1 前回からのつながり

第1回では、令和8年法律第45号・第46号の全体像を示した。成年後見については後見と保佐が廃止され、補助に一元化される。遺言については保管証書遺言が創設され、押印が任意化される。成年後見の部分は公布(令和8年6月24日)から2年6月を超えない範囲で政令が定める日に施行される。

今回から条文の中身に入る。最初に読むべきは民法第7条である。この条文は、制度の入口をどこに置くかを決めている。ここが変わったために、その後ろにある第8条から第12条まで、第876条以下、家事事件手続法、任意後見契約法、そして61本の関係法律が連鎖的に組み替わった。


2 条文原文

2-1 改正後民法第7条

(補助開始の審判) 第7条 精神上の理由により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助開始の審判を請求することができる者として公正証書によって本人の指定した者又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。

2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。ただし、本人がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。

3 補助開始の審判は、第9条第1項若しくは第10条第1項の規定による審判のいずれか又は第11条第1項の規定による審判をする必要がある場合において、これらの審判と同時にしなければならない。

4 補助開始の審判を受けた者に、補助人を付する。

2-2 現行民法第7条(改正により削られる)

(後見開始の審判) 第7条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

2-3 現行民法第15条(改正後第7条に引き継がれる)

(補助開始の審判) 第15条 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。

2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。

3 補助開始の審判は、第17条第1項の審判又は第876条の9第1項の審判とともにしなければならない。

条文の位置に注意していただきたい。改正後の第7条は、旧第15条の中身を第7条の場所へ移したものである。旧第7条の内容(後見開始)は、どこにも残っていない。第7条から第19条までが一括して差し替えられ、旧第8条から第14条まで(成年被後見人、被保佐人、保佐人の同意を要する行為など)と旧第19条(審判相互の関係)は姿を消した。


3 趣旨・立法背景

3-1 なぜ入口を一つにしたのか

現行法は、本人の事理弁識能力の程度によって、利用できる制度が自動的に決まる仕組みを採る。能力を欠く常況なら後見、著しく不十分なら保佐、不十分なら補助である。旧第15条第1項ただし書が「第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については、この限りでない」と定めていたのは、この振り分けを法律のレベルで固定するためであった。能力が低い人ほど、補助を選ぶ余地がなかった。

その結果として何が起きたか。令和7年12月末時点の利用者数は、後見18万0828人、保佐5万8162人、補助1万8078人である(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」)。利用者の約7割が後見に集中し、包括的な代理権と取消権を持つ後見人が付いていた。

法務省民事局の説明資料は、この構造の問題を次のように整理している。利用のきっかけは遺産分割や不動産の売却といった限定的な事務であることが多い。それにもかかわらず、能力を欠く常況と認定されると、生活のあらゆる場面に及ぶ包括的な権限を持つ後見人が付く。利用動機に比べて自己決定が必要以上に制限される。

改正法は、この振り分け自体をやめた。事理弁識能力が不十分であれば、程度を問わず補助の入口に入る。そのうえで、本人に必要な行為について、第9条(同意を要する旨の審判)、第10条(特定補助人を付する旨の審判)、第11条(代理権の付与)のいずれかを個別に設定する。能力の程度は入口の要件ではなく、第10条の特定補助人を選べるかどうかという場面で意味を持つにとどまる。

3-2 審議の経過

令和6年2月、法務大臣から法制審議会に諮問がされた。同年4月から民法(成年後見等関係)部会が調査審議を開始し、令和8年2月に法制審議会が要綱を取りまとめて答申した。同年4月に法律案が閣議決定され、6月に参議院本会議で可決・成立し、6月24日に公布された。

法律案の提出理由は「後見及び保佐の制度の廃止並びに補助の制度の適用範囲の拡大、事理を弁識する能力を欠く常況にある者についての補助の制度の特例の創設、任意後見契約と補助の制度との関係の見直し等」と述べる。第7条は、この「適用範囲の拡大」を条文の形にしたものである。


