地方公務員法(以下「地公法」という。)第58条は、地方公務員に対して労働関係法令がどこまで及ぶのかを定める規定である。地方公務員は、国家公務員と異なり労働基準法(以下「労基法」という。)が原則として適用される。その原則を前提としたうえで、どの法律を丸ごと外し、どの条文だけを外し、誰が監督するのかを一括して示したのが本条である。日常の勤務時間管理、時間外勤務命令、年次有給休暇、公務災害補償のいずれもこの条文の読み方に帰着するため、実務上の使用頻度は地公法の中でも高い部類に入る。

本稿は令和8年4月1日現在の現行法に基づく。


1 条文原文

(他の法律の適用除外等)

第五十八条 労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)、労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)及び最低賃金法(昭和三十四年法律第百三十七号)並びにこれらに基く命令の規定は、職員に関して適用しない。

2 労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)第二章の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和四十二年法律第六十一号)第二章及び第五章の規定並びに同章に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員以外の職員に関して適用しない。

3 労働基準法第二条、第十四条第二項及び第三項、第二十四条第一項、第三十二条の三から第三十二条の五まで、第三十八条の二第二項及び第三項、第三十八条の三、第三十八条の四、第三十九条第六項から第八項まで、第四十一条の二、第七十五条から第九十三条まで並びに第百二条の規定、労働安全衛生法第六十六条の八の四及び第九十二条の規定、船員法(昭和二十二年法律第百号)第六条中労働基準法第二条に関する部分、第三十条、第三十七条中勤務条件に関する部分、第五十三条第一項、第八十九条から第百条まで、第百二条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、職員に関して適用しない。ただし、労働基準法第百二条の規定、労働安全衛生法第九十二条の規定、船員法第三十七条及び第百八条中勤務条件に関する部分の規定並びに船員災害防止活動の促進に関する法律第六十二条の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員に、同法第七十五条から第八十八条まで及び船員法第八十九条から第九十六条までの規定は、地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)第二条第一項に規定する者以外の職員に関しては適用する。

4 職員に関しては、労働基準法第三十二条の二第一項中「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は」とあるのは「使用者は、」と、同法第三十四条第二項ただし書中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは」とあるのは「条例に特別の定めがある場合は」と、同法第三十七条第三項中「使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により」とあるのは「使用者が」と、同法第三十九条第四項中「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めた場合において、第一号に掲げる労働者の範囲に属する労働者が有給休暇を時間を単位として請求したときは、前三項の規定による有給休暇の日数のうち第二号に掲げる日数については、これらの規定にかかわらず、当該協定で定めるところにより」とあるのは「前三項の規定にかかわらず、特に必要があると認められるときは、」とする。

5 労働基準法、労働安全衛生法、船員法及び船員災害防止活動の促進に関する法律の規定並びにこれらの規定に基づく命令の規定中第三項の規定により職員に関して適用されるものを適用する場合における職員の勤務条件に関する労働基準監督機関の職権は、地方公共団体の行う労働基準法別表第一第一号から第十号まで及び第十三号から第十五号までに掲げる事業に従事する職員の場合を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長)が行うものとする。


2 趣旨・立法背景

2-1 労基法を適用するという選択

本条を理解する出発点は、地方公務員には労基法が原則として適用されるという事実である。国家公務員のうち一般職の非現業職員には、国家公務員法附則第16条により労基法が全面的に適用されない。人事院規則という完結した体系が労基法に代わる役割を果たしているためである。

これに対して地方公務員には、全国一律の人事院規則に相当する仕組みが存在しない。勤務条件は各団体の条例で定められ(地公法第24条第5項)、人事委員会を置かない小規模団体も多い。そこで昭和25年の地公法制定に際しては、勤務条件の最低基準を確保する枠組みとして労基法をそのまま適用し、公務の特殊性と両立しない条文だけを個別に外すという方式が採られた。第3項が長大な条文番号の羅列になっているのはこのためである。

2-2 労働三法を外した理由

第1項が労働組合法(以下「労組法」という。)と労働関係調整法(以下「労調法」という。)を全面的に外したのは、地方公務員の勤務条件が条例で定まる以上、労働協約によって勤務条件を決定する仕組みが成り立たないからである。この点は、公務員の労働基本権制約に関する一連の最高裁判例が示す考え方と対応している。労働協約締結権を与えないかわりに、地公法は職員団体の登録制度(第53条)、交渉制度(第55条)、勤務条件に関する措置要求(第46条)、人事委員会の給与勧告(第26条)といった代償措置を用意している。

