第8条〜第11条 条文
(勧告)
第八条 公正取引委員会は、業務委託事業者が第三条の規定に違反したと認めるときは、当該業務委託事業者に対し、速やかに同条第一項の規定による明示又は同条第二項の規定による書面の交付をすべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
2 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第四条第五項の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに報酬を支払うべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第五条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定に違反していると認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに特定受託事業者の給付を受領すべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
4 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第五条第一項(第一号に係る部分を除く。)の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかにその報酬の額から減じた額を支払い、特定受託事業者の給付に係る物を再び引き取り、その報酬の額を引き上げ、又はその購入させた物を引き取るべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
5 公正取引委員会は、特定業務委託事業者が第五条第二項の規定に違反したと認めるときは、当該特定業務委託事業者に対し、速やかに当該特定受託事業者の利益を保護するため必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
6 公正取引委員会は、業務委託事業者が第六条第三項の規定に違反していると認めるときは、当該業務委託事業者に対し、速やかに不利益な取扱いをやめるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
(命令)
第九条 公正取引委員会は、前条の規定による勧告を受けた者が、正当な理由がなく、当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告を受けた者に対し、当該勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる。
2 公正取引委員会は、前項の規定による命令をした場合には、その旨を公表することができる。
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の準用)
第十条 前条第一項の規定による命令をする場合については、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第六十一条、第六十五条第一項及び第二項、第六十六条、第七十条の三第三項及び第四項、第七十条の六から第七十条の九まで、第七十条の十二、第七十六条、第七十七条、第八十五条(第一号に係る部分に限る。)、第八十六条、第八十七条並びに第八十八条の規定を準用する。
(報告及び検査)
第十一条 中小企業庁長官は、第七条の規定の施行に必要な限度において、業務委託事業者、特定業務委託事業者、特定受託事業者その他の関係者に対し、業務委託に関し報告をさせ、又はその職員に、これらの者の事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 公正取引委員会は、第八条及び第九条第一項の規定の施行に必要な限度において、業務委託事業者、特定業務委託事業者、特定受託事業者その他の関係者に対し、業務委託に関し報告をさせ、又はその職員に、これらの者の事務所その他の事業場に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
3 前二項の規定により職員が立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、関係人に提示しなければならない。
4 第一項及び第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
1 この四条の位置づけ―「制裁プロセス」の全体像
第3条〜第7条が実体規定(義務・禁止行為・申告制度)であるとすれば、第8条〜第11条は行政機関が違反に対してどう対応するかを定める「執行規定」である。本法における行政制裁は、調査・勧告・命令・公表・罰金という段階的プロセスで構成される。
この四条を並べて俯瞰すると、本法の制裁設計の特徴が浮かび上がる。第一に、独占禁止法とは異なり行政制裁の中心は「勧告」であり、刑事罰(罰金)は命令違反に対してのみ科される。第二に、勧告の段階から事業者名の公表が行われる(第8条柱書きの実務運用・第9条第2項)点で、レピュテーションリスクが制裁の実質的な核心となっている。第三に、立入検査権(第11条)が行政調査の物理的な裏付けとして機能している。
2 第8条 勧告―六類型の勧告と「公表」という制裁
(1)勧告の六類型
第8条は六つの項から構成され、違反行為の種類ごとに勧告の内容を定める。
第1項(第3条違反・取引条件の未明示):速やかな明示または書面交付を勧告する。
第2項(第4条第5項違反・報酬の支払遅延):速やかな報酬の支払いを勧告する。
第3項(第5条第1項第1号違反・受領拒否):速やかに給付を受領すべきことを勧告する。「違反していると認めるとき」という現在進行形の表現が用いられており、継続中の違反にも対応できる。
