1 条文原文

第9条

(一般職の国家公務員等に対する取扱い)

第九条 一般職の国家公務員、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員及び一般職の地方公務員については、第三条第二項及び第三項の規定は適用せず、同条第一項及び第二十一条第一項の規定の適用については、第三条第一項中「解雇」とあるのは「懲戒免職、分限免職」と、第二十一条第一項中「解雇等特定不利益取扱い」とあるのは「分限免職又は懲戒処分」とする。

(令和8年12月1日施行 公益通報者保護法)

読替えの対象となる関連条文

第3条第1項柱書(読替え前)

第三条 前条第一項第一号に定める事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

第21条第1項(読替え前)

第二十一条 第三条第一項の規定に違反して解雇等特定不利益取扱いをしたときは、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。

第20条(国・地方公共団体に対する行政措置の適用除外)

第二十条 第十五条から第十六条までの規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

第23条第2項(両罰規定の適用除外)

2 前項(第一号に係る部分に限る。)の規定は、国及び地方公共団体には、適用しない。

読替え後の条文(第9条適用対象者について)

読替えを施すと、公務員に適用される条文は次のようになる。

第3条第1項柱書(読替え後)

前条第一項第一号に定める事業者は、その使用し、又は使用していた公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として、当該公益通報者に対して、懲戒免職、分限免職その他不利益な取扱いをしてはならない。

第21条第1項(読替え後)

第三条第一項の規定に違反して分限免職又は懲戒処分をしたときは、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。


2 新旧対照表

項目改正前(令和4年6月1日施行版・第9条)改正後(令和8年12月1日施行版・第9条)
見出し一般職の国家公務員等に対する取扱い同左(変更なし)
基本構造第3条から第5条までの規定に「かかわらず」、国公法・国会職員法・自衛隊法・地公法の定めるところによる第3条第2項・第3項は適用せず、第3条第1項と第21条第1項を読み替えて適用
保護法の禁止規定の適用適用なし(公務員関係法令に委ねる)第3条第1項の禁止規定が直接適用される
無効規定適用なし適用なし(第3条第2項の不適用を明示)
立証責任の転換規定なし(第3条第3項自体が新設)適用なし(第3条第3項の不適用を明示)
刑事罰規定なし分限免職・懲戒処分をした者に6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金
法人(国・地方公共団体)への両罰規定なし第23条第2項により適用除外
定義語「一般職の国家公務員等」の定義を条文中に設置定義語を削除(条文内で用いる必要がなくなったため)
任命権者への義務規定後段に「これらの法律の規定を適用しなければならない」旨の規定あり削除

改正前の条文は次のとおりであった。

第九条 第三条各号に定める公益通報をしたことを理由とする一般職の国家公務員、裁判所職員臨時措置法(昭和二十六年法律第二百九十九号)の適用を受ける裁判所職員、国会職員法(昭和二十二年法律第八十五号)の適用を受ける国会職員、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第二条第五項に規定する隊員及び一般職の地方公務員(以下この条において「一般職の国家公務員等」という。)に対する免職その他不利益な取扱いの禁止については、第三条から第五条までの規定にかかわらず、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号。裁判所職員臨時措置法において準用する場合を含む。)、国会職員法、自衛隊法及び地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)の定めるところによる。この場合において、第二条第一項第一号に定める事業者は、第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として一般職の国家公務員等に対して免職その他不利益な取扱いがされることのないよう、これらの法律の規定を適用しなければならない。

(出典:公益通報者保護法の一部を改正する法律案 新旧対照条文)

沿革註記は「令二法五一・旧第七条繰下・一部改正、令七法六二・一部改正」である。平成16年制定時は第7条に置かれ、令和2年法律第51号による大改正で第9条に繰り下がり、令和7年法律第62号で内容が全面的に組み替えられた。


3 立法の沿革と趣旨

3-1 平成16年制定時の割り切り

制定当時の立法者は、公務員関係を私法上の労働契約関係とは異質のものと捉えた。分限免職も懲戒処分も行政処分であり、その効力は行政不服審査と行政訴訟によって争われる。ここに私法上の「無効」概念を持ち込めば、処分の公定力および取消訴訟の排他的管轄と衝突する。加えて、国家公務員法・地方公務員法は分限事由・懲戒事由を法定し、人事院・人事委員会・公平委員会という中立機関による審査制度を備えており、民間労働者より手厚い身分保障が既に存在していた。そこで「公務員関係法令に委ねる」という割り切りがなされた。

3-2 割り切りが生んだ空隙

この構造には二つの欠落があった。

第一に、公益通報を理由とする処分であることが、それ自体としては法律上の違法事由にならなかった。国公法・地公法には「公益通報を理由として不利益な処分をしてはならない」という明文がない。したがって処分の適法性は、もっぱら分限事由・懲戒事由の存否と裁量権の逸脱濫用という一般的な枠組みで判断されるほかなかった。通報者側は、報復目的を裁量濫用の一要素として主張立証する負担を負った。

第二に、抑止力が働かなかった。旧法後段の「これらの法律の規定を適用しなければならない」という規定は任命権者に対する訓示にとどまり、違反に対する制裁を伴わない。民間事業者に対する行政措置の枠組み(旧第15条)も、第20条により国及び地方公共団体には適用されない。

3-3 令和7年改正の判断

消費者庁が公表した改正法の概要は、改正の第4の柱を「公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済の強化」とし、その一項目として「公益通報を理由とする一般職の国家公務員等に対する不利益な取扱いを禁止し、これに違反して分限免職又は懲戒処分をした者に対し、直罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)を新設する」と記す。

