本稿は、令和8年(2026年)4月1日現在の地方公務員法(昭和25年法律第261号。以下「地公法」という。)に基づく解説である。第58条の2と第58条の3は住民に対する説明責任を果たすための公表の仕組みを、第59条は国と地方公共団体との関係を定める。3か条はいずれも職員個人の身分取扱いを直接に規律するものではないが、人事担当課の年間業務サイクルと、総務省通知を読み解く姿勢に直結する条文である。
1 条文原文
第58条の2(人事行政の運営等の状況の公表)
第五十八条の二 任命権者は、次条に規定するもののほか、条例で定めるところにより、毎年、地方公共団体の長に対し、職員(臨時的に任用された職員及び非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員及び第二十二条の二第一項第二号に掲げる職員を除く。)を除く。)の任用、人事評価、給与、勤務時間その他の勤務条件、休業、分限及び懲戒、服務、退職管理、研修並びに福祉及び利益の保護等人事行政の運営の状況を報告しなければならない。
2 人事委員会又は公平委員会は、条例で定めるところにより、毎年、地方公共団体の長に対し、業務の状況を報告しなければならない。
3 地方公共団体の長は、前二項の規定による報告を受けたときは、条例で定めるところにより、毎年、第一項の規定による報告を取りまとめ、その概要及び前項の規定による報告を公表しなければならない。
第58条の3(等級等ごとの職員の数の公表)
第五十八条の三 任命権者は、第二十五条第四項に規定する等級及び職員の職の属する職制上の段階ごとに、職員の数を、毎年、地方公共団体の長に報告しなければならない。
2 地方公共団体の長は、毎年、前項の規定による報告を取りまとめ、公表しなければならない。
第59条(総務省の協力及び技術的助言)
第五十九条 総務省は、地方公共団体の人事行政がこの法律によつて確立される地方公務員制度の原則に沿つて運営されるように協力し、及び技術的助言をすることができる。
2 趣旨・立法背景
2-1 第58条の2 ― 人事行政を住民の目にさらす仕組み
本条は、平成16年法律第85号による改正で第58条の次に加えられ、平成17年4月1日に施行された。同じ改正では修学部分休業(第26条の2)と高齢者部分休業(第26条の3)も創設されており、職員の働き方の多様化と、人事行政の透明化がひとまとまりの政策として打ち出された。
導入の背景には、平成10年代前半に高まった地方公務員の給与と定員に対する住民の関心がある。当時、国家公務員の給与水準を100とするラスパイレス指数や、実際の職務内容と乖離した級への格付けが繰り返し議論の対象となった。個別の情報公開請求を待って開示するのではなく、地方公共団体の側から毎年定期的に人事行政の全体像を示す仕組みを法律上の義務として設けたのが本条である。
条文の構造は3層になっている。第1項で任命権者が長に対し人事行政の運営状況を報告し、第2項で人事委員会または公平委員会が長に対し自らの業務の状況を報告する。第3項で長がこれらを受け、第1項の報告を取りまとめた概要と、第2項の報告そのものを公表する。任命権者は長のほか教育委員会、選挙管理委員会、代表監査委員、議会の議長、公営企業管理者、消防長などが該当するため(第6条第1項)、報告主体は一つの団体の中で複数になる。長が取りまとめ役となる点に、この制度の要がある。
公表事項の列挙は改正を経て現在の形になった。平成26年法律第34号により、旧来の「勤務成績の評定」が「人事評価」に改められ、同改正で創設された退職管理が加えられた。会計年度任用職員制度を創設した平成29年法律第29号(令和2年4月1日施行)は、対象職員の範囲を定める括弧書きを組み替えている。令和3年法律第63号による定年引上げに伴い、定年前再任用短時間勤務の制度が第22条の4に移されたことで、括弧書き中の引用も整理された。令和8年4月1日現在、この後の実質的な改正は加えられていない。
第1項冒頭の「次条に規定するもののほか」という文言は、等級ごとの職員数については第58条の3が別に定めるため、本条の報告からは外れることを示している。両条は重複せず並存する。
2-2 第58条の3 ― 職務給の原則を数字で裏づける
本条は、平成26年法律第34号により新設され、平成28年4月1日に施行された。同改正は人事評価制度の導入と退職管理の規制で知られるが、給与制度についても、給与に関する条例に等級別基準職務表を必ず定めることとした(第25条第3項第2号、第5項)。等級別基準職務表とは、どのような職務がどの等級に当たるのかを条例上明示する表である。
