第103条から第105条の2までが議長の「在任中」の地位と権限を定めた規定だとすれば、第106条から第108条までは、議長が「職務を執れない」「いない」「辞めたい」という局面の規定である。第106条が副議長による職務代行と仮議長を、第107条が年長議員による臨時議長を、第108条が正副議長の辞職を定める。
平常時には目立たない条文群である。ところが令和8年、この3か条が現実の争点となる事件が相次いだ。申合せの任期を過ぎても辞職しない議長が本会議の休憩を宣告して退席し、定例会が二日続けて流会した鎌倉市議会。副議長と議長が相次いで議員を辞職し、正副議長がともに不在となった後の議長選挙が39対39の同数となり、くじで決着した福岡県議会。いずれも第106条から第108条までの条文を正確に読めるかどうかで、事態の見え方が変わる事案である。
1 条文原文
条文は令和8年9月3日施行の現行法による。
第106条(議長の職務代行・仮議長)
第百六条 普通地方公共団体の議会の議長に事故があるとき、又は議長が欠けたときは、副議長が議長の職務を行う。
② 議長及び副議長にともに事故があるときは、仮議長を選挙し、議長の職務を行わせる。
③ 議会は、仮議長の選任を議長に委任することができる。
第107条(臨時議長)
第百七条 第百三条第一項及び前条第二項の規定による選挙を行う場合において、議長の職務を行う者がないときは、年長の議員が臨時に議長の職務を行う。
第108条(議長及び副議長の辞職)
第百八条 普通地方公共団体の議会の議長及び副議長は、議会の許可を得て辞職することができる。但し、副議長は、議会の閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる。
関連条文
本稿の解釈に直接かかわる条文を併せて掲げる。
第百十四条 普通地方公共団体の議会の議員の定数の半数以上の者から請求があるときは、議長は、その日の会議を開かなければならない。この場合において議長がなお会議を開かないときは、第百六条第一項又は第二項の例による。
第百十七条 普通地方公共団体の議会の議長及び議員は、自己若しくは父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件又は自己若しくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない。但し、議会の同意があつたときは、会議に出席し、発言することができる。
第百二十六条 普通地方公共団体の議会の議員は、議会の許可を得て辞職することができる。但し、閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる。
第106条から第108条までの3か条にも、法令上の条文見出しは付されていない。
2 趣旨・立法背景
2-1 第106条:議会を一瞬たりとも止めないための三段構え
議会は議長がいなければ会議を開けない。議事整理権(第104条)は議長に専属し、議員が勝手に議事を進めることは許されないからである。したがって、議長が病気で倒れたり、辞職して欠けたりしたとき、代わりに職務を執る者が法律上あらかじめ決まっていなければ、議会は機能を停止する。
第106条はこれに三段構えで備える。第1項が副議長による職務代行、第2項が議長・副議長ともに事故があるときの仮議長の選挙、第3項が仮議長の選任を議長に委任する方法である。副議長を必置とした第103条第1項は、この第106条第1項の受け皿を用意する意味を持つ。
注意すべきは、第1項と第2項で要件の書き方が異なる点である。第1項は「事故があるとき、又は議長が欠けたとき」と二つの場合を掲げるのに対し、第2項は「ともに事故があるとき」とだけ定め、「欠けたとき」を含めていない。正副議長がともに欠けた場合には仮議長ではなく後任の選挙を直ちに行うべきであり、その選挙は第107条の年長議員が主宰する。この書き分けは、仮議長をあくまで一時的な職務執行者にとどめ、正副議長の不在を仮議長で埋め続ける運営を許さない趣旨と理解できる。
2-2 第107条:選挙管理者を自動的に確定させる
議長選挙を行うには、選挙を主宰する者が必要である。ところが議長を選ぶ選挙を議長が主宰することはできない。一般選挙後の最初の議会では、前任の議長の職は議員任期の満了とともに終わっているから、議場には議長も副議長もいない。
第107条は、この場面で主宰者を「年長の議員」と法定し、議会の意思や本人の承諾を介さずに自動的に確定させる。誰が主宰するかを議論し始めれば、その議論を誰が進行するのかという無限後退に陥る。年齢という客観的な基準で一義的に決める方式は、この問題を最も簡明に断ち切る方法である。
2-3 第108条:辞職の自由を議会の許可にかからせる理由
第108条は、正副議長が辞職するには議会の許可を要すると定める。議員の辞職(第126条)と同じ構造である。
辞職に許可を要する理由は二つ考えられる。第一に、正副議長は議会の構成の要であり、本人の一方的な意思表示で直ちに欠けることを認めると、議会の運営が不意に停止するおそれがある。許可の議決という手続を挟むことで、後任選挙の段取りを議会の管理下に置くことができる。第二に、議長職は議会が選挙で与えた地位であり、その地位からの離脱についても付与した議会の判断を経させるのが筋である。
