対象条文

第八百九十八条(共同相続の効力)

相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

2 相続財産について共有に関する規定を適用するときは、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とする。

第八百九十九条(共同相続の効力)

各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。


位置づけ

民法第5編「相続」第3章「相続の効力」第1節「総則」に置かれる。第896条・第897条が相続財産の包括承継原則を定めるのに対し、本2か条は相続人が複数存在する局面(共同相続)における財産帰属の法律関係を規律する。遺産分割(第907条以下)の前提となる重要規定である。


1. 趣旨と立法背景

1-1. なぜ「共有」とされるか

被相続人が死亡した時点で、共同相続人は直ちに相続財産を承継する(第896条)。しかし遺産分割が完了するまでの間、個々の財産を各相続人に具体的に帰属させることはできない。そこで民法は、分割前の遺産を「共同相続人の共有に属する」と定め、過渡的な共同所有関係を法定した(第898条第1項)。

1-2. 「合有」か「共有」かをめぐる学説

明治・昭和初期の学説には、遺産の共同所有は通常の共有(第249条以下)と異なる「合有」(組合財産と同様に持分の単独処分が制限される形態)であると解する有力な見解があった(中川善之助『相続法』ほか)。合有と解すれば、各相続人は遺産分割前に自己の持分を単独で処分することができなくなる。

この問題に判例が明確な解答を示したのが最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決(民集9巻6号793頁)である。同判決は「相続財産の共有は、民法改正の前後を通じ、民法249条以下に規定する『共有』とその性質を異にするものではないと解すべきである」と判示し、共有説を確立した。

1-3. 令和3年改正による第2項の追加

令和3年改正(令和5年4月1日施行)以前の第898条は第1項のみであった。改正により第2項が新設され、相続財産に共有規定を適用する場合の「持分」が法定相続分(第900条)・代襲相続分(第901条)・指定相続分(第902条)により算定されることが明文化された。これは、いずれの相続分を持分の算定基準とするかについて生じていた解釈上の不明確さを解消したものである。


2. 用語解説

共同相続人 相続人が複数いる場合の各相続人。相続開始時から遺産分割完了まで共同して遺産を所持する地位に立つ。

遺産共有 相続開始から遺産分割までの間、相続財産が共同相続人全員の共有に帰属している状態。通常の「物権法上の共有」と区別してこの語を用いることが多い。

共有持分 共有物に対して各共有者が有する割合的な権利。遺産共有では法定相続分・指定相続分が持分の基準となる。

相続分 相続財産の総額に対して各相続人が取得すべき割合的な権利。法律で定まるものを「法定相続分」、被相続人の遺言で定まるものを「指定相続分」という。

可分債権 金銭債権のように、分割して実現することのできる債権。例:貸金返還請求権、損害賠償請求権(金銭)。

不可分債権 不動産の引渡しなど、分割して実現することのできない給付を目的とする債権。

可分債務 金銭債務のように、分割して履行することのできる債務。

保存行為 共有物の滅失・損傷を防ぐ行為。各共有者が単独でできる(第252条ただし書)。

管理行為 共有物の利用・改良を目的とする行為。共有持分の過半数で決する(第252条本文)。

変更行為 共有物の性質・形状を変える行為。共有者全員の同意が必要(第251条)。


3. 条文解説

3-1. 第898条第1項「相続財産の共有」

相続人が複数いる場合、遺産分割が完了するまでの間、相続財産は共同相続人全員の共有に帰属する。この共有は、通常の物権法上の共有(第249条以下)と同一の性質を持つ。したがって、各相続人は自己の持分について単独で処分することができる一方、共有物全体の変更行為は全員の同意を要し、管理行為は持分の過半数で決することになる。

この共有は、遺産分割によって個々の財産が各相続人に単独帰属(又は新たな物権法上の共有に移行)するまでの暫定的な状態である。遺産分割が成立すれば、その効力は相続開始時にさかのぼる(第909条本文)。

