一 条文原文

第二十九条〔懲戒〕

第一項 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。  
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合  
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合  
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

第二項 職員が、任命権者の要請に応じ当該地方公共団体の特別職に属する地方公務員、他の地方公共団体若しくは特定地方独立行政法人の地方公務員、国家公務員又は地方公社(地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社をいう。)その他その業務が地方公共団体若しくは国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち条例で定めるものに使用される者(以下この項において「特別職地方公務員等」という。)となるため退職し、引き続き特別職地方公務員等として在職した後、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合(一の特別職地方公務員等として在職した後、引き続き一以上の特別職地方公務員等として在職し、引き続いて当該退職を前提として職員として採用された場合を含む。)において、当該退職までの引き続く職員としての在職期間(当該退職前に同様の退職(以下この項において「先の退職」という。)、特別職地方公務員等としての在職及び職員としての採用がある場合には、当該先の退職までの引き続く職員としての在職期間を含む。次項において「要請に応じた退職前の在職期間」という。)中に前項各号のいずれかに該当したときは、当該職員に対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。

第三項 定年前再任用短時間勤務職員(第二十二条の四第一項の規定により採用された職員に限る。以下この項において同じ。)が、条例年齢以上退職者となつた日までの引き続く職員としての在職期間(要請に応じた退職前の在職期間を含む。)又は第二十二条の四第一項の規定によりかつて採用されて定年前再任用短時間勤務職員として在職していた期間中に第一項各号のいずれかに該当したときは、当該職員に対し同項に規定する懲戒処分を行うことができる。

第四項 職員の懲戒の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。

二 趣旨・立法背景

(1)懲戒制度の法的性格‥‥分限処分と異なり「悪」

懲戒処分とは、職員の義務違反や非行に対し、公務員関係の秩序を維持するため科す制裁である(最判昭和52年12月20日・民集31巻7号1101頁)。分限処分が職の適格性・行政上の必要性から科されるのと異なり、懲戒は非違行為の責任を問う制裁的性格を持つ。懲戒処分には退職手当の不支給(退職手当条例12条1項1号相当)や地方公務員共済組合の長期給付減額(地公共済法111条1項)など、身分剥奪以外の不利益も伴う。

(2)立法経緯

昭和25年の地方公務員法制定時に、国家公務員法82条をモデルとして規定された。当初は1項のみの簡素な構造だったが、その後の人事行政改革に応じて構造が変化した。2項の「要請に応じた退職後の懲戒」規定は、自治体から関連法人への出向後に復帰した職員の在職中の非違行為を事後的に問えるよう整備されたものである。3項の定年前再任用短時間勤務職員に関する特則は、令和3年改正(定年延長関係)により追加された。

(3)「できる」規定の意味

第1項は「処分をすることができる」と規定し、懲戒権者に裁量を付与している。これは懲戒事由の存在が懲戒処分の必要十分条件にはならないことを意味する。処分をするか否か、処分を選択する場合にいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量的判断に委ねられる(最判平成2年1月18日・民集44巻1号1頁)。ただし、この裁量は自由裁量ではなく、「社会観念上著しく妥当を欠く」場合には違法となる。

三 用語解説

戒告

4種類の懲戒処分のうち最も軽い処分であり、職員の責任を確認し、将来の服務に関して戒めを与える意思表示である。法的な給与減額は伴わないが、勤務評定・昇任・昇給等の人事管理上の評価に影響し得る。

減給

一定期間、給与の一部を減額する処分である。地方公務員法には減給の上限規定がなく、条例で定める(29条4項)。参考として、国家公務員法83条1項は「1年以下の期間、俸給月額の5分の1以下に相当する額」を上限とする。実務上、多くの自治体は国の基準に倣った条例を制定している。

停職

一定期間、職員としての身分を保有したまま職務への従事を禁じる処分である。停職中は給与が支給されない(条例で別途規定)。停職期間は条例で定めるが、多くの自治体で1日以上1年以下の範囲を設定している。

免職

職員の身分を剥奪する最も重い懲戒処分であり、退職手当の全部または一部不支給(退職手当条例に基づく)を伴うのが通常である。分限免職(28条1項)と異なり制裁的性格を持ち、失職(欠格事由への該当を原因とする当然退職)とも区別される。

