一 条文原文

映写室(第15条)

第十五条 常時映画を上映する建築物その他の工作物に設けられた映写室で緩燃性でない映画を映写するものは、政令で定める技術上の基準に従い、構造及び設備を具備しなければならない。

危険物の規制に関する政令(昭和34年政令第306号)

(映写室の基準) 第三十九条 法第十五条に規定する映写室の構造及び設備の技術上の基準は、次のとおりとする。 一 映写室には、総務省令で定めるところにより、見やすい箇所に映写室である旨を表示した標識及び防火に関し必要な事項を掲示した掲示板を設けること。 二 映写室の壁、柱、床及び天井は、耐火構造とすること。 三 映写室は、間口を一メートルに映写機一台につき一メートルを加えた長さ以上、奥行を三メートル以上、天井の高さを二・一メートル以上とすること。 四 出入口は、幅を〇・六メートル以上、高さを一・七メートル以上とし、かつ、外開きの自動閉鎖の特定防火設備を設けること。 五 映写窓その他の開口部には、事故又は火災が発生した場合に当該開口部を直ちに閉鎖することができる装置を有する防火板を設けること。 六 映写室には、不燃材料で作つた映写機用排気筒及び室内換気筒を屋外に通ずるように設けること。 七 映写室には、フィルムを収納するための不燃材料で作つた格納庫を設けること。 八 映写室には、映写機の整流器を設けないこと。 九 映写室には、総務省令で定めるところにより、消火設備を設けること。

運搬(第16条)

第十六条 危険物の運搬は、その容器、積載方法及び運搬方法について政令で定める技術上の基準に従つてこれをしなければならない。

(運搬容器) 第二十八条 法第十六条の規定による危険物を運搬するための容器(以下「運搬容器」という。)の技術上の基準は、次のとおりとする。 一 運搬容器の材質は、鋼板、アルミニウム板、ブリキ板、ガラスその他総務省令で定めるものであること。 二 運搬容器の構造及び最大容積は、総務省令で定めるものであること。

(積載方法) 第二十九条 法第十六条の規定による積載方法の技術上の基準は、次のとおりとする。 一 危険物は、前条の運搬容器に総務省令で定めるところにより収納して積載すること。…… 二 危険物は、運搬容器の外部に、総務省令で定めるところにより、危険物の品名、数量等を表示して積載すること。 三 危険物は、当該危険物が転落し、又は危険物を収納した運搬容器が落下し、転倒し、若しくは破損しないように積載すること。 四 運搬容器は、収納口を上方に向けて積載すること。 五 総務省令で定める危険物は、日光の直射又は雨水の浸透を防ぐため有効に被覆する等当該危険物の性質に応じて総務省令で定める措置を講じて積載すること。 六 危険物は、総務省令で定めるところにより、類を異にするその他の危険物又は災害を発生させるおそれのある物品と混載しないこと。 七 危険物を収納した運搬容器を積み重ねる場合においては、総務省令で定める高さ以下で、総務省令で定めるところにより積載すること。

(運搬方法) 第三十条 法第十六条の規定による運搬方法の技術上の基準は、次のとおりとする。 一 危険物又は危険物を収納した運搬容器が著しく摩擦又は動揺を起さないように運搬すること。 二 指定数量以上の危険物を車両で運搬する場合には、総務省令で定めるところにより、当該車両に標識を掲げること。 三 指定数量以上の危険物を車両で運搬する場合において、積替、休憩、故障等のため車両を一時停止させるときは、安全な場所を選び、かつ、運搬する危険物の保安に注意すること。 四 指定数量以上の危険物を車両で運搬する場合には、第二十条に規定する消火設備のうち当該危険物に適応するものを備えること。 五 危険物の運搬中危険物が著しくもれる等災害が発生するおそれのある場合は、災害を防止するため応急の措置を講ずるとともに、もよりの消防機関その他の関係機関に通報すること。 2 品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を運搬する場合において、当該運搬に係るそれぞれの危険物の数量を当該危険物の指定数量で除し、その商の和が一以上となるときは、指定数量以上の危険物を運搬しているものとみなす。

移送(第16条の2)

第十六条の二 移動タンク貯蔵所による危険物の移送は、当該危険物を取り扱うことができる危険物取扱者を乗車させてこれをしなければならない。

② 前項の危険物取扱者は、移動タンク貯蔵所による危険物の移送に関し政令で定める基準を遵守し、かつ、当該危険物の保安の確保について細心の注意を払わなければならない。

③ 危険物取扱者は、第一項の規定により危険物の移送をする移動タンク貯蔵所に乗車しているときは、危険物取扱者免状を携帯していなければならない。

(移送の基準) 第三十条の二 法第十六条の二第二項の移動タンク貯蔵所による危険物の移送に関し政令で定める基準は、次のとおりとする。 一 危険物の移送をする者は、移送の開始前に、移動貯蔵タンクの底弁その他の弁、マンホール及び注入口のふた、消火器等の点検を十分に行なうこと。 二 危険物の移送をする者は、当該移送が総務省令で定める長時間にわたるおそれがある移送であるときは、二人以上の運転要員を確保すること。ただし、動植物油類その他総務省令で定める危険物の移送については、この限りでない。 三 危険物の移送をする者は、移動タンク貯蔵所を休憩、故障等のため一時停止させるときは、安全な場所を選ぶこと。 四 危険物の移送をする者は、移動貯蔵タンクから危険物が著しくもれる等災害が発生するおそれのある場合には、災害を防止するため応急措置を講ずるとともに、もよりの消防機関その他の関係機関に通報すること。 五 危険物の移送をする者は、アルキルアルミニウム、アルキルリチウムその他の総務省令で定める危険物の移送をする場合には、総務省令で定めるところにより、移送の経路その他必要な事項を記載した書面を関係消防機関に送付するとともに、当該書面の写しを携帯し、当該書面に記載された内容に従うこと。ただし、災害その他やむを得ない理由がある場合には、当該記載された内容に従わないことができる。

応急措置と事故原因調査(第16条の3・第16条の3の2)

