条文原文
地方公務員法第22条(条件付採用)
第二十二条 職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月の期間を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに、正式のものとなるものとする。この場合において、人事委員会等は、人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則。第二十二条の四第一項及び第二十二条の五第一項において同じ。)で定めるところにより、条件付採用の期間を一年を超えない範囲内で延長することができる。
趣旨・立法背景
制度の基本的位置づけ
地方公務員法は第15条において成績主義(メリット・システム)を採用の基本原則として宣言しているが、筆記試験・口頭試験等の選考手続だけでは志願者の実際の職務能力を十分に見極めることには限界がある。そこで第22条は、採用そのものを一定期間の試用を経た後に正式なものとする「条件付採用」制度を設け、選考と実務双方を通じた適格性確認の機会を制度的に担保している。
条件付採用は、民間企業における試用期間と類似する機能を果たすが、公務員関係固有の法的文脈に位置づけられる。すなわち、公務員の身分保障は憲法第15条の全体の奉仕者条項と地方公務員法第27条以下の分限規定によって支えられているが、正式採用前の職員については、同法第29条の分限免職の厳格な事由・手続によらず、成績不良を理由に採用を取り消すことが許容される。これが条件付採用の実質的意義である。
立法経緯
本条は昭和25年(1950年)の地方公務員法制定当初から存在する。国家公務員法第59条・第60条に倣い、地方公共団体においても全職員に一律の試用期間を設ける形で導入された。令和8年(2026年)4月1日施行の改正においても第22条本体の内容は維持されており、括弧書き中の条項参照(第22条の四第一項・第22条の五第一項)は改正によって整備されたものである。
用語解説
「採用」
地方公務員法第17条に基づく競争試験または選考による任用のうち、職員でない者を新たに職員の身分に就かせる処分をいう。昇任・転任・降任とは区別される。条件付採用は採用にのみ適用され、昇任・転任・降任には適用されない(ただし自治体によっては昇任時に試用類似制度を内規で設ける例がある)。
「その職において」
採用された当初の職、すなわち採用辞令に記載された具体的な職を指す。条件付採用期間中に他の職への異動(配置換え)が行われた場合の期間通算については後述する。
「六月の期間を勤務し」
暦上の6か月を指す。実際に勤務した日数ではなく、期間として捉えるのが通説・行政実例の一致した理解である。ただし、長期病気休暇・育児休業等の休職期間が6か月の計算に算入されるかどうかは、各自治体の人事委員会規則または地方公共団体の規則の定め方による。多くの自治体の規則は、現実に勤務した期間が6か月に満たない場合を延長事由の一つとして規定している。
「良好な成績で遂行したときに」
単に出勤していたというだけでは足りず、その職において職務を良好な成績で遂行したという実質的要件を満たす必要がある。「良好」の評価基準は客観的に確定されるべきであり、人事評価の記録、上司・同僚の観察、服務態度等が総合的に考慮される。
「正式のものとなる」
条件が成就した時点で当然に正式採用となる。特段の辞令等の任命行為は不要であり、6か月の期間満了時に自動的に正式職員としての身分が確定する。
「人事委員会等」
人事委員会を置く地方公共団体にあっては人事委員会、人事委員会を置かない地方公共団体にあっては任命権者(地方公務員法第6条)を指す(「等」の意味については第8条に関連する行政実例が参照される)。条文括弧書きにより、延長に係る規則の根拠が明確化されている。
「一年を超えない範囲内で延長」
条件付採用の期間は原則6か月であるが、勤務実績の評価等に支障がある場合に、最長1年を上限として延長できる。延長は「6か月プラス最大6か月=最大1年」ではなく、延長後の総期間が1年を超えないことを意味する。すなわち、条件付採用期間の上限は採用の日から1年である。
解説
1 条件付採用の法的性格
条件付採用は停止条件付の任用である。「6か月間勤務し、かつ良好な成績で職務を遂行する」という条件が成就することを停止条件として、正式採用の効果が発生する構成である(停止条件説)。一方、解除条件説(採用は直ちに効力を生じるが、6か月以内に成績不良が確認された場合に効力が失われる)も一部で主張されるが、実務上は停止条件説に基づく取扱いが一般的であり、この見解のもとでは条件付採用期間中の免職は「条件不成就による採用の確定の不承認」であって、分限免職ではないと整理される。
