一 条文原文

消防法第8条の3(防炎対象物品の防炎性能)

第八条の三 高層建築物若しくは地下街又は劇場、キャバレー、旅館、病院その他の政令で定める防火対象物において使用する防炎対象物品(どん帳、カーテン、展示用合板その他これらに類する物品で政令で定めるものをいう。以下この条において同じ。)は、政令で定める基準以上の防炎性能を有するものでなければならない。

② 防炎対象物品又はその材料で前項の防炎性能を有するもの(第四項において「防炎物品」という。)には、総務省令で定めるところにより、前項の防炎性能を有するものである旨の表示を付することができる。

③ 何人も、防炎対象物品又はその材料に、前項の規定により表示を付する場合及び産業標準化法(昭和二十四年法律第百八十五号)その他政令で定める法律の規定により防炎対象物品又はその材料の防炎性能に関する表示で総務省令で定めるもの(次項及び第五項において「指定表示」という。)を付する場合を除くほか、前項の表示又はこれと紛らわしい表示を付してはならない。

④ 防炎対象物品又はその材料は、第二項の表示又は指定表示が付されているものでなければ、防炎物品として販売し、又は販売のために陳列してはならない。

⑤ 第一項の防火対象物の関係者は、当該防火対象物において使用する防炎対象物品について、当該防炎対象物品若しくはその材料に同項の防炎性能を与えるための処理をさせ、又は第二項の表示若しくは指定表示が付されている生地その他の材料からカーテンその他の防炎対象物品を作製させたときは、総務省令で定めるところにより、その旨を明らかにしておかなければならない。

消防法第9条(火を使用する設備等の規制)

第九条 かまど、風呂場その他火を使用する設備又はその使用に際し、火災の発生のおそれのある設備の位置、構造及び管理、こんろ、こたつその他火を使用する器具又はその使用に際し、火災の発生のおそれのある器具の取扱いその他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は、政令で定める基準に従い市町村条例でこれを定める。

主要な下位法令

消防法施行令第4条の3(防炎防火対象物の指定等)

第四条の三 法第八条の三第一項の政令で定める防火対象物は、別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十二)項ロ及び(十六の三)項に掲げる防火対象物(次項において「防炎防火対象物」という。)並びに工事中の建築物その他の工作物(総務省令で定めるものを除く。)とする。

2 別表第一(十六)項に掲げる防火対象物の部分で前項の防炎防火対象物の用途のいずれかに該当する用途に供されるものは、同項の規定の適用については、当該用途に供される一の防炎防火対象物とみなす。

3 法第八条の三第一項の政令で定める物品は、カーテン、布製のブラインド、暗幕、じゆうたん等(じゆうたん、毛せんその他の床敷物で総務省令で定めるものをいう。次項において同じ。)、展示用の合板、どん帳その他舞台において使用する幕及び舞台において使用する大道具用の合板並びに工事用シートとする。

消防法施行規則第4条の3第1項

第四条の三 令第四条の三第一項の総務省令で定めるものは、次の各号に掲げるもの以外のものとする。

一 建築物(都市計画区域外のもつぱら住居の用に供するもの及びこれに附属するものを除く。)

二 プラットホームの上屋

三 貯蔵槽

四 化学工業製品製造装置

五 前二号に掲げるものに類する工作物

消防法施行令第5条の2第1項第6号(対象火気器具等の取扱いに関する条例の基準)

六 対象火気器具等を、祭礼、縁日、花火大会、展示会その他の多数の者の集合する催しに際して使用する場合にあつては、消火器の準備をした上で使用すること。

消防法施行令第5条の3・第5条の5

第五条の三 前二条又はこれらの規定に基づく総務省令に定める条例制定基準に従つて定められるもののほか、法第九条に基づく条例の規定は、火災の予防に貢献する合理的なものであることが明らかなものでなければならないものとする。

第五条の五 市町村は、法第九条の規定に基づく条例を定める場合において、その地方の気候又は風土の特殊性により、第五条若しくは第五条の二又はこれらの規定に基づく総務省令に定める条例制定基準に従つて定められた条例の規定によつては火災の予防の目的を充分に達し難いと認めるときは、当該条例制定基準に従わないことができる。

