このチェックリストの使い方
本チェックリストはシリーズ全30本(URL後半;construction-industry-compliance-1~30)の内容を実務に直結する確認項目に落とし込んだものだ。建設業法令遵守の5重点項目(許可制度・技術者制度・請負契約の適正化・経営事項審査・監督処分等)を中心に、労働法令・安全管理・コンプライアンス体制整備を加えた8カテゴリーで構成している。
根拠条文・ガイドラインは建設業法令遵守ガイドライン第12版(令和8年1月最終改訂)・令和6年12月13日施行改正建設業法・令和7年12月12日最終改正監督処分基準に準拠している。
各項目は「○(対応済み)」「△(要改善)」「×(未対応)」の3段階で自己評価し、△・×の項目は改善期限と担当者を設定して記録する。年1〜2回の定期点検に加え、立入検査の通知を受けた際の直前確認にも活用できる。
カテゴリー1:許可制度
◆建設業法第3条・第5条・第11条・第12条・第13条を根拠とする。許可の有効期限管理の失念と常勤役員等の実態不備は、立入検査で最初に確認される項目だ。
(1)許可の有効期限が5年以内であることを確認し、更新申請の準備を有効期限の2〜3か月前に開始する仕組みがあるか。
(2)許可業種と実際に受注している工事の業種が一致しているか(無許可業種での500万円以上の工事受注はないか)。
(3)常勤役員等(経営業務管理責任者等)が実際に毎日所定の時間、本社等に常勤しているか。他社の代表取締役との兼任・名義上のみの常勤という実態がないか。
(4)営業所の専任技術者が実際に常時その営業所に勤務しているか。工事現場の配置技術者と兼務していないか。
(5)許可内容に変更(商号・代表者・役員・営業所・資本金等)が生じた場合、30日以内または2週間以内の変更届を適切に提出しているか(建設業法第11条)。
(6)廃業届・事業報告書等の定期提出書類を漏れなく提出しているか。
カテゴリー2:技術者制度
◆建設業法第26条・第26条の3・令和6年12月13日施行の専任合理化規定を根拠とする。処分事例の件数が最も多い違反類型だ。
(1)全受注工事について主任技術者または監理技術者を配置した技術者台帳が整備されているか。
(2)各工事の配置技術者が、請け負った工事業種に対応する国家資格または実務経験要件を満たしているか(資格証の有効期限を含む)。
(3)配置技術者の雇用関係を証明できる書類(健康保険被保険者証・雇用契約書等)が整備されているか。
(4)専任義務のある工事(請負代金額が4,500万円以上(建築一式工事は9,000万円以上)2025年2月1日に改正)で、他の工事現場との兼務がないか。
(5)ICT活用による兼務合理化(令和6年12月13日施行)を利用する場合、工事現場間の距離・下請次数・情報通信機器の設置等の要件をすべて満たしているか。
(6)監理技術者資格者証の有効期限が切れていないか。更新に必要な講習を5年以内に受講しているか。
(7)特定建設業者として監理技術者配置が必要な工事(下請総額5,000万円以上)を受注した際、着工前に監理技術者を配置しているか。
(8)工事完了後、技術者の配置実態(常勤記録・現場出勤記録等)を裏付ける書類を5年(完成工事は10年)保存しているか。
カテゴリー3:契約管理
◆建設業法第18条・第19条・第19条の2・第20条・第20条の2・建設業法令遵守ガイドライン第12版を根拠とする。
(1)全工事について、着工前に建設業法第19条第1項の16の法定記載事項を満たした書面による請負契約書を取り交わしているか。
(2)令和6年12月13日施行の改正により法定記載事項に追加された「価格等の変動または変更に基づく工事内容・請負代金の変更及びその額の算定方法」(第8号)が契約書に明記されているか。
(3)追加・変更工事が発生した場合、着工前に変更内容・金額・算定根拠を記した変更契約書を書面で締結しているか(口頭のみの変更指示が常態化していないか)。
(4)下請への見積依頼に際して、建設業法第20条第4項の法定見積期間(500万円未満:1日以上・500万円以上5,000万円未満:10日以上・5,000万円以上:15日以上)を確保しているか。
(5)見積条件として工事内容・工期・施工環境・安全衛生費用の負担区分等を書面で提示しているか。
