第十五条(任用の根本基準)
条文原文
職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、人事評価その他の能力の実証に基づいて行わなければならない。
趣旨・立法背景
地方公務員の任用とは、採用・昇任・降任・転任のすべてを包含する概念であり(第15条の2第1項参照)、本条はその全場面に通底する根本基準を定める。
憲法第15条第2項は公務員を「全体の奉仕者」と定める。この要請を制度的に担保するために、任用の基準を「能力の実証」に一元化する必要があった。特定の者を縁故や政治的配慮によって恣意的に任用することを法律の次元で遮断することが、本条の核心的機能である。
制定当初(昭和25年)の条文は「受験成績、勤務成績その他の能力の実証」と規定していた。「勤務成績」という文言は旧来の職階制を前提とするものであったが、平成26年改正(法律第34号)により職階制が廃止され、代わりに「人事評価」が任用・給与・分限の基礎として明定された(第23条の2)。それに伴い、本条の「勤務成績」も「人事評価」に改められた。この改正の背景には、平成12年の人事評価研究会報告書(総務庁長官主催)以来、地方公共団体の人事管理の客観性・透明性向上が長年の政策課題として積み重なってきた経緯がある。
「能力の実証」は、筆記試験による受験成績のみを意味しない。「その他」として列挙された人事評価をはじめ、業務経験・資格・面接による実績評価等も包括する、より広い概念である。任命権者が任用行為を行う際は、本条の根本基準に適合する手続と基準によらなければならず、恣意的な任用は本条違反として違法の評価を受ける。
用語解説
任用 : 採用・昇任・降任・転任を総称する概念。任命権者が職員の職に人を当てはめる行為の全体をいう。
受験成績 : 競争試験または選考における客観的成績。採用候補者名簿・昇任候補者名簿等に基づいて任用する際の主要な指標となる(第18条以下参照)。
人事評価 : 職員がその職務を遂行するに当たり発揮した能力と挙げた業績を把握した上で行われる勤務成績の評価(第23条第1項)。能力評価と業績評価の2本柱で構成される。
能力の実証 : 上記に限らず、当該職員が当該職に就く能力を有することを客観的に示す一切の証拠・評価を指す包括的概念。
国家公務員法との比較
国家公務員法第33条(任用の根本基準)は「職員の任用は、この法律の定めるところにより、その者の受験成績、人事評価又はその他の能力の実証に基いて行わなければならない」と定め、地方公務員法第15条と実質的に同一の構造をとる。ただし、国家公務員については人事院が任用手続の統一的基準を設定する役割を担うのに対して、地方公務員については各任命権者が法律の枠内で自律的に運用する点で組織的背景が異なる。
判例・裁判例
最高裁判所昭和52年12月20日判決は、公務員の懲戒免職処分の有効性に関して、任命権者の広範な裁量を認めつつも、「社会通念上著しく妥当性を欠く」場合に限り裁量権の濫用として無効になりうると判断した。任用段階の恣意的判断についても同様の裁量統制の論理が妥当する。
能力の実証なき任用が問題となった行政実務上の事例として、縁故採用が後に問題化し、人事委員会が任用の適法性について意見を述べた事例が各地で存在する。ただし、当該任用が直ちに「無効」となるか「取消し得る」にとどまるかについては学説上の争いがある。
第十五条の二(定義)
条文原文
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 採用 職員以外の者を職員の職に任命すること(臨時的任用を除く。)をいう。
二 昇任 職員をその職員が現に任命されている職より上位の職制上の段階に属する職員の職に任命することをいう。
三 降任 職員をその職員が現に任命されている職より下位の職制上の段階に属する職員の職に任命することをいう。
四 転任 職員をその職員が現に任命されている職以外の職員の職に任命することであつて前二号に定めるものに該当しないものをいう。
五 標準職務遂行能力 職制上の段階の標準的な職(職員の職に限る。以下同じ。)の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として任命権者が定めるものをいう。