ただし書は、副議長に限って閉会中は議長の許可で辞職できるとする。閉会中に議会の許可を得るには臨時会の招集を待たなければならず、副議長の辞職のためだけにそれを求めるのは迂遠だからである。議長についてはこの例外が置かれていない。議長が閉会中に議長職を辞そうとしても、許可を与える者がいないため、議会が開かれるのを待つほかない。
第108条の実務上の比重は、条文の見た目以上に大きい。前稿で見たとおり、全国市議会議長会の調査(令和7年12月31日現在)では、議長の任期について申合せや慣例を持つ市が815市中650市(79.8%)あり、そのうち98%が任期1年または2年としている。法定任期4年(第103条第2項)を申合せで短縮する運用は、すべて第108条の辞職許可を経由して実現されている。申合せの期間が来れば議長が辞職願を出し、議会が許可し、後任を選ぶ。全国の多くの議会で毎年あるいは隔年に繰り返されているこの手続の法的根拠は、第108条だけである。
2-4 令和7年・令和8年改正における扱い
令和8年法律第27号(令和8年9月3日施行)および令和8年法律第62号(令和8年7月17日施行)による改正を含め、令和7年から令和8年にかけての地方自治法改正で第106条から第108条までが改正された事実はない。現行条文は長く変わっていない。
3 文理解釈
3-1 「事故があるとき」(第106条第1項・第2項)
議長が在職しているが、何らかの事情で職務を執ることができない状態をいう。病気、負傷、出張、海外渡航が典型である。
実務で見落とされやすいのが、除斥による事故である。第117条は議長にも除斥を適用し、議長自身の一身上に関する事件の議事に参与することを禁じる。議長の辞職許可(第108条)が議題となる場面、議長に対する不信任決議や辞職勧告決議が議題となる場面では、議長は除斥され、その間は「事故があるとき」に当たるから副議長が議長席に着く。除斥の対象は法令に基づく事件に限られず、議長不信任決議や議員辞職勧告決議のように法令に根拠を持たない事件も含むとするのが行政実例である(昭和25年3月22日自連行発第31号)。
議長と副議長の双方に対する不信任動議が同時に提出された場合の扱いについても行政実例がある(昭和37年10月3日)。まず副議長が議長席に着いて議長不信任動議を採決し、次いで議長が議長席に着いて副議長不信任動議を採決するという方式が妥当とされ、両者が同時に除斥されるとして仮議長を選挙する方式は採られていない。一つの動議にまとめて提出されても、議長に対する件と副議長に対する件は別個の事件として分けて審議するのが基本となる。
問題となるのは、議長が議場にいながら職務を執らない場合である。休憩を宣告したまま再開しない、議員の動議を取り上げない、開議の請求を受け付けないといった場面を「事故」とみて副議長が代わりに議事を進められるかといえば、条文上そうは読めない。事故とは職務を執ることができない状態であり、執ることができるのに執らない状態を含むと解すると、副議長が議長の議事整理を覆す道が開け、議会に二人の主宰者が並立しかねないからである。
この場面に対処するために法が用意しているのが第114条第1項である。議員定数の半数以上の者から請求があるときは、議長はその日の会議を開かなければならず、なお開かないときは第106条第1項または第2項の例による。つまり、半数以上の請求という要件を満たした場合に限って、議長がいるのに副議長(副議長も開かなければ仮議長)が会議を開くことが法律上認められる。第106条は第114条を通じて、議長の不作為に対する安全弁としても機能している。
3-2 「議長が欠けたとき」(第106条第1項)
議長の地位を持つ者がいなくなった状態をいう。死亡、議長職の辞職(第108条)、議員の辞職(第126条)、議員の失職(第127条)、除名(第135条第1項第4号)、議員としての被選挙権の喪失などが該当する。議員の身分を失えば議長の地位も当然に失われる。
議長が議長職ではなく議員そのものを閉会中に辞職しようとする場合、第126条ただし書により閉会中は議長の許可で辞職できるが、議長が自分自身の辞職を許可することはできない。この場合は副議長の許可によるとするのが行政実例である(昭和23年6月21日、昭和30年3月25日)。閉会中の議長の許可は議会の許可に代わるものであり、本人が本人を許可するのでは許可という手続の意味が失われるからである。
議長が欠けた場合、副議長が職務を行うが、それは後任の議長が選ばれるまでの暫定措置である。議長選挙はその後の会議で他の事件に優先して行うべきものとされる。議長が死亡した場合に、直前の議長選挙の次点者を繰り上げて議長とすることはできない。第118条第1項が準用する公職選挙法の規定には繰上当選に関する規定が含まれていないため、改めて議長選挙を行う必要がある。
3-3 「副議長が議長の職務を行う」(第106条第1項)
副議長は議長の「代理」ではなく、議長の「職務を行う」者と規定されている。副議長は自己の名で議長の職務を執行し、その範囲は議事整理権、秩序保持権、事務統理権、議会代表権に及ぶと解される。議長が欠けている間に長から議会の招集を受けた場合、議事の運営も副議長が担う。