ここには二つの立法判断が同居している。

一方で、無効規定と推定規定は依然として適用しない。行政処分の効力を争う手続の一体性は維持された。

他方で、禁止規定と刑事罰は適用する。民事的救済は行政訴訟に委ね、抑止は刑罰で担う、という役割分担である。民間部門では無効・推定・直罰・両罰の四点セットが揃うのに対し、公務部門では禁止と直罰の二点に絞られた。もっとも、後述するとおり、禁止規定が直接適用されることの意味は取消訴訟の中でも小さくない。

3-4 改正の背景にある実情

消費者庁の令和5年度行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査は、公務部門の体制整備の遅れを数字で示している。府省庁および都道府県の内部通報窓口設置率は100パーセントであるのに対し、市区町村全体では70パーセント、従業員数300人超の市区町村でも89パーセントにとどまる。従事者の指定率は市区町村全体で54パーセント、300人超でも73パーセント。内部規程の制定率は市区町村全体で48パーセント、300人超で68パーセントである。

さらに深刻なのは職員側の認知である。同調査によれば、従業員300人超の行政機関に勤める公務員のうち、勤め先の内部通報窓口を認知している割合は45パーセント、窓口の存否が分からない者が44パーセントに上る。職員等に研修を実施している行政機関は7.1パーセントにすぎず、周知・研修等を実施していない行政機関が21.6パーセントを占める。


4 用語解説

新人担当者向けに、本条の理解に必要な概念を整理する。

一般職と特別職

地方公務員法第3条は職を一般職と特別職に分け、特別職を列挙したうえで、それ以外をすべて一般職とする。特別職には、就任について公選または議会の選挙・議決・同意を要する職(首長、議員、副市長、教育長など)、地方公営企業の管理者、非常勤の顧問・参与・調査員・審議会委員、消防団員、水防団員などが含まれる。国家公務員法第2条も同様の構造をとり、内閣総理大臣・国務大臣・大使・裁判官・国会職員などを特別職とする。

第9条が対象とするのは一般職の国家公務員と一般職の地方公務員であり、これに裁判所職員・国会職員・自衛隊員が明文で加えられている。特別職の公務員は第9条の対象外であり、労働基準法第9条の労働者に当たる限り第3条がそのまま全面適用される。この区別は実務上の分岐点になる。

分限処分と懲戒処分

分限処分は、職員が職責を果たせない場合に公務能率の維持を目的として行われる処分である。地方公務員法第28条第1項は免職・降任の事由として、勤務実績が良くない場合、心身の故障のため職務の遂行に支障があり又はこれに堪えない場合、その職に必要な適格性を欠く場合、廃職または過員を生じた場合を挙げる。同条第2項は休職の事由を定める。国家公務員法では第78条・第79条が対応する。分限免職には退職手当が支給されるのが原則である。

懲戒処分は、職員の義務違反に対する制裁である。地方公務員法第29条第1項は、法令等に違反した場合、職務上の義務に違反し又は職務を怠った場合、全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合に、戒告・減給・停職・免職の処分を行うことができると定める。国家公務員法第82条が対応する。

第9条の読替えでは、第3条第1項の「解雇」に対応する概念として懲戒免職と分限免職の両方が置かれ、第21条第1項の罰則対象として分限免職と懲戒処分が置かれた。罰則の射程が両者で異なる点は後述する。

任命権者

地方公務員法第6条第1項は、地方公共団体の長、議会の議長、選挙管理委員会、代表監査委員、教育委員会、人事委員会、公平委員会、警視総監、道府県警察本部長、消防長などを任命権者と定める。任命権者は職員の任命、人事評価、休職、免職および懲戒等を行う権限を有する。一つの自治体に複数の任命権者が並存する点は、通報対応体制の設計上見落とされやすい。

読替え規定

一つの条文を別の対象に適用する際、文言の一部を置き換えて適用する立法技術である。第9条は、第3条第1項と第21条第1項という二つの条文について、それぞれ特定の語句を置き換えたうえで公務員に適用する。置き換えられなかった部分はそのまま適用される。したがって第3条第1項各号(1号通報・2号通報・3号通報の保護要件)は、公務員についても文言どおり適用される。

公定力

行政処分は、たとえ違法であっても、権限ある機関により取り消されるまでは有効なものとして扱われる。この効力を公定力という。分限免職や懲戒処分は行政処分であるから、これを争うには取消訴訟または無効確認訴訟によることになる。第3条第2項の無効規定を公務員に適用しなかった立法上の理由はここにある。


5 逐項解説

5-1 適用対象者の範囲

本条が列挙するのは次の五類型である。

第一に、一般職の国家公務員。府省庁の職員のほか、行政執行法人の職員も国家公務員であるから含まれる。

第二に、裁判所職員臨時措置法の適用を受ける裁判所職員。裁判官は特別職であり本条の対象ではないが、裁判所書記官・裁判所事務官等は本条の対象である。

第三に、国会職員法の適用を受ける国会職員。衆議院・参議院の事務局職員、国立国会図書館の職員等が該当する。

第四に、自衛隊法第2条第5項に規定する隊員。自衛官は特別職の国家公務員であるが、本条は明文でこれを取り込んでいる。分限・懲戒については自衛隊法第42条・第46条が適用される。

第五に、一般職の地方公務員。都道府県・市区町村の職員のほか、公立学校の教職員、警察職員、消防職員、地方公営企業の企業職員、特定地方独立行政法人の職員が含まれる。会計年度任用職員および臨時的任用職員も一般職であるから本条の対象である。