2 前項第五号の標準的な職は、職制上の段階及び職務の種類に応じ、任命権者が定める。
3 地方公共団体の長及び議会の議長以外の任命権者は、標準職務遂行能力及び第一項第五号の標準的な職を定めようとするときは、あらかじめ、地方公共団体の長に協議しなければならない。
趣旨・立法背景
本条は平成26年改正によって新設された定義規定である。同改正において「能力と実績に基づく人事管理」を徹底するための制度的基盤を整備するにあたり、従来の法律が用いてきた「採用」「昇任」「降任」「転任」の各概念を明文化するとともに、新たに「標準職務遂行能力」および「標準的な職」の概念を法律上に位置づけた。
改正前は、地方公務員法の条文の随所にこれらの概念が用いられながらも、法律上の定義が欠如していたため、地方公共団体ごとの解釈・運用にばらつきが生じていた。定義規定の新設により、人事評価の評価項目(能力評価)が「標準職務遂行能力」と連動する形で制度設計されることとなった(第23条の2参照)。
総務省は平成26年8月15日付通知(総行公第67号)において、「標準職務遂行能力については、業務の特性等を踏まえて適切に定めるべきこと」とし、国における「標準的な官職を定める政令」(平成21年政令第30号)を参考として各地方公共団体が整備するよう求めた。
第3項の長への協議義務は、長以外の任命権者(教育委員会、警察本部長等)が標準職務遂行能力等を定める際に、自治体内部での一体性・整合性を確保するための手続的規律である。
用語解説
採用 : 職員でない者を職員の職に任命する行為。臨時的任用(第22条)は含まない。試験・選考を経て正式に任用する場合がこれに当たる。
昇任 : 現在の職より「上位の職制上の段階」に属する職への任命。「職制上の段階」は課長補佐・課長・部長等の役職の階層を指す。同一階層内の異動は昇任ではなく転任となる。
降任 : 現在の職より「下位の職制上の段階」に属する職への任命。分限処分としての降任(第28条第1項第2号)と、管理監督職勤務上限年齢制度に基づく降任(第28条の2)とがある。
転任 : 採用・昇任・降任のいずれにも該当しない任命。同一の職制上の段階内で職種や所属が変わる異動や、他の任命権者への転出(いわゆる人事交流)がこれに含まれる。
標準職務遂行能力 : 職制上の段階ごとに任命権者が定める能力基準。能力評価において職員の実際の行動・能力をこれと比較することで評価が行われる。企画立案力・判断力・協調性・専門知識等の項目が典型例として挙げられる。
標準的な職 : 各職制上の段階および職務の種類において標準的と認められる職位。能力評価の基準点として機能する。
国家公務員法との比較
国家公務員法第34条・第35条は採用・昇任・降任・転任の概念を定め、国家公務員については「標準的な官職を定める政令」(平成21年政令第30号)が標準的な官職と標準職務遂行能力を定める。地方公務員においては政令ではなく各任命権者がこれを定める仕組みとなっており、自治立法主義の観点から地方の自律性が認められている。ただし長への協議義務(第3項)によって一定の統制が図られている。
判例・裁判例
標準職務遂行能力を設定した上で行われた人事評価の結果を昇任・降任に反映させた処分については、各地の行政不服申立て・訴訟においてその客観性・公正性が争われる例が現れてきている。基準自体の設定が任命権者の合理的裁量の範囲内かどうかが判断の焦点となる。現時点で最高裁レベルの先例は見当たらないが、下級審において「評価の客観性・透明性の確保」が繰り返し強調されている。
第十六条(欠格条項)
条文原文
次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあつて、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
趣旨・立法背景
欠格条項は、当該事由に該当する者が職員となることを法律上禁止し、在職中に該当した場合は当然失職を引き起こす(第28条第4項)。「能力の実証」という任用の根本基準に照らしても、本条列挙の事由に該当する者は公務員としての適格性を欠くと立法者が判断した諸類型である。
各号の改正経緯として、以下の3点が重要である。