出典:e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC1000000186


二 趣旨・立法背景

1 二つの条文の関係

第8条の3は、燃え広がりやすい布製品や合板の性能を国が統一的に定める規定である。第9条は、火を使う設備や器具の扱いを市町村の条例に委ねる規定である。一見すると性格の異なる二条であるが、防炎規制の出発点は第9条型の条例規制にあった。条例による地域ごとの規制から出発し、全国的な火災の教訓を経て法律に引き上げられたのが第8条の3であり、第9条はなお条例の枠組みを維持しつつ、国の基準による拘束を強めてきた。二条を並べて読むと、火災予防法制における国と市町村の役割分担がどのように動いてきたかが見えてくる。

2 防炎規制の条例時代

総務省消防庁の普及用資料「防炎の知識と実際」によれば、防炎規制は昭和23年の東京都火災予防条例が、公衆集合所で可燃性装飾用材料を使用する場合に有効な不燃剤で処理すべきことを定めたことに始まる。昭和26年頃には国家消防庁の火災予防条例準則に防炎規制が盛り込まれた。

昭和30年代には共立講堂火災(昭和31年)、明治座火災(昭和32年)、東京宝塚劇場火災(昭和33年)と、舞台の幕類への接炎着火による火災が相次いだ。昭和36年に自治省消防庁が市町村火災予防条例準則を改正して防炎規制を導入し、各市町村が条例で劇場、映画館、ホテル等のカーテン等の防炎化を義務づけた。昭和37年には工事中の千代田火災ビルで工事用シートが燃える火災が発生し、東京都、札幌市、北九州市が工事用シートの防炎化を条例で規制した。

出典:総務省消防庁「防炎の知識と実際」https://www.fdma.go.jp/relocation/html/life/yobou_contents/fire_retardant/pdf/bouen_01.pdf

3 昭和43年改正による法定化

消防審議会は昭和41年に超高層建物及び地下街の防災対策について答申し、カーテン等の防炎処理に配慮すべきことを示した。昭和43年6月10日法律第95号により第8条の3が新設され、現行第1項と同様の内容の防炎性能義務が法律上の義務となった。施行は昭和44年4月1日であり、施行時に使用中の物品については昭和48年6月30日まで適用が猶予された。

施行直前の昭和44年、磐梯熱海温泉磐光ホテル火災(死者30名)が発生した。舞台上でたいまつの火が幕類に着火したものである。同年の消防法施行令改正(昭和44年政令第18号)により、防炎規制の対象防火対象物、防炎対象物品(カーテン、暗幕、どん帳その他舞台において使用する幕、工事用シート)、防炎性能の基準が定められた。

4 昭和47年改正による防炎表示制度

防炎性能は外観では判別できない。昭和46年の韓国大然閣ホテル火災(死者163名)ではカーペット類が延焼拡大の要因となった。昭和47年6月23日法律第94号により「防炎対象物品」の用語が導入され、現行第2項以下の防炎表示に関する規定が加えられた。第2項・第3項は昭和47年10月1日、第4項・第5項は昭和49年1月1日から施行された。

出典:公益財団法人日本防炎協会「消防法(抄)防炎性能等 沿革注記」https://www.jfra.or.jp/member/pdf/01_hourei_shoubouhou.pdf

その後、昭和53年の新潟市雑居ビル火災(死者11名)を受けて昭和53年政令第363号でじゅうたん等が防炎対象物品に追加され、昭和61年政令第274号で繊維板が除外された。平成12年の規則改正で防炎表示者の消防庁長官登録制度が整備され、平成16年の規則改正で登録確認機関の制度が設けられている。

5 第9条の制定時の構造

昭和23年の制定時、第9条は次のとおりであった。

第九條 かまど、風呂場その他火を使用する設備又はその使用に際し、火災の発生の虞のある設備の位置、構造及び管理、こんろ、こたつその他火を使用する器具又はその使用に際し、火災の発生の虞のある器具の取扱その他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項は、市町村條例でこれを定める。

現行条文との違いは、「政令で定める基準に従い」の文言がないことと、表記の違いのみである。規制の対象と構造は制定時から変わっていない。制定時の法は、同じく市町村条例に委任していた危険物関係の第16条については第43条で罰則を置くことができる旨を明記していたのに対し、第9条の条例については罰則の委任規定を置いていなかった。この差異は現行法にも引き継がれている。

出典:名古屋大学法令データベース「消防法(昭和23年法律第186号)」https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/lawdb/l/323a0186

6 平成13年改正による政令基準の導入

制定から半世紀以上にわたり、第9条の条例は国の法的な基準を持たなかった。全国的な統一は、消防庁長官が示す火災予防条例(例)(昭和36年11月22日自消甲予発第73号)によって事実上図られてきた。これは技術的助言であり、市町村を法的に拘束するものではない。