第十六条の三 製造所、貯蔵所又は取扱所の所有者、管理者又は占有者は、当該製造所、貯蔵所又は取扱所について、危険物の流出その他の事故が発生したときは、直ちに、引き続く危険物の流出及び拡散の防止、流出した危険物の除去その他災害の発生の防止のための応急の措置を講じなければならない。

② 前項の事態を発見した者は、直ちに、その旨を消防署、市町村長の指定した場所、警察署又は海上警備救難機関に通報しなければならない。

③ 市町村長等は、製造所、貯蔵所(移動タンク貯蔵所を除く。)又は取扱所の所有者、管理者又は占有者が第一項の応急の措置を講じていないと認めるときは、これらの者に対し、同項の応急の措置を講ずべきことを命ずることができる。

④ 市町村長(消防本部及び消防署を置く市町村以外の市町村の区域においては、当該区域を管轄する都道府県知事とする。次項及び第六項において準用する第十一条の五第四項において同じ。)は、その管轄する区域にある移動タンク貯蔵所について、前項の規定の例により、第一項の応急の措置を講ずべきことを命ずることができる。

⑤ 市町村長等又は市町村長は、それぞれ第三項又は前項の規定により応急の措置を命じた場合において、その措置を命ぜられた者がその措置を履行しないとき、履行しても十分でないとき、又はその措置の履行について期限が付されている場合にあつては履行しても当該期限までに完了する見込みがないときは、行政代執行法の定めるところに従い、当該消防事務に従事する職員又は第三者にその措置をとらせることができる。

⑥ 第十一条の五第四項及び第五項の規定は、第三項又は第四項の規定による命令について準用する。

第十六条の三の二 市町村長等は、製造所、貯蔵所又は取扱所において発生した危険物の流出その他の事故(火災を除く。以下この条において同じ。)であつて火災が発生するおそれのあつたものについて、当該事故の原因を調査することができる。

② 市町村長等は、前項の調査のため必要があるときは、当該事故が発生した製造所、貯蔵所若しくは取扱所その他当該事故の発生と密接な関係を有すると認められる場所の所有者、管理者若しくは占有者に対して必要な資料の提出を命じ、若しくは報告を求め、又は当該消防事務に従事する職員に、これらの場所に立ち入り、所在する危険物の状況若しくは当該製造所、貯蔵所若しくは取扱所その他の当該事故に関係のある工作物若しくは物件を検査させ、若しくは関係のある者に質問させることができる。

③ 第四条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定は、前項の場合について準用する。

④ 消防庁長官は、第一項の規定により調査をする市町村長等(総務大臣を除く。)から求めがあつた場合には、同項の調査をすることができる。この場合においては、前二項の規定を準用する。

手数料(第16条の4)

第十六条の四 総務大臣が行う移送取扱所の設置若しくは変更の許可、完成検査(第十一条第五項ただし書の承認を含む。)又は保安に関する検査を受けようとする者は、政令で定めるところにより、実費を勘案して政令で定める額の手数料を、国に納めなければならない。

② 第十三条の二十三の規定により総務大臣が指定する機関で市町村長以外のもの(以下この条において「指定講習機関」という。)が行う危険物の取扱作業の保安に関する講習を受けようとする者は、政令で定めるところにより、実費を勘案して政令で定める額の手数料を当該指定講習機関に納めなければならない。

③ 前項の規定により指定講習機関に納められた手数料は、当該指定講習機関の収入とする。

④ 都道府県は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百二十七条の規定に基づき危険物取扱者試験に係る手数料を徴収する場合においては、第十三条の五第一項の規定により指定試験機関が行う危険物取扱者試験を受けようとする者に、条例で定めるところにより、当該手数料を当該指定試験機関へ納めさせ、その収入とすることができる。

立入検査と措置命令(第16条の5・第16条の6)

第十六条の五 市町村長等は、第十六条の三の二第一項及び第二項に定めるもののほか、危険物の貯蔵又は取扱いに伴う火災の防止のため必要があると認めるときは、指定数量以上の危険物を貯蔵し、若しくは取り扱つていると認められるすべての場所(以下この項において「貯蔵所等」という。)の所有者、管理者若しくは占有者に対して資料の提出を命じ、若しくは報告を求め、又は当該消防事務に従事する職員に、貯蔵所等に立ち入り、これらの場所の位置、構造若しくは設備及び危険物の貯蔵若しくは取扱いについて検査させ、関係のある者に質問させ、若しくは試験のため必要な最少限度の数量に限り危険物若しくは危険物であることの疑いのある物を収去させることができる。

② 消防吏員又は警察官は、危険物の移送に伴う火災の防止のため特に必要があると認める場合には、走行中の移動タンク貯蔵所を停止させ、当該移動タンク貯蔵所に乗車している危険物取扱者に対し、危険物取扱者免状の提示を求めることができる。この場合において、消防吏員及び警察官がその職務を行なうに際しては、互いに密接な連絡をとるものとする。

③ 第四条第二項から第四項までの規定は、前二項の場合にこれを準用する。

第十六条の六 市町村長等は、第十条第一項ただし書の承認又は第十一条第一項前段の規定による許可を受けないで指定数量以上の危険物を貯蔵し、又は取り扱つている者に対して、当該貯蔵又は取扱いに係る危険物の除去その他危険物による災害防止のための必要な措置をとるべきことを命ずることができる。

② 第十一条の五第四項及び第五項の規定は前項の規定による命令について、第十六条の三第五項の規定は前項の規定による必要な措置を命じた場合について、それぞれ準用する。

行政庁の変更、権限の委任、緊急時の指示、適用除外(第16条の7〜第16条の9)