対象外となる主な類型を整理する。

類型第9条の適用適用される規定
一般職の国家公務員・地方公務員あり第3条第1項(読替え)、第21条第1項(読替え)
特別職の公務員(首長、議員、審議会委員等)なし労働者に当たる場合は第3条が全面適用
独立行政法人(行政執行法人を除く)の職員なし第3条が全面適用
地方独立行政法人(特定地方独立行政法人を除く)の職員なし第3条が全面適用
指定管理者・業務委託先の従業員なし第3条が全面適用(第2条第1項第4号により地方公共団体も役務提供先)
公務職場で就業する派遣労働者なし第4条が全面適用(派遣契約解除の無効を含む)
地方公共団体が業務委託した特定受託事業者なし第5条が適用

同じ庁舎で並んで働く正規職員と委託先従業員とで、保護の内容が異なることになる。委託先従業員には解雇無効規定も1年推定規定も両罰規定も適用されるが、正規職員には適用されない。窓口を設計する側は、通報者の属性ごとに適用条文が分岐することを理解しておく必要がある。

なお、刑法その他の法令により「法令により公務に従事する職員とみなす」とされる、いわゆるみなし公務員は、本条にいう一般職の国家公務員・地方公務員ではない。収賄罪等の適用対象になることと、公益通報者保護法第9条の適用対象になることは別問題である。ここを混同すると、独立行政法人や公益法人の担当者が誤った内部規程を作ることになる。

5-2 第3条第2項を適用しない意味

第3条第2項は、第3条第1項に違反してされた解雇等特定不利益取扱いを無効とする。この規定が公務員に適用されないため、公益通報を理由とする分限免職・懲戒処分は、本条の効果として当然に無効になるわけではない。

もっとも、これは救済がないという意味ではない。むしろ救済経路が行政法のルートに一本化されるという意味である。処分を受けた職員は、人事委員会または公平委員会への審査請求(地方公務員法第49条の2)を経たうえで、処分の取消訴訟(行政事件訴訟法第3条第2項)を提起する。国家公務員であれば人事院への審査請求(国家公務員法第90条)を経て取消訴訟に進む。地方公務員法第51条の2および国家公務員法第92条の2が審査請求前置を定めるためである。

審査請求の期間は、地方公務員については処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内であり、処分があった日の翌日から起算して1年を経過するとできなくなる(地方公務員法第49条の3)。国家公務員については処分説明書を受領した日の翌日から起算して3か月以内、処分があった日の翌日から起算して1年以内である(国家公務員法第90条の2)。この期間は短く、通報者が処分の違法性を検討しているうちに徒過しやすい。自治体の通報窓口担当者は、不利益取扱いの相談を受けた時点でこの期間を伝える必要がある。

処分の無効を主張する場合は無効確認訴訟(行政事件訴訟法第3条第4項)によることになり、この場合は審査請求前置の適用がない。ただし無効といえるためには瑕疵が重大かつ明白であることを要するとされ、認められる範囲は狭い。

5-3 第3条第3項を適用しない意味

第3条第3項は、公益通報の日から1年以内にされた解雇等特定不利益取扱いを、公益通報を理由としてされたものと推定する。令和7年改正の目玉の一つであり、民事訴訟における立証責任の転換を図る規定である。

これも公務員には適用されない。消費者庁の公益通報ハンドブック(改正法準拠版)は、解雇・懲戒の無効および立証責任の転換について、いずれも「公務員には適用されません」と明記する。

したがって、公益通報を理由とする処分であることは、通報者側が主張立証しなければならない。分限免職・懲戒処分の取消訴訟における一般的な判断枠組みは、懲戒権者・分限権者に裁量権が認められることを前提に、その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、またはこれを濫用したと認められる場合に違法となる、というものである(懲戒処分について最判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁・神戸税関事件、分限処分について最判昭和48年9月14日民集27巻8号925頁)。

ただし、第3条第1項の禁止規定が直接適用されるようになったことは、この判断枠組みの中で意味を持つ。従前は「報復目的であること」を裁量濫用の一事情として位置づけるほかなかったが、改正後は「法律上明文で禁止された行為を行った」という主張が可能になる。処分理由の一部が公益通報そのものである場合、当該部分は法律に違反する処分理由であり、これを考慮したこと自体が他事考慮として裁量権の逸脱濫用を基礎づける。実務上の主張構成が変わる。

5-4 第3条第1項の読替え

「解雇」が「懲戒免職、分限免職」に置き換えられる。読替え後の禁止対象は「懲戒免職、分限免職その他不利益な取扱い」である。

「その他不利益な取扱い」の範囲は民間の場合と同様に広い。指針の解説は、不利益な取扱いの例として、地位の得喪に関すること、人事上の取扱いに関すること(降格、不利益な配置の変更・出向・転籍・長期出張等の命令、昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと、不利益な自宅待機を命ずること、けん責等の懲戒処分等)、経済待遇上の取扱いに関すること(減給、賞与・一時金・退職金等において不利益な算定を行うこと等)、精神上・生活上の取扱いに関すること(事実上の嫌がらせ等)を挙げる。

公務部門に置き換えると、報復的な配置転換、閑職への異動、勤勉手当の減額、昇任試験結果の不利益な取扱い、訓告・厳重注意、職務を与えないことなどが該当し得る。訓告や厳重注意は懲戒処分ではないため後述の罰則の対象にはならないが、第3条第1項の禁止には触れる。

なお、退職者についても第2条第1項第1号が通報の日前1年以内に使用していた事業者を役務提供先とするため、退職後1年以内の元職員に対する不利益な取扱い(退職手当の返納請求、再任用の拒否など)も射程に入り得る。

5-5 第21条第1項の読替えと罰則の射程

「解雇等特定不利益取扱い」が「分限免職又は懲戒処分」に置き換えられる。この読替えが必要になるのは、「解雇等特定不利益取扱い」という語が第3条第2項で定義されているところ、その第3条第2項自体が公務員には適用されないため、定義語が空転してしまうからである。