もっとも、職務代行者である以上、議長の地位そのものを取得するわけではない。事故が止めば直ちに議長に職務を返さなければならず、議長が欠けた場合も後任選挙までの間に限られる。
3-4 「議長及び副議長にともに事故があるときは、仮議長を選挙し」(第106条第2項)
正副議長の双方に事故がある場合に限り、議会は仮議長を選挙して議長の職務を行わせる。仮議長の選挙は第118条の議会における選挙であり、投票によるほか、議員中に異議がなければ指名推選によることもできる。
前述のとおり、この項は「ともに欠けたとき」を含まない。正副議長がともに欠けたときは、速やかに後任を選挙すべきであって、仮議長によって議事を運営すべきではないとする行政実例がある(昭和25年6月26日)。同じ実例は、仮に仮議長の下で議事を運営した場合、それは適法ではないものの、その議決が当然に無効となるわけではないとしている。手続の瑕疵が直ちに議決の効力を失わせるわけではないという判断であるが、だからといって仮議長で欠員を埋める運営が許容されるわけではない。
正副議長の一方が事故、他方が欠けているという組合せの場合はどうか。たとえば副議長が欠員のまま、議長に事故が生じたときである。条文は「ともに事故があるとき」としか書いておらず、この組合せを直接定めていない。副議長の欠員状態を放置すべきでないことは明らかであり、閉会中に副議長が欠けたまま招集された議会で議長不信任の決議案が出された場合、副議長選挙を先決事件として扱うべきとする行政実例(昭和37年6月30日)の考え方からすれば、まず副議長選挙を行い、選ばれた副議長の下で議事を進めるのが筋となる。
3-5 「議会は、仮議長の選任を議長に委任することができる」(第106条第3項)
仮議長の選挙は、第2項の事態が生じてから行うのが原則だが、そのときには投票の立会人の指名から開票まで時間を要する。第3項は、あらかじめ議会の議決で仮議長の選任を議長に委任しておき、議長が指名する方式を認めたものである。
実務では、会期の冒頭に「会期中における仮議長の選任を議長に委任する件」を議題とし、異議がなければ委任を決定し、議長がその場で仮議長を指名しておく運用が見られる。神奈川県松田町議会の会議録には、この手続を議会事務局長の説明から議長の指名まで一連で行った例が残されている。同町の説明資料は、仮議長が職務を執るのは正副議長いずれかの事故が止むまでの限定的な期間であり、会議の途中でも直ちに交代しなければならない旨を明記している。
委任は議会の議決によるから、委任の範囲(会期中に限るか、任期中とするか)も議会が定める。委任を受けた議長は、委任の範囲内で仮議長を指名する。
3-6 「第百三条第一項及び前条第二項の規定による選挙を行う場合において」(第107条)
臨時議長が登場するのは二つの選挙の場面に限られる。第103条第1項の議長・副議長の選挙と、第106条第2項の仮議長の選挙である。
典型は一般選挙後の最初の議会である。前任の正副議長の職は議員任期の満了で終了しており、議長の職務を行う者がいない。このほか、任期途中で正副議長がともに欠けた場合の議長選挙、正副議長がともに事故のときに行う仮議長の選挙で、なお議長の職務を行う者がいない場合も対象となる。
3-7 「議長の職務を行う者がないとき」(第107条)
副議長が在職していれば、議長選挙は副議長が主宰する(第106条第1項)。第107条が働くのは、議長の職務を行うべき副議長もいない場合である。副議長選挙は、先に選ばれた議長が主宰するため、第107条の出番はない。
3-8 「年長の議員」(第107条)
行政実例は、第107条の年長の議員とは選挙が行われるときに議場に出席している議員中の最年長者をいい、現任議員全体の中の最年長者の意味ではないとする(昭和26年9月10日)。最年長の議員が欠席していれば、議場にいる者の中で最も年長の議員が臨時議長となる。
本人の承諾は要件ではなく、議場に出席している年長の議員は臨時議長の職務を拒むことはできないとする行政実例がある(昭和36年6月9日)。正当な理由なく拒否すれば、法律上の職務を果たさないこととして懲罰の対象となりうる。他方、視覚や発声に障害があって議事を進行できないなど、職務を果たすことができない客観的な事情がある場合には、次順位の年長議員が職務を行うことが許されると解されている。その場合は会議の冒頭に議会事務局長などがその旨を報告してから始めるのが適当とされる。生年月日まで同じ議員が複数いる場合は、くじで定めるのが適当とされる。
3-9 「臨時に議長の職務を行う」(第107条)
臨時議長の権限は、議長選挙を円滑に行うために必要な範囲に限られる。全国市議会議長会の法制担当者は、一般選挙後の初議会で臨時議長が議会事務局長の対応に不満を抱いて解任を命じた事案について、臨時議長には事務局職員の任免権(第138条第5項)はないとの見解を示している。会期の決定や議席の指定も本来は議長が行うべき事項であり、臨時議長の発議による会期決定は、議長選挙を行うことができない特段の事情がない限り不適当とされる。
例外として、一般選挙後初めての議会の初日に正副議長の選挙が行われなかった場合、年長議員の下で正副議長選挙のために会期を定め、または延長することができるとする行政実例がある(昭和28年4月6日)。