4 第1項の解説

4-1 「精神上の障害」から「精神上の理由」へ

原因の表現が「精神上の障害」から「精神上の理由」に改まった。同じ言い換えは、任意後見契約に関する法律第2条第1号、第5条第1項にも及んでいる。

これは要件を緩めたり厳しくしたりするための改正ではない。「障害」という語が、障害者手帳の対象となるような状態だけを指すかのように受け取られやすかった点への手当てである。認知症、知的障害、精神障害、脳の器質的な変化による判断力の低下など、精神の働きに起因して判断能力が十分でなくなっている状態が広く含まれる。身体の不自由だけでは対象にならない点も従来と変わらない。

4-2 「事理を弁識する能力が不十分」という唯一の入口

改正後の第7条第1項は「事理を弁識する能力が不十分である者」とだけ定め、旧第15条第1項のただし書を置かない。能力を欠く常況にある人も、著しく不十分な人も、この文言に当てはまる。

つまり、施行後は次のようになる。

  • 判断能力に問題がある人が制度を使うときの入口は、補助開始の審判ひとつになる
  • 能力の程度は、第10条の特定補助人を付する旨の審判を選択できるかどうかの場面で問題になる
  • 能力の程度によって、付与される権限の広さが自動的に決まることはなくなる

診断書に「事理弁識能力を欠く常況」と書かれていても、家庭裁判所がすることは補助開始の審判である。ここは説明の際に最も誤解が生じやすいところである。

4-3 申立権者の入れ替え

旧第7条と改正後第7条第1項を並べると、次の違いが出る。

現行第7条(後見開始)改正後第7条第1項(補助開始)
本人
配偶者
四親等内の親族
未成年後見人・未成年後見監督人
保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人制度廃止により消滅
公正証書によって本人が指定した者×○(新設)
検察官

保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人が落ちたのは、後見・保佐が廃止され、類型間の移行という発想がなくなったためである。旧第19条(審判相互の関係)が削除されたのも同じ理由による。

「未成年後見人」「未成年後見監督人」は、旧法の「未成年後見人」「未成年後見監督人」と実質的に同じである。改正法は第4編第5章の見出しを「後見」から「未成年後見」に改め、成年に関する後見を民法から取り去った。

4-4 公正証書によって本人が指定した者

改正の目玉のひとつが、この申立権者である。

本人があらかじめ公証人の面前で、特定の人を「補助開始の審判を請求することができる者」として指定しておく。その人は、親族でなくてもよい。指定の方式は第8条が定めており、本人が公証人に口授し、公証人法の定めに従って公正証書を作成する。口がきけない者については、通訳人の通訳による申述または自書で口授に代えることができる(第8条第3項)。

なぜ必要とされたのか。単身世帯が増え、親族が遠方にいる、あるいは親族がいないという人が増えている。従来の申立権者は本人・配偶者・四親等内の親族・検察官などに限られており、日常的に本人の状態を把握している人、たとえば友人、支援者、かかりつけの専門職には申立権がなかった。判断能力が落ちてきても誰も動けないという事態が現に生じている。

同じ発想の規定は任意後見契約に関する法律にも入った。改正後の同法第5条第1項は、任意後見開始の審判の請求権者に「任意後見開始の審判を請求することができる者として公正証書によって本人の指定した者」を加え、第6条で民法第8条を準用する。あわせて、改正後の戸籍法第87条第2項は、死亡の届出をすることができる者に「補助開始の審判又は任意後見開始の審判を請求することができる者として公正証書によつて本人の指定した者」を加えた。

元気なうちに一枚の公正証書を作っておくことで、判断能力が落ちた場面の手続を動かせる人を自分で選んでおける。この仕組みは、いわゆるおひとりさまの生前対策として、遺言・任意後見契約・死後事務委任契約と並ぶ選択肢になる。

