離職後に営利企業等へ再就職した元職員が、在職していた地方公共団体の現職職員に契約等事務について働きかけを行うことを禁止する規定を解説。国家公務員法第106条の4との異同、罰則構造、行政法上の論点を扱う。


条文原文

(再就職者による依頼等の規制)

第三十八条の二 職員(臨時的に任用された職員、条件付採用期間中の職員及び非常勤職員(短時間勤務の職を占める職員を除く。)を除く。以下この節、第六十条及び第六十三条において同じ。)であつた者であつて離職後に営利企業等(営利企業及び営利企業以外の法人(国、国際機関、地方公共団体、独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人及び特定地方独立行政法人を除く。)をいう。以下同じ。)の地位に就いている者(退職手当通算予定職員であつた者であつて引き続いて退職手当通算法人の地位に就いている者及び公益的法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成十二年法律第五十号)第十条第二項に規定する退職派遣者を除く。以下「再就職者」という。)は、離職前五年間に在職していた地方公共団体の執行機関の組織(当該執行機関(当該執行機関の附属機関を含む。)の補助機関及び当該執行機関の管理に属する機関の総体をいう。第三十八条の七において同じ。)若しくは議会の事務局(事務局を置かない場合には、これに準ずる組織。同条において同じ。)若しくは特定地方独立行政法人(以下「地方公共団体の執行機関の組織等」という。)の職員若しくは特定地方独立行政法人の役員(以下「役職員」という。)又はこれらに類する者として人事委員会規則(人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の規則。以下この条(第七項を除く。)、第三十八条の七、第六十条及び第六十四条において同じ。)で定めるものに対し、当該地方公共団体若しくは当該特定地方独立行政法人と当該営利企業等若しくはその子法人(国家公務員法第百六条の二第一項に規定する子法人の例を基準として人事委員会規則で定めるものをいう。以下同じ。)との間で締結される売買、貸借、請負その他の契約又は当該営利企業等若しくはその子法人に対して行われる行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第二号に規定する処分に関する事務(以下「契約等事務」という。)であつて離職前五年間の職務に属するものに関し、離職後二年間、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼してはならない。

2 前項の「退職手当通算法人」とは、地方独立行政法人法第二条第一項に規定する地方独立行政法人その他その業務が地方公共団体又は国の事務又は事業と密接な関連を有する法人のうち人事委員会規則で定めるもの(退職手当(これに相当する給付を含む。)に関する規程において、職員が任命権者又はその委任を受けた者の要請に応じ、引き続いて当該法人の役員又は当該法人に使用される者となつた場合に、職員としての勤続期間を当該法人の役員又は当該法人に使用される者としての勤続期間に通算することと定められており、かつ、当該地方公共団体の条例において、当該法人の役員又は当該法人に使用される者として在職した後引き続いて再び職員となつた者の当該法人の役員又は当該法人に使用される者としての勤続期間を当該職員となつた者の職員としての勤続期間に通算することと定められている法人に限る。)をいう。

3 第一項の「退職手当通算予定職員」とは、任命権者又はその委任を受けた者の要請に応じ、引き続いて退職手当通算法人(前項に規定する退職手当通算法人をいう。以下同じ。)の役員又は退職手当通算法人に使用される者となるため退職することとなる職員であつて、当該退職手当通算法人に在職した後、特別の事情がない限り引き続いて選考による採用が予定されている者のうち人事委員会規則で定めるものをいう。

4 第一項の規定によるもののほか、再就職者のうち、地方自治法第百五十八条第一項に規定する普通地方公共団体の長の直近下位の内部組織の長又はこれに準ずる職であつて人事委員会規則で定めるものに離職した日の五年前の日より前に就いていた者は、当該職に就いていた時に在職していた地方公共団体の執行機関の組織等の役職員又はこれに類する者として人事委員会規則で定めるものに対し、契約等事務であつて離職した日の五年前の日より前の職務(当該職に就いていたときの職務に限る。)に属するものに関し、離職後二年間、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼してはならない。

5 第一項及び前項の規定によるもののほか、再就職者は、在職していた地方公共団体の執行機関の組織等の役職員又はこれに類する者として人事委員会規則で定めるものに対し、当該地方公共団体若しくは当該特定地方独立行政法人と営利企業等(当該再就職者が現にその地位に就いているものに限る。)若しくはその子法人との間の契約であつて当該地方公共団体若しくは当該特定地方独立行政法人においてその締結について自らが決定したもの又は当該地方公共団体若しくは当該特定地方独立行政法人による当該営利企業等若しくはその子法人に対する行政手続法第二条第二号に規定する処分であつて自らが決定したものに関し、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼してはならない。

6 第一項及び前二項の規定(第八項の規定に基づく条例が定められているときは、当該条例の規定を含む。)は、次に掲げる場合には適用しない。

一 試験、検査、検定その他の行政上の事務であつて、法律の規定に基づく行政庁による指定若しくは登録その他の処分(以下「指定等」という。)を受けた者が行う当該指定等に係るもの若しくは行政庁から委託を受けた者が行う当該委託に係るものを遂行するために必要な場合、又は地方公共団体若しくは国の事務若しくは事業と密接な関連を有する業務として人事委員会規則で定めるものを行うために必要な場合

二 行政庁に対する権利若しくは義務を定めている法令の規定若しくは地方公共団体若しくは特定地方独立行政法人との間で締結された契約に基づき、権利を行使し、若しくは義務を履行する場合、行政庁の処分により課された義務を履行する場合又はこれらに類する場合として人事委員会規則で定める場合

三 行政手続法第二条第三号に規定する申請又は同条第七号に規定する届出を行う場合

四 地方自治法第二百三十四条第一項に規定する一般競争入札若しくはせり売りの手続又は特定地方独立行政法人が公告して申込みをさせることによる競争の手続に従い、売買、貸借、請負その他の契約を締結するために必要な場合

五 法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報の提供を求める場合(一定の日以降に公にすることが予定されている情報を同日前に開示するよう求める場合を除く。)

六 再就職者が役職員(これに類する者を含む。以下この号において同じ。)に対し、契約等事務に関し、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼することにより公務の公正性の確保に支障が生じないと認められる場合として人事委員会規則で定める場合において、人事委員会規則で定める手続により任命権者の承認を得て、再就職者が当該承認に係る役職員に対し、当該承認に係る契約等事務に関し、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼する場合

7 職員は、前項各号に掲げる場合を除き、再就職者から第一項、第四項又は第五項の規定(次項の規定に基づく条例が定められているときは、当該条例の規定を含む。)により禁止される要求又は依頼を受けたとき(地方独立行政法人法第五十条の二において準用する第一項、第四項又は第五項の規定(同条において準用する次項の規定に基づく条例が定められているときは、当該条例の規定を含む。)により禁止される要求又は依頼を受けたときを含む。)は、人事委員会規則又は公平委員会規則で定めるところにより、人事委員会又は公平委員会にその旨を届け出なければならない。

8 地方公共団体は、その組織の規模その他の事情に照らして必要があると認めるときは、再就職者のうち、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第二十一条第一項に規定する部長又は課長の職に相当する職として人事委員会規則で定めるものに離職した日の五年前の日より前に就いていた者について、当該職に就いていた時に在職していた地方公共団体の執行機関の組織等の役職員又はこれに類する者として人事委員会規則で定めるものに対し、契約等事務であつて離職した日の五年前の日より前の職務(当該職に就いていたときの職務に限る。)に属するものに関し、離職後二年間、職務上の行為をするように、又はしないように要求し、又は依頼してはならないことを条例により定めることができる。


趣旨・立法背景

本条は、地方公共団体を退職して営利企業等の地位に就いた元職員が、在職していた組織の現職職員に対して契約や処分に関する働きかけを行うことを禁止する規定である。第38条から第38条の7までの一連の退職管理規定は、平成26年法律第34号(地方公務員法及び地方独立行政法人法の一部を改正する法律)により新設され、平成28年4月1日に施行された。

導入の背景には、国における平成19年の国家公務員法等改正がある。防衛施設庁発注工事をめぐる談合事案において、同庁を退職した元職員が現職職員に対して受注調整を働きかけていた事実が明らかになったことが契機となり、国家公務員法に再就職あっせん規制、現職職員の求職活動規制、退職職員の働きかけ規制の三本柱が導入された。地方公共団体においても同様の弊害を防止する必要があるとの認識のもと、国の制度に準じた規制が地方公務員法に取り込まれた。