(6)資材高騰等が予見される場合、請負契約締結前に注文者への「おそれ情報」通知(建設業法第20条の2)を実施しているか。
(7)契約書類(当初契約・変更契約・注文書・請書等)を完成工事については10年間保存しているか。
カテゴリー4:下請管理・施工体制
◆建設業法第24条の2〜24条の8・第24条の3(支払期日)・第26条の3(施工体制台帳)・建設業法令遵守ガイドライン第12版第4版(元下ガイドライン・受発注者間ガイドライン)を根拠とする。
(1)施工体制台帳の作成が必要な工事(5,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上、または公共工事で下請契約を締結した場合)で台帳を作成しているか。
(2)再下請負通知書を二次以下の全下請業者から受け取り、台帳に反映しているか。
(3)施工体系図を工事現場の見やすい場所に掲示しているか。
(4)一括下請負(丸投げ)を行っていないか(建設業法第22条)。
(5)特定建設業者として、下請業者への下請代金の支払期日を「引渡し申出から50日以内」としているか(建設業法第24条の3第2項)。
(6)出来高払いまたは竣工払いを受けた後、その支払対象工事の下請代金を1か月以内に支払っているか(建設業法第24条の3第1項)。
(7)下請代金のうち労務費相当部分は現金で支払っているか(令和6年改正建設業法)。
(8)令和6年11月以降、60日を超える手形による下請代金の支払いを行っていないか(建設業法令遵守ガイドライン第12版対応)。
(9)工事内容の変更・工期短縮・材料支給・機械貸与等の際、一方的に費用を下請に押し付ける「赤伝処理」を行っていないか。行う場合は下請との書面合意を得ているか。
(10)無許可業者(当該工事業種の建設業許可を持たない業者)と500万円以上の下請契約を締結していないか。
カテゴリー5:経営事項審査
◆建設業法第27条の23〜27条の29・施行規則第18条を根拠とする。公共工事を受注する建設会社にとって経審の正確性は経営の根幹だ。
(1)完成工事高・元請完成工事高が、工事台帳の実績と一致しているか(水増しや付け替えがないか)。
(2)技術者数の申請値が、資格証・雇用証明書で裏付けられる実態と一致しているか。
(3)社会保険加入状況(健康保険・厚生年金・雇用保険)が適正であるか。経審で加点となる社会保険の加入状況が申請値と一致しているか。
(4)ダブルチェック体制が整っているか(申請担当者以外の者が数値の整合性を確認しているか)。
(5)経審申請書類の控えと根拠書類を申請後5年間保存しているか。
カテゴリー6:労働法令・安全管理
◆労働安全衛生法・労働基準法(時間外労働上限規制令和6年4月施行)・「元方事業者による建設現場安全管理指針」(平成7年4月21日)を根拠とする。
(1)36協定を締結・届出し、原則月45時間・年360時間(特別条項有りの場合でも年720時間・単月100時間未満)の上限規制を遵守しているか。
(2)施工計画段階で週休2日・適正工期を確保しているか(著しく短い工期での契約締結禁止:令和7年12月12日全面施行)。
(3)特定元方事業者(建設業の元請)として、関係請負人で構成する協議組織(安全衛生協議会)を設置・運営し、議事録を作成しているか(労働安全衛生法第30条)。
(4)日々の安全朝礼・危険予知(KY)活動・ヒヤリハット報告書の収集・共有を行っているか。
(5)新規入場者教育を全ての入場者(協力会社の作業員・外国人労働者・一人親方を含む)に実施し、記録しているか。
(6)労働者死傷病報告(労働安全衛生法第100条)を適正に提出しているか(労災隠しが行われていないか)。
(7)外国人労働者の在留資格を確認しているか(就労可能な在留資格の範囲内での就労であるか)。
(8)一人親方等、令和7年4月から保護措置義務の対象が拡大された者への安全配慮を実施しているか。
カテゴリー7:監督処分防止・行政対応
◆建設業法第28条・第29条・監督処分基準(令和7年12月12日最終改正)・建設業法第31条(立入検査)を根拠とする。
(1)過去に行政から指示処分・指導・是正勧告を受けた場合、改善内容と対応記録が保存されているか。指示処分から3年以内に同種の違反が発生していないか(再犯による処分加重防止)。
