1 条文原文

(負担付遺贈)
第千二条 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

(負担付遺贈の受遺者の免責)
第千三条 負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

読解に必要な関連条文を挙げる。

(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
第千二十七条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

(受遺者に対する弁済)
第九百三十一条 限定承認者は、前二条の規定に従って各相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条第一項 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2 二か条の位置づけ

遺贈は財産を無償で与える処分であるが、遺言者はそこに一定の義務を組み合わせることができる。「自宅を長男に遺贈する。長男は母が存命の間、母を自宅に住まわせ、生活費として毎月五万円を支払う」「預金を友人に遺贈する。友人は愛犬の生涯の世話をする」という形である。これが負担付遺贈である。

第1002条は、負担付遺贈を受けた者の責任に上限を設け、受遺者が放棄した場合に負担の利益を受ける者を救済する。第1003条は、遺贈の価値が相続の事情で目減りした場合に、負担も比例して軽くする。受遺者に過大な義務を負わせないことと、負担によって利益を受ける者を守ることの両立が、二か条に通じる設計思想である。

負担が履行されない場合の処理は、第1027条が定める。条文の場所は遺言の撤回と取消しの節に離れているが、三か条を合わせて読まなければ負担付遺贈の全体像はつかめない。

3 負担付遺贈とは何か

3.1 負担と条件の違い

負担付遺贈の「負担」は、受遺者に課される法律上の義務である。停止条件とは異なる。「母の介護をしたときは自宅を与える」と書けば、介護という事実が生じるまで遺贈の効力は発生しない。これが停止条件付遺贈である。「自宅を与える。その代わりに母の介護をする」と書けば、遺贈は遺言者の死亡と同時に効力を生じ、受遺者は介護の義務を負う。これが負担付遺贈である。

負担を履行しなくても、遺贈が当然に効力を失うことはない。相続人が第1027条の手続を踏んで家庭裁判所に取消しを請求し、認められて初めて遺贈は失効する。

どちらと読むかは遺言の文言と遺言者の意思から判断される。書き方によって結論が大きく変わるため、遺言作成の段階で明確にしておく必要がある。

3.2 負担の内容と受益者

負担の内容は、金銭の支払、扶養、介護、ペットの世話、墓の管理、住宅ローンの返済、特定の事業の継続など幅がある。利益を受ける者は、相続人であることも、相続人以外の第三者であることも、特定の個人ではなく公益目的であることもある。負担は、実現可能で、内容を特定できるものでなければならない。

包括遺贈にも特定遺贈にも負担を付けることができる。

3.3 負担付贈与との比較

生前に同じことをすれば負担付贈与(第553条)となる。負担付贈与は契約であるから、受贈者は内容を知ったうえで合意する。負担付遺贈は遺言者の単独行為であり、受遺者は死後に初めて負担の内容を知ることもある。受遺者の選択肢は、承認するか放棄するかしかない。この非対称性が、第1002条第1項の責任制限を必要とする理由の一つになる。

4 第1002条第1項(受遺者の責任の上限)

4.1 趣旨

遺贈は受遺者に利益を与える行為である。負担の価値が遺贈の価値を上回るなら、受遺者は遺贈を受けたことで損をすることになり、遺贈の本質に反する。第1002条第1項は、受遺者の責任を遺贈の目的の価額の範囲内にとどめることで、この事態を防ぐ。

4.2 文理解釈

「遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ」責任を負うとは、受遺者が自分の固有財産から持ち出してまで負担を履行する必要はないという意味である。一千万円の遺贈を受け、月十万円の扶養料を支払う負担が付いていれば、累計が一千万円に達した時点で、受遺者の責任は尽きる。

この規定は、負担そのものを無効にするものではない。価額の範囲を超える部分について、履行を強制されないという責任の限定である。受遺者が任意に超えて履行することは妨げられない。

