条文原文

第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

趣旨・立法背景

民法960条は、遺言は民法に定める方式に従わなければ効力を生じないとする要式行為の原則を置いている。967条は、この要式性を受けて、遺言者が用いることのできる普通の方式を自筆証書、公正証書、秘密証書の三種類に限定する規定である。

遺言は、遺言者の死亡後にその意思を確実に実現させる必要がある一方、遺言者本人からその真意を確認することがもはやできない。日本公証人連合会は、この点について、遺言者が生前に口頭で語った内容や、録音・録画による記録は、いずれも遺言としての法律上の効力を持たないと説明している(日本公証人連合会「遺言」)。方式を三種類に絞り込むことで、遺言書の存否や内容をめぐる後日の紛争を防ぎ、遺言者の意思を明確な形で残すことが本条の狙いである。

本条ただし書きは、976条から979条に定める特別の方式(死亡の危急に迫った者の遺言、伝染病隔離者の遺言、在船者の遺言、船舶遭難者の遺言)の存在を留保している。特別の方式は、普通の方式による遺言が困難な状況にある者のために例外的に認められるものであり、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができる状態に復してから6か月間生存したときは、その効力を失う(983条)。特別の方式が利用できる状況にあっても、自筆証書・公正証書・秘密証書のいずれかによる普通方式の遺言をすることは妨げられない。

三種類の方式の具体的要件は、自筆証書遺言が968条、公正証書遺言が969条および969条の2、秘密証書遺言が970条から972条にそれぞれ定められており、967条はこれら各条文の総則にあたる位置づけを持つ。

用語解説

自筆証書とは、遺言者が本文、日付、氏名を自書し押印した証書をいう(968条)。財産目録については自書を要しないが、各ページへの署名押印が必要となる。

公正証書とは、公証人が遺言者の口授する内容を筆記し、証人二人以上の立会いのもとで作成する証書をいう(969条)。方式の不備によって無効となる危険が低く、原本が公証役場に保管されるため、紛失や偽造のおそれがない(日本公証人連合会「遺言」)。

秘密証書とは、遺言者が作成した証書に署名押印のうえ封印し、公証人一人および証人二人以上の前で自己の遺言書である旨を申述して作成する証書をいう(970条)。内容を生前は秘密にしつつ、遺言の存在自体は明確にしておきたい場合に用いられるが、公証人が内容を確認しないため方式不備で無効になる危険が残り、実務上の利用件数は少ない。

普通の方式とは、遺言者が通常の状況にあるときに用いる方式であり、自筆証書、公正証書、秘密証書の三種類を指す。特別の方式とは、死亡の危急や隔絶された場所にあるなど、普通の方式によることが困難な状況で例外的に認められる方式を指し、976条から979条に列挙されている。

判例・裁判例

967条は遺言方式を三種類に限定列挙する規定であるため、これ以外の方法による意思表示は遺言としての効力を生じないという点は、裁判例および実務解説において一貫して確認されている。日本公証人連合会は、生前の口頭による発言や、録音テープ・ビデオによる記録について、方式に従っていない以上、法律上の効力を持たないと説明している(日本公証人連合会「遺言」)。

三種類のうちいずれの方式を選んだ場合であっても、各方式に定められた要件を満たさない部分をどこまで無効とするかは、事案ごとの判断を要する。最高裁判所令和3年1月18日判決は、自筆証書遺言の方式(968条1項)を必要以上に厳格に解すると、かえって遺言者の真意の実現を妨げるおそれがあると判示し、形式的な瑕疵があれば直ちに遺言全体を無効とする考え方を否定した。他方、最高裁判所昭和54年5月31日判決は、日付を「昭和四拾壱年七月吉日」とした自筆証書遺言について、作成日を特定できないとして遺言全体を無効と判断している。これらは967条が定める三方式のうち自筆証書を選んだ場合の要件充足性に関する判断であり、方式選択そのものを争う判例ではないが、967条が要式行為の骨格を成し、968条以下の各方式がその具体的な充足基準を担うという条文相互の関係を示す例といえる。


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