第3条 条文

第三条 業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、特定受託事業者の給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により特定受託事業者に対し明示しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その明示を要しないものとし、この場合には、業務委託事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を書面又は電磁的方法により特定受託事業者に対し明示しなければならない。

2 業務委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、特定受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。


1 第3条の位置づけ―本法の「出発点」となる義務

第3条は、本法全26条の中で実務上もっとも広く適用される規定である。第4条(報酬支払期日)・第5条(禁止行為)が「特定業務委託事業者」(従業員を使用する発注者)にのみ適用されるのに対し、第3条の取引条件明示義務は「業務委託事業者」すべてに課される。本条は特定業務委託事業者のみならず、全ての業務委託事業者に適用されることに留意が必要である。

従業員を使用しない個人フリーランスが別のフリーランスに再委託する場合でも、この明示義務は免れない。本条の射程は広く、フリーランス法に関わるあらゆる発注場面の出発点となる。


2 「直ちに」という時間的要件

条文が「直ちに」と定める点は取適法の「速やかに」や労働基準法の「遅滞なく」と比較して厳格な要件である。「直ちに」とは、すぐにという意味で、一切の遅れを許さないことをいう。

「業務委託をした場合」のタイミングについては、「業務委託をした場合」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で、業務委託をすることについて合意した場合をいう。また、一定期間にわたって同種の業務委託を複数行う場合に共通事項をあらかじめ取り決めることがあるが、この場合の「業務委託をした場合」とは、共通事項を取り決めた時点ではなく、後に個々の業務委託をすることについて合意した場合をいう。

実務上の含意として、電話やオンラインミーティングで発注の合意が成立した瞬間から、書面または電磁的方法による明示の義務が発生する。翌日以降に発注書を送付するという慣行は「直ちに」の要件を満たさない可能性があることに留意が必要である。ただし、実務的には合意と同時に電子メール等で明示事項を送付することで対応が可能である。


3 明示すべき8つの事項

公正取引委員会規則(公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則)第1条が定める明示事項は以下の8項目(うち2項目は該当する場合のみ)である。これを実務上「3条通知」と呼ぶ。

① 双方の名称・識別情報

業務委託事業者は、業務委託事業者及び特定受託事業者を識別できる情報(氏名又は登記されている名称に限らない)を明示する必要がある。なお、トラブル防止の観点から、あらかじめ互いに業務委託の相手方の氏名又は登記されている名称を把握しておくことが考えられる。

② 業務委託をした日

「業務委託をした日」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で業務委託をすることについて合意した日をいう。

③ 給付の内容

「給付の内容」とは、業務委託事業者が特定受託事業者に委託した業務が遂行された結果、特定受託事業者から提供されるべき物品及び情報成果物(役務の提供を委託した場合にあっては提供されるべき役務)であり、3条通知において、その品目、品種、数量、規格、仕様等を明確に記載する必要がある。

また、委託に係る業務の遂行過程を通じて特定受託事業者の知的財産権が発生する場合において、業務委託の目的たる使用の範囲を超えて知的財産権を自らに譲渡・許諾させることを「給付の内容」とすることがある。この場合は、知的財産権の譲渡・許諾の範囲を「給付の内容」の一部として明確に記載する必要がある。

IT業界において「著作権は発注者に帰属する」旨を契約で定めることが多いが、そのような条項を設ける場合は、発注時の3条通知に知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明記することが必要となる。曖昧な著作権帰属条項は本条違反に直結しうる。

④ 受領期日または役務提供期日

業務委託事業者は、特定受託事業者の給付を受領し、または役務の提供を受ける期日(期間を定めるものにあっては、当該期間)を明示する必要がある。

納品期日は「〇月〇日まで」と具体的な日付で明示することが求められる。「なるべく早く」「随時」といった曖昧な記載は明示として不十分である。

⑤ 受領場所または役務提供場所

業務委託事業者は、給付を受領する場所等を明示する必要がある。ただし、主に役務の提供委託において、委託内容に給付を受領する場所等が明示されている場合や、給付を受領する場所等の特定が不可能な委託内容の場合には、場所の明示は要しない。また、主に情報成果物の作成委託において、電子メール等を用いて給付を受領する場合には、情報成果物の提出先として電子メールアドレス等を明示すれば足りる。