条例で分類基準を定めさせるだけでは、実際の格付けが基準どおりに行われているかは外から見えない。そこで、等級ごとと職制上の段階ごとに実人数を毎年公表させ、条例上の基準と現実の運用との整合を住民が検証できるようにした。総務省は、級別職務分類表や級別標準職務表に適合しない級への格付けを「わたり」と呼び、給与適正化の課題として位置づけてきた。第58条の3は、この「わたり」を数字の面から抑制する装置として働く。
条文を第58条の2と読み比べると、違いがはっきりする。第58条の2は第1項から第3項まですべてに「条例で定めるところにより」が付されているのに対し、第58条の3にはこの文言がない。報告と公表の義務は条例の有無にかかわらず法律から直接生じ、時期と方法の細目のみが各団体の判断に委ねられる。条例が未整備であることは、公表しない理由にならない。
2-3 第59条 ― 指導監督から技術的助言へ
制定当初、本条の主語は地方自治庁であった。その後の組織改編を経て、平成11年法律第160号による中央省庁の再編に伴い、総務省に改められた。
内容面でより大きな意味を持つのは、平成11年法律第87号、いわゆる地方分権一括法である。同法は機関委任事務を廃止し、国が地方公共団体に関与する場合の一般ルールを地方自治法に整えた。すなわち、法令の根拠がなければ国は関与できないとする関与の法定主義(地方自治法第245条の2)、各大臣が普通地方公共団体に対して技術的な助言または勧告をすることができるとする規定(同法第245条の4第1項)、そして助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いの禁止(同法第247条第3項)である。
地公法第59条は、この一般ルールを人事行政の分野で確認したものと位置づけられる。「協力し、及び技術的助言をすることができる」という文言には、指揮や監督にあたる語が一切含まれていない。総務省が発する通知は、地方公共団体を法的に拘束しない。従うかどうかは各団体が自らの責任で判断する。
なお、令和6年法律第65号による地方自治法改正(令和6年9月26日施行)は、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態における国の補充的な指示に関する規定を新設した。これは災害や感染症のまん延を想定した別個の枠組みであり、地公法第59条の助言の性質を変えるものではない。
3 用語解説
「任命権者」 職員の任命、人事評価、休職、免職、懲戒を行う権限を持つ機関をいう(第6条第1項)。長、議会の議長、教育委員会、人事委員会、公平委員会、選挙管理委員会、代表監査委員、消防長、公営企業管理者などが該当する。第58条の2と第58条の3の報告主体は、長ではなくそれぞれの任命権者である点に注意したい。
「臨時的に任用された職員」 常時勤務を要する職に欠員が生じた場合に、緊急のとき、臨時の職に関するとき、または採用候補者名簿がないときに、6月を超えない期間で任用される職員をいう(第22条の3)。第58条の2の報告対象から除かれる。
「短時間勤務の職を占める職員」 定年前再任用短時間勤務職員(第22条の4)と、令和13年度末までの経過措置である暫定再任用短時間勤務職員が該当する。非常勤職員に含まれるが、括弧書きにより除外の対象から外され、報告対象に戻される。
「第22条の2第1項第2号に掲げる職員」 フルタイムの会計年度任用職員をいう。勤務時間が常勤職員と同一であるため、こちらも報告対象に戻される。これに対し、同項第1号のパートタイムの会計年度任用職員は非常勤職員として報告対象から外れる。
「業務の状況」(第2項) 人事委員会または公平委員会が処理した事務の実績をいう。勤務条件に関する措置の要求の受理件数と処理状況、不利益処分についての審査請求の件数と裁決の内容、職員からの苦情相談の件数、人事委員会にあっては競争試験の実施状況や給料表に関する報告勧告の内容が中心となる。
「第25条第4項に規定する等級」 給料表に定められる等級をいう。第25条第4項は、給料表には職務の複雑、困難および責任の度に基づく等級ごとに明確な給料額の幅を定めなければならないとする。実務では「級」と呼ばれる区分がこれに当たる。
「職制上の段階」 部長、課長、課長補佐、係長、係員といった、組織上の職の階層をいう。等級が給与上の区分であるのに対し、職制上の段階は組織上の区分であり、両者は必ずしも一対一で対応しない。第58条の3が二つの切り口を並べて求めているのは、給与上の格付けと組織上の位置づけとのずれを見えるようにするためである。
「技術的助言」 地方公共団体の事務の運営について、国が専門的知見に基づいて示す情報提供や見解をいう。法的拘束力はなく、これに従わないことを理由に不利益な取扱いをすることは禁じられる(地方自治法第247条第3項)。通知、通達、事務連絡、条例例、質疑応答集といった形式で発出される。
4 判例・裁判例
4-1 公表制度そのものを直接争った判例は見当たらない