第十六条の七 消防本部若しくは消防署の設置若しくは廃止又は市町村の廃置分合若しくは境界変更があつたことにより、新たに消防本部及び消防署が置かれることとなつた市町村若しくは消防本部及び消防署が置かれないこととなつた市町村の区域又は当該廃置分合若しくは境界変更に係る市町村の区域に係る第十一条、第十一条の二、第十一条の四、第十一条の五第一項及び第二項、第十二条第二項、第十二条の二から第十二条の四まで、第十二条の六、第十二条の七第二項、第十三条第二項、第十四条の二第一項及び第三項、第十四条の三、第十六条の三第三項及び第四項並びに前条の規定による権限を有する行政庁に変更があつた場合における変更前の行政庁がした許可その他の処分又は受理した届出の効力その他この章の規定の適用に係る特例については、政令で定める。

第十六条の八 この章に規定する総務大臣の権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事又は市町村長が行うこととすることができる。

第十六条の八の二 総務大臣は、公共の安全の維持又は災害の発生の防止のため緊急の必要があると認めるときは、政令で定めるところにより、都道府県知事又は市町村長に対し、この章又は前条の規定に基づく政令の規定により都道府県知事又は市町村長が行うこととされる事務のうち政令で定めるものの処理について指示することができる。

第十六条の九 この章の規定は、航空機、船舶、鉄道又は軌道による危険物の貯蔵、取扱い又は運搬には、これを適用しない。

(行政庁の変更に伴う特例) 第四十一条の二 法第十六条の七に規定する行政庁に変更があつた場合には、当該変更があつた日前に、当該変更に係る変更前の行政庁(以下この条において「変更前行政庁」という。)にされている法第三章の規定による許可の申請、届出その他の手続又は変更前行政庁がした同章の規定による許可その他の処分は、当該変更に係る変更後の行政庁(以下この条において「変更後行政庁」という。)にされている同章の規定による許可の申請、届出その他の手続又は変更後行政庁がした同章の規定による許可その他の処分とみなす。

(緊急時の指示の手続) 第三十九条の二 総務大臣は、法第十六条の八の二の規定により法第十一条の五第二項又は第十六条の三第四項に規定する事務の処理について指示をしたときは、当該指示に係る移動タンク貯蔵所につき法第十一条第一項の規定による許可をした市町村長等に対し、その旨を通知しなければならない。

(緊急時の指示の対象となる事務) 第三十九条の三 法第十六条の八の二の政令で定める事務は、法第十一条の五第一項及び第二項、第十二条第二項、第十二条の三第一項、第十六条の三第三項及び第四項並びに第十六条の六第一項の規定により都道府県知事又は市町村長が行うこととされる事務とする。

関係する罰則

第四十一条 次のいずれかに該当する者は、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。 四 第十五条の規定に違反した者

第四十二条 次のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。 九 第十六条の三第三項又は第四項の規定による命令に違反した者

第四十三条 次のいずれかに該当する者は、三月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。 二 第十六条の規定に違反した者 三 第十六条の二第一項の規定に違反した者

第四十四条 次のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金又は拘留に処する。 二 第四条第一項、第十六条の三の二第二項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第十六条の五第一項若しくは第三十四条第一項……の規定による資料の提出若しくは報告を求められて、資料の提出をせず、虚偽の資料を提出し、報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による立入り、検査若しくは収去を拒み、妨げ、若しくは忌避した者 六 第十六条の二第三項の規定に違反した者 七 第十六条の五第二項の規定による消防吏員又は警察官の停止に従わず、又は提示の要求を拒んだ者 十 正当な理由がなく消防署、第十六条の三第二項の規定により市町村長の指定した場所、警察署又は海上警備救難機関に同条第一項の事態の発生について虚偽の通報をした者

出典:e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186 、同「危険物の規制に関する政令」(昭和34年政令第306号)https://laws.e-gov.go.jp/law/334CO0000000306

二 趣旨・立法背景

第三章はここで終わる。第10条から第14条の4までが許可を受けた施設の中の危険物を扱ってきたのに対し、第16条以下は施設を離れて動く危険物、事故が起きた後の対応、行政の調査権限、そして章全体の適用関係を扱う。施設の規制が完結したところで、施設の外側と事後の局面が順に置かれている。

映写室が危険物の章にある理由

第15条は、この並びの中で異質に見える。映写室の構造及び設備が、なぜ危険物の章に置かれているのか。手がかりは昭和40年法律第65号の改め文にある。同法第1条は、第16条の2第1項から「(第十四条第四項において準用する場合を含む。)」及び「及び映写技術者試験」という語を削った。また第44条の罰則が旧第14条第4項を引用していた。つまり当時の第14条は映写技術者に関する規定であり、その免状と試験の仕組みが置かれていたことが読み取れる。同じ改正の第1条が第14条を「削除」とし、同じ法律の第2条が改めて第14条を危険物施設保安員の規定としたのは、前回に見たとおりである。

映写技術者の資格制度はこのときに廃され、映写室の構造及び設備の規定だけが第15条として残った。緩燃性でない映画、すなわちニトロセルロースを基材とするフィルムは、それ自体が燃えやすく、映写機の熱で発火する危険があった。この可燃物の規制として、映写技術者と映写室の規定が危険物の章に置かれていたのである。昭和40年の時点で第15条には第2項があり、第44条の罰則がこれを引用していた。現行の第15条は一項のみであり、届出に相当する規定は残っていない。立法の前提となった事実が失われた後も、条文だけが章の中に残った形である。

運搬と移送の規定が整った順序

第16条の2は、昭和46年法律第97号が「第十六条の二を次のように改める」として全部改正したものである。改正後の条文は、移動タンク貯蔵所による移送に危険物取扱者の乗車を求める第1項、基準の遵守と細心の注意を求める第2項、免状の携帯を求める第3項の三項からなり、現行規定と同一である。この法律は、危険物取扱主任者という呼称を改め、免状を甲種・乙種・丙種の三種類に区分した、危険物取扱者制度の全面改正を行った法律である。移送に資格者の乗車を求める仕組みは、資格制度の再編と一体で設けられた。