一方、秩序保持権は臨時議長にも認められる。選挙の際に不規則発言を続ける議員への注意や退席命令、騒ぎ立てる傍聴人への退場命令は、選挙を円滑に行うという臨時議長の役割の範囲内にあるからである。
3-10 「議会の許可を得て辞職することができる」(第108条本文)
許可は議会の議決による。辞職願は議長に提出するのが通例であり、会議規則にその旨の規定が置かれている。議長の辞職願であれば議長は除斥され、副議長が議長席に着いて議題とする。
辞職の効力は、許可の議決の時に生じるのが原則である。辞職願に将来の日付が記載されていれば、その日の到来をもって効力が生じる。議長から10月1日をもって辞職したい旨の辞表が9月20日に提出され、たまたま同日に議会が開かれている場合、これを議題として許可の議決ができるとする行政実例がある(昭和26年5月2日)。
議会は許可を拒むこともできる。許可するかどうかは議会の判断に委ねられており、不許可とされれば正副議長は在職し続ける。
逆に、議会の側から正副議長を辞めさせる手段はない。第108条はあくまで本人の辞職願を前提とする規定であり、辞職勧告決議や不信任決議を可決しても、本人が辞職願を出さない限り正副議長の地位は動かない。長に対する不信任議決(第178条)のような法的効果を持つ仕組みは、議長については用意されていない。議長を解任する制度がないことは国会も同様であり、国会法も常任委員長の解任(第30条の2)は定めるが、議長の解任は定めていない。
3-11 辞職願の撤回
辞職願は許可があるまでは撤回できると解されている。閉会中に議長が議員の辞職願を許可し、許可を郵送で通知した場合、辞職の効力は通知が本人に到達した時に生じ、到達前に辞職願を取り下げれば辞職の効果は生じないとする行政実例がある(昭和34年11月17日)。同じ考え方は、閉会中に議長が副議長の辞職を許可する場面(第108条ただし書)にも妥当する。許可通知の到達を確実に把握できるよう、配達証明などの手段を講じておくのが実務上の定石となる。
地方公務員法の世界でも、職員の退職願について、最高裁判決昭和34年6月26日は、免職辞令の交付があるまでは原則として撤回が自由であり、撤回が信義に反すると認められる特段の事情がある場合に限り許されないとしている。一身上の地位からの離脱を相手方の行為(許可・承認)にかからせる制度では、その行為が完了するまで本人の意思を尊重するという共通の発想が見て取れる。
3-12 「但し、副議長は、議会の閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる」(第108条ただし書)
閉会中に副議長の辞職を許可できるのは議長である。議長自身の議長職辞職にはこの例外がない。閉会中に議長が議長職を辞そうとすれば、臨時会の招集を待つか、長に招集を求める手続(議長による招集請求は第101条第2項により議会運営委員会の議決を要する)を経るほかない。
ここから、実務でよく見られる選択が生まれる。議長職だけを辞めるのではなく、議員そのものを辞めるという選択である。議員の辞職は閉会中でも第126条ただし書により許可を得られ、議員の身分を失えば議長の地位も当然に失われる。ただし、前述のとおり議長自身の議員辞職を許可するのは副議長である。
4 用語解説
事故とは、在職しているが職務を執ることができない状態をいう。病気、出張のほか、第117条の除斥による場合を含む。
欠けたとは、その地位にある者がいなくなった状態をいう。死亡、辞職、失職、除名などによる。「欠員」と同義である。
職務を行うとは、代理ではなく自己の名で職務を執行することをいう。第106条第1項の副議長、同条第2項の仮議長、第107条の臨時議長はいずれもこの表現で規定されている。
仮議長とは、正副議長にともに事故があるときに議会が選挙し、または議長が委任を受けて指名する臨時の議長職務執行者をいう。正副議長のいずれかの事故が止めば直ちに職務を返す。
臨時議長とは、議長・副議長・仮議長の選挙を行う場合に議長の職務を行う者がいないとき、法律上当然に議長の職務を行う年長の議員をいう。議会の選任行為を要しない点で仮議長と異なる。
除斥とは、議長・議員が自己や一定の親族の一身上に関する事件や、直接の利害関係のある事件の議事に参与できないことをいう(第117条)。議長の除斥は第106条第1項の事故に当たる。
辞職許可とは、議会(閉会中は議長)が議員や副議長の辞職を認める行為をいう。許可の時(将来日付の場合はその日、通知による場合は到達時)に辞職の効力が生じる。
流会とは、会議を開くべき日に会議が開かれず、または開かれた会議が再開されないまま時間切れとなってその日の会議が成立しないことをいう。会期の最終日に流会となれば、議決に至らなかった事件は会期不継続の原則(第119条)により廃案となる。
5 判例・裁判例と行政実例
5-1 最高裁判例の不存在
第106条から第108条までについて、条文の解釈を正面から判断した最高裁判所の判例は見当たらない。副議長の職務代行の範囲、仮議長の選任手続、臨時議長の権限、正副議長の辞職許可の法的性質のいずれについても、最高裁判所の判断は示されていない。
