はじめに――業界を揺るがした資格不正問題

建設業における技術者配置の問題は、個別企業のミスにとどまらず、業界全体を巻き込む社会問題に発展した時期がある。2019年から2021年にかけて大和ハウス工業・パナソニック環境エンジニアリングをはじめとする複数の大手企業・グループ企業で、施工管理技士等の資格を不正に取得していた事実が相次いで発覚した。

この問題が示したのは、技術者配置違反が「うっかりミス」や「中小企業の問題」ではなく、大手企業でさえ長期にわたって組織的に行われうるという現実である。そして行政の対応は、発覚から数年を経ても処分が確実に下るという厳格なものだった。

既述の「主任技術者・監理技術者違反の実例」では制度と違反パターンを解説したが、本稿では実際の行政処分事例を軸に、どのような違反にどのような処分が下ったか、そして何が発覚の契機になったかを具体的に整理する。


処分の法的根拠と処分基準

まず、技術者配置違反に対する行政処分の根拠を整理しておく。

国土交通省が定める「建設業者の不正行為等に対する監督処分の基準」(令和5年3月3日最終改正)は、技術者配置違反について以下の基準を定めている。

建設業法第26条の規定に違反して主任技術者又は監理技術者を置かなかったとき(資格要件を満たさない者を置いたときを含む)は、15日以上の営業停止処分を行うこととする。ただし、技術検定の受検又は監理技術者資格者証の交付申請に際し虚偽の実務経験の証明を行うことによって、不正に資格又は監理技術者資格者証を取得した者を主任技術者又は監理技術者として工事現場に置いていた場合には、30日以上の営業停止処分を行うこととする。また、工事現場に置かれた主任技術者又は監理技術者が専任義務に違反する場合には、指示処分を行うこととし、指示処分に従わない場合は機動的に営業停止処分を行うこととし、その場合において営業停止の期間は7日以上とする。

この基準が示すように、「資格要件を満たさない者を配置した」場合と「不正取得した資格者を配置した」場合では処分が異なる。後者(不正取得)はより悪質として処分が重くなる構造である。

さらに重要なのは、技術検定不正受検防止対策検討会が、国土交通省が国家資格である技術検定において、複数の企業の社員が所定の実務経験を充足せずに受検し、施工管理技士の資格を不正に取得し、これらの社員を監理技術者等として配置していた事態を受けて設置され、監督処分の厳格化が提言されたという経緯である。この問題を契機に処分基準が改正・厳格化されており、以後の違反は旧基準より重く扱われる。


事例① 大和ハウス工業の処分(令和3年11月)

大手住宅・建設会社である大和ハウス工業株式会社は、令和3年11月17日、国土交通省近畿地方整備局から指示処分および営業停止処分を受けた。

建設業法第15条第2号の規定に違反して、資格要件を満たさない者を営業所の専任技術者として配置していた。並びに建設業法第26条の規定に違反して、資格要件を満たさない者を主任技術者及び監理技術者として工事現場に配置していた。令和元年10月23日に大和ハウス工業株式会社より国土交通省に対して、社員の一部が技術検定試験において所定の実務経験を充足していない状況で受検し、施工管理技士の資格を取得している可能性がある旨の報告があった。調査の結果、不正取得であったため資格要件を満たさない社員を同社の16件の工事で監理技術者・主任技術者として配置していたほか、4営業所で専任技術者として配置していたことが判明した。

この事案のポイントは自主申告による発覚であり、会社側が問題を認識して自ら国土交通省に報告している点である。自主申告は課徴金減免制度における自主申告と同様に、処分の軽減につながる可能性があるが、申告した事実と処分を免れられるかどうかは別問題である。自ら申告した場合でも、違反の事実が認定されれば処分は下る。


事例② パナソニックグループの処分(令和7年2月)

建設業界における技術者配置違反の処分事例として、規模・影響ともに近年最大のものがパナソニックグループに対する一連の行政処分である。

問題の発端は2020年秋、パナソニック環境エンジニアリング株式会社における内部調査で施工管理技士等の資格を不正に取得していた疑義が発覚したことだった。その後、国土交通省の指示のもとでグループ全体の自主調査が行われ、2021年に大規模な実態が公表された。

パナソニックグループ全体の自主調査の結果、合計390名の社員が所定の実務経験を充足せずに技術検定を受検し施工管理技士の資格を取得していた。合計13名の社員が所定の実務経験を充足せずに交付申請を行い監理技術者資格者証を取得していた。不正取得であったため資格要件を満たさない社員を、主任技術者等として最大2422件の工事(うち請負代金500万円以上の工事は150件)に配置していた可能性があり、また営業所専任技術者として合計58名を配置していた。

自主調査の公表から約3年半を経て、行政処分が下った。2025年1月31日、パナソニックホールディングスは、グループ企業16社が国土交通省および地方自治体から監督処分を受けたことを発表した。7社が22日間(2025年2月15日から3月8日)、2社が15日間(2025年2月15日から3月1日)の営業停止を命じられた。処分の理由は、建設業法第26条に違反し、資格要件を満たさない者を主任技術者および監理技術者として工事現場に配置したことが確認されたためである。