第16条の3と第16条の8は昭和49年法律第64号の新設である。同法は第16条の2の次に第16条の3として応急措置と通報の規定を加え、第16条の8として「自治大臣は、政令で定めるところにより、この章に規定する権限の一部を都道府県知事又は市町村長に委任することができる」という規定を加えた。あわせて旧第16条の3から旧第16条の7までを、それぞれ第16条の4、第16条の5、第16条の6、第16条の7、第16条の9へ繰り下げている。第11条第1項を全面改正して移送取扱所を創設し、許可権者を四区分にした改正であり、総務大臣(当時の自治大臣)が許可権者となる場合が生じたことから、その権限を都道府県知事又は市町村長に委任する経路が必要になった。

無許可の貯蔵・取扱いに対する措置命令は、それより早く昭和40年法律第65号が新設している。同法は「第十六条の四の次に次の一条を加える」として、第10条第1項ただし書の承認又は第11条第1項前段の許可を受けないで指定数量以上の危険物を貯蔵し又は取り扱っている者に対し、危険物の除去その他必要な措置を命ずることができる旨の規定を置いた。当時の条数は第16条の5であり、昭和49年の繰下げによって現在の第16条の6となった。

第16条の3の第3項以下は、昭和50年法律第84号(石油コンビナート等災害防止法)の附則が加えたものである。応急措置を講じていない所有者等に対する命令が、このときに付け加わった。

第16条の8の2の緊急時の指示は、地方分権改革に伴う整備の中で置かれた。平成11年10月14日消防予第273号・消防危第98号は、地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行に伴う政令の整備として、危険物の規制に関する政令第39条の2(緊急時の指示の手続)と第39条の3(緊急時の指示の対象となる事務)を説明している。機関委任事務の仕組みが廃された後、国が個別の事務処理に関与する経路として、緊急の必要がある場合の指示が残された。

事故原因調査の創設

第16条の3の2は、平成20年5月28日に公布された消防法及び消防組織法の一部を改正する法律(平成20年法律第41号)が「第十六条の三の次に次の一条を加える」として新設した。同じ改正が第44条第2号の引用を改め、第16条の3の2第2項による資料の提出命令等の違反を罰則の対象に加えている。

この新設の背景には、危険物施設における事故の増加がある。消防庁の検討会に提出された資料によれば、危険物に係る事故の合計件数は平成6年の287件から平成18年の598件へ増え、流出事故は174件から375件へ増加した。1990年から1994年までと2001年から2005年までを比べると流出事故は963件から1,699件へと1.8倍になり、屋外タンク貯蔵所の流出事故は3倍、容量500キロリットル以上の屋外タンク貯蔵所では6倍に増えている。原因のうち腐食等の劣化が約三割を占めるとされた。火災については第31条以下の調査の仕組みがあったが、火災に至らない流出事故については、市町村長等が第16条の5の立入検査の権限を用いて原因を調べるほかなかった。調査のための権限を明文で置いたのが第16条の3の2である。

消防庁は施行にあわせて平成20年8月12日消防危第317号「危険物流出等の事故の調査マニュアルについて」を発し、調査の対象、方法、報告の経路を示している。

三 文理解釈

第15条の対象

適用の対象は「常時映画を上映する建築物その他の工作物に設けられた映写室で緩燃性でない映画を映写するもの」である。三つの限定がかかっている。常時映画を上映する施設であること、映写室が設けられていること、緩燃性でない映画を映写するものであることである。緩燃性のフィルムを用いる現在の上映設備は、この条の適用を受けない。

違反に対する罰則は第41条第1項第4号であり、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金である。第11条第1項の無許可設置が第42条第1項第2号の六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金であることと比べると、映写室の基準違反のほうが重い。両罰規定については、第45条第3号が第41条第1項から第3号、第5号及び第7号を除いて掲げているため、第4号は各本条の罰金刑、すなわち百万円以下の罰金が法人に科される。

運搬の基準が数量を問わないこと

第16条は「危険物の運搬」について、容器、積載方法及び運搬方法の技術上の基準に従うことを求める。条文に数量の限定がない。指定数量未満であっても、危険物を運搬する限りこの条の適用を受ける。第三章の他の規定が指定数量以上を前提としているのと異なる。

もっとも、政令の定める基準の一部は数量によって分かれる。政令第30条第1項第2号の標識の掲示、第3号の一時停止の際の注意、第4号の消火設備の備付けは、いずれも「指定数量以上の危険物を車両で運搬する場合」に限られる。容器、収納、表示、転落防止、収納口の向き、被覆、混載禁止、積み重ねの高さといった政令第28条と第29条の基準は数量を問わず適用される。少量の危険物を運ぶ場合でも、容器と積載の基準は守らなければならない。

政令第30条第2項は、品名又は指定数量を異にする二以上の危険物を運搬する場合の倍数合算を定める。第10条第2項が貯蔵・取扱いについて置く規定と同じ考え方が、運搬についても置かれている。

違反に対する罰則は第43条第1項第2号の三月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金である。

運搬と移送の区別

第16条の2は「移動タンク貯蔵所による危険物の移送」を対象とする。車両に固定されたタンクで運ぶ行為が移送であり、容器に収納して車両に積載して運ぶ行為は第16条の運搬である。両者は手段によって分かれる。

移送については危険物取扱者の乗車が義務づけられる。「当該危険物を取り扱うことができる危険物取扱者」であるから、乙種であれば免状に指定された類に限られ、丙種であれば総務省令で定める範囲の危険物に限られる。運ぶ危険物と乗車する者の免状が対応していなければならない。

第2項は政令で定める基準の遵守を求める。政令第30条の2は、移送開始前の点検、長時間にわたるおそれがある移送における二人以上の運転要員の確保、一時停止の際の場所の選定、漏れた場合の応急措置と通報、アルキルアルミニウム等の移送における経路等を記載した書面の関係消防機関への送付と携帯を定める。動植物油類その他総務省令で定める危険物の移送は、運転要員の確保の対象から除かれる。

第3項の免状の携帯は、第44条第6号により三十万円以下の罰金又は拘留の対象である。第1項の乗車義務の違反は第43条第1項第3号により三月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金となる。乗車させないことと、乗車した者が免状を持っていないことで、罰則の重さが分かれている。