「遺贈の目的の価額」の評価時点については、相続開始時とする見解と履行時とする見解があり、確立した判例は見当たらない。不動産や株式のように価格が変動する財産を遺贈する場合、上限をめぐる争いを避けるには、遺言で負担の総額や期間を具体的に定めておくのが確実である。

受遺者が相続人であるか否かを問わず、この上限は適用される。

5 第1002条第2項(受遺者の放棄と受益者の地位)

5.1 趣旨

受遺者が負担を嫌って遺贈を放棄すると、第995条により、受遺者が受けるはずだった財産は相続人に帰属する。そうなると、負担によって利益を受けるはずだった者は何も得られない。第1002条第2項は、この場合に受益者が自ら受遺者の地位に就くことを認め、遺言者が受益者に与えようとした利益を守る。第995条本文に対する特則である。

5.2 文理解釈

「負担の利益を受けるべき者」は、特定された個人を想定している。受益者が不特定多数であったり、公益目的であったりする場合には、本項の適用は難しい。

「自ら受遺者となることができる」とは、受益者の意思表示によって受遺者の地位を取得することを意味する。受益者に義務はなく、受遺者となるかどうかは受益者の選択に委ねられる。受遺者となった受益者は、遺贈の目的物を取得する。負担の内容が受益者自身への給付であれば、その負担は受益者自身に向けられたものとなり、実質的に意味を失う。

ただし書により、遺言者が「受遺者が放棄したときは、遺贈の目的物は相続人に帰属する」と定めていれば、受益者は受遺者となれない。

5.3 具体例

遺言者が「預金一千万円を甥に遺贈する。甥は遺言者の内縁の妻に毎月十万円を支払う」と定めたとする。甥が放棄すれば、本項により内縁の妻は自ら受遺者となり、一千万円を直接取得できる。内縁の配偶者には相続権がないため、この規定が生活の支えとして機能する場面がある。

6 第1003条(負担付遺贈の受遺者の免責)

6.1 趣旨

遺贈の価値は、遺言者の死後の事情によって減ることがある。遺贈の価値が減ったのに負担は元のままというのでは、受遺者の負担が相対的に重くなり、第1002条第1項の趣旨が損なわれる。第1003条は、遺贈の価額が減った割合に応じて負担も軽くすることで、受遺者の受ける利益と負担との均衡を保つ。

6.2 限定承認による減少

相続人が限定承認をすると、相続財産はまず相続債権者への弁済に充てられ、その後でなければ受遺者に弁済できない(第931条)。債務が多ければ、受遺者が受け取る額は遺言の定めより少なくなる。一千万円の遺贈が相続債権者への弁済の結果六百万円に減れば、減少の割合は四割であり、受遺者は負担の四割を免れる。

6.3 遺留分による減少と条文の文言

条文は「遺留分回復の訴え」という表現を残している。平成30年法律第72号による相続法改正前は、遺留分を侵害する遺贈は減殺請求によって侵害の限度で効力を失い、遺贈の目的物そのものが遺留分権利者に戻る仕組みであった。この構造のもとでは、遺留分の行使によって遺贈の目的の価額が文字どおり減少した。

改正後は、遺留分侵害額請求は金銭の支払を求める権利となり(第1046条第1項)、遺贈そのものの効力は失われない。受遺者は目的物を保持したまま、侵害額に相当する金銭を支払う。形式上は遺贈の目的の価額は減らないが、受遺者が手にする実質的な利益は支払額の分だけ減る。

第1003条の文言は改正の対象とならなかったが、同条の趣旨は受遺者の利益と負担の均衡にあるから、受遺者が遺留分侵害額を支払った場合には、その支払額が遺贈の目的の価額に占める割合に応じて負担を免れると解するのが、条文の目的に沿う。この点について判断を示した判例は見当たらず、今後の解釈に委ねられている。

6.4 ただし書

遺言者が「遺留分侵害額請求を受けても、負担は減らさない」と定めていれば、その意思に従う。ただしその場合でも、第1002条第1項の上限は働く。受遺者が遺贈の実質的価値を超えて負担を強いられることはない。

