条文原文

地方公務員法第31条(服務の宣誓)

職員は、条例の定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない。


趣旨・立法背景

服務の宣誓の位置づけ

地方公務員法第31条は、職員が正式に職務に就く際、住民全体の奉仕者として法令・条例・規則・規程・上司の職務命令に従い、誠実に職務を執行することを宣誓する義務を定める。宣誓は採用辞令の交付や初出勤という事実的行為とは区別される。職員が自ら公に意思表示する点に独自の意義がある。

本条は昭和25年(1950年)の地方公務員法制定時から存在し、当時の立法者は次の二つの目的を想定していた。第一に、職員が「全体の奉仕者」(憲法第15条第2項)として民主的奉仕の原則に服することを自覚させること。第二に、任命権者・住民に対して職員の服務基準への服従意思を公式化し、規律関係の始点を明確にすることである。

昭和25年当時の地方公務員法制定は、日本国憲法の精神を地方公務に浸透させる立法作業の一環として行われた。服務の宣誓はその象徴的制度として設けられたものであり、形式的儀礼にとどまらず、服務規律の序章として機能するよう設計されている。

条例委任の構造

本条は宣誓の実施根拠を条例に委任する。宣誓の時期・形式・宣誓書の様式・立会者・不履行の取扱い等の具体的手続きはすべて各地方公共団体の条例で定める。法律が細目を条例に委ねることにより、各団体の組織文化や実情を反映した運用が可能となっている。

現行では、多くの地方公共団体が「職員の服務の宣誓に関する条例」を単独の条例として制定し、宣誓書の様式を別記として附属させている。宣誓書の文言は各団体により微差があるが、「日本国憲法を尊重し擁護すること」「法令・条例・規則等に従い誠実に職務を執行すること」を骨子とするものが標準的である。


国家公務員法との比較

国家公務員については、国家公務員法第97条が「職員は、政令の定めるところにより、服務の宣誓をしなければならない」と規定する。地方公務員法第31条と対照すると、委任先が「条例」ではなく「政令」であり、政令として「国家公務員宣誓令」(昭和23年政令第180号)が制定されている。

国家公務員宣誓令第1条は宣誓の時期を「各省各庁の長が指定した日」と定め、第2条は宣誓書の様式を規定する。様式には「私は、国民全体の奉仕者として、日本国憲法を尊重し擁護し、国の利益のために働く義務があることを厳粛に誓います」という趣旨の文言が盛り込まれている。

地方公務員法が政令ではなく条例に委任していることは、地方公共団体の自治立法権(憲法第94条)への配慮を示す。地方公務員の服務規律は、国の統一的規律に直接服するのではなく、各地方公共団体が自治的に定める規律体系を基礎とする構造が徹底されている。


用語解説

「服務の宣誓」

宣誓(oath)とは、一定の義務を履行することまたは一定の事実が真実であることを公に誓う意思表示である。服務の宣誓は後者ではなく前者にあたり、職務上の義務(服務)を誠実に履行する旨を公に表明するものである。

服務の宣誓は、職務を開始する前に行われる服務規律への服従確認であり、採用行為そのものではない。採用内定・採用辞令の交付が任用の法律行為であるのに対し、服務の宣誓は任用後に行われる服務上の手続きである。

「条例の定めるところにより」

本条における条例とは、地方公共団体の議会が地方自治法第96条第1項第1号に基づき制定する自治立法をいう。「定めるところにより」とは、宣誓の時期・方式・内容・手続きの細目を条例に包括的に委ねることを意味する。条例が宣誓書の書式を議会の議決によって定める構造は、民主的正統性の観点からも合理性を有する。

「しなければならない」

本条の「しなければならない」は義務規定である。職員に宣誓の義務が課され、任命権者(地方公共団体の長等)には条例に基づいて宣誓を実施させる責務が生じる。


宣誓の法的性質

宣誓の行政法上の性質

服務の宣誓が行政処分(抗告訴訟の対象たる処分)にあたるかについては、実務上否定的に解されている。服務の宣誓は採用という任用行為に付随する服務上の手続きであり、それ自体が職員の権利義務を新たに形成・変容させる行為ではないからである。採用取消・懲戒処分といった不利益処分と異なり、宣誓それ自体は独立した行政処分性を有しない。