背景には、正副議長の選任・辞職・職務代行は議会内部の組織運営に属し、長く司法審査の対象外と考えられてきたことがある。最高裁大法廷判決令和2年11月25日(岩沼市議会議員出席停止事件)は、議員に対する出席停止の懲罰の適否は常に司法審査の対象となるとして昭和35年の大法廷判決を変更したが、同判決は議員としての権利行使を奪う懲罰を対象としたものであり、正副議長の地位をめぐる内部的な処理にまで審査が及ぶかどうかは判示していない。
したがって、この3か条の解釈は、総務省(旧自治省)の行政実例と、全国の議長会による照会回答の蓄積に大きく依存している。本稿で行政実例を多く引用しているのはそのためである。行政実例は法的拘束力を持たないが、議会運営の実務はこれを基準に動いており、議会事務局の職員が知らずに済ませることはできない。
5-2 本稿で用いた主な行政実例
本文で引いた行政実例を、条文との対応で整理する。
| 行政実例の日付 | 内容 | 関係条文 |
|---|---|---|
| 昭和23年6月21日・昭和30年3月25日 | 閉会中の議長自身の議員辞職の許可は副議長が行う | 第106条第1項、第126条 |
| 昭和25年3月22日(自連行発第31号) | 法令に基づかない議長不信任決議・議員辞職勧告決議も除斥の対象となる | 第106条第1項、第117条 |
| 昭和25年6月26日 | 正副議長がともに欠けたときは速やかに後任を選挙すべきで、仮議長による議事運営は適法でないが、議決は当然無効とはならない | 第106条第2項、第107条 |
| 昭和26年5月2日 | 将来日付の議長の辞表を提出当日の会議で議題とし許可できる | 第108条 |
| 昭和26年9月10日 | 年長の議員とは議場に出席している議員中の最年長者をいう | 第107条 |
| 昭和28年4月6日 | 一般選挙後初議会で正副議長選挙が行われなかった場合、年長議員の下で会期の決定・延長ができる | 第107条 |
| 昭和34年11月17日 | 閉会中の辞職許可は通知の到達で効力を生じ、到達前の取下げが可能 | 第108条ただし書、第126条 |
| 昭和36年6月9日 | 議場に出席している年長の議員は臨時議長の職務を拒めない | 第107条 |
| 昭和37年6月30日 | 副議長欠員のまま招集された議会では、議長不信任決議より副議長選挙を先決事件とする | 第106条 |
| 昭和37年10月3日 | 正副議長への不信任動議が同時に出た場合、副議長が議長の件を、議長が副議長の件を順に採決する | 第106条第1項、第117条 |
6 マスコミが報じた事例
6-1 鎌倉市議会:申合せ任期後の続投と二日連続の流会(令和8年)
鎌倉市議会(定数26)は、正副議長の任期を1年とする申合せを持っていた。ところが議長は任期を過ぎても辞職せず、新議長の選任手続を受け入れないまま続投した。
報道によれば経過は次のとおりである。令和8年6月4日の本会議で、議長に対する辞職勧告の動議が賛成多数で可決された。議長は辞職に応じず議会運営を続け、6月9日の一般質問では市長の挙手を指名せず職権で休憩を宣告するなどし、当初6月19日までだった会期は7月16日まで延長された。7月15日の本会議で議員が議長不信任の動議を提出しようとすると、議長は休憩を宣告して退席した。議員側は地方自治法に基づく開議の請求を行ったが、請求書の受取りが拒否され、会議は再開されないまま午前0時を迎えて流会した。翌16日も、再び動議が発言されると議長は休憩を宣告し、午後6時で6月定例会は流会となった。市民からの陳情27件と報告事項5件が審議されないまま廃案となった。7月17日には市議13人が議長職権の濫用を理由に辞職を求める声明を出し、議長は8月20日に通院・治療を理由とする辞職願を提出して許可され、同日の選挙で副議長が議長に、別の議員が副議長に選ばれた。
この事案は、本稿の条文がどこまで機能し、どこで機能しないかを示している。
第一に、第108条は議長の辞職を本人の辞職願にかからせており、議会が申合せ違反を理由に議長を辞めさせる手段はない。6月の辞職勧告は法的効果を持たず、議長の地位は8月20日に本人が辞職願を出すまで動かなかった。
第二に、議長が議場にいて休憩を宣告し退席した状態は、第106条第1項の「事故」と直ちに同視することはできない。副議長が議長の宣告を無視して議事を再開すれば、その会議の適法性自体が争われかねない。
第三に、法が用意する唯一の打開手段は第114条第1項である。議員定数の半数以上の請求があれば議長はその日の会議を開かなければならず、なお開かないときは第106条第1項の例により副議長が会議を開くことができる。鎌倉市議会の定数26の半数は13であり、辞職を求める声明に加わった市議が13人であったことは、この要件との関係で示唆的である。もっとも、報道からは開議請求の署名者の数や請求の形式、休憩中の会議の「再開」請求を第114条第1項の「その日の会議を開く」請求として扱えるかといった法的論点がどう処理されたかは確認できない。休憩は会議の一時的な中断であって会議を閉じたわけではないから、休憩後の再開を求める請求に第114条がそのまま適用されるかについては解釈の余地があり、本稿でも断定は控える。