第58条の2および第58条の3を直接の争点とする最高裁判所の判例は確認できない。公表は住民一般に向けた行為であって、特定の職員の権利義務を直接に変動させるものではないため、処分性を欠き抗告訴訟になじまないことが主な理由と考えられる。公表の懈怠や内容の不備を争うとすれば、住民監査請求と住民訴訟、または情報公開条例に基づく開示請求という経路が現実的である。この点は、争いが法廷に持ち込まれていないというだけであって、義務の履行が緩やかでよいことを意味しない。
4-2 公表と個人の名誉に関する裁判例
公表の内容に懲戒処分の状況が含まれる以上、個人の名誉やプライバシーとの調整が問題となる。裁判例では、職員の服務に関する自覚を促し、同種の不祥事の再発を防ぐ目的でされた懲戒処分の公表を適法と判断したものがある(東京地方裁判所平成30年9月10日判決)。逆に、公表の目的が制裁や見せしめに傾き、氏名を含む詳細な事実を必要以上に広く知らせた場合には、名誉毀損として損害賠償責任が生じ得る。
国の運用も参考になる。人事院の「懲戒処分の公表指針について」(平成15年11月10日総参-786)は、事案の概要、処分量定、処分年月日、所属や役職段階といった被処分者の属性を、個人が識別されない内容とすることを基本とし、被害者やその関係者の権利利益を侵害するおそれがある場合には一部または全部を公表しないことも差し支えないとしている。第58条の2に基づく公表においても、処分件数と事由の類型を示すにとどめ、個人が特定される記載を避けるのが実務の標準である。
4-3 技術的助言に関する判例
最判令和2年6月30日(泉佐野市ふるさと納税不指定取消請求事件)は、第59条を読むうえで最も参照価値の高い判決である。最高裁は、普通地方公共団体は法令によらなければ国から関与を受けないとする関与の法定主義と、助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いの禁止を挙げたうえで、法改正前の募集実績を理由に指定の対象外とすることは、実質的には技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることは否定し難いと述べ、法令の根拠を欠く不指定を違法と判断した。助言と処分との距離を明確にした判断であり、通知に従わなかった団体が不利益を受けることはないという原則を確認したものといえる。
通知の法的性質については、最判昭和43年12月24日(墓地埋葬通達事件)が、通達は行政組織の内部において上級機関が下級機関の職務権限の行使を指揮するために発するものであって、国民の権利義務に直接影響を及ぼすものではなく、抗告訴訟の対象とならないとした。総務省通知も、地方公共団体を名宛人とする助言である以上、住民や職員の権利義務を直接に左右しない。
5 国家公務員法との比較
国家公務員の世界では、人事院が毎年、国会と内閣に対して業務の状況を報告することとされている(国家公務員法第24条)。この報告が年次報告書、通称公務員白書である。報告先が住民ではなく国会と内閣であり、報告主体が各任命権者ではなく人事院である点で、地公法第58条の2とは構造が異なる。地方の制度は、任命権者が長へ、長が住民へという二段構えで、住民への説明責任を終着点に据えている。
等級ごとの職員数については、国では俸給表の級別在職者数が人事院の統計資料として公表されるが、地公法第58条の3のように任命権者から長への報告と長による公表を法律上の義務として定める規定は置かれていない。地方に固有の仕組みである。
国家公務員倫理法には、人事行政の運営状況を国民に向けて包括的に公表する規定は存在しない。同法が定めるのは、贈与等報告書や資産等報告書の提出と、一定の範囲での閲覧の仕組みであり、対象は倫理保持に関する情報に限られる。地公法第58条の2の公表事項に倫理関係の独立した項目がないのも、これと対応する。この不存在は、地方における服務の状況の公表が、倫理法に相当する枠組みではなく地公法第58条の2の一項目として処理されていることを意味する。
6 実務上の留意点
6-1 公表条例と年間スケジュール
第58条の2に基づく公表を行うには、公表について定める条例が必要である。多くの団体は「人事行政の運営等の状況の公表に関する条例」を制定し、任命権者から長への報告期限(8月末や9月末とする例が多い)、公表の時期(11月末や12月末とする例が多い)、公表の方法を定めている。定年前再任用短時間勤務職員や暫定再任用短時間勤務職員を条例上どう位置づけるかは、定年引上げに伴う条例改正の際に整理が必要となった点であり、附則で読替えを置いている団体もある。
公表の方法は法定されておらず、広報紙への掲載、庁舎の見やすい場所への掲示、ウェブサイトへの掲載が実際に用いられている。住民が容易に到達できることが求められる以上、ウェブサイトへの掲載を基本とし、掲載場所を情報公開のページに固定して過去分も残す運用が望ましい。