さらに、資格要件を満たさない社員を営業所の専任技術者として配置していたパナソニックなど10社に対しては、再発防止などを求める指示処分が出された。

パナソニックに関しては過去にも、2006年9月にパナソニックシステムソリューションズ社が同社社員の監理技術者資格および施工管理技士資格の不正取得していたことを国土交通省に報告しており、今回は再発事案である。

この点が重要である。一度問題が発覚して再発防止に取り組んでいたにもかかわらず、同様の問題が繰り返されたのである。資格管理の仕組みを制度として整備しなければ、担当者が変わるたびに同じ問題が起きるという組織的な課題が浮かび上がっている。


発覚のプロセス――どのように問題は表面化するか

これら2件の事例で共通するのは、いずれも内部調査による自己発見・自主申告を経て処分に至っている点である。しかし、行政が把握する技術者配置違反の経路はこれだけではない。

立入検査による発覚も頻繁に起きる。大臣許可業者を対象とした立入検査の実施件数は2023年度で806件であり、立ち入り検査では発注者や下請会社、その他取引先との契約関係の書類を中心にチェックされ、建設業法で作成が義務付けられている書類が保存されているか適切な内容が記載されているかが検査される。

立入検査の際、施工体制台帳・施工体系図・技術者台帳と実際の資格証の照合が行われる。資格者証の有効期限切れ、講習未受講、実態と一致しない技術者の名前――これらはすべて検査で発見される。

また、元請業者・発注者からの通報、下請業者からの申告、近隣住民・施主からの苦情なども発覚の契機となる。「現場に技術者が来ない」「技術者と名乗っているが資格証を見せてもらったことがない」という現場の声が行政に届くケースも実際に存在する。

既述の「主任技術者・監理技術者違反の実例」で紹介した千葉県の処分事例では、資格要件を満たさない監理技術者の設置が発覚し、29日間の建設業の営業全部停止命令が下された。「どうせバレない」という意識は、行政の調査体制と情報収集能力の強化によってもはや根拠のない楽観論である。


処分後の実際の影響――処分は「終わり」ではない

営業停止処分を受けた後の実務的な影響を正確に理解しておく必要がある。

停止期間中は、建設工事に関連する契約締結・入札・見積もり・交渉を行うことができない。これは単に工事ができないということではなく、新規受注活動のすべてが停止することを意味する。工期が進行中の現場は継続できるが、新しい案件を獲得する一切の活動が法的に禁じられる。

さらに、指名停止の波及がある。国土交通省が発注する工事については指名停止が連動するが、地方公共団体・民間大手発注者も独自の指名停止基準を持ち、行政処分を受けた業者を一定期間排除する仕組みを持つ。パナソニックグループのような大規模顧客との取引への影響は、処分期間が終わっても信用失墜という形で長く続く。

また、処分情報は国土交通省のネガティブ情報等検索サイトに5年間公開される。取引先・発注者が業者選定の際にこのサイトを参照することは常態化している。


組織的な再発防止策――処分事例から学べること

これらの事例から、建設会社が組織として取り組むべき再発防止策を導き出せる。

第一に、資格管理台帳の整備と定期的な棚卸しである。社員・技術者全員の資格種別・取得年月・有効期限・講習受講状況を一元管理し、更新時期を事前にアラートする仕組みが必要だ。担当者の異動・退職によって管理が途絶えることが最大のリスクであり、個人の管理ではなく組織の仕組みとして運用する体制が求められる。

第二に、実務経験の記録と検証体制の構築である。パナソニック・大和ハウスの事案に共通するのは、実務経験証明の内容を会社として十分に検証せず、本人申告または上司確認のみで処理していた組織的な管理不備である。実務経験の記録を客観的な資料(工事記録・勤務記録等)で裏付ける習慣を制度として定着させることが必要となる。

第三に、外部監査・第三者確認の活用である。内部だけの確認では見落としが生じやすい。行政書士・弁護士等の専門家を活用した定期的な法令遵守状況の点検は、問題の早期発見に有効である。自主申告での発覚は、処分において一定の配慮につながる可能性があるが、何より発覚前に問題を摘み取ることが経営上の最善策である。


まとめ

技術者配置違反の行政処分事例から得られる教訓は明確である。

大手企業であっても処分は確実に下る。発覚から数年を経ても処分は執行される。自主申告は望ましい対応だが、処分そのものは免れない。一度問題が発覚した会社で再び同様の問題が起きた場合は、より重く扱われる。そして処分の影響は処分期間が終わっても信用失墜という形で残り続ける。

技術者配置の問題は「書類の整備」で防げる問題である。制度として資格管理を確立し、経営者が主体的に関与することが、最も確実なリスク回避策となる。

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