応急措置義務と通報義務の構造

第16条の3第1項の応急措置義務を負うのは製造所等の所有者、管理者又は占有者である。第2項の通報義務を負うのは「前項の事態を発見した者」であり、関係者に限らない。通報先は消防署、市町村長の指定した場所、警察署又は海上警備救難機関である。

通報をしなかった場合の罰則はない。これに対し、正当な理由がなくこれらの場所に虚偽の通報をした者は第44条第10号により三十万円以下の罰金又は拘留に処される。通報しないことは処罰されず、嘘の通報をすることは処罰されるという配分である。第24条第1項の火災の通報義務についても同じ構造がとられており、第44条第20号が虚偽の通報を処罰している。

第3項と第4項の命令は、移動タンク貯蔵所を境に権限者が分かれる。第3項は市町村長等が製造所、貯蔵所(移動タンク貯蔵所を除く。)又は取扱所について、第4項は市町村長がその管轄する区域にある移動タンク貯蔵所について命ずる。第11条の5第1項・第2項と同じ分け方であり、許可をした行政庁と事故の現場を管轄する行政庁が一致しない移動タンク貯蔵所について、現場の側に権限を置いている。

第5項は代執行を定める。応急措置の命令に従わない場合、行政代執行法の定めるところに従い、消防事務に従事する職員又は第三者に措置をとらせることができる。流出した危険物を放置できない局面であるから、代執行までの経路が条文に書かれている。命令に違反した者は第42条第1項第9号により六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処される。

事故原因調査の範囲と権限

第16条の3の2第1項の対象は「製造所、貯蔵所又は取扱所において発生した危険物の流出その他の事故(火災を除く。)であつて火災が発生するおそれのあつたもの」である。火災は第31条以下の火災原因調査の対象であるから、ここでは除かれる。火災に至らなかったが火災のおそれがあった事故が対象となる。

消防危第317号は、調査の対象を危険物の流出を伴う事故と、流出は認められないが施設の一部又は全部が破損、変形等の異常状態となり火災や流出のおそれがあった事故に分けている。さらに詳細な調査が望ましい事故として、施設から十キロリットル以上流出した事故、製造所又は一般取扱所から指定数量の十倍以上流出した事故、地下タンク又は配管から指定数量以上若しくは敷地外に流出した事故、流出に起因して死者が出た事故、容量五百キロリットル以上の屋外タンク貯蔵所の基礎・地盤・タンク本体が異常状態となった事故を挙げる。

調査は「できる」規定である。義務ではない。第2項の権限は、資料の提出命令、報告の要求、立入検査、物件の検査、関係者への質問である。立入りの対象は事故が発生した製造所等に限らず、「その他当該事故の発生と密接な関係を有すると認められる場所」に及ぶ。第3項が第4条第1項ただし書を準用するため、個人の住居については関係者の承諾を得た場合又は火災発生のおそれが著しく大であるため特に緊急の必要がある場合でなければ立ち入らせることができない。

第4項の消防庁長官による調査は、市町村長等から求めがあった場合に限られる。ここに火災原因調査との差がある。第35条の3の2は、消防庁長官が「消防長又は前条第一項の規定に基づき火災の原因の調査をする都道府県知事から求めがあつた場合及び特に必要があると認めた場合に限り」調査をすることができるとしており、求めがなくても特に必要があると認めれば自ら調査に入れる。消防庁の資料は、この自主的な調査の権限が平成15年6月の改正によって加えられたものであることを示している。火災については国が自ら動ける一方、危険物の流出事故については市町村長等の求めを待たなければならない。

立入検査の対象が許可施設に限られないこと

第16条の5第1項の対象は「指定数量以上の危険物を貯蔵し、若しくは取り扱つていると認められるすべての場所」である。許可を受けた製造所等に限らない。無許可で貯蔵している場所にも立ち入ることができる。第4条の立入検査が防火対象物を対象とするのに対し、こちらは危険物の存在によって対象が決まる。

権限には収去が含まれる。「試験のため必要な最少限度の数量に限り危険物若しくは危険物であることの疑いのある物を収去させる」ことができる。物の性状が危険物に当たるかどうかを判定するための権限であり、第4条には置かれていない。

第2項は走行中の移動タンク貯蔵所の停止と免状の提示の要求を認める。権限者は消防吏員又は警察官である。市町村長等ではなく、現場の職員に直接与えられている。停止に従わず、又は提示の要求を拒んだ者は第44条第7号の対象となる。消防吏員と警察官が職務を行うに際して互いに密接な連絡をとるものとされているのは、道路上での職務執行が重なるためである。

無許可貯蔵への命令に罰則がないこと

第16条の6第1項の命令に違反した者を処罰する規定はない。第42条にも第44条にも掲げられていない。命令の実現は、第2項が準用する第16条の3第5項により、行政代執行法に基づく代執行によって図られる。あわせて第11条の5第4項及び第5項の準用により、命令をしたときは公示をし、標識を設置することができる。

もっとも、命令の前提となる第10条第1項の違反そのものは第41条第1項第3号により一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金の対象であり、第45条第2号により法人には三千万円以下の罰金刑が科される。行為の処罰は重く、是正命令の違反には罰則がなく代執行で実現するという配分になっている。

行政庁の変更、権限の委任、緊急時の指示

第16条の7は、消防本部若しくは消防署の設置若しくは廃止、市町村の廃置分合又は境界変更によって権限を有する行政庁が変わった場合の特例を政令に委ねる。危険物の規制に関する政令第41条の2は、変更前の行政庁にされている申請、届出その他の手続と、変更前の行政庁がした許可その他の処分を、変更後の行政庁にされた手続又はした処分とみなす。消防本部を設置すれば許可権者が都道府県知事から市町村長に移るため、既存の許可の効力をつなぐ必要が生じる。