4-5 市町村長の申立て

第7条には現れないが、市町村長の申立権は関係法律の側に置かれている。整備法(令和8年法律第46号)は、次の三本の条文を改めた。

  • 老人福祉法第32条 65歳以上の者について、民法第7条第1項、第9条第1項、第10条第1項もしくは第3項または第11条第1項に規定する審判の請求
  • 知的障害者福祉法第28条 知的障害者について、同じ範囲の請求
  • 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2 精神障害者について、同じ範囲の請求

現行法では「民法第7条、第11条、第13条第2項、第15条第1項、第17条第1項、第876条の4第1項又は第876条の9第1項」という長い列挙だったものが、補助の体系に沿って整理された。市町村長は補助開始の審判だけでなく、特定補助人を付する旨の審判や代理権付与の審判も請求できる。

あわせて、老人福祉法第32条の2、知的障害者福祉法第28条の2、精神保健福祉法第51条の11の3が、市町村による補助の担い手の育成・推薦の努力義務を定める形に改まった。障害者総合支援法第77条第1項第5号の市町村地域生活支援事業も「後見、保佐及び補助」から「補助」に整理されている。

4-6 任意後見契約があるときの制約

任意後見契約が登記されている場合には、別の条文が働く。改正後の任意後見契約法第14条第1項は、家庭裁判所は本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り補助開始の審判をすることができる、と定める。同条第2項により、その場合の請求は、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人(任意後見人が欠けたことにより契約が終了した時に任意後見監督人であった者で、終了の日から1年を経過していない者を含む)、または同法第5条第1項の公正証書によって本人が指定した者もすることができる。

本人が自ら選んだ受任者による支援を優先するという考え方である。ただし現行法と決定的に違う点がある。現行任意後見契約法第10条第3項は、任意後見監督人が選任された後に本人が後見開始の審判等を受けたときは任意後見契約が終了すると定めていたが、この規定は削られた。改正後は、補助を開始しても任意後見契約は存続する。権限の重複は、補助人に付与する代理権の範囲を適切に設定することで避けることを基本とし、調整が必要な場合には契約の一部解除(同法第13条)で対応する。


5 第2項の解説 本人の同意

5-1 規律の内容

本人以外の者が請求するときは、本人の同意が要る。旧第15条第2項と同じ考え方であり、本人の意思に反して支援の枠組みを押しつけないという補助制度の基本を維持している。

5-2 新設されたただし書

旧第15条第2項には、ただし書がなかった。改正後の第7条第2項には「ただし、本人がその意思を表示することができない場合は、この限りでない」が加わっている。

この一文がなければ制度は動かない。補助の対象に、これまで後見の対象だった「事理弁識能力を欠く常況にある者」が含まれることになったからである。意識障害が続いている、重度の認知症で意思疎通ができないといった場合に、同意を得られないことを理由に申立てを却下していては、必要な支援が届かない。

「意思を表示することができない場合」は、同意を拒んでいる場合とは違う。本人が反対の意思を示しているのであれば、意思を表示できているのだから、ただし書は働かない。この場合、家庭裁判所は補助開始の審判をすることができない。

同じ構造のただし書は、第9条第3項(同意を要する旨の審判をする場合)にも置かれている。

5-3 手続の裏づけ

家事事件手続法第120条第1項第1号は、補助開始の審判をする場合に、補助開始の審判を受ける者となるべき者の陳述を聴かなければならないと定める。ただし書は「その者の精神上の理由によりその者の陳述を聴くことができないとき」を除外する。同意の有無は、この陳述聴取の場で確認されることになる。

家事事件手続法第118条第1項第1号により、補助開始の審判事件では本人は法定代理人によらずに自ら手続行為をすることができる。第121条第1号により、補助開始の申立ては、審判前であっても家庭裁判所の許可がなければ取り下げられない。申し立てた側の都合で手続を打ち切り、本人の保護を宙に浮かせることを防ぐ趣旨である。