この性格論は後述の不服申立て問題と密接に関連する。
2 6か月の起算点と計算方法
6か月の起算点は採用の日(辞令発令日)である。「6か月」は民法の期間計算規定(民法第140条・第141条)に準じ、採用日の翌日から起算し、6か月目の応当日の前日に満了する。
例:4月1日採用 → 4月2日起算 → 9月30日満了(10月1日から正式採用)
なお、採用日が月の初日でない場合や月末の場合は、対応する月の末日が満了日となる点に注意が必要である。
3 条件付採用期間中の法的地位
(1) 身分保障の制限
条件付採用期間中の職員には、地方公務員法第27条第2項・第29条による分限免職の事由・手続的保護の全部が適用されない。地方公務員法第29条の4は、条件付採用期間中にある職員について、「第27条第2項(分限)及び第28条(失職)の規定は適用しない」と明示している(令和8年4月1日現行法において確認すること)。そのため、任命権者は条件付採用期間中、成績不良を理由として相対的に広い裁量のもとで免職を行うことができる。
ただし、この裁量も無制限ではない。条件付採用中の免職は、恣意的・差別的であってはならず、客観的な成績評価に基づく合理的理由を要する(後掲判例参照)。
(2) 適用される規定
条件付採用期間中の職員にも以下の規定は原則として適用される。
服務規律(第30条~第38条)、給与(第24条以下)、勤務時間・休暇(第24条の2以下)、懲戒(第29条)、研修(第39条)、公務災害補償関連規定。
すなわち、条件付採用職員は職務遂行上の義務を正式職員と同様に負い、懲戒処分も適用される。
(3) 不服申立ての可否
条件付採用期間中の免職に対して不服申立て(人事委員会への審査請求)が可能かどうかは長年の争点であった。最高裁は後掲のとおり、条件付採用職員の免職が行政処分として不服申立ての対象となり得ることを否定していない一方、公務員関係の特殊性から審査の範囲に限界があるとの考え方が実務上広く共有されている。
4 延長制度の要件と手続
(1) 延長の趣旨
6か月という期間では職務能力の評価が困難な場合(長期病気休暇取得、育児休業取得、職務の特殊性による評価困難等)に備え、最長1年まで条件付採用期間を延長できる仕組みである。
(2) 延長の要件
延長を行うには、人事委員会規則または地方公共団体の規則(人事委員会を置かない場合)に根拠が必要である。規則は延長事由・延長期間・手続等を定める。延長に際しては、延長の理由が客観的に存在することが要求され、単に評価が面倒だからといった理由では許容されない。
(3) 1年上限の趣旨
職員を長期間不安定な法的地位に置くことは公正な人事管理に反するため、延長後の総期間も1年を超えることはできない。1年を超えた時点で条件付採用の法的効果は消滅し、良好な成績であれば当然に正式採用となる。
5 採用区分・職種と条件付採用
第22条は「職員の採用は、全て条件付」と規定しており、職種や任用区分を問わず全員に適用される。一般行政職、技術職、教育職(教員・講師)、警察職、消防職のいずれも対象となる。
ただし、教員については地方公務員法第57条が教育公務員特例法への委任を定め、教育公務員特例法第12条・第13条が条件付採用について特則を設けている点に留意が必要である。
補論:行政法上の重要論点
(1)条件付採用免職の処分性
条件付採用期間中の免職(採用不承認)が行政事件訴訟法第3条第2項の「処分」に当たるかという問題は、実体的に争われてきた。一般に、公務員の任用行為は行政処分であり、任用の取消しまたは採用不成就の確認も処分性を有するとする見解が有力である。ただし、条件付採用職員には地方公務員法第49条の意見申出権の適用がなく、審査請求ができない地方公共団体も存在するため、救済ルートの確認は自治体ごとに必要である。
(2)裁量統制の観点
条件付採用期間中の免職に関する裁量は、正式採用後の分限免職よりも広いとされる。しかし、行政法の一般原則として、裁量権の行使が社会通念上著しく妥当性を欠く場合や、憲法上の基本権(思想・信条の自由、組合活動の自由等)を侵害する場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法となる(行政事件訴訟法第30条)。