7 負担が履行されないとき

7.1 第1027条による取消し

受遺者が負担を履行しない場合、相続人は相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がなければ、家庭裁判所に遺言の取消しを請求できる。取消しが認められると遺贈は効力を失い、受遺者が受けるはずだったものは第995条により相続人に帰属する。

条文上、取消しを請求できるのは相続人である。遺言執行者も請求できるとする見解がある。一部の履行があってもそれでは負担付遺贈の目的を達せられない場合には取消しが認められ、未履行の部分がわずかな場合には認められないとされる。また、不履行が受遺者の責めに帰すべき事由によることが求められる。

7.2 受益者は直接請求できるか

取消しは受益者にとって必ずしも救済にならない。取り消された遺贈の目的物は相続人に帰属し、受益者には何も入らないからである。受益者が相続人以外の者である場合、受遺者に直接履行を求められるかが問題となる。

学説は肯定説と否定説に分かれる。否定説は、受益者は履行への期待を持つにとどまり、具体的な請求権は有しないとする。肯定説は、受益者に請求権を認めなければ遺言者の意思が実現されないことを重視する。後述の東京地方裁判所の判決は、肯定説に立った。

8 用語解説

負担付遺贈
受遺者に一定の義務を負わせる遺贈。負担は条件ではなく、履行しなくても遺贈は当然には失効しない。

負担
負担付遺贈において受遺者が負う義務。金銭の支払、扶養、介護、動物の世話、墓の管理などがある。

負担の利益を受けるべき者(受益者)
負担の履行によって利益を受ける者。相続人である場合も、第三者である場合もある。

遺贈の目的の価額
遺贈によって受遺者が取得する財産の価値。第1002条第1項の責任の上限となる。

限定承認
相続によって得た財産の限度でのみ被相続人の債務を弁済する旨の留保付きの承認(第922条)。相続人全員で行う必要がある。

遺留分侵害額請求
遺留分を侵害された相続人が、受遺者や受贈者に対し、侵害額に相当する金銭の支払を求める権利(第1046条第1項)。

特定財産承継遺言
遺産分割方法の指定として、特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言(第1014条第2項)。いわゆる「相続させる」旨の遺言。

9 改正の経緯と現行法の状況

第1002条と第1003条は、明治民法の規定を平成16年法律第147号で現代語化したものであり、それ以降、文言は改められていない。

平成30年法律第72号による相続法改正は、令和元年7月1日から遺留分を金銭債権化した。第1003条の「遺留分回復の訴え」という文言は旧来の物権的構成を前提としたものであるが、改正の対象から外れ、そのまま残っている。現行法のもとでの解釈は、6.3で述べたとおりである。

同じ改正で、特定財産承継遺言という用語が法文に取り入れられた(第1014条第2項)。負担付の特定財産承継遺言に第1027条がどう及ぶかは、後述の裁判例で扱う。

令和8年6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は、成年後見制度の一元化と遺言制度の見直し(押印の任意化、保管証書遺言の創設)を内容とするものであり、本記事の二か条の文言に変更は加えられていない。施行日は政令で定められる。

10 判例・裁判例

10.1 負担付の相続させる遺言と取消し(仙台高等裁判所決定令和2年6月11日)

遺言者は、障害基礎年金を主な収入とする二男に対し、生前から毎月少なくとも三万円の生活費を援助していた。遺言者は公正証書遺言で「長男にすべての財産を相続させる。この相続の負担として、長男は、二男の生活を援助するものとする」と定めた。長男は遺言者の死亡後、二回送金したのちに送金をやめたため、二男は書面で履行を催告し、相当期間経過後に家庭裁判所に遺言の取消しを求めた。

原審の福島家庭裁判所いわき支部は、負担付の相続させる旨の遺言にも第1027条が類推適用されるとし、長男は少なくとも月三万円の援助義務を負っていたと認定して、遺言を取り消した。