最低賃金法が第1項に加えられたのは同法の制定(昭和34年)に伴う整備である。職員の給与は給与条例で定まり、議会の議決という統制に服するため、最低賃金の決定手続を重ねて及ぼす必要がないという整理である。

2-3 現業と非現業の分岐

本条を貫くもう一つの軸が、労基法別表第一に掲げる事業に従事するかどうかという区分である。水道、交通、清掃、病院のように民間と同種の事業を営む職場では、公務であることを理由とした特例を認める必要が乏しい。そこで第2項、第3項ただし書、第5項は、別表第一第1号から第10号まで及び第13号から第15号までに従事する職員について原則へ引き戻す構造を採っている。


3 用語解説

  • 職員 地公法第4条第1項にいう一般職に属する地方公務員をいう。特別職には地公法自体が適用されないため(同条第2項)、本条も及ばない。したがって特別職のうち労働者に当たる者には、労組法も労基法も原則どおり全面的に適用される。
  • 労働基準法別表第一第1号から第10号まで及び第13号から第15号まで いわゆる現業に当たる事業である。第1号は物の製造や加工の事業で、電気・ガス・水道の事業を含む。第4号は道路や鉄道による運送、第13号は病者の治療や看護その他保健衛生、第14号は旅館や飲食店、第15号は焼却・清掃・と畜場の事業である。ここに第11号(郵便・信書便・電気通信)と第12号(教育・研究・調査)が含まれていない点が要注意である。公立学校や公立試験研究機関は別表第一に掲げる事業でありながら、本条では現業として扱われない。
  • 労働基準監督機関 労働基準監督署長、労働基準監督官、都道府県労働局長を指す。臨検、是正勧告、届出の受理、司法警察員としての職務がその権限に含まれる。
  • 地方公務員災害補償法第2条第1項に規定する者 常時勤務に服することを要する地方公務員(勤務形態がこれに準ずる者で政令で定めるものを含む)をいう。実務上は常勤職員と呼ばれる範囲である。
  • 労使協定 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定をいう。職員には労組法が適用されず過半数組合という概念がなじまないため、第4項の読替えが置かれている。

4 各項の解説

4-1 第1項 労組法・労調法・最賃法の全面不適用

第1項は、三つの法律とこれに基づく命令を職員に対して丸ごと適用しないと定める。実務上の帰結は次のとおりである。

第一に、職員が結成する団体は労組法上の労働組合ではなく、地公法第52条以下の職員団体である。法人格の取得、登録の効果、在籍専従の許可のいずれも地公法の枠内で処理される。

第二に、労働協約を締結できない(地公法第55条第2項)。交渉の結果は書面協定にとどまり、勤務条件の変更には条例改正を要する。

第三に、不当労働行為の救済制度(労組法第7条、第27条)を利用できない。労働委員会に救済を申し立てても、労組法上の労働者に当たらないとして却下される。

この第三の点は、平成29年法律第29号による会計年度任用職員制度が令和2年4月1日に施行された際、現実の問題として表面化した。それまで特別職の非常勤職員として労組法の適用を受けていた者の多くが一般職の会計年度任用職員へ移行し、本条第1項により労組法の適用を失った。公立学校の非常勤講師をめぐる事案が典型で、同じ職場の常勤講師(臨時的任用職員)が従前から労組法の適用外であったのに対し、非常勤講師は制度改正を境に取扱いが変わった。この種の紛争は中央労働委員会の命令でも取り上げられている。

第四に、最低賃金法が適用されない。会計年度任用職員の報酬額が地域別最低賃金を下回っても、最低賃金法違反という法律構成は成り立たない。もっとも、常勤職員との権衡や近隣団体との均衡を説明できない報酬設定は、地公法第24条第2項の均衡の原則に照らして是認しがたい。実務では地域別最低賃金額を下限の目安として単価を設定する運用が一般的である。

なお、争議行為の禁止は本条ではなく地公法第37条が定めている。本条第1項の効果と混同しやすい点なので区別しておきたい。

4-2 第2項 労働安全衛生法第2章の不適用

労働安全衛生法(以下「労安法」という。)第2章は安全衛生管理体制を定める章である。総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、産業医、作業主任者、安全委員会、衛生委員会に関する規定がここに置かれている。第2項は、この章を現業以外の職員に適用しないとする。