消防法の一部を改正する法律(平成13年法律第98号、平成13年7月4日公布)は、第9条に「政令で定める基準に従い」を加えた。同法附則第1条第2号により、第9条の改正規定は公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとされた。これに対応して、消防法施行令第5条から第5条の5までが整備され、「対象火気設備等の位置、構造及び管理並びに対象火気器具等の取扱いに関する条例の制定に関する基準を定める省令」(平成14年総務省令第24号、以下「対象火気省令」という)が平成15年1月1日から施行された。

出典:衆議院 制定法律「法律第九十八号(平一三・七・四)」https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/15120010704098.htm 出典:総務省消防庁「『対象火気設備等の位置、構造及び管理並びに対象火気器具等の取扱いに関する条例の基準を定める省令』の概要について」https://www.fdma.go.jp/laws/laws/laws007.html

平成13年という時期は、地方分権一括法(平成11年法律第87号)の施行直後にあたる。分権改革が国の関与を縮小する方向に進む中で、第9条はむしろ市町村条例に対する国の法的拘束を新設した。燃焼機器の技術基準が全国で異なることによる製造・流通上の支障と、地域差のない火災危険への対応が、分権の一般的な方向と異なる選択を正当化したものと解される。


三 文理解釈

1 第8条の3第1項

規制対象となる防火対象物

条文は三つの類型を掲げる。

第一は高層建築物である。定義は第8条の2第1項括弧書の「高さ三十一メートルを超える建築物」による。用途を問わない。したがって高さ31メートルを超える共同住宅の各住戸で使用されるカーテンやじゅうたんも規制の対象となる。

第二は地下街である。定義は第8条の2第1項括弧書による。

第三は政令で定める防火対象物であり、施行令第4条の3第1項が、令別表第一(一)項から(四)項まで、(五)項イ、(六)項、(九)項イ、(十二)項ロ及び(十六の三)項の防火対象物(防炎防火対象物)並びに工事中の建築物その他の工作物(総務省令で定めるものを除く)を定める。(十二)項ロの映画スタジオ・テレビスタジオが含まれるのは、幕類と大道具用合板を多量に用いるためである。

防炎防火対象物には規模要件がない。消防庁の質疑応答は、どのような小さな規模のものでも対象とする旨を示している。学校((七)項)の講堂に設けられる暗幕やどん帳は対象外とされる。

工事中の建築物に関する二重否定

施行令第4条の3第1項は工事中の建築物その他の工作物から「総務省令で定めるもの」を除き、規則第4条の3第1項は「総務省令で定めるもの」を「次の各号に掲げるもの以外のもの」と定める。除外の除外であるから、結果として規制対象となるのは規則第4条の3第1項各号に掲げるもの、すなわち建築物(都市計画区域外の専ら住居の用に供するもの及びこれに附属するものを除く)、プラットホームの上屋、貯蔵槽、化学工業製品製造装置及びこれらに類する工作物である。政令と省令を一方だけ読むと規制範囲を逆に理解するおそれがある規定ぶりである。

複合用途防火対象物

施行令第4条の3第2項により、(十六)項の複合用途防火対象物のうち防炎防火対象物の用途に供される部分は、それぞれ一の防炎防火対象物とみなされる。規制は当該用途部分に限られ、事務所部分などには及ばない。ただし行政解釈は、防炎防火対象物の存する階から避難階までの共用部分のじゅうたん等も規制の対象となるとしている。

防炎対象物品

施行令第4条の3第3項が、カーテン、布製のブラインド、暗幕、じゅうたん等、展示用の合板、どん帳その他舞台において使用する幕、舞台において使用する大道具用の合板、工事用シートの八種を定める。じゅうたん等の範囲は規則第4条の3第2項が定め、じゅうたん、毛せん、タフテッドカーペット等、ござ、人工芝、合成樹脂製床シートなどを含み、毛皮製床敷物や毛製だん通を除く。行政解釈上、おおむね2平方メートル以下の床敷物は対象外とされ、網目寸法12ミリメートルを超える網状のものは工事用シートに該当しないとされる。

防炎性能の基準

施行令第4条の3第4項が残炎時間、残じん時間、炭化面積、炭化長、接炎回数の五つの指標で上限を定め、規則第4条の3第3項以下が物品の種類ごとの具体的数値と試験方法を定める。たとえば薄手布(1平方メートル当たり450グラム以下)では残炎時間3秒以内、残じん時間5秒以内、炭化面積30平方センチメートル以下である。