第一号の刑の種類について、令和4年改正(法律第68号・刑法等一部改正)によって、旧来の「禁錮以上の刑」が「拘禁刑以上の刑」に改められた。これは刑法の懲役・禁錮が拘禁刑に一本化されたことに対応するものであり、令和7年6月1日施行である。実質的な範囲は従前と変わらない。
第一号の刑の種類として、現行法では死刑・拘禁刑(旧懲役・禁錮)が対象となる。罰金・科料・拘留(刑法第9条が定める刑の種類のうち、拘禁刑より軽い刑)は本号に該当しない。
成年被後見人・被保佐人を欠格事由とする規定は、令和元年改正(法律第37号・令和元年12月14日施行)により削除された。「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」により、地方公務員法を含む187本の法律から当該欠格条項が削除され、個別の能力審査による対応へ転換した。破産者も地方公務員法第16条の欠格事由ではない。
条例による例外規定が認められている(柱書「条例で定める場合を除くほか」)。東京都等の多くの自治体では、過失による犯罪で執行猶予付き判決を受けた場合には失職しない旨の条例を設けている。国家公務員については条例による例外の余地がなく(人事院規則による限定的例外のみ)、この点で地方公務員制度の柔軟性が現れている。
各号の解説
第一号(拘禁刑以上の刑)
執行猶予付き判決を受けた場合も、判決確定時から当然失職する(地方公務員法第28条第4項)。執行猶予の期間中は欠格状態が継続し、猶予期間が満了して初めて欠格事由が消滅する(刑法第27条参照)。「その執行を終わるまで」とは実刑を服役し終えるまで、「その執行を受けることがなくなるまで」とは時効・恩赦等によって刑の執行を受ける可能性がなくなるまでを指す。
第二号(懲戒免職後2年)
「当該地方公共団体において」と限定されているため、他の地方公共団体や国での懲戒免職は本号の欠格事由にはならない点に留意が必要である。起算点は処分の日であり、2年経過後は欠格事由が消滅する。
第三号(人事委員会・公平委員会委員による特定の罪)
第60条から第63条に規定する罪は、秘密漏洩・職権濫用・収賄・不当な影響の行使等、人事行政の公正性を根幹から害する罪に限定される。「委員の職にあつて」とある通り、在職中の行為に限られる。
第四号(憲法体制破壊活動への参加)
昭和25年の法制定当初から存在する条項であり、日本国憲法施行(昭和22年5月3日)以後の行為が対象である。「暴力で破壊することを主張する」という文言から、憲法体制の変革自体を否定するものではなく、暴力手段の主張・組織加入に限定される。一旦加入した後の脱退は本号欠格を消滅させない点が実務上問題となり得る。
用語解説
欠格条項 : 特定の事由に該当する者の任用を法律上禁止するとともに、在職中に該当した場合に当然失職を引き起こす要件の総体。任命権者の処分行為を介せず、法律上当然に身分喪失の効果が生じる点で懲戒免職と異なる。
当然失職 : 欠格事由の発生と同時に、任命権者の処分がなくとも法律上自動的に職員としての身分を喪失する制度(第28条第4項)。失職の通知は確認的な行為にすぎない。
拘禁刑 : 令和4年刑法改正により導入された刑種。懲役・禁錮を廃止・統合したもの。施設内で拘置し、必要に応じて改善更生のための作業や指導を行う刑として位置づけられる。
国家公務員法との比較
国家公務員法第38条が欠格条項を定め、地方公務員法第16条とほぼ同構造である。主な相違点は次の2点である。
第一に、地方公務員法は「条例で定める場合を除くほか」という例外規定を認めているのに対して、国家公務員法は「人事院規則で定める場合を除くほか」としており、例外の範囲が実務上より限定的である。地方公務員では過失犯に対する条例上の例外が広く設けられているのに対して、国家公務員においては執行猶予付きの拘禁刑であっても原則として当然失職する運用が維持されている。
第二に、第二号の対象について、国家公務員法では「懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から2年を経過しない者」と定めるが、地方公務員法と異なり「当該地方公共団体において」という限定がなく、いかなる機関での懲戒免職であっても欠格事由となる。
判例・裁判例