したがって本庁や出先機関の一般行政職員については、法律上は衛生管理者の選任義務も衛生委員会の設置義務も生じない。もっとも、これは安全衛生を軽んじてよいという意味ではなく、多くの団体が職員の安全衛生管理に関する規則や規程を定め、労安法第2章に相当する体制を自主的に整えている。人事委員会規則で衛生管理者に相当する職を置く例も広く見られる。

重要なのは、除外されるのが第2章に限られるという点である。健康診断(労安法第66条)、長時間労働者に対する面接指導(第66条の8)、労働時間の状況の把握(第66条の8の3)、心理的な負担の程度を把握するための検査、いわゆるストレスチェック(第66条の10)は、いずれも第2章の外にあるため職員にも適用される。健康診断の未実施やストレスチェックの未実施は、非現業の職場であっても法令違反となる。

4-3 第3項 労基法の一部適用除外

第3項本文が職員に適用しないとする労基法の規定は、性質ごとに次のように整理できる。

勤務条件の決定方式に関するもの

  • 第2条(「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」とする原則)。勤務条件条例主義と両立しないため除外される。
  • 第14条第2項・第3項(有期労働契約の締結・更新・雇止めに関する基準)。任用は契約ではないという理解に基づく。
  • 第89条から第93条まで(就業規則)。職員の勤務条件は条例と規則で定まるため、就業規則の作成・届出義務は生じない。

賃金に関するもの

  • 第24条第1項(通貨払、直接払、全額払)。同旨の規律は地公法第25条第2項が置いている。

労使協定を前提とする柔軟な労働時間制度

  • 第32条の3から第32条の5まで(フレックスタイム制、1年単位の変形労働時間制、1週間単位の非定型的変形労働時間制)。
  • 第38条の2第2項・第3項、第38条の3、第38条の4(事業場外労働のみなしに関する協定、専門業務型裁量労働制、企画業務型裁量労働制)。
  • 第41条の2(高度プロフェッショナル制度)。これに対応して労安法第66条の8の4も除外されている。

自治体が導入しているフレックスタイム制は、労基法第32条の3ではなく勤務時間条例と規則に基づく独自制度である。根拠が異なる以上、民間向けの解説書をそのまま当てはめると誤る
 ※M県公立大学へM市役所から出向中の地方公務員が、研修終了後に研修所担当職員の前で、しかも他の受講生に聴こえるように「M市ではフレックスタイム制を今は取り始めたので講師の法律上の適用がないのは間違いだ」と大声で言ってドヤ顔をしていた。ところが、その担当職員も「労働法」の学識がないので、労基法第32条の3の法解釈も知らない上司に報告して次の年から私を呼ばなくなった。これでいいのであろうか。まったく気の毒なのは、M県の地方公務員である。行列の出来る人気であって多くの方の救済に当たってきた。

年次有給休暇の一部

  • 第39条第6項から第8項まで(計画的付与、使用者による年5日の時季指定義務、その日数控除)。

年5日の時季指定義務は平成30年の法改正で新設され、民間では罰則付きの義務とされているが、職員には法律上及ばない。ただし取得促進の必要性は変わらないため、多くの団体が要綱や通知により同様の運用を行っている。年次有給休暇の付与日数(第39条第1項から第3項まで)、時季指定権と時季変更権(第5項)は適用されるので、この二つを混同しないよう注意したい。

災害補償

  • 第75条から第88条まで(療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償など)。常勤職員の公務災害は地方公務員災害補償法(以下「地公災法」という。)が担う。

監督・罰則に関するもの

  • 第102条(労働基準監督官が司法警察員の職務を行う旨の規定)、労安法第92条。

ただし書は、この本文をさらに二方向で修正する。

第一に、第102条、労安法第92条、船員法第37条・第108条中勤務条件に関する部分、船員災害防止活動の促進に関する法律第62条は、別表第一第1号から第10号まで及び第13号から第15号までの事業に従事する職員には適用される。現業の職場では労働基準監督官の司法警察権が及ぶという意味である。

第二に、第75条から第88条まで(および船員法第89条から第96条まで)は、地公災法第2条第1項に規定する者以外の職員、すなわち非常勤職員には適用される。もっとも、非常勤職員の公務災害補償が労基法の災害補償で完結するわけではない。現業の事業場に勤務する非常勤職員には労働者災害補償保険法が適用され、非現業の事業場に勤務する非常勤職員には地公災法第69条に基づく条例による補償制度が適用される。この適用関係を取り違えて労災保険の加入手続を誤った事例は、会計検査院の平成7年度決算検査報告でも指摘されている。