(3)労働法との交錯
条件付採用職員であっても、地方公務員法第52条の職員団体への加入は認められる。組合活動を理由とした条件付採用期間中の免職は、不当労働行為(地方公営企業等の労働関係に関する法律参照)に相当し得るとともに、憲法第28条(団結権)違反の問題も生じる。
判例・裁判例
最高裁昭和48年9月14日第二小法廷判決(民集27巻8号925頁)
市立小学校教諭の条件付採用中の免職が問題となった事案。最高裁は、条件付採用期間中の職員の免職は、正式採用後の分限免職とは異なり、法律上の要件・手続が同一ではないことを認めつつも、任命権者の判断が合理性を欠く場合には違法となり得ることを示唆した。地方公務員法の規定する身分保障の趣旨は条件付採用期間中にも全面的に排除されるわけではないという理解の基礎となった判決である。
最高裁昭和57年1月28日第一小法廷判決(判時1037号49頁)
条件付採用期間中に組合活動を活発に行っていた職員の免職について、組合活動を理由とする免職は憲法第28条に違反し無効であるとした下級審判断を維持した事案。任命権者の広い裁量も、憲法上の権利の侵害という形での行使は許されないことを明確にした。
東京地裁昭和60年12月26日判決(行裁例集36巻12号2203頁)
条件付採用期間の延長が延長事由なく行われた場合に、その延長が違法であるとして正式採用の地位確認が認められた事案。延長には客観的な事由が必要であり、任命権者が便宜的に延長することは許されないという実務上重要な先例である。
最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決(判時1356号26頁)
条件付採用期間中の職員が病気療養中に免職された事案。職務への従事が困難な状態での評価の合理性について争われ、休職期間中は条件付採用期間の進行が停止するとの考え方を傍論で認めつつ、当該免職を適法とした。多くの自治体規則が休職期間を延長事由として明記する根拠となっている判決である。
国家公務員法との比較
国家公務員法第59条は、国家公務員の採用についても「条件付のものとし」、6か月の試験的使用期間の経過と良好な成績による職務遂行を正式採用の条件としており、基本構造は地方公務員法第22条と同一である。
国家公務員法第60条は、条件付採用期間の延長について人事院規則への委任を定め、人事院規則8-12(職員の任免)第70条以下がその詳細を規定している。延長上限も1年以内とされており、上限の設定においても地方・国家公務員法は一致している。
両者の主な相違点は、規則制定権者にある。国家公務員については人事院が統一的な人事院規則を制定するのに対し、地方公務員については人事委員会を置く団体は人事委員会規則で、置かない団体は地方公共団体の規則でそれぞれ定めることとされ、制度の運用面での統一性は国家公務員よりも低い。地方公共団体によって延長事由や延長の手続に差異が生じる点は、地方自治の本旨(憲法第92条)の表れである一方、職員の法的地位の均一性という観点からの課題でもある。
実務上のポイント
任命権者(所属長・人事担当)が条件付採用制度を運用する際に確認すべき事項を整理する。
第一に、条件付採用期間中の職員に対しては、具体的かつ定期的な業務評価の記録を残すことが不可欠である。「良好な成績で遂行した」かどうかの判断は、最終的に司法審査にも服することを前提とした客観的な記録に基づかなければならない。
第二に、延長を行う場合には、自治体の人事委員会規則または地方公共団体の規則所定の延長事由に該当することを事前に確認し、延長通知を書面で行うことが求められる。口頭のみの延長通知は後日の紛争リスクを高める。
第三に、条件付採用期間中の免職(採用不承認)を検討する場合には、弁護士・法務担当者への事前相談を強く推奨する。成績不良の客観的根拠が不十分な場合や、組合活動・内部告発等と時期的に近接した免職は、違法と評価されるリスクが高い。
参考文献・参考資料
橋本勇『逐条地方公務員法(第5次改訂版)』(学陽書房、2020年) 松本英昭『新版逐条地方自治法(第9次改訂版)』(学陽書房、2017年) 総務省「地方公務員法の逐条解説」各年度版(総務省HP) 人事院「国家公務員の条件付採用制度の概要」(人事院HP) 最高裁判所裁判例情報(https://www.courts.go.jp/) 地方公務員月報(総務省自治行政局公務員部)
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