規制の目的は、離職後に営利企業等の地位を得た者が、かつての職務上の地位や人脈を利用して現職職員の職務執行に不当な影響を及ぼし、行政の公正性や住民の信頼を損なう事態を防ぐことにある。契約の相手方選定や行政処分の判断が、離職者の口利きによって歪められることを未然に防止する趣旨であり、いわゆる天下り先企業への便宜供与を遮断する機能を持つ。

用語解説

再就職者 離職後に営利企業等の地位に就いている元職員のうち、退職手当通算予定職員であって引き続き退職手当通算法人の地位に就いている者及び退職派遣者を除いた者をいう。臨時的任用職員、条件付採用期間中の職員、非常勤職員(短時間勤務職を除く)であった者は、そもそも規制の対象から外れる。

営利企業等 営利企業及び営利企業以外の法人のうち、国、国際機関、地方公共団体、行政執行法人、特定地方独立行政法人を除いたものをいう。公益法人、一般社団法人、NPO法人なども含まれ、非営利法人であっても対象となる点に留意を要する。

地方公共団体の執行機関の組織等 離職前に在職していた執行機関の組織(附属機関を含む補助機関及び管理に属する機関の総体)、議会事務局、特定地方独立行政法人を指す。規制対象となる現職職員は、この組織等に属する役職員である。

契約等事務 当該地方公共団体又は特定地方独立行政法人と営利企業等又はその子法人との間で締結される売買、貸借、請負その他の契約に関する事務、及び当該営利企業等又はその子法人に対して行われる行政手続法第2条第2号の処分に関する事務をいう。行政手続法上の「処分」概念を借用しているため、許認可のほか不利益処分も含まれる。

子法人 営利企業等が議決権の過半数を保有する法人をいい、国家公務員法第106条の2第1項に規定する子法人の例を基準として人事委員会規則で定める。

働きかけの禁止期間・対象範囲 原則として離職前5年間に在職していた組織の役職員に対し、離職前5年間の職務に属する契約等事務について、離職後2年間の働きかけが禁止される。第4項により、地方自治法第158条第1項の内部組織の長又はこれに準ずる職に5年より前に就いていた者は、当該職在職時の職務に関する働きかけも禁止対象に加わる。第5項により、再就職者自らが最終決裁権者として決定した契約又は処分については、期間の制限なく働きかけが禁止される。

適用除外事由 第6項各号に列挙されており、指定等に基づく試験・検査等の遂行に必要な場合、法令や契約に基づく権利行使・義務履行の場合、申請又は届出を行う場合、一般競争入札等の手続による契約締結に必要な場合、公にされ又は公にすることが予定されている情報の提供を求める場合、人事委員会規則で定める手続により任命権者の承認を得た場合が該当する。

届出義務 第7項により、現職職員は禁止される要求又は依頼を再就職者から受けたときは、人事委員会又は公平委員会にその旨を届け出なければならない。届出を怠り、又は虚偽の届出をした場合には過料の対象となる。

条例による対象拡大 第8項により、地方公共団体は組織規模等に照らして必要と認めるときは、国家行政組織法第21条第1項の部長又は課長に相当する職に5年より前に就いていた者についても、条例で働きかけ規制の対象に加えることができる。横浜市など一部の地方公共団体で条例による対象拡大の例がある。

国家公務員法・国家公務員倫理法との対応関係

国家公務員法における対応規定は第106条の4(退職職員による働きかけの規制)である。同条は、離職後に営利企業等の地位に就いた元職員が、離職前5年間に在職していた局等組織に属する役職員等に対し、当該営利企業等が関係する契約・処分に関する事務であって離職前5年間の職務に関するものについて、離職後2年間、職務上の行為をするよう要求又は依頼することを禁止する。本省局長級以上の職に就いていた者については、対象範囲と規制期間がさらに拡張される。地方公務員法第38条の2は、この国家公務員法第106条の4の枠組みをほぼそのまま地方公共団体向けに移植したものであり、条文構造・規制対象・適用除外事由の類型はいずれも共通する。