第57条に規定する特例を定めた法律

警察官・消防職員・教育職員等の特別法(地方公務員法57条が基準を委任している法律)を指す。これらに違反した場合も1号の懲戒事由となる。代表例として教育公務員特例法・警察法施行令等がある。

職務上の義務

服務規律として法定または条例・規則で定められた義務(法令等・上司の職務命令遵守義務〔32条〕、職務専念義務〔35条〕、信用失墜行為の禁止〔33条〕など)のほか、職務の性質から当然に生ずる義務も含む。

全体の奉仕者たるにふさわしくない非行

職務内外を問わず、公務員としての品位を傷つける一切の行為を指す。公務外における犯罪行為・反社会的行為・重大な道義的問題行為も対象となる。「非行」には刑事罰を伴わない行為も含まれ、処分の必要性は公務員への信頼損失の程度によって判断される。

四 第1項の詳解——懲戒事由と実務

(1)1号事由:法令等違反

地方公務員法および第57条特例法(警察法・教育公務員特例法など)並びにこれらに基づく条例・規則・規程に違反した場合である。職務命令違反(32条)、信用失墜行為(33条)、守秘義務違反(34条)、職務専念義務違反(35条)、政治的行為の制限違反(36条)、争議行為の禁止違反(37条)がここに集約される。また、ハラスメント防止に関する条例・規程への違反も1号事由に該当し得る。

実例として、教職員が生徒への体罰を繰り返した場合は学校教育法11条(体罰禁止)および地方公務員法32条(法令等遵守義務)に違反するとして1号事由に該当する。また、SNSで業務上知り得た個人情報を投稿した場合は34条(守秘義務)違反として同号に該当する。

(2)2号事由:職務上の義務違反または職務懈怠

職務遂行過程での積極的義務違反(不正行為・命令拒否等)と消極的な職務放棄(無断欠勤の反復・業務懈怠)の双方を包含する。「職務上の義務」は成文規定に限らず、職務の性質から当然に要求される合理的行動規範も含む。部下の不正を知りながら放置した管理職の監督義務違反も2号事由に当たり得る。

実例として、税務担当職員が賦課・徴収事務を意図的に怠り滞納処理を放置した事案、許認可担当が申請者から金品を受領して便宜を図った事案、会計担当が架空請求書を作成して公金を横領した事案がある。これらは2号(職務上の義務違反)に該当し、多くが1号(条例等違反)にも重複して該当する。

(3)3号事由:全体の奉仕者にふさわしくない非行

公務員の身分にある者として、社会通念上許容されない行為すべてを包含する包括的事由である。職務外の行為・私生活上の行為であっても、公務員としての信用・品位を損ない、住民の公務に対する信頼を失墜させる場合には3号事由に該当する。

職務外行為の懲戒処分が争われた主な事例として、飲酒運転・窃盗・傷害・盗撮・わいせつ行為・不正薬物使用・SNSによる差別的投稿などがある。処分の可否は、当該行為の性質・悪質性・社会への影響度・当該自治体への信用損失の程度を総合して判断される。

大阪市では令和2年(2020年)のコロナ禍において、職員が多人数での会食を行った事案について「全体の奉仕者にふさわしくない非行」を懲戒事由として処分を行った。非行の射程が職務外の社会的行為にまで及ぶことを示す事例として参照される。

五 判例・裁判例

(1)懲戒裁量の基準——最判昭和52年12月20日(民集31巻7号1101頁)

【事案】 国税関長が職員(組合員)らの勤務時間中の組合活動・争議的行為を理由に懲戒処分を行ったことの適否が問われた、いわゆる神戸税関事件の上告審判決である。国家公務員法を直接の準拠法とするが、その判断枠組みは地方公務員の懲戒処分にも同様に適用される。

【判旨】 「懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを、その裁量的判断によって決定することができる」「裁判所は、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と当該処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法と判断すべきものである」と判示した。