読替え後の罰則対象を整理する。

処分の種類第3条第1項の禁止第21条第1項の罰則
懲戒免職対象対象(懲戒処分に含まれる)
停職・減給・戒告対象対象(懲戒処分に含まれる)
分限免職対象対象
分限による降任・休職・降給対象対象外
配置転換、昇任差別、勤勉手当減額対象対象外
訓告、厳重注意、事実上の嫌がらせ対象対象外

分限処分のうち罰則対象となるのは免職のみであるのに対し、懲戒処分は戒告に至るまですべてが対象である。これは民間部門の「解雇等特定不利益取扱い」が解雇と懲戒としてされた不利益取扱いに限られる構造と平仄が合っている。分限の降任・休職は制裁ではなく公務能率確保のための措置であるから、刑罰による抑止の対象から外された。

法定刑は6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金である。故意犯であるから、公益通報がされたことを認識し、それを理由として処分をしたという認識が必要になる。

5-6 「当該違反行為をした者」の意義

第21条第1項の主体は「当該違反行為をした者」である。誰が処罰対象になるのかについて、国及び地方公共団体向けガイドラインは踏み込んだ記述をしている。

国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(令和8年5月29日最終改正)および地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(同日最終改正)は、いずれも冒頭の「本ガイドラインの意義及び目的」において、令和7年6月の法改正により、公益通報を理由として分限免職又は懲戒処分が行われた場合、任命権者であるか否かを問わず、実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が罰則の対象になり得ること、ただし形式的に分限免職又は懲戒処分の意思表示をした者が直ちに罰則の対象となるわけではないことに特に留意すべき旨を明記する。

この記述の実務的な含意は大きい。

第一に、処分は任命権者の名義で行われるが、名義人であることのみを理由に処罰されるわけではない。決裁ラインに乗っただけの者は含まれない。

第二に、逆に、任命権者でない者でも処罰され得る。首長、副首長、人事担当部局の幹部、懲戒審査委員会の構成員など、実質的に処分を決定した者や決定に関与した者が対象になる。組織の意思決定過程を実質的に見る、という立場である。

第三に、通報対象事実の当事者である幹部が、自らへの通報を封じるために処分を主導した場合、その幹部が処罰の中心になる。指針が要求する「組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置」と「公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置」を欠いた体制は、そのまま刑事責任のリスクに直結する。

5-7 両罰規定の適用除外

第23条第1項は、法人の代表者または法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が業務に関して第21条第1項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して3000万円以下の罰金刑を科すと定める。しかし同条第2項は、この規定が国及び地方公共団体には適用されない旨を定める。

したがって、公益通報を理由とする分限免職・懲戒処分について、国や自治体そのものが3000万円の罰金を科されることはない。刑事責任は個人に集約される。同様に、第20条により第15条から第16条までの規定(助言・指導、勧告・命令、報告徴収・立入検査)も国及び地方公共団体には適用されない。

行政措置も法人処罰も及ばないという構造は、公務部門の担当者に「うちには関係が薄い」という誤解を与えかねない。しかし個人に対する直罰は適用され、後述する体制整備義務も従事者の守秘義務違反に対する罰則も適用される。組織として制裁を受けないことは、個々の職員が刑事責任を負わないことを意味しない。むしろ責任が個人に集中する分、幹部職員にとってのリスクは民間より鋭い。

5-8 第9条が触れていない規定

第9条が読替え・不適用の対象としているのは第3条第2項・第3項と、第3条第1項・第21条第1項の文言のみである。それ以外の規定は、公務員および公務組織にそのまま適用される。

第7条(損害賠償の制限)は適用される。国や自治体が、公益通報によって損害を受けたことを理由として通報者である職員に賠償請求をすることはできない。

第10条(他人の正当な利益等の尊重)も適用される。

第11条(事業者がとるべき措置)は適用される。国および地方公共団体は第2条第1項にいう「事業者」に当たる。指針の解説も、体制整備義務等を事業者(国の行政機関及び地方公共団体を含む。)に義務付けるものである旨を明記する。常時使用する労働者の数が300人を超える国の機関・自治体は、従事者の指定と体制整備が法的義務であり、300人以下の団体は努力義務である。

第11条の2(通報妨害の禁止等)と第11条の3(通報者探索の禁止)も適用される。いずれも令和7年改正で新設された規定であり、後述する兵庫県の事案が直接の背景をなす。

第12条(公益通報対応業務従事者の義務)と第22条(守秘義務違反の罰則)も適用される。自治体職員が従事者に指定されれば、地方公務員法第34条の守秘義務とは別に、公益通報者保護法上の守秘義務を負い、違反すれば30万円以下の罰金に処せられる。


6 救済手続の全体像

第9条の帰結として、公務員の救済経路は民間と大きく異なる。整理すると次のとおりである。

不利益の内容主な救済手続根拠期間制限
分限免職・懲戒処分(地方)人事委員会・公平委員会への審査請求地方公務員法第49条の2知った日の翌日から3か月、処分の日の翌日から1年
分限免職・懲戒処分(国)人事院への審査請求国家公務員法第90条処分説明書受領の翌日から3か月、処分の日の翌日から1年
上記処分の取消し取消訴訟(審査請求前置)行政事件訴訟法第3条第2項、地方公務員法第51条の2、国家公務員法第92条の2裁決を知った日から6か月
処分の無効主張無効確認訴訟(前置不要)行政事件訴訟法第3条第4項・第36条期間制限なし
配置転換、勤務環境の悪化等勤務条件に関する措置の要求地方公務員法第46条、国家公務員法第86条定めなし
精神的損害等国家賠償請求国家賠償法第1条第1項消滅時効
加害職員の処罰告訴・告発公益通報者保護法第21条第1項公訴時効