除外されていない主な規定

反対解釈として職員に適用される規定を押さえておくことが実務では有用である。第1条(労働条件の原則)、第3条(均等待遇)、第4条(男女同一賃金)、第20条(解雇の予告)、第32条(法定労働時間)、第33条(災害時と公務のための臨時の必要による時間外労働)、第35条(休日)、第36条(時間外・休日労働に関する協定)、第37条(割増賃金)、第39条第1項から第5項まで(年次有給休暇)、第41条(労働時間などに関する適用除外)、第65条から第68条まで(産前産後、育児時間、生理日の措置)、第104条(監督機関に対する申告)、第106条(法令の周知)はいずれも適用される。

とりわけ第33条第3項が実務を左右する。同項は、官公署の事業(別表第一に掲げる事業を除く)に従事する公務員について、公務のために臨時の必要がある場合には第32条の労働時間を延長し、第35条の休日に労働させることができると定める。本庁の一般事務のように別表第一に当たらない事業場では、三六協定を締結しなくても時間外勤務命令が可能となる。逆に、水道施設、清掃工場、市立病院、交通事業所のように別表第一に掲げる事業に当たる事業場では第33条第3項が使えず、三六協定の締結と届出が必要になる。同じ団体の中で事業場ごとに扱いが分かれるため、事業場の単位をどう捉えるかが実務の出発点となる。この点について京都府人事委員会事務局の手引は、事業場が主として場所的観念によって決定されるものであると整理している。

4-4 第4項 労使協定方式の読替え

職員には過半数組合という概念がなじまないため、労使協定を要件とする四つの規定について読替えが置かれている。

  • 第32条の2第1項(1か月単位の変形労働時間制) 協定または就業規則によるという要件のうち協定部分が削られ、条例と規則によって実施できる。
  • 第34条第2項ただし書(休憩の一斉付与の例外) 協定に代えて「条例に特別の定めがある場合」とされる。交替制勤務の職場では、休憩の一斉付与を外す旨を勤務時間条例に明記しておく必要がある。
  • 第37条第3項(月60時間超の時間外労働に対する代替休暇) 協定によることなく使用者が実施できる。
  • 第39条第4項(時間単位年休) 協定に代えて「特に必要があると認められるとき」に与えることができるとされる。

第3項が第32条の3から第32条の5までを外していることと対比すると、変形労働時間制のうち職員に残されているのは1か月単位のものだけである点が明瞭になる。

4-5 第5項 労働基準監督機関の職権を誰が行使するか

第5項は、本条により職員に適用される労基法や労安法の規定を運用する際、労働基準監督機関の職権を誰が行うかを定める。

  • 別表第一第1号から第10号まで及び第13号から第15号までの事業に従事する職員 労働基準監督署長と労働基準監督官が行う。
  • それ以外の職員 人事委員会、またはその委任を受けた人事委員会の委員が行う。人事委員会を置かない団体では長が行う。

先に触れたとおり、別表第一第12号の教育・研究・調査の事業は第5項本文の除外リストに入っていない。したがって公立学校の教職員に関する監督権限は人事委員会の側にある。市町村立学校に勤務する県費負担教職員については、事業場の属する市町村の長が労働基準監督機関の職権を行使する取扱いが古くから示されている(昭和32年5月14日自丁発第55号)。

実務では、この職権行使の手続を人事委員会が要綱や通知で定めている。茨城県人事委員会が発出している「地方公務員法第58条の規定に基づく人事委員会の行う労働基準監督機関の職権行使に関する事務取扱いについて」は、事業所単位での書類提出のルートまで具体的に定めた例である。届出や報告の宛先を労働基準監督署と誤ると受理されないため、新任の人事担当者はまず自団体の該当規程を確認したい。

