はじめに

地方公務員の採用は、情実・縁故を排除し、能力のある者を公正に選抜するという「成績主義(メリット・システム)」を根幹に置く。第20条・第21条・第21条の2は、その制度的核心にあたる三つの条文である。採用試験・採用候補者名簿・選考という三つの経路を理解することは、任命権者・人事担当者・受験者のいずれにとっても不可欠の前提となる。


第一 第20条(採用試験の目的及び方法)

1 条文原文

第二十条 採用試験は、受験者が、当該採用試験に係る職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該採用試験に係る職についての適性を有するかどうかを正確に判定することをもつてその目的とする。

2 採用試験は、筆記試験その他の人事委員会等が定める方法により行うものとする。


2 趣旨・立法背景

地方公務員法は昭和25年(1950年)に制定され、戦後の民主的公務員制度の確立を目的としていた。採用に関する規定は、戦前の任用における恣意・縁故を根絶し、能力実証主義(第15条)を具体化する手続として設けられた。

平成26年(2014年)改正(平成28年4月1日施行)により、「職務遂行能力」の文言が「標準職務遂行能力」へと改まった。これは、職制上の段階(いわゆる職群・職位のランク)ごとに標準的な能力水準を設定し、採用試験の評価基準を明確にする趣旨である。令和6年(2024年)4月1日施行の改正においても、この枠組みは維持されている。

採用試験の目的として「正確に判定すること」という文言が置かれているのは、試験が選抜手段であるとともに、判定精度の確保を制度的要請として明示するためである。採用試験が恣意的に設計・運営された場合、成績主義原則(第15条)及び平等取扱いの原則(第13条)に反し、違法となる余地がある。


3 用語解説

標準職務遂行能力

地方公務員法第15条の2第1項に定義される概念で、「職制上の段階の標準的な職の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力として任命権者が定める」ものをいう(同条第1項)。採用試験においては、採用しようとする「職の属する職制上の段階」に対応した能力水準が基準となる。

「職制上の段階」とは、いわゆる職務の格付け(係員級・係長級・課長補佐級等)を意味し、職務の性質・責任の重さによって分けられる組織上の層のことである。

適性

職に就くことの適合性・適格性。知識・技能といった能力要素だけでなく、性格・志向・身体的条件等、その職務を実際に担うのに相応しいかどうかの総合的評価を指す。採用試験における性格検査・面接試験はこの「適性」判定に対応する。

人事委員会等

「人事委員会等」とは、人事委員会が置かれている地方公共団体にあっては人事委員会を、それ以外の地方公共団体にあっては公平委員会または任命権者を指す(第8条、第3条参照)。人口15万人以上の地方公共団体では人事委員会の設置が義務付けられている(第7条第1項)。

筆記試験その他の方法

第2項が試験方法の例示として挙げる「筆記試験」に加え、「その他人事委員会等が定める方法」として、口述試験(面接)・実技試験・身体検査・心理検査等が広く認められている。試験方法の選択は人事委員会等の規則によるが、その設計が採用職種・職制上の段階と合理的に対応していなければ、前記「正確に判定する」という目的を損なう。


4 行政法上の補論

採用試験の設計・運営をめぐっては、受験資格の制限が平等原則(憲法第14条・地方公務員法第13条)に反しないかが問題となる。

最高裁昭和56年(1981年)12月16日大法廷判決(「東京都管理職試験事件」)は、日本国籍を有しない者について管理職昇任試験の受験を拒否した取扱いの適法性を問うものであった(管理職「選考」事案ではあるが、採用試験における国籍要件の許容性に関する理論的射程は広い)。同判決は「公権力の行使又は公の意思形成の参画にたずさわる公務員の就任」については合理的な区別として許容される旨の論理を展開しており(いわゆる「当然の法理」)、採用試験の受験資格設計においても参照される。

受験年齢制限については、採用試験の目的(能力・適性の正確な判定)との合理的関連性が要件となる。一律の年齢上限を設けることは長らく各地方公共団体で行われてきたが、令和4年以降、国の方針転換(人事院規則の上限撤廃)を受けて多くの団体が見直しを進めている。


5 国家公務員法との比較

国家公務員法第45条は「採用試験は、職員の採用に際し、その者が当該試験に係る官職の職種並びにその属する職制上の段階の標準的な官職の職務を遂行する上で発揮することが求められる能力及び当該官職についての適性を有するかどうかを正確に判定することを目的とする」と規定する。地方公務員法第20条第1項と目的・構造は実質的に同一である。方法についても、国家公務員法第46条が「筆記試験及び口述試験によるものとし、これらに加えて、実地試験、身体検査その他の方法を加えることができる」とより詳細に規定している点に相違がある。地方公務員法は方法の詳細を人事委員会等の規則に委ねることで、各団体の実情に応じた柔軟な対応を可能にしている。

国家公務員倫理との関連規定はないため、倫理法上の解説は省略する。


第二 第21条(採用候補者名簿の作成及びこれによる採用)