地方公共団体の通報対応に関するガイドラインは、通報者等の保護の一項目として「職員への救済制度の周知」を掲げ、各地方公共団体は、職員が不利益な取扱いの内容等に応じて、人事委員会または公平委員会に対する不利益処分についての審査請求(地方公務員法第49条の2)、勤務条件に関する措置の要求(同法第46条)、苦情相談制度等を利用することができる旨を周知するものとしている。国の行政機関向けガイドラインも同様に、人事院に対する不利益処分についての審査請求(国家公務員法第90条)と勤務条件に関する行政措置の要求(同法第86条)の周知を求める。

この周知義務は、無効規定と推定規定が適用されないことの裏返しである。民間労働者であれば地位確認訴訟一本で足りる場面でも、公務員は処分の性質に応じて手続を選ばなければならない。しかも審査請求の期間は3か月と短い。周知が形骸化すれば、法律上の権利があっても行使できないまま失権する。

なお、地方公営企業の企業職員および単純労務職員については、地方公営企業法第39条第1項により地方公務員法第46条から第49条までの規定が適用されない。分限・懲戒に関する第28条・第29条は適用されるが、人事委員会・公平委員会による審査の道はなく、労働委員会や通常の訴訟によることになる。市立病院・水道局・交通局の職員から相談を受けた場合、一般行政職と同じ案内をすると誤りになる。

また、条件付採用期間中の職員および臨時的に任用された職員については、地方公務員法第29条の2により、同法第28条第1項から第3項まで、第49条第1項・第2項および行政不服審査法の規定が適用されない。会計年度任用職員の任期満了による再度の任用の拒否は、そもそも分限免職でも懲戒処分でもないため、第21条第1項の罰則の射程外である。もっとも、公益通報を理由として再度の任用をしないことは、読替え後の第3条第1項の「その他不利益な取扱い」に該当し、禁止規定違反として国家賠償請求の対象となり得る。


7 判例・裁判例

7-1 京都市(児童相談所職員)事件

大阪高判令和2年6月19日労働判例1230号56頁(原審・京都地判令和元年8月8日労働判例1217号67頁。最高裁は令和3年1月に市の上告受理申立てを不受理)。

京都市の児童相談所に主任として勤務していた職員が、児童相談所が性的虐待に関する相談を放置したと考え、証拠として要保護児童の相談記録の複写を持ち出し、京都市の外部通報相談員である弁護士に通報した。京都市はこれを含む複数の行為を懲戒事由として停職3日の懲戒処分を行い、職員が処分の取消しを求めた。

判決は、担当外の児童のデータを閲覧した行為は懲戒事由に該当しないとし、新年会や組合交渉における発言から秘密の漏洩があったとはいえないとした。他方、証拠保全のためであっても、あえて職場外である自宅に記録を持ち出し、セキュリティの完備されていない自宅に保管する必要性があったとはいい難いとして、持ち出し行為の違法性は阻却されないとした。そのうえで、職員に懲戒処分歴がなく人事評価も良好であったこと、過去に非公開情報が外部から閲覧可能な状態となり情報の拡散を招いた職員が停職10日とされた事例との比較において、複写記録の情報が拡散するに至らなかったにもかかわらず停職3日を選択することは重きに失するとし、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を逸脱または濫用した違法があるとして処分を取り消した。

この事件は、旧法下における公務員の内部通報事案の典型例である。公益通報者保護法の禁止規定が適用されないため、争点は懲戒事由の存否と量定の相当性に純化した。通報目的は違法性阻却の一事情として、また量定判断における酌むべき事情として考慮されたにとどまる。

改正後であれば、処分理由のうち通報行為そのものに関する部分については、第3条第1項の禁止規定に正面から違反するという主張が可能になる。証拠収集行為の評価という論点は残るものの、主張の重心は移動する。

7-2 愛媛県警巡査部長事件

松山地判平成19年9月11日。消費者庁が公表した公益通報等に関する裁判例一覧にも収録されている。

愛媛県警の巡査部長が、捜査費等の不正支出について記者会見を開いて実名で告発したところ、県警から記者会見の妨害、配置換え、勤勉手当の減額といった取扱いを受けた。判決は、これらの措置が社会通念上著しく不合理であるとして違法と認め、慰謝料100万円の支払を命じた。裁判例一覧の要旨は、説得行為・配置換え・勤勉手当の減額の処置等が違法とされた旨を記す。

先立って愛媛県人事委員会は平成18年6月6日の裁決で、業務の割付けや処遇が正常なものであったとは認め難いこと、告発会見との間に強い関連性が認められることを指摘し、配転処分を取り消していた。人事委員会の審査請求と国家賠償請求とが併用された事例として実務的な参照価値が高い。

配置換えや勤勉手当の減額は、改正後も第21条第1項の罰則の対象にはならない。しかし読替え後の第3条第1項が禁止する「その他不利益な取扱い」に当たるから、国家賠償請求における違法性の判断は明確化される。

7-3 分限・懲戒の裁量統制に関する最高裁判例

第3条第3項の推定規定が適用されない以上、公務員事案では従来の裁量統制の枠組みが引き続き主戦場となる。基本判例を押さえておく必要がある。

懲戒処分については最判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁(神戸税関事件)。懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の行為の前後における態度、処分歴、選択する処分が他の公務員および社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して処分の要否と種類を決定することができるとし、その判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を濫用したと認められる場合に違法となるとした。

