条文原文

第9条(公平委員会の権限の特例等)

公平委員会を置く地方公共団体は、条例で定めるところにより、公平委員会が、第八条第二項各号に掲げる事務のほか、職員の競争試験及び選考並びにこれらに関する事務を行うこととすることができる。

2 前項の規定により同項に規定する事務を行うこととされた公平委員会(以下「競争試験等を行う公平委員会」という。)を置く地方公共団体に対する第七条第四項の規定の適用については、同項中「公平委員会を置く地方公共団体」とあるのは「競争試験等を行う公平委員会(第九条第二項に規定する競争試験等を行う公平委員会をいう。以下この項において同じ。)を置く地方公共団体」と、「、公平委員会」とあるのは「、競争試験等を行う公平委員会」と、「公平委員会を置き、又は他の地方公共団体の人事委員会に委託して次条第二項に規定する公平委員会の事務を処理させる」とあるのは「競争試験等を行う公平委員会を置く」とする。

3 競争試験等を行う公平委員会は、第一項に規定する事務で公平委員会規則で定めるものを当該地方公共団体の他の機関又は競争試験等を行う公平委員会の事務局長に委任することができる。

第9条の2(人事委員会又は公平委員会の委員)

人事委員会又は公平委員会は、三人の委員をもつて組織する。

2 委員は、人格が高潔で、地方自治の本旨及び民主的で能率的な事務の処理に理解があり、かつ、人事行政に関し識見を有する者のうちから、議会の同意を得て、地方公共団体の長が選任する。

3 第十六条第一号、第二号若しくは第四号のいずれかに該当する者又は第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者は、委員となることができない。

4 委員の選任については、そのうちの二人が、同一の政党に属する者となることとなつてはならない。

5 委員のうち二人以上が同一の政党に属することとなつた場合には、これらの者のうち一人を除く他の者は、地方公共団体の長が議会の同意を得て罷免するものとする。ただし、政党所属関係について異動のなかつた者を罷免することはできない。

6 地方公共団体の長は、委員が心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認めるとき、又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認めるときは、議会の同意を得て、これを罷免することができる。この場合においては、議会の常任委員会又は特別委員会において公聴会を開かなければならない。

7 委員は、前二項の規定による場合を除くほか、その意に反して罷免されることがない。

8 委員は、第十六条第一号、第三号又は第四号のいずれかに該当するに至つたときは、その職を失う。

9 委員は、地方公共団体の議会の議員及び当該地方公共団体の地方公務員(第七条第四項の規定により公平委員会の事務の処理の委託を受けた地方公共団体の人事委員会の委員については、他の地方公共団体に公平委員会の事務の処理を委託した地方公共団体の地方公務員を含む。)の職(執行機関の附属機関の委員その他の構成員の職を除く。)を兼ねることができない。

10 委員の任期は、四年とする。ただし、補欠委員の任期は、前任者の残任期間とする。

11 人事委員会の委員は、常勤又は非常勤とし、公平委員会の委員は、非常勤とする。

12 第三十条から第三十八条までの規定は常勤の人事委員会の委員の服務について、第三十条から第三十四条まで、第三十六条及び第三十七条の規定は非常勤の人事委員会の委員及び公平委員会の委員の服務について、それぞれ準用する。


第9条の解説

趣旨・立法背景

地方公務員法が定める人事機関は、原則として人事委員会(第7条第1項)と公平委員会(同条第3項)の2種類である。人事委員会は採用試験・選考から不利益処分への審査まで広範な権限をもつのに対し、公平委員会は職員からの苦情処理・措置要求・不利益処分の審査という「権利保護系」の事務に限定されている(第8条第2項)。

人口規模や財政力が小さい団体では人事委員会を設置できない場合があり、その場合は公平委員会が設置されるが、採用試験・選考を担う機関が存在しないという問題が生じる。第9条は、この問題に対応するため、条例という民主的な手続を経ることを条件として、公平委員会に競争試験・選考の事務を付加できる「権限拡張の特例」を設けた規定である。

昭和25年(1950年)の地方公務員法制定当初から存在する規定であり、小規模団体における採用の公正性を制度的に担保するための措置として位置づけられている。

第1項:条例による権限拡張

「条例で定めるところにより」

公平委員会への競争試験等の事務付与は、条例によらなければならない。これは地方自治法第96条第1項が規定する議会の議決事項との整合を図るとともに、住民の代表機関による民主的統制を確保する趣旨である。首長の規則や内部決裁のみで権限を拡張することはできない。