3-2. 第898条第2項「共有持分の基準」

相続財産に共有規定を適用するとき、各相続人の共有持分は以下の規定によって算定する。

  • 第900条:法定相続分(配偶者・子・直系尊属・兄弟姉妹の法定割合)
  • 第901条:代襲相続分
  • 第902条:被相続人の遺言による相続分の指定(指定相続分)

指定相続分がある場合にはそれが優先され、ない部分については法定相続分が適用される。具体例を挙げると、配偶者と子2人が相続人で遺言がない場合、配偶者の持分は2分の1、子は各4分の1となる。

3-3. 第899条「権利義務の承継」

各共同相続人は、自己の相続分の割合に応じて被相続人の権利・義務を承継する。これは第896条の包括承継原則を共同相続の場面に具体化した規定である。

ただし、財産の種類によって承継のあり方が異なる点に注意を要する。以下に整理する。

積極財産(プラスの財産)の承継

不動産・動産 遺産共有の状態に置かれ(第898条第1項)、遺産分割によって帰属が確定する。

可分債権 判例は長らく、可分債権は相続開始と同時に当然分割され、各相続人がその相続分に応じて単独の債権者となると解してきた(最判昭和29年4月8日・民集8巻4号819頁)。ただし、預貯金債権については最高裁平成28年12月19日大法廷決定(民集70巻8号2121頁)により判例が変更され、共同相続人の準共有財産として遺産分割の対象となることが確立した。これを受け、令和元年7月1日施行の改正民法は、各相続人が遺産に属する預貯金債権のうち「3分の1×自己の法定相続分」(同一金融機関につき150万円を上限)を単独で払い戻せる制度を新設した(第909条の2)。

不可分債権 共同相続人全員に帰属し、各相続人は総債権者のために履行の請求及び弁済の受領ができる(第428条・第432条)。

消極財産(マイナスの財産)の承継

可分債務 被相続人の金銭債務その他の可分債務は、相続開始と同時に当然に分割され、各相続人が自己の相続分に応じた部分を承継する(大審院昭和5年12月4日決定)。相続人間で「特定の相続人が全債務を負担する」旨の合意をしても、債権者には対抗できない。債権者が同意したうえで免責的債務引受(第472条)を行う等の対外的な手続が別途必要となる。

連帯債務 連帯債務者の1人が死亡し相続人が複数ある場合、各相続人は被相続人の債務のうち分割された部分を承継し、それぞれの承継範囲において元々の連帯債務者とともに連帯債務者となる(最判昭和34年6月19日・民集13巻6号757頁)。

不可分債務 各相続人は全部の履行義務を負う。


4. 主要判例

最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決(民集9巻6号793頁) 遺産共有の法的性質について「民法249条以下に規定する共有とその性質を異にするものではない」と判示し、合有説を明確に否定した。この判決により、共同相続人は遺産分割前であっても自己の共有持分を単独で第三者に譲渡できることが確立した。

最高裁昭和38年2月22日第二小法廷判決(民集17巻1号235頁) 共同相続した不動産について、一方の相続人が無断で単独所有登記をし、さらに第三者に移転登記をした事案。他方の相続人は、自己の持分について登記なしに第三者に対抗できると判示した。共有持分の対外的主張に関する基本判例である。

最高裁昭和52年9月19日判決(民集31巻5号790頁) 共同相続人全員の合意によって遺産の特定不動産を第三者に売却した場合、その代金債権は分割債権であり、各相続人がそれぞれ相続分に応じて単独で行使できると判示した。

最高裁平成4年4月10日判決 相続開始時に存した金銭を保管している相続人に対し、他の相続人は遺産分割前に自己の相続分相当の金銭の支払を求めることはできないと判示した。遺産である金銭は共有財産として管理され、分割前の単独請求は認められない。

最高裁平成17年9月8日判決(民集59巻7号2028頁) 相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生じる賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すると判示した。後にされた遺産分割の影響を受けないとした点が実務上のポイントである。

最高裁平成28年12月19日大法廷決定(民集70巻8号2121頁) 預貯金債権は「可分債権」として当然分割されるとしてきた従前の判例を変更し、遺産分割の対象財産に含まれることを明確にした。相続法実務に最大の影響を与えた判例変更の1つである。