6 第3項の解説 他の審判との同時性

6-1 「補助開始だけ」の審判は存在しない

第3項は、補助開始の審判を単独ですることを許さない。次のいずれかと同時にしなければならない。

  • 第9条第1項 補助人の同意を要する旨の審判(本人が同意なくした行為は取消可能になる)
  • 第10条第1項 特定補助人を付する旨の審判(法定の重要な財産行為をいずれも取消可能とする)
  • 第11条第1項 補助人に代理権を付与する旨の審判

第9条と第10条は「いずれか」と書かれている。取消しの仕組みは、個別列挙型(第9条)か包括型(第10条)のどちらか一方しか選べない。両者を並立させることはできない。第9条第6項は、同意を要する旨の審判をする場合に第10条第1項の審判があるときは、家庭裁判所はその審判を取り消さなければならないと定めており、切替えの規律を置いている。

これに対し、第11条の代理権付与は、第9条または第10条と組み合わせることができる。「第9条第1項若しくは第10条第1項の規定による審判のいずれか又は第11条第1項の規定による審判をする必要がある場合」という書きぶりは、この組み合わせの自由を許すためのものである。

6-2 現行法との違い

旧第15条第3項も、補助開始の審判は旧第17条第1項(同意を要する旨の審判)または旧第876条の9第1項(代理権付与)とともにしなければならないと定めていた。同時性の考え方そのものは維持されている。変わったのは選択肢に第10条(特定補助人)が加わったことである。

6-3 実務上の意味

申立ての段階で「何をしてほしいのか」を具体的に決めておかなければ手続が進まない、ということである。遺産分割をしたいのか、自宅を売りたいのか、施設の入所契約を結びたいのか、不利な契約を取り消せるようにしたいのか。目的が特定されて初めて、どの審判を同時に求めるかが決まる。

このため申立書の準備は、現行の後見開始の申立てとは性質が変わる。後見開始であれば「包括的な代理権」を求めれば足りたが、補助では権限の中身を設計しなければならない。ここが専門家の関与する余地の大きいところである。


7 第4項の解説 補助人を付する

7-1 条文の位置づけ

第4項は、補助開始の審判を受けた者に補助人を付すると定める。現行第8条が「後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する」としていたのに対応する。

目を引くのは、本人を指す略称が置かれなかったことである。現行法の「成年被後見人」「被保佐人」「被補助人」に相当する語がない。改正後の条文は一貫して「補助開始の審判を受けた者」と書き下す。第10条第1項の審判を受けた者についても「特定補助人を付する処分の審判を受けた者」と表現される。呼称が本人に貼りつくラベルとして働いてきたことへの見直しであり、整備法による61本の関係法律の改正も、この書き換えに費やされた部分が大きい。

第876条は「補助は、補助開始の審判によって開始する」と定める。開始原因を後見の章から独立させ、第6章を丸ごと「補助」の章とした。

7-2 誰が補助人になるのか

補助人の選任は第876条の2が定める。家庭裁判所は補助開始の審判をするときに職権で補助人を選任する(同条第1項)。

考慮要素を定める同条第4項に注目していただきたい。

補助人を選任するには、補助開始の審判を受けた者(補助開始の審判を受ける者となるべき者を含む。)の意見、心身の状態並びに生活及び財産の状況、補助人となる者の職業及び経歴並びに補助開始の審判を受けた者との利害関係の有無(補助人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と補助開始の審判を受けた者との利害関係の有無)その他一切の事情を考慮しなければならない。

現行第843条第4項では、成年被後見人の意見は列挙の末尾に置かれていた。改正後は「意見」が冒頭に移されている。条文の順序であって効力の優劣を定めるものではないが、選任における本人の意向の位置づけを示す改正であることは読み取れる。