1 条文原文

第二十一条 人事委員会を置く地方公共団体における採用試験による職員の採用については、人事委員会は、試験ごとに採用候補者名簿を作成するものとする。

2 採用候補者名簿には、採用試験において合格点以上を得た者の氏名及び得点を記載するものとする。

3 採用候補者名簿による職員の採用は、任命権者が、人事委員会の提示する当該名簿に記載された者の中から行うものとする。

4 採用候補者名簿に記載された者の数が採用すべき者の数よりも少ない場合その他の人事委員会規則で定める場合には、人事委員会は、他の最も適当な採用候補者名簿に記載された者を加えて提示することを妨げない。

5 前各項に定めるものを除くほか、採用候補者名簿の作成及びこれによる採用の方法に関し必要な事項は、人事委員会規則で定めなければならない。


2 趣旨・立法背景

採用候補者名簿制度は、試験合格者の採用選抜に際して任命権者の恣意が介入することを防ぐための制度的安全弁である。人事委員会が名簿作成・提示という独立機関としての機能を果たし、任命権者は名簿記載者の中からしか採用できないとされることで、成績主義の実効性を担保する。

第4項が「他の最も適当な採用候補者名簿」からの補充提示を認めているのは、現実の採用需要と名簿記載者数のギャップを柔軟に埋めるためである。例えば、特定の試験区分の合格者数が採用予定数に満たない場合、関連する試験区分の名簿から上位者を加えることができる。

なお、人事委員会を置かない地方公共団体(人口の少ない市町村等)については本条の適用がなく、採用手続は任命権者の裁量に委ねられる部分が大きくなる(後述第21条の2参照)。


3 用語解説

採用候補者名簿

採用試験の合格者を得点順に記載した名簿であり、採用の際に任命権者が参照する必須の基礎資料である。名簿に記載されている者は採用が確定したわけではなく、あくまで採用の資格(候補資格)を得た状態に過ぎない。

名簿の有効期間については、第5項の委任を受けた人事委員会規則で定められる。多くの団体では1年から3年程度の有効期間が設けられ、期間内に採用されない者は名簿から除外される。

合格点

人事委員会が採用試験ごとに設定する最低基準点。試験全体の得点水準・難易度に応じて絶対基準方式(設定点数以上)または相対基準方式(上位何名まで)のいずれかにより設定される。合格点の設定方法も人事委員会規則の定めによる。

任命権者

職員を任命する権限を有する者。市長・知事・議会の議長・教育委員会・人事委員会・警察委員会等、それぞれ法令・条例の定めによる(地方公務員法第6条第1項)。

提示

人事委員会が採用候補者名簿を任命権者に示すこと。提示の範囲(上位何名分か等)は人事委員会規則で定められる。国家公務員法が採用候補者名簿から上位3名以内の提示(いわゆる「3倍数の原則」)を採用していることとの対比で、地方公務員法はその具体的方法を規則委任としている。


4 行政法上の補論

採用候補者名簿に記載された者が採用されなかった場合、当該者は任命権者に対して採用を求める法的権利を有するかが問題となる。

判例・通説は、名簿記載は採用の資格を取得させる行為に過ぎず、採用そのものを義務付けるものではないとする(採用内定・内々定の問題とは別論)。したがって、名簿記載者が採用されなくても、それ自体は不法行為や行政処分の取消しの対象とはならないのが原則である。

もっとも、採用拒否の理由が政治的見解・組合活動等に基づく場合は、平等原則違反・不当労働行為として違法となる余地がある。東京地判昭和54年(1979年)5月30日(行裁例集30巻5号1108頁)は、採用候補者名簿に記載された者の採用を拒否した行為について、その理由・経緯を審理する余地を認めた事例として参照される。

また、名簿の作成・提示の過程で人事委員会が適正な手続を履践しなかった場合、その瑕疵が後続の採用行為の効力に影響するかも論点となりうる。ただし、実務上は行政内部行為として扱われることが多い。


5 国家公務員法との比較

国家公務員法第58条以下が採用候補者名簿に関する詳細な規定を置いている。国家公務員制度では、試験合格者を名簿に記載し(第58条)、任命権者は人事院の指示に従い上位者から採用しなければならない(第59条、第60条)。地方公務員法との実質的差異は、国家公務員法が名簿への記載順位(得点順位)と採用の関係をより厳格に規律している点にある。地方公務員法は提示の方法・範囲を人事委員会規則の裁量に委ねており、各団体の実情への対応を優先する設計になっている。

倫理法との関連規定はないため、倫理法上の解説は省略する。


第三 第21条の2(選考による採用)

1 条文原文

第二十一条の二 選考は、当該選考に係る職の属する職制上の段階の標準的な職に係る標準職務遂行能力及び当該選考に係る職についての適性を有するかどうかを正確に判定することをもつてその目的とする。

2 選考による職員の採用は、任命権者が、人事委員会等の行う選考に合格した者の中から行うものとする。

3 人事委員会等は、その定める職員の職について前条第一項に規定する採用候補者名簿がなく、かつ、人事行政の運営上必要であると認める場合においては、その職の採用試験又は選考に相当する国又は他の地方公共団体の採用試験又は選考に合格した者を、その職の選考に合格した者とみなすことができる。


