地方公務員法 第13条(平等取扱いの原則)
条文原文
第十三条 全て国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によつて、又は第十六条第四号に該当する場合を除くほか、政治的意見若しくは政治的所属関係によつて、差別されてはならない。
趣旨・立法背景
地方公務員法は昭和25年(1950年)12月13日に制定され、翌年に施行された。本条は、その制定当初から置かれた基幹規定の一つである。
戦前の日本において、官吏制度は明治憲法下の天皇大権に基づくものであり、採用・昇任・処遇の各場面で身分・性別・思想による差別が制度的に組み込まれていた。戦後、日本国憲法は第14条第1項において「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定め、平等原則を国家の基本秩序に据えた。本条は、この憲法上の平等原則を公務員制度の分野において具体化したものである。
本条が「この法律の適用について」と限定していることは、地方公務員法の適用を受ける採用、任用、分限、懲戒、給与、勤務条件といった一連の人事行政のすべての場面において差別を禁止することを意味する。したがって、採用試験の受験機会から日常的な勤務条件の設定まで、職員に関わるあらゆる人事上の取扱いが本条の射程に入る。
政治的意見・政治的所属関係については、原則として差別禁止の対象とされているが、「第十六条第四号に該当する場合を除く」として、欠格条項との調整が図られている。第16条第4号は、日本国憲法施行後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者を欠格事由として定めている。国家そのものを暴力により否定しようとする者については、平等取扱いの保護が及ばないとする立法判断である。
列挙事由(人種・信条・性別・社会的身分・門地・政治的意見・政治的所属関係)は例示であって、これ以外の理由による差別が直ちに許容されるものではない。合理的な理由のない差別は、本条の趣旨に反するものとして違法性を帯びる。
用語解説
人種 遺伝的・身体的特徴に基づく人間の集団的分類。現行法上の概念としては、民族的出身をも含むものとして広く解釈される。
信条 宗教的信仰のほか、政治的・哲学的な世界観・信念を含む。日本国憲法第19条(思想・良心の自由)及び第20条(信教の自由)と連動する概念である。
性別 生物学的な性別を指すのが立法当時の理解であったが、近年は性自認を含む広い概念として検討が進んでいる。令和5年(2023年)施行の性同一性障害特例法改正をはじめとする法制の動向と連動して解釈上の整理が求められる局面が生じている。
社会的身分 生来的な社会上の地位・環境を指す。職業・学歴・出身などがこれに含まれるかは解釈に委ねられているが、固定的・継続的な社会的属性として機能するものが該当するとされる。
門地 家柄・家系に基づく出自。旧来の士族・平民の区別や部落差別といった問題と密接に関連してきた概念である。
政治的意見・政治的所属関係 特定の政治的立場・主義主張、または特定の政党・政治団体への所属。ただし第16条第4号の欠格事由に該当する場合は保護の対象外となる。
第16条第4号 令和8年(2026年)4月1日施行の改正後の地方公務員法における同号は、日本国憲法施行後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者を欠格事由として定める。
判例・裁判例
最高裁判所大法廷判決 平成17年1月26日(民集59巻1号128頁)
――東京都管理職選考国籍条項事件
韓国籍の特別永住者であるXは、保健師として昭和63年(1988年)に東京都に採用された。平成6年(1994年)及び平成7年(1995年)に管理職選考を受験しようとしたところ、日本国籍がないことを理由に受験が認められなかったため、管理職選考受験資格の確認及び慰謝料の支払いを求めて提訴した。 Yuhikaku
本事件は、地方公務員法第13条の平等取扱い原則と外国人の公務就任の可否が正面から問われた事案である。
最高裁大法廷は、地方公共団体が、公権力の行使に当たる行為を行うことなどを職務とする地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、労働基準法第3条及び憲法第14条第1項に違反しないと判示した。
この判決が示した論理の核心は、国民主権の原理との関係にある。公権力行使等地方公務員の職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有する。原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されており、外国人が就任することは本来わが国の法体系の想定するところではないとされた。
本判決のポイントは、「国籍」が地方公務員法第13条の列挙事由に含まれていないことを前提としつつ、公権力行使等の職への昇任に国籍要件を課すことが合理的な区別として許容されるとした点にある。地方公務員法第13条が保護する「平等」は絶対的なものではなく、合理的根拠のある区別は許容されることを示した重要判例である。