いずれにせよ、第114条第1項後段が第106条を引用している意味、すなわち副議長の職務代行が議長の不作為への対抗手段として法定されていることを知っているかどうかで、流会の局面での議会事務局の助言の質は大きく変わる。
6-2 福岡県議会:正副議長の連続辞職と39対39のくじ引き議長選(令和8年)
福岡県議会(定数87)では、令和8年7月、正副議長ポストをめぐる金銭授受疑惑が表面化した(前稿参照)。その後の経過は、第106条から第108条までの条文を順になぞるような展開となった。
| 時期 | 出来事 | 関係条文 |
|---|---|---|
| 令和8年7月24日 | 副議長が議員を辞職し、議長がこれを承認 | 第126条ただし書(閉会中の議員辞職) |
| 同年8月17日 | 議長職の辞職勧告決議案が提出されたが、採決中止の動議が可決。議長は議会改革にめどが付いた後に議長職を辞する意向を会派総会で伝えたと報道 | 第108条 |
| 同年8月25日 | 議長が議長および議員の辞職を表明し、議員を辞職。正副議長がともに不在となる | 第106条、第126条 |
| 同年9月9日 | 9月定例会開会。議長選挙で2候補が39票ずつの同数、くじで当選人決定 | 第107条、第118条 |
7月24日に副議長が議員を辞職した時点で副議長は欠けた。8月25日に議長が議員を辞職すると、正副議長はともに欠けた状態となった。第106条第2項は「ともに事故があるとき」の規定であって欠けた場合を対象としないから、仮議長の出番はない。後任の議長選挙は、第107条により議場に出席している年長の議員が臨時議長として主宰する場面となる。
ここで一つ、条文上の空白が浮かび上がる。副議長が欠けた状態で、閉会中に議長が議員を辞職する場合、その辞職を誰が許可するのかという問題である。行政実例は閉会中の議長自身の議員辞職は副議長が許可するとするが、その副議長がいない。報道からは福岡県議会がこの手続をどのように処理したかを確認できず、本稿でも推測は控える。ただ、議会事務局としては、副議長が欠けた時点で速やかに後任を選ぶ(臨時会の招集を求める)ことが、この種の空白を生まないための最も確実な備えであることは指摘しておきたい。行政実例が副議長選挙を先決事件とする考え方(昭和37年6月30日)の実務的な意味はここにある。
また、8月25日から9月9日までの約2週間、福岡県議会には議長も副議長も、その職務を行う者もいなかった。第107条の臨時議長は選挙を行う場合に限って登場する存在であり、閉会中の議会事務の統理(第104条)や議会の代表を担う者は、法律上存在しない。長が定例会を招集すれば議会は動き出すが、それまでの間に議長名で行うべき対外的な行為があれば執行できない。正副議長がともに欠ける事態を法は想定しているものの、その間の空白を埋める仕組みまでは用意していない。
9月9日の議長選挙では、出席85人、有効投票79、無効投票6で、2候補が39票ずつの同数となった。議会運営委員会で協議したうえで、くじにより当選人が定められた。第118条第1項が準用する公職選挙法第95条第2項の帰結であり、前稿で紹介した平成23年の奈良市議会議長選(19対19、くじで決着)と同じ処理である。
報道によれば、無効票6票のうち3票には一方の候補の名字だけが書かれていたとされる。福岡県議会には同じ名字の県議が3人在籍しており、議長選挙は立候補制ではないため、名字だけでは誰に投票したかを特定できない。第118条第1項は公職選挙法第68条第1項(無効投票)を準用しており、公職の候補者の何人を記載したかを確認し難い投票は無効となる。議長選挙では議員全員が被選挙人となるから、同姓の議員がいる議会では、名字のみの記載は無効となるリスクを常に抱えている。前稿で紹介した立候補制と所信表明の導入は、透明化の効果に加えて、投票の特定性を高める効果も持つことになる。この投票の効力に異議がある場合は、第118条第1項後段により議会が決定し、都道府県議会の場合は決定の日から21日以内に総務大臣へ審査を申し立てる道がある(同条第5項)。
7 施行令・施行規則の関連規定
7-1 第106条から第108条までに直接の委任規定はない
プロジェクト内の地方自治法施行令(令和8年7月17日施行現在)と地方自治法施行規則(令和8年5月21日施行現在)を全文検索したところ、「仮議長」「副議長」「年長」「辞職」の語はいずれも一度も現れない。第106条から第108条までを受けて手続や様式を定めた政令・省令の規定は存在しない。仮議長の選挙手続、臨時議長の進行要領、辞職願の様式は、すべて各議会の会議規則と申合せが定めている。
7-2 番号の偶然の一致に注意:施行令第106条〜第108条
実務で注意したいのは、施行令にも第106条、第107条、第108条があり、法の同じ番号の条文とはまったく無関係な内容を定めている点である。施行令第106条は議会の解散の投票等について公職選挙法施行令の規定を準用し、第107条は議会とその解散請求代表者が学校・公民館・公会堂などの施設を使用して演説会を開催できることを定め、第108条は議会の解散の投票に公職選挙法を準用する場合の読替えを定める。いずれも住民の直接請求による議会解散の投票に関する規定である。
