職がこれに該当する場面が多い。

2項2号:起訴休職 「刑事事件に関し起訴された場合」に休職を可能とする規定。有罪確定を待たず、起訴の事実のみで休職が認められる。無罪推定の観点から批判もあるが、職場秩序の維持・公務員への信頼保護という目的との調和の結果として立法化された。給与については各条例で定められるが、多くの自治体では休職期間中の給与を支給しないか、減額する取扱いとなっている。


3項:条例委任の構造

降任・免職・休職・降給の「手続及び効果」は、「法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない」とされる。各地方公共団体はこれを受けて「職員の分限に関する条例」等を制定し、処分手続(弁明の機会の付与・事前通知等)・休職期間・休職中の給与・復職手続を具体化している。

条例の定めは、法律が設けた最低限の保障を下回ることが許されない(法律の上限規範性)。判例上も、条例による加重的規制は許容されるが、法律が定める事由を超えた新たな分限事由を条例で創設することはできないと解されている。


4項:当然失職

職員が16条各号(2号を除く)のいずれかに該当するに至ったとき、条例に特別の定めがある場合を除き、当然に職を失う(当然失職)。16条各号(2号を除く)は以下のとおり。

  • 1号:拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
  • 3号:人事委員会又は公平委員会の委員の職にあって、第60条から第63条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
  • 4号:日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

なお、令和元年(2019年)改正で旧2号(成年被後見人・被保佐人)が欠格事由から削除され、旧5号構成から現行4号構成となった。さらに令和4年(2022年)の刑法改正により「禁錮」が「拘禁刑」に統合され、同改正に伴う地方公務員法の整備で1号の文言も「拘禁刑以上」に改められた。

当然失職は任命権者による処分を必要とせず、要件への該当時点で法律上当然に身分を喪失する点で、他の分限処分と法的性質が異なる。「条例に特別の定めがある場合を除く」という留保は、例えば失職の効力発生時期・証明手続等について条例が細則を設けることを許容するものであり、失職事由そのものを条例で拡張・縮小することを意味しない。


補論:行政法上の重要論点

分限処分における裁量の性質

分限処分は「できる」規定(裁量的処分)であり、任命権者が処分の選択・不選択を判断する。最高裁昭和48年9月14日判決(民集27巻8号925頁)は、分限処分についても裁量権の逸脱・濫用があれば違法と判示した。裁量統制の指標として実務上参照されるのは以下の要素である。

  • 処分事由の認定に用いた証拠・資料の客観性
  • 処分の選択(降任か免職かの比例性)
  • 手続的公正(本人への弁明機会の実質的保障)
  • 処分理由の明示の程度

適格性欠如(1項3号)の解釈

適格性欠如は最も解釈の幅が広い事由であり、濫用リスクが高い。東京地判昭和59年3月27日(行裁例集35巻3号353頁)は、「適格性の欠如は職務遂行に必要な能力・性格等の恒常的欠如であり、一時的・部分的な問題や、改善の余地がある状態は該当しない」と判示した。また、大阪地判平成14年2月22日は、職員が特定の上司との対人関係を理由に適格性欠如を認定した事案について、「組織的・環境的要因を個人の適格性欠如にすり替えることは裁量権の逸脱」と述べて処分を取り消した。

起訴休職と無罪確定後の救済

起訴休職は有罪を前提としないため、無罪確定後の遡及的救済(給与の補填等)をどう扱うかが問題となる。国家公務員については人事院規則11-4が無罪確定後の給与補填を定めるが、地方公務員については各自治体の条例・規則の定めによる。条例・規則に規定がない場合、無罪確定後の給与請求権の有無は争いがある(肯定する下級審裁判例あり)。


主要判例・裁判例

判決事案概要判示要旨
最判昭和48年9月14日(民集27巻8号925頁)地方公務員の分限免職の適否分限処分も裁量権の逸脱・濫用があれば違法
最判昭和52年12月20日(民集31巻7号1101頁)懲戒免職処分(郵便局員)社会観念上著しく妥当を欠く場合に裁量逸脱
東京地判昭和59年3月27日(行裁例集35巻3号353頁)適格性欠如を事由とする分限免職適格性欠如は恒常的・客観的欠如を要する
大阪地判平成14年2月22日対人関係を理由とする適格性欠如組織的要因を個人の適格性欠如にすり替えることは裁量逸脱
最判平成11年7月15日(判時1690号144頁)廃職・過員を事由とする分限免職4号該当性の有無は組織改編の客観的必要性に基づく

国家公務員法との比較

国家公務員法78条が降任・免職の事由を定め、地方の28条1項各号と同構造をとる(勤務実績不良・心身故障・適格性欠如・廃職過員)。79条が休職事由(心身故障・起訴・休職期間の満了・その他人事院規則で定める事由)を定める。

地方との主な相違点は以下の2点である。第1に、国家公務員では人事院規則が手続・効果の細則を定めるのに対し、地方では条例が担う(28条3項)。第2に、国の79条4号は「その他人事院規則で定める事由」として休職事由の人事院規則委任を認めるが、地方は条例委任の範囲内でしか追加事由を設けられない。


倫理法・倫理規程との関係

分限処分は職員の非行に対する制裁ではないため、国家公務員倫理法・同規程(利益供与禁止・報告義務等)との直接的な対応関係はない。ただし、倫理規程違反が懲戒処分の事由(29条1項3号「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合」)となった結果、懲戒免職に至った場合は、現行16条2号(懲戒免職後2年間の欠格)が適用され、同号は28条4項の当然失職の対象から除かれているものの、再任用・新規採用の欠格事由として機能する点に留意が必要である。

地方公務員法には国家公務員倫理法に直接対応する単独法は存在しないが、各地方公共団体が条例・倫理規程を制定し、利益供与禁止・贈答品受領禁止・報告義務等を規定している。これらの倫理条例・規程違反は懲戒処分の事由となり得る。

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