分限処分については最判昭和48年9月14日民集27巻8号925頁。任命権者に一定の裁量権が認められるものの、判断が合理性を持つものとして許容される限度を超えた場合には違法であるとし、免職の場合には公務員としての地位を失うという重大な結果となることから、判断は特に厳密、慎重であることが要求されるとした。

不利益処分に当たるかどうかについては最判昭和61年10月23日裁判集民事149号59頁。転任処分それ自体は当然には不利益処分に当たらないが、身分、勤務内容、俸給等において通常生ずべき不利益を超える不利益が生じた場合には、取消しを求める利益があるとされる。報復的配転を争う場面では、この訴えの利益の有無が最初の関門になる。


8 企業コンプライアンス実務への示唆

第9条は公務員に関する規定であるが、民間企業の担当者にとっても実務上の接点が複数ある。

8-1 官公庁を通報先とする場合

第3条第1項第2号の行政機関通報は、処分または勧告等をする権限を有する行政機関等に対して行われる。企業の従業員が監督官庁に通報した場合、通報を受けた行政機関の側には第13条の措置義務と第14条の教示義務が生じる。企業が「監督官庁に駆け込まれると困る」という発想で内部規程を運用すれば、第11条の2の通報妨害禁止に抵触する。

8-2 官公庁と取引する企業

自治体の指定管理者、業務委託先、補助金交付先の従業員は、第2条第1項第4号により、当該自治体をも役務提供先とする公益通報を行うことができる。地方公共団体向けガイドラインは、各地方公共団体が、契約の相手方または補助金等の交付先における法令遵守および不正防止を図るために必要と認められる場合には、相手方事業者に対して法、指針および指針の解説に基づく取組の実施を求めることなどに努めるものとしている。入札参加資格や契約条項に通報体制の整備が組み込まれる動きは、今後強まると見てよい。

8-3 出向・派遣関係の整理

企業から自治体に職員が出向している場合、身分の取扱い(在籍出向か転籍か、任用形式か)によって適用条文が変わる。任用により一般職の地方公務員となっていれば第9条の対象であり、在籍出向のまま自治体の指揮命令下にあるにとどまるならば第3条または第4条の対象である。人事担当者は、出向者が不利益取扱いを受けた場合にどの経路で救済されるのかを、出向契約の締結時点で確認しておく必要がある。

8-4 みなし公務員規定との峻別

前述のとおり、みなし公務員は第9条の対象ではない。独立行政法人、特殊法人、公益法人、地方独立行政法人の担当者が、内部規程に「本法人職員には公益通報者保護法第9条が適用される」と書けば誤りである。行政執行法人の職員と特定地方独立行政法人の職員だけが例外である点に注意を要する。


9 地方公共団体の実務と実例

9-1 兵庫県告発文書問題

第9条の改正を理解するうえで避けて通れないのが、兵庫県の告発文書問題である。事実関係と評価を区別して整理する。

事実経過として報じられているところによれば、令和6年3月、兵庫県西播磨県民局長であった職員が、知事のパワーハラスメント疑惑等7項目を挙げた文書を作成し、報道機関、県議会議員、県警等に配布した。県は文書の作成者を特定するための調査に着手し、同月末に作成者を特定した。当該職員は同年4月4日に県の公益通報窓口に対して文書記載内容の事実解明と是正措置の検討を求める通報を行った。県は内部調査を踏まえ、同年5月7日付けで当該職員を停職3か月の懲戒処分とした。当該職員は同年7月に死亡した。

県議会は地方自治法第100条に基づく調査特別委員会を設置し、県は弁護士6名で構成される第三者調査委員会を設置した。

第三者調査委員会が令和7年3月に公表した報告書は、文書の配布が公益通報に当たるとしたうえで、通報者を捜し出した行為は公益通報者保護法に照らして違法であると結論づけた。また、元県民局長の処分理由の一つを告発文書の作成・配布としたことは違法であり、その部分について行われた懲戒処分は効力を有しないと判断した。さらに、知事の記者会見における発言等について、調査対象16項目のうち10項目をパワーハラスメントに当たるとした。県議会の調査特別委員会が令和7年3月4日に公表した調査報告書も、記者会見での文書作成者の公表や元県民局長のプライバシー情報の漏洩などが、指針第4の2(2)「範囲外共有等の防止に関する措置」を怠った対応であると指摘している。

これらは第三者調査委員会および議会の特別委員会による評価であり、裁判所の判断ではない。事実認定および法的評価については当事者間で争いがあり、確定的なものとして扱うことはできない。

そのうえで、制度論として指摘できる点は明確である。

第一に、この事案は旧法下で発生した。旧法第9条の下では、公益通報を理由とする懲戒処分であっても、公益通報者保護法上の禁止規定違反という構成はとれなかった。改正後は第3条第1項が直接適用され、当該処分は法律に違反する処分となる。

第二に、通報者探索を明文で禁止する規定は旧法に存在しなかった。第三者委員会は指針違反という構成をとらざるを得なかった。改正後は第11条の3が通報者探索を法律上禁止する。

第三に、令和7年改正が第21条第1項の直罰を導入し、国及び地方公共団体向けガイドラインが「任命権者であるか否かを問わず、実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が罰則の対象になり得る」と明記したことは、この種の事案において誰が責任を負うのかという問いに対する立法上の回答である。

第四に、通報対象事実の当事者である幹部が調査に関与したことが問題視された。指針が要求する組織の長その他幹部からの独立性の確保と利益相反の排除は、抽象的な理念ではなく、刑事責任を分岐させる実務要件である。

9-2 自治体が今すぐ点検すべき事項

前掲の消費者庁調査が示す数字は、施行日である令和8年12月1日を前にした自治体の準備状況が十分でないことを示唆する。市区町村の窓口設置率70パーセント、従事者指定率54パーセント、内部規程制定率48パーセントという水準は、常時使用する労働者の数が300人を超える団体については法的義務の不履行を意味する。