第4項(第5条第1項第1号以外の違反・報酬減額・返品・買いたたき・購入強制):減じた額の支払い・物の再引取り・報酬の引上げ・購入させた物の引取りを勧告する。
第5項(第5条第2項違反・不当な経済上の利益提供要請・不当なやり直し):フリーランスの利益保護に必要な措置をとるべきことを勧告する。
第6項(第6条第3項違反・報復措置):速やかに不利益な取扱いをやめるべきことを勧告する。「違反していると認めるとき」という現在進行形の表現を使う。
(2)勧告の内容―実際の勧告事例から読み解く
勧告の実質的な内容は、条文が定める「速やかに〇〇をすべきこと」にとどまらず、実際の執行においては違反の是正措置・社内体制整備・周知徹底・公正取引委員会への報告という複合的な措置が求められる。
令和7年6月17日に「光文社に対して行われた勧告」の内容を見ると、①取締役会の決議により違反事実の確認および今後の是正方針の確認、②同種類似の取引についての社内調査と問題があった場合の是正措置、③役員・従業員に対するフリーランス法の研修など社内体制の整備、④各措置の社内周知徹底、⑤取引先特定受託事業者への通知、⑥公正取引委員会への報告、という六項目が勧告の内容として示されている。
この勧告の構造は取適法(中小受託取引適正化法)の勧告と類似しており、単に違反行為の停止を求めるだけでなく、再発防止体制の構築・経営者の関与・外部への開示まで含む包括的な是正を求める点が特徴的である。
(3)勧告と同時の「事業者名の公表」
実務上、勧告に並ぶ重大な制裁効果が「事業者名の公表」である。第8条の条文自体には公表規定は置かれていないが、公正取引委員会は勧告を行った場合には事業者名・違反事実の概要・勧告の概要等を公表する運用としており、これはフリーランス法特設サイトでも明示されている。
令和7年6月17日、公正取引委員会は株式会社小学館及び株式会社光文社に対し、フリーランス・事業者間取引適正化等法第3条第1項(取引条件の明示義務)及び第4条第5項(期日における報酬支払義務)の規定に違反する事実が認められたとして、フリーランス法施行後初めての勧告を行った。
この勧告は大手メディアで広く報道され、両社のレピュテーションに対する実質的な影響は罰金を大幅に上回るものとなった。違反認定された過半数の取引が口頭での発注であり、メールやSNSで一部の条件が示されていた場合も報酬の支払期日は示されていなかった。また、成果物納品から支払日まで80日以上空いていたケースも散見されたと報じられた。
光文社は「フリーランス新法施行前の2024年10月に2日間にわたり社員向けの研修を実施していたが、長年の商慣習において口頭などでの発注や、新法が示す法令期日内の支払いにずれが生じていた」と説明し、勧告を真摯に受け止め、役員・従業員への周知徹底と2025年6月16日の緊急社内研修実施を公表した。
さらに同年12月には、グロービジョン株式会社に対し、テレビジョン放送事業者等から請け負う映画・アニメ番組等の制作に係る演出・翻訳・編集・音声出演等をフリーランス55名に委託した際の取引条件の未明示、および請求書の提出が遅れたことを理由とした報酬の不払いが認められたとして、フリーランス法第8条第1項および第2項の規定に基づき勧告が行われた。
勧告事例の蓄積状況については、公正取引委員会が勧告一覧ページ(https://www.jftc.go.jp/FL/FLkankoku/index.html)で随時更新して公表している。
3 第9条 命令―勧告不服従に対する強制
(1)命令の要件
第9条第1項は、勧告を受けた者が「正当な理由がなく」勧告に係る措置をとらなかった場合に、公正取引委員会が命令を発することができると定める。
「正当な理由がなく」という文言は、勧告に従わないことに合理的な事情がある場合(たとえば勧告内容に法令解釈上の異議がある場合など)には、直ちに命令には進まないことを示す。しかし、正当な理由なく勧告を無視した場合には命令が発せられ、さらにその命令に違反した場合(第24条)は50万円以下の罰金となる。
(2)命令違反の公表(第9条第2項)
第9条第2項は、命令をした場合に「その旨を公表することができる」と定める。勧告の段階でも事業者名が公表される運用となっているため、命令まで至った場合の公表は重ねて社会的制裁として機能する。
命令と罰金の組み合わせにより、勧告不服従は最終的に刑事罰に直結する。法人については両罰規定(第25条)により法人自体にも罰金が科せられることも重要である。
4 第10条 独占禁止法の準用―命令に独占禁止法の手続保障を適用
第10条は、第9条第1項による命令をする場合に独占禁止法の手続規定の一部を準用するものである。準用される主な規定は、意見聴取(第65条第1項・第2項)・異議申立て(第66条)・審判手続(第70条の3第3項・第4項、第70条の6から第70条の9まで)などである。
この準用の意義は、命令という重大な行政処分に際して、処分を受ける事業者の防御権を保障する点にある。事業者は命令に先立って意見を述べる機会が与えられ、命令に不服がある場合には審判や取消訴訟で争うことができる。独占禁止法の長年の実務で洗練された手続保障が、フリーランス法の命令にも適用されることで、法的安定性が確保されている。
5 第11条 報告及び検査―「立入検査権」という行政調査の実力
(1)中小企業庁長官の調査権(第1項)
第11条第1項は中小企業庁長官に対し、業務委託事業者・特定業務委託事業者・特定受託事業者その他の関係者への報告要求と、事務所・事業場への立入検査権を付与する。この権限は第7条(中小企業庁長官の請求)の施行に必要な限度において行使される。
発注事業者としては、中小企業庁の立入検査が実際に行われうることを認識しておく必要がある。帳簿・発注書・契約書・支払記録等の書類が検査対象となるため、フリーランスへの発注に関する書類管理を適切に行うことが重要である。
(2)公正取引委員会の調査権(第2項)
第11条第2項は公正取引委員会に対して同様の調査権を付与する。こちらは第8条(勧告)・第9条第1項(命令)の施行に必要な限度での権限である。