これと対をなすのが第876条の11である。補助人は事務を行うに当たり、本人の心身の状態に応じて情報の提供をし、陳述を聴取するなどの適切な方法により、事務に関する本人の意向を把握しなければならない(第1項)。そのうえで、把握した意向を尊重し、心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない(第2項)。現行第858条が「意思を尊重し」とだけ定めていたのに比べ、意向を把握するための行為が義務の内容として書き込まれた。

なお、第10条第1項の審判を受けた者について新たに補助人を選任するときは、家庭裁判所は職権で補助人を特定補助人と定める(第876条の2第5項)。


8 手続はどう動くか

民法第7条を実際に使うときに働く家事事件手続法の規定を、順を追って挙げる。

管轄(第117条第1項) 補助開始の審判事件は、補助開始の審判を受ける者となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる。補助開始後の各種審判は、補助開始の審判をした家庭裁判所の管轄となる(同条第2項)。

医師の意見(第119条第1項) 家庭裁判所は、補助開始の審判を受ける者となるべき者の精神の状況につき医師その他適当な者の意見を聴かなければ、補助開始の審判をすることができない。鑑定は要求されていない。

鑑定が要求されるのは第10条の特定補助人を付する処分の審判の場合である(同条第2項)。ただし医師二人以上の意見を聴いて明らかに必要がないと認めるときは鑑定を要しない。現行法では後見開始の審判について「明らかにその必要がないと認めるとき」を除いて鑑定が必要とされていたのに対し、改正後は医師二人以上の意見という手順が加わる。

陳述および意見の聴取(第120条) 本人の陳述を聴かなければならない(第1項第1号)。補助人となるべき者の意見も聴かなければならない(第2項第2号)。また、第3項により、家庭裁判所は市町村長その他適当な者に対し、本人の心身の状態、生活の状況その他必要な事項に関する意見を求めることができる。この列挙には第9条・第10条・第11条の各審判および補助人の選任の審判が含まれている。補助開始の審判は第3項の列挙に挙がっていないが、第7条第3項によりこれらの審判と必ず同時にされるから、実際には照会の対象になる。

告知(第122条第1項第1号) 補助開始の審判は、第876条の2第1項により補助人に選任される者に告知しなければならない。

即時抗告(第123条第1項第1号、第2項) 補助開始の審判に対しては、民法第7条第1項および任意後見契約法第14条第2項に規定する者(申立人を除く)が即時抗告をすることができる。抗告期間は、本人が審判の告知を受けた日と補助人に選任される者が告知を受けた日のうち最も遅い日から進行する(特定補助人を付する処分の審判と同時にされる場合を除く)。申立てを却下する審判に対しては申立人が即時抗告できる(同項第2号)。

審判前の保全処分(第126条) 補助開始の申立てがあった場合に、本人の生活、療養看護または財産の管理のため必要があるときは、申立てまたは職権で、財産の管理者を選任し、または関係人に指示をすることができる(第1項)。補助開始および同意を要する行為の定めの申立てがあり、財産の保全のため特に必要があるときは、審判が効力を生ずるまでの間、財産の管理者の補助を受けることを命ずることができる(第2項、補助命令の審判)。この命令があると、本人および財産の管理者は、管理者の同意を得ないでした財産上の行為を取り消すことができる(第11項)。

申立ての手数料 整備法により、民事訴訟費用等に関する法律の別表第一に「二九の二」の項が新設され、家事事件手続法別表第一の一の項(補助開始)の審判の申立ての手数料は3300円(電子情報処理組織を使用する方法による申立てをする場合は2900円)と定められた。

登記手数料の納め方も変わる。後見登記等に関する法律第11条に第3項以下が加えられ、補助に関する審判事件の申立てをする者は、申立て時に登記手数料を裁判所に納めることとされた。額は政令で定まる。この手数料は申立ての手数料とみなされる(同条第4項)。登記の嘱託がされないまま事件が終了したときは、申立てにより還付される(同条第5項)。従来のように登記手数料分の収入印紙を別に用意して後から納める運用ではなくなる。