規模の制約については、地方公共団体向けガイドラインが対応策を示している。人員、予算等の制約により専用の内部公益通報受付窓口または相談窓口を設置することが困難な地方公共団体は、通報に関する秘密保持および個人情報の保護に留意したうえで、職員の職務に係る倫理の保持や適切な労務環境の確保を目的とする既存窓口を活用することができる。単独設置が困難な団体は、協議会の設置、機関等の共同設置、事務の委託または代替執行等の仕組みを活用して窓口を設置することができる。都道府県は、区域内の市区町村における体制整備を確保するため、市区町村相互間の連絡調整と必要な助言、協力、情報の提供その他の援助を行うよう努めるものとされる。

複数の任命権者が存在する点への対応も必要である。首長部局、教育委員会、警察、消防、公営企業、議会事務局はそれぞれ任命権者を異にする。内部公益通報受付窓口を全部局の総合調整を行う部局またはコンプライアンスを所掌する部局等に設置するとしても、通報対象事実の是正権限と処分権限は任命権者ごとに分かれる。窓口が受け付けた通報をどの任命権者に接続するのか、任命権者が被通報者である場合にどう独立性を確保するのかを、内部規程で明示しておく必要がある。

出先機関への浸透も課題である。ガイドラインは、支庁、地方事務所、支所、出張所等を置いている地方公共団体にあっては、当該地方公共団体が定める内部公益通報対応体制の下で、各出先機関等においても適切に通報対応を行うための周知、体制整備その他必要な措置をとるものとしている。


10 指針・指針の解説・ガイドラインの分析

第9条自体は指針の直接の根拠規定ではない。指針は第11条第4項に基づくものであり、体制整備義務の内容を定める。しかし国および地方公共団体も事業者として指針の適用を受けるため、第9条の適用対象者に対する不利益取扱いの防止も、指針が求める措置の一部として構成される。

指針の解説は、四層構造(指針本文/指針の趣旨/指針を遵守するための考え方や具体例/その他に推奨される考え方や具体例)で記述されている。第9条に関連する「不利益な取扱いの防止に関する措置」について、四層それぞれを確認する。

指針本文

第4の2(1)は次のとおり定める。

イ 事業者の労働者及び役員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないかを把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

ロ 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った労働者及び役員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

指針の趣旨

指針の解説は、通報対象事実を知ったとしても不利益な取扱いを受ける懸念があれば公益通報を躊躇することが想定されるとし、こうした事態を防ぐには不利益な取扱いを禁止するだけでなくあらかじめ防止するための措置が必要であり、実際に発生した場合には救済・回復の措置をとり、行為者に対する厳正な対処をとることを明確にすることにより、公益通報を行うことで不利益な取扱いを受けることがないという認識を十分に持たせることが必要であるとする。行政機関等に対する公益通報や、その他の外部への公益通報についても、同様の措置がとられる必要があるとされている点は見落とされやすい。

指針を遵守するための考え方や具体例

不利益な取扱いのうち精神上・生活上の取扱いに関することの例として、公益通報をしたことを理由として業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させること等が挙げられている。公務職場で報復として用いられる典型的手法であり、愛媛県警の事案とも符合する。

防止措置の例としては、労働者等および役員に対する周知・啓発、内部公益通報受付窓口において不利益な取扱いに関する相談を受け付けること、被通報者が公益通報者の存在を知り得る場合には被通報者に対して不利益な取扱いを行わないよう注意喚起をする等の措置を講ずることが挙げられている。

把握する措置の例としては、公益通報者に対して能動的に確認すること、不利益な取扱いを受けた際には内部公益通報受付窓口等の担当部署に連絡するようその旨と当該部署名をあらかじめ伝えておくことが挙げられている。

その他に推奨される考え方や具体例

公益通報者を特定させる事項を不当な目的に利用した者についても、懲戒処分その他適切な措置を講ずることが望ましいとされている。

国及び地方公共団体向けガイドラインの上乗せ

国の行政機関の通報対応に関するガイドラインおよび地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(いずれも令和8年5月29日最終改正)は、指針および指針の解説を踏まえたうえで、公務部門固有の上乗せを行っている。

第一に、前述の罰則に関する留意事項である。両ガイドラインとも、任命権者であるか否かを問わず実質的な意思決定をした者やそれに関与した者が罰則の対象になり得る旨を、本文の冒頭に置いている。

第二に、通報者のフォローアップである。通報対応の終了後、通報者に対し不利益な取扱いが行われていないかを適宜確認するなど、通報者保護に係る十分なフォローアップを行い、不利益な取扱いが認められる場合には適切な救済・回復の措置をとるものとされる。

第三に、救済制度の周知である。第6節で述べたとおり、人事委員会・公平委員会または人事院への審査請求、勤務条件に関する措置の要求、苦情相談制度等の周知が明示的に求められている。

第四に、責任者を幹部とする旨の指定である。内部公益通報受付窓口に寄せられる内部公益通報を受け、調査をし、是正に必要な措置をとる部署および責任者を明確に定めるものとしたうえで、責任者は幹部とするものとされている。

第五に、外部窓口の設置努力義務である。当該団体内部の窓口に加えて、外部に弁護士等を配置した内部公益通報受付窓口を設けるよう努めるものとされる。

第六に、地方公共団体向けガイドラインが地方自治法第245条の4第1項に基づく技術的な助言として位置付けられている点である。法的拘束力を持つものではないが、これを下回る体制は第11条第2項の措置義務違反を問われ得る。