公正取引委員会はフリーランス等の取引適正化に向け、能動的な違反事件の調査を実施するとともに、フリーランス法に基づく指導等を積極的に行っている。
公正取引委員会は令和7年(2025年)3月にゲームソフトウェア業・アニメーション制作業・リラクゼーション業・フィットネスクラブを対象とした集中調査を実施し、令和7年12月時点ではさらに広範な業種への調査を継続している。立入検査は抜き打ちで行われうるため、日常的な書類整備が不可欠である。
(3)身分証明書の提示義務(第3項)
職員が立入検査を行う際は身分証明書の携帯・提示が義務づけられる(第3項)。事業者は身分証の提示を求める権利があり、提示がない者の立入りを拒否できる。
(4)犯罪捜査との混同の禁止(第4項)
第4項は「立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と明示する。行政調査と刑事捜査は法的根拠・目的・効果が異なり、行政調査に任意協力した事業者が刑事手続でその協力内容を証拠として使われることへの歯止めを設ける規定である。
6 制裁プロセスの全体フロー
本法における行政制裁の全体プロセスを整理すると以下の流れとなる。
まず調査の端緒として、フリーランスからの申出(第6条)・中小企業庁長官からの請求(第7条)・公正取引委員会の能動的調査・第11条に基づく報告徴収・立入検査などによって違反の疑いが把握される。
次に、調査により違反の事実が認定された場合、自発的申出による早期是正の機会を経た上で、公正取引委員会が勧告(第8条)を行う。勧告は事業者名・違反内容の公表を伴う。
勧告を受けた事業者が正当な理由なく措置をとらない場合、公正取引委員会は命令(第9条第1項)を発する。命令に際しては独占禁止法準用による意見聴取等の手続保障(第10条)がある。
命令に違反した場合は50万円以下の罰金(第24条)・法人両罰規定(第25条)が適用される。命令の公表(第9条第2項)も行われる。
7 建設業・IT業界への実務的インパクト
勧告公表が意味すること
勧告が公表されると、発注事業者名・違反の具体的内容がインターネット上に恒久的に残る。採用、取引先との信頼関係、金融機関との関係など、あらゆるステークホルダーとの関係に波及しうるレピュテーションリスクは罰金額(50万円)と比較して格段に大きい。
小学館・光文社・グロービジョンの各案件はいずれも大手メディアで大きく報道され、SNSでも広く拡散した。中小企業であっても同種の違反が発覚した場合の社会的影響は深刻である。
立入検査への備え
公正取引委員会・中小企業庁の立入検査は予告なしに行われうる。発注書・契約書・支払記録・発注メール・口頭発注の記録(ある場合)などが検査対象となる。「発注書が存在しない」「口頭での発注しか記録がない」という状態は、第3条違反の証拠となりうる上に、調査対応をきわめて困難にする。
日常的に発注書(電子文書を含む)を発行・保管する運用を確立することが、立入検査への最大の備えとなる。
研修の形式だけでは不十分
光文社の事例が示す通り、施行前に2日間の社員向け研修を実施したにもかかわらず長年の商慣習による口頭発注・支払期日の不徹底が続いたことが違反の原因となった。 研修を実施したという形式的な事実だけでは違反を防げない。研修の内容・対象者・頻度・フォローアップ、そして実務プロセスの変更が一体となって初めてコンプライアンスが機能する。
まとめ
第8条〜第11条は本法の執行規定として、勧告(第8条)→命令(第9条)→罰金(第24条・第25条)という段階的制裁プロセスと、それを支える調査権(第11条)・手続保障(第10条)を定める。
実際の執行状況として、施行から1年以内に小学館・光文社・グロービジョン株式会社に対して勧告が行われており、公正取引委員会の執行姿勢が明確に示されている。「まだ様子を見ている」という対応は通用しない段階に入っている。
勧告の実効的な内容は「取締役会での違反確認・同種取引の社内調査・社内研修・周知徹底・取引先への通知・公正取引委員会への報告」という包括的な是正パッケージであり、対応に要する社内コストは相当のものとなる。事前のコンプライアンス体制整備こそが、最も費用対効果の高いリスク管理策である。
次回は第12条(募集情報の的確な表示)から第17条(申出等)にかけて、第3章「特定受託業務従事者の就業環境の整備」に入る。ハラスメント規制・育児介護配慮・中途解除予告といった就業環境整備義務を解説する予定である。
参考リンク
公正取引委員会 フリーランス法勧告一覧 https://www.jftc.go.jp/FL/FLkankoku/index.html
公正取引委員会「グロービジョン株式会社に対する勧告について」(令和7年12月5日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/dec/251205_fl_glovision.html
公正取引委員会「株式会社光文社に対する勧告について」(令和7年6月17日) https://www.jftc.go.jp/houdou/250617_fl_kobunsya.html
公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法に基づく指導等について」(令和7年12月10日) https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2025/dec/251210_fl_shido.html
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「勧告を受けたらどうなるか社員に説明したい」「立入検査への備えとして発注書管理フローを見直したい」「研修を実施したが現場への定着が不安、実務プロセスの点検もしてほしい」――第8条〜第11条が定める制裁プロセスをリアルに理解することが、コンプライアンスを「他人事」から「自分事」に変える第一歩である。
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