5. 実務上の注意点

5-1. 遺産共有の状態で注意すべきこと

遺産共有中、各相続人が単独でできる行為は「保存行為」に限られる。裁判例上、保存行為に含まれるとされるものとして、相続不動産の保存登記・移転登記申請、不正な登記の抹消請求、不法占有者に対する妨害排除請求がある。

管理行為(利用・改良)は持分の過半数で決し、変更行為は全員同意が必要である。持分で多数を占めていても、遺産不動産を単独で占有する他の相続人に対し直ちに明渡しを求めることはできない(最判平成12年4月7日)。

5-2. 自己の共有持分の処分

各相続人は、遺産分割前であっても自己の共有持分を単独で第三者に譲渡できる(最判昭和38年2月22日)。ただし、持分を譲り受けた第三者は遺産分割の手続には参加できず、当該財産が遺産分割で特定の相続人に帰属した場合は、取得者と第三者の間で通常の共有物分割(第258条)の手続による解消が必要となる(最判昭和50年11月7日・民集29巻10号1525頁)。

5-3. 法定相続分を超える承継と対抗要件

平成30年改正(令和元年7月1日施行)により新設された第899条の2は、相続による権利の承継が法定相続分を超える部分については登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定めた。「相続させる」旨の遺言や相続分の指定による承継についても登記が必要となった点で、改正前の判例法理(最判平成5年7月19日、最判平成14年6月10日)から実質的な転換がなされている。

5-4. 債務承継と債権者保護

可分債務は相続開始と同時に当然分割されるため、債権者は各相続人にそれぞれの持分額を請求することになる。相続人が複数いる場合、被相続人に対して1000万円の貸金債権を持っていた者は、相続分2分の1の相続人に対しては500万円を請求するにとどまる。相続人間での債務引受の合意は債権者の同意なしに債権者には対抗できない。


6. 市民向けの具体例

事例:父が死亡し、母・長男・次男が相続した場合

父の遺産として自宅不動産(評価額3000万円)、預金(600万円)、借入金(300万円)があったとする。遺言はないものとする。

法定相続分は、母2分の1、長男4分の1、次男4分の1。

自宅不動産は遺産共有の状態に置かれ、母が持分2分の1、長男・次男が各4分の1を持つ。勝手に売ったり改築したりするには全員の合意が必要である。

預金600万円は、最高裁平成28年大法廷決定以降、遺産分割の対象財産である。ただし、各自が「3分の1×自己の法定相続分」(かつ150万円上限)まで単独で払い戻すことができる(第909条の2)。母は600万円×3分の1×2分の1=100万円、長男・次男は各50万円を上限として単独で払い戻せる。

借入金300万円は相続開始と同時に当然分割され、母が150万円、長男・次男が各75万円の債務を承継する。貸主は各自に分割した額を請求することになる。


関連条文

  • 第249条以下(共有)
  • 第252条(共有物の管理)
  • 第251条(共有物の変更)
  • 第427条(分割債権及び分割債務)
  • 第428条・第432条(不可分債権)
  • 第896条(相続の一般的効力)
  • 第899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)
  • 第900条(法定相続分)
  • 第902条(遺言による相続分の指定)
  • 第907条(遺産の分割の協議又は審判等)
  • 第909条の2(遺産に属する預貯金債権の行使)

参考文献・資料

  • 法務省「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(平成30年改正)」
  • 法務省「所有者不明土地等の解消に向けた民事基本法制の見直し(令和3年改正)」
  • 最高裁昭和30年5月31日第三小法廷判決(民集9巻6号793頁)
  • 最高裁平成28年12月19日大法廷決定(民集70巻8号2121頁)
  • 最高裁平成17年9月8日判決(民集59巻7号2028頁)
  • 潮見佳男『詳解 相続法』(弘文堂)
  • 堂薗幹一郎・野口宣大編著『一問一答 新しい相続法〔第2版〕』(商事法務)

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