条文原文
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
趣旨・立法背景
法定相続分とは、被相続人が遺言による相続分の指定(民法第902条)を行わなかった場合に、各相続人が遺産に対して有する割合的な権利の大きさをいう。第900条は、その法定相続分を相続人の組み合わせごとに明示した規定であり、遺産分割の出発点として機能する。
昭和22年(1947年)の民法全面改正によって、明治民法下の家督相続制度が廃止され、配偶者の地位が大幅に強化された。その際、配偶者の相続分が血族相続人の順位に応じて段階的に異なる現行の骨格が形成された。
平成25年(2013年)には、第四号ただし書の前半部分、すなわち「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とする」という規定が削除された。これは同年9月4日の最高裁判所大法廷決定(平成24年(ク)第984号、民集67巻6号1320頁)を受けた改正であり、同年12月5日成立・12月11日公布・施行となった。現行第900条は改正後の規定が令和6年施行改正後も維持されており、嫡出子と非嫡出子の法定相続分は同等である。
用語解説
法定相続分 民法が定める相続分の割合。遺言による指定がない場合に適用される基準値であり、遺産分割協議や相続税の計算(相続税法第13条)においても参照される。
同順位の相続人 民法第887条・第889条・第890条が定める相続順位のうち、同じ順位に属する相続人。第一順位は子(代襲相続人を含む)、第二順位は直系尊属、第三順位は兄弟姉妹であり、先順位の相続人が存在する場合、後順位の相続人は相続権を持たない。
配偶者 法律上の婚姻関係にある者をいい、内縁関係の者は含まない。配偶者は常に相続人となる(民法第890条)。
直系尊属 父母・祖父母など、自己の直系血族のうち上の世代に属する者。複数の直系尊属が相続人となる場合、親等の近い者が優先する(民法第889条第1項第1号括弧書き)。
全血兄弟姉妹 被相続人と父母の双方を同じくする兄弟姉妹。
半血兄弟姉妹 被相続人と父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹。異母兄弟姉妹(母が異なる)または異父兄弟姉妹(父が異なる)がこれに当たる。
指定相続分 被相続人が遺言によって定めた相続分(民法第902条)。法定相続分に優先して適用される。
各号の解説と具体例
第一号 子と配偶者が相続人の場合
子の相続分と配偶者の相続分はそれぞれ2分の1となる。子が複数いる場合は、子の相続分である2分の1をさらに均等に分ける(第四号前段)。
具体例として、被相続人Aの相続財産が3,000万円で、相続人が配偶者Bと子C・Dの3名である場合、配偶者Bが1,500万円、子Cと子Dがそれぞれ750万円ずつとなる。
第二号 配偶者と直系尊属が相続人の場合
被相続人に子がなく、親・祖父母等の直系尊属が相続人となる場面で適用される。配偶者の相続分は3分の2、直系尊属の相続分は3分の1となる。直系尊属が複数の場合、3分の1を均等に分ける(第四号前段)。
第三号 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
被相続人に子も直系尊属もなく、兄弟姉妹が相続人となる場面で適用される。配偶者の相続分は4分の3、兄弟姉妹の相続分は4分の1となる。
第四号 複数の血族相続人間の均等分割と半血兄弟姉妹
同順位の血族相続人が複数いる場合の原則は均等分割である。ただし、兄弟姉妹が相続人となる場合に限り、半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の相続分の2分の1となる。
この差異は第一順位の「子」としての相続では生じない点に注意を要する。例えば父が死亡した場合、全血の子と半血の子(父が同一で母が異なる異母兄弟姉妹)は、いずれも「子」として同等の相続分を持つ。半血の差異が問題となるのは、あくまで第三順位の兄弟姉妹間の相続においてである。
具体例として、被相続人Aに配偶者がなく、相続人が全血兄弟Bと半血兄弟Cのみの場合、Bの相続分は3分の2、Cの相続分は3分の1となる(全血:半血=2:1の比率)。
判例・裁判例
最高裁判所大法廷決定 平成25年9月4日(民集67巻6号1320頁)
本決定は、改正前民法第900条第4号ただし書前段(嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分)が憲法第14条第1項の法の下の平等に違反すると判断した。裁判官14名の全員一致による決定であり、最高裁が民法の規定を違憲としたのは民事分野で初の例であった。
決定は、「遅くとも平成13年7月当時において、立法府の裁量を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていた」と述べ、法律婚制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとって自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由として不利益を及ぼすことは許されないとした。
同時に決定は、平成13年7月以後に開始した相続についても、従前の規定を前提として確定した遺産分割の審判・協議・合意等により確定的なものとなった法律関係には影響を及ぼさないと判示し、法的安定性への配慮を明示した。
この決定を受け、平成25年12月5日に民法改正が成立し、当該ただし書前段が削除された。改正後の規定は平成25年9月5日以後に開始した相続に適用される。
半血兄弟姉妹の相続分に関する実務上の論点
現行第900条第4号ただし書に残存する半血兄弟姉妹の相続分差異(全血の2分の1)については、上記の違憲決定においても直接の判断対象とはならなかった。この差異の根拠は、被相続人との生活・扶養関係の近接性にあり、非嫡出子差別と同視できないとする見解が実務・学説において広く採られている。なお、被相続人の「子」として相続する場面では、同じ父(母)を持つ半血の者も全血の者と同等の相続分を有し、半血の差異は生じない。
実務上の留意事項
第900条が定める法定相続分は、遺産分割における基準値としての意義を持つ。相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合での遺産分割協議を成立させることができる。
配偶者の相続分は第一号から第三号にかけて2分の1・3分の2・4分の3と段階的に増加する。これは、子・直系尊属・兄弟姉妹の順に、被相続人との身分関係の近接性が下がることを踏まえた設計である。
相続税の計算においては、相続税の総額の算出基礎となる各相続人の取得割合が本条の法定相続分によって計算される(相続税法第13条・第16条)。相続税申告においては、実際の遺産分割の結果と法定相続分の双方を把握することが求められる。