第16条の8は総務大臣の権限に属する事務の一部を都道府県知事又は市町村長が行うこととすることができるとし、第16条の8の2は緊急の必要がある場合の指示を定める。政令第39条の3が指示の対象となる事務として掲げるのは、第11条の5第1項及び第2項の基準遵守命令、第12条第2項の基準適合命令、第12条の3第1項の緊急時の使用の一時停止・制限、第16条の3第3項及び第4項の応急措置命令、第16条の6第1項の無許可貯蔵への措置命令である。いずれも危険を取り除くための命令であり、許可や検査は含まれていない。政令第39条の2は、移動タンク貯蔵所について指示をしたときに、許可をした市町村長等へ通知することを求める。

適用除外の切り分け

第16条の9は、航空機、船舶、鉄道又は軌道による危険物の貯蔵、取扱い又は運搬に第三章を適用しないとする。航空法、船舶安全法、鉄道営業法などの体系がそれぞれの輸送手段を規律しているため、重複を避ける趣旨である。

ここに自動車は挙げられていない。道路による運搬と移送は消防法の対象として残る。第16条の運搬と第16条の2の移送が意味を持つのは、この切り分けによる。移動タンク貯蔵所という施設類型が置かれ、走行中の停止という権限まで用意されているのは、道路輸送が消防法の規律に委ねられていることの帰結である。

四 用語解説

緩燃性でない映画 燃えにくい性質を持たない映画フィルムをいう。ニトロセルロースを基材とするフィルムがこれに当たる。第15条の適用はこの種のフィルムを映写する映写室に限られる。

運搬 危険物を容器に収納して車両等により運ぶ行為をいう(第16条)。移動タンク貯蔵所による移送とは区別される。数量の限定がない。

移送 移動タンク貯蔵所、すなわち車両に固定されたタンクにより危険物を運ぶ行為をいう(第16条の2第1項)。

貯蔵所等 第16条の5第1項の立入検査の対象となる、指定数量以上の危険物を貯蔵し、若しくは取り扱っていると認められるすべての場所をいう。許可を受けた製造所等に限られない。

収去 試験のため必要な最少限度の数量に限り、危険物又は危険物であることの疑いのある物を持ち去ることをいう(第16条の5第1項)。

事故原因調査 製造所等において発生した危険物の流出その他の事故(火災を除く)であって火災が発生するおそれのあったものについて、市町村長等が行う原因の調査をいう(第16条の3の2第1項)。

五 改正の経緯と内容

改正法令主な内容
昭和40年法律第65号第16条の4の次に一条を加え、無許可の貯蔵・取扱いに対する措置命令(当時の第16条の5、現行第16条の6)を創設。第16条の2第1項から「及び映写技術者試験」等を削り、第14条を削除して映写技術者の資格制度を廃止。旧第16条の5を第16条の6、旧第16条の6を第16条の7に繰下げ
昭和46年法律第97号第16条の2を全部改正し、移動タンク貯蔵所による移送について危険物取扱者の乗車、政令で定める基準の遵守、免状の携帯を定める現行の内容とする。危険物取扱者制度の全面改正と同じ法律による
昭和49年法律第64号第16条の2の次に第16条の3(応急措置及び通報)を新設。第16条の8(総務大臣の権限の委任)を新設。旧第16条の3から旧第16条の7までを第16条の4、第16条の5、第16条の6、第16条の7、第16条の9に繰下げ。第16条の4の手数料の対象に移送取扱所の保安に関する検査を追加
昭和50年法律第84号(石油コンビナート等災害防止法)附則第16条の3を改正し、応急措置を講じていない所有者等に対する命令(第3項以下)を追加
平成11年法律第87号(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)第16条の8の2(緊急時の指示)に関する仕組みを整備。平成11年10月14日消防予第273号・消防危第98号が、危険物の規制に関する政令第39条の2及び第39条の3の新設として説明
平成20年法律第41号(消防法及び消防組織法の一部を改正する法律)第16条の3の次に第16条の3の2(危険物流出等の事故原因調査)を新設。第44条第2号の引用を改め、資料提出命令等の違反を罰則の対象に追加
令和4年法律第68号刑法等の一部を改正する法律の施行に伴い、第41条、第42条、第43条等の「懲役」を「拘禁刑」に改正

六 法的性格と解釈上の論点

立法事実が消えた条文の処理

第15条は、映写技術者の資格制度が廃された後も残り、ニトロセルロースフィルムがほぼ用いられなくなった後も残っている。適用の対象が事実上存在しないのに、違反に対する罰則は第41条第1項第4号の一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金という、無許可の施設設置より重い水準にとどまっている。

罰則の重さは、制定当時の危険の大きさを反映したものと考えられる。燃えやすいフィルムを密閉した小部屋で高温の光源にかけ、その周囲に観客が多数いるという状況は、現在の映写設備とは危険の質が違う。立法事実が失われても条文と罰則が残る例として、この条は参照に値する。もっとも、適用の余地が完全に消えたわけではない。保存されたニトロセルロースフィルムを常設の施設で上映する場合には、政令第39条の基準が適用される。

運搬の基準が事業者以外にも及ぶこと

第16条は危険物の運搬一般に適用され、数量の限定がない。したがって事業者でない者が少量の危険物を車で運ぶ場合にも、政令第28条の容器の基準と第29条の積載方法の基準が適用される。容器への収納、外部への品名及び数量等の表示、転落・落下・転倒・破損の防止、収納口を上方に向けること、類を異にする危険物等との混載の禁止がこれに当たる。

これは第三章の中では例外的な適用範囲である。第10条以下の規定はいずれも指定数量以上を前提とし、指定数量未満は第9条の4により市町村条例に委ねられている。運搬についてだけ、数量を問わず国の基準が及ぶ。危険物が道路上を移動する局面では、量の多少よりも容器と積載の適切さが災害の有無を決めるという判断が働いていると読める。

令和5年中の危険物に係る事故の概要によれば、同年の事故は総数730件であり、そのうち危険物施設における事故が711件(火災243件、流出468件)、危険物施設以外における事故が19件であった。施設以外の19件の内訳は、無許可施設7件(火災4件、流出3件)、危険物運搬中12件(火災1件、流出11件)、仮貯蔵・仮取扱い0件である。運搬中の事故は年間十数件という規模であり、流出が大半を占める。他方、移動タンク貯蔵所は施設として集計され、火災4件、流出51件である。第16条の運搬と第16条の2の移送は、事故の件数で見ると桁が違う。