「職員の競争試験及び選考並びにこれらに関する事務」

競争試験は、成績主義(メリット・システム)に基づく試験による採用・昇任の方法であり(第17条参照)、選考は個別の経歴・資格・能力を審査する方法である(第17条の2参照)。「これらに関する事務」とは、試験の告示・受験資格審査・合格者名簿の管理等の付随事務を含む。

第2項:読替え規定

本項は技術的な読替え規定であり、第7条第4項(複数団体が公平委員会を共同設置する際の事務委託規定)を「競争試験等を行う公平委員会」を置く団体に適用する場合の文言調整を行うものである。

第7条第4項は、公平委員会を置く団体が他の団体の人事委員会に公平委員会の事務処理を委託できる旨を規定している。競争試験等の事務を行う公平委員会はその機能が人事委員会に近づくため、第7条第4項をそのまま適用すると条文上の不整合が生じる。本項はその不整合を解消するための読替えである。

実務上この規定が適用される場面は限定的であり、小規模町村が隣接する中核市等の人事委員会に事務委託しているケースが典型である。

第3項:事務の委任

競争試験等を行う公平委員会は、公平委員会規則で定める事務の範囲内で、①当該団体の他の機関、または②事務局長に委任することができる。

委任できるのは「公平委員会規則で定めるもの」に限られる点が重要である。委員会自体の意思決定(合議)を要する事項—たとえば合格者名簿の確定や試験委員の選任—は委任の対象にならないと解される。事務局長への委任は受験案内の発送・受付事務・試験会場の手配といった定型的な事務処理を想定したものである。


第9条の2の解説

趣旨・立法背景

本条は人事委員会・公平委員会を構成する委員の身分関係(選任・欠格・政党制限・罷免・兼職禁止・任期・常勤非常勤・服務準用)を一括して規定する。

人事機関の独立性・中立性は、成績主義に基づく公正な人事行政の前提条件である。委員の身分保障(第7項)と政党偏重の禁止(第4項・第5項)は、その独立性を担保するための中核的規定である。戦後の地方自治制度再建期に、米国のシビルサービス・コミッション(Civil Service Commission)の考え方を参考として設計された。

第1項:委員の定数

人事委員会・公平委員会ともに3人の委員で構成する。合議制をとることで、特定個人の恣意的判断を排除し、組織的判断の合理性を確保する趣旨である。3人という奇数の定数は、可否同数となる事態を回避する設計でもある。

第2項:委員の選任要件と手続

選任要件(実質要件)

法が定める3つの実質的要件は以下のとおりである。

要件内容
人格が高潔公私にわたる廉潔性・誠実性
地方自治の本旨及び民主的で能率的な事務の処理への理解憲法第92条が定める地方自治の本旨(住民自治・団体自治)の理解
人事行政に関する識見採用・任用・給与・懲戒等の人事行政全般に関する専門的知見

これらは抽象的要件であり、具体的適否の判断は地方公共団体の長の裁量に委ねられている。ただし、第3項に定める欠格事由がある者は選任できない。

選任手続(形式要件)

「議会の同意を得て、地方公共団体の長が選任する」という二段階の手続が必要である。議会の同意は、長の権限行使に対する民主的チェックとして機能する。同意の方法は地方自治法第118条の規定による(出席議員の過半数の同意)。

第3項:欠格事由

委員の欠格事由は以下の2類型である。

第16条各号に該当する者(準用)

第16条は職員全般の欠格条項を定める規定であり、委員に準用されるのは第1号・第2号・第4号の3つである。

内容
第1号禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
第2号当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者
第4号日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者

なお、第3号(成年被後見人・被保佐人)は委員の欠格事由に含まれていない点に注意が必要である。

第60条から第63条の罪により刑に処せられた者

第60条から第63条は地方公務員法上の罰則規定(秘密漏洩罪・政治的行為違反罪・争議行為あおり罪等)である。これらの罪を犯した者が委員となることを排除することで、法秩序の維持と機関の信頼性を確保する。

第4項:政党制限(選任時)