仙台高等裁判所も、負担付の相続させる旨の遺言は遺贈に類似するとして第1027条の類推適用を認め、負担の内容を、二男の存命中、少なくとも月額三万円の経済的援助を行う法律上の義務と解した。そのうえで、遺言の文言が抽象的で解釈が容易でないこと、長男が履行を一切拒絶しているわけではなく義務の内容が定まれば履行する意思を示していることを考慮し、不履行には長男の責めに帰することができないやむを得ない事情があるとして、原審を取り消し、遺言の取消しを認めなかった。

この決定から読み取れることは二つある。一つは、第1027条が遺贈に限らず、負担付の相続させる旨の遺言にも類推適用されうることである。もう一つは、負担を「生活を援助する」と抽象的に書いた遺言は、義務の範囲をめぐる争いを招き、取消しという制裁を働かせにくくすることである。負担の内容は、金額、頻度、期間、支払方法まで特定して書くべきである。

10.2 相続人でない受益者の直接請求(東京地方裁判所判決平成30年1月18日)

遺言者の法定相続人は子一人であったが、遺言者は全財産を孫の一人に遺贈し、その孫が他の三人の孫に財産の六分の一ずつを与えることを負担とする遺言を残した。受益者である孫の一人が、受遺者である孫に負担の履行を求めて提訴した。受遺者は、第1027条が相続人にしか権限を与えていないことを理由に、相続人でない受益者には請求権がないと争った。

東京地方裁判所は受益者の請求を認めた。理由として、直接の請求を認めなければ受遺者が任意に履行しない限り受益者は利益を得られず遺言者の目的が達せられないこと、相続人が第1027条で遺言を取り消しても財産は相続人に帰属し受益者は利益を得られないこと、第1002条第2項が受益者を一定の利益を受けるべき者と位置づけていること、第1002条第1項の責任制限があるため受遺者に不当な不利益は生じないこと、受遺者は負担の軽重を考えて放棄することもできること、条文上受益者の直接請求権が明確に否定されていないことを挙げた。

地方裁判所の判断ではあるが、第1002条の二つの項を、受益者の地位を支える根拠として正面から用いた点に特徴がある。受益者の請求が認められるには、負担の内容が確定でき、実現可能であることが前提となる。

10.3 第1002条・第1003条そのものをめぐる判例の状況

第1002条と第1003条を正面から扱った最高裁判所の判例は見当たらない。負担付遺贈をめぐる紛争は、第1027条の取消しや受益者の請求という形で表面化し、二か条はその判断の前提として参照されるにとどまっている。

11 実務上の留意点

遺言を作る側への助言は次のとおりである。

  • 負担か条件かを明確に書く。「その代わりに」「負担として」と書けば負担、「したときは」と書けば条件と読まれやすい
  • 負担の内容は、金額、支払頻度、期間、支払方法、終期を具体的に定める。「面倒を見る」「援助する」では、仙台高決令和2年6月11日のように争いの種になる
  • 受遺者が放棄した場合に誰が財産を取得するかを書いておく。定めがなければ、受益者が自ら受遺者となるか、相続人に帰属する
  • 負担の履行を確保するため、遺言執行者を指定する
  • ペットの世話のように長期にわたる負担は、負担付遺贈より信託が適する場合もある

負担付遺贈を受けた側への助言は次のとおりである。

  • 負担の内容を確認し、遺贈の価値と比べてから承認するか放棄するかを決める
  • 負担の総額は遺贈の目的の価額が上限となる。それを超える部分を固有財産から支払う義務はない
  • 限定承認や遺留分侵害額の支払で実質的な取り分が減ったときは、負担の軽減を主張できる
  • 負担を履行しないまま放置すると、相続人から遺言の取消しを請求され、遺贈そのものを失うおそれがある

負担の受益者への助言は次のとおりである。

  • 受遺者が放棄したときは、自ら受遺者となることを検討する
  • 受遺者が履行しないときは、まず書面で履行を求める。相続人でない受益者も直接の履行請求を認めた裁判例がある

12 参考資料・参考サイト

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