このほかに郵便料と、鑑定を要する場合の鑑定費用がかかる。


9 用語解説

事理を弁識する能力 自分のする行為が法律上どのような結果をもたらすかを理解し、判断する能力をいう。日常会話の受け答えができるかどうかではなく、契約や財産処分の意味を理解できるかどうかで測られる。

不十分/著しく不十分/欠く常況 現行法が置いていた三段階の区分である。改正後の第7条第1項の要件は「不十分」だけであり、この三段階が制度の振り分けに使われることはなくなる。「欠く常況」は第10条第1項で特定補助人を選べるかどうかの要件として残る。

意思能力 個々の法律行為をする時点で、その行為の意味を理解できる能力をいう。民法第3条の2は、意思能力を有しなかったときの法律行為は無効と定める。補助開始の審判を受けているかどうかとは別の問題であり、審判を受けていない人がした契約でも、その時点で意思能力を欠いていれば無効になる。

制限行為能力者 改正後の第9条第2項第11号は「未成年者及び前項又は次条第1項の規定による審判を受けた者」と定義する。補助開始の審判を受けただけでは制限行為能力者にならない。第9条第1項の同意を要する旨の審判または第10条第1項の特定補助人を付する旨の審判を受けて初めてこれに当たる。

特定補助人 第10条第1項の審判により付される補助人をいう。本人が事理弁識能力を欠く常況にあり、かつ必要があると認められる場合に選択できる。法定の重要な財産行為について包括的な取消権を持つ一方、代理権は当然には持たない。

補助監督人 第876条の7により、家庭裁判所が必要と認めるときに選任される。本人・親族・補助人の請求または職権による。補助人の配偶者、直系血族、兄弟姉妹は補助監督人になれない(第876条の8)。


10 判例・裁判例

第7条の要件を直接扱った最高裁の判断はまだない。改正の背景を理解するうえで参照すべき裁判例を挙げる。

大判明治38年5月11日(民録11輯706頁) 意思能力を欠く状態でされた法律行為は無効であるとした。行為能力の制度と意思能力の制度が別物であることを示す出発点であり、現在は民法第3条の2に明文化されている。補助開始の審判を受けていない高齢者の契約でも、締結時に意思能力を欠いていれば無効を主張できる。逆に、審判を受けていても、取消しの対象とされていない行為は行為能力の制限では取り消せず、意思能力の問題として争うことになる。

最判昭和44年2月13日(民集23巻2号291頁) 制限行為能力者が能力者であることを信じさせるため「詐術」を用いたときは取消しができないとする規定(現行第21条)について、単に能力者であると黙秘していただけでは詐術に当たらないが、他の言動と相まって相手方を誤信させ、または誤信を強めたときは詐術に当たると判示した。補助人の同意を要する旨の審判を受けた本人が、その事実を隠して契約した場面で問題になる。改正後も第21条は維持されており、判断枠組みはそのまま働く。

東京地判平成25年3月14日 成年被後見人の選挙権を一律に制限していた公職選挙法の規定を憲法に違反すると判断した。この判決を受けて同年に公職選挙法が改正され、成年被後見人の選挙権が回復された。後見類型に付随していた資格制限や欠格条項が本人の権利をどこまで奪ってよいのかという問題意識は、今回の一元化の背景にある考え方と重なる。

最判平成28年3月1日(民集70巻3号681頁) 認知症の高齢者が線路に立ち入り事故が発生した事案で、民法第714条の法定の監督義務者の範囲が争われた。成年後見人であることだけから直ちに法定の監督義務者に当たるとはいえないとし、生活状況や介護の実態などの事情を総合して、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があるかを判断すべきものとした。補助人になることを親族が躊躇する最大の理由が責任の不安であることを踏まえると、権限の範囲が特定される新制度のもとで、この判断枠組みがどう働くかは今後の論点になる。