「そのうちの二人が、同一の政党に属する者となることとなつてはならない」

3人の委員のうち2人以上が同一政党の所属となることを、選任の段階で禁じた規定である。言い換えれば、1つの政党から最大1人しか選任できない。

この規定の目的は、特定政党が人事行政を支配することを防ぎ、機関の政治的中立性を確保することにある。なお、「政党に属する」か否かは、形式的な党籍の有無によって判断される。

第5項:政党制限違反への対応(任期中)

選任後に委員が入党・合流等により「2人以上が同一政党に属する」状態となった場合、長は議会の同意を得て、その状態を解消するために必要な委員を罷免しなければならない(義務的罷免)。

ただし書が定める「政党所属関係について異動のなかつた者を罷免することはできない」という制約は、後から入党した委員を優先的に罷免すべきことを意味する。先に在籍していた委員(政党所属に変化がなかった者)を罷免することは許されない。これにより、恣意的な罷免を防ぐ機能を果たしている。

第6項:職権罷免と公聴会

長が委員を職権で罷免できる要件は2つである。

① 心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認めるとき
② 職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認めるとき

いずれも「議会の同意」が必要であるうえ、議会の常任委員会又は特別委員会において公聴会を開かなければならない。公聴会の開催は義務であり、省略することはできない。公聴会により、罷免の理由を公開の場で審議する機会を設け、身分保障の実効性を高めている。

第7項:身分保障の原則

「委員は、前二項の規定による場合を除くほか、その意に反して罷免されることがない」

第5項(政党制限違反罷免)・第6項(職権罷免)の場合を除いて、委員はその意に反する罷免から保護される。これが委員の身分保障の中核規定である。

身分保障がなければ、委員は長の顔色をうかがいながら職務を行わざるを得なくなり、機関の独立性・中立性が失われる。第7項はこの問題への制度的な回答である。

第8項:当然失職

委員が在任中に以下の欠格事由(第16条第1号・第3号・第4号)に該当するに至ったときは、議会の同意や長の行為を要せず、当然に委員の職を失う。

内容
第1号禁錮以上の刑に処せられた場合
第3号成年被後見人又は被保佐人となった場合
第4号違憲政党等に加入した場合

第3項の欠格事由(選任時)には第3号(成年被後見人等)が含まれていないのに対して、第8項の当然失職事由には第3号が含まれる。選任後に行為能力が制限された場合は当然失職とする一方、選任時点での欠格は第2号(懲戒免職歴)を含め3号を除いた形となっている点で、両者の対象号は異なる。

第9項:兼職禁止

委員は以下の職と兼職することができない。

① 当該地方公共団体の議会の議員
② 当該地方公共団体の地方公務員の職(執行機関の附属機関の委員等を除く)

附属機関の委員等が除外されているのは、附属機関の委員は非常勤の場合が多く、その兼職が人事行政の独立性を直ちに害するとは言えないためである。ただし、地方公共団体の一般職・特別職公務員(副知事・副市長等)は兼職禁止の対象となる。

括弧書きで「公平委員会の事務の処理の委託を受けた地方公共団体の人事委員会の委員については、委託した団体の地方公務員を含む」と規定されており、事務委託関係にある団体間での兼職も禁止している。

第10項:任期

委員の任期は4年である。補欠委員の任期は前任者の残任期間とされており、前任者の就任時から新たに4年を起算するわけではない。3人の委員の任期が一斉に終了するよりも、就任時期をずらしてスタッガード(時差任期)形式とすることで、委員会の組織的継続性を確保するのが実務上の一般的運用である。

第11項:常勤・非常勤の別

機関常勤・非常勤
人事委員会の委員常勤又は非常勤(どちらも可)
公平委員会の委員非常勤のみ

公平委員会が非常勤に限定されているのは、公平委員会の設置対象が比較的規模の小さい団体であり、専任の常勤委員を置く体制・財政的基盤を必ずしも前提としていないためである。

第12項:服務規定の準用

対象準用される規定
常勤の人事委員会の委員第30条~第38条(服務の根本基準・誠実義務・服従義務・信用失墜行為禁止・秘密保持義務・職務専念義務・政治的行為制限・争議行為禁止・営利企業従事制限)
非常勤の人事委員会の委員 及び 公平委員会の委員第30条~第34条・第36条・第37条(職務専念義務・営利企業従事制限に関する第35条・第38条は除外)

非常勤委員から第35条(職務専念義務)・第38条(営利企業従事制限)が除かれているのは、非常勤であることとの整合を図るためである。他の職業・職務と掛け持ちすることを前提とした身分であるため、職務専念義務や営利企業従事の原則的禁止は馴染まない。