本条の「この法律の適用について」の解釈
国家公務員法第27条(地公法第13条に相当)にいう「この法律の適用について」の部分には、少なくとも勤務条件について差別的取扱いをしてはならないという趣旨が含まれるとする学説上の整理がある。採用試験の機会均等(地公法第18条の2)、給与・勤務条件の設定、昇任・昇給など、法律の適用を受けるすべての局面が射程に入る。
国家公務員法 第27条(平等取扱いの原則)との対比
条文原文
第二十七条 全て国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われ、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は第三十八条第四号に該当する場合を除くほか政治的意見若しくは政治的所属関係によつて、差別されてはならない。
地方公務員法第13条との異同
両条文の構造と禁止事由は実質的に同一であるが、文言上の差異として以下の点がある。
第一に、地方公務員法第13条は「平等に取り扱われなければならず」と積極的義務の形で冒頭に置き、その後に差別禁止を規定する二段構成をとっている。国家公務員法第27条は「平等に取り扱われ」と簡潔に述べた上で差別事由を列挙する。
第二に、欠格条項への参照先が異なる。地公法は第16条第4号を参照し、国公法は第38条第4号を参照する。いずれも、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党等の構成員を欠格事由とする点では共通している。
国家公務員法第27条は、採用試験の公開平等原則を定める同法第46条と相まって、成績主義の原則(メリット・システム)の基盤をなしており、人事行政全体に通底する基本原則として位置づけられている。
国家公務員法においては、第27条の規定に違反して差別をした者は、第109条第8号に該当し、同条に基づく罰則が定められている点で、制裁の明確化という観点から地方公務員法との差異が生じている(地公法には第13条違反に対応する直接の刑罰規定はなく、懲戒処分の対象となる)。
国家公務員倫理法・国家公務員倫理規程との関係
倫理法の適用対象と平等原則
国家公務員倫理法(平成11年法律第129号)は平成12年(2000年)4月に施行された。平成10年(1998年)の大蔵省接待汚職事件(いわゆるノーパンしゃぶしゃぶ事件)を契機として制定されたものであり、それ以前から各省庁の訓令として設けられていた職員倫理規程では不十分との判断から法制化された。
倫理法の中心的規律は、利害関係者からの贈与・供応接待の禁止と報告義務であり、平等取扱い原則を直接規律する条文を置いてはいない。しかし、倫理法と地公法・国公法の平等原則の間には以下の接続関係がある。
第一に、倫理法の適用を受ける一般職国家公務員の身分そのものは国家公務員法の規律を受けており、国公法第27条の平等取扱い原則が基底にある。国家公務員倫理規程では、国家公務員が「許認可の相手方」「立入検査の相手方」「契約の相手方」等の利害関係者から贈与や供応接待を受けることなど、職務の執行の公正さに対する国民の疑惑や不信を招くような行為を禁止している。このような規律が設けられているのも、公務員が国民全体に対して公正に職務を遂行するという全体の奉仕者原則(憲法第15条第2項)の延長線上にあり、特定の利害関係者と癒着することは結果として不平等な公務執行を招くという考え方による。
第二に、国家公務員法第27条は、公益通報を行った職員に対して、そのことを理由として事実上の不利益な取扱いが行われることを許容するものではなく、同条に違反して不利益な取扱いを行った場合には「第二十七条の規定に違反して差別をした者」として第109条第8号に該当し、罰則が定められている。倫理法が保護しようとする公益通報との連動という観点からも、国公法第27条の平等取扱い原則は機能している。
地方公務員と倫理法の関係
国家公務員倫理法は一般職国家公務員を対象とする。地方公務員には同法が直接適用されないが、各地方公共団体においては条例や規則に基づく職員倫理規程が整備されており、利害関係者との接触規制を設けている。国家公務員倫理法・倫理規程は、地方公務員の倫理規程策定における事実上の参照基準となっており、実務上の相互影響関係がある。
実務上の留意点
採用・任用・昇任の各段階において、本条の列挙事由に基づく差別が疑われる取扱いは、たとえ実害が発生していなくても問題となり得る。採用試験の設計、評価基準の設定、昇任・昇給の運用基準の策定においては、恣意的・属人的な判断を排除し、客観的な能力評価に基づく取扱いを徹底することが求められる。
また、性別に関する取扱いについては、女性活躍推進法(平成27年法律第64号)との連動で管理職登用の数値目標設定が進んでいる。本条が禁じる「差別」と、目標達成のための優先的取扱い(ポジティブ・アクション)との関係については、後者が実質的平等の実現を目的とする合理的措置として許容されるとする理解が確立している。