(2)国土交通省の下請取引等実態調査(年約3万業者対象)への回答を適切に行っているか(未回答・不適正回答は立入検査対象選定につながる)。
(3)建設Gメンによるモニタリング調査・立入検査の対象として選定された場合の窓口担当者が明確になっているか。
(4)立入検査で求められる書類(請負契約書・技術者配置記録・施工体制台帳・支払記録・社会保険加入記録等)が即座に提示できる状態で保管されているか。
(5)国土交通省のネガティブ情報等検索サイトで自社の処分情報が掲載されていないか定期的に確認しているか。
カテゴリー8:コンプライアンス体制整備
◆会社法第362条第4項第6号(内部統制体制構築義務)・公益通報者保護法(2022年6月改正施行・2026年12月1日施行改正予定)・COSOモデル・IIA「3ラインモデル」(2020年改訂)を根拠とする。
(1)コンプライアンス基本方針・規程・建設業法令遵守マニュアルが整備され、最新の法改正に対応しているか。
(2)コンプライアンス委員会が設置され、代表取締役が委員長として定期的(年4回以上)に会議を開催しているか。委員会の結果が記録・保存されているか。
(3)第2ライン(管理・コンプライアンス部門)として、工事部門から独立した視点で法令遵守状況をモニタリングする担当者・体制が整備されているか。
(4)第3ライン(内部監査)として、年1回以上の内部監査(または外部専門家による模擬立入検査)を実施し、結果を経営層に報告しているか。
(5)従業員301人以上の場合、公益通報者保護法に基づく内部通報窓口の設置・従事者の指定が完了しているか(2022年6月施行・義務)。300人以下の場合、努力義務としての窓口整備に取り組んでいるか。
(6)社内窓口に加え、外部通報窓口(行政書士・弁護士等)を設けているか。通報者の匿名性・秘密保持が担保された運用になっているか。
(7)役職員・協力会社向けのコンプライアンス研修を年1回以上実施し、受講記録を保存しているか。
(8)コンプライアンス上の問題が現場から経営層に適時に伝達される情報伝達体制(第4要素:情報と伝達)が機能しているか。
活用方法とフォローアップ
本チェックリストの活用において、三つの原則を提示したい。
第一の原則は「×を恐れず正直に記録する」ことだ。自己評価で全項目に○をつけることは容易だが、それは体制の改善につながらない。△や×が多く出ることは問題の発見であり、改善の出発点だ。
第二の原則は「改善を一人で抱えない」ことだ。△・×の項目を担当者一人の課題として処理するのではなく、経営層への報告事項として取り上げ、組織的な改善計画を立てることが本来の活用方法だ。
第三の原則は「年1回では足りない項目がある」ことを理解することだ。許可更新管理・技術者の資格期限管理・下請代金の支払期日確認のような項目は、年次確認ではなく工事ごと・月次の確認が必要だ。「定期点検」と「日常確認」を分けて設計することで、体制の実効性が高まる。
おわりに――シリーズ30本を終えて
本シリーズは、建設業のコンプライアンスを「問い合わせが多い課題」として①グループ(問い合わせ頻出記事)10本、「不祥事の事例研究」として②グループ(不祥事研究)10本、「元請ゼネコン向け実務体制」として③グループ(本チェックリストを含む)10本、計30本で構成した。
コンプライアンスは「難しい法律の話」ではない。現場の職人が安心して働ける取引環境を整え、下請業者と対等な関係を築き、技術者が実態に即して配置され、経営者が自社の状態を正確に把握する——その積み重ねが、監督処分を受けない建設会社の姿だ。
本チェックリストは出発点に過ぎない。△・×の項目の改善に取り組む過程で新たな課題が見つかり、法改正のたびに確認すべき項目が変わる。定期的なアップデートと継続的な自己点検が、元請建設会社として信頼される経営基盤を作る。
中川総合法務オフィスでは、このチェックリストを用いた体制診断・建設会社向けコンプライアンス研修・外部通報窓口の受任・模擬立入検査・監督処分対応まで一体的にご支援しています。「まず自社の現状を診断したい」という初回相談にも無料で対応しています。お問い合わせはこちら