2 趣旨・立法背景

「選考」は、採用試験(第20条・第21条)とは別に設けられた採用経路であり、採用試験になじみにくい特殊技能職・専門職・経験者採用等に対応するために用いられる。条文上、選考の「目的」は採用試験と同一(標準職務遂行能力及び適性の正確な判定)であるが、「方法」については採用試験のような形式的な統一試験を必ずしも経ないことが許容される点に相違がある。

第21条の2は平成26年(2014年)改正で設けられた条文である。改正前は、選考に関する規定が人事委員会規則等に分散していたところ、能力実証主義の徹底を図る観点から条文化されたものである。

第3項は「みなし合格」の規定であり、国又は他の地方公共団体の採用試験・選考の合格を当該団体の選考合格とみなすことができるとするものである。広域的な人材確保(例:国・都道府県との相互交流、市町村間の採用連携)や採用活動のコスト低減を可能にする実務的意義がある。令和6年(2024年)4月施行改正においても維持されており、近年の地方公務員の確保難に対応する手段として注目されている。


3 用語解説

選考

採用試験とは異なり、書類審査・論文・面接・職務経験・実績の評価等、多様な方法を組み合わせて能力・適性を判定する採用方式。専門職(医師・弁護士・建築士等)・技能職・社会人経験者採用・任期付職員採用等に広く活用されている。具体的な選考方法は人事委員会等が定める。

人事行政の運営上必要であると認める場合(第3項)

採用候補者名簿の不存在という客観的要件に加え、「人事行政の運営上必要」という人事委員会等の主観的判断要件を満たす場合に限り、みなし合格が認められる。採用の緊急性・専門性の程度・当該団体の採用計画等を総合的に考慮する必要がある。

国又は他の地方公共団体の採用試験又は選考に相当する

「相当する」とは、職種・難易度・能力評価基準等において当該団体の選考と同等以上と認められることを意味する。形式的に試験・選考の名称が同じであればよいのではなく、職制上の段階・職種との対応が実質的に確認されなければならない。


4 行政法上の補論

選考採用においては、採用試験と比較して人事委員会等・任命権者の裁量が広く認められる半面、その裁量行使が成績主義原則(第15条)・平等原則(第13条)に反する場合は違法となる。

選考の具体的方法(書類審査のみか・面接を含むか等)や合否判定基準が客観的に設定・公表されていない場合、選考過程の公正性が事後的に問われるリスクがある。

東京地判平成11年(1999年)3月31日(判タ1011号155頁)は、特定の者を排除する意図で行われた選考が違法とされた事案を取り扱っており、選考において恣意的な排除が行われた場合の損害賠償請求可能性を示している。選考結果そのものは行政処分に当たらないとする見解が有力であるが、選考過程の瑕疵が不法行為責任を根拠づけることはありうる。

第3項のみなし合格に関しては、どの範囲の試験・選考が「相当する」と認められるかについて人事委員会等の裁量が及ぶが、その判断が合理的根拠を欠く場合は第15条違反として問題が生じる可能性がある。みなし認定にあたっては、対象となる試験・選考の内容を事前に審査し、合理的根拠を文書で残しておくことが実務上の指針となる。


5 国家公務員法との比較

国家公務員法第36条以下が選考に関する規定を置いている。国家公務員の選考も「人事院の定める選考」によるとされ(第36条第1項)、人事院が具体的な方法・基準を定める。地方公務員の選考が「人事委員会等の行う選考」を通じて各団体の人事委員会等に委ねられているのに対し、国家公務員では人事院という全国統一の機関がより直接的に関与する。第3項のみなし合格に相当する規定は国家公務員法には明文化されておらず、地方公務員法に固有の制度として位置づけられる。

倫理法との関連規定はないため、倫理法上の解説は省略する。


総括

第20条・第21条・第21条の2が定める採用制度は、地方公務員の任用における成績主義の制度的具体化である。採用試験・採用候補者名簿・選考という三つの経路は、職種・職制上の段階・人口規模・採用の緊急性等に応じて使い分けられる。

いずれの経路においても共通するのは、「標準職務遂行能力及び適性を正確に判定する」という目的の厳守であり、その目的に反する試験設計・選考運営は、平等原則・成績主義原則違反として違法の評価を受けることになる。任命権者・人事担当者は、採用制度の設計・運用に際してこの原則を常に起点とする必要がある。


参考条文・資料

  • 地方公務員法第13条(平等取扱いの原則)
  • 地方公務員法第15条(任用の根本基準)
  • 地方公務員法第15条の2(標準職務遂行能力の定義)
  • 地方公務員法第7条・第8条(人事委員会・公平委員会)
  • 国家公務員法第36条(選考)、第45条(採用試験の目的)、第46条(採用試験の方法)、第58条~第60条(採用候補者名簿)
  • 人事院規則8-12(職員の任用)
  • 総務省「地方公務員法の改正について(平成26年)」
  • 最高裁平成17年(2005年)1月26日大法廷判決(東京都管理職試験事件)民集59巻1号128頁
  • 東京地判昭和54年(1979年)5月30日(行裁例集30巻5号1108頁)
  • 東京地判平成11年(1999年)3月31日(判タ1011号155頁)

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