施行規則にも同様の番号の重なりがあり、施行規則第2条から第8条までは「地方自治法施行令第百六条、第百十四条、第百十七条……において準用する公職選挙法施行令」という形で施行令第106条を繰り返し引用している。議長の職務代行を調べるつもりで「第百六条」を検索すると、これらの解散投票の規定が大量にヒットする。法と施行令の条番号は対応していないという基本を、この3か条ほど実感させる箇所はない。
7-3 事務引継ぎ規定の不存在:施行令第123条〜第131条との対比
議長が交代する際の事務引継ぎについて、法令上の規定は存在しない。この点は、執行機関と比べると際立つ。
地方自治法第159条第1項は長の事務の引継ぎに関する規定を政令に委任し、施行令第123条から第131条までがこれを受けている。施行令第123条第1項は、長の更迭があった場合、前任者は退職の日から都道府県知事は30日以内、市町村長は20日以内に担任する事務を後任者に引き継がなければならないと定め、同条第2項は後任者に引き継げない特別の事情があるときは副知事・副市町村長に引き継ぐべきとする。施行令第124条は引継ぎに際して書類、帳簿および財産目録を調製し、処分未了・未着手の事項や将来企画すべき事項について処理の順序・方法と意見を記載すべきことを求め、施行令第127条は副知事・副市町村長の委任事務の引継ぎを、施行令第128条は既存の目録・台帳による代替を定める。施行令第131条は、正当な理由なく引継ぎをしない者に対し、都道府県に係るものは総務大臣、市町村に係るものは都道府県知事が10万円以下の過料を科すことができるとする。さらに施行令第140条と第141条は、これらの規定の一部を選挙管理委員会の委員長と監査委員に準用している。
議長にはこれらのいずれも準用されていない。議長は議会事務局職員の任命権者であり(第138条第5項)、議会の予算要求、係属中の訴訟(第105条の2)、政務活動費の報告書(第100条第15項)、情報公開請求への対応など、引き継ぐべき事務は少なくないにもかかわらず、引継ぎの期限も書類の調製も法定されていない。鎌倉市議会や福岡県議会のように議長が混乱の中で交代する場面では、この欠落が実務上の問題となりうる。議会事務局としては、議会の内部規程で議長交代時の引継ぎ事項を定めておくか、少なくとも施行令第124条の項目(書類・帳簿・財産目録、未了事項とその処理方針)を参考に引継書を作成する運用を確立しておくことが望ましい。
7-4 辞職願とオンライン化:施行規則第12条の2の3以下の射程
第138条の2は、議会等に対する通知のうち「この章の規定において文書等により行うことが規定されているもの」をオンラインで行えるとし、施行規則第12条の2の3から第12条の2の9までがその具体的方法を定めている(前稿参照)。
では正副議長の辞職願や議員の辞職願をオンラインで提出できるか。第108条も第126条も辞職の申出を文書で行うことを規定していない。書面性を定めているのは会議規則である(たとえば山口市議会会議規則第147条は、議員が辞職しようとするときは議長に辞表を提出しなければならないと定める)。したがって、辞職願は第138条の2のオンライン化の対象外であり、施行規則第12条の2の3以下の規定も適用されない。辞職願の電子提出を認めるかどうかは、会議規則の改正で各議会が判断する事項となる。施行規則第12条の2の9が必要な事項を議会等が定めるとしているのは第138条の2の対象となる通知についてであり、辞職願はその外にある。辞職は本人の真意の確認が特に求められる手続であるから、電子化する場合も本人確認の方法を慎重に設計する必要がある。
8 実務上の処理手順
8-1 議長に事故が生じたとき
議長から病気・出張等の連絡を受けたら、議会事務局は副議長に連絡し、会議の主宰を依頼する。会議の冒頭で副議長が議長席に着き、議長に事故がある旨を報告してから議事に入る。議長の事故が止めば、会議の途中でも議長と交代する。
議長の除斥が見込まれる議題(議長の辞職許可、議長に対する不信任・辞職勧告・問責など)があるときは、議事日程の段階で副議長の主宰部分を明確にしておく。正副議長の双方に関する動議が同時に出た場合は、昭和37年10月3日の行政実例に沿って、副議長が議長の件を、議長が副議長の件を順に扱う段取りとする。
会期の冒頭に仮議長の選任の議長への委任(第106条第3項)を議決し、あらかじめ仮議長を指名しておけば、正副議長がともに事故となった場合にも選挙を経ずに対応できる。
8-2 議長が欠けたとき
議長が欠けたら、副議長が議長の職務を行い、次の会議の冒頭で議長選挙を行う。閉会中であれば、臨時会の招集を求めることも検討する。議会からの請求(第101条第2項は議長が議会運営委員会の議決を経て請求する規定であり、議長の職務を行う副議長がこれを行う)によるのが原則と考えられている。
議長選挙は副議長が主宰する。副議長が議長に選ばれれば、副議長が欠けるから、続けて新議長の下で副議長選挙を行う。
8-3 正副議長がともに欠けたとき
仮議長を選挙するのではなく、議長選挙を行う。長が議会を招集し、議場に出席している最年長の議員が臨時議長として議長選挙を主宰する(第107条)。会議の冒頭で議会事務局長が第107条の規定により年長議員が臨時議長となる旨を告げ、臨時議長を紹介する運用が一般的である。