【意義】 この判決が確立した「社会観念上著しく妥当を欠く」という裁量審査基準は、以後の懲戒処分取消訴訟において繰り返し引用される。裁判所による審査の密度は一般行政処分に比べて控えめであり、懲戒権者の判断が広範に尊重される構造となっている。

(2)地方公務員の懲戒裁量——最判平成2年1月18日(民集44巻1号1頁)

【事案】 地方公務員の懲戒処分の違法性審査の枠組みが明示された判決である。

【判旨】 「地方公務員につき地公法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に任されているものというべきである。懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを、その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである」と判示した。

【意義】 昭和52年判決の国家公務員基準を地方公務員へ明確に敷衍した。「平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督の衝に当たる懲戒権者の裁量」という表現が強調する通り、自治体の実情に即した判断が尊重される。

(3)わいせつ行為と停職処分の相当性——最高裁平成24年1月16日(裁判集民事239号253頁)

【事案】 地方公共団体の男性職員が勤務時間中に制服を着用したまま訪れた店舗で女性従業員に対してわいせつな行為を行ったことを理由に停職6か月の懲戒処分が下された事案である。原審は裁量権の逸脱・濫用として処分を取り消したが、最高裁はこれを破棄した。

【判旨】 最高裁は、①行為が客と店員の関係において拒絶が困難であることに乗じて行われたこと、②勤務時間中に市の制服を着用した状態での行為であったこと、③複数の新聞で報道されて地方公共団体の公務一般に対する住民の信頼を大きく損なったことを理由として、停職6か月の処分には裁量権の逸脱・濫用はないと判断した。

【意義】 3号事由(全体の奉仕者にふさわしくない非行)の射程と処分量定の合理性判断において、「住民の信頼への影響」「行為の態様」「職務との関連性」を重視する姿勢が示された。原審の個別事情重視の評価を是正し、懲戒権者の広い裁量を再確認した。

(4)国旗・国歌起立斉唱命令違反——最判平成24年1月16日(別事件・民集66巻1号1頁)

【事案】 東京都立学校の教職員が卒業式において起立斉唱を命ずる職務命令に従わなかったことを理由とする懲戒処分の適否が争われた事案である。

【判旨】 最高裁は、起立斉唱命令は思想・良心の自由の間接的制約となり得るが、教育上の行事における儀礼的行為として一般的・外部的行動を求めるものであり、不起立行為に対する戒告処分は裁量権の範囲内であると判断した。ただし、繰り返しの不起立を理由として減給・停職処分を選択する場合には、その相当性について慎重な審査が必要であるとした。

【意義】 1号事由(職務命令違反=法令等遵守義務違反)に基づく処分において、思想・良心の自由との緊張関係を踏まえた量定の相当性審査が行われた先例である。

(5)パワハラと懲戒免職の相当性——最判令和7年9月2日(糸島市消防士事件)

【事案】 福岡県糸島市の消防本部係長(消防司令補)が、部下に対して5年以上にわたり計約80件に及ぶ暴行・暴言・卑わいな言動・プライバシー侵害等を繰り返し、市のハラスメント防止規程に違反したとして懲戒免職処分に付された事案である。被処分者は懲戒免職処分の取消しと損害賠償を求めて提訴した。

【第一審・原審(福岡高裁)の判断】 各行為を個別に評価し、逸脱の程度は特段大きくなく言い過ぎに過ぎない部分があること、被害職員に重大な負傷が生じていないこと、被処分者に過去の懲戒処分歴がなく反省の態度を示していることを考慮して、懲戒免職処分は重きに失し裁量権の逸脱・濫用として違法であるとした。

【最高裁判旨】 最高裁は原審の判断を是認できないとして破棄自判し、次のように判示した。「Xがした本件各行為が消防組織や職場環境に及ぼした悪影響が特に大きいものであることは、その行為の態様が極めて不適切であることのみならず、その期間の長さ、行為の回数や被害者の多さ等の諸事情から明らかである」。原審が「個々の行為を単体で評価」したのに対し、「本件各行為が全体としてどのような悪影響をもたらすものであるかをも十分に評価すべきであったにもかかわらず、これを怠った」と批判した。