最高裁判所平成19年12月13日第一小法廷判決は、郵政事務官として採用後に公務執行妨害罪で執行猶予付き有罪判決を受け、失職事由の発生を隠して約26年11か月にわたり勤務を継続した者に対し、国が当然失職を主張することは信義則に反しないと判断した。判決は、「当該職員が失職事由の発生を明らかにせず、任命権者においてその事実を知ることができなかった」という事情の下では、長期の継続勤務の事実があっても国の主張を権利濫用とは認められないとした。欠格条項を定める規定が、失職事由を看過してされた任用を当然に無効とするような強行規定であることを理由の一つとした点も注目される。
また、最高裁判所は、国家公務員法第38条第1号の欠格条項の合憲性について、同条項の目的が合理的であり、憲法第13条・第14条第1項に違反しないと判断している(平成19年12月13日判決)。
高知地方裁判所令和4年10月28日判決(高知県・高知県警察本部長事件)は、停職処分を受けた後に自己都合退職した警察官が、盗撮等の罪で拘禁刑(懲役2年執行猶予4年)に処せられたことを理由とする退職手当全額不支給処分の適法性を認めた。欠格による当然失職が生じていない事案でも、有罪判決を契機とする退職手当支給制限処分が許容されることを示した事例として実務上参照価値がある。
【国家公務員倫理法・倫理規程との関係】
第15条・第15条の2・第16条の3か条は、採用・昇任・降任・転任・欠格という人事管理の入口・出口を規律するものであり、国家公務員倫理法および同規程が主として規律する「在職中の行為規範」とは直接の対応関係を持たない。したがって、本回は国家公務員倫理法・倫理規程対応部分の解説を省略する。
ただし、第16条第三号が「人事委員会又は公平委員会の委員の職にあつて第60条から第63条までに規定する罪を犯した者」を欠格事由とする点は、人事行政の公正性という倫理的要請の直接的な反映であり、公務員倫理の文脈でも重要性を持つ。
【補論】任用の法的性質——学説の論争
問題の所在
第15条が「能力の実証に基づいて行わなければならない」と定める任用は、その法的性質をいかに解するかという問いが、行政法学における主要な論点として長年にわたって争われてきた。任用の法的性質の理解は、①違法な任用の効力(無効か取消可能かという効力論)、②任用を受ける者の地位(権利か反射的利益か)、③任用拒否に対する司法審査の可否と範囲、という三つの実務的問題と直結するため、学術上の議論にとどまらない重要性を持つ。
主要学説の対立
特別権力関係論(旧来の通説)
占領期以前から戦後初期にかけての通説的地位を占めたのが、いわゆる「特別権力関係論」である。この立場は、公務員関係を一般市民と国家との間の通常の法律関係(一般権力関係)とは本質的に異質な特別の服従関係と捉え、①法律の留保が完全には及ばず、②当該関係内部の行為については原則として司法審査が排除される、という二つの命題を核心とする。任用はこの特別権力関係への編入行為であり、任用された職員は包括的な服従義務の下に置かれると解された。
田中二郎・古崎慶長ら戦後行政法学の主要論者がこの枠組みを修正しながらも維持し、昭和30年代から40年代にかけての行政実務はこの理解を前提に運用されていた。最高裁昭和49年7月19日判決(猿払事件大法廷判決)が公務員の政治活動制限を合憲と判断した論拠の一部にも、公務員関係の特殊性への言及が含まれる。
しかし、この理論に対しては、特別権力関係の根拠が不明確であること、基本的人権との緊張関係を整理できないこと、という批判が根強く存在した。
公法上の契約説
雄川一郎らが提唱した立場であり、任用を国または地方公共団体と職員との間の公法上の双方的合意(契約)として捉える。民事法上の雇用契約と類比しつつも、その内容が法令によって強行的に規律されているという意味で「公法上の」契約とする点に特徴がある。
この立場によれば、職員は契約当事者として一定の権利主体性を有し、任用拒否は契約申込みの拒絶として捉えられる。任用関係への司法審査の余地も、一般権力関係論より広く認められる傾向がある。
批判として、採用試験合格→採用候補者名簿登載→任用という一連の過程において「合意」の実態を観念しがたいこと、および地方公務員法が採用候補者名簿への登載と任用とを明確に分離していること(第21条参照)が指摘される。