11 実務の予想事例

事例1 遺産分割のためだけに使いたい

父が亡くなり、相続人は母と子2人。母は中等度の認知症で、遺産分割協議の意味を理解することが難しい。自宅は父名義で、預貯金の名義変更も止まっている。

現行法では、母の状態が「事理弁識能力を欠く常況」と診断されれば後見開始の審判となり、成年後見人が包括的な代理権と取消権を持つ。遺産分割が終わっても後見は続き、母が亡くなるまで報告義務と報酬が発生する。

改正後は、補助開始の審判と同時に第11条第1項の代理権付与の審判を求め、代理権の範囲を「本件相続に関する遺産分割協議、相続財産の名義変更手続その他これらに付随する行為」といった形で特定する。取消権は不要なら求めない。分割が終わり利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、第12条により制度利用を終了できる。

母の状態が能力を欠く常況にあると認定される場合でも、第10条の特定補助人を選ばなければ、包括的な取消権は生じない。ここが従来との最大の違いである。

事例2 施設入所と自宅の売却

一人暮らしの叔母が転倒して入院し、退院後は施設に入ることになった。施設の入所契約、費用の支払、空き家となる自宅の売却が必要である。叔母は日によって受け答えが変わり、契約の内容を理解できていない。

代理権付与の対象として、施設入所契約の締結、預貯金の管理と払戻し、自宅不動産の売却を挙げる。あわせて、訪問販売やリフォーム契約で被害に遭うおそれがあれば、第9条第1項の同意を要する旨の審判を求め、第9条第2項各号のうち必要な号を選ぶ。第4号(居住用建物の大修繕に関する工事の請負契約その他の重要な役務の提供に関する契約)は、リフォーム被害を想定した規定である。

なお、居住用不動産の処分については第876条の13により家庭裁判所の許可が別途必要になる。代理権が付与されているだけでは足りない。

事例3 本人が反対している

兄が高額な投資商品の勧誘を繰り返し受けており、判断力の低下がうかがえる。妹が補助開始の申立てを検討しているが、兄は「自分は正常だ」と言って制度の利用を拒んでいる。

第7条第2項本文により、本人以外の者の請求には本人の同意が要る。兄が意思を表示できる以上、ただし書は働かない。同意が得られなければ、家庭裁判所は補助開始の審判をすることができない。

この場面で採りうる手立ては、制度の外にある。日常生活自立支援事業の利用、金融機関への申出、消費生活センターへの相談、地域包括支援センターとの連携などである。あわせて、任意後見契約や第8条の公正証書による指定を、本人が納得できる形で提案する道もある。時間をかけて本人の理解を得るほかない。

事例4 おひとりさまの事前準備

70代の独身男性。きょうだいは既に亡く、甥や姪とは疎遠である。判断能力が落ちたときに誰が動いてくれるのかという不安がある。

改正後は、次の組み合わせが考えられる。

  • 第8条の公正証書による指定 補助開始の審判を請求できる者として、信頼する知人や専門職を指定しておく
  • 任意後見契約 改正後の任意後見契約法第5条第1項により、公正証書で指定した者も任意後見開始の審判を請求できる。同法第4条の不開始の合意により、複数の受任者の順序を定めることもできる
  • 遺言 保管証書遺言の運用開始(公布から3年以内)を待つか、先に公正証書遺言を作っておく

改正後は補助を開始しても任意後見契約が終了しないため、任意後見人と補助人が併存する設計も可能になる。ただし権限の重複は避ける必要があり、補助人に付与する代理権の範囲を任意後見契約の委任事務と切り分けておくことが前提になる。

事例5 いま後見を利用している

母に成年後見人が付いて5年になる。当初の目的だった不動産売却は済んでおり、いまは預金の管理だけが続いている。

附則第2条第1項により、施行日前に後見開始の審判を受けた本人・成年後見人・成年後見監督人については、原則として従前の例による。何もしなければ現在の状態が続く。

新制度に移りたい場合は、成年後見人または成年後見監督人も、本人について新法第7条第1項の審判(同時にされる第9条・第10条・第11条の審判を含む)を請求できる(附則第2条第4項)。この請求があった場合、家庭裁判所は施行日前に後見開始の審判を受けたことを考慮しない(同条第5項)。補助開始の審判をするときは、施行日前にされた後見開始の審判を取り消さなければならない(同条第6項)。