6-2 報告対象から漏れやすい職員
パートタイムの会計年度任用職員は第58条の2の報告対象ではない。もっとも、対象外であることと、公表しなくてよいことは同義ではない。会計年度任用職員が職員全体に占める割合は年々高まっており、法定の公表事項に加えて任用状況を任意に掲載する団体が増えている。法律上の義務の範囲を正確に押さえたうえで、住民への説明として何を載せるかを別途判断する姿勢が求められる。
6-3 第58条の3の基準日と公表単位
第58条の3の公表は、4月1日現在の職員数を用いる例が大半である。公表に当たっては、給料表の種類ごと(一般行政職、技能労務職、教育職、消防職など)に等級と職制上の段階を対応させた表を作成する。総務省の地方公共団体給与情報等公表システムに掲載する情報と整合させておくと、住民からの照会に一貫した回答ができる。
条例上の等級別基準職務表に照らして説明のつかない格付けが残っていれば、公表によってそれが可視化される。公表の準備作業は、給与制度の点検作業そのものでもある。
6-4 総務省通知の読み方
第59条を理解していれば、総務省通知に対する構えが定まる。近年の例として、令和7年6月11日付け総行公第72号「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する留意事項について」は、地公法第59条および地方自治法第245条の4に基づく技術的助言として発出されたものである。兼業許可の運用に関する考え方を整理した内容であり、拘束力はないが、各団体が許可基準を検討する際の有力な参照資料となる。
通知に従うかどうかは各団体の判断である一方、通知と異なる運用を採るのであれば、その理由を自らの言葉で説明できなければならない。人事委員会や議会からの質疑に対し、通知に書いてあるからという説明も、通知は拘束力がないからという説明も、いずれも説明として成立しない。助言の内容を検討し、自団体の実情に照らして結論を出した過程を記録に残しておくことが、第59条の下での実務対応となる。
7 昇任試験の観点から
出題されやすい論点を挙げる。
第一に、第58条の2の報告対象から除かれる職員の範囲である。臨時的任用職員と非常勤職員が除かれるが、短時間勤務の職を占める職員とフルタイムの会計年度任用職員は除外の対象から外れる。二重の括弧書きを正確に追えるかが問われる。
第二に、報告と公表の主体である。任命権者が報告し、長が取りまとめて公表する。人事委員会または公平委員会は、自らの業務の状況を長に報告する。長が公表するのは、第1項の報告については概要であり、第2項の報告はそのままである。この使い分けが問われる。
第三に、第58条の2には「条例で定めるところにより」があり、第58条の3にはないという差異である。
第四に、第59条の総務省の権限が協力と技術的助言に限られ、指揮監督や命令を含まないことである。地方自治法第245条の4および第247条第3項と結びつけて理解しておきたい。
8 参考資料
- 総務省自治行政局公務員部長「営利企業への従事等に係る任命権者の許可等に関する留意事項について(通知)」(令和7年6月11日総行公第72号)https://www.soumu.go.jp/main_content/001016561.pdf
- 総務省「地方公務員の兼業に関する技術的助言の通知」(報道資料)https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei11_02000242.html
- 総務省「地方公務員の給与の仕組み」https://www.soumu.go.jp/main_content/000865187.pdf
- 総務省「地方公務員給与の『わたり』について」https://www.soumu.go.jp/iken/pdf/ss03.pdf
- 総務省自治行政局長「地方自治法の一部を改正する法律による改正後の規定の運用について」(令和6年7月2日総行行第281号・総行公第47号)https://www.soumu.go.jp/main_content/000960081.pdf
- 人事院「令和7年度年次報告書」(国家公務員法第24条に基づく報告)https://www.jinji.go.jp/content/000010709.pdf
- 実例:京都府「人事行政の運営等の状況について」(等級および職制上の段階ごとの職員数を含む)https://www.pref.kyoto.jp/jinji/unei.html
◆自治体研修850回超の行政書士が、係長・課長昇任試験の論文を1本から添削します。 https://compliance21.com/promotion-examination-lg/


