条文原文
(開示関係役務提供者の義務等)
第六条 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、当該開示の請求に応じるかどうかについて当該発信者の意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない。
2 開示関係役務提供者は、発信者情報開示命令を受けたときは、前項の規定による意見の聴取(当該発信者情報開示命令に係るものに限る。)において前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない。ただし、当該発信者に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。
3 開示関係役務提供者は、第十五条第一項(第二号に係る部分に限る。)の規定による命令を受けた他の開示関係役務提供者から当該命令による発信者情報の提供を受けたときは、当該発信者情報を、その保有する発信者情報(当該提供に係る侵害情報に係るものに限る。)を特定する目的以外に使用してはならない。
4 開示関係役務提供者は、前条第一項又は第二項の規定による開示の請求に応じないことにより当該開示の請求をした者に生じた損害については、故意又は重大な過失がある場合でなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該開示関係役務提供者が当該開示の請求に係る侵害情報の発信者である場合は、この限りでない。
趣旨・立法背景
第6条は、被害者からの発信者情報開示請求を受けたSNS事業者や経由プロバイダ(開示関係役務提供者)に対し、手続上の義務を課す条文である。第5条が開示請求権を定める規定であるのに対し、第6条はその請求を受けた側の対応手続を定める規定という位置づけになる。
同条第1項の意見聴取義務は、開示請求に応じるかどうかの判断を開示関係役務提供者に委ねる以上、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密という権利利益が不当に侵害されないよう、発信者側の言い分を反映させる手続保障として設けられたものである。総務省の逐条解説では、発信者が実際に照会内容を伝達され、意見表明の機会を現実に与えられることが不可欠であるとされている。
同条第2項は、令和3年改正で創設された発信者情報開示命令という非訟手続に対応する規定である。裁判外の意見聴取で開示に反対した発信者が、その後に開示命令の審理対象となった場合、当該発信者に手続の経過を知らせるための通知義務を課している。
同条第3項は、同法第15条の提供命令によって他の開示関係役務提供者から発信者情報の提供を受けた場合の目的外使用禁止を定める。提供命令は発信者を特定するための手続であるため、そこで得た情報を別の用途に流用することを禁じ、発信者の情報コントロール権を保護している。
同条第4項は、開示関係役務提供者が開示請求に応じなかった場合の損害賠償責任を、故意又は重大な過失がある場合に限定する免責規定である。開示するかしないかという二者択一の判断において、開示関係役務提供者が萎縮して一律に不開示とする事態を防ぎ、適正な判断を促す目的で設けられている。
令和6年改正による題名変更後も、本条の実質的な内容は令和3年改正時の枠組みを維持しており、旧プロバイダ責任制限法第4条第2項及び第4項に相当する規定が独立した条文として整理されたものである。
用語解説
開示関係役務提供者 第5条第1項又は第2項の開示請求の相手方となる特定電気通信役務提供者及び関連電気通信役務提供者を指す。SNS等のコンテンツプロバイダのほか、ログイン時の通信を媒介する経由プロバイダも含まれる。
発信者情報開示命令 令和3年改正で創設された非訟手続であり、従来の訴訟によらずに発信者情報の開示を求めることができる裁判手続である。
提供命令 開示命令事件の審理中に、発信者を特定できなくなることを防ぐため、裁判所が開示関係役務提供者に対し、他の開示関係役務提供者の氏名等の情報提供を命じる制度である。第15条に規定がある。
侵害関連通信 ログイン時の通信等、侵害情報の送信自体ではないが発信者の特定に資する通信を指す。令和3年改正により開示請求の対象範囲に含まれることとなった。
重大な過失 単なる不注意ではなく、わずかの注意を払えば結果を予見・回避できたのに漫然と看過したといえるほどの著しい注意義務違反を指す法律概念である。
旧法時の判例・裁判例
旧プロバイダ責任制限法第4条第4項(現行第6条第4項に相当)に関する最高裁判所の判断として、最高裁判所第三小法廷平成22年4月13日判決(民集64巻3号758頁)がある。同判決は、開示関係役務提供者が侵害情報の流通による開示請求者の権利侵害が明白であるなど開示請求の要件を満たすと判断すべきであったにもかかわらず、これを漫然と看過して開示しなかった場合には、重大な過失があるものと解すべき旨を示した。この判断枠組みは、開示関係役務提供者が意見聴取の結果や自らの調査に基づいて開示・不開示を判断する際の実務上の基準として、現行法下でも参照されている。
意見聴取手続に関しては、旧法下のガイドラインにおいて、発信者に対する意見照会を経た上で開示関係役務提供者が開示・不開示を判断すること自体は否定されないとされ、また意見聴取の結果に開示関係役務提供者が法的に拘束されるものではないことも確認されている。ただし、意見聴取義務が発信者の手続保障のために課されたものである以上、開示関係役務提供者は聴取した発信者の意見を可能な限り尊重した対応を求められる。
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