はじめに――「JVだから関係ない」という認識の危うさ

大規模な公共工事や技術難度の高い工事では、複数の建設会社が共同企業体(JV:ジョイント・ベンチャー)を結成して受注・施工することが多い。しかし、JV工事でコンプライアンス上の問題が発生したとき、「あれは相手会社の担当工区で起きたことだ」「スポンサーが管理していたから自社は関係ない」という認識が、実務の現場では驚くほど根強い。

これは法的に誤りである。JVの構成員は、施工方式にかかわらず発注者に対して連帯責任を負う。他の構成員が起こした事故や法令違反についても、自社が損害賠償責任を全額負担させられる可能性がある。

本稿では、JVの法的構造・種類・コンプライアンスリスクの全体像を、国土交通省の一次資料と判例をもとに整理する。


JVの法的性格――民法上の組合

建設業のJVを理解する出発点は、その法的性格の確認である。

共同施工方式(甲型)および分担施工方式(乙型)のいずれのJVも、共同企業体の法的性格は実務上一般的に民法上の組合(民法667条1項)とされている。

民法上の組合は法人格を持たない。したがって、JVが発注者と締結した契約上の権利義務は、JV自体ではなく構成員各社に帰属する。この点が、法人格を持つ株式会社との最大の違いであり、後述する連帯責任の根拠となる。

共同企業体(JV)とは、建設企業が単独で受注及び施工を行う通常の場合とは異なり、複数の建設企業が一つの建設工事を受注・施工することを目的として形成する事業組織体のことをいう。


JVの種類――目的別・施工方式別の分類

JVは結成目的と施工方式の二軸で分類される。

目的別の分類

特定建設工事共同企業体(特定JV)は、大規模かつ技術難度の高い工事の施工に際して、技術力等を結集することにより工事の安定的施工を確保する場合等、共同企業体による施工が必要と認められる場合に工事毎に結成する共同企業体である。経常建設共同企業体(経常JV)は、中小・中堅建設企業が継続的な協業関係を確保することにより、その経営力・施工力を強化する目的で結成する。地域維持型建設共同企業体(地域維持型JV)は、地域の維持管理に不可欠な事業につき、継続的な協業関係を確保することによりその実施体制の安定確保を図る目的で結成する。

このほか、大規模災害からの復旧・復興を目的とした復旧・復興JVも制度化されている。

施工方式別の分類――甲型と乙型

甲型は、一つの工事について、あらかじめ定めた出資比率に応じて資金・人員・機械等を拠出して各構成員が共同施工する方式であり、利益も出資比率に応じて分配される。乙型は、一つの工事について複数の工区に分割し、各構成員がそれぞれ分担する工区で責任をもって施工する方式で、利益は分配されるのではなく各工区ごとに清算される。

甲型は「全員で一つの工事をともに施工する」方式、乙型は「工区を分けてそれぞれが担当する」方式と理解すればよい。外見上の違いは大きいが、発注者に対する連帯責任という点では両者に差はない。


スポンサーとサブの役割と責任

JVには、実務上「スポンサー企業(幹事会社)」と「サブ企業(構成員)」の区分がある。

幹事会社(スポンサー企業)とは、JV内で中心的な役割を担う企業のことを指す。この企業は、工事発注者との交渉、資金管理、構成員の取りまとめ、予算作成などの事務手続、そしてJV会社の会計処理を行い、円滑な共同施工を確保する責任がある。幹事会社は施工能力が大きい企業が務めることが多く、その出資金比率も構成員の中で最大となる。

サブ会社は、スポンサー会社の補完的な立場としてJVに参加する構成員である。法的にはスポンサー会社と対等の権利を持つが、実務上は工事の一部を担当するなど主に現場レベルでの作業や分担業務に注力する。

ここで重要なのは「法的にはスポンサー会社と対等の権利を持つ」という点だ。スポンサーだからより重い責任を負い、サブだから軽い責任で済む、という構造ではない。後述するように、発注者(第三者)に対しては構成員全員が全額の責任を負う。


JVの連帯責任――コンプライアンス上の最重要リスク

JV参加において経営者が最も深く認識すべきリスクが、構成員間の連帯責任である。

判例が確立した「不真正連帯債務」

共同企業体の各構成員が負担する責任については、不真正連帯債務として各構成員が全額を負担するとした裁判例がある(鹿児島地裁昭和48年6月28日)。したがって、JVの業務執行中に事故が発生した場合、A社の従業員が起こした事故であっても、他の構成員も被害者に対して連帯責任を負うことは避けられない。

さらに、最判平成10年4月14日(民集52巻3号813頁)は、共同企業体がその事業のために第三者に対し負担した債務について、各構成員は商法511条1項により連帯債務を負うとしている。

※ 商法第511条
数人の者がその一人又は全員のために商行為となる行為によって債務を負担したときは、その債務は、各自が連帯して負担する。
保証人がある場合において、債務が主たる債務者の商行為によって生じたものであるとき、又は保証が商行為であるときは、主たる債務者及び保証人が各別の行為によって債務を負担したときであっても、その債務は、各自が連帯して負担する。

「不真正連帯債務」とは、各自が独立して全額の債務を負担するものであり、全額払った場合以外は他の構成員が一部支払ったからといって自社の義務が消滅するわけではない相対効が特徴です。これは、乙型JVで自社の担当工区が問題なく完了していても、他社の担当工区で発生した欠陥・事故・不法行為について、自社が全額の賠償責任を負いうることを意味する。