なお、地方公共団体向けガイドラインは、内部規程について「条例を含む」と明記している。条例で定めるか規則・要綱で定めるかは各団体の判断であるが、議会の関与を経る条例形式は、首長部局からの独立性を確保するうえで一つの選択肢となる。


11 経過措置

令和7年法律第62号の附則は、施行日を公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日とし、令和7年政令第408号により令和8年12月1日と定められた。

附則第2条は経過措置の原則として、新法の規定(罰則を除く)は、附則に特別の定めがある場合を除き、施行前にされた旧法第2条第1項に規定する公益通報にも適用するとする。

附則第3条第1項は、新法第3条第1項および第2項の規定は施行後にされた解雇その他不利益な取扱いについて適用し、施行前にされた解雇その他不利益な取扱いについてはなお従前の例によるとする。

附則第7条は罰則に関する経過措置として、施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によるとする。

第9条の適用対象者について整理すると次のようになる。

事象の時期適用関係
公益通報が施行前、処分が施行前旧法。第3条第1項の禁止規定の適用なし
公益通報が施行前、処分が施行日以後読替え後の第3条第1項が適用される。第21条第1項の罰則も、処分行為が施行日以後であれば適用される
公益通報が施行日以後、処分が施行日以後全面的に新法

施行日をまたぐ通報について、通報時点では旧法下であっても、処分の時点が施行日以後であれば新法の禁止規定と罰則が働く。長期にわたって係属している通報案件を抱える組織は、施行日を境に処分の法的評価が変わることを認識しておく必要がある。

なお、附則第9条は、政府が施行後3年を目途として新法の施行の状況を勘案し、新法の規定について検討を加え、必要があると認めるときはその結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする旨を定める。無効規定と推定規定を公務員に適用しないという今回の立法判断も、この検討の対象となり得る。


12 実務チェックリスト

国の行政機関・地方公共団体向け

  1. 内部公益通報受付窓口を設置し、受付・調査・是正措置をとる部署と責任者を明確に定めたか。責任者は幹部か。
  2. 法、指針、ガイドラインが求める事項について内部規程(条例を含む)を作成し、規程どおりに運用しているか。
  3. 従事者を書面により指定し、第12条の守秘義務および第22条の罰則の対象となることを本人に明示したか。
  4. 複数の任命権者が存在することを踏まえ、通報の接続先と是正権限の所在を規程上整理したか。
  5. 組織の長その他幹部に関係する事案について、これらの者からの独立性を確保する措置を定めたか。
  6. 事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置(利益相反の排除)を定めたか。
  7. 外部に弁護士等を配置した窓口を設置したか。設置していない場合、その検討の記録は残っているか。
  8. 通報者探索の防止措置および通報妨害の防止措置を定めたか。公用パソコンやメールの調査手続に、通報者探索に転用されない歯止めを設けたか。
  9. 分限免職・懲戒処分の起案フローに、公益通報の有無を確認する手続を組み込んだか。通報者に対する処分を検討する際、通報と無関係な処分理由のみで構成されていることを検証する仕組みがあるか。
  10. 処分の実質的な意思決定に関与する幹部職員に対し、第21条第1項の直罰があることを周知したか。
  11. 通報対応終了後のフォローアップ(不利益取扱いの有無の確認)を制度化したか。
  12. 人事委員会・公平委員会または人事院への審査請求、勤務条件に関する措置の要求、苦情相談制度を職員に周知したか。審査請求の3か月という期間制限を明記したか。
  13. 出先機関、地方支分部局、公営企業、教育委員会、警察、消防、議会事務局にも体制が及んでいるか。
  14. 会計年度任用職員、臨時的任用職員、指定管理者・委託先の従業員、派遣労働者、特定受託事業者について、それぞれ適用条文が異なることを整理し、窓口案内に反映したか。
  15. 全職員に対する研修を実施したか。消費者庁調査で研修実施率が7.1パーセントにとどまる現状を踏まえ、施行日までの研修計画を策定したか。
  16. 運用実績の概要を職員に開示し、体制の定期的な評価・点検と改善を行う仕組みを設けたか。

民間企業向け

  1. 自社の従業員が官公庁に通報した場合の対応方針を、通報妨害禁止(第11条の2)に抵触しない形で定めたか。
  2. 官公庁との契約・補助金交付に際して、公益通報体制の整備を求められる可能性を想定しているか。
  3. 自治体等への出向者について、出向形式に応じた適用条文の違いを人事規程上整理したか。
  4. みなし公務員規定と公益通報者保護法第9条を混同した記述が内部規程にないか。

13 次回予告

次回は第10条(他人の正当な利益等の尊重)を扱う。公益通報をする者に課される努力義務の規範的性質、名誉毀損・信用毀損・営業秘密の保護との調整、そして京都市(児童相談所職員)事件が示した証拠収集行為の限界という論点を、第3条第1項各号の保護要件との関係で整理する。


参考資料一覧

  • 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号。令和8年3月31日一部改正内閣府告示第15号)
  • 公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説(令和3年10月13日消費者庁。令和8年3月31日最終改正)
  • 公益通報者保護法を踏まえた国の行政機関の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)(平成17年7月19日関係省庁申合せ。令和8年5月29日最終改正)
  • 公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)(令和8年5月29日最終改正)
  • 公益通報ハンドブック(改正法(令和8年12月施行)準拠版)(消費者庁)
  • 令和5年度 行政機関における公益通報者保護法の施行状況調査 結果概要(令和6年4月 消費者庁)
  • 令和4年度 公益通報等に関する裁判例の収集・分析業務 裁判例一覧表(消費者庁)
  • 兵庫県議会文書問題調査特別委員会 調査報告書(令和7年3月4日)

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