制度から抜けたい場合は、本人・配偶者・四親等内の親族・成年後見人・成年後見監督人の請求により、旧法第7条の後見開始の審判を取り消すことができる(同条第7項)。

従前の例によるとされる場合でも、成年後見人の解任については新法第876条の5が適用され、本人の利益のため特に必要があるときという事由が加わる(同条第2項)。本人の意向の把握と尊重についても新法第876条の11が適用される(同条第3項)。交代を求めやすくなる点と、意向把握が義務になる点だけは、施行日から現在の利用者にも及ぶ。

保佐についても、附則第3条により同じ規律が準用される。


12 経過措置 施行日をまたぐ申立て

附則第2条第8項は、施行日前にされた後見開始の審判の請求のうち、施行日前に審判が確定していないものは、施行日以後は新法第7条第1項による補助開始の審判の請求とみなすと定める。保佐開始の請求についても同じ扱いである(附則第3条第2項)。

補助については附則第4条が置かれている。施行日前にされた旧第15条第1項による補助開始の審判は、施行日以後は新法第7条第1項による補助開始の審判とみなされる。被補助人、補助人、補助監督人も、それぞれ新法上の地位にあるものとみなされる。旧第17条第1項の同意を要する旨の審判は新法第9条第1項の審判に、旧第876条の9第1項の代理権付与の審判は新法第11条第1項の審判にみなされる。審判が確定していない請求についても同様である。

現在すでに補助を利用している1万8078人は、施行日に自動的に新制度へ移行する。改めて申し立てる必要はない。これに対し、後見・保佐の23万8990人は、何もしなければ旧制度のまま続く。この非対称は、相談を受ける際に最初に説明すべき点である。

申立ての時期についても注意が要る。施行日まで2年半ほどの猶予があるが、施行日前に申し立てて施行日までに審判が確定しなければ、後見開始の請求は補助開始の請求とみなされる。急がない事案であれば、施行を待って補助を申し立てるほうが、権限の範囲を本人に合わせて設計できる。逆に、緊急に包括的な保護が必要な事案であれば、施行前に後見を申し立てる判断もありうる。


13 次回の予定

次回は民法第8条(公正証書による指定)を扱う。今回触れた新しい申立権者の指定について、口授の方式、公証人法との関係、口がきけない者への手当て、任意後見契約法第6条による準用、そして実際に公正証書を作るときの記載内容と費用を検討する。任意後見契約や死後事務委任契約と一体で設計する場合の組み立ても取り上げる。

その後、第9条(同意を要する旨の審判)、第10条(特定補助人)、第11条(代理権付与)、第12条(審判の取消しと制度利用の終了)へと進む。


参考資料

  • 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号) 条文および附則
  • 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)
  • 民法等の一部を改正する法律案 新旧対照条文(民法、任意後見契約に関する法律、後見登記等に関する法律、家事事件手続法、法務局における遺言書の保管等に関する法律)
  • 民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案 新旧対照条文(老人福祉法、知的障害者福祉法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律、戸籍法、民事訴訟費用等に関する法律ほか)
  • 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)」概要資料(令和8年6月)
  • 法務省民事局「成年後見制度の見直し」説明資料(令和8年1月)
  • 法務省民事局「成年後見制度の見直し 経過措置」説明資料(令和8年3月)
  • 法制審議会民法(成年後見等関係)部会 各回議事録および部会資料
  • 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」
  • 法務省ウェブサイト https://www.moj.go.jp/
  • 裁判所ウェブサイト 裁判例検索 https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/search1

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