通報義務の構造

通報をしないことに罰則がなく、虚偽の通報に罰則があるという配分は、通報という行為の性質から説明できる。事故を発見した者すべてに義務を課す以上、通報しなかったことを処罰すれば、現場にいた者を広く処罰の対象に取り込むことになる。他方、虚偽の通報は消防力を無駄に動かし、他の災害への対応を妨げる。処罰すべき対象が通報しないことではなく嘘をつくことに置かれているのは、この違いによる。

もっとも、第16条の3第1項の応急措置義務を負う所有者等については、通報しないことが応急措置を講じていないことと重なる場面がある。流出を発見して放置すれば、第3項又は第4項の命令の対象となり、命令に違反すれば第42条第1項第9号の罰則が働く。通報義務の違反は処罰されないが、措置義務の側から捕捉される経路が残っている。

行政調査と刑事手続の境界

第16条の5第1項の立入検査と第16条の3の2第2項の調査のための立入検査には、第13条の16第4項や第16条の48第3項に見られる「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」という文言が置かれていない。第4条第2項から第4項までの準用により、証票の携帯と提示、業務の妨害の禁止、秘密を漏らさない義務は及ぶが、犯罪捜査との区別を明示する規定はない。

消防危第317号は、事故調査の目的が関係者の責任追及ではなく再発防止であることを関係者に理解してもらう必要があるとしている。実際には、調査で得られた資料が刑事手続の資料となる可能性は否定できない。危険物の流出が第39条の2又は第39条の3の罪に当たる場合があり、無許可貯蔵が第41条第1項第3号の罪に当たる場合がある。

この問題について判断の枠組みを示したのが、後述する最高裁大法廷の判決である。行政上の調査が刑事責任の追及を目的としないことだけを理由に憲法第35条第1項の保障の枠外に置かれるわけではないとしつつ、令状を一般的な要件としないことが同条の趣旨に反しないとした。他方、実質上、刑事責任追及のための資料の取得・収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には憲法第38条第1項の保障が等しく及ぶとした。危険物の立入検査と事故原因調査についても、この枠組みに照らして考えることになる。

事故原因調査における国の関与の非対称

火災については、消防庁長官が市町村の消防長又は都道府県知事からの求めがなくても、特に必要があると認めれば調査に入れる(第35条の3の2第1項)。危険物の流出事故については、市町村長等から求めがあった場合に限られる(第16条の3の2第4項)。

この差は、制度が設けられた時期の違いによる。火災原因調査における自主的な調査の権限は平成15年6月の改正で加えられ、危険物の事故原因調査は平成20年に新設された。新しい制度のほうが国の関与を限定している。火災は現に発生した災害であり、死傷者が出れば社会的な関心が直ちに高まる。流出事故は火災に至っていないため、調査の必要性の判断が技術的になり、現場を所管する市町村長等の判断を介する設計が選ばれたと見ることができる。消防危第317号は、社会的影響が大きく技術基準の見直しの検討が必要な事故などについて、消防庁長官に調査を求めることが望ましいとしている。求めるかどうかの判断が市町村長等に委ねられている以上、技術基準の見直しにつながる知見が国に集まるかどうかも、その判断に依存する。

緊急時の指示が及ぶ範囲

政令第39条の3が指示の対象として掲げる事務は、いずれも危険を取り除くための命令である。許可(第11条)、完成検査(第11条第5項)、保安検査(第14条の3)、許可の取消し・使用停止(第12条の2)は含まれていない。国が個別の事案に介入できるのは、災害の発生を防ぐための命令に限られる。許可の与奪という地位の決定には及ばない。

地方分権改革の趣旨からすれば、国が地方の事務処理に指示をするのは例外である。その例外の範囲を、緊急性のある命令に限定したのがこの政令である。移動タンク貯蔵所について指示をしたときに許可をした市町村長等へ通知するという政令第39条の2の手続も、権限の所在を乱さないための配慮と理解できる。

七 裁判例

最高裁判所大法廷昭和47年11月22日判決(昭和44年(あ)第734号)

行政上の調査に憲法上の保障がどこまで及ぶかについて、判断の枠組みを示した判決である。事件名は所得税法違反、刑集第26巻9号554頁に収録されている。改正前の所得税法に基づく収税官吏の質問及び検査が、憲法第35条第1項の令状主義と第38条第1項の自己に不利益な供述の強要の禁止に反しないかが争われた。

最高裁は、憲法第35条第1項について、手続が刑事責任の追及を目的としないことだけを理由にその手続のあらゆる強制が同項の保障の対象外になるわけではないとしたうえで、所得税法の検査が事前に裁判官の発する令状によることを一般的な要件としていなくても同条の趣旨に反しないとした。憲法第38条第1項については、純然たる刑事手続以外でも、実質上、刑事責任追及のための資料の取得・収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には同項の保障が等しく及ぶとしつつ、同法の質問及び検査は同項にいう自己に不利益な供述の強要には当たらないとした。

この枠組みは消防法の立入検査と事故原因調査にあてはまる。第16条の5第1項の立入検査と第16条の3の2第2項の調査は、いずれも令状を要件としていない。拒否、妨害、忌避は第44条第2号により処罰されるため、間接的な強制を伴う。それでも、火災の防止と事故の再発防止という行政目的のための調査であり、刑事責任追及のための資料収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続とは言えない限り、令状を要しないことが憲法第35条の趣旨に反するものではないと考えられる。

他方、調査の過程で第39条の2、第39条の3又は第41条第1項第3号の罪の嫌疑が具体化した場合には、判決が示した第38条第1項の射程に入る余地が生じる。消防危第317号が、事故調査の目的が責任追及ではなく再発防止であることを関係者に説明すべきものとしているのは、制度の趣旨の説明であると同時に、調査と捜査を区別して運用することの要請でもある。