⑥ 検査完了期日(検査をする場合のみ)

業務委託事業者は、特定受託事業者の給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日を明示する必要がある。

この事項は検査を行う場合にのみ明示が必要であり、検査を行わない場合は不要である。建設業で一人親方に工事を発注し施主検査を経て精算する場合などは、検査完了期日の明示が必要となる。

⑦ 報酬の額および支払期日(常に必須)

「報酬の額」とは、業務委託事業者が特定受託事業者に委託した業務が遂行された結果、特定受託事業者の給付に対し支払うべき代金の額をいう。「支払期日」とは、特定受託事業者の給付に係る報酬の支払日をいう。業務委託事業者が定めるべき「支払期日」は、具体的な日が特定できるものでなければならない。

支払期日について「翌月末」という記載は具体的な日付が特定できるが、「〇月以内」「なるべく早く」といった記載は支払期日を定めているとはいえない。公正取引委員会特設サイトでも「翌月10日まで」という記載は「いつが支払期日なのか具体的な日を特定できないため、支払期日を定めているとは認められない」と明示されている。

⑧ 金銭以外の方法で報酬を支払う場合の支払方法(該当する場合のみ)

現金・振込以外の方法(商品券・ポイント等)で報酬を支払う場合に限り、その支払方法を明示する必要がある。


4 正当な理由による未定事項の取り扱い

条文ただし書きは、明示事項のうち「内容が定められないことにつき正当な理由がある」場合の例外を認めている。たとえば、発注時点で報酬の額が確定しない(成果報酬型で条件が未定など)場合が考えられる。

ただし、この例外は厳格に解釈される。未定事項がある場合には、その内容が定められない理由と未定事項の内容が決まる予定日を委託時に明示し(当初の明示)、未定事項が決まった後は直ちに補充の明示を行わなければならない。当初の明示と補充の明示は相互の関連性が明らかになるよう明示する必要がある。

「後で決める」という口頭での約束は正当な理由による未定事項の処理として認められない。未定事項があるならば、「何が未定か」「なぜ未定か」「いつ決まるか」を書面または電磁的方法で明示した上で、確定後に直ちに補充通知を発しなければならない。


5 書面と電磁的方法

「書面」の意味

書面とは、紙媒体による書類である。発注書・業務委託契約書・注文書などがこれにあたる。書面の名称は問わないが、明示事項をすべて記載していることが必要である。契約書を交わしていても、明示事項の一部が記載されていなければ第3条違反となる点に注意が必要である。

「電磁的方法」の意味

電磁的方法には、電子メール(添付ファイルを含む)、SNSのダイレクトメッセージ(タイムラインへの投稿は不可)、ウェブシステム上の受発注機能等が含まれる。クラウドサービス上のURLを電子メールで送付する方法も認められる。

一方、SNSのタイムラインのように不特定多数に発信するものや、口頭・電話は電磁的方法に該当しない。これは公正取引委員会特設サイトのよくある質問でも明確にされている事項である。

電磁的方法で明示した後の書面交付請求(第2項)

電磁的方法で明示した場合に、フリーランス側から「紙の書面で交付してほしい」と請求されたときは、遅滞なく書面を交付しなければならない(第2項)。ただし、公正取引委員会規則で定める「特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合」はこの限りでない。フリーランスが自らデータを書面に変換できる状況であることが確認できる場合などがこれにあたる。


6 第3条違反の効果

第3条に違反した場合、公正取引委員会は当該業務委託事業者に対して勧告(第8条)を行うことができる。勧告を受けた者が正当な理由なく勧告に係る措置をとらなかったときは、公正取引委員会は命令(第9条)を発することができ、さらにその命令に違反した場合は50万円以下の罰金(第24条)に処せられる。

公正取引委員会は、勧告を行った場合には、事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等を公表する。企業名の公表という社会的制裁は、罰金よりも深刻なレピュテーションリスクをもたらしうる。