なお、特別職に属する地方公務員、単純労務職員、企業職員、地方独立行政法人の職員には第5項が適用されず、事業の種類にかかわらず労働基準監督署長が監督機関となる。


5 本条が適用されない職員

本条の射程外に置かれる職員群を押さえておくと、適用関係の全体像が見通しやすくなる。

  • 特別職 地公法第4条第2項により地公法自体が適用されないため、本条も及ばない。労働者に当たる特別職には労組法、労調法、最低賃金法、労基法が原則どおり全面適用される。
  • 企業職員 地方公営企業法第39条第1項は、企業職員について地公法第58条を適用しないと定める。ただし、第3項のうち労基法第14条第2項・第3項に係る部分と、地公災法第2条第1項に規定する者に適用される場合の第75条から第88条まで(および船員法第89条から第96条まで)に係る部分は除かれており、この限りで適用除外が維持される。労働関係は地方公営企業等の労働関係に関する法律が規律し、労働協約締結権を含む団体交渉権が認められる一方、争議行為は禁止される。
  • 単純労務職員 地方公営企業等の労働関係に関する法律附則第5項により、地方公営企業法第39条が準用され、企業職員に準じた扱いとなる。
  • 特定地方独立行政法人の職員 地方独立行政法人法第53条第1項第1号が企業職員と同様の適用除外を定める。
  • 公立学校の教育職員 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(以下「給特法」という。)第5条が、本条第3項と第4項を読み替えて適用する仕組みを置いている。読替えの内容は、労基法第37条を適用除外の対象に加えること、第33条第3項を教育職員にも及ぼしたうえで健康と福祉を害しないよう考慮すべき旨を付加すること、第32条の4の1年単位の変形労働時間制について労使協定を条例に置き換えて適用できるようにすることの三点が中心である。給特法第6条が時間外勤務を命じうる業務をいわゆる超勤4項目に限定し、第3条が教職調整額を支給するという枠組みは、この読替えと一体で機能している。

6 改正の経緯と最新の動き

6-1 これまでの主な改正

昭和25年の制定当初、第1項は労組法と労調法の二法のみを対象としていた。最低賃金法は同法制定に伴い追加されたものである。労働安全衛生法が昭和47年に労基法第5章から独立して制定されたことに伴い第2項が整備され、昭和46年の給特法制定により教育職員に対する読替えが加わった。

現行の第3項が労基法第41条の2と労安法第66条の8の4を掲げているのは、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)によりこれらの規定が新設されたことに対応する整備である。同じ改正で新設された年5日の時季指定義務は労基法第39条第7項に置かれたが、第3項が同条第6項から第8項までを除外しているため職員には及ばない。

令和2年4月1日に施行された会計年度任用職員制度は、本条の条文を動かしたわけではないものの、適用対象者の範囲を大きく変えた改正として位置づけられる。

6-2 令和7年法律第68号による給特法改正

令和7年6月18日に公布された「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律」(令和7年法律第68号)は、本条の読替え構造に実質的な変更を加えた。

同法による改正後の給特法第5条第1項は、読替えの対象となる教育職員から指導改善研修被認定者(教育公務員特例法第25条第1項の認定を受けた者で、同条第4項の認定を受けるまでの間にある者)を除外した。あわせて新設された同条第2項は、指導改善研修被認定者について本条第3項を別の内容で読み替えるものとし、そこでは労基法第37条が適用除外の対象に加えられていない。

結果として、指導改善研修被認定者には教職調整額が支給されない一方、時間外勤務手当が支給されることになる。市町村立学校職員給与負担法第1条にも、この者を時間外勤務手当の負担対象に加える改正が施されている。この部分は令和8年1月1日から施行されており、令和8年4月1日現在すでに効力を有する。同法による教職調整額の引上げ(給料月額の100分の4から段階的に100分の10へ)も同日から始まっている。

なお、本条それ自体については、令和8年4月1日時点で新たな条文改正は行われていない。


7 判例・裁判例

7-1 全農林警職法事件(最大判昭和48年4月25日刑集27巻4号547頁)

公務員も憲法第28条にいう勤労者に当たり労働基本権の保障を受けるとしたうえで、その地位の特殊性と職務の公共性、勤務条件が法律と予算によって定められること、人事院勧告のような代償措置が設けられていることを理由に、労働基本権の制約が許されると判示した。本条第1項が労組法と労調法を全面的に外していることの憲法上の根拠づけは、この判決が示した枠組みに支えられている。

7-2 岩手県教組学力調査事件(最大判昭和51年5月21日刑集30巻5号1178頁)

地方公務員の争議行為を禁止する地公法第37条第1項を合憲とした。判決は、地方公務員についても勤務条件が条例で定められること、人事委員会による勧告制度をはじめとする代償措置が置かれていることを重視している。地方公務員に労働協約締結権を認めない制度設計の合理性を示す判例として、本条第1項の理解に不可欠である。

7-3 白石営林署事件(最大判昭和48年3月2日民集27巻2号191頁)