公表された裁判例の乏しさ

第15条から第16条の9までの規定を直接の対象とする公表された裁判例は見当たらない。第16条及び第16条の2の違反は三月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金という法定刑であり、判例集に収録される頻度が低い。第16条の6の命令には罰則がなく、代執行によって実現されるため、争訟になりにくい。第16条の7、第16条の8及び第16条の8の2は行政庁の権限の所在を定めるものであり、国民の権利義務に直接関わらない。第15条については、適用の対象となる施設が事実上存在しない。

事故原因調査については、消防庁が公表した消防庁長官による火災原因調査の実施例に、平成15年8月19日の三重県のごみ固形燃料貯槽の発熱発火(消防職員2名が殉職)、平成15年9月26日及び28日の十勝沖地震に伴う北海道の原油タンク及びナフサタンクの炎上、平成19年6月19日の東京都の温泉施設の爆発火災などが挙げられている。これらは火災原因調査として実施されたものであり、第16条の3の2の調査ではないが、国が技術基準の見直しにつなげた事例として参照される。

八 実務上の留意点

運搬を行う場合の確認事項

危険物を車両で運ぶ場合、量の多少を問わず容器と積載の基準が適用される。確認すべき事項は、容器の材質と構造が基準に適合しているか、収納の方法が省令に適合しているか、容器の外部に品名及び数量等が表示されているか、収納口が上方を向いているか、類を異にする危険物等と混載していないか、積み重ねの高さが基準を超えていないかである。

指定数量以上を運ぶ場合には、これに加えて車両への標識の掲示、一時停止の際の安全な場所の選定と保安への注意、適応する消火設備の備付けが必要になる。品名又は指定数量が異なる二以上の危険物を運ぶ場合は、それぞれの数量を指定数量で除した商の和が一以上になるかどうかで判定する。個々の品目では指定数量に達しなくても、合算で該当することがある。

運搬中に著しい漏れ等が生じた場合は、応急措置を講じるとともに最寄りの消防機関その他の関係機関に通報する義務がある(政令第30条第1項第5号)。運転者への教育にこの手順を含めておく必要がある。

移送を行う場合の確認事項

移送には、運ぶ危険物を取り扱うことができる危険物取扱者の乗車が必要である。配車の段階で、運ぶ危険物の類と乗務者の免状の種類及び指定された類が対応しているかを確認する。免状の携帯も要件であり、携帯していなければ第44条第6号の対象となる。

長時間にわたるおそれがある移送については、二人以上の運転要員を確保しなければならない。動植物油類その他総務省令で定める危険物の移送は除かれる。長距離の配送計画を立てる段階で、省令の定める時間の基準に照らして要員を手配することになる。

アルキルアルミニウム、アルキルリチウムその他総務省令で定める危険物を移送する場合は、移送の経路その他必要な事項を記載した書面を関係消防機関に送付し、その写しを携帯して記載された内容に従わなければならない。経路の変更には制約がかかるため、送付した書面の内容と実際の運行の整合を管理する必要がある。

走行中に消防吏員又は警察官から停止を求められ、免状の提示を求められることがある(第16条の5第2項)。消防庁は期間を定めて移動タンク貯蔵所等に対する立入検査を全国的に実施しており、常置場所、積みおろし場所、道路上が対象となる。

事故が起きたときの手順

流出その他の事故が発生したときは、所有者等は直ちに応急措置を講じなければならない。引き続く流出及び拡散の防止、流出した危険物の除去その他災害の発生の防止のための措置である。応急措置を講じていないと認められれば命令の対象となり、命令に違反すれば罰則と代執行の対象になる。

通報は、消防署、市町村長の指定した場所、警察署又は海上警備救難機関のいずれかに行う。通報しないことに罰則はないが、応急措置義務の履行と一体のものとして扱われる。特別防災区域内の特定事業所であれば、石油コンビナート等災害防止法第23条第1項による異常現象の通報義務も併存する。

事故後には第16条の3の2の調査が行われることがある。資料の提出命令、報告の要求、立入検査、質問に応じる義務があり、拒否、妨害、忌避は第44条第2号の対象である。調査の対象は事故が発生した施設に限らず、事故の発生と密接な関係を有すると認められる場所に及ぶ。委託先や関連施設が対象となることもある。

消防危第317号は、関係者への質問をできるだけ事故後早い時期に個別に行うことが望ましいとし、人的要因を管理不十分、誤操作、確認不十分、不作為、監視不十分の五区分で整理するとしている。詳細調査では背景要因まで調べる。事業者の側では、事故直後の記録、運転データ、作業指示の記録を保全しておくことが、調査への対応と原因の特定の双方に資する。

無許可の状態が判明した場合

指定数量以上の危険物を許可又は承認を受けずに貯蔵し又は取り扱っていることが判明した場合、第16条の6第1項の除去命令の対象となる。命令に従わなければ代執行が行われ、公示と標識の対象にもなる。命令そのものに罰則はないが、無許可の貯蔵・取扱いは第41条第1項第3号により一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金、法人には第45条第2号により三千万円以下の罰金刑が科される。

倍数の計算を誤って指定数量を超えていた、保管品目の変更で合算値が一を超えていたといった事例は、第16条の5第1項の立入検査で発見される。立入検査の対象が許可施設に限られないため、倉庫や工場の資材置場も対象になり得る。保管品目と数量の棚卸しを定期に行い、合算値を把握しておくことが予防になる。

消防本部の設置等があった場合

消防本部及び消防署が新たに置かれれば、製造所等の許可権者は都道府県知事から市町村長に移る。第16条の7と政令第41条の2により、従前の申請、届出その他の手続と、従前の行政庁がした許可その他の処分は、新しい行政庁にされた手続又はした処分とみなされる。許可を取り直す必要はない。

もっとも、以後の変更許可、完成検査、各種の届出の相手方は新しい行政庁になる。市町村の合併や消防の広域化が予定されている区域に施設を持つ場合、提出先の変更時期を確認しておく必要がある。移動タンク貯蔵所については常置場所を管轄する行政庁が許可権者であるため、常置場所の属する区域の消防体制の変更に注意を払うことになる。

参考文献・資料

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