2 第8条の3第2項

防炎物品に防炎性能を有する旨の表示を付することができる。規則第4条の4第1項により、表示を付する者は消防庁長官の登録を受けた者でなければならず、様式は規則別表第一の二の二に定められ、縫付、ちょう付、下げ札等の方法により防炎物品ごとに見やすい箇所に付する。これが防炎ラベルである。

規則第4条の5は、登録確認機関の確認を受けた場合はその名称を記載し、受けていない場合は自ら確認した旨を記載するものとする。現在、公益財団法人日本防炎協会と一般財団法人日本繊維製品品質技術センターが登録確認機関として登録されている。

3 第8条の3第3項

「何人も」を名宛人とする表示の禁止規定である。正規の防炎表示と指定表示の場合を除き、防炎表示又はこれと紛らわしい表示を付してはならない。指定表示は、産業標準化法その他政令で定める法律(施行令第4条の4により日本農林規格等に関する法律及び家庭用品品質表示法)に基づく表示のうち、消防庁長官が指定したものである。JISに適合する織りじゅうたん、タフテッドカーペット、タイルカーペットに付される難燃表示が指定されている。

違反者は第44条第3号により30万円以下の罰金又は拘留に処せられる。第45条第3号により両罰規定の対象でもある。

4 第8条の3第4項

防炎表示又は指定表示が付されていない物品を防炎物品として販売し、又は販売のために陳列することを禁止する。規制の対象は販売行為であり、名宛人は販売者である。物品が実際に防炎性能を有していても、表示がなければ防炎物品として販売できない。

5 第8条の3第5項

防火対象物の関係者が、防炎処理をさせ、又は表示付きの生地からカーテン等を作製させた場合に、その旨を明らかにしておく義務である。販売行為を経ずに防炎物品が使用者の手に渡る場合には第4項が働かないため、その隙間を埋める規定である。規則第4条の4第9項により、「防炎処理品」又は「防炎作製品」の文字、処理又は作製をした者の氏名又は名称、処理又は作製の年月を明らかにする。

6 第9条

委任の対象

三つの事項が掲げられる。第一は、火を使用する設備又はその使用に際し火災の発生のおそれのある設備の位置、構造及び管理である。第二は、火を使用する器具又はその使用に際し火災の発生のおそれのある器具の取扱いである。第三は、その他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項である。

「使用に際し、火災の発生のおそれのある」の文言により、燃焼を伴わない電気設備や蓄電池設備も対象となる。

対象火気設備等と対象火気器具等

施行令第5条は、第一の事項のうち総務省令で定めるものを対象火気設備等とし、条例制定基準として離隔距離、不燃性の床、延焼防止措置、構造、転倒防止、燃料漏れ防止、異常時の安全装置、点検整備等の11項目を掲げる。施行令第5条の2は、第二の事項のうち総務省令で定めるものを対象火気器具等とし、離隔距離、使用場所、転倒防止、不燃性の床・台、周囲の整理清掃、多数の者の集合する催しでの消火器の準備の6項目を掲げる。

対象火気省令が具体的な種類と基準を定め、炉、ふろがま、温風暖房機、厨房設備、ボイラー、ストーブ、サウナ設備、燃料電池発電設備、変電設備、発電設備、蓄電池設備などが類型化されている。

「政令で定める基準に従い」の意味

条例は政令の基準に従って定めなければならない。基準から逸脱する条例は第9条の委任の範囲を超え、効力を問われうる。ただし施行令自体がいくつかの弾力条項を置いている。

施行令第5条の3は、条例制定基準に従って定められるもののほか、第9条に基づく条例の規定は火災の予防に貢献する合理的なものであることが明らかなものでなければならないとする。政令基準が定めていない事項について市町村が独自に規定を置くことを前提に、その限界を画する規定である。

施行令第5条の4は、消防長又は消防署長が同等以上の安全性を認める場合等に条例の適用を除外する規定を置くよう求める。

施行令第5条の5は、地方の気候又は風土の特殊性により基準に従った条例では火災予防の目的を十分に達し難いと認めるときは、市町村は条例制定基準に従わないことができるとする。