行政行為(授益的行政処分)説
現在の行政法学において有力な立場であり、任用を任命権者が一方的に行う行政処分——具体的には申請に対する授益処分——として捉える。この立場は次の論拠に基づく。
第一に、地方公務員法が採用候補者名簿・昇任候補者名簿から任命権者が職員を選択して任命するという構造(第21条)を採用しており、職員候補者の意思は任用の成立要件とはされていないこと。第二に、任命権者が単独で任用の内容を決定し、被任用者はその決定を受け入れるかどうかを選択するにすぎないという実態があること。第三に、行政事件訴訟法上の処分概念との整合性から、任用拒否を取消訴訟の対象となる処分と解することが可能になること。
塩野宏・阿部泰隆らがこの方向性を支持し、現在の行政法教科書の多くはこの理解を基礎として記述する。
特別な公法関係(修正特別権力関係)説
田中二郎の修正論が示した中間的立場であり、公務員関係を完全に一般権力関係と同視することなく、また旧来の特別権力関係論の帰結である司法審査の全面排除も否定するものである。公務員関係の特殊性を認めつつも、基本的人権の核心部分については法律の留保と司法審査が及ぶと解する。現行の最高裁判例の実質的立場はこれに近いとする評価が多い。
任用の「要件充足」と「選択裁量」
いずれの学説をとるにせよ、任用に関して重要なのは、任命権者の行為が「要件段階」と「選択段階」の二層に分かれているという点である。
要件段階とは、採用候補者名簿への登載・試験の合格といった客観的要件が充足されているかどうかの判断であり、法律が要件を充足した者の権利または法的地位を保護する範囲が争われる。選択段階とは、要件を充足した複数の候補者のうちから誰を実際に任用するかという行為であり、第21条第3項が定める「名簿に記載された者のうち高点順の5人の中から選択する」という方式が、この選択裁量をどの範囲で認めるかを法定している。
この二層の構造を意識することで、「名簿に登載されたにもかかわらず任用されなかった者」が任用を求める法的手段を持つかどうか——すなわち任用申請権の有無——という実務的問題への回答が変わってくる。行政行為説の論者の多数は、名簿登載は任用を義務づけるものではなく、選択段階での任命権者の裁量を否定しないと解する。
違法任用の効力問題
能力の実証に基づかない違法な任用がされた場合、その任用の効力をどう解するかについても学説は分かれる。
無効説は、本条が強行規定である以上、要件を欠く任用は行政処分一般における重大明白な瑕疵として当然無効であると解する。国家公務員法に関する最高裁判所平成19年12月13日判決が、欠格条項を「失職事由を看過してされた任用を法律上当然に無効とするような公益的な要請に基づく強行規定」と表現した部分は、欠格条項に限定した文脈ではあるが、無効説に親和的な論拠として援用される。
取消可能説は、违法であっても直ちに当然無効とはせず、権限ある機関による取消しがなされるまでは有効な任用として扱う立場であり、行政行為の効力に関する一般的な公定力の論理を任用にも及ぼす。
実務的には、違法任用を無効と解した場合の不利益が任用された職員に帰するという問題(職員が善意で職務を遂行してきた場合の身分・給与の遡及的不安定)を回避するために、取消可能説ないし信義則による制限論が実質的支持を得ている側面がある。
現在の到達点と実務上の含意
特別権力関係論は学説上ほぼ克服されており、公務員関係であっても法律の留保が原則として妥当し、基本的人権の制約は必要最小限度に限られるという見解が支配的となっている。
行政行為説を採りながらも、選択裁量の広さを認め、名簿登載者が任用を法的に請求する権利までは認めないという中間的解釈が、現在の行政実務・裁判実務では事実上の前提となっている。
地方公務員法第15条は「行わなければならない」という義務規定であり、条文上は能力の実証に基づかない任用を禁じている。ただし、この義務違反の効果——任用の効力と任命権者の責任——については、条文自体が沈黙しており、上述の学説の展開によって補充解釈されている状況が続いている。新人地方公務員がこの論争を知っておくべき実際的意義は、違法な任用拒否・降任・転任を受けた際に、不服申立てや取消訴訟という法的手段を検討できる素地を持つことにある。