年次有給休暇の権利は法定要件を満たすことにより法律上当然に発生し、労働者による時季の指定によって具体化するとして、使用者の承認という観念を否定した。労基法第39条第1項から第5項までは本条第3項で除外されていないため、この判断枠組みは地方公務員の年次有給休暇にもそのまま妥当する。休暇簿への記載を「承認」と呼ぶ運用が残る職場は少なくないが、法的性質は承認ではないという点を押さえておきたい。

7-4 埼玉県公立小学校教員時間外勤務手当請求事件

公立小学校の教諭が、時間外勤務に対して労基法所定の割増賃金が支払われないのは違法であるとして、県に対し割増賃金の支払と国家賠償を求めた事案である。第1審のさいたま地方裁判所は令和3年10月1日、給特法の下では超勤4項目以外の時間外勤務について教職調整額のほかに労基法第37条に基づく割増賃金の発生が予定されているとは解されないとして請求を棄却した。もっとも判決は、多くの教員が一定の時間外勤務に従事せざるをえない状況にあることを指摘し、給特法がもはや教育現場の実情に適合していないと付言している。

控訴審の東京高等裁判所は令和4年8月25日にこれを維持し、最高裁判所第二小法廷は令和5年3月8日、上告を棄却するとともに上告受理申立てを受理しない旨の決定をして確定した。

この事件は、本条第3項の読替えという技術的な仕組みが教員の処遇を実際に左右することを可視化した。令和7年法律第68号による教職調整額の引上げと業務量管理・健康確保措置実施計画の義務づけは、この訴訟が提起した課題への立法的応答という側面をもつ。

7-5 地方公営企業等の労働関係に関する法律に関する判例

地方公営企業に勤務する一般職の地方公務員の争議行為を禁止する同法第11条第1項について、最高裁判所は憲法第28条に違反しないと判断している(最判昭和63年12月8日民集42巻10号739頁)。本条が適用されない企業職員についても、争議権は否定されるという結論に変わりがないことを確認しておきたい。


8 実務上の留意点

  • 事業場ごとに適用関係を仕分ける 本条の適否は団体単位ではなく事業場単位で決まる。本庁と市立病院と清掃工場では、三六協定の要否も監督機関も異なる。人事担当課は、自団体の各施設が労基法別表第一のどの号に当たるかを一覧化しておくべきである。
  • 三六協定の失念に注意 別表第一に掲げる事業に当たる事業場で三六協定を締結せずに時間外勤務を命じれば、労基法第32条違反となる。本庁の感覚のまま出先施設を運用すると事故が起きやすい。
  • 年5日の時季指定義務は法的には及ばない 民間向けの説明資料をそのまま職員に適用すると誤りとなる。取得促進は必要であるが、根拠は労基法第39条第7項ではなく各団体の取組である。
  • 解雇予告は適用される 労基法第20条は除外されていない。分限免職を行う場合には30日前の予告か平均賃金30日分以上の予告手当を要する。
  • 安全衛生は第2章だけが外れる 健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェックは非現業職員にも適用される。安全衛生管理体制の規定が外れることと、健康確保措置が不要であることは別問題である。
  • 届出と報告の宛先 非現業の事業場では、1か月単位の変形労働時間制に関する届出や労安法に基づく報告の提出先が労働基準監督署ではなく人事委員会となる。人事委員会を置かない市町村では長が受け付ける。
  • 会計年度任用職員の労働関係法令 労組法と最低賃金法は適用されないが、労基法の大部分と労安法は適用される。公務災害補償は勤務する事業場の性格により労働者災害補償保険法か条例かが分かれる。

9 参考資料

  • e-Gov法令検索「地方公務員法」「労働基準法」「労働安全衛生法」「地方公営企業法」「地方公務員災害補償法」「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」
  • 総務省「地方公務員の働き方について」(ポスト・コロナ期の地方公務員のあり方に関する研究会資料)
  • 文部科学省「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法等の一部を改正する法律を踏まえた政省令の改正、指針の改正及び法施行に向けた留意事項について」(令和7年9月26日)
  • 京都府人事委員会事務局「職員の勤務条件と職場の安全衛生 労働基準法・労働安全衛生法関係事務の手引」(令和6年3月)
  • 茨城県人事委員会「地方公務員法第58条の規定に基づく人事委員会の行う労働基準監督機関の職権行使に関する事務取扱いについて」
  • 会計検査院「平成7年度決算検査報告」(地方公共団体の非常勤職員に対する労働者災害補償保険の適用について)
  • 自治総研「判例報告 埼玉県小学校教員・時間外割増賃金等請求事件」(通巻539号、2023年9月)
  • 中川総合法務オフィス(https://compliance21.com/)

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