はじめに――「まさか自分たちが」という思い込みの危うさ

建設会社のコンプライアンス研修でよく聞く言葉がある。「うちはちゃんとやっているから大丈夫」「行政処分なんて悪質な業者の話だろう」というものだ。

しかし実態は異なる。国土交通省が運営する「ネガティブ情報等検索サイト」には、全国の監督処分情報が常時公開されており、2023年度の大臣許可業者を対象とした立入検査は806件実施され、文書指導388件、勧告68件、指示9件、営業停止13件、許可取消1件という結果が公表されている。これはあくまで大臣許可業者の数字であり、都道府県知事許可業者を含めれば処分件数ははるかに多い。多すぎだ。

行政処分を受ける建設会社には、一定の「典型パターン」がある。本稿では、国土交通省の監督処分基準(令和7年12月12日最終改正)と処分事例をもとに、そのパターンを類型別に解説する。

私は850回以上のコンプライアンス研修を実施してきたが、処分を受けた会社のケースを研修で取り上げると、受講者が「これは他人事ではない」と表情を変える場面を何度も見てきた。それほど、典型パターンは現場の日常と地続きなのである。


監督処分の仕組みを理解する

まず前提として、監督処分の種類と重みを整理しておく。

監督処分には、①指示処分、②営業停止処分、③許可の取り消しの3種類がある。指示処分は、法律や条例に照らして違反している、もしくは適切ではない状態を正すために業者がすべきことについて、監督行政庁が自主的な改善を促すものである。指示処分に従わないと、営業停止の処分を受ける可能性がある。また、独占禁止法・刑法などの法令に違反した場合や一括下請負禁止規定の違反があった場合などのケースでは、指示処分なしで営業停止処分がなされることもある。

監督処分を受けると、業者名や処分内容が建設業者処分簿に記載され国土交通省及び各都道府県の閲覧所に設置され誰でも閲覧可能になる。営業停止や許可の取消については、官報や公報にも公告される。入札参加資格の審査や取引先調査の際に確認されることが多く、受注機会の喪失に直結する。


典型パターン① 技術者の配置違反

監督処分の中で最も頻出する類型が、技術者配置に関する違反である。

建設業法第26条は、すべての建設工事現場に主任技術者の設置を義務づけている。特定建設業者が元請として一定規模以上の下請発注を行う場合は、監理技術者を置かなければならない。

違反の形態は主に3つある。

(1)名義貸し・実態のない専任 資格を持つ技術者の名前だけを申請上に記載し、実際にはその者が現場に関与していないケース。複数現場に同一人物を「専任」として届け出ているケースも含まれる。これは「名義貸し」とも呼ばれ、建設業法上の重大違反である。

(2)資格要件を満たさない者の配置 国土交通省の処分基準の改正背景として明記されているのが、技術検定の不正受検問題である。建設業法に基づく国家資格である技術検定において、複数の企業の社員が所定の実務経験を充足せずに受検し、施工管理技士の資格を不正に取得し、これらの社員を監理技術者等として配置していた事態が発生した。この問題を受けて処分基準が強化され、虚偽の実務経験の証明によって不正に資格を取得した者を主任技術者又は監理技術者として工事現場に置いていた場合には、30日以上の営業停止処分 とされた。

(3)専任要件の形骸化 法改正により専任特例(2現場兼務)が認められるようになったが、要件は厳格である。「なんとなく兼務させている」状態は、改正後も違反となる。


典型パターン② 一括下請負(丸投げ)

建設業法第22条が禁じる一括下請負は、「悪質業者だけの話」ではない。知らないまま一括下請に近い運用をしているケースが、研修現場では珍しくない。

一括下請負とは、建設業者が請け負った建設工事を、そのまま下請業者に丸投げする行為を指す。発注者が建設業者に寄せた信頼を裏切ることになり、施工に携わらない業者が入り込むことによる不当な請負代金の中抜き等の発生を防止する観点から、建設業法では一括下請負を禁止している。

一括下請負の判断は「実質的関与」の有無による。施工計画の作成・工程管理・品質管理・安全管理・技術的指導を元請が主体的に行っているかが問われる。「現場に技術者を置いているから大丈夫」という認識は誤りで、書類上の形式よりも実態で判断される。

独占禁止法・刑法などの法令に違反した場合や一括下請負禁止規定の違反があった場合などで、特に情状が重いと判断されれば、指示処分や営業停止処分なしで許可取り消しがなされることもある。一括下請負は、最も重い処分に直結しうる類型のひとつである。


