条文原文

第四条 前条第二項の場合のほか、特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報(選挙運動の期間中に頒布された文書図画に係る情報に限る。以下この条において同じ。)の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。

一 特定電気通信による情報であって、選挙運動のために使用し、又は当選を得させないための活動に使用する文書図画(以下この条において「特定文書図画」という。)に係るものの流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等(公職の候補者又は候補者届出政党(公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)第八十六条第一項又は第八項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)若しくは衆議院名簿届出政党等(同法第八十六条の二第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)若しくは参議院名簿届出政党等(同法第八十六条の三第一項の規定による届出をした政党その他の政治団体をいう。)をいう。次号において同じ。)から、当該名誉を侵害したとする情報(以下この条において「名誉侵害情報」という。)、名誉が侵害された旨、名誉が侵害されたとする理由及び当該名誉侵害情報が特定文書図画に係るものである旨(以下この条において「名誉侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害情報の送信を防止する措置(以下この条において「名誉侵害情報送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該名誉侵害情報の発信者に対し当該名誉侵害情報等を示して当該名誉侵害情報送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から二日を経過しても当該発信者から当該名誉侵害情報送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

二 特定電気通信による情報であって、特定文書図画に係るものの流通によって自己の名誉を侵害されたとする公職の候補者等から、名誉侵害情報等及び名誉侵害情報の発信者の電子メールアドレス等(公職選挙法第百四十二条の三第三項に規定する電子メールアドレス等をいう。以下この号において同じ。)が同項又は同法第百四十二条の五第一項の規定に違反して表示されていない旨を示して当該特定電気通信役務提供者に対し名誉侵害情報送信防止措置を講ずるよう申出があった場合であって、当該情報の発信者の電子メールアドレス等が当該情報に係る特定電気通信の受信をする者が使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の映像面に正しく表示されていないとき。


趣旨・立法背景

第4条は、第3条第2項が定める発信者への同意照会の一般ルールに対して、選挙運動期間中に限った特例を設けたものである。第3条第2項第2号は、プロバイダ等が発信者に同意照会を行い、7日を経過しても発信者から同意しない旨の申出がなければ、送信防止措置による発信者への損害賠償責任を免れると規定する。第4条第1号は、この7日間を2日間に短縮する。

短縮の理由は、選挙運動の期間が公職選挙法上厳格に限定されていることにある。同法146条は、選挙運動の期間を選挙期日の公示又は告示の日から選挙期日の前日までと定めており、この期間は多くの選挙で1週間から2週間程度と短い。名誉侵害情報の削除に7日を要すると、選挙運動期間の大半が経過してから削除が実現することになり、被害者である公職の候補者等の救済が事実上機能しなくなる。そこで、選挙運動用文書図画に係る名誉侵害情報に限り、照会期間を2日に短縮し、迅速な削除を可能にしている。

第4条第2号は、公職選挙法142条の3第3項又は142条の5第1項が定める電子メールアドレス等の表示義務に発信者が違反している場合について、プロバイダ等の同意照会義務そのものを免除する特例である。公職選挙法は、選挙運動用または落選運動用の文書図画をインターネット上で頒布する者に対し、発信者の電子メールアドレス等を受信者の通信端末機器の映像面に正しく表示することを義務付けている。この表示は、誰が発信した情報であるかを受信者が把握し、必要に応じて発信者に直接説明を求めることを可能にするための制度である。発信者がこの表示義務に違反している場合、プロバイダ等が本来行うべき同意照会自体を行う相手方の連絡先が適切に示されていないことになるため、照会を経ずに送信防止措置を講じても損害賠償責任を負わないこととされている。

なお、第4条が適用される情報は、選挙運動の期間中に頒布された文書図画に係る情報に限られる。名誉毀損以外の権利侵害、すなわちプライバシー侵害、著作権侵害、商標権侵害に係る情報や、青少年の健全な育成に有害な影響を及ぼす暴力的表現・性的表現等については、本条の特例は適用されず、第3条の一般原則によることになる。


用語解説

特定電気通信役務提供者 自己の管理する特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、又はその特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者をいう。SNS運営事業者、電子掲示板の管理者、インターネット接続事業者等が該当する。

特定電気通信 不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいう。SNSへの投稿、電子掲示板への書き込み等、不特定多数が閲覧可能な形態での情報発信がこれにあたる。

公職の候補者等 公職の候補者、候補者届出政党、衆議院名簿届出政党等、参議院名簿届出政党等の総称である。候補者届出政党とは公職選挙法86条1項又は8項の届出をした政党その他の政治団体、衆議院名簿届出政党等とは同法86条の2第1項の届出をした政党その他の政治団体、参議院名簿届出政党等とは同法86条の3第1項の届出をした政党その他の政治団体をいう。

特定文書図画 選挙運動のために使用し、又は当選を得させないための活動(いわゆる落選運動)に使用する文書図画をいう。インターネット上のウェブサイトやSNSの投稿画面もここでいう文書図画に含まれる。

名誉侵害情報 公職の候補者等が、自己の名誉を侵害するとして送信防止措置の申出の対象とする情報をいう。

名誉侵害情報等 名誉侵害情報そのもの、名誉が侵害された旨、名誉が侵害されたとする理由、当該情報が特定文書図画に係るものである旨、これら4つの要素をまとめて指す条文上の定義である。

電子メールアドレス等 公職選挙法142条の3第3項に規定される、選挙運動用又は落選運動用の文書図画をウェブサイト等に掲載する際に表示が義務付けられる連絡先情報をいう。電子メールアドレスのほか、SNSのアカウント名など発信者との連絡を可能にする情報を含む。


旧法時の判例・裁判例

第4条に相当する規定は、旧プロバイダ責任制限法時代から存在していたが、選挙運動期間という限定された場面かつ2日間という短期の照会手続に関する規定であるため、この特例の適用要件そのものが正面から争点となった公表判例は乏しい。

関連する裁判例としては、選挙運動に関するインターネット上の名誉毀損情報について、旧法第3条の一般原則に基づく発信者情報開示請求が認められた事例が複数存在する。これらの裁判例では、候補者の政策や資質に対する評価を超えて、事実の摘示を伴う名誉毀損的表現に該当するかどうかが主要な争点となっており、名誉侵害情報の該当性判断の枠組みは、選挙運動期間中であるか否かにかかわらず共通する。総務省の名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン別冊「公職の候補者等に係る特例に関する対応手引き」には、この判断枠組みに関する裁判例が整理されているため、実務上の該当性判断にあたってはこの手引きを参照することが有用である。

なお、公職選挙法142条の5第1項の電子メールアドレス等の表示義務違反そのものを理由とする送信防止措置について、その適法性が争われた公表判例は見当たらない。同号の要件は、発信者の連絡先表示の有無という客観的な事実によって判断される性質のものであり、名誉侵害の該当性のような評価的判断を要しないため、紛争化しにくい構造にあると考えられる。


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