宣誓書への署名・押印という行為も、それ自体で法的効果を発生させる契約行為ではなく、服務規律に服することの確認的意思表示と解される。

宣誓の拒否と法的効果

職員が正当な理由なく宣誓を拒否した場合、任命権者はいかなる措置をとりうるか。この点について明文の規定はないが、実務上および学説上は次のように整理されている。

第一に、宣誓拒否それ自体は直ちに免職事由とはならない。地方公務員法第28条第1項各号(降任・免職の事由)には「宣誓拒否」は列挙されていないためである。

第二に、正当な理由のない宣誓拒否は「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」(地方公務員法第29条第1項第3号)として懲戒処分の対象となりうる。宣誓義務は法律上の義務であり、その拒否は服務規律違反を構成する。

第三に、宣誓未了の状態で職員が継続して職務を執行した場合、その職務執行の法的効力は宣誓の有無によって左右されない。宣誓は職務執行の有効要件ではなく服務義務であるため、宣誓未了であっても職務執行上の公権力行使の効力は維持される。

宗教的・思想的理由による宣誓拒否

特定の宗教または思想的立場から宣誓形式を拒否する職員について、信教の自由(憲法第20条)・思想良心の自由(憲法第19条)との関係が問題となりうる。裁判例として直接の先例は少ないが、採用に際して宣誓義務は事前に明示されており、職員は宣誓を承知のうえで採用に応じる関係にあること、宣誓の内容が特定の宗教的行為を強制するものではなく職務上の義務確認にとどまることから、一般には合憲と解されている。


判例・裁判例

宣誓拒否に関する直接の最高裁判例

服務の宣誓それ自体が争点となった最高裁判決は現時点では確認されていない。下級審裁判例においても、宣誓拒否単独を争点とする事案は少なく、懲戒処分の一事情として宣誓未了が問題となる形で現れることが多い。

公務員の宣誓と思想良心の自由に関する参考裁判例

最高裁大法廷判決昭和49年11月6日(猿払事件)は、公務員の政治的中立性義務が憲法第21条と緊張関係に立つ場面での違憲審査基準を示したものであり、服務宣誓との直接の関係はないが、「全体の奉仕者」として公務員に課せられる特別な義務の合憲性を論じた先例として参照される。

東京地裁判決平成元年1月30日(判時1322号)は、教職員が日の丸・君が代に関する職務命令を宗教的・思想的理由から拒否した事案において、職務命令の合憲性・合法性を肯定する判断を示した。服務の宣誓を直接の対象とするものではないが、思想良心の自由と職務上の義務の関係について参考となる。


補論:服務の宣誓と倫理規範の関係

服務の宣誓は、地方公務員に固有の倫理規範の出発点として位置づけられる。職員は宣誓によって、単に命令に従う存在としてではなく、憲法・法令・条例の精神を自律的に内面化した公務員として職務に就くことを宣言する。

国家公務員倫理法(平成11年法律第129号)は宣誓について直接の規定を置かないが、同法の定める倫理行動規準(第3条)が「国民全体の奉仕者であることを自覚し」と定める文言は、宣誓において誓う内容と連続している。地方公務員については国家公務員倫理法は適用されないが、各地方公共団体が制定する倫理条例・倫理規程の趣旨は服務宣誓の内容と表裏一体である。

服務の宣誓を形式的手続きとして軽視する職場文化は、コンプライアンス意識の形骸化につながる。宣誓の意義と内容を採用研修において十分に説明することは、倫理教育の第一歩として実務上の意義を持つ。


参考条文・関連規定

  • 日本国憲法第15条第2項(公務員の全体奉仕者性)
  • 日本国憲法第94条(条例制定権)
  • 地方公務員法第30条(服務の根本基準)
  • 地方公務員法第28条第1項(降任・免職事由)
  • 地方公務員法第29条第1項(懲戒事由)
  • 国家公務員法第97条(服務の宣誓)
  • 国家公務員宣誓令(昭和23年政令第180号)
  • 地方自治法第96条第1項第1号(条例の制定)

まとめに代えて

地方公務員法第31条は一文のみの簡素な条文であるが、委任先を条例とした立法構造、宣誓の行政処分性の問題、宣誓拒否の法的効果、宗教的・思想的自由との緊張関係といった行政法上の論点を内包する。服務規律の序章として、また倫理行動の出発点として、宣誓制度の意義を採用時の研修等で丁寧に伝えることが地方公共団体に求められる。

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