四 用語解説

防炎対象物品:第8条の3第1項括弧書及び施行令第4条の3第3項が定める八種の物品。

防炎物品:防炎対象物品又はその材料で、政令で定める基準以上の防炎性能を有するもの(第8条の3第2項)。

防炎防火対象物:施行令第4条の3第1項が定める用途の防火対象物。高層建築物、地下街、工事中の建築物その他の工作物を含めた規制対象全体とは範囲が異なる。

防炎表示(防炎ラベル):第8条の3第2項の表示。消防庁長官の登録を受けた登録表示者が付する。

指定表示:第8条の3第3項括弧書。産業標準化法等に基づく防炎性能に関する表示のうち消防庁長官が指定したもの。

登録確認機関:規則第4条の5第1項・第4条の6に基づき、防炎性能の確認を行う法人として消防庁長官の登録を受けたもの。

防炎製品:法定の防炎対象物品以外の寝具類、衣服類、テント類等について、日本防炎協会が独自の認定制度により一定の防炎性能を認めたもの。法律上の義務はない。

対象火気設備等・対象火気器具等:施行令第5条・第5条の2が定義する、第9条に基づく条例制定基準の対象となる設備・器具。

条例制定基準:施行令第5条第1項括弧書。第9条に基づく条例の制定に関する基準。

火災予防条例(例):昭和36年11月22日自消甲予発第73号として消防庁長官が示した条例のひな形。技術的助言であり法的拘束力はない。最新版は令和8年1月1日現在のものが消防庁ウェブサイトで公開されている。

指定催し:火災予防条例(例)に基づき、祭礼、縁日、花火大会等の屋外の催しのうち大規模なものとして消防長が指定するもの。主催者に防火担当者の選任や火災予防上必要な業務に関する計画の作成・提出が義務づけられる。


五 改正の経緯と内容

第8条の3

改正法令主な内容
昭和43年法律第95号第8条の3を新設。現行第1項相当の防炎性能義務を規定。昭和44年4月1日施行、使用中物品は昭和48年6月30日まで適用猶予
昭和44年政令第18号対象防火対象物、防炎対象物品(カーテン、暗幕、どん帳その他舞台用幕、工事用シート)、防炎性能基準を制定
昭和47年法律第94号「防炎対象物品」の用語を導入し、防炎表示に関する現行第2項以下を新設。第2項・第3項は昭和47年10月1日、第4項・第5項は昭和49年1月1日施行
昭和47年政令第5号布製ブラインド、展示用・舞台用の合板・繊維板を追加
昭和53年政令第363号じゅうたん等を追加
昭和61年政令第274号繊維板を除外
平成12年自治省令第51号防炎表示者の消防庁長官登録制度を整備
平成16年総務省令第91号登録確認機関の制度を整備
平成30年法律第33号工業標準化法の産業標準化法への改題に伴い、第3項の引用を改める

第9条

改正法令主な内容
昭和23年法律第186号(制定)火を使用する設備・器具等に関する事項を市町村条例に委任。政令基準なし
昭和36年自消甲予発第73号火災予防条例(例)を技術的助言として示す
平成13年法律第98号「政令で定める基準に従い」を追加し、表記を改める
平成14年総務省令第24号対象火気省令を制定。平成15年1月1日施行
平成26年政令改正・消防予第20号(平成26年1月31日)福知山花火大会火災を受け、施行令第5条の2に多数の者の集合する催しでの消火器準備を加え、火災予防条例(例)に露店等の開設届出、指定催しの主催者義務を追加
令和5年総務省令改正(令和5年5月31日公布)対象火気省令の蓄電池設備に係る基準を見直し、リチウムイオン蓄電池設備や大容量化に対応。蓄電池設備の出火防止措置及び延焼防止措置に関する基準(令和5年消防庁告示第7号)を制定

六 法的性格と解釈上の論点

1 第8条の3における罰則の偏在

第8条の3の五つの項のうち、罰則が直接置かれているのは第3項の表示禁止のみである(第44条第3号、両罰規定あり)。

第1項の防炎性能を有する物品の使用義務には罰則がない。規制対象の防火対象物で非防炎のカーテンが使用されていても、それ自体は処罰されない。是正は、第5条の3第1項の物件に関する措置命令、あるいはカーテン等が防火対象物に属する物と評価される場合の第5条第1項の措置命令を経由し、命令違反に対して初めて罰則が働く。

第4項の販売・陳列の禁止にも罰則がない。表示のない物品を「防炎」と称して販売する行為は、商品に紛らわしい表示を付していれば第3項違反となるが、表示を付さずに口頭や広告で防炎物品として販売した場合、第4項違反であっても消防法上の刑事罰は存在しない。販売段階の規制の担保は、主として規則第4条の4第6項に基づく防炎表示者登録の取消しと、登録確認機関によるラベル管理に委ねられている。

