情報流通プラットフォーム対処法逐条解説 第七条・第八条

情報流通プラットフォーム対処法(特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律、平成十三年法律第百三十七号)は、プロバイダ責任制限法の題名及び内容を改正した法律である。同法第三章「発信者情報の開示請求等」は第五条から第七条までで構成され、第四章「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続」は第八条から始まる。本稿では、開示請求手続の締めくくりとなる第七条と、裁判手続の入口となる第八条を併せて取り上げる。

第七条(発信者情報の開示を受けた者の義務)

条文原文

第七条 第五条第一項又は第二項の規定により発信者情報の開示を受けた者は、当該発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者情報に係る発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をしてはならない。

趣旨・立法背景

本条は、開示請求権者が発信者情報の開示を受けた後の行為を規律する規定である。発信者情報開示請求は、特定電気通信上で加害者不明の不法行為が行われた場合に、被害者に加害者を特定する手段を与え、損害賠償請求権の行使等による被害回復を可能にするための制度である。したがって、開示を受けた情報の用途は、損害賠償請求権の行使その他法律上認められた被害回復の措置に限られる。開示を受けた者がそれ以外の目的、たとえば発信者の氏名や住所をウェブページ等に掲載して私的制裁を加える目的で当該情報を用いた場合には、発信者の名誉又は生活の平穏を侵害する不法行為を構成する。

条文上「みだりに用いて」「不当に」という二つの規範的要件が置かれているのは、開示を受けた情報のあらゆる利用を禁じるものではなく、損害賠償請求や差止請求など法律上正当な目的での利用は妨げないという趣旨を示すためである。総務省の解説によれば、本条は、犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律第三条第三項、及び刑事確定訴訟記録法(昭和六十二年法律第六十四号)第六条と同趣旨の規定とされる。前者は犯罪被害者等による公判記録の閲覧・謄写に関する規定であり、後者は刑事被告事件に係る訴訟記録等の閲覧者の義務に関する規定である。いずれも、特定の目的のために開示・閲覧を認められた情報を、目的外で用いて第三者の利益を害することを禁ずる点で共通する。

本条は、平成十三年の制定当初から存在した旧法第四条第三項を、令和三年改正(令和四年十月一日施行)による章立ての再編に伴い第七条として独立させたものであり、条文の文言そのものに実質的な変更はない。旧法第四条は、発信者情報開示請求(第一項)、開示関係役務提供者による意見照会(第二項)、開示を受けた者の義務(第三項)、開示関係役務提供者の重過失免責(第四項)を一箇条にまとめていたが、令和三年改正でこれらが第五条から第七条までに分割された。

なお、本条に違反しても、それ自体が刑事罰の対象となるわけではない。もっとも、本条に反する態様で発信者情報を用い、これによって発信者に損害が生じた場合には、名誉毀損又はプライバシー侵害等の不法行為として、民法第七百九条に基づく損害賠償責任を負うことになる。

用語解説

発信者情報 氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって、情報流通プラットフォーム対処法施行規則に限定列挙されたものをいう。同施行規則第二条には、発信者の氏名又は名称、住所、電話番号、電子メールアドレス、侵害情報の送信に係るIPアドレス等、十四号にわたる情報が列挙されている。

みだりに用いて 法律上正当な理由なく、目的の範囲を超えて情報を利用することをいう。損害賠償請求権の行使、示談交渉、名誉回復措置の要請、差止請求権の行使のために発信者情報を用いる行為は、これに該当しない。

生活の平穏を害する行為 発信者の私生活の平穏を害する行為全般を指し、典型例としては、開示を受けた発信者の氏名や住所をインターネット上で公表する行為、これらを用いて発信者やその関係者に執拗な連絡を行う行為が挙げられる。

旧法時代の判例・裁判例

旧法下では、発信者情報開示を受けた請求者がこれを不当に用いた場合(旧法第四条第三項)にはプライバシー侵害等の不法行為を構成するとの理解が、プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインにおいて示されてきた。同ガイドラインは、氏名の一部と携帯電話番号を併記して掲示板等に表示する行為について、氏名が完全に特定されなくても第三者からの電話等により私生活の平穏が容易に害されるおそれがあるとして、プライバシー侵害を認めた裁判例を紹介している。この裁判例は開示情報の目的外使用そのものを直接の争点とした事案ではないが、開示を受けた個人情報の公表がプライバシー侵害を構成する基準を示すものとして、本条の解釈にも参考となる。

なお、発信者情報開示請求それ自体をめぐる旧法下の重要判例として、最高裁判所第一小法廷平成二十二年四月八日判決(民集第六十四巻三号六百七十六頁)がある。同判決は、他人の通信を媒介する経由プロバイダも旧法第二条第三号にいう特定電気通信役務提供者に該当すると判示し、開示請求の相手方の範囲を明らかにした。また、最高裁判所第三小法廷平成二十二年四月十三日判決(民集第六十四巻三号七百五十八頁)は、旧法第四条第四項の重過失の判断基準について、開示請求が同条第一項各号所定の要件のいずれにも該当することが一見明白であるにもかかわらずこれを認識しなかった場合に限り、開示関係役務提供者が損害賠償責任を負うとした。これらの判例は第六条及び第五条に関するものであるが、開示制度全体の運用の前提として、第七条の適用場面を理解するうえでも押さえておくべきものである。