連帯責任の実務上の意味

乙型JVの場合、損益の合同計算はないが、工事の品質や安全については連帯責任を負わなければならない。連帯責任により、自社だけでなく他社の影響も大きく受ける点は、JVのデメリットであるとも考えられる。

JVへの参加は、相手企業の施工品質・安全管理・財務状態・コンプライアンス体制を「引き受ける」ことでもある。この認識なしにJVパートナーを選定することは、経営上の重大なリスクを抱え込むことになる。


技術者配置――甲型・乙型で異なる要件

JV工事における技術者配置は、施工方式によって異なる。

甲型JVの技術者配置

甲型JVは、JV全体を「一つの元請負人」と見なして技術者配置のルールが適用される。判断の基準はJV全体で発注する下請代金の総額である。JV全体で発注する下請契約の総額が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)未満の場合は、JVの構成員全員がそれぞれ自社の主任技術者を配置する必要がある。

下請契約の額が5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上となる場合には、特定建設業者たる構成員1社以上が監理技術者を設置しなければならない。特定建設業者である代表者が監理技術者を設置すれば、その他の構成員は主任技術者を設置することで差し支えないが、代表者の変更などの事態も考慮すると、監理技術者となりうる者を主任技術者にしておくことが望ましい。

乙型JVの技術者配置

乙型JVでは、分担工事に係る下請代金の総額が5,000万円以上となった建設業者は監理技術者を、その他の建設業者は主任技術者を配置する。分担施工に係る請負代金の額が4,500万円(建築一式の場合は9,000万円)以上の場合は、当該監理技術者及び主任技術者は当該工事に専任しなければならない。

甲型・乙型いずれの場合も、建設業法第26条の技術者配置義務はJVの各構成員に適用される。JV参加を理由に自社の技術者配置義務が軽減されることはない。


JV固有のコンプライアンスリスク

談合リスク――JV結成と競争制限

JVはその性質上、本来競争相手であるべき建設会社が情報を共有し協力関係を築く。この構造が、談合・カルテルのリスクと隣接する。「談合事件から学ぶコンプライアンス」で論じたリニア中央新幹線談合事件でも、大手ゼネコン間の受注調整がJV工事を含む大型プロジェクトをめぐって行われた。

JVを結成したからといって、入札前に価格情報や受注意思を共有することは独占禁止法第3条の「不当な取引制限」に該当する。JV協定書の内容・JV会議の議事録・構成員間のメール・電話記録は、公取委の調査対象となりうる。

構成員の問題が自社に波及するリスク

JVに参加する際には、不良・不適格業者が参入する可能性がある、実際の施工は他社に行わせて利ざやだけを取る会社が参入する可能性がある、工事後に不備が判明した場合に責任の所在が曖昧になるといった問題点があることを念頭に、構成員となる企業を慎重に選ぶ必要がある。

構成員の一社が行政処分(営業停止・許可取消)を受けた場合、JV全体の施工継続に支障が生じる。さらに、構成員の一社が談合・不正施工・労働基準法違反等で社会的批判を受けた場合、JVの他の構成員もその批判の対象となりうる。


JV参加の事前デューデリジェンスとコンプライアンス管理

パートナー選定時の確認事項

JVパートナーを選定する際に確認すべき事項として、次の点を整理しておく。

建設業許可の有効性(業種・区域・有効期限)、経営事項審査の結果と最新の処分歴(ネガティブ情報等検索サイトでの確認)、社会保険加入状況、過去の施工実績と品質管理体制、内部通報制度の有無、主要技術者の資格・配置実績の確認が最低限必要である。

協定書の整備

契約書では、各構成員が連帯で責任を負う旨を明記し、契約の締結は共同企業体の名称を冠して代表者及びその他の構成員全体の連名により、または少なくとも共同企業体の名称を冠した代表者の名義によること(甲型の場合。乙型もこれに準ずることが望ましい)。契約の履行についての各構成員間の責任分担及び下請企業等との権利義務関係について、運営委員会において予め各構成員協議の上決定するとともに、下請企業等と予め十分協議を行うこと。

国土交通省は甲型・乙型それぞれの標準協定書ひな型を公表しており、これを活用することが推奨される。協定書には構成員間の費用分担・損害賠償の求償ルール・情報共有義務・解散条件等を明確に定めておく。

施工中の情報共有と相互監視

JVにおいては、スポンサーがすべての情報を握り、サブはスポンサーの報告をもとに自社の業務を管理するという情報非対称が生じやすい。スポンサーは毎月末にJV全体の財務状況をまとめ、サブ会社に対して財務諸表を報告する責任を負っており、円滑なJV運営にはスポンサー会社の管理能力と情報共有の精度が求められる。

サブ企業として参加する場合でも、工事の進捗・品質・安全・財務情報を定期的に取得し、問題の兆候に早期に対応できる体制を自社内に構築することが、連帯責任リスクを管理するうえで不可欠である。


まとめ

JVは大規模工事の受注機会を広げる有効な制度である。しかし、その法的性格(民法上の組合)と構成員全員の連帯責任(不真正連帯債務)という構造は、「相手会社の問題は自社には関係ない」という認識を根拠のないものとする。

パートナー企業の施工不良・事故・不正行為は、自社の財務・信用・経営許可に直接影響しうる。JV参加の意思決定は、受注機会の拡大という側面だけでなく、引き受けるリスクの評価という側面を常に伴う。

中川総合法務オフィスでは、建設会社向けのコンプライアンス研修・JV参加時のリスク管理体制の整備支援を行っております。パートナー選定基準の策定・協定書の確認・施工中の管理ルールの整備もご相談ください。初回相談は無料です。お問い合わせはこちら

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