第5項の明示義務にも罰則がない。

表示の信頼性という一点に刑罰を集中させ、使用・販売・明示は行政上の手段で担保する構造である。この配置は、防炎性能の有無が外観から判別できない以上、表示の真正性が制度全体の要になるという立法判断を反映している。

2 販売事業者に対する調査権限の欠如

消防庁の質疑応答は、登録防炎表示者に対して法に基づく立入調査権はなく、関係者の承諾を得て実施すべきものとしている。第4条の立入検査は防火対象物の位置、構造、設備及び管理の状況の検査を目的とするものであり、物品の製造・販売事業者の事業場は、その事業場自体が防火対象物として検査の対象となりうるとしても、防炎表示の適正さを調査する権限の根拠にはならない。

製造・流通段階の監督は消防庁長官の登録制度に、使用段階の監督は消防長・消防署長の立入検査に分かれており、両者の間に法定の調査権限の空白がある。

3 高層共同住宅の住戸内における実効性

第8条の3第1項は高層建築物を用途を問わず規制対象とするため、高さ31メートルを超える共同住宅の各住戸で使用するカーテン等も防炎物品でなければならない。

他方、第4条第1項ただし書は、個人の住居への立入りに関係者の承諾を要求する。消防機関は住戸内に原則として立ち入らないため、住戸内の防炎物品の使用状況を検査で確認することはできない。消防庁の資料は、高層共同住宅における防炎物品の使用率が低いという報告があることを認め、居住者への周知不足と消防機関の直接の指導による是正がないことを原因に挙げ、全国火災予防運動を通じた広報に依存している。

法律上の義務が明確に存在するにもかかわらず、立入検査の制限との関係で是正の経路がほぼ存在しない領域である。タワーマンションの増加に伴い、この空白の実務的意味は大きくなっている。

4 防火対象物点検との接続

規則第4条の2の6第1項第5号は、防火対象物点検の点検基準の一つとして、高層建築物・地下街又は令第4条の3第1項・第2項の防火対象物において使用する防炎対象物品に第8条の3第2項、第3項及び第5項の規定に従って表示が付されていることを掲げる。第8条の2の2の点検報告義務のある防火対象物では、防炎表示の有無が年一回の有資格者点検で確認され、報告義務違反には第44条第11号の罰則がある。

第8条の3第1項自体には罰則がないが、点検報告義務の対象となる防火対象物に限っては、点検と報告を通じた間接的な担保が働いている。

5 第9条の条例の三層構造

平成13年改正後の第9条に基づく条例は、次の三層で構成される。

第一層は、施行令第5条・第5条の2及び対象火気省令が定める条例制定基準に従って定める部分である。市町村は基準に従わなければならない。

第二層は、条例制定基準が定めていない事項について市町村が独自に定める部分である。施行令第5条の3により、火災の予防に貢献する合理的なものであることが明らかなものでなければならない。指定催しの主催者に対する防火担当者の選任や計画提出の義務づけ、喫煙・裸火の禁止区域の指定などはこの層に属する。

第三層は、施行令第5条の5に基づき、地方の気候又は風土の特殊性を理由に条例制定基準から離れる部分である。寒冷地における暖房設備の扱いなどが想定される。

消防庁の運用通知(平成26年2月7日消防予第33号)は、多数の者の集合する催しにおける消火器準備の義務について、施行令第5条の2に定める条例制定基準に従い定める必要があるものとしている。同じ福知山花火大会火災を受けた改正でも、消火器準備は第一層、指定催しの主催者義務は第二層に属し、市町村の裁量の幅が異なる。

出典:総務省消防庁 消防予第33号(平成26年2月7日)「改正火災予防条例(例)の運用について」https://www.fdma.go.jp/laws/tutatsu/assets/260207_yo33.pdf

6 第9条の条例の罰則根拠

消防法は、第9条の4に基づく条例(指定数量未満の危険物等)については第46条で30万円以下の罰金を定める旨の規定を設けることができるとしているが、第9条に基づく条例については罰則の委任規定を置いていない。制定時の法でも、危険物関係の第16条条例には第43条で罰則委任があったのに対し、第9条条例にはなかった。

したがって第9条に基づく火災予防条例の罰則は、地方自治法第14条第3項を根拠とする。同項は、条例に違反した者に対し2年以下の拘禁刑、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができるとする。火災予防条例(例)は多くの規定について30万円以下の罰金を置いており、各市町村もこれに倣うことが多い。