【意義】 令和7年判決は2点で実務上重要である。第1に、複数回・長期間にわたるパワハラ行為の評価では「行為の全体的・累積的影響」を中心に置くべきであり、個別行為の軽重のみで量定を判断する手法は誤りであると示した。第2に、ハラスメント防止規程への違反が1号事由として確認されるとともに、消防組織の秩序・規律への著しい悪影響が3号事由の充足根拠として評価された。職場内ハラスメントを理由とする懲戒処分について懲戒権者の広範な裁量を再確認した、令和年間の先例として位置づけられる。

(6)懲戒処分と一事不再理——最高裁の確立した判例

同一の非違行為に基づき懲戒処分がなされた後に刑事訴追・有罪判決を受けても、それが二重処罰(憲法39条)に該当しないことは確立した判例である。懲戒処分は行政上の制裁であり、刑事罰とは目的・性格が異なるためである(地方公務員法29条1項に関する最高裁判例参照)。

六 第2項の解説——要請退職後復帰者への遡及適用

第2項は、任命権者の要請に応じて退職し、特別職地方公務員・他団体の地方公務員・国家公務員・地方公社等に在職した後、再び職員として採用された場合に、当初退職前の在職期間中における非違行為について懲戒処分を行うことができると規定する。

この規定がなければ、退職した時点で懲戒権の客体(職員の身分)が消滅し、復帰後に在職中の非違行為が発覚しても懲戒処分が不可能となる。第2項はこの制度的空白を埋める。対象となる外部機関の範囲は、地方住宅供給公社・地方道路公社・土地開発公社(地方公社)および「業務が地方公共団体若しくは国の事務若しくは事業と密接な関連を有する法人のうち条例で定めるもの」とされており、自治体ごとの条例整備が必要である。

一の特別職地方公務員等として在職した後、引き続き複数の特別職地方公務員等を経由して再採用された場合も対象に含まれる。これは退職前の在職期間を「連鎖的に遡る」構造をとっている。

七 第3項の解説——定年前再任用短時間勤務職員への適用

第3項は、令和3年改正(定年延長制度の創設)に伴い設けられた規定である。第22条の4第1項の規定により採用された定年前再任用短時間勤務職員が、「条例年齢以上退職者」となった日までの在職期間中(要請に応じた退職前の在職期間を含む)または以前の同規定による在職期間中に懲戒事由に該当した場合、現在の身分のまま懲戒処分を行うことができる。

「条例年齢以上退職者」とは、定年延長後の新たな年齢設定(条例で60歳以上を定める)に達した日以降に退職した者を指す。定年前再任用短時間勤務職員制度は、定年延長に対応して一定年齢到達後に短時間勤務で職務を継続させる制度であり、その活用期間中も懲戒の連続性を担保する趣旨である。

八 第4項の解説——手続・効果の条例委任

懲戒の手続(調査・弁明機会の付与・処分書の交付等)および効果(減給額・停職期間の上限・給与減額の程度等)は、法律に特別の定めがある場合を除き、条例で定めなければならない。地方自治の原則(条例主義)を反映したものである。

各自治体は「職員の懲戒の手続及び効果に関する条例」等を制定しており、その内容は人事院規則12-0(職員の懲戒)の基準に準拠することが多い。処分の告知・弁明機会の付与は適正手続の観点からも不可欠であり、これを欠く手続的瑕疵は処分の違法事由となる。

九 補論——行政法上の重要論点

(1)裁量統制の構造

第1項が「することができる」と規定する効果として、懲戒権者には「処分するかどうか」(処分裁量)と「いかなる処分を選ぶか」(量定裁量)の二重の裁量が認められる。昭和52年・平成2年最高裁判決は、この裁量に対する司法審査を「社会観念上著しく妥当を欠く」場合に限定することを示した。裁判所が懲戒権者と同一の立場で審査するのではなく、裁量の逸脱・濫用のみを統制する構造である。

裁量権の逸脱・濫用が認められる典型的な場合として学説・裁判例が示すのは、①非違事実の認定に重大な誤りがある場合、②考慮すべき事情を考慮せず、または考慮すべきでない事情を考慮した場合、③平等原則(地公法13条)に反する著しい不均衡がある場合、④比例原則に反して行為の重大性に比し処分が著しく均衡を欠く場合、の4類型である。