7 建設業・IT業界への実務的インパクト

建設業における「口頭発注」慣行の終焉

建設業では長らく「親方の指示があれば動く」という口頭発注が常態化してきた。一人親方に対して「来週から現場に入ってくれ。代金は後で」という発注は、本条のもとでは明確に違反である。元請会社は一人親方と業務委託の合意が成立した時点で直ちに、業務内容・報酬額・支払期日・受領場所等を書面または電磁的方法で明示しなければならない。

発注書の様式を整備し、発注の都度メール等で送付する運用の構築が急務である。継続的に同じ一人親方へ発注する場合でも、個々の発注ごとに(または合意のたびに)明示義務が発生することに注意が必要である。

IT業界における発注プロセスの見直し

IT業界では、NDA締結後に詳細仕様を開示し、交渉の末に契約書を締結するというプロセスが一般的である。このプロセスの中で「口頭でOKが出た」「Slackで合意した」という段階で法的には業務委託の合意が成立している可能性がある。合意の時点から「直ちに」明示義務が生じるため、正式な契約書締結を待たずに、合意成立時点で明示事項を電子メール等で送付する運用が必要となる。

また、フリーランスエンジニアへの委託において著作権・知的財産権の帰属をシステム開発委託契約に盛り込む場合、その内容は「給付の内容」の一部として発注時の3条通知に記載しなければならない。「著作権は発注者に帰属する」という条項だけを後の本契約に盛り込んでも、発注時の明示義務を充足したことにはならない。


8 実務対応のポイント―発注書テンプレートの整備

第3条対応の第一歩は、自社の発注書テンプレートを整備することである。テンプレートには下記8項目が漏れなく記載できる欄を設けることが望ましい。

なお、公正取引委員会は「取引フローでみる義務と禁止行為」の資料(https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/assets/pdf/flow2506.pdf)を公表しており、発注から支払いまでの各段階における義務の整理に活用できる。

チェックすべき項目は、①双方の名称・識別情報、②業務委託をした日、③給付の内容(品目・仕様・数量、知的財産権の扱いを含む)、④受領期日または役務提供期日、⑤受領場所または役務提供場所、⑥検査完了期日(検査をする場合のみ)、⑦報酬の額および支払期日(具体的な日付)、⑧支払方法(金銭以外の場合のみ)である。


まとめ

第3条は本法の「玄関」となる条文であり、他のすべての義務(第4条以下)はこの取引条件明示を前提として積み上げられる。フリーランス法対応において最初に着手すべきは、発注書の書式を整備し、合意成立と同時に書面または電磁的方法で8項目を通知する運用を確立することである。

建設業における口頭発注、IT業界における「とりあえずSlackで合意」という慣行は、いずれも本条に抵触するリスクを持つ。自社の発注プロセスを棚卸しし、第3条が求める「直ちに・書面または電磁的方法で・8項目を・漏れなく」という要件に照らして点検することが急がれる。

次回は第4条(報酬の支払期日等)を解説する。60日以内支払い・再委託の場合の30日以内支払いという数値ルールと、建設業の手形払い慣行との関係を中心に取り上げる予定である。


参考リンク

公正取引委員会 フリーランス法特設サイト https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/index.html
公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」
 https://www.mhlw.go.jp/content/001572556.pdf
公正取引委員会 Q&A https://www.jftc.go.jp/fllaw_limited/fllaw_qa.html
取引フローでみる義務と禁止行為(PDF) https://www.jftc.go.jp/freelancelaw_2025/assets/pdf/flow2506.pdf


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「発注書のひな型を見直したい」「フリーランスとの取引プロセス全体を法律に照らしてチェックしてほしい」「社内の発注担当者向けに研修を実施したい」――第3条の取引条件明示義務への対応は、書式の整備だけでなく、担当者の理解と運用定着が不可欠である。

中川総合法務オフィスは、建設業をはじめとした中小企業のコンプライアンス体制整備に長年貢献してきた。全国850回以上の研修実績を積み上げ、上場企業グループ会社における不祥事組織のコンプライアンス態勢再構築の経験を有する。内部通報の外部窓口を現に担当し、企業不祥事の再発防止についてマスコミから意見を求められることも多い実践的な専門オフィスとして、フリーランス法対応の社内研修設計から発注書式整備の支援まで、貴社の実態に即した対応をご提案する。

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