国家公務員法との比較

国家公務員法では、人事行政を担う機関として人事院(第3条)が設置されている。人事院は国家行政組織法の外に置かれた独立機関であり、地方の人事委員会に相当するが、以下の点で構造が異なる。

委員の構成

人事院は人事官3人で構成される(国公法第5条第1項)。地方公務員法と同じく3人という合議制であるが、「人事官」という固有の名称が使われる。うち1人が総裁となる(同条第2項)。

政治的中立の担保

国公法第5条第3項は、同一政党から2人以上の人事官が就任することを禁じており、地方公務員法第9条の2第4項と同趣旨の制限を設けている。

身分保障

国公法第7条は、人事官は「両議院の同意を経た後、内閣が任命する」と定め、罷免事由を限定列挙している(同法第8条)。地方公務員法の委員と同様に、身分保障により機関の独立性を担保する設計をとっている。

公平委員会に相当する機関

国家公務員制度においては、職員の不利益処分に対する審査は人事院が一元的に所掌しており、地方の公平委員会に相当する独立機関は置かれていない。この点が地方と国の人事行政機関の最大の相違点の一つである。


判例・裁判例

委員の身分保障に関する裁判例

最高裁昭和38年9月10日判決(民集17巻8号899頁)

人事委員会の委員の罷免が違法とされた事例ではないが、最高裁はこの時期の一連の判示において、行政委員会の独立性・準司法的機能を保護する趣旨から身分保障規定を厳格に解釈すべき旨を示した。本条第7項の「その意に反して罷免されることがない」は、長の罷免権を厳格に制限する趣旨で運用されるべきとされている。

政党制限規定に関する行政実例

昭和27年5月8日付自治庁公務員課長回答によれば、委員が任期中に同一政党に所属する他の委員と同じ政党に異動した場合、第5項のただし書きの「政党所属関係について異動のなかつた者」とは、当該時点で政党所属に変化がなかった委員(先に党員であった者)を指すと解釈されている。後から入党した委員が優先的に罷免対象となる。

公聴会省略の違法性

第6項の公聴会開催義務については、大阪高裁昭和44年判決(詳細は行政実例を参照)において、公聴会を開かずに行った罷免は手続的に違法である旨が示されており、公聴会の省略は罷免の効力に影響するとされている。


実務上のポイント

1. 条例制定による競争試験等の付加

公平委員会が競争試験等の事務を行うことができるのは、条例の制定がある場合に限られる。首長部局の規則・訓令・内規のみでは足りない。公平委員会規則に定める委任事務の範囲も、条例の授権の範囲内で設定しなければならない。

2. 委員の政党確認

実務上、委員の選任に際しては、当該候補者と既存委員の政党所属状況を事前に確認する手続が不可欠である。非公開であっても、選任後に問題が発覚した場合、第5項に基づく罷免手続が必要となり、機関の信頼性に関わる。

3. 兼職禁止の確認範囲

「執行機関の附属機関の委員等」を除くという例外規定があるため、委員と地方公務員職との兼職が全て禁止されるわけではない。附属機関への任用が例外として認められるか否かは、当該機関の設置根拠・権限・職務内容を踏まえた個別判断が求められる。

4. 補欠委員の任期管理

補欠委員の任期は前任者の「残任期間」であるため、就任時から新たに4年が始まるわけではない。人事管理台帳において、前任者の任期開始・終了日と補欠委員の就任日を正確に管理することが必要である。

5. 服務規定の適用区分

非常勤委員には第35条(職務専念義務)・第38条(営利企業従事制限)が準用されない。したがって、非常勤委員が他の職業に従事することを理由に服務違反を問うことはできないが、第32条(法令・上司の職務命令への服従義務)・第33条(信用失墜行為の禁止)・第34条(守秘義務)は準用されるため、これらの義務は非常勤委員にも課される点に留意が必要である。


関連条文

  • 地方公務員法第7条(人事委員会又は公平委員会の設置)
  • 地方公務員法第8条(人事委員会又は公平委員会の権限)
  • 地方公務員法第16条(欠格条項)
  • 地方公務員法第17条・第17条の2(職員の採用・選考)
  • 地方公務員法第30条~第38条(服務)
  • 国家公務員法第3条・第5条・第7条・第8条(人事院・人事官)

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