(2)懲戒処分と信用失墜行為禁止(33条)の関係

地公法33条は「信用失墜行為の禁止」として、職の信用を傷つけ、または職員全体の不名誉となる行為を禁じる。3号事由(全体の奉仕者にふさわしくない非行)との関係では、33条違反は1号事由にも該当するため、3号事由と1号事由が競合する場面が多い。実務上は複数事由を列挙して処分を行う場合が多いが、処分の適法性審査において事由の競合自体は問題にならない。

(3)懲戒処分の時機・除斥期間

地方公務員法には懲戒処分の除斥期間規定がない(国家公務員法にも明文規定はない)。長期間が経過した後の処分の適否は、非違行為の悪質性・処分権者が非違行為を認識した時期・認識後の対応の迅速性等を総合して判断される。非違行為を認識しながら長期間放置した後に処分した場合には、裁量権の逸脱・濫用として処分が違法となる可能性がある。

(4)懲戒処分の行政処分性と不服申立て

懲戒処分は抗告訴訟(取消訴訟・無効等確認訴訟)の対象となる行政処分であり(行政事件訴訟法3条)、処分の通知を受けた日から3か月以内に取消訴訟を提起できる(行政事件訴訟法14条)。人事委員会設置団体では、まず人事委員会への審査請求(地公法49条の2)が前置される場合がある(各自治体の条例・規則による)。公平委員会設置団体でも同様の不服申立て手続が用意されている。

十 国家公務員法82条との対比

国家公務員法82条1項の懲戒事由は地公法29条1項と基本的に同じ3事由だが、1号事由に「国家公務員倫理法またはこれらの法律に基づく命令」違反が明記されている点が異なる。地方公務員の場合、国家公務員倫理法は直接適用されないが、各自治体が条例・倫理規程等を制定してその趣旨を取り込むことが多い。しかし、私見では、「地方公務員倫理法」が是非とも地方分権の時代にも必要と考えるし、29条に明文化して盛り込むべきである。

国公法83条は停職期間の上限を「1年以内」と明示するが、地公法には対応する明文規定がなく、条例に委任されている(29条4項)。減給の上限(俸給月額の5分の1以下・1年以内)も国公法83条が直接規定するのに対し、地公法は条例委任であり、各自治体間でわずかな差異が生じ得る。

懲戒処分後の不服申立てについて、国家公務員は人事院への審査請求が前置される(国公法90条)のに対し、地方公務員は人事委員会・公平委員会への審査請求と取消訴訟が並行的に選択可能な構造となっている(地公法49条の2・49条の3)。

十一 コンプライアンス実務への示唆

(1)懲戒処分指針の策定と運用

各自治体は人事院が示す「懲戒処分の指針について」(平成12年3月31日職職68通知)に準拠して独自の懲戒処分指針(標準処分例)を策定することが一般的である。指針は非違行為の類型ごとに標準量定を示すが、あくまでも参考基準であり、個別事情によって指針と異なる量定を選択することも許容される。ただし、指針からの著しい逸脱は平等原則違反として違法と評価され得るため、逸脱には合理的な説明が求められる。

(2)弁明機会の保障と手続的適正

懲戒処分においては、処分に先立ち職員に対して弁明の機会を与えることが手続的適正の観点から求められる。これは条例で義務づけられる場合(多くの自治体)のほか、行政法上の一般原則としても要請される。処分前の事実確認・調査が不十分な場合や、弁明の機会が実質的に保障されなかった場合は、処分の取消事由となり得る。

(3)ハラスメント防止規程と懲戒事由の接続

令和7年糸島市最高裁判決が示すように、自治体のハラスメント防止規程(条例・規則・規程)に違反した行為は1号事由として懲戒事由に直結する。さらに職場環境への悪影響が大きい場合には3号事由も充足する。ハラスメント行為の評価に際しては「個別行為の積み上げ」ではなく「全体的・累積的影響」を中心に置くことが令和7年判決の要諦である。組織として防止規程を整備し、その内容を職員に周知するとともに、申告制度を実効的に運用することがコンプライアンス上の基本要請となる。

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