臨時議長の権限は議長選挙の実施に必要な範囲に限られるから、議長選挙を最優先で行い、会期の決定や議席の指定は新議長の下で行う。
8-4 正副議長の辞職許可
辞職願を受理したら、提出日、辞職の希望日、理由の記載を確認する。本会議で議題とするときは本人を除斥し(議長の辞職なら副議長が主宰)、許可の議決を行う。将来の日付の辞職であれば、その日に効力が生じる。許可後、議長選挙(または副議長選挙)を同じ会議で行うのが通例である。
副議長の閉会中の辞職を議長が許可する場合は、許可書を本人に交付または送付し、到達を確認できる方法を用いる。到達前の取下げは可能とされるから、取下げの申出があった場合の扱いも想定しておく。
9 昇任試験で問われる論点
「事故」と「欠けた」の区別は択一の定番である。第106条第1項は両方を掲げ、第2項は事故のみを掲げていることを正確に押さえ、正副議長がともに欠けた場合は仮議長ではなく第107条の年長議員の下で議長選挙を行うことを説明できるようにしておきたい。
仮議長と臨時議長の違いもよく問われる。仮議長は議会が選挙し(または議長が委任を受けて指名し)、正副議長の事故の間、議長の職務全般を行う。臨時議長は年長という基準で法律上当然に定まり、選挙の実施に必要な範囲に限って議長の職務を行う。選任の根拠、登場する場面、権限の範囲の三点で対比すると整理しやすい。
正副議長の辞職については、議会の許可が必要であること、閉会中は副議長のみ議長の許可で辞職できること、議長にはこの例外がないことを押さえる。議員の辞職(第126条)は閉会中なら議長の許可で辞職でき、閉会中の議長自身の議員辞職は副議長が許可するという行政実例まで書ければ評価は上がる。
論文では、申合せ任期と第108条の関係を論じさせる設問が考えられる。法定任期は4年だが実際には8割の市が申合せで短期交代を行っていること、その交代は第108条の辞職許可を通じて行われること、申合せに法的拘束力はなく本人が辞職願を出さなければ議会は議長を辞めさせられないこと、議長の不作為に対しては第114条第1項後段が第106条を引用して副議長による開議を認めていることを、鎌倉市議会の事例を素材に構成すると、制度の限界と安全弁を同時に論じることができる。
10 国の制度との簡単な対比
国会法は、議長に事故があるとき、または議長が欠けたときは副議長が議長の職務を行うと定め(第21条)、議長および副議長にともに事故があるときは仮議長を選挙し、議院は仮議長の選任を議長に委任できると定める(第22条第1項・第3項)。地方自治法第106条とほぼ同じ構造である。国会法も、正副議長がともに欠けたときは仮議長ではなく直ちに選挙を行うとしている(第23条)。
異なるのは、議長の職務を行う者がいない場合の主宰者である。国会法は仮議長の選挙や正副議長がともに欠けた場合の選挙で事務総長が議長の職務を行うとする(第22条第2項、第24条)。議員ではない事務方の長に選挙を主宰させる方式である。地方自治法は年長の議員に主宰させる(第107条)。議会事務局長は議長が任免する職員(第138条第5項)であり、議長選挙の主宰を職員に委ねる設計は採られていない。
辞職については、国会法第30条が各議院の役員は議院の許可を得て辞任でき、閉会中は副議長が議長の許可を得て辞任できると定めており、地方自治法第108条と同じ構造である。
地方公務員法との対比では、職員の退職は任命権者の承認(辞令の交付)によって効力を生じ、交付前の退職願の撤回が原則として自由であること(前掲最高裁判決昭和34年6月26日)が、議会の許可前の辞職願の撤回が可能とされることと対応している。
11 参考資料
- 地方自治法(昭和22年法律第67号)令和8年9月3日施行現行条文
- 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第106条〜第108条、第123条〜第131条、第140条、第141条
- 地方自治法施行規則(昭和22年内務省令第29号)第2条〜第8条、第12条の2の3〜第12条の2の9
- 国会法(昭和22年法律第79号)第21条〜第24条、第30条、第30条の2
- 最高裁判所大法廷判決令和2年11月25日(岩沼市議会議員出席停止事件)
- 最高裁判所判決昭和34年6月26日(公務員の退職願の撤回)
- 本文5-2の表に掲げた行政実例
- 本橋謙治「議会運営Q&A」自治体法務研究2013年春号(臨時議長の役割・権限等)、同2023年春号(正副議長に対する動議と除斥、閉会中の議長の議員辞職等)
- 全国市議会議長会「市議会の活動に関する実態調査結果(令和7年中)」15 議長の選出方法・任期、会派
- 松田町議会会議録「会期中における仮議長の選任を議長に委任する件」
- 鎌倉市議会の議長続投・流会・辞職に関する報道(令和8年6月〜8月、神奈川新聞、タウンニュース、朝日新聞、毎日新聞)
- 福岡県議会の正副議長辞職と議長選挙に関する報道(令和8年7月〜9月、日本経済新聞、西日本新聞、毎日新聞、RKB毎日放送、FBS福岡放送、TNCテレビ西日本)
◆自治体研修850回超の行政書士が、係長・課長昇任試験の論文を1本から添削します。 https://compliance21.com/promotion-examination-lg/