なお条文中で引用される国家公務員法第106条の2は「子法人」の定義規定であり、同条自体は国における再就職あっせんの規制(他の職員や元職員を営利企業等に再就職させることを目的とした情報提供や要求・依頼の禁止)を定めるものであって、第38条の2が対応するのは第106条の4である点を区別する必要がある。国家公務員法上の三類型の規制のうち、地方公務員法第38条の2に相当するのは「退職職員の働きかけ規制」のみであり、あっせん規制(第106条の2)及び現職職員の求職活動規制(第106条の3)に相当する規定は、地方公務員法には設けられていない。

国家公務員倫理法及び同法施行規程との関係では、同法は在職中の職員の倫理保持(利害関係者からの贈与等の禁止、倫理行動基準の策定等)を規律するものであり、離職後の元職員による働きかけを直接の対象とはしていない。ただし、国家公務員法上の求職活動規制の適用除外において「本省課長補佐級以上の職員」の基準を国家公務員倫理法第2条第2項の定義に依拠している点で、両法は制度上連動している。地方公務員法には国家公務員倫理法に相当する独立した法律は存在せず、各地方公共団体が職員倫理条例等により在職中の倫理規律を独自に整備しているのが実情である。

補論 規制の法的性質と職業選択の自由との関係

本条が定める働きかけ規制は、行政処分ではなく不作為義務を課す禁止規範であり、違反に対しては第60条・第63条により刑罰又は過料が科される構造をとる。行政法上の論点として、離職者という既に公務員関係から離脱した私人に対して公法上の義務を課すことの正当化根拠が問題となる。この点、規制の対象は再就職者の職業活動そのものを禁止するものではなく、特定の相手方(かつて所属した組織)に対する特定の行為態様(働きかけ)に限定した規制であるため、憲法第22条第1項の職業選択の自由に対する制約としては限定的なものと整理されている。もっとも、規制範囲が離職後2年間、場合によっては期限の定めなく及ぶ点(第5項)は、規制の必要性と私人の行動自由との比例関係が問われる場面であり、適用除外事由(第6項各号)の解釈運用がその調整弁として機能している。

もう一つの論点は、届出義務(第7項)の相手方が働きかけを受けた現職職員である点である。規制違反の第一次的な発見契機を、規制対象者本人ではなく働きかけを受けた側の届出に依存させる制度設計であり、実効性確保の観点からは、届出を行わなかった職員に対する制裁(過料)が同時に置かれている。これは行政上の秩序罰と刑事罰が併存する複層的な制裁体系であり、規制対象行為の性質に応じて秩序罰的対応と刑事罰的対応を使い分ける立法政策の一例として整理できる。

判例・裁判例

本条及びこれに対応する国家公務員法第106条の4は、いずれも平成19年及び平成26年の改正により新設された比較的新しい規定であり、違反事案は人事委員会・公平委員会への届出及び任命権者による調査という行政内部の手続を通じて処理される仕組みが中心となっているため、本条の解釈適用そのものを正面から扱った公表裁判例は現時点で見当たらない。

もっとも、本条の立法動機となった防衛施設庁発注工事談合事案は、刑事事件として立件され、独占禁止法違反(不当な取引制限)及び官製談合防止法違反の罪で関係者が起訴された経緯があり、退職者による現職職員への働きかけが現実の公務の公正性を害する事例として、平成19年国家公務員法改正の立法事実を構成した。

また、公務員の離職後の行為に対する規制一般の合憲性を検討する際の参照枠組みとしては、職業の自由に対する規制の合憲性判断基準を示した最高裁昭和50年4月30日大法廷判決(薬事法距離制限事件)が引用されることがある。同判決は、職業の自由に対する規制について、規制目的の重要性と規制手段の必要性・合理性を比較衡量する枠組みを示したものであり、離職後の行為規制についても、規制目的(公務の公正性確保、住民の信頼保持)と規制範囲の均衡が問われる場面で参照される一般的な判断枠組みとして位置づけられる。ただし同判決自体は薬事法上の適正配置規制を対象としたものであり、本条を直接の争点として扱った判断ではない点に留意する必要がある。


次回は第38条の3(再就職者による依頼等の規制違反に関する調査)を予定している。

Follow me!