消防法本体の罰則体系と条例の罰則体系が別の根拠に立っていることは、条文だけからは読み取りにくい。

7 条例と法律の関係

第9条に基づく条例は法律の委任に基づく条例であるが、同時に地方自治法第14条第1項に基づく自治立法でもある。法律と条例の抵触の判断については、最大判昭和50年9月10日(徳島市公安条例事件)が、両者の対象事項と規定文言を対比するだけでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによって決すべきであるとした枠組みが妥当する。

第9条は、施行令第5条の3及び第5条の5という形で、条例による上乗せ・横出しと基準からの離脱の条件を法令自体に書き込んでいる。徳島市公安条例事件の判断枠組みを立法段階で具体化したものと評価できる。


七 裁判例

1 第8条の3に関する裁判例の不在

第8条の3の解釈を正面から扱った公刊裁判例は見当たらない。第1項・第4項・第5項に罰則がなく、第3項違反の事件も罰金又は拘留にとどまるため、公刊される裁判例に結びつきにくい。解釈の実質的な蓄積は、昭和44年以降の消防庁の質疑応答に集中している。

実務上参照されている主な行政解釈は次のとおりである。カーテンは窓に設けられるものに限らず間仕切り用のものも規制対象となる。布製のつい立、布製のアコーデオンドア、のれんもカーテンとして扱われる。壁に沿って下げるカーテンは対象となるが、壁に張り付けて仕上げ材料となるものは対象とならない。防炎防火対象物の屋上に敷かれた人工芝も対象となる。エレベーター内の敷物も原則として対象となる。

出典:総務省消防庁「防炎の知識と実際」第4章「質疑応答」https://www.fdma.go.jp/relocation/html/life/yobou_contents/fire_retardant/pdf/bouen_01.pdf

2 福知山花火大会露店火災事件(京都地裁、平成26年)

平成25年8月15日、京都府福知山市の由良川河川敷で開催された花火大会の会場で、露店の店主が発電機に給油しようとガソリン携行缶の蓋を開けたところ、噴出したガソリンが引火して爆発的に燃焼し、死者3名、負傷者多数の被害が生じた。店主は業務上過失致死傷罪等で起訴され、京都地裁は禁錮5年の判決を言い渡した。

刑事事件としては露店主の注意義務違反が問われたものであるが、行政法上は第9条に基づく条例規制の再設計の契機となった。消防庁は平成26年1月31日付け消防予第20号で火災予防条例(例)を改正し、多数の者の集合する催しで対象火気器具等を使用する場合の消火器の準備、露店等の開設届出、指定催しの主催者による防火担当者の選任と火災予防上必要な業務に関する計画の作成・提出を盛り込んだ。各市町村は平成26年中に条例を改正しており、たとえば岐阜市は平成26年6月30日、上尾市は同年8月1日、笠間市は同年10月1日から施行している。

屋外の催しは建築物ではないため、第8条の防火管理や第17条の消防用設備等の規制が及ばない。第9条の「その他火の使用に関し火災の予防のために必要な事項」という包括的な委任が、この空白を条例で埋める根拠として機能した事例である。

3 条例による罰則の合憲性(最大判昭和37年5月30日)

大阪市売春取締条例事件において最高裁大法廷は、条例は地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって公選の議員で組織される議会の議決を経て制定されるものであるから、法律の授権が相当な程度に具体的であり限定されていれば、条例によって刑罰を定めることができるとした。

第9条に基づく火災予防条例の罰則は、前述のとおり地方自治法第14条第3項を根拠としており、同判決の枠組みの下で合憲性が支えられている。

4 法律と条例の抵触判断(最大判昭和50年9月10日)

徳島市公安条例事件判決は、前記六7のとおり、法律と条例の抵触を趣旨・目的・内容・効果の比較によって判断する枠組みを示した。第9条に基づく条例が政令の条例制定基準を超えて独自の規定を置く場合、あるいは第5条の5に基づいて基準から離脱する場合に、その適法性を判断する基準となる。


八 実務上の留意点

1 防炎規制の対象となるかの判定

高さ31メートルを超えるか、地下街か、防炎防火対象物の用途に該当するか、工事中の建築物等に該当するかを順に確認する。防炎防火対象物には規模要件がないため、小規模な飲食店や診療所でも対象となる。複合用途防火対象物では、防炎防火対象物の用途部分と、その階から避難階までの共用部分が対象となる。