典型パターン③ 虚偽申請・経審の不正

公共工事を受注している建設会社にとって、経営事項審査(経審)の虚偽申請は致命的な違反となる。

完成工事高の水増し等の虚偽の申請を行うことにより得た経営事項審査結果を公共工事の発注者に提出し、公共発注者がその結果を資格審査に用いたときは、30日以上の営業停止処分を行うこととする。さらに、監査の受審状況において加点され、かつ、監査の受審の対象となった計算書類・財務諸表等の内容に虚偽があったときには、45日以上の営業停止処分 とされている。

経審の虚偽申請が発覚した場合、公共工事の入札参加資格も停止される。公共工事依存度の高い地方の中堅・中小建設会社にとっては、事実上の経営危機に直結する。

また、建設業許可の申請書等に虚偽の内容があった場合や、変更届の提出が必要だったのに提出しなかった場合、経営状況分析や経営規模等評価の際に虚偽が記載された申請書を提出した場合にも、重い処分が科される。「書類の管理が煩雑で、気づかないまま期限が過ぎていた」という状況が違反に発展するケースも実務上は多い。


典型パターン④ 粗雑工事・施工不良

近年、建設業者の粗雑工事に関する社会的に注目を集める事案が相次いでいることから、粗雑工事を行った建設業者への対応の厳格化が必要とされた。これを受けて処分基準が改正され、施工段階での手抜きや粗雑工事を行ったことにより、工事目的物に重大な瑕疵が生じたときは15日以上の営業停止処分とする。ただし、低入札価格調査が行われた工事においては30日以上の営業停止処分とされた。

ここで重要なのは、低入札価格調査の対象となった工事での粗雑工事は処分が重くなる点である。「安く受注したから利益を出すために手を抜いた」という構造が行政の目には見えており、その状況での瑕疵はより厳しく扱われる。工事の採算と施工品質は切り離せない経営課題である。


典型パターン⑤ 施工体制台帳の不備・虚偽

元請業者には、施工体制台帳および施工体系図の整備・作成が義務づけられている。施工体制台帳又は施工体系図の作成を怠ったとき、又は虚偽の施工体制台帳又は施工体系図の作成を行ったときは、7日以上の営業停止処分を行うこととする。

「台帳の書類管理は事務担当者に任せている」という会社は多い。しかし、台帳の不備は立入検査の際に真っ先に確認される事項であり、実態と記載が乖離していれば即座に問題となる。


典型パターン⑥ 無許可業者への下請発注

適切な許可を受けた下請業者に施工をさせなかった場合、元請業者にも建設業法上の責任が及ぶ。「下請業者の許可の有無まで確認していなかった」というケースは、規模を問わず発生している。

特に問題になりやすいのは、長年の付き合いを前提に書類確認を省略しているケースである。かつて許可を持っていた業者が更新を怠って許可切れになっていたにもかかわらず、それを把握せずに発注し続けていた事例は実際に存在する。元請としての下請管理義務の観点から、定期的な許可証確認は欠かせない実務である。


処分を招く「組織的な背景」

個別の違反行為には、必ず組織的な背景がある。研修の経験から言えば、処分を受けた会社に共通するのは以下のような状況である。

「コンプライアンスは管理部門の仕事」という縦割り意識、「昔からそうやってきた」という慣行への依存、現場と管理部門の情報共有不足、そして経営層の法令理解の不足――これらが組み合わさって、違反が「構造的に」生まれる。

建設業法は頻繁に改正される。2024年から2025年にかけても、技術者配置・工期ダンピング・労務費基準など多くの規定が変わった。「以前は問題なかった」という慣行が、改正後には違反になっているケースが今後も増えていく。


処分を受けた後の現実

監督処分を受けると、顧客の信頼を失うだけでなく、元請会社や下請会社からの賠償問題など甚大な損害が発生する可能性がある。

社名がネガティブ情報等検索サイトに5年間掲載され続ける。入札参加資格が停止される。取引先から契約を打ち切られる。採用活動にも影響が出る。これらは、営業停止期間が終わっても続く「後遺症」である。

処分を受けてから対策を講じるのでは遅い。処分を受ける前に自社の実務を点検し、問題があれば是正する――そのための定期的な社内教育と外部専門家の活用が、今の建設業には不可欠である。


まとめ――典型パターンを知ることの意味

行政処分を受ける典型パターンをまとめると、以下の6類型になる。

技術者の配置違反(名義貸し・資格不正・要件形骸化)、一括下請負(丸投げの実態)、虚偽申請(経審・許可申請)、粗雑工事・施工不良、施工体制台帳の不備・虚偽、無許可業者への下請発注――いずれも「悪質な業者だけの話」ではなく、日常の業務運営の延長線上にある。

コンプライアンスとは、「処分されないための対策」ではなく、「信頼される会社であり続けるための経営姿勢」である。典型パターンを知ることは、その第一歩だ。

中川総合法務オフィスでは、建設会社向けのコンプライアンス研修・体制構築支援を行っております。初回相談は無料です。お問い合わせはこちら

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