第八条(発信者情報開示命令)

条文原文

第八条 裁判所は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者の申立てにより、決定で、当該権利の侵害に係る開示関係役務提供者に対し、第五条第一項又は第二項の規定による請求に基づく発信者情報の開示を命ずることができる。

趣旨・立法背景

本条は、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続の中核となる規定であり、令和三年改正によって新設され、令和四年十月一日に施行された。旧法下では、発信者情報の開示請求は、通常の民事訴訟又は民事保全法第二十三条第二項に基づく仮処分によって実現されていた。しかし、コンテンツプロバイダから開示を受けた情報を手がかりに、さらに経由プロバイダに対して別途の申立てを行う必要があるなど、被害者が複数の手続を段階的に重ねなければならない負担が指摘されていた。

そこで令和三年改正は、一連の手続の中で発信者情報の開示を完結させることができるよう、非訟手続として発信者情報開示命令事件の手続を創設した。非訟手続とは訴訟以外の裁判手続をいい、訴訟手続に比べて簡易であるため、事件の迅速な処理が可能とされる。本条による発信者情報開示命令は、この手続の根幹をなすものであり、これに加えて、開示関係役務提供者相互の連携を可能にする提供命令(第十五条)、発信者情報の消去を禁じる消去禁止命令(第十六条)が組み合わされ、一体的な手続として設計されている。

開示命令の申立てに対する決定に不服がある当事者は、決定の告知を受けた日から一箇月の不変期間内に異議の訴えを提起することができる。この異議の訴えを認容し、又は変更する判決のうち発信者情報の開示を命ずるものは、強制執行に関して給付判決と同一の効力を有する。異議の訴えが提起されないまま一箇月の不変期間が経過したとき、又は当該訴えが却下されたときは、当該決定は確定判決と同一の効力を有する。開示命令事件においても、開示関係役務提供者は、発信者に対して開示の請求に応じるか否かについての意見を照会し、応じるべきでない旨の意見であるときはその理由についてもあわせて照会することが求められる。

なお、開示命令の要件は、特定発信者情報以外の発信者情報については第五条第一項に定める要件と同様であるが、ログイン時情報等の特定発信者情報については、これに加えて補充的な要件が課されている。適法な匿名表現を行った者の発信者情報まで開示されるおそれが高まれば、表現行為に対する萎縮効果を生じかねないためである。

用語解説

開示関係役務提供者 第五条第一項に規定する特定電気通信役務提供者及び同条第二項に規定する関連電気通信役務提供者をいう。侵害情報の送信を媒介したコンテンツプロバイダに加え、ログイン等の侵害関連通信のみを媒介した経由プロバイダも含まれる。

発信者情報開示命令事件 発信者情報開示命令の申立てに係る事件をいい、提供命令の申立てに係る事件及び消去禁止命令の申立てに係る事件を含む。

非訟手続 私人間の権利義務に関する事項について、訴訟によらず裁判所が後見的立場から処理する裁判手続をいう。審理の簡易性と迅速性を特徴とする。

提供命令・消去禁止命令 提供命令は、コンテンツプロバイダが保有する発信者情報をもとに経由プロバイダを特定し、その名称等を申立人に提供させる命令をいう。消去禁止命令は、発信者情報開示命令事件が終了するまでの間、開示関係役務提供者に対して当該発信者情報を消去してはならないと命ずるものをいう。

旧法時代の判例・裁判例

第八条の発信者情報開示命令は令和三年改正で新設された制度であるため、これと同一の制度についての旧法時代の判例は存在しない。旧法下では、発信者情報開示は通常訴訟又は仮処分によって実現されており、被害者に生じ得る著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要と裁判所が判断した場合に、発信者情報開示の仮処分命令が発せられていた。この仮処分手続は、開示請求先から事情や意見を聴く審尋期日を経る必要があり、段階ごとに四箇月から六箇月程度の期間を要するのが一般的であったとされる。

旧法下における開示請求の要件解釈に関する判例としては、前述の最高裁判所第一小法廷平成二十二年四月八日判決(民集第六十四巻三号六百七十六頁)、及び最高裁判所第三小法廷平成二十二年四月十三日判決(民集第六十四巻三号七百五十八頁)が、現行法第五条及び第六条に相当する規定の解釈として引き継がれている。第八条の発信者情報開示命令における実体的な開示要件は第五条第一項の要件をそのまま用いるため、これらの判例が示した権利侵害の明白性及び正当な理由の判断枠組みは、開示命令事件においても妥当する。


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