学校の講堂や体育館は(七)項であれば対象外であるが、体育館で演芸等の催しを行う場合は(一)項に該当しうるとの行政解釈がある。用途の判定を先に確定させる。

2 防炎ラベルの確認

立入検査では、防炎対象物品ごとに防炎ラベルの有無を確認する。カーテン類は洗濯により防炎性能が失われるものがあるため、ラベルに記載された耐洗たく性能の区分(水洗い可、ドライクリーニング可、洗濯後要再処理)を確認し、洗濯履歴との整合を確かめる。再処理が必要なものを洗濯後にそのまま使用している場合は、防炎性能が失われている可能性がある。

じゅうたん等をウォール・ツー・ウォールで施工した場合は施工用ラベルを表面に打ち付けて表示し、大部屋で同一試験番号のものを使用する場合は主要な出入口に1個の施工用ラベルで足りるとされている。幅木や壁面への表示は認められない。

3 自家縫製・後加工の扱い

防炎表示付きの生地を購入して自ら縫製した場合や、非防炎のカーテンを専門業者に防炎処理させた場合は、第5項に基づき「防炎処理品」又は「防炎作製品」の文字、処理・作製をした者の氏名又は名称、処理・作製の年月を明らかにする。登録表示者でない者が防炎ラベルを貼付することは認められない。インテリア業者が縫製してラベルを付す場合は、その業者自身が登録表示者である必要がある。

4 高層共同住宅への対応

消防機関は住戸内の検査ができないため、管理組合やマンション管理会社を通じた周知が現実的な手段となる。新築時の入居説明、管理規約・使用細則への記載、共用部分の掲示などにより、防炎物品の使用義務を居住者に周知する。販売店側でも、高層マンション居住者に対して防炎物品を勧める体制が望ましい。

5 工事現場の工事用シート

工事中の建築物等では、立ち上がった状態で使用する工事用シートが防炎対象物品となる。コンクリートの養生や工事用機械の覆いとして使うものは含まれない。網目寸法12ミリメートル以下の網状のものは工事用シートに該当する。建設会社は、仮設計画段階で防炎ラベル付きのシートを調達するよう発注仕様に明記する。

6 火災予防条例の確認

第9条に基づく具体的な規制は市町村の火災予防条例にある。国の法令だけを確認しても、厨房設備の離隔距離、ボイラーの設置場所、蓄電池設備の基準、屋外催しでの露店の届出などの具体的な義務は把握できない。事業所が所在する市町村の条例を必ず確認する。

火災予防条例(例)は令和8年1月1日現在のものが消防庁から公開されており、多くの市町村条例の構成はこれに準拠している。条文番号も概ね共通であるため、他の市町村の条例を参照する際の手がかりになる。

7 設置届出

多くの火災予防条例は、一定規模以上の対象火気設備等(厨房設備、ボイラー、変電設備、発電設備、蓄電池設備等)を設置しようとする者に対し、工事着手前に消防長又は消防署長への届出を求めている。届出の期限や対象設備は条例ごとに異なる。

8 蓄電池設備の新基準

令和5年5月31日公布の対象火気省令等の改正により、蓄電池設備に係る条例制定基準が見直された。従来の基準が主として開放形鉛蓄電池設備を想定していたのに対し、リチウムイオン蓄電池設備など新たな蓄電池設備や大容量化に対応するものである。あわせて蓄電池設備の出火防止措置及び延焼防止措置に関する基準(令和5年消防庁告示第7号)が制定された。太陽光発電と組み合わせた蓄電池の設置が増えている現状では、設置届出の要否と基準適合を所轄消防本部に確認する必要性が高まっている。

出典:総務省消防庁「消防法施行規則及び対象火気設備等の位置、構造及び管理並びに対象火気器具等の取扱いに関する条例の制定に関する基準を定める省令の一部を改正する省令(案)等に対する意見公募の結果及び改正省令等の公布」https://www.fdma.go.jp/pressrelease/houdou/items/230531_yobou.pdf

9 屋外イベントの主催者

祭礼、縁日、花火大会、展示会その他の多数の者の集合する催しで対象火気器具等を使用する場合は消火器の準備が必要であり、露店等を開設する場合は届出が必要となる。大規模な屋外催しで消防長が指定したもの(多くの市町村で露店等が100店舗を超えるものなどを要件とする)の主催者は、防火担当者を選任し、火災予防上必要な業務に関する計画を作成して消防機関に提出しなければならない。計画を提出しない主催者に30万円以下の罰金を定める市町村もある。近親者によるバーベキューなど相互に面識のある者の催しは対象外とされる。


参考文献・資料


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